説明

特定の結晶変態を有するチタニルフタロシアニン及びその製造方法、並びにそれを電荷発生材料として用いた電子写真感光体

【課題】新規チタニルフタロシアニンおよびその製造方法ならびに、当該チタニルフタロシアニンを電荷発生材料として用いた電子写真感光体の提供。
【解決手段】CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の9.0°、9.6°、14.1°、14.9°、17.9°、18.3°、23.4°、24.5°、27.2°にピークを持つ結晶変態を有するチタニルフタロシアニンにおいて、前記ブラッグ角のピークに関して、9.6°/9.0°のピーク強度比をIr1、14.1°/14.9°のピーク強度比をIr2、17.9°/18.3°のピーク強度比をIr3、24.5°/23.4°のピーク強度比をIr4とすると、当該ピーク強度比が、1.3<Ir1<1.8、1.0<Ir2、1.3<Ir3<2.0、および0.9<Ir4<1.1であるチタニルフタロシアニン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の結晶変態を有するチタニルフタロシアニン及びその製造方法、並びに特定の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンを電荷発生材料として用いた電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術を応用した複写機やプリンター等の画像形成装置においては、当該装置の光源の波長領域に感度を有する有機感光体が多く使用されている。有機感光体としては、適当な結着樹脂からなる薄膜中に電荷発生材料と電荷輸送材料とを分散した単層型の感光層を備えた単層型感光体や、上記電荷発生材料を含有する電荷発生層と、電荷輸送材料を含む電荷輸送層とを積層した積層型感光体が知られている。
【0003】
一般にフタロシアニン化合物は、長波長域までの分光感度を有し、電荷発生効率もよく、堅牢性にすぐれ、高感度、高耐久性である。このため、種々のフタロシアニン化合物が電荷発生材料として用いられている。特に、チタニルフタロシアニンは、帯電レベルが高く、感度もよいこと、蒸着または分散により薄膜(例えば、電荷発生層)を形成し易い等の理由で電子写真感光体に使用され得る。
【0004】
フタロシアニン化合物は、同じ分子構造のものであっても、そのスタッキング状態の違いによって電気特性が大きく変化する。有機化合物の分子のスタッキング状態は化合物の結晶変態で決まるので、結晶変態は、スタッキング状態、つまりπ電子系の摂動を変え、有機感光体等の電子材料としての特性を有効に変える要因となる。
【0005】
チタニルフタロシアニンにおいては、一般に、尿素法(ワイラー法)やフタロニトリル法によって製造される。しかしながら、合成された直後、すなわち、粗合成のチタニルフタロシアニンは、種々の結晶変態(例えば、「β型」、「α型」及びその他準安定結晶変態)を含む多形混合物であることが多い。多形混合物は異なる電気特性を有する結晶の混合物であるので、電子写真感光体等の電荷発生材料として使用するのに適していない。
【0006】
このように、粗合成で得られたチタニルフタロシアニンを電荷発生材料として使用することを目的とし、適した単一の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンの開発が行われてきた。そのような試みとしては、下記のものが挙げられる。
【0007】
特許文献1には、X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)27.3°に最大回折ピーク、並びに、7.4°、9.7°及び24.2°に回折ピークを示すことを特徴とする結晶型オキシチタニウムフタロシアニン結晶、すなわち、チタニルフタロシアニン結晶が開示されている。また、特許文献1には、そのチタニルフタロシアニンを電子写真感光体の電荷発生材料として使用した場合、感度、帯電性、暗減衰、残留電位等が良好であることが記載されている。しかしながら、このチタニルフタロシアニンは、電子写真感光体の電荷発生材料として使用した場合、概して、環境安定性に乏しく、帯電性が劣化するという問題を有している。
【0008】
特許文献2には、オキシチタニウムフタロシアニンのB型結晶を、A型結晶の存在下に有機溶剤中で粉砕することにより、オキシチタニウムフタロシアニンのB型結晶をA型結晶に変換することを特徴とする結晶型の変換方法が開示されている。
【0009】
特許文献3には、ジハロゲノチタンフタロシアニンをpKa5以下の酸と接触させた後、水の共存下で、比誘電率20以下の有機溶剤と接触させることを特徴とする、チタニルフタロシアニン結晶の製造方法が明記され、TiOPcの結晶形としては、D型と称される結晶形であり、Cu−Kα線の粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)9.5°、24.1°、27.3°に強い回折ピークを有し、通常、27.3°に最も強いピークを有することが開示されている。
【0010】
特許文献4には、導電性基体上に、CuKα線によるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2°)27.3゜に最大回折ピークを示す結晶型のチタニルフタロシアニンを含有する感光層を有する電子写真感光体であって、且つ、波長600nm以下の単色光で像露光されることを特徴とする正帯電型電子写真感光体が開示されている。これらは煩雑で、条件の厳しい製造工程を経由するものであり、安価で、簡便に再現性よく製造できるものではない。また、開示されているチタニルフタロシアニンは感度が充分ではなく、より優れた感光体特性が望まれている。
【特許文献1】特公平7−91486号公報
【特許文献2】特開昭63−37163号公報
【特許文献3】特開平9−87540号公報
