説明

燃料電池

【課題】燃料電池スタックが折り返して配置される燃料電池において、集電板の発熱及び電流密度分布のばらつきを抑制する。
【解決手段】電解質の両側にアノード電極及びカソード電極がそれぞれ形成された複数のセル1を含む燃料電池スタックが、該セルの積層方向に略直交する方向に複数並設された燃料電池において、燃料電池スタック10a及び10bのアノード電極側の端部及びカソード電極側の端部に配置された集電板11a、12a、11b、12bと、導電材料によって形成され、該集電板に設けられたパッド部101と、導電材料によって形成され、隣接するスタック10a及び10bの一方のスタック10bのアノード電極側の集電板11bに設けられたパッド部101と、他方のスタック10aのカソード電極側の集電板12aに設けられたパッド部101とに架け渡された桁部102とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応により発電する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素と酸素との電気化学反応を利用して発電する燃料電池がエネルギー源として注目されている。例えば、燃料電池の一種である固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜を水素極(以下、「アノード」という場合がある。)と酸素極(以下、「カソード」という場合がある。)とで両側から挟み込むことによって形成される。このような燃料電池の1単位は、「セル」と呼ばれる。
【0003】
実用的な燃料電池においては、必要な電圧を得るために、複数のセルを積層することによりスタック(燃料電池スタック)が形成される。ところが、積層数を多くすると、各セルに対する燃料ガス及び酸化ガスの供給にばらつきが生じてしまう。各セルへのガス供給は、マニホールドを介して並列に行われるが、流路の下流においては流量が減少するからである。また、積層数が多いと、燃料電池を車両等に搭載する際に、搭載スペースの確保が困難になることもある。そこで、スタックを半分程度で折り返すことにより、スタックを2段構成とすることが行われている。
【0004】
図6は、従来の燃料電池を示す模式図である。燃料電池90は、複数のセル900を積層したスタック90a及び90bを含んでいる。これらのスタック90a及び90bは、それらの上端に配置された集電板902によって電気的に接続されている。また、スタック90a及び90bの下端には、集電板901及び903がそれぞれ配置されている。燃料電池90は、これらの集電板901及び903を介して、様々な電力消費装置(例えばモータ)、或いは、電力消費装置に電力供給を行うインバータやDC−DCコンバータに接続される。
【0005】
ところで、スタック90a及び90bにおいて、電流は、通常、セル900の積層方向(図の上下方向)に電流が流れる。それに対して、集電板901〜903において、電流はそれらの面内(図の左右方向)において流れる。そのため、図6に示すように、スタック90a及び90bを、集電板901〜903により互いに、又は他の装置に接続すると、電流の方向が急激に転換する領域911〜913が生じてしまう。それにより、それらの領域911〜913に電流が集中して、発熱するという問題が生じている。
【0006】
また、電流が一部に集中することにより、図6の矢印(電流密度ベクトル)に示すような電流密度分布が生じる。そのため、スタック90a及び90bを構成する各セルに電流密度分布のムラが生じ、発電効率がばらついてしまう。特に、スタック90a及び90bの上端及び下端付近のセル900においては、有効に発電している領域が大幅に減少してしまう。また、それらのセル900中で比較的発電効率の良い領域(電流密度が高い領域)は、電流が集中する領域911〜913に近いので、発熱の影響を受けて、やはり発電効率が低下するおそれがある。
このように、従来のスタックの接続方法によれば、燃料電池の性能を十分に発揮させることができない。
【0007】
また、図7に示すように、各セル900に燃料ガス及び酸化ガスを供給するためのマニホールド用の貫通口921が形成された集電板920によって、2つのスタック90a及び90bを接続する場合もある。この場合には、集電板920内で電流が通過できる範囲は狭くなるので、図の矢印で示すように、電流密度分布のばらつきは大きくなる。
【0008】
