燃料電池
【課題】反応ガス濃度の不均一やフラッディングを抑える。ある一つのセルに不具合が生じたような場合などの手間を簡便にする。
【解決手段】傾斜しながら曲がる螺旋状のセル2を複数積層して螺旋構造のセル積層体を形成する。セル2は、電解質4と、該電解質4を支持するベースフレーム5,6と、電解質4とベースフレーム5,6の間に形成された酸化ガス流路および燃料ガス流路とを備えている。セル2は例えば螺旋1回転分が1ユニットとして構成されているものである。これにより、酸化ガス流路および燃料ガス流路が一本の螺旋状流路となっていることが好ましい。
【解決手段】傾斜しながら曲がる螺旋状のセル2を複数積層して螺旋構造のセル積層体を形成する。セル2は、電解質4と、該電解質4を支持するベースフレーム5,6と、電解質4とベースフレーム5,6の間に形成された酸化ガス流路および燃料ガス流路とを備えている。セル2は例えば螺旋1回転分が1ユニットとして構成されているものである。これにより、酸化ガス流路および燃料ガス流路が一本の螺旋状流路となっていることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。さらに詳述すると、本発明は、燃料電池の構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池(例えば高分子電解質形燃料電池)は電解質をセパレータで挟んだセルを複数積層することによって構成されている。セルは平板状(例えば矩形の板状)であり、このようなセルを複数積層させてセル積層体(セルスタック)が構成され、ターミナル、インシュレータ、エンドプレート、プレッシャプレート、さらにはテンションプレートなどが設けられて燃料電池が構成されている(例えば、特許文献1参照)。また、このように積層された各セルに対して燃料ガスや酸化ガスを供給し、さらには各セルから反応オフガスを排出するため、積層方向に連通する各ガス用のマニホールドがセルやエンドプレート等に設けられている。このような構造の燃料電池は、例えば車載用(燃料電池車の動力源)等あるいは定置用などとして利用されている。
【特許文献1】特開2006−147532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した燃料電池の場合、複数積層された例えば矩形で平板状の各セルに反応ガスを並列に供給しあるいは排出しているが、各セル間における反応ガス濃度を均一とすることが難しく、またセル面内でもガス濃度にムラが生じることがある。さらには、セル面内にてフラッディング(水詰まり)が生じることもある。
【0004】
また、上述のテンションプレートは各セルを積層方向に加圧して接触抵抗を低減させるといった役割を果たすが、仮にセル積層体中のある一つのセルに不具合が生じた場合、このテンションプレートを外していったんセル積層体を分解し、その後に再び組み付けるという手間を要する。加えて、このようにテンションプレートを備えた構造の場合には、セル数の変更等に柔軟に対応することが難しい。また、セル積層数が多くなるのに伴いばね要素が大きくなるから、分解や組立の際に特殊な治具を要することもある。
【0005】
そこで、本発明は、反応ガス濃度の不均一やフラッディングを抑えることができ、尚かつある一つのセルに不具合が生じたような場合などの手間を簡便にした新規な構造の燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。従来構造の燃料電池の場合、積層方向に連通する構造のマニホールドを必要数だけ設けようとすれば一般には6箇所(6本)のマニホールドが必要になることから、電解質(電極)よりも広いセル面積を確保せざるを得ない。また、セルが例えば矩形の平板状となっていることから、反応ガス等を面内(特に電極と接触する反応面)において隅々まで均一に分配することが一般に難しい。反応ガスが均一に分配されないと発電にムラが生じるばかりでなく、場合によっては燃料電池自体の寿命が短くなるという点でも問題である。加えて、多数(例えば300〜400枚程度)のセルが積層されてなる燃料電池においては、シールに弾性体を用いる必要があり、尚かつセルを積層する際には加圧して圧縮しつつ組み付けなければならないというような手間を要する。
【0007】
これらの点につき、従来構造に特有の点にも着目しつつさらに検討を重ねた本発明者は、かかる課題の解決に結び付く新たな着想を得るに至った。本発明の燃料電池はかかる着想に基づくものであり、傾斜しながら曲がる螺旋状のセルが複数積層されて螺旋構造のセル積層体が形成されているというものである。この場合、セルは、例えば電解質と、該電解質を支持するベースフレームと、電解質とベースフレームの間に形成された酸化ガス流路および燃料ガス流路とを備えているものとなっている。
【0008】
このように螺旋構造とされたセル積層体においては、反応ガス流路(酸化ガス流路、燃料ガス流路)を一本の螺旋状流路として構成し、同様に螺旋状に構成される電解質の表面を流れるようにすることができる。この場合の反応ガスは、従来のように複数のセルのいずれかに対して並列に分配されるのではなく、いわば螺旋状に並んだ複数のセルのすべてを通過するようにいわば直列的に供給されることになる。しかも、反応ガス流路が螺旋状の一本通路となり、途中で細かく分岐するようなこともないから、各流路に分配した場合のような差圧(圧損)が生じるのを抑えることができ、各セルにおける反応ガス濃度あるいはセル面(電解質上の反応面)内における反応ガス濃度が不均一となるのを抑制することが可能である。また、これによれば全セルに対して比較的高ストイキ比のガス(高濃度のガス)を供給することが可能であり、特にセル面においてフラッディングが生じるのを抑制することもできる。
【0009】
また、このように螺旋構造とした場合、セルは、隣接するセルと接続されるための接続部を備えるなどしており、セルの流路入口側開口端、およびこれに隣接するセルの流路出口側開口端を接続した状態で順次重ね合わされることによってセル積層体を構成する。また、この際に各セルどうしをかしめて噛み合わせるなどして締結荷重を作用させることができる。つまり、従来における薄い平板状セルからなるセル積層体とは異なり、螺旋状に形成されているセルは段差の分だけ厚み(高さ)が増した構造となっているから、かしめたり噛み合わせたりといった締結が可能であり、この結果、従来におけるようなテンションプレートやプレッシャプレート等がなくても締結荷重(積層荷重)を作用させることが可能となっている。したがって、仮にセル積層体中のある一つのセルに不具合が生じたとしても、当該部分にてセル積層体を分解し、当該セルを取り替える等して再び組み付ければ足り、従来におけるようにテンションプレート等を外して最後に再び取り付けるといった手間がない。このため、ある一つのセルに不具合が生じたような場合などの手間が簡便なものとなる。また、上述のような特有の構造であることから、セル数の変更等にも柔軟に対応することが可能である。
【0010】
セルは、例えば螺旋1回転分が1ユニットとして構成されているものであり、該セルが複数積層されてセル積層体が構成されている。
【0011】
また、螺旋構造のセル積層体を構成しているセルの外周部に沿って螺旋状の冷媒排出経路が形成されていることが好ましい。螺旋構造のセル積層体内を水が流れる場合、遠心力が作用することによって冷媒が外周寄りに集まる場合があるが、このように螺旋状の冷媒排出経路が形成された燃料電池の場合には、当該排出経路に冷媒を集めて螺旋状に排出することができる。
【0012】
このような燃料電池は、セル積層体が中空状であってもよい。さらに、このようなセル積層体の中空状の内周部に対して空気を供給する空気供給装置が併設されていることも好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、反応ガス濃度の不均一やフラッディングを抑えることができ、尚かつある一つのセルに不具合が生じたような場合などの手間を簡便にすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1〜図32に本発明にかかる燃料電池の実施形態を示す。本実施形態の燃料電池1は、酸化ガス電極と燃料ガス電極とがそれぞれ接合される電解質と、該電解質を支持するベースフレーム5,6と、電解質とベースフレーム5,6の間に形成された酸化ガス流路および燃料ガス流路とを備えたセル2が複数積層されることによって構成されている。
【0016】
ここで、本実施形態における燃料電池1においては、傾斜しながら曲がる螺旋状のセル2が複数積層されて螺旋構造のセル積層体3が形成されている(図1、図27等参照)。より具体的には、各セル2は螺旋1周分として形成されたユニットであり、これら複数のセル2が積層されて螺旋構造となり、渦巻き線が連続するようになっている(図1等参照)。以下、ユニットとなるセル2の基本的な構造について説明する(図15等参照)。なお、本実施形態にかかる燃料電池1は螺旋構造の中心線を鉛直線に一致させた縦置き状態としても、中心線を水平にした横置き状態としても実施が可能なものであるが、以下に示す実施形態では便宜上縦置きとし、このときの鉛直上方向を上、鉛直下方向を下として説明する。
【0017】
図22に示すように、本実施形態におけるセル2の平面視での形状は円環形状であり中央に中空部分を有している。また、セル2を構成するベースフレーム5,6や膜−電極アッセンブリ(以下MEA;Membrane Electrode Assemblyと呼ぶ)4も同様に円環形状またはこれに近似した形状となっている。
【0018】
