説明

燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグ

【課題】パイプをセラミック基体に圧入等により締り嵌めとしてなるセラミックヒータを備えると共に、そのパイプの外周面に、燃焼圧検知のため、ハウジングに対するヒータの先後動を許容してシールを確保するシール部材を溶接してなる燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグで、その溶接によってそのパイプの内周面が凹むこと等に起因する、その内周面とセラミック基体の外周面間における気密性を保つ。
【解決手段】パイプ20の内周面22にメッキ層25を形成しておき、これをセラミック基体11に圧入等により締り嵌めとし、このパイプにシール部材を溶接する。これにより、そのパイプの内周面に溶接歪で発生する凹部22cを、圧縮されていたメッキ層が埋め得るため、前記内、外周面間の凹部に対応する部位に空隙ができないため、その内、外周面間における気密性の低下を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの燃焼室内における着火の促進と、それに加えて燃焼圧を検知(検出)する機能を備えた燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグ(以下、単にグロープラグともいう)としては各種のものが知られている(例えば、特許文献1、2)。図7は、これと同種のグロープラグ901の断面構造を簡略化して示した破断縦断面図である。同図のものは、筒状をなすハウジング40内に、通電することによって発熱する棒状(円軸状)のセラミックヒータ10を、自身の先端(燃焼室内に突出する側の端。図示下端)10aが、そのハウジング40の先端53から突出するようにして備えている。なお、図7、および図8中の2点鎖線は、エンジンヘッドHにおける燃焼室の近傍部分を示す。
【0003】
このようなグロープラグ901では、燃焼圧を検知するためにセラミックヒータ(以下、単にヒータともいう)10がハウジング40内において、その軸(軸線)G方向(先後方向)に、数十μm程度と微小ではあるが変位可能に配置されている。そのため、ヒータ10は、ハウジング40の内周面55との間に空隙(環状空隙K)を保持して配置されている。そして、このヒータ10の後方には、これに同軸で突き合わせ状に配置された通電用の軸部材60が接続用のパイプ19を介して設けられている。これにより、ヒータ10が燃焼圧によって先端10aから後方に押されることによって発生する変位(又は圧力)を、この軸部材60を介して、後方に設けられた例えば歪部材210に与え、これに取付けられた歪センサ(歪ゲージ)220にて、その歪量を検出(測定)することで、燃焼圧を検出するように構成されている。
【0004】
ところで、このグロープラグ901では、高温、高圧の燃焼ガスが、ハウジング40の先端53から、その先端部位の内周面とヒータ10の外周面との間の先端側の隙間(環状空隙K)を通ってハウジング40内の後方に入り込むのを防止する(シールを確保する)必要がある。このため、同図のグロープラグ901では、ハウジング40の先端部位(先端側ハウジング50)に続く後方の内側に形成された環状空間内に、燃焼ガスの侵入を防止する金属製のシール部材30を備えている。このシール部材30は、ハウジング40に対するヒータ10の軸G方向の変位を許容するため、ベローズやダイアフラムのようにそれ自体が容易に変形できる金属薄膜(例えば、SUS304製又はSUS630製で、0.1〜0.2mm厚の薄膜)で、十分な可撓性のある環状膜部(メンブレン)を有する環状又は筒状のものとされる。
【0005】
同図のシール部材30においては、後端35側が大径で、先端32側が小径のベローズをなしている。このベローズは、後端35側をハウジング40の内周面に、先端32側をセラミックヒータ10の後端寄り部位の外周面に、それぞれ周方向に沿って溶接により気密を保持するように固定されている。ハウジング40内の空間は、このようなシール部材30を配置することにより、その先後が気密状に遮断され、奥の空間K2と先端側の外部との間におけるシール(気密)が保持される。なお、上記ヒータ10は、棒状をなすセラミック基体11内に発熱体12を形成してなるセラミックヒータであることから、このようなセラミック基体11の外周面11bに、金属製のシール部材30を直接溶接することはできない。このため、セラミック基体11に薄肉(0.3〜0.5mm)の金属製(例えば、SUS630製)のパイプ20を外嵌めし、このパイプ20の外周面24に、シール部材30の先端32寄り部位を、その所定位置(図8の黒塗り三角部)で、周方向に例えばレーザ溶接している。なお、発熱体12の接地用電極16はこのパイプ20、及びシール部材30を介しハウジング40に接続され、他方の電極17は上記した、接続用のパイプ19を介して軸部材60に接続されている。
【0006】
一方、このパイプ20の内周面22とヒータ10をなすセラミック基体11の外周面11bとの間は、その間の気密保持のため、パイプ20は、セラミック基体11に対して圧入等より締り嵌め状態となるように外嵌されている。しかも、その気密性を高度に保持するため、セラミック基体11の外周面11bの表面粗さは、例えばRaで、0.15〜0.2μm以下とされ、パイプ20の内周面22の表面粗さも、例えば、Raで、0.15〜0.2μm以下とされていた。すなわち、パイプ20とセラミック基体11の内、外周面22、11bを高度の面仕上げとした上で、セラミック基体11をパイプ20に圧入するなどにより締り嵌めにすることで、その内外周面間における先後方向の気密を確保していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−520941号公報
【特許文献2】特開2011−089688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記した燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグにおいては、圧力検知精度の低下がみられるという問題が判明した。これは、ヒータ10をなすセラミック基体11の外周面11bと、これに外嵌めされたパイプ20の内周面22との間を通って、先端側から後方に向けてガス(GAS)が侵入する。そして、このガスが、シール部材30で仕切られたグロープラグの奥(内部)の空間K2に、図7中、破線矢印で示したように入り込んでしまうことによるものである。
【0009】
すなわち、このグロープラグ901では、燃焼圧(燃焼ガス圧)を、ヒータ10の先端10aと共に、シール部材30の燃焼室内側の面で受圧することで、ヒータ10が後方に押圧されることによる歪部材210の歪を歪センサ220で検出したり、圧電素子の圧縮に基づいて、その圧力を検知する構成を有しているため、シール部材30で仕切られた奥の空間K2にガスが入り込むと、その空間K2内は、高温、高圧となるため、センサにノイズを発生させる等の影響がでる。また、シール部材30には逆向きの圧力がかかることになるため、ヒータ10の後方への押圧力や変位の低下を招く。こうしたことに基づき、圧力検知精度は低下するのである。
