説明

爆薬組成物

【構成】 硝安を含む酸化剤と有機硝酸塩及び/又は無機硝酸塩からなる鋭感剤との溶融混合物がポーラス粒状である爆薬組成物。
【効果】 上記組成物は、ポーラス粒状爆薬組成物である硝安油剤爆薬の問題点であった安定した起爆性、威力及び発破後ガス等の消費上の問題を解消した品質にすぐれた爆薬組成物であり、トンネル発破現場の装薬作業効率を改善できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は産業用爆薬組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ポーラス粒状爆薬組成物としては硝安と油剤とからなる硝安油剤爆薬が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】硝安油剤爆薬は比較的安全で安価な爆薬として近年多用される傾向にある。しかしながら、硝安油剤爆薬は安全で安価な反面、性能的に限界があり、種々の厳しい使用条件に適用し得るものではなかった。特に、反応性や爆轟伝播性が悪いという問題は、消費現場での不発残留薬の発生頻度や発破後の有毒ガス発生を増大させ、安全な発破作業を損なう等の問題や硬い岩盤の掘削では十分な破壊効果が得られないといった問題点があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】発明者等は、このような課題を解決するために鋭意研究した結果、鋭感剤として有機硝酸塩又は無機硝酸塩を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は硝安を含む酸化剤と有機硝酸塩及び/又は無機硝酸塩からなる鋭感剤の溶融混合物がポーラス粒状であることを特徴とする爆薬組成物である。
【0005】以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のポーラス粒状の溶融混合物は硝安を含む酸化剤と有機硝酸塩及び/又は無機硝酸塩からなる鋭感剤の双方を少量の水と共に溶融混合して、噴射ノズルから噴射させて硝安油剤爆薬用のポーラス粒状硝安の製法と同様な方法で得られる。
【0006】この水は上記の溶融混合時の全組成に対して2〜5重量%添加されるが、製造中の乾燥工程によりほとんど除去される。水の量が2重量%未満では空隙の少ないポーラス粒となり、5重量%をこえるとポーラス粒の形成が困難になる。ポーラス粒を形成するためのより好ましい範囲は2.5〜3.5重量%である。本発明のポーラス粒状爆薬組成物の比重は0.6〜1.2の範囲にあることが安定した起爆性を得るのに好ましい。この比重は上記の溶融混合時に添加する水の量、噴出後のポーラス粒の落下距離、噴射温度などの噴射条件により異なるが、これらの条件を適宜調整し、上記の範囲に収めることが望ましい。
【0007】さらに、本発明のポーラス粒状爆薬組成物の粒径は発破孔充填時の粉塵抑制等のためには、全体の70%が1000〜2000μm(JISふるい呼び寸法:JIS Z 8801に規定)の範囲にあるのが好ましい。本発明に使用される酸化剤は、硝安単独でも用いられるが、これ以外に硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等のアルカリ金属硝酸塩類、硝酸カルシウム、硝酸バリウム等のアルカリ土類金属硝酸塩、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等のアルカリ金属塩素酸塩類、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等のアルカリ金属過塩素酸塩類及び過塩素酸アンモニウムを単体または2種以上を混合して使用することができる。
【0008】硝安とこれ以外の上記塩類と混合して用いる場合は硝安は酸化剤全量に対して、少なくとも80重量%以上混合して用いるのがよい。80重量%未満であると安定した起爆性を得ることができない。本発明では酸化剤は爆薬組成物全量に対して20〜96重量%が使用される。すなわち、20重量%以下では酸素バランスが負となって、発破後有毒ガスの発生を誘起し、96重量%以上では安定した雷管起爆生を得るのが困難になる。
