説明

燃料電池

【課題】セル締結力を適正にした上での電池性能の低下抑制と燃料電池に衝撃が加わった場合の不具合対処の両立を図る。
【解決手段】燃料電池10は、エンドプレート110の外側に固定プレート120を備え、この固定プレート120は、エンドプレート110に対向する側をセル積層方向に対して傾斜した傾斜面122Sとする。この固定プレート120は、燃料電池スタックの両端に位置することで、エンドプレート110の一端側で傾斜面間隔が広く他端側で傾斜面間隔が狭くなるように傾斜面122Sを対向させる。エンドプレート110と固定プレート120との間には、転動ローラ112が介在し、この転動ローラ112は、セル積層方向に交差して加わった外力により傾斜面122Sを転動し、固定プレート間の燃料電池スタックを傾斜面間隔が狭い側に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の燃料電池セルをエンドプレートの間に積層した燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
こうした燃料電池は、車両等の移動体への搭載がなされつつあり、例えば車両搭載に当たっては、車両走行中に加わることがある衝撃に対しての対処が種々提案されている(例えば、特許文献1)。この特許文献では、燃料電池にセル積層方向と交差する方向から加わる衝撃を、燃料電池の搭載箇所から離れたエネルギ吸収部や燃料電池に近接配置された緩衝材などで緩和することがなされている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−123779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料電池セルは衝撃に有無に拘わらず積層方向に沿って締結されており、その締結の程度、即ち締結力の大きさは、締結力によるセル面圧が膜電極接合体の損傷等を起こさない程度に往々にして制限されている。こうすることで、電池性能の低下が抑制されている。その一方、上記したように衝撃緩和が図られたとしても、燃料電池にセル積層方向と交差する方向から衝撃が加わることには変わりはない。このため、衝撃の程度によっては、積層状態にある燃料電池セルのズレが起きことが危惧されている。こうした事態を回避するには、燃料電池セルの積層方向に沿った締結力を予め大きくしておくことが有効であるが、締結力増大によりセル面圧も高くなって膜電極接合体の損傷等による電池性能の低下も予想されるので、締結力増大での衝撃対処には限界があった。
【0005】
本発明は、上記した課題を踏まえ、セル締結力を適正にした上での電池性能の低下抑制と燃料電池に衝撃が加わった場合の不具合対処の両立を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0007】
[適用:燃料電池]
複数の燃料電池セルをエンドプレートの間に積層した燃料電池であって、
前記燃料電池セルの積層状態を維持するために前記燃料電池セルの積層方向に沿って前記エンドプレートを拘束しつつ、前記積層方向に沿った初期締結力を前記エンドプレートを介して前記燃料電池セルに付与する締結力付与機構を備え、
該締結力付与機構は、
前記積層方向と交差する方向から前記燃料電池セルに外力が加わると、該外力がない場合における前記初期締結力よりも大きな締結力を前記エンドプレートを介して前記燃料電池セルに付与する
ことを要旨とする。
【0008】
上記構成の燃料電池では、締結力付与機構により積層方向に沿った初期締結力をエンドプレートを介して燃料電池セルに付与するので、この初期締結力を膜電極接合体の損傷等を起こさない程度とすれば、電池性能の低下を抑制できる。その一方、セル積層方向と交差する方向から燃料電池セルに外力が加わると、当該外力が加わった状況においては、外力がない場合における初期締結力よりも大きな締結力をエンドプレートを介して燃料電池セルに付与するので、締結力増大により積層済み燃料電池セルのズレと言った不具合を効果的に抑制できる。しかも、この締結力増大を上記した外力が加わったときのみにしかもたらさないので、外力が加わることのない通常運転時には、適正な初期締結力により電池性能の低下を抑制できる。この場合、一旦加わった外力が消失した際には締結力を初期締結力に戻すようにすれば、締結力増大も速やかに解消されるので、電池性能の低下抑制の上では有益である。
【0009】