【0010】
また、パイプ20の内周面22とセラミック基体11の外周面11bとの隙間にガスが入り込むということは、例えそれが奥の空間K2に入り込まないとしても、セラミックヒータ10をなす発熱体12の熱がパイプ20に伝わり難くなるという点で問題である。すなわち、その熱が、パイプ20およびシール部材30を介して、ハウジング40やエンジンヘッドHへ熱伝導(熱引き)されにくくなるため、グロープラグ901後方の高温化を招くという問題もある。
【0011】
上記したガスの侵入の原因について本願発明者らは次のように推論した。この種のグロープラグは、セラミックヒータ10、及びこれに外嵌めされているパイプ20の両先端が燃焼室内に露出するようにして取付けられるため、その両者とも先端側ほど高温となる。このような高温に曝されたとしても、セラミックヒータ10をなすセラミック基体11については、その熱膨張は無視できる。一方、パイプ20は金属製であるから相対的に大きく熱膨張する。このため、両者が当初は締り嵌め状態にあったとしても、相対的にパイプ20が大きく熱膨張してその径が大きくなることから、締り嵌めによるパイプ20の内部応力が減少し、最終的に、内周面22とセラミック基体11の外周面11bとの間には隙間が発生する。とくに、図7の拡大図中、図8中の2点鎖線、及び図10に誇張して示したように、パイプ20はその後端20bに対して先端20a側(図示下端側)ほど高温となり、大きく拡径するように膨張する。そして、このようにして発生する隙間が、ガスを後方に入り込ませる原因であると考えた。これに対して、本願発明者は、セラミック基体11に対するパイプ20の締め代(接触面圧)をできるだけ大きくしたりして、上記問題の解決を試みたが、いずれも、根本的な解決策とはならなかった。こうした中、本願発明者は、セラミックヒータ10では、シール部材30を、セラミック基体11に外嵌めしている金属製のパイプ20に対し、溶接(通常、レーザ溶接)で固定していることにも、その原因があるのではないかと考えた。
【0012】
そこで、この溶接部位について調べたところ、次のことが判明した。図9に誇張して示したように、このような溶接部位W1では、パイプ20の内周面22には半径方向外向きに凹む形で、極めて微小ではあるが凹部22cが、周方向に沿って発生していることを突き止めた。そして、この凹部22cが、セラミック基体11の外周面11bとの間で微小な空隙を形成しており、この空隙(以下空隙22cともいう)が上記した気密性の低下の原因にもなっていると推論した。
【0013】
このような凹部22cは、次のようにして発生すると考えられる。セラミック基体11に外嵌めされたパイプ20に、シール部材30を外嵌めし、その先端32寄り部位において外周面側から周回状に溶接すると、その溶接過程で溶融金属が冷却固化する際、金属製のパイプ20は、その内周面22寄り部位から外周面24側に向かって冷却、固化が進む。このため、その溶接部位W1は、その外周面24側が最後に冷却固化する。このような冷却固化過程における収縮、そして、その収縮に起因して発生する応力により、そのパイプ20における溶接部位W1は半径方向外方に熱収縮で引張られる溶接歪を発生する。その結果、最初に固化したその内周面22には凹部22cが形成され、セラミック基体11の外周面11bとの間で空隙を発生させる(以下、この空隙も符号22cで示す)。
【0014】
実際、溶接部位W1を切断して調べてみると、図9に示したような空隙22cが確認される。そして、上記肉厚のパイプ20やシール部材30で、溶接部位W1の幅が、2mm程度である場合、パイプ20の内周面22の凹部22cは、半径方向外向きの深さD1が、1〜3μm程度で、先後方向における幅Whが、最大、溶接部位W1を挟む先後に1mm程度に及ぶことが確認される。ガスがグロープラグの奥(内部)の空間K2に入り込むのは、上記したパイプ20の熱膨張と、この凹部22cによる空隙の発生に原因があると考えられる。
【0015】
すなわち、上記したようにパイプ20が拡径するように熱膨張し、パイプ20の内周面22とセラミック基体11の外周面11bとの間に隙間が発生することによって、燃焼ガスがこの隙間に入り込む。そして、このガスは、シール部材30の溶接部位W1における空隙に入り込もうとする。一方、隙間はこの空隙22cで局所的に大きくなる。また、溶接部位は、通常、パイプ20における後端寄り部位である。これにより、図10に誇張して示したように、この空隙22cに入り込んだガスはこの空隙22cを支点として、パイプ20の先端側を大きく開くように変形させるようになると共に、パイプ20の後方に向けて侵入しようとする。このような熱サイクルの繰り返しにより、この空隙22cを起点としてガスは最終的にパイプ20の後端を突破して、その後方のグロープラグの奥の空間K2に入り込んでしまうと考えられる。
【0016】
本願発明者において、こうした問題は、パイプ20の内周面22とセラミック基体11の外周面11bとの間に上記のような熱サイクル下で発生する隙間を小さくすることと、溶接によって、パイプ20の内周面22に発生する上記凹部22cに起因する空隙の発生を防止することによって解消できると考えた。一方、その空隙22cをなす凹部の深さD1が、1〜3μm程度と、その内周面22、又はセラミック基体11の外周面11bの表面粗さ(Ra)レベルにおける最大の凹凸と同程度である。こうしたことからして、例えばパイプ20の内周面22であって、少なくとも前記溶接部位W1を挟む先後方向の所定範囲に、メッキ等により、ある程度の柔軟性ないし変形容易性、及び復元性(弾性)のある金属層を形成しておき、その後で、パイプの締り嵌めによってその金属層を圧縮しておくことにより、溶接時に発生する凹部22cにおける空隙の発生は防止できると考えた。すなわち、金属層を形成しておき、それをパイプの締り嵌めによって圧縮しておくことで、その圧縮されていた金属層によってその凹部22cを埋め、それにより、空隙の発生を防止できる推論した。そこで、実際に、一例としてパイプ20の内周面22にメッキ層を形成しておいて試験したところ、その効果が実証された。
【0017】
本発明は、上記した問題点に対する、かかる知見に基づいてなされたもので、シール部材を溶接しているパイプの熱膨張、さらには、このシール部材を外周面側から周方向に沿ってパイプに溶接することにより、その溶接部位に対応するパイプの内周面が凹むこと等に起因する、パイプ及びセラミック基体の内、外周面間における気密性の低下を防ぎ、もって、燃焼圧の検知精度を高めることのできる燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に記載の発明は、筒状をなすハウジング内に、その先端から自身の先端を突出させた棒状をなすセラミックヒータが、該ハウジングの内周面と該ヒータの外周面との間に隙間を保持して軸方向に変位可能に配置されており、
