説明

特定物質回収装置及びこれを用いた核酸抽出装置

【課題】 効率よく、簡便かつ迅速で、自動化適性に優れ、再現性の高い試料液中の特定物質回収処理が行える特定物質回収装置及びこれを用いた核酸抽出装置を提供する。
【解決手段】 特定物質回収装置を用いた核酸抽出装置100は、フィルター部材11bを備えたカートリッジ11に対し、試料液Sを注入し加圧して該試料液S中の特定物質をフィルター部材11bに吸着させた後、カートリッジ11に回収液Rを分注し加圧してフィルター部材11bに吸着した特定物質を回収液Rとともに回収する。また、核酸抽出装置100は、カートリッジ11に対して加圧ノズル41から加圧空気を導入する加圧空気供給手段4と、カートリッジ11内の圧力を検出する圧力検出手段46と、圧力検出手段46が検出する圧力により、特定物質の回収を行うべき被処理対象カートリッジであるか否かを判定する被処理対象判定手段70とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター部材を備えたカートリッジを用いて試料液中の特定物質、例えば、核酸等を自動抽出する特定物質回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特定物質、例えば、核酸の従来の抽出法としては、遠心法によるもの、磁気ビーズを用いるもの、フィルターを用いるもの等がある。
フィルターを用いて特定物質の一例である核酸を抽出する核酸抽出装置としては、フィルターを収容したフィルターチューブをラックに多数セットし、これに試料液を分注し、上記ラックの底部の周囲を、シール材を介してエアチャンバーで密閉して内部を減圧し、全フィルターチューブを同時に排出側より吸引し試料液を通過させて核酸をフィルターに吸着し、その後、洗浄液及び溶出液を分注して、同様に減圧吸引して洗浄・溶出するようにした機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2832586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来の自動抽出装置では、装置が大型で多量の検体を分析する場合に適したもので、検体数が少なく分析頻度の少ない場合には、高価で不向きであるとともに、処理効率が低くなる問題を有する。
また、このような装置においては、短時間で効率よくコンタミネーションが発生しないように処理し、かつ、装置を小型化する等の点が要望されるが、特許文献1では次のような問題がある。
採取全血のように各試料液の特性が異なる場合に、特許文献1のように全体を同時に吸引するものでは、一部のフィルターチューブの吸引が終了してその抵抗がなくなると、他のフィルターチューブに作用する減圧が小さくなって粘度の高い試料液の処理が終了しない場合が生じる。その減圧容量を増大することは装置の小型化を図る際の障害となり、減圧容積が大きいために減圧を作用させるまでの時間が掛かり、また、液が全部排出されたことの検出が困難で、時間設定が長く、処理効率の向上の障害となる。一方、粘度の低い試料液では、フィルターチューブより勢いよく液が排出されて、泡状の飛沫が隣接するフィルターチューブ及びラックに付着してコンタミネーションを生じ、精度低下を招く問題がある。
【0004】
そこで、本願出願人は、上記問題を解決すべく鋭意検討を加えた結果、試料液中の特定物質回収装置の一例である新規な核酸抽出装置を完成した。この核酸抽出装置は、核酸を含む試料溶液を用いて、容器内に核酸吸着性多孔膜(フィルター部材)を収容した核酸抽出カートリッジ(以後、カートリッジと言う)と圧力発生装置により、核酸を含む資料溶液中の核酸を核酸吸着性多孔膜に吸着させ、その後、洗浄等を経て、核酸を分離精製するものである。
【0005】
新規な核酸抽出装置は、核酸吸着性多孔膜が装着され、核酸を含む試料液が注入されるカートリッジと、該カートリッジにそれぞれ対応してカートリッジの下方に配置された廃液容器及び回収容器を複数組備え、カートリッジに洗浄液W及び回収液Rを分注すると共に、加圧空気供給手段によりカートリッジに加圧エアを導入して試料液から核酸を含む回収液を回収容器に回収する。カートリッジ、廃液容器、及び回収容器の複数の組は、整列した状態で配置されており、各カートリッジに対して上記した抽出操作が順次行われる。
【0006】
図16(a)に示すように、新規な核酸抽出装置に用いられ、特定物質を含む試料液が注入されるカートリッジ11は、上端が開口した筒状本体11aの底部に核酸吸着性多孔膜(フィルター部材)11bが保持され、筒状本体11aの核酸吸着性多孔膜11bより下方部位はロート状に形成され、下端中心部に細管ノズル状の排出部11cが所定長さに突出形成され、筒状本体11aの側部両側に縦方向の突起11dが形成されてなる。カートリッジ11の上部開口11eより後述の試料液、洗浄液、回収液が分注された後、上部開口11eより加圧エアが導入され、各液が核酸吸着性多孔膜11bを通して排出部11cより後述の廃液容器12又は回収容器13に流下排出する。
なお、図示の場合、筒状本体11aは上部と下部に分割され嵌着する構造となっている。また、上部開口11eは、図16(b)にP−P断面を示すように、内周面をテーパ状にカットした傾斜面11fを有し、この傾斜面11fは、加圧空気供給手段の加圧ノズル(図示せず)先端の傾斜外周面に略一致するように形成されている。
【0007】
この核酸抽出装置による核酸の抽出工程の概略を説明する。
核酸抽出装置は、基本的に図17(a)〜(g)に示すような抽出工程によって核酸の抽出を行う。まず図17の(a)工程で、廃液容器12上に位置するカートリッジ11に溶解処理された核酸を含む試料液Sを注入する。次に(b)工程で、カートリッジ11に加圧エアを導入して加圧し、核酸吸着性多孔膜11bを通して試料液Sを通過させ、この核酸吸着性多孔膜11bに核酸を吸着させ、通過した液状成分は廃液容器12に排出する。
【0008】
次に(c)工程でカートリッジ11に洗浄液Wを自動分注し、(d)工程でカートリッジ11に加圧エアを導入して加圧し、核酸吸着性多孔膜11bに核酸を保持したままその他の不純物の洗浄除去を行い、通過した洗浄液Wを廃液容器12に排出する。この(c)工程及び(d)工程は複数回繰り返してもよい。
【0009】
その後、(e)工程でカートリッジ11の下方の廃液容器12を回収容器13に交換してから、(f)工程でカートリッジ11に回収液Rを自動分注し、(g)工程でカートリッジ11に加圧エアを導入して加圧し、核酸吸着性多孔膜11bと核酸の結合力を弱め、吸着されている核酸を離脱させて、核酸を含む回収液Rを回収容器13に排出し回収する。
【0010】
上記カートリッジ11における核酸吸着性多孔膜11bは、基本的には核酸が通過可能な多孔質体であり、その表面は試料液中の核酸を化学的結合力で吸着する特性を有し、洗浄液による洗浄時にはその吸着を保持し、回収液による回収時に核酸の吸着力を弱めて離すように構成されてなる。
【0011】
ところが、上記の工程を自動的に行う核酸抽出装置には、次のような問題があった。
核酸抽出を効率的に行えるように、核酸抽出装置には複数のカートリッジ11がカートリッジホルダに整列した状態で装着可能である。核酸を抽出すべき試料液の数が少なく、装着可能カートリッジ数より少ないカートリッジ11が装着されていたり(即ち、カートリッジホルダにカートリッジ11が装着されていない部分がある)、何らかの原因により核酸吸着性多孔膜11bが欠落しているカートリッジ11が装着されていたり、或いは、誤って試料液が注入されていないカートリッジ11があっても、核酸抽出装置は、これらの異常を検出することができず、全てのカートリッジ11が正常に装着されているものとして順次、核酸の抽出作用を行う。
【0012】
上記したように、カートリッジ11の不装着、核酸吸着性多孔膜11bの欠落、試料液の不注入等のように、本来、抽出操作が不要、又は実質的に無駄である箇所で抽出操作することは時間の無駄であり、作業効率を著しく低下させて抽出の処理能力向上の障害となっていた。また、このような箇所で洗浄液Wや回収液Rを分注すると、洗浄液Wや回収液Rが装置本体内に滴下してしまい、装置内部を汚染する問題があった。この問題は、廃液容器12及び回収容器13を本来不要である箇所にも配置して、滴下する無駄な洗浄液Wや回収液Rを収容するようにすれば回避可能である。しかし、カートリッジ11の不装着の場合は、廃液容器12及び回収容器13よりかなり上方に配置された分注ノズルから洗浄液Wや回収液Rが滴下されるので、該液の飛沫が飛散して周囲を汚染する虞がある。また、これらの廃液容器12及び回収容器13は、適正に使用されることなく廃棄されて、核酸抽出の費用が嵩む一因となっていた。
【0013】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、効率よく、簡便かつ迅速で、自動化適性に優れ、再現性の高い試料液中の特定物質回収処理が行える特定物質回収装置及びこれを用いた核酸抽出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明は、下記の構成よりなるものである。