上記した燃料電池は、次のような態様とすることができる。例えば、前記締結力付与機構は、前記エンドプレートの外側に位置する一対の固定プレートを備えた上で、このプレート間の間隔を固定し、この固定プレートと前記エンドプレートとの間に係合部材を介在させて、この係合部材により、前記固定プレートと前記エンドプレートとを係合した上で、前記初期締結力を前記固定プレートから前記エンドプレートに伝達する。そして、この係合部材は、前記外力が加わると、前記固定プレートと前記エンドプレートとの係合状態に変位を来すことで、前記初期締結力よりも大きな締結力を前記固定プレートから前記エンドプレートに伝達する。こうすれば、外力が加わった時に係合部材による係合状態に変位を起こすよう構成するだけで、締結力増大によるセルのズレと言った不具合に対する対処を簡便に達成できる。
【0010】
こうした係合状態の変位は、次のようにして容易に来すことができる。例えば、前記一対の固定プレートは、前記エンドプレートに対向する側を前記積層方向に対して傾斜した傾斜面とし、該傾斜面を前記エンドプレートの一端側で間隔が広く他端側で間隔が狭くなるように対向させる。前記係合部材は、それぞれの前記エンドプレートと前記固定プレートとの間に介在し前記傾斜面に沿った移動を起こすことで、前記エンドプレートとエンドプレート間の燃料電池セルとを積層した状態のまま前記対向する傾斜面の間で移動可能とし、前記積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池が前記対向する傾斜面において前記間隔が広い側に位置するときに、前記初期締結力を前記固定プレートから前記エンドプレートに伝達し、前記外力が加わると前記積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池とが前記対向する傾斜面において前記間隔が狭い側に移動するよう前記傾斜面に沿った移動を起こす。つまり、積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池とが対向する傾斜面の間隔の広い側から間隔が狭い側に係合部材の前記傾斜面に沿った移動により移動して係合部材による係合状態に変位を来し、積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池とは固定プレートにて拘束された上で間隔の狭い傾斜面に挟まれるので、初期締結力よりも大きな締結力を固定プレートの側から受けることになる。これにより、締結力増大による不具合対処を簡便に達成できる。係合部材が起こす傾斜面に沿った移動は、係合部材が傾斜面において転動したり、傾斜面において摺動することなどで起きる。
【0011】
この場合、前記一対の固定プレートのそれぞれを、前記傾斜面を傾斜の向きが反対の二つの傾斜面として備えるものとし、前記係合部材を、傾斜の向きが反対の前記二つの傾斜面においてそれぞれ移動(例えば、転動)するよう前記エンドプレートと前記固定プレートとの間に介在するようにできる。こうすれば、セル積層方向に交差して加わる外力の方向が逆向きであっても、積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池とはその外力が加わった方向に沿って上記間隔が狭い傾斜面の側に移動することになる。つまり、外力の方向に対する汎用性が傾斜の向きが反対の傾斜面を有する分だけ高まるので、燃料電池の搭載の仕方の自由度が高まる。
【0012】
また、係合状態の変位を来す他の態様としては、例えば、前記一対の固定プレートは、一方の前記エンドプレートに固定された第1固定プレートと、他方の前記エンドプレートの側に位置して該エンドプレートに対向する側をプレート中央側ほど凹の湾曲面とした第2固定プレートとを備え、前記係合部材は、前記第2固定プレートと前記他方のエンドプレートとの間に介在し前記湾曲面において転動することで、前記エンドプレートとエンドプレート間の燃料電池セルとを積層した状態のまま前記第1固定プレートと第2固定プレートの間で撓ませ、前記積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池が前記湾曲面の中央に位置するときに、前記初期締結力を前記第2固定プレートから前記エンドプレートに伝達し、前記外力が加わると前記積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池が前記湾曲面の中央からずれて撓むよう転動する。