該セラミックヒータが燃焼圧によって先端から後方に押されることによって発生する圧力又は変位に基づいて燃焼圧を検知するセンサを備えてなる燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグであって、
前記セラミックヒータは、発熱体を含む棒状をなすセラミック基体と、このセラミック基体の外周面に締り嵌めで外嵌めされてなる金属製のパイプとを含む構成を有し、
前記ハウジングの先端寄り部位の内周面と該パイプの外周面との間の環状空隙に、該ハウジングの先端寄り部位において内外を気密状に遮断する配置で、前記ヒータの変位を許容するように変形可能に形成された環状又は筒状のシール部材が、前記パイプに外嵌状に配置されていると共に、前記セラミック基体の外周面に締り嵌めで外嵌めされてなる前記パイプの外周面に対し、シール部材自身の外周面側からその周方向に沿って溶接された構成を有する燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグにおいて、
前記パイプの内周面と前記セラミック基体の外周面との周面間であって、少なくとも前記シール部材が溶接されてなる溶接部位を挟む先後方向の所定範囲に金属層が形成されており、この金属層が前記パイプの締り嵌め状態において圧縮されていることを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載の発明は、前記金属層は、前記パイプの内周面にメッキによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグである。
【0020】
請求項3に記載の発明は、筒状をなすハウジング内に、その先端から自身の先端を突出させた棒状をなすセラミックヒータが、該ハウジングの内周面と該ヒータの外周面との間に隙間を保持して軸方向に変位可能に配置されており、
該セラミックヒータが燃焼圧によって先端から後方に押されることによって発生する圧力又は変位に基づいて燃焼圧を検知するセンサを備えてなる燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグであって、
前記セラミックヒータは、発熱体を含む棒状をなすセラミック基体と、このセラミック基体の外周面に外嵌めされてなる金属製のパイプとを含む構成を有し、
前記ハウジングの先端寄り部位の内周面と該パイプの外周面との間の環状空隙に、該ハウジングの先端寄り部位において内外を気密状に遮断する配置で、前記ヒータの変位を許容するように変形可能に形成された環状又は筒状のシール部材が、前記パイプに外嵌状に配置されていると共に、前記セラミック基体の外周面に外嵌めされてなる前記パイプの外周面に対し、シール部材自身の外周面側からその周方向に沿って溶接された構成を有する燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグにおいて、
前記パイプは、前記セラミック基体に隙間嵌で外嵌され、その隙間に、溶融ロウを濡れ拡がらせて固化させることによって金属層を形成し、該パイプはこの金属層を介して該セラミック基体に固定されており、
前記シール部材は、該パイプの外周面のうち、その内側の前記金属層が存在する先後方向の範囲内において溶接されていることを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載の発明は、前記金属層は、前記パイプよりも低硬度材からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグである。
請求項5に記載の発明は、前記金属層は、前記パイプの全長にわたり形成されているこ
とを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグである。
請求項6に記載の発明は、前記金属層は、前記溶接部位を含め、該溶接部位の後方の所定範囲にわたり形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグである。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、前記パイプの内周面と前記セラミック基体の外周面との周面間であって、少なくとも前記シール部材が溶接されてなる溶接部位を挟む(含む)先後方向の所定範囲に金属層が形成されており、この金属層が前記パイプの締り嵌め状態において圧縮されている。そして、このようなシール部材は、パイプの締り嵌め状態において、例えば、その先端又は先端寄り端部において外周面側から、前記パイプの外周面に、周方向に沿って例えば、レーザ溶接されたものである。この溶接において、パイプ側の溶融金属の冷却、固化は、パイプの内周面側から始まりその外周面へと進む。このため、その外周面側が冷却、固化する際に発生する収縮応力(溶接歪)により、パイプの内周面におけるその溶接部位は、他の部位に比べて局所的に半径方向外向きに引張られる。この場合、前記パイプの内周面と前記セラミック基体の外周面との周面間において、圧縮されている金属層がないとした場合には、背景技術で説明したように、パイプの内周面のうち、溶接部位に対応する部位は、溶接部位を含む先後の所定範囲のなかで、微小な深さで半径方向外向きに凹む。これによりパイプの内周面とセラミック基体の外周面との間には微小な空隙が発生する。
【0023】
しかし、本発明では、その内、外周面の間には、パイプの締り嵌め状態において圧縮されていた金属層がある。このため、パイプの内周面が半径方向外向きに、2μm程度といった微小な深さで凹むように変形しようとすると、その圧縮されていた金属層は、その凹部に対応する部位において同時にその圧縮から解放される。すなわち、圧縮されていた金属層は、この凹みの生成に対応して、同部位においては圧縮前の元形ないし元の厚みにもどろうとするから、その凹みを埋める(空隙を発生させない)ように変形する。つまり、本発明では、溶接においてパイプの内周面に凹部は発生するとしても、その凹部は圧縮されていた金属層が埋める作用をする。このように本発明では、その内、外周面の間に、パイプの締り嵌め状態において圧縮されていた金属層がない従来のものに比べると、その間に圧縮されていた金属層がある分、空隙が発生するのを防止する効果が得られる。
【0024】
また、本発明において、その金属層は、溶接部位を挟む先後方向の所定範囲に形成されている。したがって、凹み(凹部)を挟む先後方向の所定範囲におけるパイプの内周面とセラミック基体の外周面との間に、パイプの締り嵌めにより圧縮されている金属層がある。このため、パイプが熱膨張して、先端側においてセラミック基体の外周面との間に隙間が発生するとしても、圧縮されている金属層がある分、それがない場合より、その隙間の発生を遅らすことができる。また、その隙間が発生したとしても、従来のように溶接に起因するパイプの内周面の凹部における空隙が金属層で埋められている分、空隙の発生が抑えられるから、燃焼ガスがその凹部より奥へ侵入するのを防止する作用が得られる。これらの結果、本発明によれば、従来よりも、パイプの内周面とセラミック基体の外周面との間における気密性を高められるので、燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグにおける燃焼圧の検知精度の低下が防止される。