MEA4は、高分子材料のイオン交換膜からなる高分子電解質膜と、該電解質膜を両面から挟んだ一対の電極(アノード側の燃料ガス電極およびカソード側の酸化ガス電極)とで構成されている。本実施形態におけるMEA4は、ベースフレーム5,6の形状に近似した馬蹄形ないしは略C字形に形成されている(図3、図4参照)。MEA4を構成する電極は、その表面に付着された白金などの触媒を担持した例えば多孔質のカーボン素材(拡散層)で構成されている。一方の電極(アノード)には燃料ガス(反応ガス)としての水素ガス、他方の電極(カソード)には空気や酸化剤などの酸化ガス(反応ガス)が供給され、これら2種類の反応ガスによりMEA4内で電気化学反応が生じてセル2の起電力が得られるようになっている。
【0019】
ベースフレーム5,6はガス不透過性の導電性材料で構成されている。導電性材料としては、例えばカーボンや導電性を有する硬質樹脂のほか、アルミニウムやステンレス等の金属(メタル)が挙げられる。この基材のうち電極側の面には耐食性に優れた膜(例えば金メッキで形成された皮膜)が形成されていてもよい。
【0020】
また、本実施形態のベースフレーム5,6は、MEA4を両面から挟み込む一対のフレーム(カソード側ベースフレーム5、アノード側ベースフレーム6)によって形成されている(図15等参照)。これらベースフレーム5,6は平面視環状であり、尚かつ開環部が上下にずれ、全体がほぼ同一の角度で傾斜した螺旋構造となっている(図7、図12等参照)。さらに、これらベースフレーム5,6には周状に並ぶ略扇側の複数の開口部5a,6aが設けられている(図5、図10等参照)。換言すれば、本実施形態のベースフレーム5,6は大径リング部と小径リング部とが複数本のスポーク5b,6bで接続され、尚かつ開環部に段差が設けられた螺旋構造となっている。
【0021】
さらに、各ベースフレーム5(6)の開環部には、隣接する他のベースフレーム5(6)と接続される際に端面どうしが突き合わせられる接続部5c(6c)が設けられている(図7〜図9等参照)。例えば本実施形態の接続部5c,6cは断面略矩形の偏平形状であり、セル2の積層時、端面どうし突き合わせられた状態となる(図22等参照)。
【0022】
また、カソード側ベースフレーム5の接続部5cには、酸化ガスとしての空気を流すための空気流路15が形成されている(図8等参照)。この空気流路15は、あるセル2を1周した空気が接続部5cを通過して次のセル2へと流れ込んで1周するというように、セル2からセル2へと流れてセル積層体3の内部を螺旋状に流れるようにする。例えば本実施形態の空気流路15は細長の略矩形となっているが形状は特に限定されることはない。なお、上述したボルト固定孔23は空気流路15における空気の流れを妨げないよう、当該空気流路15を避ける位置に設けられていることが好ましい(図8等参照)。
【0023】
カソード側ベースフレーム5の上面であって例えば接続部5cと開口部5aとの間となる位置には、上記空気流路15への出入口18,18が設けられている(図5等参照)。接続部5cを流れた空気は出口18を通過し、MEA4の上面(本実施形態の場合、酸化ガス電極)を1周し、入口18を通過して隣接する接続部5cに流入する。このようにMEA4の表面を流れる際、空気中の酸素が水素との化学反応に供される。
【0024】
一方、アノード側ベースフレーム6の接続部6cには、燃料ガスとしての水素ガスを流すための水素流路16、および冷媒を流すための冷媒流路17が形成されている(図13等参照)。水素流路16は、あるセル2を1周した水素ガスが接続部5cを通過して次のセル2へと流れ込んで1周するというように、セル2からセル2へと流れてセル積層体3の内部を螺旋状に流れるように形成されている。なお、本実施形態の水素流路16は細長の略矩形となっているがこの形状も特に限定されることはない。
【0025】
また、アノード側ベースフレーム6の底面であって例えば接続部6cと開口部6aとの間となる位置には、上記水素流路16への出入口19,19、および上記冷媒流路17への出入口20,20が設けられている(図11等参照)。接続部6cを流れた水素ガスは出口19を通過し、MEA4の底面(本実施形態の場合、燃料ガス電極)を1周し、入口19を通過して隣接する接続部6cに流入する。このようにMEA4の表面を流れる際、水素が化学反応に供される。また、接続部6cを流れた冷媒は出口20を通過し、セル2内を1周し、入口20を通過して隣接する接続部6cに流入する。
【0026】
上述のようなカソード側ベースフレーム5およびアノード側ベースフレーム6は、MEA4を上下から挟み込むようにして一体化される(図15参照)。例えば本実施形態では、これら3つの部材を接着剤を用いて接着することによって一体化している。このように一体化された状態のとき、カソード側ベースフレーム5のそれぞれの開口部5aおよびアノード側ベースフレーム6のそれぞれの開口部6aにMEA4が露出しており化学反応が可能な状態となっている(図16、図17参照)。
【0027】
また、カソード側ベースフレーム5の上面およびアノード側ベースフレーム6の底面には一対の集電体7,8が設けられ、さらに一対の集電板11,12が設けられる(図15参照)。さらに、セル2を構成するユニットの外周部は外周かしめ部材9により、内周部は内周かしめ部材10によりかしめられる(図15参照)。なお、集電板11,12は例えばカーボン製であってもよい。外周かしめ部材9および内周かしめ部材10でかしめたとき、例えばカーボン製の集電板11,12はMEA4側へと押し込まれうる。
【0028】
なお、カソード側(酸化ガス電極側)に設けられる集電体7やアノード側(燃料ガス電極側)に設けられる集電体8は、水が流れやすい流路を構成するように形成されていることも好ましい。本実施形態の集電体7は断面がチャネル形状(溝形状)の螺旋体であり(図18、図19等参照)、カソード側ベースフレーム5の上面に重ね合わされるようにして設けられている(図15参照)。また、特に詳しく図示してはいないが、本実施形態の集電体7,8の表面には、例えばエンボス加工により形成された凸部と凹部とが交互に配置されている。これらのうち凸部はMEA4の表面に接触して電気的に導通させ、さらにはスペーサとして機能する。
【0029】
また、本実施形態においては、カソード側ベースフレーム5の上面にシール部24を設け、該シール部24に上述した集電体7を押し当ててシールするようにしている(図22参照)。この場合のシール部24は、例えばOリングなどのガスケットを利用したものでもよいし、あるいはビード(ひも状の突起)を利用したものでもよい。例えば本実施形態では出入口18および開口部5aを略C字形に囲繞するようにシール部24を設け、該シール部24と集電体7とカソード側ベースフレーム5とで囲まれた酸化ガス流路を構成している(図22等参照)。
【0030】
なお、本実施形態においては、上述した外周かしめ部材9や内周かしめ部材10により、各部材(MEA4やベースフレーム5,6等)を一体化するための締結力を機能させている。例えば従来の場合であればテンションプレート37等で各セルを積層方向に加圧して接触抵抗を低減させるようにしているが、本実施形態においては、かしめ(別表現では噛み合わせ)による締結力を利用して挟み込み加圧している。すなわち、本実施形態の場合にはセル2ごとに締結力が作用しており、接触抵抗も低減しているから、積層後にテンションプレート37等で改めて積層方向に加圧しなくても足りる。したがって、セル積層体3を挟み込み加圧するためのテンションプレート37やプレッシャプレートは不要である。
【0031】
さらに、単一のセル2中における一方の接続部5cと他方の接続部6cとを固定する手段として貫通ボルト21を利用することも好ましい(図22参照)。例えば本実施形態では、単一のセル2内における接続部5c,6cをあらかじめ固定しておくための固定プレート25を設けておき(図23参照)、この固定プレート25および各接続部5c,6cを貫くように貫通ボルト21を通している。この場合、各接続部5c,6cの端面を径方向に対して斜めにしておき、これら斜めの端面を貫くようなボルト固定孔23を形成しておいてもよい(図8、図9参照)。また、接続部5c,6cの内周部にあらかじめ複数個のナット22を溶接しておけば、外周側から貫通ボルト21を差し入れて回し込む操作によって貫通ボルト21とナット22とを締結することが可能である。このように固定プレート25や貫通ボルト21、ナット22を利用して接続部5c,6cを固定した場合には、シール部24と集電体7,8とをさらに密着した状態として十分なシール性能を実現することが可能となる。
【0032】
また、集電体7のチャネル部分(溝の開口部分)の外周寄りの部分を排水路(冷媒排出経路)として機能させることも好ましい。上述したように集電体7はその表面に形成された凸部と凹部とが交互に配置された構造となっているが、チャネル部分内であって開口部5aの外側の領域には凸部を設けないこととすれば、凸部がない分だけ流れ抵抗が少なくなった流路をMEA4とは重ならない位置に形成することができる。一般に、酸化ガス電極に供給される酸化ガス(本実施形態の場合、空気)の中には水分が含まれており、例えば途中で冷却されて凝縮するなどして水が生成することがある。このような水が反応面(化学反応が生じる面ないし領域のことであり、具体的にはMEA4の表面)を流れるとその分だけ化学反応の有効面積が減少してしまうが、このように開口部5aの外側に排水路を有する集電体7によれば、いわば無反応の領域を通過するように水を流すことができるから化学反応の有効面積を確保することが可能である。しかも、カソード側ベースフレーム5の外周付近に沿って設けられた排水路によれば、螺旋構造の排水系を構成して排水することが可能である。すなわち、螺旋構造のセル積層体3内を水が流れる場合、遠心力が作用することによってこのような流水が外周寄りに集まる場合があるが、複数の排水路が連なって螺旋状の排出経路23が形成された燃料電池1の場合には(図24参照)、当該排水路に水を集めて螺旋状に排水することが可能である。