加えて、貫通口921付近においては、ガス供給の影響により温度変化が大きくなるので、貫通口921に近いセル900の発電性能の安定性を保つことはさらに困難になる。即ち、発電環境のバランスが僅かに変化することにより、セルの電圧は容易に低下してしまう。
【0009】
関連する技術として、積層燃料電池端部の電流分布を均一にするために、特許文献1には、集電板に複数個の端子を設けることが開示されており、特許文献2には、複数の電流端子を集電板の周縁に設けることが開示されている。
【特許文献1】特開昭58−128675号公報
【特許文献2】実開昭62−48664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、複数のスタックを接続して形成される燃料電池において、集電板の発熱及び電流密度分布のばらつきを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の1つの観点に係る燃料電池は、電解質の両側にアノード電極及びカソード電極がそれぞれ形成された複数のセルを含む燃料電池スタックが、該セルの積層方向に略直交する方向に複数並設された燃料電池において、前記複数の燃料電池スタックの各々のアノード電極側の端部及びカソード電極側の端部に配置された集電板と、導電材料によって形成され、前記集電板に設けられた1つ又は複数のパッド部と、導電材料によって形成され、互いに隣接する燃料電池スタックの一方の燃料電池スタックのアノード電極側の集電板に設けられた前記パッド部と、他方の燃料電池スタックのカソード電極側の集電板に設けられた前記パッド部とに架け渡された1つ又は複数の桁部とを備える。
【0012】
かかる構成とすることにより、一方の燃料電池スタックから集電板に流れ込んだ電流は、その方向を概ね維持したままパッド部に流れ込み、桁部を通過した後、もう一方のパッド部から、その方向を概ね維持したまま他方の燃料電池スタックに流れ込む。それにより、集電板における急激な電流の方向転換は生じ難くなるので、電流の集中に起因する発熱や電流密度分布のばらつきを抑制することが可能になる。
【0013】
前記燃料電池は、前記略直交する方向の一方の端に位置する燃料電池スタックのアノード電極側の集電板に設けられた前記パッド部に架け渡された1つ又は複数の桁部と、前記略直交する方向の他方の端に位置する燃料電池スタックのカソード電極側の集電板に設けられた前記パッド部に架け渡された1つ又は複数の桁部とをさらに備えても良い。
【0014】
かかる構成とすることにより、並設された燃料電池スタックの両端に位置するスタックにおいても、集電板における急激な電流の方向転換を生じ難くすることができるので、電流の集中に起因する発熱や電流密度分布のばらつきを抑制することが可能になる。
【0015】
ここで、前記1つ又は複数のパッド部を、各集電板の略中央に配置することにより、燃料電池スタックにおける電流密度分布が端部に偏るのを抑えることができる。
また、前記複数のパッド部を、各集電板の面内に分散して配置することにより、燃料電池スタックにおける電流密度分布をより均一にすることができる。
【0016】
さらに、前記集電板の各々に、マニホールドが接続される複数の貫通口が形成されており、前記桁部は、互いに隣接する貫通口の間を通るように配置されていても良い。それにより、マニホールドの配置に影響を及ぼすことなく、複数の燃料電池スタックを接続することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、パッド部及び桁部により2つの燃料電池スタックを電気的に接続するので、集電板の一部に電流が集中し、それによって発熱や、電流密度分布のばらつきが生じるのを抑制することができる。従って、燃料電池において、発電性能を安定的、且つ、十分に発揮させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池を示す模式図である。
図1に示す燃料電池10は、燃料電池自動車の車載発電システムや船舶、航空機、電車あるいは歩行ロボット等のあらゆる移動体用の発電システム、さらには、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システム等に適用可能であるが、本実施形態においては自動車用となっている。
【0019】