(1) フィルター部材を備えたカートリッジを複数個収容可能なカートリッジホルダを有し、該カートリッジホルダに保持された前記カートリッジに対し、試料液を注入し加圧して該試料液中の特定物質を前記フィルター部材に吸着させた後、前記カートリッジに回収液を分注し加圧して前記フィルター部材に吸着した特定物質を前記回収液とともに回収する試料液中の特定物質回収装置であって、前記カートリッジに対して加圧ノズルから加圧空気を導入する加圧空気供給手段と、前記カートリッジ内の圧力を検出する圧力検出手段と、前記加圧空気供給手段により前記カートリッジ内に加圧空気を導入したときに前記圧力検出手段が検出する圧力により、前記特定物質の回収を行う被処理対象カートリッジであるか否かを判定する被処理対象判定手段とを備えたことを特徴とする試料液中の特定物質回収装置。
【0015】
この特定物質回収装置によれば、被処理対象判定手段は、カートリッジ内に加圧空気を導入したときに圧力検出手段が検出する圧力に基づいて、該カートリッジが特定物質の回収を行う被処理対象カートリッジであるか否かを判定し、以後、被処理対象カートリッジに対してのみ特定物質の抽出作用を行う。これにより、抽出作用のタクトアップを図り、特定物質回収装置の稼働率を向上することができる。
【0016】
(2) 前記被処理対象判定手段が、前記圧力検出手段により検出される前記カートリッジ内の圧力のピーク値が予め設定された値よりも低い場合に、そのカートリッジを被処理対象から外すことを特徴とする(1)記載の試料液中の特定物質回収装置。
【0017】
この特定物質回収装置によれば、圧力検出手段により検出されるカートリッジ内の圧力のピーク値が予め設定された値よりも低い場合、そのカートリッジを被処理対象から外して、該カートリッジに対する以後の抽出作用を中止することができる。また、これによって抽出を効率的に行うことができる。
【0018】
(3) 前記被処理対象判定手段が、前記圧力検出手段により検出される前記カートリッジ内の圧力の所定時間内における積分値が予め設定された値よりも小さい場合に、そのカートリッジを被処理対象から外すことを特徴とする(1)記載の試料液中の特定物質回収装置。
【0019】
この特定物質回収装置によれば、圧力検出手段により検出されるカートリッジ内の圧力の所定時間内における積分値が予め設定された値よりも小さい場合、そのカートリッジを被処理対象から外して、該カートリッジに対する以後の抽出作用を中止することができる。また、これによって効率的な抽出作業が可能となる。
【0020】
(4) 前記カートリッジホルダに収容された前記カートリッジに対して、前記加圧空気供給手段の加圧ノズルが、前記カートリッジの配列方向に沿って移動自在に支持されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の試料液中の特定物質回収装置。
【0021】
この特定物質回収装置によれば、空気の加圧ノズルが、カートリッジの配列方向に沿って移動自在に支持されているので、整列している複数のカートリッジの1つづつに、順次加圧空気を供給して該カートリッジが被処理対象カートリッジであるかどうかを判別して、適正な抽出作用を行うことができる。
【0022】
(5) 前記加圧ノズルと、少なくとも前記回収液を吐出する分注ノズルとが、可動体に一体に設けられていることを特徴とする(4)記載の試料液中の特定物質回収装置。
【0023】
この特定物質回収装置によれば、加圧ノズルと分注ノズルとが、可動体に一体に設けられているので、効率よく加圧空気の供給及び回収液の注入を行うことができる。
【0024】
(6) 前記フィルター部材が、多孔膜、不織布、或いは織物のいずれかであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の試料液中の特定物質回収装置。
【0025】
この特定物質回収装置によれば、フィルター部材が、多孔膜、不織布、或いは織物のいずれかであるので、抽出すべき特定物質に応じて最適な特性を有するフィルター部材を用いることができる。これにより、フィルター部材を変更するだけで、多くの種類の特定物質に対応して効率よく回収することができる。
【0026】
(7) 前記特定物質が、生体由来化合物又は生物材料であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項記載の特定物質回収装置。
【0027】
この特定物質回収装置によれば、生体由来化合物又は生物材料を回収することができる。
【0028】
(8) 前記フィルター部材を備えたカートリッジが核酸を抽出するための核酸抽出カートリッジで、前記特定物質が核酸であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の核酸抽出装置。
【0029】
この核酸抽出装置によれば、カートリッジが核酸を抽出するための核酸抽出カートリッジであるので、試料液中の核酸を抽出することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の特定物質回収装置及びこれを用いた核酸抽出装置によれば、効率よく、簡便かつ迅速で、自動化適性に優れ、再現性の高い特定物質回収処理(核酸抽出処理等)が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に本発明に係る特定物質回収装置及びこれを用いた核酸抽出装置について、特に核酸抽出装置を例にとり、その好適な実施の形態について詳細に説明する。
図1は核酸抽出装置の一実施形態であって前面カバーが開放された状態を示す斜視図、図2は前面カバーが閉じられた状態にある核酸抽出装置の外観斜視図、図3は核酸抽出装置の移動ヘッドの概略構成図、図4は核酸抽出装置の概略ブロック構成図、図5は保持機構の斜視図、図6は保持機構の分解斜視図、図7は保持機構及び液容器が取り外された装置本体の斜視図である。
【0032】
本核酸抽出装置100は、容器内にフィルター部材を収容した核酸抽出カートリッジ(以降は単にカートリッジと称する)11、廃液を収容する廃液容器12、及び核酸を含む回収液を収容する回収容器13をそれぞれ複数配列させて保持する保持機構3と、カートリッジ11に単一の加圧ノズル41から加圧エアを導入する加圧エア供給機構4と、カートリッジ11に洗浄液及び回収液をそれぞれ分注する分注ノズル51を有する分注機構5と、加圧エア供給機構4の加圧ノズル41と保持機構3とを相対移動させる移動機構7とを備えて構成される。フィルター部材は、核酸吸着性多孔質固相(ここでは一例として核酸吸着性多孔性膜)が用いられる。
【0033】
そして、この核酸抽出装置100では、(1)核酸を含む試料溶液を核酸吸着性多孔性膜に通過させて、該多孔性膜内に核酸を吸着させる工程、(2)該核酸吸着性多孔性膜を、核酸が吸着した状態で洗浄する工程、及び(3)回収液を該核酸吸着性多孔性膜に通過させて、該多孔性膜内から核酸を分離させる工程を順次実施するものである。
なお、本実施形態の核酸抽出装置100に用いられるカートリッジは、図16において既に説明したものと同様のカートリッジ11が用いられる。
【0034】
核酸抽出装置100は、図1〜図4に示すように、装置本体2に、保持機構3と、カートリッジ11に加圧エアを導入する加圧エア供給機構4と、カートリッジ11に洗浄液W及び回収液Rを分注する分注機構5等を備えてなる。
【0035】
上記装置本体2は、保持機構3、加圧エア供給機構4、分注機構5、及び移動機構7等を収容すると共に天面に操作パネル71を供え前面側が開放された箱状の本体部75と、本体部75の開放面を覆う前面カバー73と、を備える。本体部75の正面側方の壁75bには、正面側から背面側に窪む凹部75aが設けられている。これにより、容器保持台63の側方に作業空間を確保して、後述する容器保持台63を装置本体2に脱着する際、容器保持台63を把持する手などが本体部75に干渉することを防止して、作業性を向上している。
【0036】
次に、保持機構3、加圧エア供給機構4、分注機構5を具体的に説明する。
<保持機構>
保持機構3は、図5及び図6に示すように、カートリッジホルダ61と、容器ホルダ62と、容器保持台63とからなる。容器保持台63には、カートリッジホルダ61及び容器ホルダ62がそれぞれ位置決めされた状態で載置される。カートリッジホルダ61及び容器ホルダ62が載置された容器保持台63は、更に、載置台64上に載置される。
【0037】
図7に示すように、容器ホルダ62の容器交換移動(前後動)は、装置本体2の後壁28から前方に突出し、前後方向及び上下方向に移動自在に設置された作動部材31が、容器交換モータ32(DCモータ)の駆動に応じて移動することで行われる(図4参照)。この前後動により、カートリッジホルダ61に保持されたカートリッジ11の下方に、回収容器13が位置したり、廃液容器12が位置するようになる。上記容器交換モータ32の作動は位置センサ33a,33bの検出に応じて制御される。