【0033】
ここで、比較例を挙げて説明すると(図33参照)、平板状のセパレータ39を積層してなる従来の燃料電池(以下、符号1’で示す)の場合、冷媒(あるいは反応ガス)は、入口側マニホールド40を流れて各セルへと供給され、これらセル内の流路(例えばサーペンタイン形状の冷却水流路)を流れた後、出口側マニホールド41を流れて排出されるという並列的な給排系となっていたことから、水詰まりやガス濃度の不均一といった事象が生じることがあった。つまり、反応ガス(燃料ガス、酸化ガス)や冷媒を均一に分配することは難しく、これに起因して発電分布にムラが生じることがあった。これに対し、上述した燃料電池1においては、複数のセル2が接続された場合に螺旋状に回るいわば直列的な給排系が構成されることから、並列的な場合に生じうる濃度不均一といった現象を抑えることが可能である。
【0034】
なお、ここまではカソード側の構成について説明したが、これとは反対のアノード側ベースフレーム6や集電体8等についても原則的な構造は同様である。例えばカソード側ベースフレーム6の開口部6aの外側に形成された排水路は、燃料ガス電極に供給される燃料ガス(本実施形態の場合、水素ガス)の中に含まれていて途中で冷却され凝縮するなどして生成した水を、化学反応の有効面積を確保しつつ排水することが可能である(図24参照)。
【0035】
また、必要に応じて冷却手段としての冷却板28を設けることも好ましい(図20、図21参照)。本実施形態の冷却板28は例えば集電体7と同様の構造であり、図15には図示していないが必要に応じて例えば当該集電体7と集電板11との間に設けられる。この場合、上述したシール部24と同様Oリングやビードなどで構成されるシール部24’を、集電体7との接触領域および当該冷却板28どうしの接触領域に設けておくことも好ましい(図21中の破線参照)。このような冷却板28は必要とする冷却能力に応じて適宜設けられていれば足りるものであり、セル2毎に設けられていてもよいし、セル2の1個おきに設けられていてもよい。
【0036】
以上のような構造のセル2はセル積層体3の基本構成単位(ユニット)を構成するものであり(図1参照)、複数のセル2が順次接続されることによって螺旋構造のセル積層体3が形成される(図25等参照)。また、例えば図25に示すように複数のセル2を鉛直方向に重ね合わせたような場合、積層荷重を各セル2間に作用する加圧力として利用することが可能である。このような構造の燃料電池1によれば、構造を変更する際の手間が少なくて済むという利点もある。
【0037】
すなわち、平板状のセル2’が複数積層されて構成されていた従来構造の燃料電池1’の場合には、セパレータ39間のシール性を保持し、尚かつ部材間の接触抵抗を低減させるため、セル積層体3’の両端にある一対のエンドプレート36どうしを保持するための側板(例えばテンションプレート37)など、締結して積層方向に加圧するため構成が必要となっていた(図34参照)。このため、いずれかのセル2’にて不具合が生じたような場合には、締結されていたセル積層体3’をいったん解除し、不具合が生じたセル2’を取り外しあるいは交換して再び組み付けるといった手間が必要であった(図35参照)。しかも、セル2’の積層数が多くなるにつれてばね要素(例えば上述したテンションプレート37やプレッシャプレート38、加圧用スプリング等)が大きくなり、分解や組付に特殊な治具を要することもあった。これに対し、本実施形態の燃料電池1の場合には、あるセル2を取り外す際に原則として他のセル2の接続を解除する必要がないから、構造を変更する際の手間が少なくて済む(図26参照)。
【0038】
さらに、本実施形態の燃料電池1は車載用としても好適だという利点がある。すなわち、従来構造の燃料電池1’の場合には、種類の異なる車両へと載せ換えようとしてもセル積層数や流体の給排方向、搭載位置などの見直しを要し、全体構造に関して設計変更する必要が生じることがあったのに対し、本実施形態の燃料電池1によれば例えば端部の設計を変更するなどによって適宜変更することが可能である。例示すれば、セル積層体3の両端に絶縁性の端部ボックス26を設けたり(図27参照)、中間あるいは任意の位置に絶縁性の中間ボックス27を設けたりすることにより、出力電圧を任意の大きさに設定することが可能である。したがって、例えば自動車用補機の電圧(例えば12V)に合わせて補機専用の電源を構成するといったことが可能である。
【0039】
また、上述したような螺旋構造の各セル2に対して酸化ガスとしての空気を送り込むための空気供給装置13が併設されていることも好ましい。従来のように平板セルを積層した構造(角形スタック)の場合には、圧力の低い空気では当該スタックの隅々まで空気を行き渡らせることが難しく、これを実現しようとすれば複数の大きなファンを設置したり(図36参照)、形状を工夫したフードやエア導入板などを併設したりするなどの必要が生じる。このため、送風機などによる空気供給は現実的でなく、例えば車載用燃料電池1’に対しては車両走行時の風を利用するといった案があるにすぎなかった。
【0040】
これに対し、円筒形状のセル積層体3からなる本実施形態の燃料電池1に対しては、単一の小型ファンなどで空気を十分に送り込むことが可能である。具体例を示せば、螺旋構造の中心線上であって端セルの近傍となる位置に配置された小型の外部ファン(空気供給装置13)によって空気を供給することができる(図29参照)。この場合、例えば円錐部を有する邪魔板14を併設することも好ましい。上記の外部ファン(空気供給装置13)とは反対側の端部にて円錐部が当該燃料電池1の内筒部に位置するように設置された邪魔板14は、円筒内に送り込まれた空気を外周側へと拡散し、各セル2の行き渡るように分配する(図30参照)。また、このように配置された邪魔板14は生成した水が飛散するのを抑制するものでもある。あるいは、上述のごとく筒状に形成されたセル積層体3に対しては、螺旋構造の中心線を回転中心として回転する多翼送風機(シロッコファン)を利用することもできる(図31参照)。
【0041】
なお、特に詳しく図示してはいないが、空気供給装置13を併設して有効な燃料電池1は、セル積層体3の内周面および外周面に空気流通孔29を有する開放系空気流路を有するものである(図29参照)。この場合、燃料ガス(水素ガス)は上述したように水素流路16を通過して螺旋状に流れる一方、空気(酸化ガス)は当該空気流通孔29を通過して例えばセル積層体3の内周面から外周面へと突き抜けるように径方向へと流れることが可能である。なお、MEA4の例えば上面側に空気流路15、下面側に水素流路16が形成されている本実施形態の燃料電池1の場合、両流路15,16は他方の流れを妨げることはないから、上述のように空気が径方向に流れるとしても水素ガスの流れの影響を受けることはない。このような開放系空気流路を有する燃料電池1は、エアコンプレッサを用いることなく空気を常圧下で供給するいわば常圧エア系のものとして有効である。
【0042】
ここまで説明した燃料電池1は、例えば燃料電池車両(FCHV;Fuel Cell Hybrid Vehicle)の車載発電装置として利用可能なものであるがこれに限られることはなく、各種移動体(例えば船舶や飛行機など)やロボットなどといった自走可能なものに搭載される発電装置、さらには定置の発電装置としても用いることが可能である。ここで、燃料電池車両への搭載例を示すと以下のとおりである。
【0043】
すなわち、当該燃料電池1の周囲に中心軸を平行にした状態で各種補機(例えば駆動モータ31、エアコンプレッサ32、水素ポンプ33など)を配置することができる(図32参照)。また、従来ならば箱型構造の燃料電池1’の外部に配置するしかなかった補機(例えば加湿モジュール34)を当該燃料電池1の内部に配置することも可能である(図32参照)。さらには、例えばPCU(Power Control Unit)35をL字形に組み合わせ、円筒形状の燃料電池1の周囲に隙間が少なくなるように配置することも可能である(図32参照)。要は、一般に大型の補機部品は円筒形ないしは円柱形のものが多いことから従来の箱型構造の燃料電池1’の場合には部品間にデッドスペースが増えやすい傾向にあるが(図37参照)、本実施形態の燃料電池1の場合にはデッドスペースを少なくして全体としてのスペース効率を向上させうるという利点がある。
【0044】
ここまで説明したように、本実施形態の燃料電池1においては、水素ガスの流路が連続する1本の螺旋状経路として形成され、また開放系でなければ空気の流路も連続する螺旋状経路として形成されているから、従来の燃料電池1’におけるように並列構造の各セルに流体を分配することなく、1本の水素流路(さらには空気流路)にて全セル2に反応ガスを供給することができる。構造上、従来の燃料電池1’であればセルの位置やセパレータ面の位置に応じてガスのストイキ比にばらつきが生じやすかったが、本実施形態の燃料電池1においてはこのようなストイキ比のばらつきを抑え、各セル2に対して高ストイキ比のガスを供給することが可能である。また、本実施形態の燃料電池1は大量の反応ガスを流すのに向くため、フラッディングが生じにくいという利点もある。
【0045】
