説明

物体の運搬補助具

【課題】両肩への過度な負担を回避できると共に、物体を運搬可能な補助具を提供する。
【解決手段】装着者の腰部周囲を覆う本体部2と、この本体部2の前側に設けられて物体を載置可能な乗せ台部3と、本体部2の後側に設けられて乗せ台部3に物体Bが載置されたときの重力を装着者の背中側で受ける受け部4とを備えた物体の運搬補助具1によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体、特に一人で抱きかかえて運搬するには重い物体(例えば、乳幼児、書籍が詰った段ボール、引っ越し時の多量の段ボール、宅配便の荷物など)の運搬補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
乳幼児を抱く場合には、体の正面側に子守帯を装着し、この子守帯に乳児を保持した状態となることが多い。子守帯は、使用者の両肩に保持される一対の肩ベルトと、この一対の肩ベルトに連結され、乳児を収容するとともに使用者の前方で乳児を保持する乳児保持部とを有したものが多い(特許文献1)。また、乳児を保持するベビーキャリア本体と、この本体を保持する一対の肩ベルトと、両肩ベルトに連結されたX字状の背ベルトとを備えたベビーキャリア装置が開発されている(特許文献2)。
また、重い段ボールなどの物体を運搬するには、体の正面で物体の左右または下方に両手を回した状態となることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−61382号公報
【特許文献2】特開2010−29290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、いずれも物体の重量は、両肩に掛かることになるため、長時間或いは多数の物体を運搬すると、前屈みとなり姿勢が悪くなったり、肩や腰を痛めることが多かった。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、両肩への過度な負担を回避できると共に、物体を運搬可能な補助具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための発明に係る物体の運搬補助具は、装着者の腰部周囲を覆う本体部と、この本体部の前側に設けられて物体を載置可能な乗せ台部と、前記本体部の後側に設けられて前記乗せ台部に物体が載置されたときの重力を前記装着者の背中側で受ける受け部とを備えたことを特徴とする。
「本体部」とは、腰部周囲を覆う形態であれば良く、パイプ材(例えば、金属製(鉄、ステンレス、銅、亜鉛、アルミ、ニッケル、クロム、マンガンなどの金属の単体・複数体・または合金を含む)、プラスチック製、木製)から形成されたもの、板材から形成されたものなどが含まれる。本体部は全体が閉鎖した形状(例えば、楕円形状、長方形状など)のものであっても良く、左右いずれか一方の側方部分で前後方向に分離する一対の離間部が設けられたものであっても良い。
【0006】
「乗せ台部」とは、物体を載置可能であれば良く、本体部からほぼ水平方向に突設することが好ましい。但し、本発明の構成では、乗せ台部に物体を乗せると、乗せ台部が下方に傾くようにモーメントを受けるので、物体を乗せたときに水平方向を向くように、予め本体部から水平方向やや上向きに突設させて構成できる。
「受け部」は、乗せ台部に物体を乗せたときに、背中に当接することになるので、この部分は、弾性を備えた部材(例えば、プラスチック製の部材、椅子の背もたれ部位に設けられる部材、ゴム系またはシリコン系の弾性を備えた部材など)で形成する、またはそのような部材を設けることが好ましい。また、そのような部材が、滑り止め性能を備えていることが好ましい。
【0007】
上記構成によれば、運搬補助具を腰部周囲に装着した後に、乗せ台部に物体を載置すると、その重力は運搬補助具を前方に回転させるモーメントを発生させるので、物体の重力は主として本体部における腹側の下方と、背中側の受け部の上方によって受けられる。このため物体は、腕や肩の筋肉よりも大きな、腹側と背中側の筋肉によって支持されることとなる。
本発明において、前記乗せ台部の下方には、前記乗せ台部に物体が載置されたときの重力を前記装着者の腹側で受ける前面受け部が設けられていることが好ましい。
上記構成によれば、物体の重力が発生させるモーメントは、腹側の前面受け部の下方と、背中側の受け部の上方によって受けられる。このため、前面受け部を設けない場合(つまり、本体部の下方で受ける場合)に比べると、より安定して物体を支持できる。
また、本発明において、前記本体部は、左右いずれか一方の側方部分で前後方向に分離する一対の離間部が設けられていると共に、前記本体部を腰部周囲に装着する際に前記両離間部の間を係合する係合部材が設けられていることが好ましい。