【0038】
載置台64は、略矩形枠状に形成された基部64aから両側壁64b,64cが上方に突出して設けられている。両側壁64b,64cの後端上部には、略逆U字形のフック部64dが後方に突出して形成されている。
【0039】
ここで、図8は装置本体の斜視図であり、(a)は装置本体に載置台が取り付けられた状態を示す斜視図、(b)は更に保持機構が載置台に載置された状態を示す斜視図である。
図8(a)に示すように、載置台64は、フック部64dを装置本体2の後壁28に形成された矩形係止穴28a(図7参照)に挿入、係合することにより、基部64aが作動部材31の下方に位置すると共に、両側壁64b,64cが作動部材31の両脇側に配置されるようにして装置本体2に設置される。従って、作動部材31は、両側壁64b,64cの間で前後方向及び上下方向に自在に移動する。
【0040】
そして、図8(b)に示すように、カートリッジホルダ61、容器ホルダ62及び容器保持台63が一体に組み付けられた保持機構3が、装置本体2に設置された載置台64上に載置される。
【0041】
カートリッジホルダ61は、ステンレス鋼板などを略コの字形に折り曲げて形成した台部65と、プレート材66とを備え、2分割構造に構成されている。台部65の両側壁65a,65bの下端は、互いに離間する方向に折り曲げられて支持部65cを形成する。また、両側壁65a,65bの後端上部には、略逆U字形の係止溝65g、65hを有する係止部65f、65jが形成されている(図5,図6参照)。これら係止部65f、65jは、係止ロッド76及び係止ロッド76の切欠溝76aにそれぞれ係合して位置決めされる。
【0042】
両側壁65a,65bを連結する中間部65dの後端は、更に略コの字形に折り曲げられると共に、V字形に形成された複数(図に示す実施形態においては8箇所)のV字保持溝65eを備える。
【0043】
プレート材66は、台部65のV字保持溝65eに対して離接する方向に移動自在に構成されており、内蔵するコイルバネ(図示せず)によってV字保持溝65eに接近する方向に付勢されている。また、プレート材66は、台部65のV字保持溝65eに対応する位置にV字形の保持部(図示せず)が複数形成されており、台部65のV字保持溝65eとプレート材66の保持部との間にコイルバネの弾性力によってカートリッジ11を挟持するようになっている。即ち、台部65のV字保持溝65e、プレート材66の保持部、及びコイルバネによりカートリッジ11の把持機構が構成される。
【0044】
把持機構により挟持されたカートリッジ11は、筒状本体11aの側部両側に形成された突起11d(図16参照)がプレート材66の係合部(不図示)に係合保持される。コイルバネの弾性力に抗してプレート材66を移動させると、突起11dとの係合が解除されてカートリッジ11を全部同時に下方に落下廃棄するようになっている。また、プレート材66の各保持部に相当する位置には、数字が昇順に記載されており、保持されたカートリッジ11が個別に容易に識別できるようになっている。
【0045】
容器保持台63は、図6に示すように、リブ63c,63dにより連結されて一対の側壁63a,63bが対向配置されている。リブ63cは、更に両側方に延設されて一対の把持部材63eが形成されている。また、一対の側壁63a,63bの内壁面下部には、互いに対向する一対の支持リブ63fが水平方向に形成されており、該支持リブ63f上に容器ホルダ62を載置可能となっている。支持リブ63fの上面両端は、上方に突出する突起63gが形成されており、支持リブ63f上に載置された容器ホルダ62が突起63gに当接して前後方向の位置決めがなされる。更に、一対の側壁63a,63bの外壁面前方には、上下方向に縦リブ63hが形成されている。カートリッジホルダ61は、両側壁65a,65bが容器保持台63の一対の側壁63a,63bを挟持しつつ、縦リブ63hと把持部材63eの間に上方から挿入され、位置決めされた状態で容器保持台63に載置される。
【0046】
容器ホルダ62は、その天面で横方向に延びる廃液容器保持孔62aと回収容器保持孔62bとを平行2列に備え、後側の廃液容器保持孔62aに複数の廃液容器12が、前側の回収容器保持孔62bに複数の回収容器13がそれぞれ列状に保持される。廃液容器保持孔62a及び回収容器保持孔62bはカートリッジホルダ61の把持機構(V字保持溝65e)と等ピッチで等位置に配設され、保持された各カートリッジ11の下方にそれぞれ廃液容器12及び回収容器13が位置するように設定されている。
【0047】
2列に形成された廃液容器保持孔62aと回収容器保持孔62bとの間の天面62cには、カートリッジホルダ61に記載された数字と対応する数字が昇順で記載されている。これにより、カートリッジホルダ61に保持されているカートリッジ11と、容器ホルダ62に保持された廃液容器12及び回収容器13とを1対1に対応させて識別することができる。また、容器ホルダ62の底面には、一対の位置決め孔62dが形成されている。なお、この廃液容器12と回収容器13とは混同防止のためにサイズ、形状等が異なったものを使用するのが好ましい。
【0048】
図5に示すように、カートリッジホルダ61は、両側壁65a,65bが容器保持台63の一対の側壁63a,63bを挟持するように容器保持台63の上方から挿入されて載置される。また、容器ホルダ62は、容器保持台63の手前側の開口から挿入されて一対の支持リブ63f上に載置される。これにより、カートリッジホルダ61、容器ホルダ62及び容器保持台63が一体に組み付けられて保持機構3が構成される。保持機構3は、装置本体2に設置された載置台64に載置されるが、このとき、カートリッジホルダ61の支持部65cは、載置台64の両側壁64b,64cの上面64eに当接して保持される。
【0049】
なお、カートリッジホルダ61は、図5のように容器ホルダ62が容器保持台63の一対の支持リブ63f(図6参照)上に載置されている下降した位置では、カートリッジホルダ61に保持されたカートリッジ11の排出部11cの下端(図16参照)は容器ホルダ62にセットされた廃液容器12及び回収容器13より上方に位置している。容器ホルダ62がパルスモータ等の昇降モータ47(図4参照)の駆動により昇降動作されて、容器ホルダ62がフォトセンサ48a〜48cの検出に伴う制御により昇降移動されると、これにより、容器ホルダ62が上昇した際にカートリッジ11の排出部11cが廃液容器12又は回収容器13の内部に所定量挿入されるようになる。
【0050】
<加圧エア供給機構>
加圧エア供給機構4は、図4に示すように、容器ホルダ62に対して昇降移動する可動体としての移動ヘッド40と、この移動ヘッド40に設置された単一の加圧ノズル41と、加圧エアを発生するエアポンプ43と、リリーフバルブ44と、加圧ノズル41側に設置され給気経路を開閉する開閉バルブ45と、加圧ノズル41側に設置された圧力センサ46と、加圧ノズル41を昇降動作させるノズル昇降手段を備えている。ノズル昇降手段は、パルスモータ等のノズル昇降モータ81とこれに接続されるネジ−ナット機構により昇降動作を実現している。この構成により、順次カートリッジ11に加圧エアを送給する。そして、エアポンプ43と、リリーフバルブ44と、加圧ノズル41はそれぞれ制御部70からの制御指令に基づいて動作する。
【0051】
移動ヘッド40は、装置本体2の内部に設置された移動手段としてのパルスモータ等のヘッド移動モータ26(図3、図4参照)、ヘッド移動モータ26により回転駆動される駆動側プーリ27、回転自在でテンション調整を行う従動側プーリ(図示せず)、駆動側プーリ27と従動側プーリとの間を懸架されるタイミングベルト29とを備えている。なお、ヘッド移動モータ26は、フォトセンサ25a〜25cの検出に伴う制御により駆動され、カートリッジ11の配列方向に沿って移動ヘッド40を移動させる。
【0052】
加圧ノズル41は移動ヘッド40に上下移動可能にかつ下方に付勢されて設置され、加圧ノズル41の下方先端の外周面は、円錐形状とされている。これにより、加圧ノズル41が下降移動した際に、カートリッジホルダ61にセットされたカートリッジ11の上部開口11eに、加圧ノズル41先端で当接させることで、カートリッジ11のテーパ状にカットされた傾斜面11fが、加圧ノズル41の先端の円錐面と密着してカートリッジ11内を密閉する。この密封状態の下で、漏れのないカートリッジ11内への加圧エア送給が可能となる。
【0053】
リリーフバルブ44はエアポンプ43と開閉バルブ45との間の通路のエアを排出する際に大気開放作動される。開閉バルブ45は選択的に開作動されて、エアポンプ43からの加圧エアが加圧ノズル41を経てカートリッジ11内に導入されるようにエア回路が構成されている。以上の構成により、エアポンプ43からカートリッジ11までの間に給気流路が形成される。
【0054】
<分注機構>