【特許文献4】特開2001−296676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意検討されたものであり、その目的とするところは、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の9.0°、9.6°、14.1°、14.9°、17.9°、18.3°、23.4°、24.5°、27.2°にピークを持つ結晶変態を有するチタニルフタロシアニンにおいて、特定のピーク強度比を有するチタニルフタロシアニンを提供することであり、そのことによって、従来のチタニルフタロシアニンと比較して、良好な感光体特性、特に帯電性や感光感度が優れた新規なチタニルフタロシアニンを提供することである。また、本発明の第2の目的は、新規なチタニルフタロシアニンを簡便に製造する方法を提供することである。さらに、本発明の第3の目的は、新規なチタニルフタロシアニンを電荷発生材料として用いた感光特性の高い電子写真感光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の9.0°、9.6°、14.1°、14.9°、17.9°、18.3°、23.4°、24.5°、27.2°にピークを持つ結晶変態を有するチタニルフタロシアニンにおいて、
前記ブラッグ角のピークに関して、
9.6°/9.0°のピーク強度比をIr1
14.1°/14.9°のピーク強度比をIr2
17.9°/18.3°のピーク強度比をIr3
24.5°/23.4°のピーク強度比をIr4とすると、
当該ピーク強度比が
1.3<Ir1<1.8、
1.0<Ir2
1.3<Ir3<2.0、および
0.9<Ir4<1.1
であることを特徴とする、下記式(1)で表されるチタニルフタロシアニンを提供することにより上記目的を達成する。
【0013】
【化1】

【0014】
また、(I)α型結晶変態を有するチタニルフタロシアニンをアシッドペースティング処理して含水ケーキのチタニルフタロシアニンを得る工程;
(II)前工程で得られたチタニルフタロシアニンに分散助剤を加え、水−有機溶剤混合溶媒中で、室温分散にて結晶変態を調製する工程;
(III)濾過洗浄し、減圧乾燥する工程;
を包含するCuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の9.0°、9.6°、14.1°、14.9°、17.9°、18.3°、23.4°、24.5°、27.2°にピークを持つ結晶変態を有するチタニルフタロシアニンの製造方法において、前記(II)結晶変態を調製する工程で、撹拌所要動力が3.0[kg−m/sec]以上の値になる撹拌条件で室温分散することを特徴とする、チタニルフタロシアニンの製造方法を提供することにより上記第2の目的を達成する。
【0015】
本発明のチタニルフタロシアニンの製造方法は、前記工程(I)で得られるチタニルフタロシアニンが低結晶性チタニルフタロシアニンであることが好ましい。
【0016】
また、本発明のチタニルフタロシアニンの製造方法において、より好ましくは、前記低結晶性チタニルフタロシアニンは、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)の7.0°、23.5°および25.5°にピークを有する。
【0017】
また、電荷発生材料として当該チタニルフタロシアニンを用いる電子写真感光体を提供することにより上記第3の目的を達成する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンは、従来のチタニルフタロシアニンよりも感光体としての一次特性(例えば、帯電性において、初期帯電量が高く、暗減衰率が小さくなり、電荷保持特性が向上するなど)が格段に優れているため、高感度感光体を提供することが出来る。また、当該チタニルフタロシアニンの簡便な製造法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のチタニルフタロシアニンは、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいて、新規の結晶変態(図1に示すX線回折スペクトル)を示す。すなわち、本発明のチタニルフタロシアニンは、ブラッグ角(2θ±0.2゜)の9.0°、9.6°、14.1°、14.9°、17.9°、18.3°、23.4°、24.5°、27.2°にピークを持つ結晶変態を有するチタニルフタロシアニンであって、
9.6°/9.0°のピーク強度比をIr1、14.1°/14.9°のピーク強度比をIr2、17.9°/18.3°のピーク強度比をIr3、24.5°/23.4°のピーク強度比をIr4とすると、
該ピーク強度比それぞれが、1.3<Ir1<1.8、1.0<Ir2、1.3<Ir3<2.0、および0.9<Ir4<1.1の範囲を有するチタニルフタロシアニンであり、従来公知のチタニルフタロシアニンとは異なる結晶変態を有する。
【0020】
本発明で得られる上記ピーク強度比の範囲を有する結晶変態のチタニルフタロシアニンは、従来のチタニルフタロシアニンと比較すると、感光体の一次特性(例えば、初期帯電量、暗減衰率、残留電位、感度、分散安定性など)の評価において、従来のチタニルフタロシアニンよりも高い特性を示す。このように、従来のチタニルフタロシアニンとは明確な違いがあり、前記ピーク強度比の範囲を有する新規なチタニルフタロシアニンは有用である。
【0021】
次に、本発明の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンの製造方法について説明する。
【0022】
