説明

燃料電池

本発明は、燃料電池カソード液中のレドックス触媒及び/又はメディエーターとしての下記式(I)の化合物の使用に関する:


(式中、Xは水素及び様々な官能基から選択され、R〜Rは独立して水素及び様々な官能基から選択され、(L)は該構造の2つの隣接する芳香環の間の連結結合又は連結基の任意の存在を表し、存在する場合、R及びRの一方又は両方と共に任意で置換された環構造を形成していてもよく、該構造の少なくとも1つの置換基が電荷変更置換基である)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、特に携帯型エレクトロニクス製品等の携帯型製品、自動車等の輸送車両(主電源及び補助電源の両方)、トレーラーハウス及び他のレクリエーショナルビークル、ボート等のための補助電源、携帯電話基地局、病院、コンピューターシステム等の無停電電源等のような定置用途、並びに家庭用及び業務用の熱電併給のための電源としての用途を有する間接型燃料電池又はレドックス燃料電池に関する。本発明は、かかる燃料電池に使用される或る特定のカソード液にも関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、自動車エレクトロニクス技術及び携帯機器エレクトロニクス技術等の携帯機器用途のために非常に長年にわたって開発されてきたが、燃料電池が実用面で真剣に検討され始めたのは最近になってからである。燃料電池は、その最も単純な形態では、燃料及び酸化剤を反応生成物(複数も可)に変換し、その過程で電気及び熱を生み出す電気化学的エネルギー変換装置である。かかる電池の一例では、水素が燃料として、空気又は酸素が酸化剤として使用され、反応の生成物は水である。これらの気体はそれぞれ、2つの電極間で帯電種(例えばプロトン又はヒドロキシルイオン)を運ぶ固体又は液体の電解質によって隔てられた、触媒作用を及ぼす拡散型電極に供給される。間接型燃料電池又はレドックス燃料電池では、酸化剤(及び/又は場合によって燃料)は電極で直接反応せずに、レドックス対の還元形態(燃料については酸化形態)と反応してこれを酸化し、この酸化種がカソード(燃料についてはアノード)に供給される。
【0003】
電解質が異なることによって特徴付けられる、幾つかのタイプの燃料電池が存在する。液体アルカリ電解質燃料電池は、電解質がCOを溶解するため、定期的に交換する必要があるという特有の欠点を有する。プロトン伝導性固体電池膜を有する高分子電解質又はPEM型電池は酸性であり、この問題は回避される。しかしながら、酸素還元反応の電極触媒作用が比較的乏しいがために、理論的に最大値レベルに達しているその様なシステムから電力出力を達成することは、現実的には難しいものと判明している。
【0004】
加えて、高価な貴金属電解触媒が使用されることが多い。炭素、ニッケル又はチタンから形成されるか、又はそれらで被覆された電極等、より安価な不活性電極を使用することが好ましい。しかしながら、不活性電極を利用した従来技術の電池は、満足のいく電力出力を生み出すものではなかった。
【0005】
電気化学的燃料電池に関して認識されている問題は、定義された条件を考慮して特定の電極反応の理論電位は計算されることができるが、完全に達成することはできないということである。このシステムの欠陥は、任意の所与の反応から達成可能な理論電位を下回る或るレベルまで電位が失われることが避けられないことである。かかる欠陥を減少させるための以前の試みとしては、カソード液中で酸化還元反応を受けるメディエーターの選択が挙げられる。例えば、特許文献1は、キノン類及び色素をこの役割で使用することを開示している。しかしながら、電極が白金で被覆されているにもかかわらず、電池の稼働中に得られた出力は比較的低かった。試行された別のレドックス対は、特許文献2に開示されるバナジウム酸塩/バナジル対である。この場合、バナジウム対の還元及び酸化の遅速性が、電池の性能を低下させる。この問題は、バナジウム対の不溶性によって、より深刻なものとなる。特許文献3でも同じバナジウム対が使用されている。
【0006】
特許文献4によると、カソード液及びアノード液の両方に同じ電解質溶液を使用することによって、電気化学的燃料電池において或る特定の利点を実現することができた。特許文献4は、電解質中の任意の他のレドックス対との平衡電位の差が0.8V以上離れていない、2つよりも多いレドックス対を含有する液体電解質の使用を開示している。
【0007】
電解質溶液中の異なるレドックス対のレドックス電位を合わせることについては、特許文献5(燃料電池からの電気エネルギーの流れの速度を増加させるための中間電子伝達種の使用に関する)においても考察されている。また、白金被覆電極の使用についても開示されている。
【0008】
特許文献6は、存在する唯一の可溶性のレドックス種が触媒種である電解質を開示している。この電解質はCu(I)/Cu(II)触媒を含む。
【0009】
特許文献7は、向上した出力電力密度を示すと言われている、電子の供与及び受容に関与する材料を利用したバイオ燃料電池を開示している。この材料は、特定の外表面積を有する電子伝導体と、レドックス重合体と、生体触媒と、を含む。
【0010】
特許文献8は、アノードと、カソードと、を有し、当該アノードにはアノード酵素(anode enzyme)が備えられ、当該カソードにはカソード酵素(cathode enzyme)が備えられている燃料電池について開示している。
【0011】
特許文献9は、鉱石バナジウムレドックス電池に使用される高エネルギー密度の電解質溶液を調製する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第3294588号
【特許文献2】米国特許出願公開第3279949号
【特許文献3】米国特許第4396687号
【特許文献4】米国特許出願公開第3540933号
【特許文献5】米国特許出願公開第3360401号
【特許文献6】米国特許第3607420号
【特許文献7】国際公開第2006/057387号
【特許文献8】米国特許出願公開第2003/0152823号
【特許文献9】米国特許出願公開第2001/0028977号
【発明の概要】
【0013】
従来技術の燃料電池は全て、以下の欠点の1つ又は複数を有する:
非効率的であること;高価であり、及び/又は組み立てるのに費用がかかること;高価及び/又は環境に悪い材料を使用すること;適切及び/又は十分に維持することのできない電流密度及び/又は電池電位を生じること;熱放散が非効率的であること;インレットガスの加湿による湿度の制御、又はスタックアセンブリの変更を必要とすること;構成が大きすぎること;作動温度が高すぎること;望ましくない副生成物及び/又は汚染物質及び/又は有害な物質を生じること;自動車エレクトロニクス及び携帯機器エレクトロニクス等の携帯機器用途において実用性、商用性を見出せなかったこと。
【0014】
本発明の一目的は、上述の欠点の1つ又は複数を克服又は改善することである。本発明の更なる目的は、レドックス燃料電池に使用される改良されたカソード液を提供することである。
【0015】
修飾フェロセン種を含む遷移金属錯体をベースとする、レドックス燃料電池に使用するのに好適な一連のメディエーターが、本発明者らの国際出願PCT/GB2007/050421号に開示されている。しかしながら、修飾フェロセン類は限られた電位窓内にレドックス対を有し、かかる燃料電池システムにおける酸素還元反応の可能性を十分に引き出すことが制限されることが観察されている。
【0016】
本発明によれば、燃料電池カソード液中のレドックス触媒(redox