分注機構5は、図1、図3、図4,及び図7に示すように、カートリッジホルダ61上をカートリッジ11の並び方向に移動可能な前述の移動ヘッド40に、一体に搭載された洗浄液分注ノズル51w及び回収液分注ノズル51rと、洗浄液ボトル56wに収容された洗浄液Wを洗浄液分注ノズル51wに給送する洗浄液供給ポンプ52wと、回収液ボトル56rに収容された回収液Rを回収液分注ノズル51rに給送する回収液供給ポンプ52rと、廃液容器台23に載置された廃液容器57等を備える。
【0055】
移動ヘッド40は、ヘッド移動モータ26(図4参照)によって各カートリッジ11上で順次停止し、復帰状態では廃液容器57上に停止して、各カートリッジ11上の空間を空けるように駆動制御される。各カートリッジ11上の空間が空くことによって、作業性が大きく向上される。
【0056】
洗浄液分注ノズル51w及び回収液分注ノズル51rは先端が下方に向けて屈曲され、洗浄液分注ノズル51wは、バルブ55wを介して洗浄液供給ポンプ52wに接続され、洗浄液供給ポンプ52wは洗浄液ボトル56wに接続されている。回収液分注ノズル51rは、バルブ55rを介して回収液供給ポンプ52rに接続され、回収液供給ポンプ52rは回収液ボトル56rに接続されている。洗浄液ボトル56w及び回収液ボトル56rはそれぞれ装置本体2の前面側に装着されて操作性を高めている。洗浄液供給ポンプ52w及び回収液供給ポンプ52rはチューブポンプで構成され、それぞれポンプモータ53w,53r(パルスモータ)によってセンサ54w,54rの位置検出に基づいて所定量の洗浄液W及び回収液Rを分注するように駆動制御される。これら、ポンプモータ53w,53r、及びバルブ55w,55rは、制御部70からの指令に基づいて動作する。
【0057】
洗浄液W又は回収液Rを分注する場合には、バルブ55w又は55rを開き、ポンプモータ53w又は53rを駆動して洗浄液供給ポンプ52w又は回収液供給ポンプ52rのロータ部材を回転作動させる。これにより、洗浄液W又は回収液Rを洗浄液供給ポンプ52w又は回収液供給ポンプ52rにより吸引してバルブ55w又は55rを通じて洗浄液分注ノズル51w又は回収液分注ノズル51rより吐出させる。この吐出時には、洗浄液分注ノズル51w又は回収液分注ノズル51rをカートリッジ11上に移動させておく。これにより、所定量の洗浄液W又は回収液Rがカートリッジ11に分注される。
【0058】
洗浄液ボトル56w及び回収液ボトル56rは、容器本体56wb,56rbとキャップ56wu,56ruよりなり、両キャップ56wu,56ruにはそれぞれ細パイプ状の吸引チューブ58w,58rが設置され、該吸引チューブ58w,58rの下端が容器本体56wb,56rbの底部近傍に開口して、洗浄液供給ポンプ52w又は回収液供給ポンプ52rの作動に応じて洗浄液W、回収液Rを吸い上げるようになっている。
【0059】
上記のような各機構3〜5は、装置本体2の上部に設置された操作パネル71の入力操作に対応して、連係された制御部70(図4参照)によって制御される。つまり、制御部70に接続された記憶部72に予め記憶されているプログラムに基づいて駆動制御される。また、図1及び図2に示すように、各機構3〜5は、装置本体2に対して開閉自在に配設された前面カバー73で装置本体2の前面を覆うことにより装置本体2内に収容される。
【0060】
次に、上記構成の核酸抽出装置100による抽出動作について、具体的に説明する。
まず、本発明の主要部分を構成する特定物質(ここでは核酸)の回収を行うべき被処理対象カートリッジの判別について説明する。
図9に核酸抽出を行う被処理対象カートリッジであるか否かを判定する要部構成の概略ブロック図、図10に被処理対象カートリッジであるか否かを判定する手順のフローチャートを示した。
【0061】
図9に示すように、核酸抽出を行う被処理対象カートリッジであるか否かを判定する判別機構は、カートリッジ11に対して昇降移動する移動ヘッド40を備える。移動ヘッド40は、電磁弁45を介してエアポンプ43に接続されている。また、加圧ノズル41と電磁弁45を接続する配管74の途中には、圧力センサ46が介装されており、配管74内の圧力を測定し、測定結果は制御部70に入力される。制御部70は、測定された配管74内の圧力データに基づいて記憶部72に記憶されているプログラムに従って核酸の回収を行う被処理対象カートリッジであるか否かを判定する。即ち、制御部70が、カートリッジ11内に加圧空気を導入したときに圧力センサ46が検出する圧力により、核酸(特定物質)の回収を行う被処理対象カートリッジであるか否かを判定する被処理対象判定手段として機能する。
【0062】
制御部70に入力される圧力信号は、ノイズによるアルゴリズムの誤判定を避けるために、所定時間間隔でサンプリングして、常時1秒間当たりの平均値を算出している。所定時間間隔は、0.5秒以下であることが望ましい。
【0063】
次に、判別機構により核酸抽出を行うべき被処理対象カートリッジであるか否かを判定するアルゴリズムを説明する。
図10のフローチャートに示すように、カウンタiの記憶値を1にセットした後(ステップ1、以降はS1と略記する)、加圧ノズル41を移動させて1番目のカートリッジ(C1)に密着させ(S2)、カートリッジ(C1)にエアポンプ43からの加圧エアを供給して(S3)、配管74内の圧力を測定する(S4)。そして、測定された圧力が所定の条件を満足しているか判別される(S5)。測定された圧力が所定の条件を満足していれば、カートリッジ(C1)を被処理対象カートリッジリストに登録し(S6)、満足していなければカートリッジ(C1)を被処理対象カートリッジリストから外す(S7)。次に、上記した判定がまだ実施されていないカートリッジの有無が判別され(S8)、判定が未実施のカートリッジがあればカウンタiの記憶値をインクリメントして(S9)、ステップS2の前に戻り再び同様操作を繰り返し行う。このようにして、全てのカートリッジの判別が終了すると被処理対象カートリッジであるか否かの判定を終了する(S10)。
【0064】
被処理対象カートリッジであると判定するために、測定された圧力が満たすべき所定の条件は、フィルター部材及び試料液の種類により大きく異なるため、ここでは代表的な3つのパターンに分類する。
【0065】
(第1パターン)
図11は第1のパターンにおける圧力の時間変化を表わすグラフであり、設定時間内にピーク圧力に達した場合のプロファイルである。このプロファイルでは、加圧ノズル41によりカートリッジ11に加圧エアを供給すると、カートリッジ11内の圧力が上昇して時刻taにおいてピーク値Paを示す。即ち、予め設定した所定時間t1内に所定の設定値Ps以上のピーク値Paに達する。その後、カートリッジ11内の試料液Sが核酸吸着性多孔膜(フィルター部材)11bを通過してカートリッジ11外に排出されるに従って圧力が次第に低下し、全ての試料液Sが排出されると、カートリッジ11内の圧力は急激に減少する。
このような第1パターンの圧力プロファイルを示すカートリッジ11は、予め設定した所定時間t1内に所定の設定値Ps以上のピーク値Paに達したことにより、対象となったカートリッジ11が被処理対象カートリッジであると判定される。
【0066】
(第2パターン)
図12は第2のパターンにおける圧力の時間変化を表わすグラフであり、設定時間内に設定圧力に達せず、且つ設定時間内に圧力が極大となる場合のプロファイルである。このプロファイルでは、加圧ノズル41によりカートリッジ11に加圧エアを供給すると、カートリッジ11内の圧力が上昇していくが、時間と共に圧力の上昇率が減少してピーク値Ppを示した後、暫減する。圧力のピーク値Ppは、所定の設定値Psより低く、予め設定した所定時間t1内に所定の設定値Psに達することはない。
このような第2パターンの圧力プロファイルを示すカートリッジ11は、カートリッジ内の圧力の所定時間t1内における積分値A1が予め設定された値よりも大きいとき、対象となったカートリッジ11が被処理対象カートリッジであると判定される。
【0067】
(第3パターン)
図13は第3のパターンにおける圧力の時間変化を表わすグラフであり、設定時間内に設定圧力に達せず、且つ設定時間内に圧力が極大とならない場合のプロファイルである。このプロファイルでは、加圧ノズル41によりカートリッジ11に加圧エアを供給すると、カートリッジ11内の圧力が上昇していくが、圧力の上昇率は時間と共に除々に減少しピーク値を示すことはない。
このような第3パターンの圧力プロファイルを示すカートリッジ11は、第2パターンの圧力プロファイルを示すカートリッジ11と同様に、カートリッジ内の圧力の所定時間t1内における積分値A2が予め設定された値よりも大きいとき、対象となったカートリッジ11が被処理対象カートリッジであると判定される。
【0068】
(不正圧のパターン)
