説明

物体挟持装置及び屋根材の固定方法

【課題】強風等に起因する水平方向及び鉛直方向の応力に対抗できるように屋根材をより強固に固定する物体挟持装置及び固定方法が望まれている。
【解決手段】本発明は、雌ねじ12と第一の押さえ部13bとを有する第一部材11と、雌ねじ12に螺合する雄ねじ16を有すると共に、第一の押さえ部13bと協働して物体を挟持可能な第二の押さえ部17を有する第二部材15とを具備し、第二部材15は、雄ねじ16を有する棒状の本体18を備え、本体18を鉛直姿勢に静止保持したときに本体18から径方向外方へ張り出さない形状を有する係止片19から形成され、係止片19は本体18を回転させて螺合動作を生じさせたときに、遠心力により本体18に対し自動的に回転して、両端が本体18から径方向外方へ張り出す姿勢に移行すること、を特徴とする物体挟持装置10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根材を下地に固定するための物体挟持装置及びそれを用いた屋根材の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の屋上では下地に断熱材を敷設し、その上面に防水層を形成する工法が広く採用されている。防水層には樹脂材による防水シートが用いられ、断熱材にはポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム等が用いられることが多い。
【0003】
防水シートや断熱材等を下地に固定する工法として、断熱材の上から取付け金具を挿入して断熱材を下地にビス止めし、固定された断熱材の上面に粘着材や接着剤を介して防水シートを固着する工法が行われている。また、特許文献1は、防水シートと断熱材との間に配置される押さえ部であってその上面が防水シートの裏面に固着される押さえ部と、押さえ部を下地に固定するための止め具とからなる固定装置であって、押さえ部を樹脂材で形成すると共に、防水シートと止め具の頂部との間の押さえ部に熱伝導遮断部を設け、止め具又はその近傍における結露を防止するようにした断熱防止構造を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−25184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
屋根に敷設される防水シートや断熱材(以下、防水シートや断熱材を単に屋根材と記載する場合がある)は、建物を雨から守ったり断熱したりする機能の他に、強風に対する飛散を防止するという性能も要求されている。すなわち、強風下においては屋根材を吸い上げようとする鉛直方向の応力が生じるため、屋根材をその応力に対抗するよう下地に固定する必要がある。
【0006】
また、近年の研究において、ビスを用いて屋根材を点固定する従来の機械的固定工法では、下地の固定部分において鉛直方向以外に水平方向の応力が生じることが確認されており、ビスの弛みや抜けといった現象が発生して屋根材の飛散事故につながる可能性があった。
【0007】
そこで、強風等に起因する水平方向及び鉛直方向の応力に対抗できるよう屋根材をより強固に固定する固定装置(以下、物体挟持装置と記載する場合がある)及び固定方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、雌ねじを有すると共に該雌ねじに対し固定して配置される第一の押さえ部を有する第一部材と、前記雌ねじに螺合する雄ねじを有すると共に、該雄ねじに対して移動可能に配置される第二の押さえ部であって、前記第一の押さえ部と協働して物体を挟持可能な第二の押さえ部を有し、前記雌ねじと該雄ねじとの螺合動作により前記第一の押さえ部と該第二の押さえ部とが相互に接近又は離反する方向へ移動可能に、前記第一部材に組み合わされる第二部材とを具備し、前記第二部材は、前記雄ねじを有する棒状の本体を備え、前記第二の押さえ部は、重心からずれた位置で前記本体に回転可能に取付けられる係止片であって、前記本体を鉛直姿勢に静止保持したときに、重力により鉛直姿勢を維持すると共に前記本体から径方向外方へ張り出さない形状を有する係止片から形成され、前記係止片は、前記本体を前記鉛直姿勢で前記第一部材に対し回転させて前記螺合動作を生じさせたときに、遠心力により前記本体に対し自動的に回転して、両端が前記本体から径方向外方へ張り出す姿勢に移行すること、を特徴とする物体挟持装置を提供する。