また、このように水素ガス(さらには空気)は1本の螺旋状経路に沿って流れるのに対し、電流は従来構造と同様に積層方向に流れる。したがって、積層数を適宜設定することによって所望の出力を得ることが可能である。
【0046】
上述した説明と一部重複するが、本実施形態の燃料電池1は、以下のごとき従来型における問題や課題を解決しうるという点で特有であり好適なものである。すなわち、
(1)いわば平板構造(平板状のセルが複数積層されてなる構造)である従来の燃料電池の場合、貫通マニホールド方式(セル積層方向にマニホールドが貫通する構造)であるため電極(膜−電極アッセンブリ)の周囲にある程度の面積を必要としていた。また、接触抵抗を低減するためには、セル積層体の両端に設けられるエンドプレートや当該エンドプレートを保持する側板が必要であった。また、セル積層体(セルスタック)中の1個のセルに不具合が生じた場合には、積層状態をいったん解いて再び組み付ける必要もあった。さらには、貫通マニホールド方式の場合、全セルにおいて供給用入口マニホールドと排出用出口マニホールドが合わせて6個(6本)必要となり、反応ガスや冷媒の分配性能が劣る結果、寿命の短縮等を招いていることがあった。
(2)多セルを積層してなるセル積層体においては、ばね要素のサイズや占める比重が大きく分解組立に特殊治具を必要としていた。すなわち、平板構造の多セル積層体を有する燃料電池においては弾性のあるシール部材を用いつつ、加圧圧縮しながら組み付けあるいは解体することが必要となっていた。
(3)他車種への搭載時、従来品の場合には全体構造の設計を変更する必要が生じる。すなわち、スタック数、ガス冷却水の供給や排出の方向、搭載位置等のいずれを変更した場合にも設計自体を変更することが必須となっていた。
(4)従来は反応ガスや冷媒の分配にムラが生じる場合があった。すなわち、反応ガスと冷媒(冷却水)とを並列に供給ないし排出する方式の場合には水詰まりやガス濃度分布差が生じることがあった。
(5)従来の平板構造の場合、ファンの形状とセル積層体との形状が基本的に合わないことから常用エアを冷却用等に用いることに制約があった。すなわち、角型であるセル積層体(セルスタック)に対して圧力の低いエアでは隅々まで空気を行き渡らせることが困難であり、尚かつエア導入板のような装置を取り入れたとしても空気の流れ分布に差が生じるものであった。
【0047】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では螺旋1周分のセル2を1ユニット(1モジュール)として形成される燃料電池1について説明したがこれは好適な一例に過ぎず、この他、中心角60度の略扇形のパーツを構成単位として6パーツで1つのセル2が構成されるようにしてもよいし、中心角180度の略半円形状のパーツを構成単位として2パーツで1つのセル2が構成されるようにしてもよい。あるいは、中心角の異なるパーツを複数個組み合わせて1つのセル2が構成されるようにしてもよい。要は、セル単体を構成するパーツの大きさや個数は特に限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
上述した燃料電池1のセルモジュールと従来の燃料電池1’のセルモジュールとに関して、同出力を確保する前提で必要となる電極面積ないしはモジュール体積について行った試算結果を以下に一実施例として示す。
【0049】
比較対象とした平板積層型の燃料電池におけるセパレータ39の場合(図38参照)、一例として電極面積は
200[mm]×250[mm]=50000[mm2]
であり、モジュール面積が
250[mm]×450[mm]=112500[mm2]
であり、モジュール体積が
112500[mm2]×3[mm]=337500[mm3]
である。
【0050】
一方、本発明にかかる燃料電池1の場合、環状セル2におけるMEA4の外径が例えば300[mm]、内径が115[mm]、尚かつ全周に占めるMEA4の割合が5/6であるとして、電極面積が
π((300/2) 2[mm2]−(115/2) 2[mm2])×5/6=50224[mm2]
であり、モジュール面積が
π((330/2) 2[mm2]−(85/2) 2[mm2])=79815[mm2]
である。また、モジュール体積は
79815[mm2]×5[mm]=399075[mm3]
である。なお、高さ(厚さ)5[mm]中、かしめに要する高さを2[mm]とおけば積層時の実質厚さは3[mm]となるから、実質的なモジュール体積は
79815[mm2]×3[mm]=239445[mm3]
となるが、ここでは圧損上昇分で厚みの方向を増やし、試算結果としてのモジュール体積を
79815[mm2]×5[mm]=399075[mm3]
とした。
【0051】
以上の試算結果からすると、本発明にかかる燃料電池1のセルモジュールと従来の燃料電池1’のセルモジュールとでモジュール体積に大差はなく、体積上(容積上)の差異をなくすことが可能であると考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明にかかる燃料電池を構成するセルの一例を示す側面図である。
【図2】セルの外形を概略的に示す正面図である。
【図3】MEAの形状例を示す平面図である。
【図4】図3に示したMEAの正面図である。
【図5】カソード側ベースフレームの平面図である。
【図6】カソード側ベースフレームの底面図である。
【図7】カソード側ベースフレームの正面図である。
【図8】図7中のVIII部分の拡大図である。
【図9】図7中のIX部分の拡大図である。
【図10】アノード側ベースフレームの平面図である。
【図11】アノード側ベースフレームの底面図である。
【図12】アノード側ベースフレームの正面図である。
【図13】図12中のXIII部分の拡大図である。
【図14】図12中のXIV部分の拡大図である。
【図15】セルの構成の一例を示す分解斜視図である。
【図16】カソード側ベースフレーム、MEAおよびアノード側ベースフレームを接合してなる部材の平面図である。
【図17】カソード側ベースフレーム、MEAおよびアノード側ベースフレームを接合してなる部材の底面図である。
【図18】カソード側に設けられる集電体の正面図である。
【図19】図18中の破線で囲んだ部分の拡大図である。
【図20】冷却板の構成例を示す正面図である。
【図21】図20中の破線で囲んだ部分の拡大図である。
【図22】貫通ボルトおよびナットが取り付けられたセルの平面図である。
【図23】固定プレートが取り付けられたセルの外形を概略的に示す正面図である。
【図24】セル積層体内における反応ガス(例えば水素ガス)の流れを模式的に示す図である。
【図25】セル積層体の外形を概略的に示す斜視図である。
【図26】セル積層体から不具合が生じたセル1枚を取り外す様子を示す図である。
【図27】両端に絶縁性の端部ボックスが設けられたセル積層体の正面図である。
【図28】中間付近に絶縁性の中間ボックスが設けられたセル積層体の正面図である。
【図29】外部ファンと邪魔板が併設されたセル積層体の正面図である。
【図30】外部ファンと邪魔板が併設されたセル積層体の概略斜視図である。
【図31】円筒部に多翼送風機が併設されたセル積層体の概略斜視図である。
【図32】燃料電池や補機の車両への搭載例を示す図である。
【図33】従来の燃料電池における冷媒の流れを比較例として示す図である。
【図34】従来の燃料電池の構造を比較例として示す図である。
【図35】従来の燃料電池においてセル積層体からセルを1枚取り外す様子を比較例として示す図である。
【図36】空気供給装置が併設された従来の燃料電池を比較例として示す図である。
【図37】従来の車両における燃料電池や補機の搭載例を示す図である。
【図38】従来構造の燃料電池におけるセパレータの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1…燃料電池、2…セル、3…セル積層体、4…MEA(電解質)、5…カソード側ベースフレーム(ベースフレーム)、5c…接続部、6…アノード側ベースフレーム(ベースフレーム)、6c…接続部、13…外部ファン(空気供給装置)、15…空気流路(酸化ガス流路)、16…水素流路(燃料ガス流路)
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。さらに詳述すると、本発明は、燃料電池の構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池(例えば高分子電解質形燃料電池)は電解質をセパレータで挟んだセルを複数積層することによって構成されている。セルは平板状(例えば矩形の板状)であり、このようなセルを複数積層させてセル積層体(セルスタック)が構成され、ターミナル、インシュレータ、エンドプレート、プレッシャプレート、さらにはテンションプレートなどが設けられて燃料電池が構成されている(例えば、特許文献1参照)。また、このように積層された各セルに対して燃料ガスや酸化ガスを供給し、さらには各セルから反応オフガスを排出するため、積層方向に連通する各ガス用のマニホールドがセルやエンドプレート等に設けられている。このような構造の燃料電池は、例えば車載用(燃料電池車の動力源)等あるいは定置用などとして利用されている。
【特許文献1】特開2006−147532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した燃料電池の場合、複数積層された例えば矩形で平板状の各セルに反応ガスを並列に供給しあるいは排出しているが、各セル間における反応ガス濃度を均一とすることが難しく、またセル面内でもガス濃度にムラが生じることがある。さらには、セル面内にてフラッディング(水詰まり)が生じることもある。