図14はカートリッジ不装着の場合の圧力の時間変化を表わすグラフであり、エアポンプの脈動のプロファイルである。このプロファイルでは、カートリッジ11に試料液Sが注入されていないので、圧力センサ46により測定される圧力は上昇せず、図に示すようにエアポンプ43の脈動のみが検出される。
このような不正圧のパターンの圧力プロファイルが得られた場合は、被処理対象カートリッジではないと判定される。
【0069】
次に、上記核酸抽出装置100による抽出動作を具体的に説明する。
まず、図8(a)に示すように、載置台64のフック部64dを装置本体2の後壁28に形成された矩形係止穴28a(図7参照)に挿入、係合して、基部64aを作動部材31の下方に位置させ、且つ両側壁64b,64cが作動部材31の両側を挟持するように装置本体2に設置する。
【0070】
次いで、装置本体2外に取り出された保持機構3のカートリッジホルダ61にカートリッジ11をセットして容器保持台63に載置し、更に、廃液容器12及び回収容器13を保持した容器ホルダ62を容器保持台63の一対の支持リブ63f上に載置する。そして、溶解処理された試料液Sをピペット等によって各カートリッジ11に順次注入する。
【0071】
上記した準備作業は、カートリッジホルダ61及び容器ホルダ62の全ての保持部にカートリッジ11、廃液容器12、及び回収容器13をセットする必要はなく、核酸を抽出すべき試料液Sの数に対応した任意の数量のカートリッジ11、廃液容器12、及び回収容器13がセットされる。また、カートリッジホルダ61及び容器ホルダ62に対するカートリッジ11、廃液容器12、及び回収容器13のセット位置も任意であり、カートリッジ11の位置に対応する位置に廃液容器12及び回収容器13がセットされていればよい。
【0072】
このように組み付けられた保持機構3は、図8(b)に示すように、保持機構3の把持部材63eが作業者に把持されて装置本体2に設置された載置台64に載置される。このとき、本体部75の正面側方の壁75bには、正面側から背面側に窪む凹部75aが設けられて作業空間が確保されているので、保持機構3を装置本体2に脱着する際、容器保持台63を把持する手などが本体部75に干渉することはなく、容易に作業することができる。
【0073】
ここで、図15(a)〜(e)に加圧ノズルから各カートリッジへ加圧エアを供給する説明図を示した。以降は、図15を適宜参照して説明する。
その後、操作パネル71の操作によって装置を作動させると、図15(a)に示すように、移動ヘッド40がカートリッジ11の直上位置まで移動する。そして、一例として図中左端のカートリッジ(C1)の直上に加圧ノズル41を配置させ、加圧エア供給機構4のノズル昇降モータ81の駆動によって移動ヘッド40の加圧ノズル41を下降移動させて、加圧ノズル41の先端外周面をカートリッジ(C1)の傾斜面11fに密着させる(図15(b))。
【0074】
一方、図8(b)に容器ホルダと作動部材との位置関係を示すように、昇降モータ47の駆動により作動部材31が上昇動作すると、容器ホルダ62の一対の位置決め孔62dに一対の位置決めピン31aが嵌合して作動部材31と容器ホルダ62との相対位置が位置決めされる。そして、更に容器ホルダ62が上昇してカートリッジ11の下端排出部11cを廃液容器12内に所定量挿入させ、排出液が飛散等によって外部に漏れてコンタミネーションの原因とならないようにする。
【0075】
その後、加圧エアの供給が行われる。制御部70の指令により、開閉バルブ45が閉状態でエアポンプ43が駆動され、開閉バルブ45が開作動される。そして、加圧ノズル41を通して1番目のカートリッジ(C1)にエアポンプ43からの加圧エアが所定量供給される。
【0076】
そして、カートリッジ(C1)内の圧力が圧力センサ46により測定され、測定結果は図10に示すフローチャートに従ってカートリッジ(C1)が核酸の回収を行うべき被処理対象カートリッジであるか否かを判定する。例えば、カートリッジ(C1)が、所定時間t1内に所定圧力Psに達する図13に示す第1パターンのプロファイルを示す場合、該カートリッジ(C1)は被処理対象カートリッジとして記憶部72の処理対象リストに登録される。
【0077】
次いで、図15(c)に示すように、開閉バルブ45を閉作動するのに続いて、加圧ノズル41をノズル昇降モータ81により上昇させてヘッド移動モータ26を駆動して移動ヘッド40をカートリッジ11の配列ピッチ分移動させる。そして、次の2番目のカートリッジ(C2)に対して同様に加圧エアを所定量供給する。図示する例においては、カートリッジ(C2)が装着されていないので、圧力センサ46により測定される圧力は上昇せず、図14に示すようにエアポンプ43の脈動が検出される。脈動のピーク圧力は、設定圧力Psよりも遥かに小さく、前述した第1、2,3パターンのいずれの条件も満たさないのでカートリッジ(C2)は処理対象リストから除外される。
【0078】
更に、移動ヘッド40がカートリッジ11の配列ピッチ分移動して3番目のカートリッジ(C3)に対して同様に加圧エアを所定量供給する(図15(d))。図示する例においては、カートリッジ(C3)に試料液Sが注入されていないので、圧力センサ46により測定される圧力は上昇せず、図14に示すようにエアポンプ43の脈動のみが検出される。これにより、カートリッジ(C3)は処理対象リストから除外される。
【0079】
同様に、移動ヘッド40がカートリッジ11の配列ピッチ分移動して4番目のカートリッジ(C4)に対して同様に加圧エアを所定量供給する(図15(e))。例えば、カートリッジ(C4)の測定圧力は、所定時間t1内に所定圧力Psに達しないが、所定時間t1内における積分値が予め設定された値よりも大きくなる図12又は図13に示す第2,第3パターンのプロファイルを示す場合、該カートリッジ(C4)は被処理対象カートリッジとして記憶部72の処理対象リストに登録される。
【0080】
以後、同様にカートリッジホルダ61に保持された全てのカートリッジ11に対して加圧エアの供給、及び被処理対象カートリッジか否かの判別が順次繰り返して行われ、条件を満たすカートリッジ11が、被処理対象カートリッジとして処理対象リストに登録される。
【0081】
圧力が作用した試料液Sは、核酸吸着性多孔膜11bを通って核酸が吸着保持され、その他の液状成分は下端部の排出部11cより廃液容器12に排出される。試料液Sが全て核酸吸着性多孔膜11bを通過すると圧力が液排出完了圧力以下に低下し、圧力センサ46によってカートリッジ11の抽出終了が検出される。
【0082】
次に、洗浄処理に移行する。上記加圧エア供給後に移動ヘッド40を上昇させて、最初のカートリッジ(C1)上へ戻す。カートリッジ(C1)は、被処理対象カートリッジとして処理対象リストに登録されているので、移動ヘッド40の洗浄液分注ノズル51wを1番目のカートリッジ(C1)上で停止させて洗浄液Wを所定量分注する。次に、移動ヘッド40を次のカートリッジ上に移動させる際、2番目のカートリッジ(C2)及び3番目のカートリッジ(C3)は、被処理対象カートリッジとして処理対象リストに登録されていないのでスキップされて4番目のカートリッジ(C4)上に移動して洗浄液Wを分注する。
【0083】
以後同様に、被処理対象カートリッジとして処理対象リストに登録されているカートリッジ11に対してのみ、洗浄液Wが分注され、被処理対象カートリッジとして処理対象リストに登録されていないカートリッジ11はスキップされる。このようにして、全部のカートリッジ11への洗浄液Wの分注が終了すると、移動ヘッド40を最初のカートリッジ(C1)上へ戻す。
【0084】
次に、移動ヘッド40の加圧ノズル41が下降して、加圧ノズル41の下端部がカートリッジ(C1)の上端開口11eに圧接して密閉してから、前述と同様に開閉バルブ45を開作動してカートリッジ(C1)に加圧エアを供給する。圧力が作用した洗浄液Wは、核酸吸着性多孔膜11bを通って核酸以外の不純物の洗浄除去を行い、洗浄液Wは下端部の排出部11cより廃液容器12に排出される。
【0085】
この洗浄工程においても、上記と同様に被処理対象カートリッジとして処理対象リストに登録されているカートリッジ11に対してのみ加圧エアが供給され、被処理対象カートリッジとして処理対象リストに登録されていないカートリッジ11はスキップされる。全部のカートリッジ11(処理対象リストに登録されているカートリッジ)における洗浄液Wが核酸吸着性多孔膜11bを通過して排出されると、移動ヘッド40が初期の位置まで作動される。なお、洗浄処理を複数回行う場合には上記動作を繰り返す。
【0086】
次に、回収処理に移行する。まず洗浄処理後の前記移動ヘッド40の戻り動作に同期して、容器ホルダ62が昇降モータ47により下降動作して、カートリッジ11の下端排出部11cが廃液容器12から外れた後、作動部材31を容器交換モータ32の駆動により移動させて容器ホルダ62を後退移動させる。このようにして、カートリッジ11の下方に回収容器13を位置させる容器交換を行う。
【0087】