【0009】本発明に使用される鋭感剤は有機硝酸塩及び/又は無機硝酸塩からなり、補助的に他の鋭感剤とを組み合わせることができる。有機酸塩としては硝酸モノメチルアミンを代表とする3個までの炭素原子を有する飽和脂肪族アミンの硝酸塩、硝酸エタノールアミン、硝酸尿素、硝酸グアニジン、二硝酸エチレンジアミン等がある。
【0010】また、無機硝酸塩としては、硝酸ヒドラジン、二硝酸ヒドラジン、過塩素酸ヒドラジン等が挙げられ、それぞれ単独か、又は2種以上を混合して使用することができる。これらのうち、硝酸モノメチルアミン、硝酸エタノールアミン、硝酸ヒドラジン等は爆薬の調整が容易で且つ安定した起爆性を得るのに特に好ましいものである。
【0011】本発明では、鋭感剤は爆薬組成物の全量に対して、4〜80重量%が使用される。すなわち、4重量%以下では、安定した雷管起爆性を得るのが困難となり、80重量%以上では製造工程での安全性が阻害される。本発明に使用される上記以外の鋭感剤の成分としては、酸素バランスを調整するためのギルソナイト、石灰粉末等の固形可燃物又はエチレングリコールのような液体可燃物を添加してもよく、ソルビタン脂肪酸エステルやケイ酸カルシウム等の帯電防止剤、尿素等の分解抑制剤、耐水性向上のための澱粉、グァーガムを添加してもよい。又、比重調整剤として中空発泡体の使用も何ら差し支えない。
【0012】本発明のポーラス粒状爆薬組成物の製造法としては、例えば硝安と硝酸モノメチルアミン及び水の混合物を高温調整し、硝安や硝酸モノメチルアミンの未溶解塩を完全に溶解したのち、約140℃に調整した噴射ノズル(孔径0.5mm)から約110℃の雰囲気内に噴射圧力0.3Kg/cm2 で噴出させ、約40m落下させることにより、ポーラス粒状の爆薬組成物を得ることができる。この粒状爆薬組成物を更に乾燥させ、水分を約0.2%以下にするとポーラス粒状の爆薬組成物が得られる。
【0013】
【実施例】つぎに、実施例により本発明を説明する。なお、比重、爆薬組成物の雷管起爆性、爆速、発破後ガスの測定は下記方法によって行った。
〔比重の測定〕爆薬組成物を100g計量して、シリンダー(200ミリリットル)に充填し、軽く20回程度タンピングを行った後、シリンダー内に占める爆薬組成物の体積を読み取り、爆薬組成物の重量と体積から比重を測定する。
【0014】〔雷管起爆性の測定〕硬質塩化ビニール(JIS−A−5706に規定する呼び60のもの)の外径60mm±2mm、長さ130mm±2mmの管の一端をクラフト紙で塞ぎ、粘着テープにより本体に接着させた後、管の他端開口部から爆薬組成物を入れ、軽く3回ないし4回たたいて管の上端までつめて管口をクラフト紙で塞ぎ粘着テープで管に接着させる。しかる後、管の一方の端部のクラフト紙の中央部を突き破り6号雷管を挿入する。同様に、管の他の端部のクラフト紙を突き破り、長さ150mm〜300mmの第2種導爆線を管の端から30mm奥に挿入したのち砂上で雷管を起爆させ、雷管と第2種導爆線とにはさまれた爆薬組成物が完全に爆発するか否かを第2種導爆線が爆発したか否かによって判定する。測定は3回実施する。なお、経時変化評価のために製造1年後の爆薬組成物をも追加測定した。
【0015】〔爆速の測定〕SGP25A鋼管(外径34mm、内径27.6mm、肉厚3.2mm)で長さ300mmのものの一端を10号のゴム栓で栓をし、本発明の爆薬組成物を充填した後、励爆薬(3号桐ダイナマイト20g)付きの6号雷管を管の他端部に挿入した後、砂上で雷管を起爆させ、イオンギャップ法にて爆速を測定した。なお、経時変化評価のために製造1年後の爆薬組成物も追加測定した。
【0016】〔発破後ガスの測定〕粘土を充填した円筒容器(ブリキ製:内径200mm、長さ300mm)の一端から本発明の爆薬組成物200gを充填した円筒容器(ブリキ製:内径40mm、長さ200mm)を挿入し、これに励爆薬(3号桐ダイナマイト20g)付きの6号雷管を結着後、容器開口部を粘土で覆う。これを密閉タンク(13m3)内で爆発させ、爆発1分後に発生した一酸化炭素、一酸化窒素及び二酸化窒素を北川式検知管を用いて測定した。
【0017】