【0025】
なお、パイプの内周面に発生する溶接に起因する凹部の半径方向寸法(深さD1)は、1〜3μm程度であり、これは、その内周面やセラミック基体の外周面の面粗度レベル(Ra:約0.5μm)において発生する凹凸と同じ程度のものであり、極めて微小である。したがって、金属層の厚みは、そのような凹部が生成されるとき、金属層自身による変形ないし復元性によりその凹部を埋め得るように設定すればよい。このため、この厚みは、その金属層の硬度や弾性などの物理的性質に応じて設定することになる。例えば、金属層の厚みは、0.1μmにおいて設定される。
【0026】
前記金属層は、セラミック基体に外嵌されるパイプの全長にわたって形成されているのが好ましい。これは次の理由による。セラミックヒータの先後方向における温度分布は、先端側が相対的に高温となるところ、セラミック基体自体の熱膨張は無視できる。これに対して、パイプは相対的に著しく大きく熱膨張し、高温となる先端側ほど大きく膨張(大径化)する。しかし、パイプの内周面とセラミック基体の外周面の周面間において圧縮されている金属層が存在していることで、その金属層がパイプの熱膨張においてその圧縮が開放される形で、パイプの熱膨張に追随する形で変形する。すなわち、金属層が両者の内、外周面間にあることにより、その間の隙間をなくすように作用するが、この作用領域は気密保持性の観点からすると長い方がよいためである。
【0027】
一方、パイプはその先端側ほど、両者の内、外周面間の隙間が大きくなるように熱膨張する。この場合、金属層がパイプの全長にあっても、その先端側での気密保持の効果は金属層の厚みによっては小さい。他方、パイプはその後端側は先端側ほど高温とならないから熱膨張も小さい。また、シール部材の溶接はパイプの後端寄り部位でなされるのが普通である。したがって、パイプの後端寄り部位において金属層が設けられている場合には、それにより、従来のような、上記内、外周面の間に存在していた空隙の発生が防止され得る上に、この内、外周面間における気密性が効率的に高められるためである。すなわち、金属層は、溶接部位を含め、その溶接部位の後方の所定範囲にわたって形成するのが効率的ないし合理的である。とくに、金属層に、Au,Ag等の高価な金属を用いる場合にはコスト面からして、このようにするのが好ましい。
【0028】
本発明において金属層は、メッキで形成するのが容易である。一方、パイプ全体を電解メッキで形成する場合には、通常は、その外周面にも形成されてしまう。一方、溶接部位にメッキ層がある場合には、溶接時において生成される合金層によるシール部材の接合不良の因子となることがある。したがって、メッキ層は、パイプの内面にのみ選択的に形成するのが好ましい。なお、金属層は、メッキにより形成するのが好ましいが、蒸着や溶射によって形成してもよい。そして、金属層は、単層又は複数層としてもよい。さらに、このような金属層は、パイプを外嵌めする前のその内周面と、セラミック基体の外周面の少なくとも一方に形成されていればよい。また、Niロウ,Cuロウ等の高融点の溶融ロウを、セラミックヒータをなすセラミック基体に隙間嵌めしたパイプとの隙間に流し込み、冷却固化過程におけるパイプの熱収縮を利用して締り嵌めとすることで、締り嵌めと同時に金属層を形成することもできる。
【0029】
本発明の燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグをなすセラミックヒータは、セラミック基体に、パイプを圧入してなるものに限られない。すなわち、前記したように、セラミック基体に、パイプが締り嵌めではなく、隙間嵌めで外嵌めされ、その隙間に溶融ロウを流し込む等して濡れ拡がらせて固化させることによって金属層を形成し、この金属層を介して、その両者を固定することで、セラミックヒータを構成したものとしてもよい。このように金属層の形成に、溶融ロウを用いる場合には、溶融ロウの熱、又はその溶融のための熱雰囲気下において金属製のパイプは相対的に大きく熱膨張する。そして、その後の冷却、固化過程において、膨張していたパイプは熱収縮する。これにより、その固化後には、パイプの内周面とセラミック基体の外周面との間に存在する金属層(ロウ材層)が、その内、外周面間において圧縮されたものとなり、その周面間の気密が保持される。これより理解されるが、セラミック基体に対してパイプが隙間嵌めで外嵌めされ、その隙間に溶融ロウを濡れ拡がらせて固化させることで、その両者を固定してなるものでは、パイプに溶接すべきシール部材を、パイプの外周面において、その内側にロウ材層が存在する先後方向の範囲内において溶接することで、前記発明の効果と同様の効果が得られる。
【0030】
すなわち、このようにロウ材層で、両者を固定したときも、シール部材をパイプに溶接する際には、そのパイプの内周面に溶接歪(凹部)が発生する。しかし、パイプの内周面と、セラミック基体の外周面との間には、その周面間で圧縮状態にあるロウ材層(以下、金属層ともいう)がある。このため、その溶接時に発生するパイプの内周面の溶接歪(凹部)に対応する部位にあるロウ材層は、その圧縮状態から解放されるようになることから、その凹部(凹み)に追随するよう膨らみ変形する。これにより、上記発明におけるのと同様に、ロウ材がその凹部を埋めるようになるから、空隙を発生させない。メッキと異なり、前記周面間の隙間に溶融ロウを濡れ拡がらせて金属層を形成する場合には、その金属層の厚みを容易に厚く形成することができるから、その分、溶接歪(凹部)が深くなっても、それを埋め易い。したがって、大きな溶接歪を発生させがちな肉厚の薄いパイプの使用に好適である。
【0031】
前記したように、本発明では、パイプがセラミック基体に外嵌された際においては、締り嵌めではなく、隙間嵌め状態にあり、その後、その隙間に、溶融ロウが流し込まれて濡れ拡がらせられ、固化することで、その両者を固定するものであってもよい。なお、この場合においても、ロウ材層の先後方向の形成領域(形成範囲)は、上記したのと同様、溶接部位を挟む(含む)先後方向の所定範囲であればよい。すなわち、パイプの内側の前記ロウ材層が存在する先後方向の範囲内において、シール部材が溶接されることとすればよい。なお、パイプの全長にわたってロウ材層が存在しているのが、気密保持上、好ましいが、前記溶接部位を含め、該溶接部位の後方の所定範囲にわたり形成されていることとしてもよい。なお、ロウは、燃焼ガスの温度に耐え得るように、上記したように、CuやNiを主成分とする高融点のロウ(合金)の中から選択して用いればよい。
【0032】
本発明において金属層は、パイプよりも低硬度材(軟質材)を用いるのが好ましい。こうすることで、金属層自体が、パイプの締り嵌めにより圧縮されて潰され変形しやすくなり、セラミック基体の外周面とパイプの内周面との間の気密保持性が高められるためである。例えば、金属製のパイプが400HvのSUS630材であるとすると、金属層は、Au,Ag,Cu又は,Niを主成分とする金属とするのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を具体化した燃焼圧検知センサ付きグロープラグ(第1実施形態例)の縦断面図、及びそのハウジングの先端寄り部位の拡大図。