【0009】
また、前記第一部材は、前記雌ねじを有する保持部材と、前記第一の押さえ部を有する押圧部材と、を備え、前記保持部材と前記押圧部材とが互いに別部材として形成されて互いに組み合わされる、物体挟持装置を提供する。
【0010】
また、前記第一部材の前記第一の押さえ部は平板である、物体挟持装置を提供する。
【0011】
また、前記第一部材の前記第一の押さえ部は凹部を有すると共に、前記雌ねじが前記凹部の底部に位置している、物体挟持装置を提供する。
【0012】
また、前記第二部材の前記本体は前記雄ねじを有する側の端部に溝が形成されている、物体挟持装置を提供する。
【0013】
また、屋根材を下地に固定する屋根材の固定方法であって、前記記載の物体挟持装置を用意することと、前記屋根材を前記下地上に配置することと、前記屋根材及び前記下地に挿通孔を形成することと、前記第二部材の前記係止片が鉛直姿勢である状態で、前記第二部材を前記挿通孔に挿通することと、前記第一の押さえ部と前記第二の押さえ部とが相互に接近する方向へ移動するように、前記第二部材の前記本体を前記第一部材に対して回転させて前記螺合動作を生じさせて、遠心力により前記係止片を前記本体に対し自動的に回転させ前記係止片の両端が前記本体から径方向へ張り出す姿勢に移行させることと、前記第一の押さえ部と前記第二の押さえ部とが接近して、前記係止片が両端を前記下地に引っ掛けることにより、前記第一の押さえ部と前記第二の押さえ部とが協働して、前記下地と前記屋根材とを挟持することと、を含む、屋根材の固定方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の物体挟持装置では、第二部材の本体を第一部材に対して回転させて螺合動作を生じさせたときに、第二の押さえ部である係止片が自動的に回転してその両端が本体から径方向外方へ張り出す姿勢に移行する。そのため、例えば屋根材及び下地に形成した挿通孔に物体挟持装置の第二部材を挿入した後、第一の押さえ部と第二の押さえ部とが接近するように、第二部材の本体を回転させることで、係止片の両端が下地に引っ掛かり、第一の押さえ部と第二の押さえ部とが協働して下地と屋根材とを挟持し、屋根材を下地に固定することができる。固定した後は、係止片の両端が下地に引っ掛かるので鉛直方向や水平方向の応力にも対抗することができ、従来の工法のようにビスに弛みや抜けが発生することがなく、屋根材を強固に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一実施形態の物体挟持装置を示す斜視図である。
【図2】第一実施形態の物体挟持装置を用いて屋根材を固定した屋根の部分断面図である。
【図3】第一実施形態の物体挟持装置を用いて屋根材を固定した屋根の一部を示す斜視図である。
【図4】第二実施形態の物体挟持装置を示す斜視図である。
【図5】第二実施形態の物体挟持装置を用いて屋根材を固定した屋根の部分断面図である。
【図6】第二実施形態の物体挟持装置の別例を示す斜視図である。
【図7】第二実施形態の物体挟持装置の別例を用いて屋根材を固定した屋根の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。また、以下の実施形態において同一又は類似の構成要素には共通の参照符号を付して示している。
【0017】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態の物体挟持装置10の斜視図であり、物体挟持装置10の要部が分かるよう一部の構成要素を切り欠いて示している。図2は、図1のII−II線に沿った物体挟持装置10の断面図であり、物体挟持装置10を用いて屋根材を下地22に固定した状況を示す屋根1の部分断面図である。
【0018】