つまり、積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池とが係合部材の湾曲面に沿った移動(例えば、転動)により湾曲面の中央からずれて撓むことで係合部材による係合状態に変位を来す。この撓みは、積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池とが一方のエンドプレートが第1固定プレートに固定された上でのものであり、他方の側、即ち上記した撓みを起こした側では湾曲面を有する第2固定プレートにより拘束されていることから、撓みを起こした積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池とは、初期締結力よりも大きな締結力を固定プレートの側から受けることになる。これにより、締結力増大による不具合対処を簡便に達成できる。
【0013】
この場合、前記湾曲面を球面とすれば、セル積層方向に交差して加わる外力の方向に拘わらず、積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池とはその外力が加わった方向に撓むことになる。つまり、外力の方向に対する汎用性が高まるので、燃料電池の搭載の仕方の自由度が高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。図1は本発明の実施例としての燃料電池10の全体構成を概略的に示す説明図、図2は燃料電池10の要部である固定プレート120とエンドプレート110の周辺を示す説明図、図3は定常時の燃料電池10の様子を一部破断して示す説明図、図4はセル積層方向に交差して外力が加わった場合における燃料電池10の挙動を一部破断して示す説明図である。
【0015】
図1に示すように、燃料電池10は、複数の燃料電池セル100を図における上下のエンドプレート110の間に積層して備える。この場合、エンドプレート110と燃料電池セル100との間には集電プレート102が配設される。それぞれの燃料電池セル100は、電解質膜の両側に電極を接合させた図示しない膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を備え、その両側を多孔質のガス拡散層とした上で、セパレータを有する。なお、MEAやガス拡散層およびセパレータについては、本発明の要旨と直接関係しないので図示は簡略化され、その説明についても省略する。
【0016】
燃料電池10は、燃料電池セル100の係合保持、並びに積層状態の確保のため、エンドプレート110の外側に固定プレート120を備える。燃料電池両端の固定プレート120は、H字状の補強材140にて3方で固定されており、固定プレート間の間隔は予め定められている。このプレート間隔は、セルの積層枚数、および燃料電池セル100が適正な面圧を受けて発電運転を支障なく行えるよう、定められるがこれについては後述する。なお、補強材140については、固定プレート120の補強、並びに固定プレート間の間隔維持できる形状であれば種々採用できる。
【0017】
図2に示すように、一方の固定プレート120は、エンドプレート110に対向する側をセル積層方向に対して傾斜した傾斜面122Sとし、傾斜前端側には隆起部124を備える。他方の固定プレート120にあっても同一形状であるが、既述した補強材140にて両固定プレートが固定された状態では、燃料電池両端の固定プレート120は、それぞれの傾斜面122Sを、エンドプレート110の一端側、より詳しくは隆起部124の側で間隔が広く他端側で間隔が狭くなるように対向させる。
【0018】
エンドプレート110は、その底面を固定プレート120の傾斜面122Sに倣った傾斜面とし、プレート4隅に転動ローラ112を備える。この転動ローラ112は、ローラーベアリング等にて構成され、エンドプレート110と固定プレート120との間に介在して傾斜面122Sにおいて転動する。つまり、この転動ローラ112は、傾斜面122Sにおいて転動することで、エンドプレート110と当該プレート間に積層済みの燃料電池セル100をその積層状態のまま、対向する傾斜面122Sの間で移動可能とする。なお、説明の便宜上、エンドプレート110と当該プレート間に積層済みの燃料電池セル100を、以下の説明に際しては燃料電池スタックと称することとする。
【0019】