【図2】図1のA部の拡大図。
【図3】図2のB部を誇張して示した拡大図。
【図4】図1のグロープラグの組立工程を説明する図。
【図5】図4におけるC部を誇張して示した拡大図。
【図6】図1のグロープラグの組立工程を説明する図。
【図7】従来の燃焼圧検知センサ付きグロープラグの破断縦断面図、及びそのハウジングの先端寄り部位の拡大図。
【図8】図7のA部の拡大図。
【図9】図8のB部の拡大図。
【図10】図8のB部の拡大図において、パイプが熱膨張して変形する状態を誇張して示した図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明を具体化した燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグの実施形態例(第1実施形態例)について、図1〜図6に基づいて説明する。ただし、このものは、上記背景技術で説明した従来のグロープラグと、本発明の要部である金属層の形成の点を除けば、その構成は共通するものである。したがって、グロープラグ101の全体構成の説明は重複するが、以下、その全体構成を含め、その要部について詳細に説明する。本例のグロープラグ101をなすハウジング40は、ハウジング本体41と、その先端に固定された先端側筒状ハウジング50とから構成されている。このグロープラグ101は、ハウジング40の内側において、自身の先端(図示、下方端)10aを、先端側筒状ハウジング50の先端部53から突出させてなるセラミックヒータ10と、同ハウジング40内においてこのヒータ10の後端から後方に延びるように同軸で配置された、電圧印加用の軸部材(軸部材)60、及びこの軸部材60の後端においてハウジング40の内側空間に設けられた燃焼圧検知センサを構成する歪部材210、及びこれに取付けられた歪センサ220等から構成されている。
【0035】
本例において、ハウジング40は、例えばSUS303からなり、概略円筒状のハウジング本体41と、その先端42側に同軸で突合せ状に嵌合され、溶接された先端側筒状ハウジング50等とから構成されている。このうち、先端側ハウジング50は、その先端53の内周面54の径がその後方より小さくなるように、周方向に沿って内向きに突出するフランジ状の先端環状部54aを備えている。そして、この後方は、先端環状部54aの内周面54より拡径された内周面(拡径環状内周面)55をなしている。先端側筒状ハウジング50の先端部53の先端面54bは、プラグホールの座面Zに押付けられてシールを確保するところであり、先細りテーパ面をなしている。
【0036】
セラミックヒータ10は、先端10aが凸となす半球面状で、円柱状をなすセラミック基体11と、それに外嵌めされた金属製のパイプ20とからなり、ハウジング40の軸線Gと同軸状に配置されている。このヒータ10をなす円柱状(外径約3mm)のセラミック基体11はその内部に抵抗発熱体(例えば、導電性セラミック)12を埋設状にして備えている。抵抗発熱体12は、セラミック基体11の先端10a寄り部位において折り返し部を有する折り返し状(U字状)に形成されている。そして、ヒータ10をなすセラミック基体11の後端寄り部位の側面(外周面)には、抵抗発熱体12の両脚部12a,12bにおける各後端寄り部位に連なる通電用の各電極端子16、17を露出させている。
【0037】
このセラミック基体11には、その中間部位に金属製のパイプ20(例えば、外径4mm、肉厚0.45mmの円管。例えばSUS630製)が、例えば、圧入により、設計上の締り嵌め代70μmで、締り嵌めにより外嵌めされている。これにより、そのパイプ20の後端寄り部位の内周面22を、相対的に先端側に位置する接地用の電極端子16に圧接させて電気的に接続している。ただし、このパイプ20の内周面22には、その圧入前において、金属層としてAuメッキ層25が所定厚さで形成されている。
【0038】
なお、金属層としては、Au(金)に限らず、Ag、やNiでもよい。このようなAuメッキ層(以下、単にメッキ層ともいう)25は、本例ではその内周面22の全体(全長にわたる全面)に形成してある。しかし、その内周面22のうち、次記するベローズからなるシール部材30がこのパイプ20の外周面24に溶接されている溶接部位W1を挟み、例えば、図2において示した先後方向の一定範囲L1においてのみ、その全面(周方向の全体)に形成してもよい。なお、パイプ20への圧入前のセラミック基体11の外周面11bの面粗度はRa:約0.5μmで、圧入前(メッキ前)のパイプ20の内周面22の面粗度はRa:約0.6μm以下、Ry:3μm以下とされている。
【0039】
一方、先端側筒状ハウジング50における拡径環状内周面55と、ヒータ10の外周面をなす金属製のパイプ20の外周面24との間の空隙(環状空隙)には、このパイプ20に緩く外嵌めされるようベローズの筒状をなす形の金属薄肉材(SUS316製で、厚み0.07mm)からなるシール部材(以下、ベローズとも言う)30が配置されている。すなわち、セラミック基体11に外嵌めで圧入されているこのパイプ20には、ハウジング40内において遊挿された金属製のベローズ30が外嵌され、そのベローズ30の先端32寄り部位における所定部位が、ヒータ10をなすパイプ20の外周面24に、その周方向に沿って、所定幅(例えば2mm)で周回させてレーザ溶接されて溶接部位W1をなしている。また、このようにパイプ20の外周面に先端32寄り部位の所定部位が溶接されているベローズ30の後端部35は、ハウジング本体41の先端42と先端側筒状ハウジング50の後端寄り部位57の内周面において、その周方向に沿って溶接されている。なお、本例ではベローズ30は1枚板製のものとされているが、複数の薄板で構成してもよい。
【0040】
本例では、このようにして固定されているベローズ30により、ハウジング40の先端寄り部位(先端側筒状ハウジング50)の内周面55と、ヒータ10の外周面との間の空隙が、先後において気密状に遮断されている。すなわち、ハウジング40内に配置されているベローズ30によって、奥の空間K2と、先端側の外部に連なる空間Kとが気密状に遮断されている。なお、このベローズ30は、それ自身が先後方向も含めて変形容易とされており、これにより、ハウジング40に対してヒータ10が先後動する際に、シール部材30自身が変形して、その先後動(変位)を許容するように形成されている。
【0041】
また、ベローズ30は、このように空間を先後において遮断して封止(気密保持)することに加えて、ヒータ10の接地用の電極端子16とハウジング40との中継導通部をなしている。さらに、ヒータ10をハウジング40内において先後動可能に保持する共に、ヒータ10の熱をハウジング40を介してエンジンヘッドHへ逃がす熱伝達部材の役割をも担っている。
【0042】