続いて、容器ホルダ62を昇降モータ47により上昇させて、カートリッジ11の下端が回収容器13内に挿入されている状態に保持する。そして、移動ヘッド40を移動させて回収液分注ノズル51rを1番目のカートリッジ(C1)上に停止させて回収液Rを所定量分注する。次に、移動ヘッド40を被処理対象カートリッジとして処理対象リストに登録されているカートリッジ(図15に示す例においては、4番目のカートリッジ(C4))に移動させて順次回収液Rの分注を行う。被処理対象カートリッジとして処理対象リストに登録されている全てのカートリッジ11への回収液Rの分注が終了すると、前述と同様の加圧エアの供給を登録されている各カートリッジ11に対して実施する。
【0088】
加圧エアが前述同様に供給され、圧力が作用した回収液Rは、核酸吸着性多孔膜11bを通ってそれに吸着されている核酸を離脱させて、回収液Rとともに核酸が下端部の排出部11cより回収容器13に排出される。全部のカートリッジ11における回収液Rが全て回収容器13に排出されると、移動ヘッド40が最初の廃液容器57直上の待避位置に移動して、一連の動作が終了する。
【0089】
抽出動作が終了した容器ホルダ62は昇降モータ47の駆動により下降して容器ホルダ62の位置決め孔62dと作動部材31の位置決めピン31aとの嵌合が解除されるので、保持機構3(カートリッジホルダ61、容器ホルダ62及び容器保持台63)は装置本体2から纏めて取り出される。そして、カートリッジ11及び廃液容器12はカートリッジホルダ61及び容器ホルダ62より取り出されて廃棄される。一方、回収容器13は容器ホルダ62より取り出され、必要に応じて蓋がされて、次の核酸分析処理等が施される。
【0090】
エアポンプ43からカートリッジ11に供給するエアは、試料液、洗浄液、回収液液体等の性状に影響を及ぼさなければ、他のいかなる気体であってもよい。
また、保持機構3(カートリッジホルダ61、容器ホルダ62及び容器保持台63)を複数組備えておけば、上述した核酸抽出動作中に次の試料液Sの準備作業を行うことができ、より効率的な抽出作業が可能となる。
【0091】
次に、上記のカートリッジ11が備える核酸吸着性固相(ここでは一例として核酸吸着性多孔膜)11bについて詳細に説明する。
ここでいう核酸吸着性固相は、シリカもしくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有するものとすることができる。さらに、固相は、有機高分子を含有するものであってもよい。有機高分子は、多糖構造を有する有機高分子であることが好ましい。また、有機高分子は、アセチルセルロースであってもよい。さらに、有機高分子は、アセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子とすることもできる。有機高分子は、再生セルロースであってもよい。これらについて、以下に詳細に説明する。
【0092】
上記カートリッジ11に内有する核酸吸着性固相11bは、基本的には核酸が通過可能な多孔性であり、その表面は試料液中の核酸を化学的結合力で吸着する特性を有し、洗浄液による洗浄時にはその吸着を保持し、回収液による回収時に核酸の吸着力を弱めて離すように構成されてなる。
【0093】
上記核酸抽出カートリッジ11に内有する核酸吸着性固相11bは、イオン結合が実質的に関与しない相互作用で核酸が吸着する多孔性固相が好ましい。これは、多孔性固相側の使用条件で「イオン化」していないことを意味し、環境の極性を変化させることで、核酸と多孔性固相が引き合うようになると推定される。これにより分離性能に優れ、しかも洗浄効率よく、核酸を単離精製することができる。好ましくは、核酸吸着性多孔性固相は、親水基を有する多孔性固相であり、環境の極性を変化させることで、核酸と多孔性固相の親水基同士が引き合うようになると推定される。
【0094】
親水基とは、水との相互作用を持つことができる有極性の基(原子団)を指し、核酸の吸着に関与する全ての基(原子団)が当てはまる。親水基としては、水との相互作用の強さが中程度のもの(化学大事典、共立出版株式会社発行、「親水基」の項の「あまり親水性の強くない基」参照)が良く、例えば、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、オキシエチレン基等を挙げることができる。好ましくは水酸基である。
【0095】
ここで、親水基を有する多孔性固相とは、多孔性固相を形成する材料自体が、親水性基を有する多孔性固相、または多孔性固相を形成する材料を処理またはコーティングすることによって親水基を導入した多孔性固相を意味する。多孔性固相を形成する材料は有機物、無機物のいずれでも良い。例えば、多孔性固相を形成する材料自体が親水基を有する有機材料である多孔性固相、親水基を持たない有機材料の多孔性固相を処理して親水基を導入した多孔性固相、親水基を持たない有機材料の多孔性固相に対し親水基を有する材料でコーティングして親水基を導入した多孔性固相、多孔性固相を形成する材料自体が親水基を有する無機材料である多孔性固相、親水基を持たない無機材料の多孔性固相を処理して親水基を導入した多孔性固相、親水基を持たない無機材料の多孔性固相に対し親水基を有する材料でコーティングして親水基を導入した多孔性固相等を、使用することができるが、加工の容易性から、多孔性固相を形成する材料は有機高分子等の有機材料を用いることが好ましい。
【0096】
親水基を有する材料の多孔性固相としては、水酸基を有する有機材料の多孔性固相を挙げることができる。水酸基を有する有機材料の多孔性固相としては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等で、形成された多孔性固相を挙げることができるが、特に多糖構造を有する有機材料の多孔性固相を好ましく使用することができる。
【0097】
水酸基を有する有機材料の多孔性固相として、好ましくは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物から成る有機高分子の多孔性固相を使用することができる。アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物として、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合物、トリアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物、ジアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物を好ましく使用する事ができる。
特にトリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合物を好ましく使用することができる。トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合比(質量比)は、99:1〜1:99である事が好ましく、90:10〜50:50である事がより好ましい。
【0098】
更に好ましい、水酸基を有する有機材料としては、特開2003−128691号公報に記載の、アセチルセルロースの表面鹸化物が挙げられる。アセチルセルロースの表面鹸化物とは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理したものであり、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の鹸化物、トリアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物、ジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物も好ましく使用することができる。より好ましくは、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の鹸化物を使用することである。トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の混合比(質量比)は、99:1〜1:99であることが好ましい。更に好ましくは、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の混合比は、90:10〜50:50であることである。この場合、鹸化処理の程度(鹸化率)で固相表面の水酸基の量(密度)をコントロールすることができる。核酸の分離効率をあげるためには、水酸基の量(密度)が多い方が好ましい。例えば、トリアセチルセルロース等のアセチルセルロースの場合には、鹸化率(表面鹸化率)が約5%以上であることが好ましく、10%以上であることが更に好ましい。また、水酸基を有する有機高分子の表面積を大きくするために、アセチルセルロースの多孔性固相を鹸化処理することが好ましい。この場合、多孔性固相は、表裏対称性の多孔性膜であってもよいが、裏非対称性の多孔性膜を好ましく使用することができる。
【0099】