物体挟持装置10は、図に示すように、屋根材である断熱材24を屋根の下地22に固定する装置である。物体挟持装置10は、第一部材11と第二部材15とから構成されている。本実施形態の第一部材11は、雌ねじ12を有する保持部材14と第一の押さえ部13bを有する押圧部材13とから構成されており、保持部材14と押圧部材13とは互いに別部材として形成されて互いに組み合わされている。第二部材15は、保持部材14に形成された雌ねじ12に螺合する雄ねじ16と、雄ねじ16に対して移動可能に配置される第二の押さえ部17と、を有している。第二の押さえ部17は第一の押さえ部13bと協働して、例えば下地22及び断熱材24を挟持可能になっている。そして、第二部材15は雌ねじ12と雄ねじ16との螺合動作により第一の押さえ部13bと第二の押さえ部17とが相互に接近又は離反する方向に移動可能になるよう、第一部材11に組み合わされている。
【0019】
第二部材15は、雄ねじ16を有する棒状の本体18を備えている。そして、本実施形態の第二の押さえ部17は、具体的には図に示すように矩形の係止片19で実現されており、本体18に重心からずれた位置で回転可能にピン20により取付けられている。係止片19は重心からずれた位置で回転可能に取付けられているため、本体18を鉛直姿勢に静止して保持したとき、係止片19は重力により、図に点線で示すように、鉛直姿勢を維持するようになる。また、係止片19は鉛直姿勢のとき、本体18から径方向外方へ張りださない形状を有している。
【0020】
係止片19は、工具等を用いて本体18を鉛直姿勢で第一部材11に対して回転させて螺合動作を生じさせたとき、遠心力により本体18に対して自動的に、図の矢印E方向に回転して、図の実線で示すように、係止片19の両端19a、19bが径方向外方へ張り出す姿勢に移行する。
【0021】
第一部材11について説明する。上述のように第一部材11は、雌ねじ12を有する保持部材14と、雌ねじ12に固定される第一の押さえ部13bを有する押圧部材13とから構成されている。本実施形態では保持部材14は押圧部材13とは別部材として形成されており、互いに組み合わさることで一体化する。また運搬や保管時にはそれぞれを分離することが可能になっている。
【0022】
保持部材14について説明する。保持部材14は、その本体部分14aの外形が六角形に形成されると共に、その内部に中空部14bが形成された筒状の部材である。保持部材14は、後述する押圧部材13の貫通孔13aを通して、押圧部材13の中央において鉛直方向下方に突出するよう配置される。保持部材14の中空部14bは保持部材14の両端において開口しており、中空部14bの内周面には第二部材15と螺合するよう雌ねじ12が形成されている。また、保持部材14の上方に位置する端部にはフランジ部14cが形成されており、保持部材14の本体部分14aが貫通孔13aを挿通した後、フランジ部14cが貫通孔13aの周囲に当たることで、保持部材14が押圧部材13に係止されて、互いに組み合わされる。
【0023】
押圧部材13の第一の押さえ部13bは、断熱材24をその上面から押さえるのに充分な広さ、面積を有する正方形の平板である。押圧部材13の中央には、上述の保持部材14を挿入する貫通孔13aが形成されている。貫通孔13aは、保持部材14の本体部分14aの横断面の外形に合わせて形成されている。保持部材14の本体部分14aの外形が六角形であることから、貫通孔13aはそれに対応するよう六角形に形成されている。本実施形態の押圧部材13は、その一辺D1が約50mmから500mmの金属板であるが、その大きさは断熱材24の厚みや物体挟持装置10が屋根上に配置される間隔により適宜変更してよい。また、その形状は正方形に限定されず、長方形や円形であってもよい。また、押圧部材13は熱伝導率の小さい樹脂材で形成されたディスクプレートであってもよい。
【0024】
保持部材14の本体部分14aの横断面の外形は、保持部材14が第一軸線Aを中心に回転しないよう、多角形に形成されているのが望ましい。これは、後述するが断熱材24を固定するために第二部材15を第一軸線Aを中心に回転させるが、それに伴って保持部材14が回転するのを防止するためである。押圧部材13の貫通孔13aを、本体部分14aの外形に対応するよう多角形に形成することで、保持部材14の回転を防止することができる。本実施形態では、本体部分14aに細長いナットを利用しており、その横断面の形状は六角形であるが、本体部分14aの横断面形状は三角形や四角形でもよい。また、押圧部材13と保持部材14との接合部分において、保持部材14の回り止め用に、保持部材14の側部に突起を形成し、押圧部材13の貫通孔13aの一部にそれに対応する凹部をもうけてもよい。第一部材11の押圧部材13と保持部材14とを分離可能にすることで、第一部材11の製作、運搬及び管理を容易にすると共に、様々な大きさを有する押圧部材13と保持部材14とを組み合せることができる。しかしながら、保持部材14と押圧部材13とを分離する必要が無ければ、それらを予め溶接等により接合し一体的に形成してよい。その場合、保持部材14の回転は押圧部材13によって防止されるので、本体部分14aの外形を多角形にする必要はなく円形であってもよい。