catalyst)及び/又はメディエーターとしての下記式(I)の化合物の使用が与えられる:
【0017】
【化1】

【0018】
ただし、上記式(I)中、Xは水素、及び、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、プロトン化アミノ、イミノ、ニトロ、シアノ、アシル、アシルオキシ、スルフェート、スルホニル、スルフィニル、アルキルアミノ(alkylamino)、プロトン化アルキルアミノ、第四級アルキルアンモニウム、カルボキシ、カルボン酸、エステル、エーテル、アミド、スルホネート、スルホン酸、スルホンアミド、ホスホン酸、ホスホネート、ホスフェート、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルコキシカルボニル、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルチオ、アリールチオ、アルキル、アルコキシ、オキシエステル、オキシアミド、アリール、ヒューズドアリール(fused‐aryl)、アリールアミノ、アリールオキシ、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、ヒューズドヘテロアリール(fused−heteroaryl)、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、アジド、フェニルスルホニルオキシ(phenylsulfonyloxy)、アミノ酸又はそれらの組み合わせを含む官能基から選択され、
〜Rは独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、プロトン化アミノ、イミノ、ニトロ、シアノ、アシル、アシルオキシ、スルフェート、スルホニル、スルフィニル、アルキルアミノ、プロトン化アルキルアミノ、第四級アルキルアンモニウム、カルボキシ、カルボン酸、エステル、エーテル、アミド、スルホネート、スルホン酸、スルホンアミド、ホスホン酸、ホスホネート、ホスフェート、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルコキシカルボニル、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルチオ、アリールチオ、アルキル、アルコキシ、オキシエステル、オキシアミド、アリール、ヒューズドアリール(fused‐aryl)、アリールアミノ、アリールオキシ、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、ヒューズドヘテロアリール(fused−heteroaryl)、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、アジド、フェニルスルホニルオキシ(phenylsulfonyloxy)、アミノ酸又はそれらの組み合わせから選択され、
とX、及び/又は、RとX、は共に任意で置換された環構造を形成していてもよく、
とR、及び/又は、RとR、及び/又は、RとR、及び/又は、RとR、及び/又は、RとR、及び/又は、RとR、及び/又は、RとR、は共に任意で置換された環構造を形成していてもよく、
(L)は、該構造の2つの隣接する芳香環の間の連結結合又は連結基の、任意の存在を表し、存在する場合、R及びRの一方又は両方と共に任意で置換された環構造を形成していてもよく、
該構造の少なくとも1つの置換基が電荷変更置換基(charge−modifying substituent)である。
【0019】
「電荷変更置換基」とは好ましくは、当該置換基の効果は種を、その還元形態において非中性にすること、好ましくはその非還元形態において非中性にすること、であることを意味する。
【0020】
当該種は好ましくは極性溶媒に可溶であり、より好ましくは水性溶媒に可溶である。
【0021】
好ましくは、(L)は、存在する場合、O、N、S、イミノ、スルホニル、スルフィニル、アルキルアミノ、プロトン化アルキルアミノ、第四級アルキルアンモニウム、カルボニル、エステル、エーテル、アミド、スルホンアミド、ホスホネート、ホスフェート、アルキルスルホニル、アルケニルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルスルフィニル、アルケニルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルチオ、アルケニルチオ、アリールチオ、オキシエステル、オキシアミド、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、又はアミノ酸から選択される。
【0022】
本発明による好ましいレドックス触媒及び/又はメディエーターは、単一の芳香環を超えて広がる平面共役領域を含む。これらの分子は概して、溶液中で非固定的結合の周囲で回転運動を受けるため、「真に平面状」ではない。しかしながら、少なくとも平面領域の存在は、レドックステーラリング及びラジカル電荷安定化に利用することのできる電荷の非局在化を達成するのに重要であり得る。
【0023】
本発明に従って使用される特に好ましい化合物としては、以下のものが挙げられる:
【0024】
【化2】

【0025】
メディエーター種がカチオン交換膜を備えるPEM電池においてカソード液として使用される場合、メディエーター種は好ましくはその酸化形態においてアニオン性、又はより好ましくはアニオン性である。
【0026】
アニオン電荷は、R及び/又はX(それぞれR〜R及びXについて上記されたものと同じ定義を有する)のうち少なくとも1つ、又は少なくとも1つのその置換基が、カルボキシレート基、ホスフェート基又はホスホネート基等のアニオン電荷誘導基であるようにすることによって、メディエーター化合物に導入することとしてもよい。より強酸性の基(スルホネート及びスルフェート等)を導入してもよい。
【0027】
代替的には、メディエーター種がアニオン交換膜を備えるPEM電池においてカソード液として使用される場合、メディエーター種は好ましくはその還元形態において非イオン性、又はより好ましくはカチオン性である。
【0028】
カチオン電荷は、R〜R及び/又はXのうち少なくとも1つ、又は少なくとも1つのその置換基が、プロトン化アミン基又は第四級アミン基等のカチオン電荷誘導基であるようにすることによって、メディエーター化合物に導入することができる。
【0029】
このため、本発明のメディエーター化合物の電荷を容易に変更することができることが分かる。これにより、メディエーター化合物をそれが使用される電池の特定の条件に合わせて調整すること(水溶解度及び膜適合性の増大等)が可能になる。さらに、化合物の電位をカソード液触媒の電位及びカソード液のpHに合わせて調整するように変更を行うことができる。所与のカソード液系の電位出力を最適化するためには、触媒とメディエーターとの間の電子伝達のカスケード効果は好ましくは最小にすべきである。芳香族性及び/若しくは非局在化の程度、並びに/又は種上の電子変調基の位置を変化させることによって、共に使用される触媒とマッチングするようにレドックス電位を変化させることができる。
【0030】
本発明による或る特定の好ましい化合物は修飾トリフェニルアミン種であり、Xが下記式によって表されることとしてもよい:
【0031】
【化3】