燃料電池10は、図3に示すように、固定プレート120の隆起部124と反対側にバネ部材130を備える。このバネ部材130は、その付勢力を燃料電池スタックに及ぼすので、燃料電池スタックは隆起部124の側に通常は位置する。本実施例では、バネ部材130の付勢力と、固定プレート120の間隔、および傾斜面122Sの傾斜程度を、セル積層数や燃料電池セル100の定常発電運転を確保するための適正なセル面圧を考慮しつつ、定めた。そして、燃料電池スタックは、定常発電運転時には、図3に示すように転動ローラ112が隆起部124に当接した状態の初期位置(即ち、対向する傾斜面122Sにおいて間隔が広い側の位置)を取り、この初期位置に燃料電池スタックがある場合には、上記した固定プレート間隔等により、図中に黒塗り矢印で示す締結力(初期締結力)が固定プレート120から転動ローラ112を介してエンドプレート110に伝達される。よって、図3に示す初期位置に燃料電池スタックが位置している状況では、それぞれの燃料電池セル100は、上記した初期締結力をエンドプレート110を介して受け、この初期締結力に対応する適正なセル面圧を受けて支障なく発電運転する。
【0020】
今、図4に示すように、図中白抜き矢印で示す外力がセル積層方向に交差して加わったとする。こうした状況は、燃料電池10を例えば車両に搭載してセル積層方向と交差する方向が車両の前後方向となるようにした上で、車両に前後方向から衝撃が加わったような場合が想定される。この外力は、燃料電池スタックに図における右方から左方に作用するので、この外力を受けて転動ローラ112は傾斜面122Sにおいて対向する傾斜面122Sの間隔が狭い側に向けて転動し、燃料電池スタックにあっても、対向する傾斜面122Sにおいて間隔が狭い側に移動する。この場合、燃料電池スタックはバネ部材130を縮ませながら傾斜面間隔が狭い側に移動する。
【0021】
そうすると、燃料電池スタックは転動ローラ112の上記した転動により移動して、この転動ローラ112による固定プレート120と燃料電池スタックとの係合状態に変位を来し、燃料電池スタックは両端の固定プレート120にて拘束された上で傾斜面間隔の狭い傾斜面に挟まれることになる。よって、燃料電池スタックは、当該スタックが傾斜面間隔の広い隆起部124の側に位置するときに受ける初期締結力(即ち、外力を受けていない状況での締結力)よりも大きな締結力を、両端の固定プレート120の側から受けることになる。この結果、外力入力時における一時的な締結力増大により燃料電池スタックにおける各燃料電池セル100のズレと言った不具合を効果的に抑制できる。しかも、この締結力増大は、上記した外力が加わって燃料電池スタックが傾斜面間隔が狭い側に移動したときのみにしか起きないので、外力が加わることのない通常運転時には、適正な初期締結力により燃料電池セル100のそれぞれでの電池性能の低下を抑制できる。
【0022】
また、本実施例では、一旦加わった外力が消失すれば、バネ部材130はそのバネ力を燃料電池スタックに及ぼすので、燃料電池スタックは傾斜面間隔が広い側、即ち隆起部124の側に移動して初期位置に復帰する。このため、締結力増大は外力消失後に速やかに解消されて、燃料電池セル100が受ける力は初期締結力に戻るので、各セルでの面圧増大による電池性能の低下は外力消失後に速やかに抑制できる。
【0023】
次に、他の実施例について説明する。図5は他の実施例としての燃料電池10Aの全体構成を概略的に示す説明図、図6は燃料電池10Aの要部である固定プレート120Aをエンドプレート110Aを透視しつつ示す説明図、図7は外力の入力がないときの燃料電池10Aの様子を一部破断して示す説明図である。この実施例は、外力がセル積層方向と交差して加わる場合にその外力の向きが逆の場合についても対処を図る点に特徴がある。
【0024】
図示するように、燃料電池10Aは、既述した燃料電池10と同様、複数の燃料電池セル100を積層した燃料電池スタックを図における上下の固定プレート120Aで拘束して備える。固定プレート120Aは、既述した固定プレート120と異なり、図6に詳しく示すように、エンドプレート110Aの側に、傾斜の向きが反対の二つの傾斜面122RS、122LSを備える。この両傾斜面は、固定プレート120Aにおけるエンドプレート110Aの側を2分して形成されている。この固定プレート120Aにあっても、図5に示すように対向することから、対向する両固定プレートは、それぞれの傾斜面122RSを、エンドプレート110Aの一端側で間隔が広く他端側で間隔が狭くなるように対向させ、この逆に、それぞれの傾斜面122LSを、エンドプレート110の一端側で間隔が狭く他端側で間隔が広くなるように対向させる。
【0025】