【0025】
次に、第二部材15について説明する。第二部材15は長手方向の第一軸線Aを有する棒状部材である。第二部材15は雌ねじ12に螺合する雄ねじ16を有する棒状の本体18を備えている。そして、第二部材15の先端に第二の押さえ部17を備えている。具体的には、第二の押さえ部17として係止片19が、第二部材15の先端16bにあるピン20により回転自在に取付けられている。雌ねじ12と雄ねじ16との螺合動作により、第一の押さえ部13bと第二の押さえ部17とが相互に接近又は離反する方向へ移動可能になっている。また、雄ねじ16と雌ねじ12との螺合により第二部材15は第一の押さえ部13bに対して鉛直方向下方に延びるよう取付けられる。
【0026】
本体18の上方の端部16cには、溝16d(すりわり)が形成されている。そのため、例えばマイナスドライバを保持部材14の中空部14bに挿入して溝16dに嵌めることで、第二部材15を第一軸線Aを中心に第一部材11に対して回転させて螺合動作を生じさせることができる。すなわち、第二部材15を回転させることによって、第一の押さえ部13bと第二の押さえ部17とを相互に接近又は離反する方向へ移動させることができる。また、その回転の遠心力により係止片19がピン20を中心に回転する。なお、溝16dの形状は単なる溝(すりわり)に限定されず、使用する工具に合わせて十文字穴、プラスマイナス穴、六角穴、四角穴を本体18の上方の端部16cに形成してよい。
【0027】
次に、第二部材15の第二の押さえ部17について、さらに詳細に説明する。第二部材15の先端16bには、第一軸線Aに対して直交する方向(第三軸線、図1のB方向に伸びる軸線)に延びるピン20が設けられている。そして、ピン20には、第二の押さえ部17として、重心からずれた位置で係止片19が第三軸線を中心にして回転自在に取付けられている。
【0028】
係止片19は、長手方向の第二軸線Cを有する矩形の金属片である。係止片19の幅D2は保持部材14の幅D3よりも小さく形成されている。一方、係止片19の長さL1は、保持部材14の幅D3より大きく形成されている。また、上述のように係止片19は、ピン20が係止片19の重心から外れた位置を貫通するよう留められている。そのため、第二部材15の本体18を鉛直姿勢にした場合、図1及び図2の点線で示すように、ピン20から遠い方の係止片19の端部19aが重力により下がり、ピン20から近い方の端部19bが上がった状態になる。すなわち、第二部材15の本体18を鉛直姿勢にしたとき、係止片19も重力により鉛直姿勢が維持され、係止片19の第二軸線Cが第一軸線Aに対して平行な状態になる。そして、第二部材15を本体18、第一軸線Aを中心にある程度の速さで回転させると、係止片19の端部19aが遠心力によりE方向に移行する。そして、本体18が回転している間は、図の実線で示すように、係止片19はその第二軸線Cが第一軸線Aに対してほぼ直交した状態になり、係止片19の両端19a、19bは本体18から径方向外方へ張り出すようになる。この状態で、第一の押さえ部13bと第二の押さえ部17とが接近すれば、物体挟持装置10は下地22と断熱材24とを挟持するようになる。
【0029】
次に、本実施形態の物体挟持装置10を用いて、断熱材24を下地22に固定する方法について説明する。
【0030】