【0004】
また、上述のテンションプレートは各セルを積層方向に加圧して接触抵抗を低減させるといった役割を果たすが、仮にセル積層体中のある一つのセルに不具合が生じた場合、このテンションプレートを外していったんセル積層体を分解し、その後に再び組み付けるという手間を要する。加えて、このようにテンションプレートを備えた構造の場合には、セル数の変更等に柔軟に対応することが難しい。また、セル積層数が多くなるのに伴いばね要素が大きくなるから、分解や組立の際に特殊な治具を要することもある。
【0005】
そこで、本発明は、反応ガス濃度の不均一やフラッディングを抑えることができ、尚かつある一つのセルに不具合が生じたような場合などの手間を簡便にした新規な構造の燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。従来構造の燃料電池の場合、積層方向に連通する構造のマニホールドを必要数だけ設けようとすれば一般には6箇所(6本)のマニホールドが必要になることから、電解質(電極)よりも広いセル面積を確保せざるを得ない。また、セルが例えば矩形の平板状となっていることから、反応ガス等を面内(特に電極と接触する反応面)において隅々まで均一に分配することが一般に難しい。反応ガスが均一に分配されないと発電にムラが生じるばかりでなく、場合によっては燃料電池自体の寿命が短くなるという点でも問題である。加えて、多数(例えば300〜400枚程度)のセルが積層されてなる燃料電池においては、シールに弾性体を用いる必要があり、尚かつセルを積層する際には加圧して圧縮しつつ組み付けなければならないというような手間を要する。
【0007】
これらの点につき、従来構造に特有の点にも着目しつつさらに検討を重ねた本発明者は、かかる課題の解決に結び付く新たな着想を得るに至った。本発明の燃料電池はかかる着想に基づくものであり、傾斜しながら曲がる螺旋状のセルが複数積層されて螺旋構造のセル積層体が形成されているというものである。この場合、セルは、例えば電解質と、該電解質を支持するベースフレームと、電解質とベースフレームの間に形成された酸化ガス流路および燃料ガス流路とを備えているものとなっている。
【0008】
このように螺旋構造とされたセル積層体においては、反応ガス流路(酸化ガス流路、燃料ガス流路)を一本の螺旋状流路として構成し、同様に螺旋状に構成される電解質の表面を流れるようにすることができる。この場合の反応ガスは、従来のように複数のセルのいずれかに対して並列に分配されるのではなく、いわば螺旋状に並んだ複数のセルのすべてを通過するようにいわば直列的に供給されることになる。しかも、反応ガス流路が螺旋状の一本通路となり、途中で細かく分岐するようなこともないから、各流路に分配した場合のような差圧(圧損)が生じるのを抑えることができ、各セルにおける反応ガス濃度あるいはセル面(電解質上の反応面)内における反応ガス濃度が不均一となるのを抑制することが可能である。また、これによれば全セルに対して比較的高ストイキ比のガス(高濃度のガス)を供給することが可能であり、特にセル面においてフラッディングが生じるのを抑制することもできる。
【0009】
また、このように螺旋構造とした場合、セルは、隣接するセルと接続されるための接続部を備えるなどしており、セルの流路入口側開口端、およびこれに隣接するセルの流路出口側開口端を接続した状態で順次重ね合わされることによってセル積層体を構成する。また、この際に各セルどうしをかしめて噛み合わせるなどして締結荷重を作用させることができる。つまり、従来における薄い平板状セルからなるセル積層体とは異なり、螺旋状に形成されているセルは段差の分だけ厚み(高さ)が増した構造となっているから、かしめたり噛み合わせたりといった締結が可能であり、この結果、従来におけるようなテンションプレートやプレッシャプレート等がなくても締結荷重(積層荷重)を作用させることが可能となっている。したがって、仮にセル積層体中のある一つのセルに不具合が生じたとしても、当該部分にてセル積層体を分解し、当該セルを取り替える等して再び組み付ければ足り、従来におけるようにテンションプレート等を外して最後に再び取り付けるといった手間がない。このため、ある一つのセルに不具合が生じたような場合などの手間が簡便なものとなる。また、上述のような特有の構造であることから、セル数の変更等にも柔軟に対応することが可能である。
【0010】
セルは、例えば螺旋1回転分が1ユニットとして構成されているものであり、該セルが複数積層されてセル積層体が構成されている。
【0011】
また、螺旋構造のセル積層体を構成しているセルの外周部に沿って螺旋状の冷媒排出経路が形成されていることが好ましい。螺旋構造のセル積層体内を水が流れる場合、遠心力が作用することによって冷媒が外周寄りに集まる場合があるが、このように螺旋状の冷媒排出経路が形成された燃料電池の場合には、当該排出経路に冷媒を集めて螺旋状に排出することができる。
【0012】
このような燃料電池は、セル積層体が中空状であってもよい。さらに、このようなセル積層体の中空状の内周部に対して空気を供給する空気供給装置が併設されていることも好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、反応ガス濃度の不均一やフラッディングを抑えることができ、尚かつある一つのセルに不具合が生じたような場合などの手間を簡便にすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1〜図32に本発明にかかる燃料電池の実施形態を示す。本実施形態の燃料電池1は、酸化ガス電極と燃料ガス電極とがそれぞれ接合される電解質と、該電解質を支持するベースフレーム5,6と、電解質とベースフレーム5,6の間に形成された酸化ガス流路および燃料ガス流路とを備えたセル2が複数積層されることによって構成されている。
【0016】
ここで、本実施形態における燃料電池1においては、傾斜しながら曲がる螺旋状のセル2が複数積層されて螺旋構造のセル積層体3が形成されている(図1、図27等参照)。より具体的には、各セル2は螺旋1周分として形成されたユニットであり、これら複数のセル2が積層されて螺旋構造となり、渦巻き線が連続するようになっている(図1等参照)。以下、ユニットとなるセル2の基本的な構造について説明する(図15等参照)。なお、本実施形態にかかる燃料電池1は螺旋構造の中心線を鉛直線に一致させた縦置き状態としても、中心線を水平にした横置き状態としても実施が可能なものであるが、以下に示す実施形態では便宜上縦置きとし、このときの鉛直上方向を上、鉛直下方向を下として説明する。
【0017】
図22に示すように、本実施形態におけるセル2の平面視での形状は円環形状であり中央に中空部分を有している。また、セル2を構成するベースフレーム5,6や膜−電極アッセンブリ(以下MEA;Membrane Electrode Assemblyと呼ぶ)4も同様に円環形状またはこれに近似した形状となっている。
【0018】
MEA4は、高分子材料のイオン交換膜からなる高分子電解質膜と、該電解質膜を両面から挟んだ一対の電極(アノード側の燃料ガス電極およびカソード側の酸化ガス電極)とで構成されている。本実施形態におけるMEA4は、ベースフレーム5,6の形状に近似した馬蹄形ないしは略C字形に形成されている(図3、図4参照)。MEA4を構成する電極は、その表面に付着された白金などの触媒を担持した例えば多孔質のカーボン素材(拡散層)で構成されている。一方の電極(アノード)には燃料ガス(反応ガス)としての水素ガス、他方の電極(カソード)には空気や酸化剤などの酸化ガス(反応ガス)が供給され、これら2種類の反応ガスによりMEA4内で電気化学反応が生じてセル2の起電力が得られるようになっている。
【0019】
ベースフレーム5,6はガス不透過性の導電性材料で構成されている。導電性材料としては、例えばカーボンや導電性を有する硬質樹脂のほか、アルミニウムやステンレス等の金属(メタル)が挙げられる。この基材のうち電極側の面には耐食性に優れた膜(例えば金メッキで形成された皮膜)が形成されていてもよい。
【0020】
また、本実施形態のベースフレーム5,6は、MEA4を両面から挟み込む一対のフレーム(カソード側ベースフレーム5、アノード側ベースフレーム6)によって形成されている(図15等参照)。これらベースフレーム5,6は平面視環状であり、尚かつ開環部が上下にずれ、全体がほぼ同一の角度で傾斜した螺旋構造となっている(図7、図12等参照)。さらに、これらベースフレーム5,6には周状に並ぶ略扇側の複数の開口部5a,6aが設けられている(図5、図10等参照)。換言すれば、本実施形態のベースフレーム5,6は大径リング部と小径リング部とが複数本のスポーク5b,6bで接続され、尚かつ開環部に段差が設けられた螺旋構造となっている。
【0021】
さらに、各ベースフレーム5(6)の開環部には、隣接する他のベースフレーム5(6)と接続される際に端面どうしが突き合わせられる接続部5c(6c)が設けられている(図7〜図9等参照)。例えば本実施形態の接続部5c,6cは断面略矩形の偏平形状であり、セル2の積層時、端面どうし突き合わせられた状態となる(図22等参照)。
【0022】
また、カソード側ベースフレーム5の接続部5cには、酸化ガスとしての空気を流すための空気流路15が形成されている(図8等参照)。この空気流路15は、あるセル2を1周した空気が接続部5cを通過して次のセル2へと流れ込んで1周するというように、セル2からセル2へと流れてセル積層体3の内部を螺旋状に流れるようにする。例えば本実施形態の空気流路15は細長の略矩形となっているが形状は特に限定されることはない。なお、上述したボルト固定孔23は空気流路15における空気の流れを妨げないよう、当該空気流路15を避ける位置に設けられていることが好ましい(図8等参照)。