上記構成によれば、運搬補助具を装着する際には、離間部の間から腰部を挿入した後に、係合部材によって両離間部間を係合する。また、運搬補助具を取り外すには、係合部材の係合を解除した後、離間部の間から腰部を取り外す。このように、運搬補助具の脱着操作が容易となる。
【0008】
また、前記本体部の左右いずれか一方の側方部分には、前記本体部の口径を拡張または縮小する方向に変形可能な拡縮変形部が設けられていることが好ましい。
上記構成によれば、装着者の体格に合わせて、本体部の口径を変えられるので、必要以上に口径の異なる多くの本体部を形成する必要がない。
また、前記本体部および受け部の内面側において、腹および背中に当接する部分には、滑り止め加工が施されていることが好ましい。
上記構成によれば、乗せ台部に物体を載置したときにも、運搬補助具が身体との間で滑りにくくなるので、使用感が良好となる。「滑り止め加工」とは、(1)本体部および受け部を構成する部材自体を加工し、凹凸状、溝・突状などの滑り止め部を形成する構成、(2)本体部または/および受け部の表面にゴム系またはシリコン系の弾性を備えた滑り止め部材を装着する構成のいずれもが含まれる。
【0009】
また、前記乗せ台部は、中央を回転中心として、右方または左方に所定の位置まで傾動可能とされていることが好ましい。
上記構成によれば、特に乳幼児を抱く場合には、頭側を高くして支持できるので、好ましい形態となる。
また、前記乗せ台部は、前記本体部に対して水平方向となる使用位置と、前記本体部に対して鉛直下方となる休止位置との間を移動可能とされていることが好ましい。
上記構成によれば、運搬補助具を取付けた状態で乗せ台部を休止位置とすれば、通常の活動を行えるので、運搬補助具の着脱の手間が省かれる。また、上記構成では、特に立ち作業(例えば、立ちながら講演会を聞くときのノートを取ったり、立ちながらコンピュータを操作するなど)においても、有効に作業を行える。
また、前記乗せ台部は固定されている一方、この乗せ台部には他の部材を組み付け可能な固定部が設けられており、この固定部には、形態の異なる複数のアタッチメントが着脱可能に組付けられることが好ましい。
上記構成によれば、特に乳幼児の大きさや姿勢に合わせて、横に寝かせた状態での支持、または座位での支持が行えるので、使用性が良好となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、両肩への過度な負担を回避できると共に、物体を運搬可能な補助具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態における物体の運搬補助具の斜視図である。
【図2】運搬補助具の平面図である。
【図3】運搬補助具の正面図である。
【図4】運搬補助具の側面図である。
【図5】運搬補助具を装着したときの様子を背面から見たときの図である。
【図6】運搬補助具の乗せ台部に物体を乗せたときの様子を前面側から見たときの図である。
【図7】第2実施形態における物体の運搬補助具の斜視図である。
【図8】運搬補助具の側面図である。
【図9】運搬補助具の平面図である。
【図10】運搬補助具を装着し、乗せ台部に物体を乗せたときの様子を側面から見たときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
<第1実施形態>
まず、図1〜図6を参照しつつ、第1実施形態について説明する。図1には、物体の運搬補助具1を右前の上方から見たときの斜視図を示した。運搬補助具1には、装着者Xの腰部の周囲に覆い付く本体部2と、この本体部2の前側に設けられて物体を載置可能な乗せ台部3と、本体部2の後側に設けられて乗せ台部3に物体Bが載置されたときの重力を装着者Xの背中側で受ける受け部4が設けられている。
本体部2は、鉄製の前部材5と後部材6とを備えており、両部材5,6の一端側(装着者Xの右端側)が連結部材7によって連結されて、全体としてコ字状に形成されている。前部材5の上面には、乗せ台部3が前方水平方向に向かうように突設されている。また、前部材5の前面内側(装着者Xの腹に接する面側)には、前面受け部12が設けられている。前面受け部12において、装着者Xに接触する内面側には、滑り止め加工がなされている。
【0013】
また、後部材6の内側(装着者Xに対する側)には、受け部4が設けられている。受け部4は、椅子の背もたれ部のように、外形を形成する骨材が設けられており、その表面には弾性を備え、滑り止め加工が施された部材が覆っている。連結部材7の後方には、受け部4の右端部に設けられた板状の接続部8を受けるスライド接続部9(拡縮変形部)が設けられている。スライド接続部9によって、本体部2の口径は拡張または縮小する方向に変形可能とされている。接続部8には、ボルト10を挿入する孔部(図示せず)が設けられている。一方、スライド接続部9には、ボルト10を受け入れ可能なスライド溝部11が設けられている。接続部8にボルト10を挿入し、スライド溝部11を前後方向にスライドさせることで、装着者Xの体型に合わせた位置で受け部4を固定できる。なお、スライド溝部11の裏面側には、ボルト10を固定するナット(図示せず)が取付けられる。