エンドプレート110Aは、その底部を上記の両傾斜面に倣って2分した第1底部110RBと第2底部110LBとを備え、この第1、第2の底部は、その底面を固定プレート120の傾斜面122RS或いは傾斜面122LSに倣った傾斜面とし、それぞれの底部の4隅に転動ローラ112を備える。この転動ローラ112は、ローラーベアリング等にて構成され、エンドプレート110Aの上記第1、第2の底部と固定プレート120Aとの間に介在して傾斜面122RS、122LBにおいてそれぞれ転動する。つまり、第1底部110RBの転動ローラ112は傾斜面122RSにおいて、第2底部110LBの転動ローラ112は傾斜面122LSにおいて、それぞれの傾斜面に沿って同一方向に転動することで、固定プレート間の燃料電池スタックは、対向する傾斜面122RSおよび傾斜面122LSの間で移動する。
【0026】
燃料電池10Aは、図7に示すように、燃料電池スタックにその両側からバネ部材130の付勢力を及ぼし、燃料電池スタックを上記した傾斜面122RS、122LBの交差箇所に通常は位置させる。つまり、この実施例では、傾斜面の交差箇所が定常発電運転時の初期位置であり、図示する初期位置に燃料電池スタックがある場合には、上記した固定プレート間隔等により、図中に黒塗り矢印で示す締結力(初期締結力)が固定プレート120Aから転動ローラ112を介してエンドプレート110Aに伝達される。
【0027】
この実施例の燃料電池10Aは、図7に示す左右方向の図中白抜き矢印で示す外力がセル積層方向に交差して加わった場合においても、既述した燃料電池10と同様に外力が加わった際の締結力増大をもたらす。つまり、図における外力Rが加わると、この外力Rを受けて転動ローラ112は傾斜面122RSにおいて対向する傾斜面間隔が狭い側に向けて転動する。その一方、図における外力Lが加わった場合には、転動ローラ112は傾斜面122LSにおいて対向する傾斜面間隔が狭い側に向けて転動する。こうしたローラ転動が起きた場合には、既述した実施例と同様に締結力の増大をもたらすので、図7における左右いずれかの方向から外力の入力があった場合でも、一時的な締結力増大による燃料電池スタックにおける各燃料電池セル100のズレと言った不具合の抑制と、電池性能の低下抑制とを両立できる。
【0028】
しかも、この実施例にあっても、燃料電池スタックの両サイドに配置したバネ部材130により外力消失後には速やかに締結力増大を解消するので、電池性能の低下抑制の上でも利点がある。
【0029】
また、燃料電池10Aでは、既述したように図7における左右方向からの外力入力に対しての不具合対処ができることから、例えば、燃料電池10Aを車両に搭載する場合の自由度が高まると共に、車両前方からの外力入力のみならず、車両後方からの外力入力に対しても、上記利点を発揮できる。
【0030】
次に、また別の実施例について説明する。図8はまた別の実施例の燃料電池10Bの構成と外力入力時における挙動を概略的に説明する説明図である。この実施例は、外力入力時に燃料電池スタックに撓みを起こして締結力の増大を図る点に特徴がある。
【0031】
図示するように、燃料電池10Bにあっても、既述した燃料電池10と同様、複数の燃料電池セル100を積層した燃料電池スタックを図における上下の固定プレートで拘束する点で変わるものではない。そして、この燃料電池10Bは、燃料電池スタックの一端側のエンドプレート151を、第1固定プレート121に嵌合固定して備え、他方端側のエンドプレート152の外側に第2固定プレート120Bを備える。燃料電池スタックの両端に位置する第1固定プレート121と第2固定プレート120Bは、図示しない補強材にてプレート間隔および対向位置が変わらないよう固定されている。
【0032】
第2固定プレート120Bは、エンドプレート152に対向する側を凹所として備え、当該凹所は、エンドプレート152の中央ほど凹の程度が大きくなるように湾曲した湾曲面122Qとされている。第2固定プレート120Bは、いわゆるアーチ状であることから、湾曲面122Qは、図における左右方向において湾曲しているものの、図における紙面手前から奥側にかけては湾曲するものではない。
【0033】
燃料電池10Bは、エンドプレート152と第2固定プレート120Bとの間に転動ローラ112を介在させて備え、この転動ローラ112は、第2固定プレート120Bの湾曲面122Qにおいて転動可能とされている。なお、湾曲面122Qの両端は、湾曲の程度が強くされた湾曲端面122QEとされており、この湾曲端面122QEにより転動ローラ112の外れが防止されている。
【0034】