本発明のチタニルフタロシアニンの製造方法において、原料であるチタニルフタロシアニンは、尿素法、フタロニトリル法などの従来公知の何れの方法によって合成(製造)されたものであってもよい。また、その結晶変態は、α型、β型、他の準安定型であってもよく、それらの混合体であってもよい。本発明のチタニルフタロシアニンを精度よく製造するためにはα型のチタニルフタロシアニンが好ましい。さらに好ましい原料チタニルフタロシアニンの製造方法としては、フタロニトリル法によって製造されたものが挙げられる。フタロニトリル法では、尿素法等他の方法に比較して一般に高収率、高純度で原料チタニルフタロシアニンが得られるからである。
【0023】
原料チタニルフタロシアニンとして好適に使用できるα型の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンは、一般に、キノリン、α−又はβ−クロロナフタレン、α−メチルナフタレン、ニトロベンゼンなどの芳香族系高沸点溶媒中で、フタロニトリルを四塩化チタンなどの金属化合物と縮合させ、加水分解し、DMFなどで洗浄する公知の方法により得られる。
【0024】
常法に従い、原料チタニルフタロシアニンをアシッドペースティング処理に付す(工程(I))。アシッドペースティング処理は、粗合成のチタニルフタロシアニンを精製、微細化するための常套手段であり、一般にチタニルフタロシアニンを濃硫酸などの酸に溶解し、大量の水中に投入して再沈殿させる操作である。
【0025】
また、アシッドペースティング処理に使用する酸としては、濃硫酸が好ましく、酸として濃硫酸を用いる場合、濃硫酸の濃度は、通常80〜100%、好ましくは95〜100%である。濃硫酸の量は、精製、微細化に適する良好なペーストが得られる程度であれば特に限定されない。
【0026】
アシッドペースティング処理が施されたチタニルフタロシアニンは、例えば、図2のようなCuKα線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)の7.0°、23.5°および25.5°にピークを有する、低結晶性チタニルフタロシアニンとなる。アシッドペースティング処理により、次工程における水−有機溶剤混合溶媒を用いる結晶変換が容易となる。
【0027】
アシッドペースティング処理後の低結晶性チタニルフタロシアニンは、イオン交換水又は蒸留水等で十分に水洗する必要があるが、必ずしも乾燥させる必要はない。乾燥状態及び水ペースト状態(含水ケーキ(ウェットケーキ))のいずれもその後の工程に用いることができる。水洗は洗浄液が中性になるまで行うことが好ましい。
【0028】
次いで、低結晶性チタニルフタロシアニン、好ましくは含水ケーキ(含水率50〜95%)のチタニルフタロシアニンを水−有機溶剤混合溶媒を用いて結晶変換を行う(結晶変態調製工程(II))。この際、ガラスビーズ、スチールビーズおよびアルミナビーズなどの分散助剤を用いることが好ましく、この中でもガラスビーズを用いることが更に好ましい。また分散助剤の粒径は、通常0.1〜10mm、好ましくは0.3〜5mmである。なお、本発明に用いることのできる分散助剤は上記の分散助剤に限定されない。
【0029】
分散助剤の使用量は、特に限定はなく、チタニルフタロシアニンの含水ケーキ(含水率50〜95%)中の水と水−有機溶剤混合溶媒の重量に対して、10〜100%、好ましくは40〜60%である。
【0030】
本発明の結晶変換で使用する水−有機溶剤混合溶媒に含まれる有機溶剤としては、チタニルフタロシアニンを溶解しないものであれば特に限定されず、所望の結晶変態に応じて、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールおよびイソプロパノールなどの一価の低級アルコール系溶媒;THF、ジエチルエーテルおよびジオキサンなどの鎖状または環状のエーテル系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびテトラリンなどの炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0031】
本発明の結晶変換で使用する水−有機溶剤混合溶媒の混合比(水/有機溶剤)は、容量基準で1/80〜50/80、好ましくは2/80〜20/80である。
【0032】
本発明の結晶変換では従来公知の装置を用いることができる。例えば、通常の合成反応に用いられる反応釜が挙げられる。また、サンドミル、アトライター、ロールミル、ホモミキサー等でも良い。
【0033】
本発明における結晶変換では、上記装置を利用して、溶媒存在下、前行程で得られたチタニルフタロシアニンに分散助剤を加えた混合液をある一定の撹拌効率以上に撹拌分散し、分散媒体とのせん断応力による動力エネルギーのチタニルフタロシアニンへの移動に伴う結晶変態の調製が必要である。
【0034】
この指標として、上記装置の撹拌翼の回転に伴う液体の抵抗力から算出される撹拌所要動力P[kg−m/sec](化学工学協会編、初歩化学工学(名文書房)、佐竹化学機械工業(株)編、撹拌技術、山本・西野監修、1992年)が挙げられる。撹拌所要動力を調整することにより、低結晶性チタニルフタロシアニンを本発明の結晶変態へと変換することが出来る。この撹拌所要動力が低いと、図3のようなX線回折スペクトルを示す、従来の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンが再現よく得られる。
【0035】
撹拌所要動力に影響する因子として、次の4種に大別される。
1)撹拌翼に関係する因子:翼長d〔m〕、翼幅b〔m〕、羽根板角度(回転面に対する傾斜角)θ、回転速度N〔1/sec〕
2)円筒撹拌槽に関する因子:槽直径D〔m〕、液深さH〔m〕
3)撹拌液に関する因子:液密度ρ〔kg/m〕、液粘度μ〔kg/m・sec〕
4)重力加速度g〔m/sec
【0036】
取り付け高さ等のパラメーターについては撹拌槽と撹拌翼が相似形とした場合として近似し、無視した。これらから所要動力数Pgcを用いると、動力数Npは、一般に、下記式(2):
【0037】
【数1】

(Re:レイノルズ数、Fr:フィールド数)の関数f
で表され、撹拌所要動力Pは下記式(3):
【0038】
【数2】

で表される。
【0039】