まず、屋根1の下地22上に断熱材24を配置し、所望の位置にドリル等の工具を用いて、第一部材11の保持部材14及び第二部材15が通る挿通孔22a、24aを、下地22及び断熱材24に形成する(以下、挿通孔22a及び24aをまとめて挿通孔23と記載する場合がある)。図に示す挿通孔23は、保持部材14が挿入できるよう保持部材14の幅D3に合わせて形成されている。また、挿通孔23の直径は係止片19を通すことができるよう係止片19の短辺(幅)の長さD2より大きく、かつ係止片19が下地22に引っ掛かるよう係止片19の長辺の長さL1より小さく形成されている。そして、係止片19の両端19a、19bを下地22に引っ掛けるためには、少なくとも係止片19の端部19bからピン20までの長さL4が挿通孔23の直径の半分より大きくなくてはならない。
【0031】
下地22及び断熱材24に挿通孔23を形成した後、物体挟持装置10の押圧部材13を配置して、保持部材14と第二部材15とを挿通孔23に挿入する。この時、保持部材14及び第二部材15を連結した長さは、下地22及び断熱材24を合わせた厚みL2より充分に長くしておく。また、図2の点線で示すように、係止片19の端部19aが下方に垂れ下がった状態しておく。係止片19が鉛直姿勢である場合は、係止片19が挿通孔23に引っ掛かることはない。そして、係止片19がピン20を中心に回転できるよう係止片19が完全に下地22よりも下方に位置するようにする。
【0032】
次に、保持部材14の中空部14bに、ドライバ等の工具を挿入して、工具の先端を第二部材15の溝16dに嵌めた後、第二部材15の第二の押さえ部17が第一の押さえ部13bに接近する方向に第二部材15を回転させる。そして、一定以上の速度で第二部材15が回転すると、係止片19が遠心力によりピン20を中心に回転し、係止片19の両端19a、19bが径方向外方へ張り出すようになる。その状態で、第二部材15が第一部材11に接近することで、係止片19の両端19a、19bが下地22に引っ掛かるようになる。そして、係止片19が下地22に引っ掛かった時点で第二部材15の回転を止めても、係止片19の両端19a、19bが下地22に係止されるので、係止片19がピン20を中心に回転することはなく、第一の押さえ部13b(押圧部材13)と第二の押さえ部17(係止片19)とにより断熱材24と下地22とを挟持した状態が維持され、断熱材24を下地22に固定することができる。
【0033】
なお、断熱材24を固定した後において、第二の押さえ部17が第一の押さえ部13bに対して離反するよう第二部材15を回転させれば、係止片19の両端19a、19bが下地22によって係止されなくなり係止片19の端部19aが重力によって下がるようになる。すなわち、係止片19が再び鉛直姿勢に戻る。上述のように係止片19の幅D2は、断熱材24に形成された挿通孔23の直径よりも小さいことから、係止片19が下地22に引っ掛かることなく、物体挟持装置10を屋根1から取り外すことができる。
【0034】
また、第二部材15を回転させるとき、第二部材15の回転は速いほうがよく、手作業よりも電動ドライバを用いて回転させるのが望ましい。
【0035】
断熱材24を物体挟持装置10を用いて固定した後、断熱材24及び物体挟持装置10の上面に粘着材又は接着剤を塗布して防水シート26を接着することで、防水シート26を固着し屋根1を完成させる。なお、図に示す屋根1では、物体挟持装置10の押圧部材13を防水シート26の下方に配置しているが、防水シート26上に押圧部材13を配置して、物体挟持装置10により断熱材24及び防水シート26を固定し、押圧部材13の上面を別途補強シートを被覆して固着する場合もある。
【0036】
また、第二部材15の長さが比較的長い場合、断熱材24を固定したときに、第二部材15の本体18が押圧部材13より上方にはみ出す場合がある。この場合、押圧部材13の上面に防水シート26を固着できるよう、はみ出した本体18をサンダー等により削り取り、押圧部材13の上面を平坦にするのがよい。
【0037】
本実施形態の物体挟持装置10は、係止片19を遠心力を利用してその姿勢を変えることで係止片19を下地22に引っ掛けている。係止片19を下地22に引っ掛けることにより断熱材24を固定していることから、従来のビスによって固定する場合と比較して、鉛直方向や水平力の応力に対抗することができ、弛みや抜けが発生することなく、より強固に断熱材24を下地22に固定することができる。
【0038】
また、第二部材15の回転を保持部材14の中空部14bを経由して行っているため、屋根材の固定作業を全て屋根の表側から行うことができ、別途屋根の裏側から作業をする必要が無い。そのため、従来のビスによる固定と同様の作業工程で屋根材を固定することができる。