この実施例の燃料電池10Bでは、図8(A)に示すように、燃料電池スタックが湾曲面122Qの中央に位置する場合が初期位置であり、このときに、それぞれの燃料電池セル100は、初期締結力を受けるよう、第1固定プレート121と第2固定プレート120Bの間隔、および湾曲面122Qの湾曲程度が規定されている。その上で、エンドプレート152の転動ローラ112は、湾曲面122Qにおいて転動可能であることから、図8(B)に示すように、図における右方側から外力Rが加わると、転動ローラ112は湾曲面122Qにおいて転動してエンドプレート152と第2固定プレート120Bの係合状態に変位を来し、燃料電池スタックを第1固定プレート121と第2固定プレート120Bの間で撓ませる。こうなると、撓みによりエンドプレート152とエンドプレート151との間隔が縮む側では、図示するように締結力増大が起きるので、上記した実施例と同様、外力入力時における一時的な締結力増大による燃料電池スタックにおける各燃料電池セル100のズレと言った不具合の抑制と、電池性能の低下抑制とを両立できる。そして、この実施例では、転動ローラ112の転動は、図8(B)における左方側から外力Lが加わった場合でも、上記不具合抑制と電池性能の低下抑制を図ることができる。
【0035】
また、この燃料電池10Bでも、燃料電池10Aと同様に図8における左右方向からの外力入力に対しての不具合対処ができることから、車両搭載の自由度向上と、車両前後方向からの外力入力に対しても、上記利点を発揮できる。
【0036】
以上、本発明の実施の形態を実施例にて説明したが、本発明は上記した実施例や変形例の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。例えば、図8に示す第2固定プレート120Bを、その有する湾曲面122Qが球面となるものとすることもできる。つまり、第2固定プレート120Bを球形ドーム状とする。この場合には、図8に示した転動ローラ112をトラックボール様の転動方向が任意とできる転動ローラとすればよい。このように湾曲面122Qを球面とすれば、セル積層方向に交差して加わる外力の入力方向がいずれ方向であっても、その入力のあった方向に即して燃料電池スタックを第1固定プレート121と第2固定プレート120Bとの間で撓ませて、この撓みによる上記した締結力増大をもたらすことができる。よって、この場合には、セル積層方向に交差して加わる外力の入力方向に対する汎用性がより高まるので、車載の自由度もより一層高まり、好ましい。
【0037】
また、適正なセル面圧を得るための締結力(適正締結力)を燃料電池両端のエンドプレートに及ぼすための締結機構を別途設け、外力入力時には、この締結機構が及ぼす適正締結力とは別の締結力を及ぼすようにすることもできる。
【0038】
この他、転動ローラ112に代えて、傾斜面122Sに沿って摺動するような脚をエンドプレート110に設けるようにすることもできる。この場合には、スライダー構造を取り入れ、エンドプレートにレールを設けて上記の脚をレールに係合する駒とすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例としての燃料電池10の全体構成を概略的に示す説明図である。
【図2】燃料電池10の要部である固定プレート120とエンドプレート110の周辺を示す説明図である。
【図3】定常時の燃料電池10の様子を一部破断して示す説明図である。
【図4】セル積層方向に交差して外力が加わった場合における燃料電池10の挙動を一部破断して示す説明図である。
【図5】他の実施例としての燃料電池10Aの全体構成を概略的に示す説明図である。
【図6】燃料電池10Aの要部である固定プレート120Aをエンドプレート110Aを透視しつつ示す説明図である。
【図7】外力の入力がないときの燃料電池10Aの様子を一部破断して示す説明図である。
【図8】また別の実施例の燃料電池10Bの構成と外力入力時における挙動を概略的に説明する説明図である。
【符号の説明】
【0040】
10…燃料電池
10A…燃料電池
10B…燃料電池
100…燃料電池セル
102…集電プレート
110…エンドプレート
110A…エンドプレート
110RB…第1底部
110LB…第2底部
112…転動ローラ
120…固定プレート
120A…固定プレート
121…第1固定プレート
120B…第2固定プレート
122Q…湾曲面
122S…傾斜面
122QE…湾曲端面
122LS…傾斜面
122RS…傾斜面
124…隆起部
130…バネ部材