(式中、R〜R13は独立して水素、及びハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、プロトン化アミノ、イミノ、ニトロ、シアノ、アシル、アシルオキシ、スルフェート、スルホニル、スルフィニル、アルキルアミノ、プロトン化アルキルアミノ、第四級アルキルアンモニウム、カルボキシ、カルボン酸、エステル、エーテル、アミド、スルホネート、スルホン酸、スルホンアミド、ホスホン酸、ホスホネート、ホスホン酸、ホスフェート、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルコキシカルボニル、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルチオ、アリールチオ、アルキル、アルコキシ、オキシエステル、オキシアミド、アリール、アリールアミノ、アリールオキシ、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、アジド、フェニルスルホニルオキシ(phenylsulfonyloxy)又は式−CO−W−OH(式中、Wはアミノ酸である)を有するアミノ酸複合体を含む官能基、及び上述の官能基の1つ又は複数によって置換されたアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルカリール基、アルケンアリール基、アラルキル基、アラルケニル基から選択され、
がRと共に、及び/又は、R13がRと共に、好ましくはO、N、S、イミノ、スルホニル、スルフィニル、アルキルアミノ、プロトン化アルキルアミノ、第四級アルキルアンモニウム、カルボニル、エステル、エーテル、アミド、スルホンアミド、ホスホネート、ホスフェート、アルキルスルホニル、アルケニルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルスルフィニル、アルケニルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルチオ、アルケニルチオ、アリールチオ、オキシエステル、オキシアミド、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、又はアミノ酸から選択される連結基又は連結結合を形成していてもよく、
(Sp)はスペーサー基の任意の存在を表し、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖の任意で置換されたアルキル若しくはアルケニル、又は任意で置換されたアリール、シクロアルキル、アルカリール、アルケンアリール、アラルキル若しくはアラルケニル、又は任意で置換された複素環シクロアルキル、複素環アルカリール、複素環アルケンアリール、複素環アラルキル若しくは複素環アラルケニルから選択される。
【0032】
スペーサー基が存在する場合、それ自体は、その意図する目的のために分子の性能を変調する上で重要な役割を果たす。これはスペーサー基によってメディエーターの設計者が、特定の燃料電池環境の要求を満たすために、分子の適切な三次元構造及び/又は適切な共役系を選択することが可能になるためである。種の官能性は、その物理的特性及び電気的特性の影響を受ける場合がある。
【0033】
したがって、その官能基又は各々の官能基が、任意の好適な数のスペーサー要素及び/又は更なる官能単位(例えば適切な任意の炭化水素鎖が直鎖状であっても、又は分岐していてもよいアルキル、アルケニル、アリール、シクロアルキル、アルカリール、アルケンアリール、アラルキル、アラルケニル又は複素環単位)によって終端されているか、又はキャップされていてもよい。
【0034】
本明細書中の構造において、「アルキル」は好ましくはC1〜6アルキル、例えばC2〜6アルキル、C1〜5アルキル、C2〜5アルキル、C1〜4アルキル、C2〜4アルキル、C1〜3アルキル、C2〜3アルキル又はC1〜2アルキルである。同じ炭素数範囲が、アルケニル基、及び、任意のアラルキル基、アラルケニル基、アルカリール基又はアルケンアリール基の、アルキル部分又はアルケニル部分に適用される。
【0035】
本発明の特に好ましい実施の形態では、R〜Rのうち少なくとも1つ、及び/又は、存在する場合にはR〜R13のうち少なくとも1つが、−F、−CHO、−COCH、−COCHCH、−COCHCHCOOH、−COOH、−(COOH)、−NH、−NH、−N(CH、−NH(CH、−N(CH、−N(CHCH、−NH(CHCH、−N(CHCH、炭素数1〜4のアルキル鎖を有する第四級アミン、例えばN(C、−CHN(CH、−CHNH(CH、−CHN(CH、−N−(PhNH、−N−(PhCHNH、−N−(PhCNH、−N−(PhSO、−N−(PhCHSO、−Ph−N−(PhNH、−Ph−N−(PhCHNH、−Ph−N−(PhCNH、−Ph−N−(PhSO、−Ph−N−(PhCHSO、−Ph−N−(PhCSO、−OH、−CHOH、−CH(OH)CH、−OSO、−SO、−CHSO、−CHOSO、−PO(OH)、−OPO(OH)、−CO−Gly−OH、−CO−Glu−OHあるいは−CO−Asp−OHを含む官能基、及び上述の官能基の1つ又は複数によって置換されたアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルカリール基、アルケンアリール基、アラルキル基、アラルケニル基から選択される。
【0036】
驚くべきことに、概して本発明の化合物、特に修飾トリフェニルアミン種が、カソード液中でレドックス対として効果的に機能する所要の特性を有し、状況によってはフェロセン誘導体よりも好適な電位窓内でレドックス挙動を示すことができることが見出された。トリフェニルアミン及びその多くの誘導体等のメディエーター化合物は、その還元形態において中性の電荷を有し、十分に可溶性ではなく、酸化/ラジカル種の形成時に正に帯電する場合があり、溶液中で動電位電解重合を示す場合があるため、或る特定のカソード液系において直接使用するのに好適ではない。例えば、トリフェニルアミン自体は、大半のカソード液系においてメディエーターとして動作するには高すぎる電位窓で動作するため、Nafion(登録商標)膜等のカチオン交換膜を含むPEM電池での使用には適さない。
【0037】
しかしながら、本発明者らは、トリフェニルアミン及び類似化合物の或る特定の化学的修飾によって、その水溶解度が改善され、電解重合効果が制限され、種が動作する電荷及び電位を操作することが可能になることを見出した。このため、メディエーター化合物がカチオン交換膜を備えるPEM電池においてカソード液として使用される場合、メディエーター化合物は、好ましくはその酸化形態において非イオン性、又はより好ましくはアニオン性である。
【0038】
また、本発明によると、好適な触媒と共に少なくとも上述のレドックスメディエーター種を含む、レドックス燃料電池に使用されるカソード液が提供される。カソード液中のレドックスメディエーター種の濃度は、好ましくは少なくとも約0.0001M、より好ましくは少なくとも約0.005M、更に好ましくは少なくとも約0.001M、更により好ましくは少なくとも約0.01M、最も好ましくは少なくとも約0.1Mである。
【0039】
本発明の燃料電池に使用される特に好ましい修飾トリフェニルアミン化合物としては、以下のものが挙げられる:
【0040】
【化4】

【0041】
本発明のレドックスメディエーター化合物は、レドックス燃料電池に使用することを意図したものである。
【0042】
したがって、本発明は、レドックス燃料電池であって、