【0039】
また、別の固定方法として、予め引掛部が固定形成されたJ字形やL字形の部材を用いることも可能であるが、その引掛部を下地の下方まで通すために、屋根材に形成する挿通孔を大きくする必要がある。本実施形態の物体挟持装置10を用いた場合、係止片19が回転するので係止片19を鉛直姿勢としその幅が最も小さくなる状態で挿通孔23を通すことができる。そのため、下地22や断熱材24に形成する挿通孔23を必要最低限の大きさで形成することができる。
【0040】
また、従来のビスによる固定方法と比較して、鉛直方向や水平方向の応力に対する対抗力が大きいため、屋根に設置する固定装置の数量を減らすことができる。図3は既存の屋根1を改修した屋根2を示す斜視図である。既存の屋根1に新規の断熱材23を配置して、さらにその上に新規の防水シート28を敷設している。従来、各新規の断熱材23を既存の屋根1に充分な対抗力をもって固定するためには、ビス止めによるディスクアンカ30を、新規の断熱材23の中央に一本さらに各四隅のそれぞれに打って固定する必要があった。本実施形態の物体挟持装置10は従来のディスクアンカ30と比較すると充分に大きな対抗力を有していることから、各新規の断熱材23のそれぞれの格子点に一つ物体挟持装置10を設置して、その周囲にある四つの新規の断熱材23の隅を挟持することで、充分な耐風圧性評価を得ることができる。設置する固定装置の数量や、既存の屋根1や新規の断熱材23に形成する挿通孔の数も減少することができるので、施工の手間を省くことができる。なお、屋根2は新規の断熱材23を物体挟持装置10等によって固定した後、粘着シート27を貼付けその上に新規の防水シート28を接着により固着している。新規の防水シート28は粘着シート27により面固定されているため、強風下において新規の防水シート28の浮き上がりが発生しない。このように、物体挟持装置10を用いれば、屋根の改修において既存の屋根材と新規に配設する屋根材とを合わせて固定することも可能である。
【0041】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態について図を用いて説明する。図4は第二実施形態の物体挟持装置40を示す斜視図であり、図5は第二実施形態の物体挟持装置40を用いて屋根材を固定した屋根5を示す部分断面図である。
【0042】
本実施形態の物体挟持装置40も、第一実施形態の物体挟持装置10と同様に屋根材である断熱材54を屋根5の下地52に固定する装置であり、第一部材41と第二部材45とから構成されている。第一部材41は雌ねじ42を有する保持部材44と、断熱材54を押さえる第一の押さえ部43bを有する押圧部材43とを有し、第二部材45は、第一の押さえ部43bと協働して下地52を下方から押さえる第二の押さえ部47を有する。また、第二部材45は、雄ねじ46を有する棒状の本体48を備え、第二の押さえ部47は、具体的には係止片49であり、本体48に重心からずれた位置で回転可能にピン50により取付けられている。第一実施形態の物体挟持装置10との主たる違いは、押圧部材43の形状であり、以下では押圧部材43について主に説明する。なお、本実施形態の第二部材45は、第一実施形態の第二部材15と形状及び機能がほぼ同様であるので、その説明は省略することとする。
【0043】
物体挟持装置40の押圧部材43は、図4に示すように、円盤状に形成されると共に、押圧部材43の中央に凹部43aが形成されている。図5から分かるように、凹部43aの底部には貫通孔43cが形成されおり、保持部材44がその中空部44aと貫通孔43cとが一致するように固定されている。
【0044】
本実施形態の凹部43aの直径D4や深さHは、保持部材44の全体が収容可能な大きさとなるよう形成されているだけでなく、人の指を入れて第二部材45の本体48をつまむことが可能な大きさに形成されている。そのため、凹部43aの直径D4は10mm〜50mm、深さHは10mm〜50mmの範囲で形成されており、直径D4を約40mm、深さHを約40mmで形成するのが望ましい。
【0045】