櫂型撹拌翼の場合、動力数Npに関する経験式として、下記式(4):
【数3】

が提示されており、式中のRe、A、B、pはそれぞれ下記式(5)〜(8):
【0040】
Re=dNρ/μ ・・・(5)
A=14+(b/D)[670(d/D−0.6)+185] ・・・(6)
B=10^[1.3−4(d/D−0.5)−1.14(d/D)] ・・・(7)
p=1.1+4(b/D)−2.5(d/D−0.5)−7(b/D)・・・(8)
で示される。
【0041】
以上の式より本発明に用いた撹拌所要動力が導かれる。なお、本発明に用いることのできる撹拌翼は櫂型のものに限定されることはない。
【0042】
本発明の結晶変換では撹拌所要動力が3.0[kg−m/sec]以上で行うことが必要である。撹拌所要動力が3.0[kg−m/sec]未満であると結晶へのエネルギー移動が十分でなく、十分な結晶変換が行われず、従来の結晶変態を持つチタニルフタロシアニンが得られる。撹拌所用動力は、好ましくは3.0〜15[kg−m/sec]、より好ましくは3.0〜7.5[kg−m/sec]である。
【0043】
結晶変換は、室温(通常、15〜40℃)で10時間以上、好ましくは10〜50時間行われる。変換工程が10時間を下回ると結晶変態の形成が不十分となり、50時間を上回って行っても一般に有意な効果が得られない。この結晶変換操作により、本発明の結晶変態の成長が促進され、感光特性に優れる新規結晶変態のチタニルフタロシアニンを得ることができる。本明細書中、当該結晶変換操作を「室温分散」と称する場合もある。
【0044】
結晶変換終了後、分散助剤を除去する。これには分散助剤のみを除去できるものであれば特に限定されないが、孔径が150〜300μmのふるいを用いることが好ましい。孔径が150μmより小さいと除去に時間がかかり、歩溜が悪い。また、300μm以上のものを用いると分散助剤の破片がチタニルフタロシアニンに混入する恐れがあり、感光特性を悪化させる原因となる。
【0045】
分散助剤を除去した後の懸濁液を濾過および洗浄することにより、本発明の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンが得られる。濾過には特に限定はなく、洗浄にはDMF、THF及びメタノールなどの有機溶剤、イオン交換水、蒸留水等を適宜用いる。さらに、本発明の製造方法においては、各種の公知の精製方法を用いることが出来る。また、本発明のチタニルフタロシアニンを電子写真感光体に適用するためには、チタニルフタロシアニンとして高純度のものであることが好ましい。
【0046】
濾過洗浄終了後、前記で得られたチタニルフタロシアニンを減圧下にて乾燥することが好ましい。乾燥温度は、通常40〜100℃、好ましくは50〜70℃である。乾燥時間は15〜70時間である。乾燥終了後、粉砕し、本発明のチタニルフタロシアニンを電荷発生材料として電子写真感光体に用いることができる。
【0047】
本発明の製造方法では、溶剤による熱懸洗、熱処理などの煩雑な工程を包含しないため、簡便に目的のチタニルフタロシアニンを得ることができる。
【0048】
次に本発明の電子写真感光体について説明する。
【0049】
本発明の電子写真感光体は、電荷発生材料として、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2゜)の9.0°、9.6°、14.1°、14.9°、17.9°、18.3°、23.4°、24.5°、27.2°にピークを持つ結晶変態を有するチタニルフタロシアニンであって、
9.6°/9.0°のピーク強度比をIr1、14.1°/14.9°のピーク強度比をIr2、17.9°/18.3°のピーク強度比をIr3、24.5°/23.4°のピーク強度比をIr4とすると、
当該ピーク強度比それぞれが、
1.3<Ir1<1.8、1.0<Ir2、1.3<Ir3<2.0、および0.9<Ir4<1.1の範囲を有するチタニルフタロシアニンを含有することを特徴とする。本発明のチタニルフタロシアニンを電荷発生材料とする電子写真感光体は帯電性が良好で、高感度及び高耐久性であり、デジタル感光特性に優れる。
【0050】
上記チタニルフタロシアニンの強度比Ir2が、1.0<Ir2<2.0であると好ましい感光特性を示し、1.0<Ir2<1.5であるとさらに好ましい。
【0051】
本発明の特定の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンを含有する電子写真感光体は、感光層が電荷発生層と電荷輸送層とに分離した二層構造のものであってもよく、単層構造のものであってもよい。しかし、チタニルフタロシアニンの結晶変態の感光特性を有効に発揮させるためには、発生した電荷が捕獲される可能性が小さく、各層がそれぞれの機能を阻害することなく、効率よく感光体表面に輸送される二層構造又はマルチ構造の機能分離型感光体に適用することが好ましい。
【0052】
このような機能分離型感光体は、例えば、導電性支持体上に電荷発生層と電荷輸送層とを薄膜状に積層して形成される。導電性支持体の基材としては、アルミニウム、ニッケル等の金属、金属蒸着フィルム等を用いることができ、これらはドラム状、シート状又はベルト状の形態で作製される。
【0053】
電子写真感光体への適用は、まず本発明のチタニルフタロシアニンを電荷発生材料[CG材料(CGM)]として含む電荷発生層を導電性支持体上に薄膜状に形成する。この際の電荷発生層は、チタニルフタロシアニンを導電性支持体上に蒸着させるか、結着樹脂を溶剤に溶解した溶液に電荷発生材料を分散させた塗布液を調製して、それを支持体上に塗布することによって形成する。
【0054】
チタニルフタロシアニンを分散させる方法としては、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカー等を用いる通常の分散法を採用することができる。
【0055】