【0014】
前部材5と後部材6の左端側は、前後方向に分離する一対の離間部5A,6Aとされており、ここには本体部2を装着者Xの腰部周囲に装着する際に係合する係合部材13,14が設けられている。前部材5に設けられる係合部材13は、離間部5Aに対して固定された平板紐15に取付けられている。係合部材13は、帯状紐15に対して、長さ調節が可能とされており、装着者Xの体型に合わせて適当な位置とできる。また、係合部材14は、後部材6に固定された受け部4の左端部に帯状紐16によって取付けられている。両係合部材13,14は、互いに係合および解離が可能とされている。
【0015】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用および効果について、図5および図6を参照しつつ説明する。
まず、両係合部材13,14を解離した状態で、装着者Xの腰部に運搬補助具1を装着する。装着に際しては、予め運搬補助具1の大きさが装着者Xの体型に合うように、接続部8とスライド接続部9の位置を適当にずらして固定すると共に、両係合部材13,14を固定したときの長さを調節しておく。両係合部材13,14の係合を解除した状態で、両離間部5A,6Aの間に装着者Xの腰部を挟み付けるようにして挿入する。ここで、両係合部材13,14を係合させることにより、運搬補助具1を装着する。
【0016】
次に、乗せ台部3の上面に、物体Bを乗せる。このとき、物体Bの重力は、乗せ台部3の下方に作用するので、運搬補助具1を前方に回転させるモーメントを発生させる。このため、物体Bの重力は主として本体部2の腹側に設けられた前面受け部12の下方と、背中側の受け部4の上方によって受けられる。こうして、物体Bは、腕や肩の筋肉よりも大きな、腹側と背中側の筋肉によって支持されることとなるので、両肩への過度な負担を回避できると共に、物体Bを円滑に運搬できる。また、この状態において、長時間に渡って物体Bの支持作業を続けたとしても(例えば、乳幼児を抱く際には、そのような事態が良く発生する)、肩が前側に傾くという事態が発生し難い。
【0017】
なお、運搬補助具1を取り外すには、係合部材13,14の係合を解除した後、離間部5A,6Aの間から装着者Xの腰部を取り外す。このように、両離間部5A,6Aの間には、係脱可能な係合部材13,14が設けられているので、運搬補助具1の脱着操作が容易となる。
更に、本体部2の側方には、口径を拡張または縮小する方向に変形可能なスライド溝部11が設けられているので、装着者Xの体型に合わせることが容易となるため、必要以上に口径の異なる多数の本体部2を形成する必要がない。
また、本体部2および受け部4の内面側には、滑り止め加工が施されているので、乗せ台部3に物体Bを載置したときにも、運搬補助具1が滑りにくくなり、使用感が良好となる。
【0018】
<第2実施形態>
次に、図7〜図10を参照しつつ、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
運搬補助具20は、プラスチック材(例えば、AS樹脂、ABS樹脂、強化プラスチック(FRPなど)により、一体に形成されている。運搬補助具20には、装着者Xの腰部周囲に覆い付く本体部21と、この本体部21の前側上面に外方に向かって設けられて物体Bを載置可能な乗せ台部22と、本体部21の後側に設けられる受け部23が設けられている。また、本体部21において、乗せ台部22の下方には、前面受け部27が設けられている。本体部21は、平面がC字状とされており、装着者Xの右方が開放されて、前後の離間部24,25が設けられている。両離間部24,25には、第1実施形態と同様の構成を備えた係合部材13,14が帯状紐15,16によって固定されている。本体部21および受け部23の内面側において、装着者Xの腹および背中に当接する部分には、ゴム系の滑り止め部材26が取付けられている。また、同様の滑り止め部材26は、乗せ台部22の上面にも取付けられている。
【0019】
上記のように構成された運搬補助具20を装着者Xの腰部に固定し、乗せ台部22に物体Bを乗せたときの様子を図10に示した。このように、本実施形態においても、第1実施形態と同様の作用および効果を奏する。
<変形例>
なお、本発明においては、上記第1実施形態または第2実施形態において、次のように変形して実施することができる。