【実施例1】硝安63重量%、硝酸モノメチルアミン34重量%、水3重量%の混合溶融液を約140℃に温調した噴射ノズル(孔径0.5mm)より約110℃雰囲気内に噴射圧力0.3Kg/cm2 で噴出させ、約40m落下させて未乾燥の粒状の爆薬組成物を得た。この爆薬組成物をさらに乾燥し、水分0.2重量%以下に調整して本発明のポーラス粒状爆薬組成物とした後、直径30mm、長さ300mmの紙筒に充填密封して爆薬薬包とした。その後、比重、雷管起爆性、爆速、発破後ガスを測定した。その結果を表1に示した。
【0018】
【実施例2】硝安63重量%、硝酸エタノールアミン34重量%、水3重量%の混合溶融液を約140℃に温調した噴射ノズル(孔径0.5mm)より約110℃雰囲気内に噴射圧力0.3Kg/cm2 で噴出させ、約40m落下させて未乾燥の粒状の爆薬組成物を得た。この爆薬組成物をさらに乾燥し、水分0.2重量%以下に調整して本発明のポーラス粒状爆薬組成物とした後、直径30mm、長さ300mmの紙筒に充填密封して爆薬薬包とした。その後、比重、雷管起爆性、爆速、発破後ガスを測定した。その結果を表1に示した。
【0019】
【実施例3】硝安63重量%、硝酸ヒドラジン34重量%、水3重量%の混合溶融液を約140℃に温調した噴射ノズル(孔径0.5mm)より約110℃雰囲気内に噴射圧力0.3Kg/cm2 で噴出させ、約40m落下させて未乾燥の粒状の爆薬組成物を得た。この爆薬組成物をさらに乾燥し、水分0.2重量%以下に調整して本発明のポーラス粒状爆薬組成物とした後、酸素バランス調整のため炭素粉末(ギルソナイト)を外割5重量%混合した後、直径30mm、長さ300mmの紙筒に充填密封して爆薬薬包とした。その後、比重、雷管起爆性、爆速、発破後ガスを測定した。その結果を表1に示した。
【0020】
【実施例4】硝安60重量%、硝酸ナトリウム6重量%、硝酸モノメチルアミン30重量%、水3重量%の混合溶融液を約140℃に温調した噴射ノズル(孔径0.5mm)より約110℃雰囲気内に噴射圧力0.3Kg/cm2 で噴出させ、約40m落下させて未乾燥の粒状の爆薬組成物を得た。この爆薬組成物をさらに乾燥し、水分0.2重量%以下に調整して本発明のポーラス粒状爆薬組成物とした後、酸素バランス調整と耐水性向上のため高分子粉末(グァーガム)を外割5重量%混合し、直径30mm、長さ300mmの紙筒に充填密封して爆薬薬包とした。その後、比重、雷管起爆性、爆速、発破後ガスを測定した。その結果を表1に示した。
【0021】
【比較例1】硝安96重量%、水4重量%の混合溶融液を約140℃に温調した噴射ノズル(孔径0.5mm)より約110℃雰囲気内に噴射圧力0.3Kg/cm2 で噴出させ、約40m落下させて未乾燥の粒状の爆薬組成物を得た。この粒状爆薬組成物をさらに乾燥し、水分0.2重量%以下に調整した後、軽油を外割5重量%添加混合してポーラス粒状の硝安油剤爆薬とした。この硝安油剤爆薬を直径30mm、長さ300mmの紙筒に充填密封して爆薬薬包とした。その後、比重、雷管起爆性、爆速、発破後ガスを測定した。その結果を表1に示した。
【0022】
【表1】


【0023】
【発明の効果】本発明の爆薬組成物は、従来のポーラス粒状爆薬の硝安油剤爆薬の問題であった安定した起爆性、威力及び発破後ガス等の消費上の問題を一挙に解消した、優れた爆薬組成物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 硝安を含む酸化剤と有機硝酸塩及び/又は無機硝酸塩からなる鋭感剤との溶融混合物がポーラス粒状であることを特徴とする爆薬組成物。
【請求項2】 ポーラス粒状の溶融混合物の比重が0.6〜1.20であることを特徴とする請求項1記載の爆薬組成物。
【請求項3】 ポーラス粒状の溶融混合物の粒径が1000〜2000μmであることを特徴とする請求項1記載の爆薬組成物。

【公開番号】特開平5−339089
【公開日】平成5年(1993)12月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−149695
【出願日】平成4年(1992)6月9日
【出願人】(000000033)旭化成工業株式会社 (901)