電荷発生層の塗布手段としては、特に限定されることはなく、例えば、バーコーター、ディップコーター、スピンコーター、ローラーコーター等を適宜使用することができる。乾燥は、例えば、30〜200℃の温度で5分〜5時間、静止又は送風下で行うことができる。
【0056】
塗布液用の溶剤としては、チタニルフタロシアニンを溶解することなく、均一に分散させ、必要に応じて用いられる結着樹脂を溶解するものであれば特に限定されることはなく、公知の有機溶剤を用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤;トルエン、キシレン、テトラリン等の芳香族系溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン、四塩化炭素等のハロゲン系溶剤;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0057】
結着樹脂は、広範な絶縁性樹脂から選択することができる。好ましい樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリアミド等の縮合系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリル共重合体、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル−ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等の付加重合体;ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン等の絶縁性樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらは適宜混合して用いることができる。なお、本発明に用いることができる結着樹脂は上記に限定されるものではない。
【0058】
上記結着樹脂の使用量は、電荷発生材料に対して、0.1〜3重量比であり、3重量比よりも大であると、電荷発生層における電荷発生材料濃度が小さくなり感度が悪くなる。電荷発生層の膜厚は、一般に、0.05〜5.0μmであり、10μm以下である。
【0059】
次に電荷発生層の上部に、電荷輸送材料[CT材料(CTM)]を含む電荷輸送層を薄膜状に形成する。この薄膜形成法としては、電荷発生層と同様な塗布法が用いられ、電荷輸送材料を、必要に応じて結着樹脂と共に溶剤に溶解し、電荷発生層の上部に均一に塗布し、その後乾燥させればよい。
【0060】
電荷輸送材料としては、オキサジアゾール系、ピラゾリン系、ピラゾール系、ヒドラゾン系、トリアジン系、キナゾリン系、トリアリールアミン系、メタフェニレンジアミン系、カルバゾール系、インドール系、イミダゾール系、スチリル系、スチリルトリアリールアミン系、ブタジエン系などの公知の化合物が使用できる。
【0061】
電荷輸送層を形成する結着樹脂及び溶剤としては、前記電荷発生層に使用されるものと同様なものが使用できる。
【0062】
上記結着樹脂の使用量は、電荷輸送材料に対して、0.1〜5重量比であり、5重量比よりも大であると、電荷輸送層における電荷輸送材料濃度が小さくなり感度が悪くなる。電荷輸送層の膜厚は、一般に、5〜100μmであり、100μmより大きくなると電荷の輸送により多くの時間を要するようになり、又、電荷が捕獲される確立が大きくなり感度の低下の原因となるため好ましくない。
【実施例】
【0063】
以下本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
また、本発明の結晶変換時における撹拌所要動力を決定するパラメーターの液密度ρ、液粘度μは、すべての反応条件で仕込み比率が同一であるため、液密度ρ:1338〔kg/m〕、液粘度μ:0.25〔kg/m・sec〕を用いた。
【0065】
実施例1
【0066】
(1−A)α型チタニルフタロシアニンの合成工程
o−フタロニトリル100g(0.780mol)、キノリン1Lを2Lセパラブルフラスコに仕込み、窒素雰囲気下で撹拌し、四塩化チタン84.98g(0.448mol)を加えた。その後、180℃に昇温し、その温度で6時間加熱撹拌した。反応終了後、系内の温度が150℃に低下すると熱時ろ過を行い、熱DMF(110℃)1Lで振り掛け洗浄した。
得られたウェットケーキをDMF640mlに加え、130℃で2時間分散し、この温度のまま熱時ろ過後、DMF1Lで振り掛け洗浄した。この操作を4回繰り返した後、メタノール1Lで振り掛け洗浄した。得られたウェットケーキを40℃で減圧乾燥し、青色固体を得た。収量:86.3g、収率:76.8%。
【0067】
(1−B)アシッドペースティング処理工程
濃硫酸900gを氷―メタノール浴で3℃以下に冷却し、上記で得られた青色固体30g(52mmol)を5℃以下に保ちながら投入した。5℃以下で1時間撹拌後、水9000ml、氷1000mlに5℃を超えないように反応混合物を滴下した。室温で2時間分散後、静置、ろ過を行った。得られたケーキを水6000ml中に加え、室温で1時間分散後、静置し、ろ過した。前操作を3回繰り返した。得られたケーキを水5000ml中に投入し、室温で1時間分散後、静置し、ろ過した。前操作を2回繰り返した後、イオン交換水2000mlで振り掛け洗浄し、pH>6.0、電導度<20μSを満たしたところでウェットケーキを取り出した。収量:91g(含水率72%)、収率:85.0%(乾燥品換算)。
上記で得られたウェットケーキを乾燥し、自動X線回折システム(商品名:MXP18、マックサイエンス社製)を用い、X線回折分析を行ったところ、これは、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)の7.0°、23.5°および25.5°にピークを有する、低結晶性チタニルフタロシアニンであった。この低結晶性チタニルフタロシアニンのX線回折チャートを図2に示す。
【0068】
(1−C)結晶変換工程