【0023】
カソード側ベースフレーム5の上面であって例えば接続部5cと開口部5aとの間となる位置には、上記空気流路15への出入口18,18が設けられている(図5等参照)。接続部5cを流れた空気は出口18を通過し、MEA4の上面(本実施形態の場合、酸化ガス電極)を1周し、入口18を通過して隣接する接続部5cに流入する。このようにMEA4の表面を流れる際、空気中の酸素が水素との化学反応に供される。
【0024】
一方、アノード側ベースフレーム6の接続部6cには、燃料ガスとしての水素ガスを流すための水素流路16、および冷媒を流すための冷媒流路17が形成されている(図13等参照)。水素流路16は、あるセル2を1周した水素ガスが接続部5cを通過して次のセル2へと流れ込んで1周するというように、セル2からセル2へと流れてセル積層体3の内部を螺旋状に流れるように形成されている。なお、本実施形態の水素流路16は細長の略矩形となっているがこの形状も特に限定されることはない。
【0025】
また、アノード側ベースフレーム6の底面であって例えば接続部6cと開口部6aとの間となる位置には、上記水素流路16への出入口19,19、および上記冷媒流路17への出入口20,20が設けられている(図11等参照)。接続部6cを流れた水素ガスは出口19を通過し、MEA4の底面(本実施形態の場合、燃料ガス電極)を1周し、入口19を通過して隣接する接続部6cに流入する。このようにMEA4の表面を流れる際、水素が化学反応に供される。また、接続部6cを流れた冷媒は出口20を通過し、セル2内を1周し、入口20を通過して隣接する接続部6cに流入する。
【0026】
上述のようなカソード側ベースフレーム5およびアノード側ベースフレーム6は、MEA4を上下から挟み込むようにして一体化される(図15参照)。例えば本実施形態では、これら3つの部材を接着剤を用いて接着することによって一体化している。このように一体化された状態のとき、カソード側ベースフレーム5のそれぞれの開口部5aおよびアノード側ベースフレーム6のそれぞれの開口部6aにMEA4が露出しており化学反応が可能な状態となっている(図16、図17参照)。
【0027】
また、カソード側ベースフレーム5の上面およびアノード側ベースフレーム6の底面には一対の集電体7,8が設けられ、さらに一対の集電板11,12が設けられる(図15参照)。さらに、セル2を構成するユニットの外周部は外周かしめ部材9により、内周部は内周かしめ部材10によりかしめられる(図15参照)。なお、集電板11,12は例えばカーボン製であってもよい。外周かしめ部材9および内周かしめ部材10でかしめたとき、例えばカーボン製の集電板11,12はMEA4側へと押し込まれうる。
【0028】
なお、カソード側(酸化ガス電極側)に設けられる集電体7やアノード側(燃料ガス電極側)に設けられる集電体8は、水が流れやすい流路を構成するように形成されていることも好ましい。本実施形態の集電体7は断面がチャネル形状(溝形状)の螺旋体であり(図18、図19等参照)、カソード側ベースフレーム5の上面に重ね合わされるようにして設けられている(図15参照)。また、特に詳しく図示してはいないが、本実施形態の集電体7,8の表面には、例えばエンボス加工により形成された凸部と凹部とが交互に配置されている。これらのうち凸部はMEA4の表面に接触して電気的に導通させ、さらにはスペーサとして機能する。
【0029】
また、本実施形態においては、カソード側ベースフレーム5の上面にシール部24を設け、該シール部24に上述した集電体7を押し当ててシールするようにしている(図22参照)。この場合のシール部24は、例えばOリングなどのガスケットを利用したものでもよいし、あるいはビード(ひも状の突起)を利用したものでもよい。例えば本実施形態では出入口18および開口部5aを略C字形に囲繞するようにシール部24を設け、該シール部24と集電体7とカソード側ベースフレーム5とで囲まれた酸化ガス流路を構成している(図22等参照)。
【0030】
なお、本実施形態においては、上述した外周かしめ部材9や内周かしめ部材10により、各部材(MEA4やベースフレーム5,6等)を一体化するための締結力を機能させている。例えば従来の場合であればテンションプレート37等で各セルを積層方向に加圧して接触抵抗を低減させるようにしているが、本実施形態においては、かしめ(別表現では噛み合わせ)による締結力を利用して挟み込み加圧している。すなわち、本実施形態の場合にはセル2ごとに締結力が作用しており、接触抵抗も低減しているから、積層後にテンションプレート37等で改めて積層方向に加圧しなくても足りる。したがって、セル積層体3を挟み込み加圧するためのテンションプレート37やプレッシャプレートは不要である。
【0031】
さらに、単一のセル2中における一方の接続部5cと他方の接続部6cとを固定する手段として貫通ボルト21を利用することも好ましい(図22参照)。例えば本実施形態では、単一のセル2内における接続部5c,6cをあらかじめ固定しておくための固定プレート25を設けておき(図23参照)、この固定プレート25および各接続部5c,6cを貫くように貫通ボルト21を通している。この場合、各接続部5c,6cの端面を径方向に対して斜めにしておき、これら斜めの端面を貫くようなボルト固定孔23を形成しておいてもよい(図8、図9参照)。また、接続部5c,6cの内周部にあらかじめ複数個のナット22を溶接しておけば、外周側から貫通ボルト21を差し入れて回し込む操作によって貫通ボルト21とナット22とを締結することが可能である。このように固定プレート25や貫通ボルト21、ナット22を利用して接続部5c,6cを固定した場合には、シール部24と集電体7,8とをさらに密着した状態として十分なシール性能を実現することが可能となる。
【0032】
また、集電体7のチャネル部分(溝の開口部分)の外周寄りの部分を排水路(冷媒排出経路)として機能させることも好ましい。上述したように集電体7はその表面に形成された凸部と凹部とが交互に配置された構造となっているが、チャネル部分内であって開口部5aの外側の領域には凸部を設けないこととすれば、凸部がない分だけ流れ抵抗が少なくなった流路をMEA4とは重ならない位置に形成することができる。一般に、酸化ガス電極に供給される酸化ガス(本実施形態の場合、空気)の中には水分が含まれており、例えば途中で冷却されて凝縮するなどして水が生成することがある。このような水が反応面(化学反応が生じる面ないし領域のことであり、具体的にはMEA4の表面)を流れるとその分だけ化学反応の有効面積が減少してしまうが、このように開口部5aの外側に排水路を有する集電体7によれば、いわば無反応の領域を通過するように水を流すことができるから化学反応の有効面積を確保することが可能である。しかも、カソード側ベースフレーム5の外周付近に沿って設けられた排水路によれば、螺旋構造の排水系を構成して排水することが可能である。すなわち、螺旋構造のセル積層体3内を水が流れる場合、遠心力が作用することによってこのような流水が外周寄りに集まる場合があるが、複数の排水路が連なって螺旋状の排出経路23が形成された燃料電池1の場合には(図24参照)、当該排水路に水を集めて螺旋状に排水することが可能である。
【0033】
ここで、比較例を挙げて説明すると(図33参照)、平板状のセパレータ39を積層してなる従来の燃料電池(以下、符号1’で示す)の場合、冷媒(あるいは反応ガス)は、入口側マニホールド40を流れて各セルへと供給され、これらセル内の流路(例えばサーペンタイン形状の冷却水流路)を流れた後、出口側マニホールド41を流れて排出されるという並列的な給排系となっていたことから、水詰まりやガス濃度の不均一といった事象が生じることがあった。つまり、反応ガス(燃料ガス、酸化ガス)や冷媒を均一に分配することは難しく、これに起因して発電分布にムラが生じることがあった。これに対し、上述した燃料電池1においては、複数のセル2が接続された場合に螺旋状に回るいわば直列的な給排系が構成されることから、並列的な場合に生じうる濃度不均一といった現象を抑えることが可能である。
【0034】
なお、ここまではカソード側の構成について説明したが、これとは反対のアノード側ベースフレーム6や集電体8等についても原則的な構造は同様である。例えばカソード側ベースフレーム6の開口部6aの外側に形成された排水路は、燃料ガス電極に供給される燃料ガス(本実施形態の場合、水素ガス)の中に含まれていて途中で冷却され凝縮するなどして生成した水を、化学反応の有効面積を確保しつつ排水することが可能である(図24参照)。
【0035】
また、必要に応じて冷却手段としての冷却板28を設けることも好ましい(図20、図21参照)。本実施形態の冷却板28は例えば集電体7と同様の構造であり、図15には図示していないが必要に応じて例えば当該集電体7と集電板11との間に設けられる。この場合、上述したシール部24と同様Oリングやビードなどで構成されるシール部24’を、集電体7との接触領域および当該冷却板28どうしの接触領域に設けておくことも好ましい(図21中の破線参照)。このような冷却板28は必要とする冷却能力に応じて適宜設けられていれば足りるものであり、セル2毎に設けられていてもよいし、セル2の1個おきに設けられていてもよい。
【0036】