燃料電池10は、2つの燃料電池スタック(以下、単に「スタック」と言う)10a及び10bを含んでいる。各スタック10a及び10bは、電解質と、その一方の側に配置されたアノード電極と、他方の側に配置されたカソード電極とを含むセル1を複数積層することによって形成されている。また、スタック10aのアノード電極側(図の下側)には集電板11aが配置されており、カソード電極側(図の上側)には集電板12aが配置されている。一方、スタック10bのアノード電極側(図の上側)には集電板11bが配置されており、カソード電極側(図の下側)には集電板12bが配置されている。
【0020】
集電板11a、12a、11b、12bの各々には、導電材料によって形成された2つのパッド部101が設けられている。また、集電板12a及び11bに設けられたパッド部101には、導電材料によって形成された桁部102が架け渡されている。それにより、スタック10a及び10bが電気的に接続される。
【0021】
また、集電板11a及び12bにそれぞれ設けられたパッド部101には、導電材料によって形成された桁部103が架けられている。燃料電池10は、これらの桁部103を介して、外部の装置(例えば、モータ等の電力消費装置に電力を供給するインバータやDC/DCコンバータ)に接続される。なお、図1においては、桁部103を電極パッド15に接続した状態が示されている。
【0022】
なお、パッド部101は、パッド形状の導電材料を集電板11a、12a、11b、12bに接合することにより設けても良いし、パッド部101と集電板11a、12a、11b、12bとを予め一体的に形成しておいても良い。同様に、桁部102及び103についても、棒状又は板状の部材をパッド部101に接合することにより設けても良いし、両者を予め一体的に形成しておいても良い。
【0023】
図2の(a)は、図1に示す燃料電池10を示す平面図であり、図2の(b)は、燃料電池10の一部を示す側面図である。
パッド部101の形状は、図2の(a)に示すような楕円形であっても良いし、円形や、それ以外の形状であっても良い。いずれにしても、パッド部101と集電板12a及び11bとの接触面積をなるべく大きくする方が望ましい。また、燃料電池の設置スペースの観点から、図2の(b)に示すように、パッド部101と桁部102とを合わせた高さh(集電板からの立ち上がり部分)は、なるべく低く、全体として扁平にすることが望ましい。高さhは、例えば、1mm〜2mm程度あれば良い。
【0024】
このようなパッド部101は、各集電板11a、12a、11b、12bの周縁を除く領域に配置されている。電流密度分布が燃料電池スタック10a及び10bの一部の領域(特に端部)に偏るのを抑制するためである。具体的な配置としては、図2に示すように、パッド部101と集電板12aの端部との間隔d1及びd2や、パッド部101同士の間隔d3が略均等になるように、2つのパッド部101を分散させても良いし、2つのパッド部101を集電板12aの略中央に並べても良い。また、図2においては、2つのパッド部101を左右に揃えて配置しているが、左右に互い違いにずらしても良い。
【0025】
ここで、パッド部101は、各集電板11a、12a、11b、12bに少なくとも1つずつ配置されていれば良い。例えば、パッド部101を1つだけ設ける場合には、各集電板の略中央に配置することが望ましい。また、パッド部101を3つ以上設ける場合には、各集電板の周縁部を避けつつ面内に均等に分散させて、或いは、略中央に並べて配置する。いずれにしても、パッド部101が集電板の面内のいずれかの領域(特に、周縁部)に偏って配置されるのでなければ、パッド部101の数及び位置は限定されない。
【0026】
図3は、燃料電池10における電流密度分布を示す模式図である。なお、図中の矢印は、電流密度ベクトルを示している。
本実施形態においては、パッド部101と桁部102及び103とにより、スタック10a及び10b同士、又は、スタック10a及び10bと他の装置との接続を行うので、集電板11a、12a、11b、12bにおいて、電流の急激な方向転換は生じない。そのため、集電板11a、12a、11b、12bの一部に電流が集中するのを抑えることができる。それにより、集電板の発熱を抑制し、スタック10a及び10bに均一な電流密度分布が生じさせることができる。その結果、各セル1内における発電効率のばらつきを抑制し、燃料電池の性能を十分に発揮させることが可能になる。
【0027】
次に、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池について、図4を参照しながら説明する。