イオン選択性高分子電解質膜によって隔てられたアノード及びカソードを備える膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の前記アノードに隣接したアノード室と、
前記膜電極接合体の前記カソードに隣接したカソード室と、
該電池の前記アノード室に燃料を供給する手段と、
該電池に酸化剤を供給する手段と、
該電池の前記アノードと前記カソードとの間に電気回路を提供する手段と、
少なくとも1つの非揮発性カソード液成分を含むカソード液であって、本発明のレドックスメディエーター種を含む、カソード液と
を備える、レドックス燃料電池を提供する。
【0043】
一般的に燃料電池は、複数の膜電極接合体の、スタックを備える。
【0044】
結果として本発明は、レドックス燃料電池であって、
各々の膜電極接合体がイオン選択性高分子電解質膜によって隔てられたアノード及びカソードを備える、複数の膜電極接合体の、スタックと、
各々の膜電極接合体の前記アノードに隣接したアノード室と、
各々の膜電極接合体の前記カソードに隣接したカソード室と、
前記電池の前記アノード室に燃料を供給する手段と、
前記電池に酸化剤を供給する手段と、
前記電池のそれぞれのアノードとカソードとの間に電気回路を提供する手段と、
少なくとも1つの非揮発性カソード液成分を含むカソード液であって、本発明のレドックスメディエーター種を含む、カソード液と
を備える、レドックス燃料電池も提供する。
【0045】
カソード液は、上記で示唆したように、通常は本発明のレドックスメディエーター種に加えて好適なレドックス触媒を含む。したがって、本発明は、レドックス燃料電池であって、イオン選択性高分子電解質膜によって隔てられた、アノード及びカソードと、前記電池のアノード領域に燃料を供給する手段と、前記電池のカソード領域に酸化剤を供給する手段と、前記アノードと前記カソードとの間に電気回路を提供する手段と、前記カソードと流体連結して流れる、少なくとも1つの非揮発性カソード液成分を含むカソード液であって、前記電池の作動時に、前記カソードで少なくとも部分的に還元され、かかる還元の後、前記酸化剤との(任意で間接的な)反応によって前記カソードで少なくとも部分的に再生される式(I)の電子伝達メディエーター、及び該メディエーターの再生を触媒するレドックス触媒を含む、カソード液とを備える、レドックス燃料電池を提供する。
【0046】
本発明によると、レドックス燃料電池を作動させる方法であって、
イオン選択性高分子電解質膜によって隔てられたアノード及びカソードを備える膜電極接合体を提供することと、
前記膜電極接合体の前記アノードに隣接したアノード室を提供することと、
前記膜電極接合体の前記カソードに隣接したカソード室を提供することと、
該電池の前記アノード室に燃料を供給することと、
該電池に酸化剤を供給することと、
該電池の前記アノードと前記カソードとの間に電気回路を提供することと、
少なくとも1つの非揮発性カソード液成分を含むカソード液であって、本発明のレドックスメディエーター種を含む、カソード液を提供することと
を含む、レドックス燃料電池を作動させる方法も提供される。
【0047】
本発明の好ましい1つの実施の形態では、イオン選択性PEMは、他のカチオンに対してプロトンに選択的なカチオン選択性膜である。PEMがカチオン選択性膜である場合、カソード液のpHは好ましくは7未満、より好ましくは4未満、更に好ましくは2未満、最も好ましくは1未満である。
【0048】
カチオン選択性高分子電解質膜は任意の好適な材料から形成することができるが、好ましくはカチオン交換能を有する高分子基板を含む。好適な例としては、フッ素樹脂タイプのイオン交換樹脂及び非フッ素樹脂タイプのイオン交換樹脂が挙げられる。フッ素樹脂タイプのイオン交換樹脂としては、パーフルオロカルボン酸樹脂、パーフルオロスルホン酸樹脂等が挙げられる。パーフルオロカルボン酸樹脂、例えば「Nafion」(Du Pont Inc.)、「Flemion」(旭硝子株式会社(Asahi
Glass Ltd))、「Aciplex」(旭化成株式会社)等が好ましい。非フッ素樹脂タイプのイオン交換樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリアルキレンオキシド、スチレンジビニルベンゼンイオン交換樹脂等、及びそれらの金属塩が挙げられる。好ましい非フッ素樹脂タイプのイオン交換樹脂としては、ポリアルキレンオキシド−アルカリ金属塩錯体が挙げられる。これらはエチレンオキシドオリゴマーを、例えば塩素酸リチウム又は別のアルカリ金属塩の存在下で重合させることによって得ることができる。他の例としては、フェノールスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリトリフルオロスチレンスルホン酸、スルホン化トリフルオロスチレン、α,β,β−トリフルオロスチレン単量体をベースとするスルホン化共重合体、放射線グラフト膜が挙げられる。非フッ素化膜としては、スルホン化ポリ(フェニルキノキサリン)、ポリ(2,6−ジフェニル−4−フェニレンオキシド)、ポリ(アリールエーテルスルホン)、ポリ(2,6−ジフェニレノール);酸ドープポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリイミド;スチレン/エチレンブタジエン/スチレントリブロック共重合体;部分スルホン化ポリアリーレンエーテルスルホン;部分スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);及びポリベンジルスルホン酸シロキサン(PBSS)が挙げられる。
【0049】
しかしながら、本発明の燃料電池は、カチオン選択性高分子電解質膜のみとの使用に限定されない。アニオン選択性高分子電解質膜を本発明の燃料電池に使用してもよい。アニオン性膜の好適な例としては、ジビニルベンゼンと架橋し、微粉状ポリ塩化ビニルの存在下で重合させて強度を与えた、スチレンの第四級アミン誘導体が挙げられる。
【0050】
高分子電解質膜がアニオン特異的である実施の形態では、カソード液のpHが7を超えることが好ましい。より好ましい実施の形態では、カソード液のpHは8を超える。
【0051】
場合によっては、イオン選択性高分子電解質膜が二重膜を含むことが望ましい。二重膜は、存在する場合、概して第1のカチオン選択性膜と第2のアニオン選択性膜とを含む。この場合、二重膜は逆帯電した(oppositely
charged)選択性膜の隣接対合を含み得る。例えば、二重膜は、任意の間隔で並べて配置することのできる少なくとも2つの別個の(discrete)膜を含み得る。好ましくは、間隔のサイズは、たとえあったとしても、本発明のレドックス電池においては最小限に抑えられる。二重膜の使用は、アノードとカソード液との間のpH低下による電位を維持することによって電池の電位を最大にするために、本発明のレドックス燃料電池において利用することができる。理論によって限定されるものではないが、この電位を膜系において系の或る時点で維持するためには、プロトンが主要な電荷伝達媒体でなくてはならない。単一のカチオン選択性膜では、膜におけるカソード液からの他のカチオンの自由な運動のために、これを同じ程度まで達成することができない。
【0052】
この場合、カチオン選択性膜を二重膜のカソード側に、アニオン選択性膜を二重膜のアノード側に配置することができる。この場合、カチオン選択性膜は、プロトンが電池の作動時に膜をアノード側からそのカソード側へと通過するように適合させる。アニオン選択性膜は実質的に、プロトン以外のカチオン性物質が膜をカソード側からそのアノード側へと通過するのを防止するように適合させる。この場合、プロトンがアノードからカソードへと移動してもよい。