(1)乗せ台部3の中央部分を本体部2の前部材5に対して回転可能に軸止めし、右方または左方に所定の角度まで(水平方向から10度程度の角度まで)傾動可能に構成できる。
このような構成とすれば、特に乳幼児を抱く場合に、頭側を高くして支持できるので、好ましい実施形態となる。
【0020】
(2)乗せ台部3を前面受け部12に対して、上下方向に回動可能となるように蝶番によって固定すると共に、本体部2に対して水平方向となる使用位置と、本体部2に対して鉛直下方となって前面受け部12に重なる休止位置との間を移動可能となるように構成できる。使用位置および休止位置では、乗せ台部3の位置が固定できるような構成(例えば、折脚金具など)を用いることが好ましい。
このような構成とすれば、運搬補助具1を取付けた状態で、使用位置と休止位置との間で移動できるので、乗せ台部3を休止位置とすれば、運搬補助具1を付けたままで通常の活動を行える。運搬補助具1の着脱の手間が省かれるので、使用性が良好となる。また、特に立ち作業(例えば、立ちながら講演会を聞くときのノートを取ったり、立ちながらコンピュータを操作するなど)においても、有効に作業を行える運搬補助具1となる。
【0021】
(3)乗せ台部3,22に、他の部材を組み付け可能な固定部を設け、この固定部に対して着脱可能に係合する固定受部を有する複数のアタッチメント(例えば、乳児を寝た状態とできるベッド部材、乳幼児が座った状態とできる座位保持部材など)を設けることができる。なお、固定部と固定受部としては、ホックとホック受け、フックとフック受け、上記係合部材13,14などを用いることができる。
このような構成とすれば、特に乳幼児の大きさや姿勢に合わせて、横に寝かせた状態での支持、または座位での支持が行えるので、運搬補助具1,20の使用性が良好となる。
【符号の説明】
【0022】
1,20…物体の運搬補助具
2,21…本体部
3,22…乗せ台部
4,23…受け部
5A,24…離間部
6A,25…離間部
9…スライド接続部(拡縮変形部)
11…スライド溝部(拡縮変形部)
12,27…前面受け部
13,14…係合部材
26…滑り止め部材
B…物体
X…装着者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の腰部周囲を覆う本体部と、この本体部の前側に設けられて物体を載置可能な乗せ台部と、前記本体部の後側に設けられて前記乗せ台部に物体が載置されたときの重力を前記装着者の背中側で受ける受け部とを備えたことを特徴とする物体の運搬補助具。
【請求項2】
前記乗せ台部の下方には、前記乗せ台部に物体が載置されたときの重力を前記装着者の腹側で受ける前面受け部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の物体の運搬補助具。
【請求項3】
前記本体部は、左右いずれか一方の側方部分で前後方向に分離する一対の離間部が設けられていると共に、前記本体部を腰部周囲に装着する際に前記両離間部の間を係合する係合部材が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の物体の運搬補助具。
【請求項4】
前記本体部の左右いずれか一方の側方部分には、前記本体部の口径を拡張または縮小する方向に変形可能な拡縮変形部が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の物体の運搬補助具。
【請求項5】
前記本体部および受け部の内面側において、腹および背中に当接する部分には、滑り止め加工が施されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の物体の運搬補助具。
【請求項6】
前記乗せ台部は、中央を回転中心として、右方または左方に所定の位置まで傾動可能とされていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の物体の運搬補助具。
【請求項7】
前記乗せ台部は、前記本体部に対して水平方向となる使用位置と、前記本体部に対して鉛直下方となる休止位置との間を移動可能とされていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の物体の運搬補助具。
【請求項8】
前記乗せ台部は固定されている一方、この乗せ台部には他の部材を組み付け可能な固定部が設けられており、この固定部には、形態の異なる複数のアタッチメントが着脱可能に組付けられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の物体の運搬補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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