以上のような構造のセル2はセル積層体3の基本構成単位(ユニット)を構成するものであり(図1参照)、複数のセル2が順次接続されることによって螺旋構造のセル積層体3が形成される(図25等参照)。また、例えば図25に示すように複数のセル2を鉛直方向に重ね合わせたような場合、積層荷重を各セル2間に作用する加圧力として利用することが可能である。このような構造の燃料電池1によれば、構造を変更する際の手間が少なくて済むという利点もある。
【0037】
すなわち、平板状のセル2’が複数積層されて構成されていた従来構造の燃料電池1’の場合には、セパレータ39間のシール性を保持し、尚かつ部材間の接触抵抗を低減させるため、セル積層体3’の両端にある一対のエンドプレート36どうしを保持するための側板(例えばテンションプレート37)など、締結して積層方向に加圧するため構成が必要となっていた(図34参照)。このため、いずれかのセル2’にて不具合が生じたような場合には、締結されていたセル積層体3’をいったん解除し、不具合が生じたセル2’を取り外しあるいは交換して再び組み付けるといった手間が必要であった(図35参照)。しかも、セル2’の積層数が多くなるにつれてばね要素(例えば上述したテンションプレート37やプレッシャプレート38、加圧用スプリング等)が大きくなり、分解や組付に特殊な治具を要することもあった。これに対し、本実施形態の燃料電池1の場合には、あるセル2を取り外す際に原則として他のセル2の接続を解除する必要がないから、構造を変更する際の手間が少なくて済む(図26参照)。
【0038】
さらに、本実施形態の燃料電池1は車載用としても好適だという利点がある。すなわち、従来構造の燃料電池1’の場合には、種類の異なる車両へと載せ換えようとしてもセル積層数や流体の給排方向、搭載位置などの見直しを要し、全体構造に関して設計変更する必要が生じることがあったのに対し、本実施形態の燃料電池1によれば例えば端部の設計を変更するなどによって適宜変更することが可能である。例示すれば、セル積層体3の両端に絶縁性の端部ボックス26を設けたり(図27参照)、中間あるいは任意の位置に絶縁性の中間ボックス27を設けたりすることにより、出力電圧を任意の大きさに設定することが可能である。したがって、例えば自動車用補機の電圧(例えば12V)に合わせて補機専用の電源を構成するといったことが可能である。
【0039】
また、上述したような螺旋構造の各セル2に対して酸化ガスとしての空気を送り込むための空気供給装置13が併設されていることも好ましい。従来のように平板セルを積層した構造(角形スタック)の場合には、圧力の低い空気では当該スタックの隅々まで空気を行き渡らせることが難しく、これを実現しようとすれば複数の大きなファンを設置したり(図36参照)、形状を工夫したフードやエア導入板などを併設したりするなどの必要が生じる。このため、送風機などによる空気供給は現実的でなく、例えば車載用燃料電池1’に対しては車両走行時の風を利用するといった案があるにすぎなかった。
【0040】
これに対し、円筒形状のセル積層体3からなる本実施形態の燃料電池1に対しては、単一の小型ファンなどで空気を十分に送り込むことが可能である。具体例を示せば、螺旋構造の中心線上であって端セルの近傍となる位置に配置された小型の外部ファン(空気供給装置13)によって空気を供給することができる(図29参照)。この場合、例えば円錐部を有する邪魔板14を併設することも好ましい。上記の外部ファン(空気供給装置13)とは反対側の端部にて円錐部が当該燃料電池1の内筒部に位置するように設置された邪魔板14は、円筒内に送り込まれた空気を外周側へと拡散し、各セル2の行き渡るように分配する(図30参照)。また、このように配置された邪魔板14は生成した水が飛散するのを抑制するものでもある。あるいは、上述のごとく筒状に形成されたセル積層体3に対しては、螺旋構造の中心線を回転中心として回転する多翼送風機(シロッコファン)を利用することもできる(図31参照)。
【0041】
なお、特に詳しく図示してはいないが、空気供給装置13を併設して有効な燃料電池1は、セル積層体3の内周面および外周面に空気流通孔29を有する開放系空気流路を有するものである(図29参照)。この場合、燃料ガス(水素ガス)は上述したように水素流路16を通過して螺旋状に流れる一方、空気(酸化ガス)は当該空気流通孔29を通過して例えばセル積層体3の内周面から外周面へと突き抜けるように径方向へと流れることが可能である。なお、MEA4の例えば上面側に空気流路15、下面側に水素流路16が形成されている本実施形態の燃料電池1の場合、両流路15,16は他方の流れを妨げることはないから、上述のように空気が径方向に流れるとしても水素ガスの流れの影響を受けることはない。このような開放系空気流路を有する燃料電池1は、エアコンプレッサを用いることなく空気を常圧下で供給するいわば常圧エア系のものとして有効である。
【0042】
ここまで説明した燃料電池1は、例えば燃料電池車両(FCHV;Fuel Cell Hybrid Vehicle)の車載発電装置として利用可能なものであるがこれに限られることはなく、各種移動体(例えば船舶や飛行機など)やロボットなどといった自走可能なものに搭載される発電装置、さらには定置の発電装置としても用いることが可能である。ここで、燃料電池車両への搭載例を示すと以下のとおりである。
【0043】
すなわち、当該燃料電池1の周囲に中心軸を平行にした状態で各種補機(例えば駆動モータ31、エアコンプレッサ32、水素ポンプ33など)を配置することができる(図32参照)。また、従来ならば箱型構造の燃料電池1’の外部に配置するしかなかった補機(例えば加湿モジュール34)を当該燃料電池1の内部に配置することも可能である(図32参照)。さらには、例えばPCU(Power Control Unit)35をL字形に組み合わせ、円筒形状の燃料電池1の周囲に隙間が少なくなるように配置することも可能である(図32参照)。要は、一般に大型の補機部品は円筒形ないしは円柱形のものが多いことから従来の箱型構造の燃料電池1’の場合には部品間にデッドスペースが増えやすい傾向にあるが(図37参照)、本実施形態の燃料電池1の場合にはデッドスペースを少なくして全体としてのスペース効率を向上させうるという利点がある。
【0044】
ここまで説明したように、本実施形態の燃料電池1においては、水素ガスの流路が連続する1本の螺旋状経路として形成され、また開放系でなければ空気の流路も連続する螺旋状経路として形成されているから、従来の燃料電池1’におけるように並列構造の各セルに流体を分配することなく、1本の水素流路(さらには空気流路)にて全セル2に反応ガスを供給することができる。構造上、従来の燃料電池1’であればセルの位置やセパレータ面の位置に応じてガスのストイキ比にばらつきが生じやすかったが、本実施形態の燃料電池1においてはこのようなストイキ比のばらつきを抑え、各セル2に対して高ストイキ比のガスを供給することが可能である。また、本実施形態の燃料電池1は大量の反応ガスを流すのに向くため、フラッディングが生じにくいという利点もある。
【0045】
また、このように水素ガス(さらには空気)は1本の螺旋状経路に沿って流れるのに対し、電流は従来構造と同様に積層方向に流れる。したがって、積層数を適宜設定することによって所望の出力を得ることが可能である。
【0046】
上述した説明と一部重複するが、本実施形態の燃料電池1は、以下のごとき従来型における問題や課題を解決しうるという点で特有であり好適なものである。すなわち、
(1)いわば平板構造(平板状のセルが複数積層されてなる構造)である従来の燃料電池の場合、貫通マニホールド方式(セル積層方向にマニホールドが貫通する構造)であるため電極(膜−電極アッセンブリ)の周囲にある程度の面積を必要としていた。また、接触抵抗を低減するためには、セル積層体の両端に設けられるエンドプレートや当該エンドプレートを保持する側板が必要であった。また、セル積層体(セルスタック)中の1個のセルに不具合が生じた場合には、積層状態をいったん解いて再び組み付ける必要もあった。さらには、貫通マニホールド方式の場合、全セルにおいて供給用入口マニホールドと排出用出口マニホールドが合わせて6個(6本)必要となり、反応ガスや冷媒の分配性能が劣る結果、寿命の短縮等を招いていることがあった。
(2)多セルを積層してなるセル積層体においては、ばね要素のサイズや占める比重が大きく分解組立に特殊治具を必要としていた。すなわち、平板構造の多セル積層体を有する燃料電池においては弾性のあるシール部材を用いつつ、加圧圧縮しながら組み付けあるいは解体することが必要となっていた。
(3)他車種への搭載時、従来品の場合には全体構造の設計を変更する必要が生じる。すなわち、スタック数、ガス冷却水の供給や排出の方向、搭載位置等のいずれを変更した場合にも設計自体を変更することが必須となっていた。
(4)従来は反応ガスや冷媒の分配にムラが生じる場合があった。すなわち、反応ガスと冷媒(冷却水)とを並列に供給ないし排出する方式の場合には水詰まりやガス濃度分布差が生じることがあった。
(5)従来の平板構造の場合、ファンの形状とセル積層体との形状が基本的に合わないことから常用エアを冷却用等に用いることに制約があった。すなわち、角型であるセル積層体(セルスタック)に対して圧力の低いエアでは隅々まで空気を行き渡らせることが困難であり、尚かつエア導入板のような装置を取り入れたとしても空気の流れ分布に差が生じるものであった。