【0053】
本発明の第2の実施の形態では、カチオン選択性膜を二重膜のアノード側に、アニオン選択性膜を二重膜のカソード側に配置する。この場合、カチオン選択性膜は、プロトンが電池の作動時に膜をアノード側からそのカソード側へと通過するように適合させる。この場合、アニオンはカソード側から二重膜の間隙空間へ移動することができ、プロトンはアノード側から移動する。この場合、かかるプロトン及びアニオン性物質を二重膜の間隙空間からフラッシングする(flushing)手段を設けることが望ましい場合もある。かかる手段は、カチオン選択性膜中の1つ又は複数の穿孔を含み、膜を直接介したかかるフラッシングを可能にし得る。代替的に、カチオン選択性膜の周囲のフラッシングされた物質を間隙空間から該膜のカソード側へと導く手段を設けてもよい。
【0054】
アノード側のアニオン選択性膜と共に使用される機構である、有用なバイポーラ膜の代表例は、株式会社トクヤマから入手可能なネオセプタ(登録商標)BP−1という商標で販売されているものである。
【0055】
本発明の別の態様によると、プロトン交換膜燃料電池を作動させる方法であって、
a)プロトン交換膜に隣接して位置するアノードでH+イオンを形成させる工程と、
b)そのレドックスメディエーター種を酸化状態で含む本発明のカソード液を、プロトン交換膜の反対側に隣接して位置するカソードに供給する工程と、
c)電荷の平衡を保つように、H+イオンが膜を通過すると同時に、修飾レドックスメディエーター種がカソードと接触すると還元される工程と
を含む、プロトン交換膜燃料電池を作動させる方法が提供される。
【0056】
別の実施の形態では、カソード液はカソード液リザーバから供給される。
【0057】
上記の態様の方法は、d)カソード液をカソードから再酸化領域へ移動させ、そこで修飾レドックスメディエーター種を、酸化剤と反応する触媒によって再酸化させる工程を更に含んでいてもよい。
【0058】
別の実施の形態では、上記の態様の方法は、e)カソード液を再酸化領域からカソード液リザーバへ移動させる工程を含む。
【0059】
この実施の形態では、電池は循環型であり、カソード内のレドックスメディエーター分子を交換する必要なしに繰り返し酸化及び還元することができる。
【0060】
電力を負荷するように構成された電気負荷装置も、本発明の燃料電池に関連して提供することができる。
【0061】
本発明の燃料電池は、LPG、LNG、ガソリン又は低分子量アルコール類等の利用可能な燃料前駆体を、水蒸気改質反応によって燃料ガス(例えば水素)に変換するように構成された改質器を備えていてもよい。電池はこの場合、改質された燃料ガスをアノード室へ供給するように構成された燃料ガス供給装置を備えていてもよい。
【0062】
好ましい燃料としては、水素、燃料自体又は水素の提供元として働くことのできる金属水素化物(例えばホウ化水素)、低分子量アルコール類、アルデヒド類及びカルボン酸、糖類及びバイオ燃料、並びにLPG、LNG又はガソリンが挙げられる。
【0063】
好ましい酸化剤としては、空気、酸素及び過酸化物が挙げられる。
【0064】
本発明のレドックス燃料電池におけるアノードは例えば、水素ガス型アノード又は直接メタノール型アノード、エタノール、プロパノール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール等の他の低分子量アルコール類、更にはこれらとギ酸、エタン酸等の酸種とから形成されるアルデヒド類用のアノードであってもよい。加えて、アノードは、細菌種が燃料を消費して、電極で酸化されるメディエーターを産生するか、又は細菌自体が電極に吸着され、直接電子をアノードに供与するバイオ燃料電池型システムから形成されていてもよい。本発明のレドックス燃料電池におけるカソードは、カソード材料として炭素、金、白金、ニッケル、金属酸化物種を含み得る。しかしながら、有利な本発明のカソード液により、十分な電力出力を達成するためにかかるカソードを使用する必要はない。このため、好ましいカソード材料としては、炭素、ニッケル、チタン、及び特定のカソード液中で不活性な他の金属、並びに金属酸化物又は金属硫化物が挙げられる。カソードに好ましい材料の1つは、網状ガラス状炭素又は炭素繊維ベースの電極(炭素フェルト等)である。別の例はニッケルフォーム若しくはニッケルメッシュ、又はチタンフォーム若しくはチタンメッシュである。カソード材料は粒子状カソード材料の微細分散物から構成されていてもよく、粒子状分散物は好適な接着剤又はプロトン伝導性高分子材料によって一つにまとめられている。カソードは、カソード表面へのカソード液の最大流を生じるように設計されている。このため、カソードは成形された流量調整弁又は三次元電極からなっていてもよく、液体流は、電極に隣接した液体チャネルが存在する流通機構、又は三次元電極の場合、液体が強制的に電極を通って流される流通機構において管理することができる。
【0065】
電池の作動時にカソード室内の溶液中を流れるレドックスメディエーター種は、本発明において、燃料電池反応中に形成される電子の電子シンク(electron
sink)として働くメディエーターとして使用される。メディエーターはこの還元の後、酸化剤と反応する触媒によって再酸化される。
【0066】
本発明の燃料電池において利用されるレドックスメディエーター種及び任意の触媒レドックス対は、非揮発性、好ましくは水性溶媒に可溶でなくてはならない。好ましい触媒対種は、燃料電池の電気回路において有用な電流を発生させるのに効果的な速度で酸化剤と反応し、水が反応の最終生成物となるように酸化剤と反応するものとする。
【0067】
本発明の燃料電池では、カソード液中に少なくとも約0.0001Mのレドックスメディエーター種が存在する必要がある。ただし、レドックスメディエーター種に加えて触媒レドックス対がカソード液中に含まれているものとする。かかる触媒レドックス対の好適な例は多く、結合遷移金属錯体及びポリオキソメタレート種が挙げられる。本発明の燃料電池に有用なポリオキソメタレート触媒種の具体例が、同時係属中の英国特許出願公開第0605878.8号に開示されている。かかる錯体を形成することのできる好適な遷移金属イオンの具体例としては、マンガン(II〜V)、鉄(I〜IV)、銅(I〜III)、コバルト(I〜III)、ニッケル(I〜III)、クロム(II〜VII)、チタン(II〜IV)、タングステン(IV〜VI)、バナジウム(II〜V)及びモリブデン(II〜VI)が挙げられる。結合遷移金属錯体の配位子は、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄、ハロゲン化物及び/又はリンを含有することができる。配位子は、例えば鉄若しくはマンガンの金属中心に結合したEDTA、NTA、2−ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸を含むキレート配位子、又はシアン化物等の非キレート配位子であってもよい。
【0068】
本発明において有用であり得る代替的な触媒は、多座N供与体配位子である。かかる配位子は、英国特許第2440435号に記載されており、任意の好適な金属(単数又は複数)、例えば遷移金属に配位することができる。かかるN供与体配位子の例は、N4Py及びその誘導体、pydien又はその誘導体、並びにtrilen及びtpen並びにそれらの誘導体から選択することができる。これらのN供与体例の鉄錯体は、燃料電池システムにおけるレドックスメディエーターの酸化に効果的な触媒であることが分かっている。好適なN供与体配位子の更なる例は、一連の多座大環状N供与体型配位子を記載している国際公開第2009/050067号(参照により本明細書中に援用される)から選択することができ、以下の国際公開第2009/050067号の構造及び例1〜4が特に参照される:
【0069】
【化5】

【0070】
ここで、本発明の様々な態様を、本発明の実施形態を説明する以下の図面を参照してより具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明による燃料電池のカソードコンパートメントの概略図である。
【図2】修飾トリフェニルアミン種によるFe(II)/(III)対の媒介を示すグラフである。
【図3】水(NaSO(0.1M)バックグラウンド電解質)中でのN,N,N’,N’−テトラ−(4−フェニルスルホナト)−1,4−ベンゼンジアミンのサイクリックボルタモグラムである。
【図4】HSO(2.0M)中、60℃、再生なしで、N,N,N’,N’−テトラ−4−(フェニルスルホナト)−1,4−ベンゼンジアミン(0.1M)の酸化サンプルから収集した燃料データのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0072】
図1を参照すると、アノード(図示せず)とカソード3とを隔てる高分子電解質膜2を備える、本発明による燃料電池1のカソード側が示される。カソード3は、この図面では網状炭素を含み、したがって多孔質である。高分子電解質膜2はカチオン選択性Nafion 112膜を含み、アノード室における燃料ガス(この場合、水素)の(任意で触媒による)酸化によって発生したプロトンが、電池の作動時にそれを通過する。当然ながら、他の膜が同様に適用可能であり、本発明の範囲内に含まれ得ることを当業者は理解するであろう。燃料ガスの酸化によってアノードで発生した電子は、電気回路(図示せず)内に流れ込み、カソード3に戻る。燃料ガス(この場合、水素)はアノード室(図示せず)の燃料ガス流路に供給され、酸化剤(この場合、空気)はカソードガス反応室5の酸化剤インレット4に供給される。カソードガス反応室5(触媒再酸化領域)には排出口6が設けられ、それを通して燃料電池反応の副生成物(例えば、水及び熱)を放出することができる。
【0073】
触媒及び酸化形態のレドックスメディエーター種を含むカソード液が、電池の作動時にカソード液リザーバ7からカソードインレットチャネル8へと供給される。カソード液は、膜2に隣接して位置する網状炭素カソード3へ移動する。カソード液がカソード3を通過する際に、レドックスメディエーター種及び触媒は還元され、その後カソードアウトレットチャネル9を通ってカソードガス反応室5に戻る。
【0074】
本発明のカソード液の有利な組成のために、レドックスメディエーター種及び触媒の再酸化が非常に急速に起こり、それにより燃料電池が従来技術のカソード液を用いた場合よりも高度に持続可能な電流を生じることが可能になる。
【0075】
以下の非限定的な実施例によって、本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0076】
実施例1
(a)0.5cmのガラス状炭素電極と、(b)先端をこの電極から約2mm離して配置したルギン管を有する参照カロメル電極(SCE)と、(c)白金対電極とを有する標準的な三電極電池を準備した。
【0077】
サイクリックボルタモグラム(図2に示される)を室温、50mV/秒で作成し(ran)、2つのカソード液の挙動を比較した。第1のカソード液は、0.1M HNO中に0.1M Fe(NOを含んでいた。第2のカソード液は更に、本発明の修飾メディエーター種である、下記構造を有するN,N,N’,N’−テトラキス(4−スルホナトフェニル)−1,4−フェニレンジアミンも含んでいた:
【0078】
【化6】

【0079】
第1のカソード液のネルンスト電位は、0.81V(vs NHE)、0.57V(vs SCE)である。図2から明らかなように、電位が0.3V(vs SCE)付近に達するまで有意な還元電流が生じず、約0.17V(vs SCE)でピークに達するため、鉄の対(Fe(II)/Fe(III))の低い反応速度が強調される。しかしながら、レドックスメディエーター化合物の存在下では、電流が0.5V(vs SCE)付近で上昇し、0.2V(vs SCE)を超えるピークが得られる。
【0080】
実施例2
合成
スルホン化トリアリールアミン誘導体の合成は、トリアリールアミンを、無水DMF中でスルホン化試薬として三酸化硫黄−N,N−ジメチルホルムアミド錯体で処理することによって達成することができる。当然ながら、上記と同じ能力の他のスルホン化剤を使用してもよいことを当業者は理解するであろう。生成物を、有機溶媒での水性溶解生成物の洗浄、続いて水/アセトニトリル展開溶媒で溶出させるRP−C18シリカゲルによる逆相クロマトグラフィーという組み合わせによって精製した。
【0081】
電気化学
トリアリールアミン類はその有用なレドックス特性から、有機エレクトロニクス等の分野における開発のために相当に研究されている。レドックス電位、電極動力学の可逆性及びレドックス状態の副反応等の特性の制御は全て、分子構造について行われる多数の異なる選択によって達成することができる。
【0082】
図3に見られるように、芳香族アミン類のレドックス電位及び電極動力学を制御し、所望の性能に合わせて調整することができる。表1のデータは、トリアリールアミン類の電子供与体/受容体官能基化が、レドックス電位を上昇/低下させることを支持するものである。加えて、これらの化合物のレドックス状態の溶媒和の差を制御することは、電気化学プロセスの可逆性の程度(ΔE)に寄与する。
【0083】
【表1】

【0084】
燃料電池データ
芳香族アミン類の十分なスルホン化によって、ACAL
EnergyのFlowcath(登録商標)技術に使用されるプロトン交換膜と受動的相互作用が可能なアニオン性分子が生じる。カソード液組成中の過剰なカチオンが膜のプロトン伝導性に悪影響をもたらし、したがって燃料電池の性能が大きく損なわれることが一般に理解されている。図4に見られるように、既存のカソード液系との比較電極データは、最適化していない濃度で有望な結果を示しており、初期試験データから有意な改良の余地が明らかである。
【0085】
N,N,N’,N’−テトラ−(4−スルホナトフェニル)−1,4−ベンゼンジアミンは空気単独では酸化されないが、カソード液組成の電子伝達メディエーター部分を形成する。したがって、この化合物はNaVOをメディエーターの水溶液に添加することによって化学的に酸化され、燃料電池での電極試験に必要とされる酸化物を生成した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池カソード液中のレドックス触媒及び/又はメディエーターとしての下記式(I)の化合物の使用:
【化1】