保持部材44は、第一実施形態の保持部材14と同様に、中空部44aが形成された部材であり、中空部44aの内周面には第二部材45の雄ねじ46が螺合する雌ねじ42が形成されている。本実施形態の保持部材44は、第一実施形態の保持部材14より長さが短く形成されている。これにより、図に示すよう第二部材45の本体48が保持部材44から突出し、作業者が本体48をつまむことで第二部材45の本体48を手動で回転させることができる。手動により本体48を回転させることで、ピン50を中心軸に係止片49を回転させ、係止片49の両端を径方向外方へ張り出させて、下地52に引っ掛けることができる。第一実施形態では保持部材14の中空部14bが小さいためドライバ等の工具を用いて第二部材15の本体18を回転させていた。本実施形態のように、指を挿入可能な凹部43aを設けることで、工具を用いずとも手動で第二部材45の本体48を回転させて断熱材54を下地52に固定することができる。当然のことながら、工具を用いて第二部材45の本体48を回転させてよく、その場合、第二部材45の本体48に工具の先端と嵌合する溝を形成してもよい。
【0046】
図5に示すように、物体挟持装置40を用いて断熱材54を固定する場合、凹部43bの外形に対応した窪み54aを断熱材54に形成する。さらに窪み54aの底部から、さらに第二部材45を挿入する挿通孔54bを形成し、下地52にも挿通孔52aを形成する(以下、窪み54a、挿通孔54b及び挿通孔52aをまとめて挿通孔53と記載する場合がある)。
【0047】
断熱材54及び下地52に挿通孔53を形成した後、物体挟持装置40を配置して、雄ねじ46により第二部材45を手動で回転させ断熱材54を下地52に固定する。断熱材54を固定した後、第二部材45の本体48が、第一の押さえ部43bより突出する場合は突出部分をサンダー等で削り取る。物体挟持装置40により断熱材54を固定した後、さらに凹部43aの内部に断熱材を充填してもよい。
【0048】
次に本実施形態の別例を示す。図6は本実施形態の別例である物体挟持装置60を示す斜視図であり、図7は本実施形態の別例である物体挟持装置60を用いて屋根材を固定した屋根7を示す部分断面図である。
【0049】
物体挟持装置60も、屋根材である断熱材74を下地72に固定する装置であり、第一部材61と第二部材65とから構成されている。第一部材61は雌ねじ62を有する保持部材64と、断熱材74を押さえる第一の押さえ部63bを有する押圧部材63とを有し、第二部材65は、第一の押さえ部63bと協働して下地72を下方から押さえる第二の押さえ部67を有する。また、第二部材65は、雄ねじ66を有する棒状の本体68を備え、第二の押さえ部67は具体的には係止片69であり、本体68に重心からずれた位置で回転可能にピン70により取付けられている。物体挟持装置60は、図4及び図5に示す物体挟持装置40と同様に、押圧部材63の中央に凹部63aが形成されているが、物物体挟持装置40との主たる違いは凹部63aの形状であり、物体挟持装置60の凹部63aの横断面は、挿入される保持部材64の外形に合わせて形成されている。
【0050】
具体的には、保持部材64として六角ナットが用いられており、図から分かるように、凹部63aの内部はその六角ナットの外形に合わせて六角形に形成されている。図4に示す物体挟持装置40の場合、第二部材45を回転させる際に、凹部43aの底部に配置された保持部材44が共回りしないよう押さえるか、予め接着材等で固定しておく必要がある。しかしながら、図6に示す物体挟持装置60のように、凹部63aの内部形状を保持部材64の外形に合わせておけば、第二部材65を回転させる際に、保持部材64の側面が凹部63aの内壁によって係止されるため保持部材64が共回りするのを防止することができる。また、保持部材64の固定は保持部材64を凹部63aに嵌めるだけで良く、接着材等を用いなくてよい。
【0051】
以上、本実施形態について添付図を用いて説明した。本発明は、回転可能な係止片を下地に引っ掛けて第一の押さえ部と第二の押さえ部とが協働して屋根材を挟持している。そのため、従来のビスにより固定する方法と比較して、より強固に屋根材を固定することができ、強風による水平方向及び鉛直方向の応力にも対抗することができる。また、第二部材が鉛直姿勢である場合は、係止片が重力により鉛直姿勢となる。そのため、屋根材や下地に形成する挿通孔の大きさを、鉛直姿勢の係止片を通すことができる最小限の大きさとすることができる。また、屋根の表面から第二部材を回転させることで、遠心力により係止片を自動的に回転させて、係止片の両端が下地に引っ掛かるようにしている。屋根の表面からのみの作業で屋根材を下地に固定することができるので、別途屋根の裏面から作業をする必要がない。