140…補強材
151…エンドプレート
152…エンドプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料電池セルをエンドプレートの間に積層した燃料電池であって、
前記燃料電池セルの積層状態を維持するために前記燃料電池セルの積層方向に沿って前記エンドプレートを拘束しつつ、前記積層方向に沿った初期締結力を前記エンドプレートを介して前記燃料電池セルに付与する締結力付与機構を備え、
該締結力付与機構は、
前記積層方向と交差する方向から前記燃料電池セルに外力が加わると、該外力がない場合における前記初期締結力よりも大きな締結力を前記エンドプレートを介して前記燃料電池セルに付与する
燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池であって、
前記締結力付与機構は、
前記エンドプレートの外側に位置する一対の固定プレートであって、プレート間の間隔が固定された固定プレートと、
該固定プレートと前記エンドプレートとの間に介在して前記固定プレートと前記エンドプレートとを係合し、前記初期締結力を前記固定プレートから前記エンドプレートに伝達する係合部材とを備え、
該係合部材は、
前記外力が加わると、前記固定プレートと前記エンドプレートとの係合状態に変位を来すことで、前記初期締結力よりも大きな締結力を前記固定プレートから前記エンドプレートに伝達する
燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池であって、
前記一対の固定プレートは、
前記エンドプレートに対向する側を前記積層方向に対して傾斜した傾斜面とし、該傾斜面を前記エンドプレートの一端側で間隔が広く他端側で間隔が狭くなるように対向させ、
前記係合部材は、
それぞれの前記エンドプレートと前記固定プレートとの間に介在し前記傾斜面に沿った移動を起こすことで、前記エンドプレートとエンドプレート間の燃料電池セルとを積層した状態のまま前記対向する傾斜面の間で移動可能とし、前記積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池が前記対向する傾斜面において前記間隔が広い側に位置するときに、前記初期締結力を前記固定プレートから前記エンドプレートに伝達し、前記外力が加わると前記積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池とが前記対向する傾斜面において前記間隔が狭い側に移動するよう前記傾斜面に沿った移動を起こす
燃料電池。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池であって、
前記一対の固定プレートのそれぞれは、前記傾斜面を、傾斜の向きが反対の二つの傾斜面として備え、
前記係合部材は、傾斜の向きが反対の前記二つの傾斜面においてそれぞれ前記傾斜面に沿った移動を起こすよう前記エンドプレートと前記固定プレートとの間に介在する
燃料電池。
【請求項5】
請求項2に記載の燃料電池であって、
前記一対の固定プレートは、
一方の前記エンドプレートに固定された第1固定プレートと、他方の前記エンドプレートの側に位置して該エンドプレートに対向する側をプレート中央側ほど凹の湾曲面とした第2固定プレートとを備え、
前記係合部材は、
前記第2固定プレートと前記他方のエンドプレートとの間に介在し前記湾曲面に沿った移動を起こすことで、前記エンドプレートとエンドプレート間の燃料電池セルとを積層した状態のまま前記第1固定プレートと第2固定プレートの間で撓ませ、前記積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池が前記湾曲面の中央に位置するときに、前記初期締結力を前記第2固定プレートから前記エンドプレートに伝達し、前記外力が加わると前記積層状態の前記エンドプレートと前記燃料電池が前記湾曲面の中央からずれて撓むよう前記湾曲面に沿った移動を起こす
燃料電池。
【請求項6】
前記湾曲面は球面とされている請求項5に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−59535(P2009−59535A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224531(P2007−224531)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】