(1−B)で得たウェットケーキ50.1g、イオン交換水0.25L、THF 1.75L、0.5mmφガラスビーズ1.51kgを5Lビーカーに仕込み、スリーワンモータ(新東科学社製)、櫂型撹拌羽根を用いて表1に示す撹拌条件にて15時間、室温分散(25℃)した。孔径250μmふるいでビーズを分離し、分散液を減圧濾過した。
得られたケーキをTHF0.2L、メタノール0.2Lで振り掛け洗浄後、得られたケーキ32.8gを減圧下、70℃で24時間乾燥した。得られた固体を150μmふるいで粉砕し、目的結晶変態を有するチタニルフタロシアニンを得た。収量:12.0g、収率:85.6%。
このチタニルフタロシアニンのX線回折チャートを図1に示す。
更に各ピークの強度比を計算し、表3に示す。
【0069】
実施例2
【0070】
(2−A)α型チタニルフタロシアニンの合成工程
上記(1−A)と同様の操作を100倍の仕込み量で行い、α型チタニルフタロシアニンを得た。
【0071】
(2−B)アシッドペースティング処理工程
上記(1−B)と同様の操作を100倍の仕込み量でアシッドペースティング処理を行った。
【0072】
(2−C)結晶変換工程
(2−B)で得たウェットケーキ502.5g、イオン交換水2.5L、THF17.5L、0.5mmφガラスビーズ15.2kgを50Lホーロー釜に仕込み、Traction Drive(小)(中央理化社製)、プロペラ型撹拌羽根を用いて表1に示す撹拌条件にて15時間、室温分散(25℃)した。孔径250μmふるいでビーズを分離し、分散液を減圧濾過した。ケーキをTHF2L、メタノール2Lで振り掛け洗浄後、得られたケーキ307.8gを減圧下、70℃で24時間乾燥した。得られた固体を150μmふるいで粉砕し、目的結晶変態を有するチタニルフタロシアニンを得た。X線回折スペクトルが図1と同等であることを確認した。収量:118.2g、収率:84.3%。
【0073】
実施例3
【0074】
(3−A)α型チタニルフタロシアニンの合成工程
上記(2−A)と同様の操作でα型チタニルフタロシアニンを得た。
【0075】
(3−B)アシッドペースティング処理工程
上記(2−B)と同様の操作でアシッドペースティング処理を行った。
【0076】
(3−C)結晶変換工程
実施例1の(1―C)と同様の操作を90倍の仕込み量で行った。
(3−B)で得たウェットケーキ4.32kg、イオン交換水9.8L、THF80.0L、0.5mmφガラスビーズ69.3kgを200L SUSタンクに仕込み、Traction Drive(大)(佐竹化学機械工業社製)、櫂型撹拌羽根を用いて表1に示す撹拌条件にて18時間、室温分散(25℃)した。孔径250μmふるいでビーズを分離し、分散液を減圧濾過した。ケーキをTHF10L、メタノール10Lで振り掛け洗浄後、得られたケーキ3.64kgを減圧下、70℃で38時間乾燥した。得られた固体を150μmふるいで粉砕し、目的結晶変態を有するチタニルフタロシアニンを得た。X線回折スペクトルが図1と同等であることを確認した。収量:1.10kg、収率:94.4%。
【0077】
実施例4
【0078】
(4−A)α型チタニルフタロシアニンの合成工程
上記(2−A)と同様の操作でα型チタニルフタロシアニンを得た。
【0079】
(4−B)アシッドペースティング処理工程
上記(2−B)と同様の操作でアシッドペースティング処理を行った。
【0080】
(4−C)結晶変換工程
実施例1の(1−C)と同様の操作を90倍の仕込み量で行った。
(4−B)で得たウェットケーキ4.54kg、イオン交換水9.6L、THF80.0L、0.5mmφガラスビーズ69.3kgを、工業化に適応した200Lの反応釜に仕込み、備え付けの撹拌装置(椿本チェーン社製)、櫂型撹拌羽を用いて表1に示す撹拌条件にて18時間、室温分散(25℃)した。孔径250μmふるいでビーズを分離し、分散液を減圧濾過した。ケーキをTHF10L、メタノール10Lで振り掛け洗浄後、得られたケーキ3.64kgを減圧下、70℃で38時間乾燥した。得られた固体を150μmふるいで粉砕し、目的結晶変態を有するチタニルフタロシアニンを得た。X線回折スペクトルが図1と同等であることを確認した。収量:1.18kg、収率:97.6%。
【0081】
比較例1
特公平7−91486号公報(特許文献1)記載の実施例に従って、フタロジニトリル97.5gをα−クロロナフタレン750ml中に加え、次に窒素雰囲気下で四塩化チタン22mlを滴下する。滴下後昇温し、撹拌しながら200〜220℃で3時間反応させた後、放冷し、100〜130℃で熱時濾過し、100℃に加熱したα−クロロナフタレン200mlで洗浄した。得られた粗ケーキをα−クロロナフタレン300ml、次にメタノール300mlで室温にて懸洗し、さらに、メタノール800mlで1時間熱懸洗を数回行ない、得られたケーキを水700ml中に懸濁させ、2時間熱懸洗を行なった。
濾液のpHは1以下であった。熱水懸洗を濾液のpHが6〜7になるまで繰返した。
その結果、本発明の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンは得られず、α型およびγ型の混晶が得られた。このX線回折スペクトルを図3に示す。
【0082】
比較例2
比較例2は実施例2の(2−C)における条件で0.5mmφガラスビーズを加えないこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。実施例で得たウェットケーキ1000.0g、イオン交換水5.0L、THF35.0Lを50Lホーロー釜に仕込み、12時間、室温分散(25℃)した。分散液を減圧濾過し、ケーキをTHF3Lでろ液に色が無くなるまで洗浄し、得られたウェットケーキ699.5gを減圧下、70℃で24時間乾燥した。得られた固体を150μmふるいで粉砕し、特公平7−91486号公報(特許文献1)記載と同じブラッグ角2θを持つ結晶変態(γ型)を有するチタニルフタロシアニンを得た。X線回折スペクトルを図4に示す。収量:118.2g、収率:84.3%。