(式中、Xは水素、及びハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、プロトン化アミノ、イミノ、ニトロ、シアノ、アシル、アシルオキシ、スルフェート、スルホニル、スルフィニル、アルキルアミノ、プロトン化アルキルアミノ、第四級アルキルアンモニウム、カルボキシ、カルボン酸、エステル、エーテル、アミド、スルホネート、スルホン酸、スルホンアミド、ホスホン酸、ホスホネート、ホスフェート、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルコキシカルボニル、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルチオ、アリールチオ、アルキル、アルコキシ、オキシエステル、オキシアミド、アリール、ヒューズドアリール(fused‐aryl)、アリールアミノ、アリールオキシ、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、ヒューズドヘテロアリール(fused−heteroaryl)、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、アジド、フェニルスルホニルオキシ(phenylsulfonyloxy)、アミノ酸又はそれらの組み合わせを含む官能基から選択され、
〜Rは独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、プロトン化アミノ、イミノ、ニトロ、シアノ、アシル、アシルオキシ、スルフェート、スルホニル、スルフィニル、アルキルアミノ、プロトン化アルキルアミノ、第四級アルキルアンモニウム、カルボキシ、カルボン酸、エステル、エーテル、アミド、スルホネート、スルホン酸、スルホンアミド、ホスホン酸、ホスホネート、ホスフェート、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルコキシカルボニル、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルチオ、アリールチオ、アルキル、アルコキシ、オキシエステル、オキシアミド、アリール、ヒューズドアリール(fused‐aryl)、アリールアミノ、アリールオキシ、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、ヒューズドヘテロアリール(fused−heteroaryl)、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、アジド、フェニルスルホニルオキシ(phenylsulfonyloxy)、アミノ酸又はそれらの組み合わせから選択され、
とX、及び/又は、RとXと、は共に任意で置換された環構造を形成していてもよく、
とR、及び/又は、RとR、及び/又は、RとR、及び/又は、RとR、及び/又は、RとR、及び/又は、RとR、及び/又は、RとR、は共に任意で置換された環構造を形成していてもよく、
(L)は、該構造の2つの隣接する芳香環の間の連結結合又は連結基の、任意の存在を表し、存在する場合、R及びRの一方又は両方と共に任意で置換された環構造を形成していてもよく、
該構造の少なくとも1つの置換基が電荷変更置換基である)。
【請求項2】
前記式(I)の化合物が、その還元形態において非中性である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記式(I)の化合物が、その非還元形態において非中性である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記式(I)の化合物が極性溶媒に可溶である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記式(I)の化合物が水性溶媒に可溶である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記式(I)の化合物において、(L)が存在し、連結結合、sp混成炭素若しくはsp混成炭素、又はO、N、S、イミノ、スルホニル、スルフィニル、アルキルアミノ、プロトン化アルキルアミノ、第四級アルキルアンモニウム、カルボニル、エステル、エーテル、アミド、スルホンアミド、ホスホネート、ホスフェート、アルキルスルホニル、アルケニルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルスルフィニル、アルケニルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルチオ、アルケニルチオ、アリールチオ、オキシエステル、オキシアミド、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、又はアミノ酸から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記式(I)の化合物が電子非局在化領域、任意で単一の芳香環を超えて広がる平面共役領域を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記式(I)の化合物が下記の化合物から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用:
【化2】

【請求項9】
前記式(I)の化合物において、Xが下記式によって表される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用:
【化3】

(式中、R〜R13は独立して水素、及びハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、プロトン化アミノ、イミノ、ニトロ、シアノ、アシル、アシルオキシ、スルフェート、スルホニル、スルフィニル、アルキルアミノ、プロトン化アルキルアミノ、第四級アルキルアンモニウム、カルボキシ、カルボン酸、エステル、エーテル、アミド、スルホネート、スルホン酸、スルホンアミド、ホスホン酸、ホスホネート、ホスホン酸、ホスフェート、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルコキシカルボニル、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルチオ、アリールチオ、アルキル、アルコキシ、オキシエステル、オキシアミド、アリール、アリールアミノ、アリールオキシ、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、アジド、フェニルスルホニルオキシ(phenylsulfonyloxy)又は式−CO−W−OH(式中、Wはアミノ酸である)を有するアミノ酸複合体を含む官能基、及び上述の官能基の1つ又は複数によって置換されたアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルカリール基、アルケンアリール基、アラルキル基、アラルケニル基から選択され、
がRと共に、及び/又は、R13がRと共に、好ましくはO、N、S、イミノ、スルホニル、スルフィニル、アルキルアミノ、プロトン化アルキルアミノ、第四級アルキルアンモニウム、カルボニル、エステル、エーテル、アミド、スルホンアミド、ホスホネート、ホスフェート、アルキルスルホニル、アルケニルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルスルフィニル、アルケニルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルチオ、アルケニルチオ、アリールチオ、オキシエステル、オキシアミド、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、又はアミノ酸から選択される連結基を形成していてもよく、
(Sp)はスペーサー基の任意の存在を表す)。
【請求項10】