【符号の説明】
【0052】
1、5、7 屋根
2 改修された屋根
10、40、60 物体挟持装置
11、41、61 第一部材
12、42、62 雌ねじ
13、43、63 押圧部材
13b、43b、63b 第一の押さえ部
14、44、64 保持部材
15、45、65 第二部材
16、46、66 雄ねじ
17、47、67 第二の押さえ部
18、48、68 本体
19、49、69 係止片
20、50、70 ピン
22、52、72 下地
23 新規の断熱材
24、54、74 断熱材
26、56、76 防水シート
27 粘着シート
28 新規の防水シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌ねじを有すると共に該雌ねじに対し固定して配置される第一の押さえ部を有する第一部材と、
前記雌ねじに螺合する雄ねじを有すると共に、該雄ねじに対して移動可能に配置される第二の押さえ部であって、前記第一の押さえ部と協働して物体を挟持可能な第二の押さえ部を有し、前記雌ねじと該雄ねじとの螺合動作により前記第一の押さえ部と該第二の押さえ部とが相互に接近又は離反する方向へ移動可能に、前記第一部材に組み合わされる第二部材とを具備し、
前記第二部材は、前記雄ねじを有する棒状の本体を備え、
前記第二の押さえ部は、重心からずれた位置で前記本体に回転可能に取付けられる係止片であって、前記本体を鉛直姿勢に静止保持したときに、重力により鉛直姿勢を維持すると共に前記本体から径方向外方へ張り出さない形状を有する係止片から形成され、
前記係止片は、前記本体を前記鉛直姿勢で前記第一部材に対し回転させて前記螺合動作を生じさせたときに、遠心力により前記本体に対し自動的に回転して、両端が前記本体から径方向外方へ張り出す姿勢に移行すること、
を特徴とする物体挟持装置。
【請求項2】
前記第一部材は、前記雌ねじを有する保持部材と、前記第一の押さえ部を有する押圧部材と、を備え、前記保持部材と前記押圧部材とが互いに別部材として形成されて互いに組み合わされる、請求項1に記載の物体挟持装置。
【請求項3】
前記第一部材の前記第一の押さえ部は平板である、請求項1又は2に記載の物体挟持装置。
【請求項4】
前記第一部材の前記第一の押さえ部は凹部を有すると共に、前記雌ねじが前記凹部の底部に位置している、請求項1又は2に記載の物体挟持装置。
【請求項5】
前記第二部材の前記本体は前記雄ねじを有する側の端部に溝が形成されている、請求項1から4の何れか一項に記載の物体挟持装置。
【請求項6】
屋根材を下地に固定する屋根材の固定方法であって、
請求項1から5の何れか一項に記載の物体挟持装置を用意することと、
前記屋根材を前記下地上に配置することと、
前記屋根材及び前記下地に挿通孔を形成することと、
前記第二部材の前記係止片が鉛直姿勢である状態で、前記第二部材を前記挿通孔に挿通することと、
前記第一の押さえ部と前記第二の押さえ部とが相互に接近する方向へ移動するように、前記第二部材の前記本体を前記第一部材に対して回転させて前記螺合動作を生じさせて、遠心力により前記係止片を前記本体に対し自動的に回転させ前記係止片の両端が前記本体から径方向へ張り出す姿勢に移行させることと、
前記第一の押さえ部と前記第二の押さえ部とが接近して、前記係止片が両端を前記下地に引っ掛けることにより、前記第一の押さえ部と前記第二の押さえ部とが協働して、前記下地と前記屋根材とを挟持することと、
を含む、屋根材の固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−102562(P2012−102562A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252811(P2010−252811)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000217365)田島ルーフィング株式会社 (78)