なお、ベローズ30の先端32寄り部位のうち、ヒータ10をなすパイプ20の外周面24に溶接されてなるその溶接部位W1は、図3に誇張して示したようになっている。すなわち、内周面22にAuメッキ層25が形成されたパイプ20に、セラミック基体11を圧入していることから、Auメッキ層25は自由状態のときより圧縮されて薄くなっている。しかも、内周面22の溶接部位W1に対応する部位には溶接によって凹む凹部22cが発生しており、この凹部22cには圧縮されていたAuメッキ層25が入り込んでいる。なお、この部分に関する詳細は後述する。
【0043】
また、ヒータ10の後端には、上記もしたが、それと同軸で電圧印加用の軸部材60が配置されている。すなわち、ヒータ10と軸部材60とは、軸部材60の先端とヒータ10の後端において、金属製のパイプ19が両者に圧入により外嵌、固定され、また、必要に応じて金属同士の接合には追加的に溶接され、両者を連結している。なお、ヒータ10の相対的に後方に位置する電極端子(正電位側端子)17は、このパイプ19の内周面にてそれと導通が保持されて軸部材60に電気的に接続されている。すなわち、接続用のパイプ19は、ヒータ10と軸部材60との一体化とともに、その電気的な導通確保も担っている。
【0044】
一方、ハウジング本体41の外周面には、エンジンヘッドHのプラグホールにねじ込み方式でグロープラグ101を固定するためのネジ43が所定長さ形成されている。また、このハウジング本体41の後端寄り部位は、相対的に大径をなすように拡径された拡径筒部45を備えている。そして、この拡径筒部45の後端には、シール用保護筒(キャップ)70が、センサ用の歪部材210の外周寄り部位を挟んで溶接等により取り付けられている。なお、この歪部材210は、全体としてみると円環状(又は円筒状)をなすもので、その内周寄り部位において、絶縁筒体65を介して軸部材60の後端寄り部位に、例えば圧入により固定されている。これにより、ヒータ10が燃焼圧により先後動すると、それと一体の軸部材60の動きに対応して歪部材210が変形し、この歪部材210に取付けられた歪センサ220にて燃焼圧(電気信号)を取り出すように設定されている。そして、後端のシール用保護筒70における後端側の小径部位内には、封止用のゴム部材69が装填されており、同保護筒70を縮径状に加締めることで固定している。なお、軸部材60の後端に設けられた端子金具75は、このゴム部材69を貫通して後方に突出させられている。
【0045】
さて、前記した構成の本例のグロープラグは、例えば、次のようにして組立てられる(図4等参照)。すなわち、図4の右に示したように、内周面22にAuメッキ層25が形成されているパイプ20を、セラミック基体11に外嵌めで圧入する。このようにして組付けた部品としてのセラミックヒータ(組立体)10、又はこれに同軸で固定した軸部材60等を含むヒータ側組付け体80の状態において、そのヒータ10にベローズからなるシール部材30を外嵌して位置決めする。そして、このシール部材30の先端部位32において、その外周面側からパイプ20の外周面24にこれを例えばレーザLaで溶接する。図5は、溶接前における図2におけるB部に対応する部位を示したもの(図4のC部を誇張して示した拡大図)である。
【0046】
図4に示したように、このシール部材30の溶接後のヒータ側組付け体80を、その先端側から先端側ハウジング50に内挿し、後端側からハウジング本体41に内挿する。そして、先端側ハウジング50とハウジング本体41の後端、先端でシール部材30の後端部35を突合せ状に挟みその突合せ部において、周方向に溶接する。こうして、図6の左側に示したグロープラグ仕掛品を得る。その後、図6の右図に示した、センサ用の歪部材210等を順次取り付けて、上記したように組み立てればよい。
【0047】
上記構成の本例グロープラグにおいては、内周面22にメッキ層25が形成されていたパイプ20が、セラミック基体11に圧入により外嵌めされ、この外嵌めされたパイプ20に対してシール部材30がその先端部位32においてその外周面側から周回状に溶接されている。この工程中、そのパイプ20をセラミック基体11に圧入したとき、その内周面22に形成されていたメッキ層25は、その内周面22とセラミック基体11の外周面11bとの間で圧縮されており、したがって、圧縮されているときのメッキ層25の厚みT1は、メッキ時の自由状態のときより薄くなっている(図5参照)。
【0048】
そして、図5に示したように、このような状態においてシール部材30が、ヒータ10をなすパイプ20の外周面24に外嵌めされて位置決めされた状態で、その先端部位32の先後方向における所定位置(溶接位置)で、外周面側から周回状にレーザ溶接されている。このため、その溶接部位W1は、図3に誇張して示したようになる。すなわち、この溶接により相手方のパイプ20は、その内周面22のうち、溶接部位W1に対応する部位には、溶接による溶融金属の冷却固化による外方向への引張りにより、その内周面22が微小深さで凹む形の凹部22cが発生する。しかし、図3に示したように、この凹部22cに対応する部位において、圧入前にパイプ20の内周面22に形成されていたメッキ層25は、その圧入に基づく圧縮から開放される形となり、元の厚みに戻ろうとする変形を起こす。すなわち、圧縮されていたメッキ層25のうち、凹部22cに対応する部位にあったものが膨らむように変形してその凹部22cを埋めるため、本例でも凹部22cの発生はあるが、そこに空隙を発生させないか、殆どないものとなっている。すなわち、金属層をなすメッキ層25は、凹部22cという微小部位において、あたかも圧縮されていたゴムと同様の復元をして、その凹部22cを埋めると考えられる。
【0049】
このような金属層25を有する本例のグロープラグ101が、エンジンヘッドHのプラグホール内のネジ穴にねじ込まれ、エンジンの始動の促進や、その始動後の燃焼圧の検出において使用される際には次のような効果が得られる。すなわち、この使用過程では、ヒータ10やパイプ20の特にそれらの先端寄り部位は極めて高温となる。このとき、セラミックヒータ10をなすセラミック基体11についての熱膨張は無視できるが、パイプ20は金属製であるから、当初は締り嵌め状態にあるとしても、相対的に大きく熱膨張する。このため、熱膨張が大きくなるにつれて、締り嵌めにおいて生じていたパイプ20自体の内部応力は低下する(締り嵌めが弱くなる)。
【0050】
一方、本例のグロープラグ101においては、金属層25が、パイプ20の内周面22の全体に形成されており、凹部22cを挟む先後方向において、パイプ20の内周面22とセラミック基体11の外周面11bとの間で、パイプ20による締り嵌めにより圧縮されている。このため、パイプ20の熱膨張が大きくなって、先端側においてセラミック基体11の外周面11bとの間に隙間が発生するとしても、圧縮されている金属層25がある分、それがない従来のものより、その隙間の発生を遅らすことができる。また、その隙間が発生したとしても、従来のように溶接に起因するパイプ20の内周面22の凹部22cにおける空隙は金属層25で埋められている。したがって、その分、燃焼ガスがその凹部22cより奥へ侵入するのを防止する作用が得られる。これらの結果、本例のグロープラグ101においては、従来のもののように、セラミック基体11に金属製のパイプ20を直接圧入等によって締り嵌めとし、その状態においてそのパイプ20に、シール部材30を外周面側から溶接した構造のものに比べると、パイプ20の内周面22とセラミック基体11の外周面11bとの間における気密性を高められる。これによって、燃焼圧の検知精度の低下が防止される。