本実施形態においては、図1に示す集電板11a、12a、11b、12bの代わりに、図4に示すように、マニホールド用の貫通口21が形成された集電板20が用いられる。この場合に、桁部102は、貫通口21を塞がないように、燃料電池を上面から見た場合に、隣接する貫通口21の間に配置される。また、桁部103についても同様である。
【0028】
本実施形態によれば、パッド部101並びに桁部102及び103を用いることにより、マニホールドの配置に影響を与えないで、スタック10a及び10bを接続することができる。また、そのように接続することにより、各セル1内(図1)における発電効率のばらつきが抑制されるので、マニホールド用の貫通口21が集中している領域付近のセルにおいても、発電性能の安定性を維持し易くなる。
【0029】
以上説明した第1及び第2の実施形態に係る燃料電池を車両等に搭載する際には、図5に示すように、パッド部101、桁部102、並びに、集電板12a及び11bの表面に絶縁部材30を配置してから、スタック10a及び10bをケースに収納する。また、図4に示すように、貫通口21が設けられた集電板20を用いる場合には、絶縁部材30の対応する位置にも貫通口を形成する。
【0030】
また、以上においては、燃料電池スタックを2つ備えた燃料電池について説明したが、本発明は、3つ以上の燃料電池スタックがセルの積層方向に略直交する方向に並設された燃料電池にも適用することができる。即ち、隣接する燃料電池スタックにおいて、一方の燃料電池スタックのアノード電極側の集電板と、他方の燃料電池スタックのカソード電極側の集電板とを、パッド部及び桁部を介して順次接続すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池を示す模式図である。
【図2】図1に示す燃料電池を示す平面図及び側面図である。
【図3】図1に示す燃料電池における電流密度分布を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池を示す平面図である。
【図5】絶縁部材が配置された燃料電池の一部を示す模式図である。
【図6】従来の燃料電池を示す模式図である。
【図7】マニホールド用の貫通口が形成された集電板を示す平面図である。
【符号の説明】
【0032】
1…セル、10a、10b…燃料電池スタック、11a、11b、12a、12b、20…集電板、21…貫通口、101…パッド部、102、103…桁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質の両側にアノード電極及びカソード電極がそれぞれ形成された複数のセルを含む燃料電池スタックが、該セルの積層方向に略直交する方向に複数並設された燃料電池において、
前記複数の燃料電池スタックの各々のアノード電極側の端部及びカソード電極側の端部に配置された集電板と、
導電材料によって形成され、前記集電板に設けられた1つ又は複数のパッド部と、
導電材料によって形成され、互いに隣接する燃料電池スタックの一方の燃料電池スタックのアノード電極側の集電板に設けられた前記パッド部と、他方の燃料電池スタックのカソード電極側の集電板に設けられた前記パッド部とに架け渡された1つ又は複数の桁部と、
を備える燃料電池。
【請求項2】
前記略直交する方向の一方の端に位置する燃料電池スタックのアノード電極側の集電板に設けられた前記パッド部に配置された1つ又は複数の桁部と、
前記略直交する方向の他方の端に位置する燃料電池スタックのカソード電極側の集電板に設けられた前記パッド部に配置された1つ又は複数の桁部と、
をさらに備える請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記1つ又は複数のパッド部は、各集電板の略中央に配置されている、請求項1又は2記載の燃料電池。
【請求項4】
前記複数のパッド部は、各集電板の面内に分散して配置されている、請求項1又は2記載の燃料電池。
【請求項5】
前記集電板の各々に、マニホールドが接続される複数の貫通口が形成されており、
前記桁部は、互いに隣接する貫通口の間を通るように配置されている、
請求項1〜4のいずれか1項記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−198433(P2008−198433A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30943(P2007−30943)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】