【0083】
比較例3
比較例3は、表1に示すように実施例1の(1−C)で用いた撹拌条件中の撹拌速度を500rpmから300rpmに代える以外は実施例1と同様の操作を行った。この結果、本発明の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンは得られず、従来のγ型のチタニルフタロシアニンが得られた。
【0084】
比較例4
比較例4は表1に示すように、実施例1の(1−C)で用いた撹拌条件中の撹拌速度を500rpmから450rpmに変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。この結果、本発明の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンは得られず、γ型のチタニルフタロシアニンが得られた。
【0085】
比較例5
比較例5は表1に示すように実施例1の(1−C)で用いた撹拌条件中の撹拌羽根を変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。この結果、本発明の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンは得られず、γ型のチタニルフタロシアニンが得られた。
【0086】
比較例6
比較例6は実施例2の(2−C)における、撹拌条件を表1に示したように、撹拌速度を250rpmから150rpmに変更した以外は実施例2と同様の操作を行った。この結果、本発明の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンは得られず、γ型のチタニルフタロシアニンが得られた。
【0087】
比較例7
比較例7は実施例4の(4−C)において、撹拌条件を表1に示したように、撹拌速度を73rpmから35rpmに変更した以外は実施例4と同様の操作を行った。この結果、本発明の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンは得られず、γ型のチタニルフタロシアニンが得られた。
【0088】
以下の表に実施例1〜4と比較例3〜7の撹拌条件、撹拌所要動力を示す。
【表1】

【0089】
表1記載の値及び、液密度ρ:1338〔kg/m〕、液粘度μ:0.25〔kg/m・sec〕の値を用いて撹拌所要動力を求めた。その計算に用いたパラメーターの計算結果を以下の表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
下記表3に実施例および比較例で製造したチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルのピーク強度比を示す。なお、XRDパターンの評価は、4つのピーク強度比(Ir1、Ir2、Ir3およびIr4)が本発明の要件の範囲をすべて満たしているものは○、3つ満たしたものは△、その他を×とした。
【0092】
【表3】

【0093】
上記の各表より、本発明の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンを得るためには3.0[kg−m/sec]以上の撹拌所要動力で撹拌する必要がある。特に撹拌速度を遅くした場合(比較例3、6および7)、撹拌効率の悪い撹拌翼(比較例5)では、撹拌所要動力1.0[kg−m/sec]程度もしくは1.0[kg−m/sec]よりも小さくなり、100時間以上撹拌を続けても本発明の結晶変態のチタニルフタロシアニンは得られず、公知の結晶変態γ型が得られた。
【0094】
次に本発明のチタニルフタロシアニンを用いた電子写真感光体の作成法について具体例を挙げて説明する。なお、これらに本発明の電子写真感光体が限定されることはない。
【0095】
実施例5
実施例1で得たチタニルフタロシアニン結晶0.2gとポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBH−3、積水化学工業社製)0.2g、3mmφガラスビーズ50g、シクロヘキサノン59.6gを広口瓶に入れ、ペイントシェーカーで3時間ミリングし、感光層形成用塗布液を調整した。これをアルミニウム板上に膜厚が0.5μmになるようバーコーターを用いて製膜し、風乾させて電荷発生層を形成した。
【0096】
次に電荷輸送材料(CTM)としてp−(N,N'−ジフェニルアミノ)ベンズアルデヒド−N'−メチル−N'−フェニルヒドラジン(商品名:CT−501、富士写真フィルム社製)4.5g、ポリカーボネート樹脂(商品名:パンライトL−1250、帝人社製)4.5g及び塩化メチレン51gを広口瓶に入れ、超音波分散により均一な溶液を調整した。これを電荷発生層の上にバーコーターを用いて塗布し、80℃で3時間乾燥して、膜厚60μmの電荷輸送層を形成した有機感光体(片)を作成した。
【0097】
実施例6
実施例5で用いた実施例1で得たチタニルフタロシアニン結晶を実施例2で得たチタニルフタロシアニン結晶に変えた以外は実施例5と同様に有機感光体を作成した。
【0098】
実施例7
実施例5で用いた実施例1で得たチタニルフタロシアニン結晶を実施例3で得たチタニルフタロシアニン結晶に変えた以外は実施例5と同様に有機感光体を作成した。
【0099】
実施例8
実施例5で用いた実施例1で得たチタニルフタロシアニン結晶を実施例4で得たチタニルフタロシアニン結晶に変えた以外は実施例5と同様に有機感光体を作成した。
【0100】
比較例8
実施例5で用いた実施例1で得たチタニルフタロシアニン結晶を比較例1で得たチタニルフタロシアニン結晶に変えた以外は実施例5と同様に有機感光体を作成した。
【0101】
比較例9
実施例5で用いた実施例1で得たチタニルフタロシアニン結晶を比較例2で得たチタニルフタロシアニン結晶に変えた以外は実施例5と同様に有機感光体を作成した。
【0102】
比較例10