【0051】
次に、本例における効果を確認するため、グロープラグの試料を作り、パイプ20の後端部が450℃となるようにヒータの先端側を加熱し、その下で、ガス圧5MPaを、10分間かけてリークテストを行い、リークの有無を測定した。ただし本例で用いた試料は、ヒータをなすセラミック基体は窒化珪素(外径3.0mm)、これに圧入されるパイプはSUS630製(硬度HV400)で、肉厚、0.45mm、長さ、20mm。パイプの設計上の内径は、2.93mmで、圧入代は直径で70μm。実施例(1−7)をなす試料において、金属層をなすメッキ層は、Auメッキで、厚み、0.2〜0.65μm。比較例はメッキなし。また、リークテストはヒータを通電するか、加熱炉等を用いて後端部を450℃に加熱した後に行っている。結果は、表1に示したようである。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示したように、パイプの内周面にメッキ層が形成されている実施例においては、殆どの試料においてリークの発生はなかった。また、メッキ層の厚みが0.1μmの場合において、リークの発生はみられたが、それでも、メッキ層が形成されていない比較例に比べると、そのリーク量は遥かに少ないことが確認された。これらのことは、とりもなおさず、上記した本発明の効果を実証するものである。なお、この試験からも理解されるが、メッキ層の厚みは厚い方が好ましいことがわかる。
【0054】
上記例では、金属層にパイプの内周面にAuメッキを形成した場合を例示したが、Agメッキ、Niメッキとしてもよい。また、セラミック基体の外周面に無電解メッキで、メッキ層を形成してもよい。上記もしたように、メッキ層の厚みはパイプの内周面、セラミック基体の外周面の表面粗さにもよるが、本発明の効果は、溶接時においてパイプの内周面に発生する凹部を、圧縮されていた金属層にて埋めることに基づいている。そして、この凹部の深さは、セラミック基体の外周面と、パイプの内周面の表面粗さにおける凹凸のレベルである。このため、セラミック基体の外周面の表面粗さがRa0.2μmであり、パイプの内周面の表面粗さRa0.15μmであるとすると、これらの合計0.35μm以上が基準となると考えられる。また、金属層は、メッキ層に限定されるものでないことは上記した通りであるが、いずれの形成手段による場合でも、その金属層は、セラミック基体に外嵌するパイプをなす金属より軟質(低硬度)、すなわち、変形しやすいものとするのが好ましい。
【0055】
また、形成すべき金属層の先後方向における領域(範囲)は、シール部材が溶接されるパイプの部位(溶接部位)を挟んで、先後方向になるべく長くするのがよい。ただし、上記もしたように、Au,Agなどの、高価な金属(貴金属)を用いる場合には、溶接部位を挟む先後方向の所定範囲とすればよい。この場合、溶接部位を含む後方の所定範囲とするのが良いのは上記した通りである。なお、上記例では、溶接がレーザ溶接である場合において説明したが、電子ビーム溶接やその他の溶接とする場合にも、パイプの内周面には溶接による凹部が発生するから、本発明を適用できる。
【0056】
なお、上記例では、シール部材30が溶接されるセラミックヒータ10を、内周面22に金属層(メッキ層25)を形成したパイプ20に、セラミック基体11を圧入して締り嵌めとし、これによってその内周面22と同基体11の外周面11bとの間の気密を保持してなるものとしたが、本発明では次のようにして具体化することもできる。上記例において、パイプ20の内径をセラミック基体11の外径より、例えば、0.3mm程度大きくしておく。このパイプ20を、セラミック基体11に隙間嵌めで外嵌し、先後方向の位置決めをする。この位置決め状態の下で、その隙間に、溶融ロウ(ロウ材)を毛管作用等により流し込んで、その内、外周面22,11bの間に溶融ロウを濡れ拡がらせる。その後、冷却、固化させることによって、その内、外周面22,11bの間にロウ材層を形成し、両者を一体化する。すなわち、両者をいわばロウ付けして、その内、外周面間の気密を保持してなるセラミックヒータ10を用いることにより、そのパイプ20にシール部材30を上記したように溶接しても、上記例と同様の効果が得られる。なお、このように、金属層としてロウ材層を、パイプ20の内周面22と同基体11の外周面11bとの間に形成した場合にも、形状的には図3に示されたものと同じとなる。
【0057】
ロウ材層を形成する場合には、上記もしたように、溶融ロウの流し込みにより、相対的に大きく熱膨張したパイプ20が、溶融ロウの冷却、固化過程において、収縮することから、その隙間に濡れ拡がったロウ材層(金属層)は、固化後においては、パイプ20の内周面22とセラミック基体11との外周面11bとの間で圧縮される。すなわち、パイプ20は、その収縮により、圧縮されたロウ材層を介してセラミック基体11に対して締り嵌め状態をなすことから、このロウ材層が図3におけるメッキ層25に相当することになる。このため、そのパイプ20の外周面21のうち、内側のロウ材層が存在する先後方向の範囲内において、シール部材30を溶接する際には、その内周面22に溶接歪(凹部)22cが発生するが、この凹部には、メッキ層の場合と同様に、圧縮されていたロウ材層が膨らみ変形するようにして入り込む。すなわち、ロウ材層がその凹部22cを上記例におけるメッキ層25に代わって埋めることから、上記例と同様、空隙の発生が防止されるため、同様の効果が得られる。なお、通常、ロウ材層は、パイプ20の内周面22に接着している(ロウ付けされている)一方、セラミック基体11の外周面11bには押付けられている(密着しているだけでロウ付けされていない)と考えられる。このため、内周面22の溶接歪(凹部)22cの発生に伴い、ロウ材層は、セラミック基体11の外周面11bに押付けられている側(外周面11bとの界面側)において、ロウ材層自身に発生しようとする溶接歪(凹部)を、ロウ材層自身が膨らんで埋め戻すともいえる。
【0058】
上記したようにロウ材層を用いる場合には、メッキ層と異なり、ロウ材層、すなわち、金属層の厚みを容易に厚く形成することができるから、その分、溶接歪(凹部)が深くなっても、それを埋めることができる。したがって、大きな溶接歪を発生させがちな肉厚の薄いパイプの使用にも対応できるという効果も得られる。また、面粗度が低くても気密性保持が可能となるため、両部材の表面処理が容易となる。なお、このようにロウ材層を用いる場合、上記空隙の発生防止の観点のみからすれば、ロウ材層の先後方向の形成領域(形成範囲)は、上記したのと同様、シール部材の溶接部位を挟む(含む)先後方向の所定範囲であればよいといえるが、気密性を高めるためには、パイプの全長にわたってロウ材層を形成するのが好ましいといえる。ただし、これに限定されるものではないことは、メッキ層を形成する場合と同様である。