鹸化処理とは、アセチルセルロースを鹸化処理液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)に接触させることを言う。これにより、鹸化処理液に接触したアセチルセルロースの部分に、再生セルロースとなり水酸基が導入される。こうして作成された再生セルロースは、本来のセルロースとは、結晶状態等の点で異なっている。
又、鹸化率を変えるには、水酸化ナトリウムの濃度を変えて鹸化処理を行えば良い。鹸化率は、NMR、IR又はXPSにより、容易に測定することができる(例えば、カルボニル基のピーク減少の程度で定めることができる)。
【0100】
親水基を持たない有機材料の多孔性固相に親水基を導入する方法として、ポリマー鎖内または側鎖に親水基を有すグラフトポリマー鎖を多孔性固相に結合することができる。
有機材料の多孔性固相にグラフトポリマー鎖を結合する方法としては、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法と、多孔性固相を起点として重合可能な二重結合を有する化合物を重合させグラフトポリマー鎖とする2つの方法がある。
【0101】
まず、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合にて付着させる方法においては、ポリマーの末端または側鎖に多孔性固相と反応する官能基を有するポリマーを使用し、この官能基と、多孔性固相の官能基とを化学反応させることでグラフトさせることができる。多孔性固相と反応する官能基としては、多孔性固相の官能基と反応し得るものであれば特に限定はないが、例えば、アルコキシシランのようなシランカップリング基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、エポキシ基、アリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基等を挙げることができる。
【0102】
ポリマーの末端、または側鎖に反応性官能基を有するポリマーとして特に有用な化合物は、トリアルコキシシリル基をポリマー末端に有するポリマー、アミノ基をポリマー末端に有するポリマー、カルボキシル基をポリマー末端に有するポリマー、エポキシ基をポリマー末端に有するポリマー、イソシアネート基をポリマー末端に有するポリマーが挙げられる。この時に使用されるポリマーとしては、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、具体的には、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン等を挙げることができる。
【0103】
多孔性固相を基点として重合可能な二重結合を有する化合物を重合させ、グラフトポリマー鎖を形成させる方法は、一般的には表面グラフト重合と呼ばれる。表面グラフト重合法とは、プラズマ照射、光照射、加熱等の方法で基材表面上に活性種を与え、多孔性固相と接するように配置された重合可能な二重結合を有する化合物を重合によって多孔性固相と結合させる方法を指す。
基材に結合しているグラフトポリマー鎖を形成するのに有用な化合物は、重合可能な二重結合を有しており、核酸の吸着に関与する親水基を有するという、2つの特性を兼ね備えていることが必要である。これらの化合物としては、分子内に二重結合を有していれば、親水基を有するポリマー、オリゴマー、モノマーのいずれの化合物をも用いることができる。特に有用な化合物は親水基を有するモノマーである。
特に有用な親水基を有するモノマーの具体例としては、次のモノマーを挙げることができる。例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等の水酸性基含有モノマーを特に好ましく用いることができる。また、アクリル酸、メタアクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー、もしくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩も好ましく用いることができる。
【0104】
親水基を持たない有機材料の多孔性固相に親水基を導入する別の方法として、親水基を有する材料をコーティングすることができる。コーティングに使用する材料は、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、作業の容易さから有機材料のポリマーが好ましい。ポリマーとしては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等を挙げることができるが、多糖構造を有するポリマーが好ましい。
【0105】
また、親水基を持たない有機材料の多孔性固相に、アセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物をコーティングした後に、コーティングしたアセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理することもできる。この場合、鹸化率が約5%以上であることが好ましい。さらには、鹸化率が約10%以上であることが好ましい。
【0106】
親水基を有する無機材料である多孔性固相としては、前述のようにシリカもしくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有する多孔性固相を挙げることができる。シリカ化合物を含有する多孔性固相としては、ガラスフィルターを挙げることができる。また、特許公報第3058342号に記載されているような、多孔質のシリカ薄膜を挙げることができる。この多孔質のシリカ薄膜とは、二分子膜形成能を有するカチオン型の両親媒性物質の展開液を基板上に展開した後、基板上の液膜から溶媒を除去することによって両親媒性物質の多層二分子膜薄膜を調整し、シリカ化合物を含有する溶液に多層二分子膜薄膜を接触させ、次いで前記多層二分子膜薄膜を抽出除去することで作製することができる。
【0107】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相に親水基を導入する方法としては、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法と、分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを使用して、多孔性固相を起点として、グラフトポリマー鎖を重合する2つの方法がある。
多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合にて付着させる場合は、グラフトポリマー鎖の末端の官能基と反応する官能基を無機材料に導入し、そこにグラフトポリマーを化学結合させる。また、分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを使用して、多孔性固相を起点として、グラフトポリマー鎖を重合する場合は、二重結合を有する化合物を重合する際の起点となる官能基を無機材料に導入する。
【0108】
親水性基を持つグラフトポリマー、および分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーとしては、上記、親水基を持たない有機材料の多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法において、記載した親水性基を持つグラフトポリマー、および分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを好ましく使用することができる。
【0109】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相に親水基を導入する別の方法として、親水基を有する材料をコーティングすることができる。コーティングに使用する材料は、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、作業の容易さから有機材料のポリマーが好ましい。ポリマーとしては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等を挙げることができる。
【0110】
また、親水基を持たない無機材料の多孔性固相に、アセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物をコーティングした後に、コ−ティングしたアセチルセルロ−スまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理することもできる。この場合、鹸化率が約5%以上であることが好ましい。さらには、鹸化率が約10%以上であることが好ましい。
【0111】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相としては、アルミニウム等の金属、ガラス、セメント、陶磁器等のセラミックス、もしくはニューセラミックス、シリコン、活性炭等を加工して作製した多孔性固相を挙げることができる。