【0047】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では螺旋1周分のセル2を1ユニット(1モジュール)として形成される燃料電池1について説明したがこれは好適な一例に過ぎず、この他、中心角60度の略扇形のパーツを構成単位として6パーツで1つのセル2が構成されるようにしてもよいし、中心角180度の略半円形状のパーツを構成単位として2パーツで1つのセル2が構成されるようにしてもよい。あるいは、中心角の異なるパーツを複数個組み合わせて1つのセル2が構成されるようにしてもよい。要は、セル単体を構成するパーツの大きさや個数は特に限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
上述した燃料電池1のセルモジュールと従来の燃料電池1’のセルモジュールとに関して、同出力を確保する前提で必要となる電極面積ないしはモジュール体積について行った試算結果を以下に一実施例として示す。
【0049】
比較対象とした平板積層型の燃料電池におけるセパレータ39の場合(図38参照)、一例として電極面積は
200[mm]×250[mm]=50000[mm2]
であり、モジュール面積が
250[mm]×450[mm]=112500[mm2]
であり、モジュール体積が
112500[mm2]×3[mm]=337500[mm3]
である。
【0050】
一方、本発明にかかる燃料電池1の場合、環状セル2におけるMEA4の外径が例えば300[mm]、内径が115[mm]、尚かつ全周に占めるMEA4の割合が5/6であるとして、電極面積が
π((300/2) 2[mm2]−(115/2) 2[mm2])×5/6=50224[mm2]
であり、モジュール面積が
π((330/2) 2[mm2]−(85/2) 2[mm2])=79815[mm2]
である。また、モジュール体積は
79815[mm2]×5[mm]=399075[mm3]
である。なお、高さ(厚さ)5[mm]中、かしめに要する高さを2[mm]とおけば積層時の実質厚さは3[mm]となるから、実質的なモジュール体積は
79815[mm2]×3[mm]=239445[mm3]
となるが、ここでは圧損上昇分で厚みの方向を増やし、試算結果としてのモジュール体積を
79815[mm2]×5[mm]=399075[mm3]
とした。
【0051】
以上の試算結果からすると、本発明にかかる燃料電池1のセルモジュールと従来の燃料電池1’のセルモジュールとでモジュール体積に大差はなく、体積上(容積上)の差異をなくすことが可能であると考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明にかかる燃料電池を構成するセルの一例を示す側面図である。
【図2】セルの外形を概略的に示す正面図である。
【図3】MEAの形状例を示す平面図である。
【図4】図3に示したMEAの正面図である。
【図5】カソード側ベースフレームの平面図である。
【図6】カソード側ベースフレームの底面図である。
【図7】カソード側ベースフレームの正面図である。
【図8】図7中のVIII部分の拡大図である。
【図9】図7中のIX部分の拡大図である。
【図10】アノード側ベースフレームの平面図である。
【図11】アノード側ベースフレームの底面図である。
【図12】アノード側ベースフレームの正面図である。
【図13】図12中のXIII部分の拡大図である。
【図14】図12中のXIV部分の拡大図である。
【図15】セルの構成の一例を示す分解斜視図である。
【図16】カソード側ベースフレーム、MEAおよびアノード側ベースフレームを接合してなる部材の平面図である。
【図17】カソード側ベースフレーム、MEAおよびアノード側ベースフレームを接合してなる部材の底面図である。
【図18】カソード側に設けられる集電体の正面図である。
【図19】図18中の破線で囲んだ部分の拡大図である。
【図20】冷却板の構成例を示す正面図である。
【図21】図20中の破線で囲んだ部分の拡大図である。
【図22】貫通ボルトおよびナットが取り付けられたセルの平面図である。
【図23】固定プレートが取り付けられたセルの外形を概略的に示す正面図である。
【図24】セル積層体内における反応ガス(例えば水素ガス)の流れを模式的に示す図である。
【図25】セル積層体の外形を概略的に示す斜視図である。
【図26】セル積層体から不具合が生じたセル1枚を取り外す様子を示す図である。
【図27】両端に絶縁性の端部ボックスが設けられたセル積層体の正面図である。
【図28】中間付近に絶縁性の中間ボックスが設けられたセル積層体の正面図である。
【図29】外部ファンと邪魔板が併設されたセル積層体の正面図である。
【図30】外部ファンと邪魔板が併設されたセル積層体の概略斜視図である。
【図31】円筒部に多翼送風機が併設されたセル積層体の概略斜視図である。
【図32】燃料電池や補機の車両への搭載例を示す図である。
【図33】従来の燃料電池における冷媒の流れを比較例として示す図である。
【図34】従来の燃料電池の構造を比較例として示す図である。
【図35】従来の燃料電池においてセル積層体からセルを1枚取り外す様子を比較例として示す図である。
【図36】空気供給装置が併設された従来の燃料電池を比較例として示す図である。
【図37】従来の車両における燃料電池や補機の搭載例を示す図である。
【図38】従来構造の燃料電池におけるセパレータの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1…燃料電池、2…セル、3…セル積層体、4…MEA(電解質)、5…カソード側ベースフレーム(ベースフレーム)、5c…接続部、6…アノード側ベースフレーム(ベースフレーム)、6c…接続部、13…外部ファン(空気供給装置)、15…空気流路(酸化ガス流路)、16…水素流路(燃料ガス流路)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜しながら曲がる螺旋状のセルが複数積層されて螺旋構造のセル積層体が形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記セルは、電解質と、該電解質を支持するベースフレームと、前記電解質と前記ベースフレームの間に形成された酸化ガス流路および燃料ガス流路とを備えているものである請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記セルは螺旋1回転分が1ユニットとして構成されているものであり、該セルが複数積層されて前記セル積層体が構成されていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記酸化ガス流路および前記燃料ガス流路が一本の螺旋状流路となっていることを特徴とする請求項2または3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記セルには、隣接するセルと接続されるための接続部が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記螺旋構造のセル積層体を構成している前記セルの外周部に沿って螺旋状の冷媒排出経路が形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記セル積層体が中空状であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記セル積層体の中空状の内周部に対して空気を供給する空気供給装置が併設されていることを特徴とする請求項7に記載の燃料電池。
【請求項1】
傾斜しながら曲がる螺旋状のセルが複数積層されて螺旋構造のセル積層体が形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記セルは、電解質と、該電解質を支持するベースフレームと、前記電解質と前記ベースフレームの間に形成された酸化ガス流路および燃料ガス流路とを備えているものである請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記セルは螺旋1回転分が1ユニットとして構成されているものであり、該セルが複数積層されて前記セル積層体が構成されていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記酸化ガス流路および前記燃料ガス流路が一本の螺旋状流路となっていることを特徴とする請求項2または3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記セルには、隣接するセルと接続されるための接続部が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記螺旋構造のセル積層体を構成している前記セルの外周部に沿って螺旋状の冷媒排出経路が形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記セル積層体が中空状であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記セル積層体の中空状の内周部に対して空気を供給する空気供給装置が併設されていることを特徴とする請求項7に記載の燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【公開番号】特開2008−159344(P2008−159344A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345296(P2006−345296)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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