【0059】
本発明のグロープラグは、上記したものに限定されるものではなく、適宜に変更して具体化できる。例えば、上記例ではシール部材を、蛇腹状のベローズとしたが、円環板状の単なるダイヤフラム(薄膜)形状のものや、メンブレン構造のもの、或いはその他の環状又は筒状の膜体とするなど適宜の形状、構造のものであってよい。これを、セラミック基体に締り嵌めで外嵌めされているパイプに溶接して固定する場合には、そのパイプの内周面に、上記したのと同様に凹部が発生するためである。また、上記したグロープラグにおいては、ハウジングをハウジング本体と、その先端に同軸状で突き合わせ固定した先端側ハウジングとを含むものからなるものとしたが、グロープラグをなすハウジングの構成はこれに限定されるものではなく、1つの筒体からなるもの(筒状の主体金具)であっても具体化できる。
【0060】
また、本発明のような燃焼圧検知センサ付きグロープラグにおけるそのセンサ(検知手段)は、上記例ではヒータが燃焼圧によって先端から後方に押されることによって発生する先後動により、歪部材を変形させ、歪センサ(歪ゲージ)にて、その検知を行うものを例示したが、これに限定されるものではない。ピエゾ抵抗体を備えた半導体素子のような、半導体歪ゲージを用いたものでも、或いは、燃焼圧にて圧電素子を圧縮することで発生する電圧変化を検知するものなど、各種のセンサ(センサ素子)方式を用いた燃焼圧検知センサ付きグロープラグに広く適用できる。
【符号の説明】
【0061】
10 セラミックヒータ
10a ヒータ の先端
11 セラミック基体
11b セラミック基体の外周面
20 セラミック基体の外周面に締り嵌めで外嵌めされてなる金属製のパイプ
22 パイプの外周面
24 パイプの外周面
25 金属層
30 シール部材
40 ハウジング
53 ハウジングの先端
55 ハウジングの先端寄り部位の内周面
101 燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグ
220 センサ
G 軸
W1 溶接部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなすハウジング内に、その先端から自身の先端を突出させた棒状をなすセラミックヒータが、該ハウジングの内周面と該ヒータの外周面との間に隙間を保持して軸方向に変位可能に配置されており、
該セラミックヒータが燃焼圧によって先端から後方に押されることによって発生する圧力又は変位に基づいて燃焼圧を検知するセンサを備えてなる燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグであって、
前記セラミックヒータは、発熱体を含む棒状をなすセラミック基体と、このセラミック基体の外周面に締り嵌めで外嵌めされてなる金属製のパイプとを含む構成を有し、
前記ハウジングの先端寄り部位の内周面と該パイプの外周面との間の環状空隙に、該ハウジングの先端寄り部位において内外を気密状に遮断する配置で、前記ヒータの変位を許容するように変形可能に形成された環状又は筒状のシール部材が、前記パイプに外嵌状に配置されていると共に、前記セラミック基体の外周面に締り嵌めで外嵌めされてなる前記パイプの外周面に対し、シール部材自身の外周面側からその周方向に沿って溶接された構成を有する燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグにおいて、
前記パイプの内周面と前記セラミック基体の外周面との周面間であって、少なくとも前記シール部材が溶接されてなる溶接部位を挟む先後方向の所定範囲に金属層が形成されており、この金属層が前記パイプの締り嵌め状態において圧縮されていることを特徴とする燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグ。
【請求項2】
前記金属層は、前記パイプの内周面にメッキによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグ。
【請求項3】
筒状をなすハウジング内に、その先端から自身の先端を突出させた棒状をなすセラミックヒータが、該ハウジングの内周面と該ヒータの外周面との間に隙間を保持して軸方向に変位可能に配置されており、
該セラミックヒータが燃焼圧によって先端から後方に押されることによって発生する圧力又は変位に基づいて燃焼圧を検知するセンサを備えてなる燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグであって、
前記セラミックヒータは、発熱体を含む棒状をなすセラミック基体と、このセラミック基体の外周面に外嵌めされてなる金属製のパイプとを含む構成を有し、
前記ハウジングの先端寄り部位の内周面と該パイプの外周面との間の環状空隙に、該ハウジングの先端寄り部位において内外を気密状に遮断する配置で、前記ヒータの変位を許容するように変形可能に形成された環状又は筒状のシール部材が、前記パイプに外嵌状に配置されていると共に、前記セラミック基体の外周面に外嵌めされてなる前記パイプの外周面に対し、シール部材自身の外周面側からその周方向に沿って溶接された構成を有する燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグにおいて、
前記パイプは、前記セラミック基体に隙間嵌で外嵌され、その隙間に、溶融ロウを濡れ拡がらせて固化させることによって金属層を形成し、該パイプはこの金属層を介して該セラミック基体に固定されており、
前記シール部材は、該パイプの外周面のうち、その内側の前記金属層が存在する先後方向の範囲内において溶接されていることを特徴とする燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグ。
【請求項4】
前記金属層は、前記パイプよりも低硬度材からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグ。
【請求項5】
前記金属層は、前記パイプの全長にわたり形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグ。
【請求項6】
前記金属層は、前記溶接部位を含め、該溶接部位の後方の所定範囲にわたり形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃焼圧検知センサ付きセラミックグロープラグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−92353(P2013−92353A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−170942(P2012−170942)
【出願日】平成24年8月1日(2012.8.1)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)