前記式(I)の化合物において、スペーサー基が存在し、直鎖若しくは分岐鎖の任意で置換されたアルキル若しくはアルケニル、又は任意で置換されたアリール、シクロアルキル、アルカリール、アルケンアリール、アラルキル若しくはアラルケニル、又は任意で置換された複素環シクロアルキル、複素環アルカリール、複素環アルケンアリール、複素環アラルキル若しくは複素環アラルケニルから選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記式(I)の化合物において、いずれか又は各々の官能基が、1つ又は複数の好適なスペーサー要素及び/又は更なる官能単位によって終端されているか、又はキャップされている、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記好適なスペーサー単位(複数も可)及び/又は更なる官能単位(複数も可)が独立して、任意の炭化水素鎖が任意で分岐していてもよいアルキル、アルケニル、アリール、シクロアルキル、アルカリール、アルケンアリール、アラルキル、アラルケニル又は複素環単位から選択される、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
〜Rのうち少なくとも1つ、及び存在する場合にはR〜R13のうち少なくとも1つが、−F、−CHO、−COCH、−COCHCH、−COCHCHCOOH、−COOH、−(COOH)、−NH、−NH、−N(CH、−NH(CH、−N(CH、−N(CHCH、−NH(CHCH、−N(CHCH、−CHN(CH、−CHNH(CH、−CHN(CH、−N−(PhNH、−N−(PhCHNH、−N−(PhCNH、−N−(PhSO、−N−(PhCHSO、−Ph−N−(PhNH、−Ph−N−(PhCHNH、−Ph−N−(PhCNH、−Ph−N−(PhSO、−Ph−N−(PhCHSO、−Ph−N−(PhCSO、−OH、−CHOH、−CH(OH)CH、−OSO、−SO、−CHSO、−CHOSO、−PO(OH)、−OPO(OH)、−CO−Gly−OH、−CO−Glu−OHあるいは−CO−Asp−OHを含む官能基、及び上述の官能基の1つ又は複数によって置換されたアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルカリール基、アルケンアリール基、アラルキル基、アラルケニル基から選択される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記式(I)の化合物が下記の化合物から選択される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の使用:
【化4】

【請求項15】
少なくとも前記式(I)の化合物を含む、レドックス燃料電池に使用されるカソード液。
【請求項16】
レドックス触媒を更に含む、請求項15に記載のカソード液。
【請求項17】
前記レドックス触媒が、N供与体化合物及び/又はポリオキソメタレート種から選択される、請求項16に記載のカソード液。
【請求項18】
レドックス燃料電池であって、
イオン選択性高分子電解質膜によって隔てられたアノード及びカソードを備える膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の前記アノードに隣接したアノード室と、
前記膜電極接合体の前記カソードに隣接したカソード室と、
該電池の前記アノード室に燃料を供給する手段と、
該電池に酸化剤を供給する手段と、
該電池の前記アノードと前記カソードとの間に電気回路を提供する手段と、
少なくとも1つの非揮発性カソード液成分を含むカソード液であって、式(I)のレドックスメディエーター種を含む、カソード液と
を備える、レドックス燃料電池。
【請求項19】
各々の膜電極接合体がイオン選択性高分子電解質膜によって隔てられたアノード及びカソードを備える、複数の膜電極接合体の、スタックと、
各々の膜電極接合体の前記アノードに隣接したアノード室と、
各々の膜電極接合体の前記カソードに隣接したカソード室と、
前記電池の前記アノード室に燃料を供給する手段と、
前記電池に酸化剤を供給する手段と、
前記電池のそれぞれのアノードとカソードとの間に電気回路を提供する手段と、
少なくとも1つの非揮発性カソード液成分を含むカソード液であって、前記式(I)のレドックスメディエーター種を含む、カソード液と
を備える、請求項18に記載のレドックス燃料電池。
【請求項20】
イオン選択性高分子電解質膜によって隔てられたアノード及びカソードと、
前記電池のアノード領域に燃料を供給する手段と、
前記電池のカソード領域に酸化剤を供給する手段と、
前記アノードと前記カソードとの間に電気回路を提供する手段と、
前記カソードと流体連結して流れる、少なくとも1つの非揮発性カソード液成分を含むカソード液であって、前記電池の作動時に、前記カソードで少なくとも部分的に還元され、かかる還元の後、前記酸化剤との(任意で間接的な)反応によって前記カソードで少なくとも部分的に再生される式(I)の電子伝達メディエーター、及び該メディエーターの再生を触媒するレドックス触媒を含む、カソード液と
を備える、請求項18又は19に記載のレドックス燃料電池。
【請求項21】
前記イオン選択性高分子電解質膜が、カチオン選択性及び/又はプロトン選択性である、請求項18〜20のいずれか一項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項22】
前記カソード液が酸性である、請求項21に記載のレドックス燃料電池。
【請求項23】
前記式(I)の化合物が、その酸化形態において非イオン性又はアニオン性である、請求項21又は22に記載のレドックス燃料電池。
【請求項24】
前記イオン選択性高分子電解質膜が、アニオン選択性である、請求項18〜20のいずれか一項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項25】
前記カソード液がアルカリ性である、請求項24に記載のレドックス燃料電池。
【請求項26】
前記式(I)の化合物が、その還元形態において非イオン性又はアニオン性である、請求項24に記載のレドックス燃料電池。
【請求項27】
レドックス燃料電池を作動させる方法であって、
イオン選択性高分子電解質膜によって隔てられたアノード及びカソードを備える膜電極接合体を提供することと、
前記膜電極接合体の前記アノードに隣接したアノード室を提供することと、
前記膜電極接合体の前記カソードに隣接したカソード室を提供することと、
該電池の前記アノード室に燃料を供給することと、
該電池に酸化剤を供給することと、
該電池の前記アノードと前記カソードとの間に電気回路を提供することと、
少なくとも1つの非揮発性カソード液成分を含むカソード液であって、式(I)のレドックスメディエーター種を含む、カソード液を提供することと
を含む、レドックス燃料電池を作動させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−501337(P2013−501337A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523393(P2012−523393)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051295
【国際公開番号】WO2011/015875
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(510200598)エーシーエーエル・エナジー・リミテッド (5)
【Fターム(参考)】