実施例5で用いた実施例1で得たチタニルフタロシアニン結晶を比較例3で得たチタニルフタロシアニン結晶に変えた以外は実施例5と同様に有機感光体を作成した。
【0103】
比較例11
実施例5で用いた実施例1で得たチタニルフタロシアニン結晶を比較例7で得たチタニルフタロシアニン結晶に変えた以外は実施例5と同様に有機感光体を作成した。
【0104】
上記実施例5〜8、比較例8〜11において作成した感光体につき、電子写真特性の測定を行った。測定は静電気試験測定装置(商品名:ペーパーアナライザーEPA−8200、川口電気社製)を用い、まず、−0.8kVでSTAT3モードにて帯電し、2秒間暗所放置後、5.0 luxの白色光を10秒間照射して、帯電電位(Vmax)、暗減衰率(DDR)(%)、残留電位(Vre.)、半減露光量感度E1/2(lux・s)を測定し、評価した。以上の測定結果を表4にまとめた。
【0105】
暗減衰率(DDR)(%)の測定は、帯電直後の表面電位(V=Vmax)及び2秒間暗所放置後の表面電位(V)を測定し、下記式(9):
【0106】
暗減衰率(%)=100×(V−V)/V・・・・(9)
より求めた。
評価
表中において、帯電性判定は帯電電位(Vmax)が−700V以下を◎、−700〜−600Vの範囲を○、−600V以上を×とした。
感度判定は半減露光量感度(E1/2)の値が1付近であれば、感光体として、実用的に使用できる良好な感度であると判断し、○とした。
【0107】
【表4】

【0108】
分光感度特性スペクトル(図5)から、各波長において実施例は比較例よりも高い感度を示した。中でも複写機やプリンター等の光源として汎用に使用されているLDの波長領域780〜800nmに最も高い感度であった。
【0109】
上記表4と図5(分光感度特性スペクトル)から、本発明の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンを電荷発生材料として用いた電子写真感光体における電気特性は、実施例1〜4のいずれのスケールで製造されたチタニルフタロシアニンでも比較例のγ型チタニルフタロシアニンの結晶変態を電荷発生材料とした電子写真感光体よりも特性が格段に向上していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明により、新規な結晶変態を有するチタニルフタロシアニンを提供し、これは簡便に、また、工業的なスケールでも安定して製造することが出来る。さらに、本発明のチタニルフタロシアニンは、電子写真感光体における電気特性が従来のγ型チタニルフタロシアニンと比較して格段に優れている。従って、本発明は有機感光体分野の有用な電荷発生材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明のチタニルフタロシアニン結晶変態のX線回折スペクトルである。
【図2】アシッドペースティング処理後の低結晶性チタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルである。
【図3】比較例1で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルである(α型とγ型の混晶)。
【図4】比較例2で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルである(γ型)。
【図5】実施例5〜8、比較例8および9の分光感度特性スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の9.0°、9.6°、14.1°、14.9°、17.9°、18.3°、23.4°、24.5°、27.2°にピークを持つ結晶変態を有するチタニルフタロシアニンにおいて、
前記ブラッグ角のピークに関して、
9.6°/9.0°のピーク強度比をIr1
14.1°/14.9°のピーク強度比をIr2
17.9°/18.3°のピーク強度比をIr3
24.5°/23.4°のピーク強度比をIr4とすると、
当該ピーク強度比が、
1.3<Ir1<1.8、
1.0<Ir2
1.3<Ir3<2.0、および
0.9<Ir4<1.1であることを特徴とする、
下記式(1):
【化1】

で表されるチタニルフタロシアニン。
【請求項2】
(I)α型結晶変態を有するチタニルフタロシアニンをアシッドペースティング処理して含水ケーキのチタニルフタロシアニンを得る工程;
(II)前工程で得られたチタニルフタロシアニンに分散助剤を加え、水−有機溶剤混合溶媒中で、室温分散にて結晶変態を調製する工程;
(III)濾過洗浄し、減圧乾燥する工程;
を包含するCuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の9.0°、9.6°、14.1°、14.9°、17.9°、18.3°、23.4°、24.5°、27.2°にピークを持つ結晶変態を有するチタニルフタロシアニンの製造方法において、前記(II)結晶変態を調製する工程で、撹拌所要動力が3.0[kg−m/sec]以上の値になる撹拌条件で室温分散することを特徴とする、チタニルフタロシアニンの製造方法。
【請求項3】
前記工程(I)で得られるチタニルフタロシアニンが、低結晶性チタニルフタロシアニンである、請求項2記載のチタニルフタロシアニンの製造方法。
【請求項4】
前記低結晶性チタニルフタロシアニンが、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)の7.0°、23.5°および25.5°にピークを有する、請求項3記載のチタニルフタロシアニンの製造方法。
【請求項5】
電荷発生材料として請求項1記載のチタニルフタロシアニンを用いる電子写真感光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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