【0112】
上記の、核酸吸着性多孔性膜は、多孔膜、不織布、或いは織物のいずれかの形態をとることができ、溶液が内部を通過可能であり、厚さが10μm〜500μmである。さらに好ましくは、厚さが50μm〜250μmである。洗浄がし易い点で、厚さが薄いほど好ましい。
【0113】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、最小孔径が0.22μm以上である。さらに好ましくは、最小孔径が0.5μm以上である。また、最大孔径と最小孔径の比が2以上である多孔性膜を用いる事が好ましい。これにより、核酸が吸着するのに十分な表面積が得られるとともに、目詰まりし難い。さらに好ましくは、最大孔径と最小孔径の比が5以上である。
【0114】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、空隙率が50〜95%である。さらに好ましくは、空隙率が65〜80%である。また、バブルポイントが、0.1〜10kgf/cm2である事が好ましい。さらに好ましくは、バブルポイントが、0.2〜4kgf/cm2である。
【0115】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、圧力損失が、0.1〜100kPaである事が好ましい。これにより、過圧時に均一な圧力が得られる。さらに好ましくは、圧力損失が、0.5〜50kPaである。ここで、圧力損失とは、膜の厚さ100μmあたり、水を通過させるのに必要な最低圧力である。
【0116】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、25℃で1kg/cm2の圧力で水を通過させたときの透水量が、膜1cm2あたり1分間で1〜5000mLであることが好ましい。さらに好ましくは、25℃で1kg/cm2の圧力で水を通過させたときの透水量が、膜1cm2あたり1分間で5〜1000mLである。
【0117】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、多孔性膜1mgあたりの核酸の吸着量が0.1μg以上である事が好ましい。さらに好ましくは、多孔性膜1mgあたりの核酸の吸着量が0.9μg以上である。
【0118】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、一辺が5mmの正方形の多孔性膜をトリフルオロ酢酸5mLに浸漬したときに、1時間以内では溶解しないが48時間以内に溶解するセルロース誘導体が、好ましい。また、一辺が5mmの正方形の多孔質膜をトリフルオロ酢酸5mLに浸漬したときに1時間以内に溶解するが、ジクロロメタン5mLに浸漬したときには24時間以内に溶解しないセルロース誘導体がさらに好ましい。
【0119】
核酸吸着性多孔性膜中を、核酸を含む試料溶液を通過させる場合、試料溶液を一方の面から他方の面へと通過させることが、液を多孔性膜へ均一に接触させることができる点で、好ましい。核酸吸着性多孔性膜中を、核酸を含む試料溶液を通過させる場合、試料溶液を核酸吸着性多孔性膜の孔径が大きい側から小さい側に通過させることが、目詰まりし難い点で好ましい。
【0120】
核酸を含む試料溶液を核酸吸着性多孔性膜を通過させる場合の流速は、液の多孔性膜への適切な接触時間を得るために、膜の面積cm2あたり、2〜1500μL/secである事が好ましい。液の多孔性膜への接触時間が短すぎると十分な核酸抽出効果が得られず、長すぎると操作性の点から好ましくない。さらに、上記流速は、膜の面積cm2あたり、5〜700μL/secである事が好ましい。
【0121】
また、使用する溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、1枚であってもよいが、複数枚を使用することもできる。複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、同一のものであっても、異なるものであって良い。
【0122】
複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、無機材料の核酸吸着性多孔性膜と有機材料の核酸吸着性多孔性膜との組合せであっても良い。例えば、ガラスフィルターと再生セルロースの多孔性膜との組合せを挙げることができる。また、複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、無機材の核酸吸着性多孔性膜と有機材料の核酸非吸着性多孔性膜との組合せであってもよい、例えば、ガラスフィルターと、ナイロンまたはポリスルホンの多孔性膜との組合せを挙げることができる。
【0123】
次に、試料溶液について簡単に説明する。
<核酸を含む試料溶液>
核酸を含む試料溶液は、核酸安定化剤、カオトロピック塩、界面活性剤、緩衝剤、消泡剤およびタンパク質分解酵素の中から選ばれる少なくとも一つを含む前処理液を核酸可溶化試薬として用いて処理することにより得られ、特に好ましくは水溶性有機溶媒を添加して得られた溶液である。
【0124】
(検体)
本発明において使用できる検体は、核酸を含むものであれば特に制限はなく、例えば診断分野においては、採取された全血、血漿、血清、尿、便、精液、唾液等の体液、動物(もしくはその一部)などの生体由来化合物、又は植物(もしくはその一部)、細菌、ウイルスなどの生物材料が対象となり、これらをそのままあるいはこれらの溶解物もしくはホモジネートなどを試料として用いる。
【0125】
「試料」とは、核酸を含む任意の試料を意味する。具体的には、上記検体において記載したものが挙げられる。試料溶液中の核酸の種類は1種類でも2種類以上であってもよい。前記核酸分離精製方法に供される個々の核酸の長さは特に限定されず、例えば、数bp〜数Mbpの任意の長さの核酸であってもよい。取り扱い上の観点からは、核酸の長さは一般的には、数bp〜数百kbp程度であることが好ましい。
【0126】
本発明において「核酸」は一本鎖または二本鎖の、DNAまたはRNAのいずれでもよく、また、分子量の制限も無い。
【0127】
検体は、細胞膜および核膜等を溶解して核酸を水溶液内に分散して、核酸を含む試料溶液を得ることが好ましい。
【実施例1】
【0128】
上述した核酸抽出装置により被処理対象カートリッジの有無を確認し、被処理対象カートリッジとして判別されたカートリッジに対する核酸抽出を行った実施例を以下に説明する。
(1)核酸分離精製容器の作成
内径7mm、核酸吸着用の固相を収容する、カートリッジ(核酸精製用容器)をポリプロピレンで作成する。
【0129】
(2)核酸分離精製ユニット
核酸吸着性多孔膜として、アセチルセルロ−スの多孔膜を使用し、上記(1)で作成した核酸精製カートリッジの核酸吸着性多孔膜収納部に収容する。多孔膜の平均孔径は2μmのものを使用する。
【0130】
(3)DNA可溶化試薬及び洗浄液の調製
表1に示す処方のDNA可溶化試薬及び洗浄液を調製する。
【0131】
【表1】

【0132】
(4)核酸精製操作
λDNA(クロンテック社製)をTEバッファー100μlに5μg溶解させ、これをDNA水溶液とした。これに、表1に示した処方のDNA可溶化試薬100μlを添加して、攪拌した。
攪拌後、表2に示す各種濃度エタノール800μlを添加して攪拌した。その後、上記のよう処理した核酸含有試薬の核酸粒子を動的光散乱光度計(DLS7000)にて粒子径を測定した。その測定結果を表3に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
【表3】

【0135】
測定後、上記の様に処理した核酸含有試料を、上記(1)及び(2)で作成したアチルセルロ−スの混合物から成る有機高分子の核酸吸着性多孔膜を有するカートリッジに注入し、続いて該カートリッジに加圧エア供給機構を結合して加圧エアを供給してカートリッジ内を加圧状態にし、注入した核酸含有試料を含む試料溶液を核酸吸着性多孔膜に通過させることで核酸吸着性多孔膜に接触させ、カートリッジから排出する。続いて、カートリッジに表1に示す洗浄液を注入し、上記と同様に加圧エア供給機構から加圧エアを供給して加圧し、注入した洗浄液を核酸吸着性多孔膜に通過させて排出し、洗浄する。続いて、カートリッジに回収液を注入し、上記と同様に加圧エア供給機構から加圧エアを供給して加圧し、注入した回収液を核酸吸着性多孔膜に通過させて排出し、この液を回収容器に回収する。
【0136】
(5)DNAの分離精製の確認
回収液の260nm吸収スペクトルを測定してDNAの収量を求めた。その測定結果を表4に示す。また、その時の液体通過時間を表5に示す。
【0137】
【表4】

【0138】
【表5】

【0139】
なお、上記実施形態では、特定物質回収装置は核酸抽出装置として説明したが、カートリッジを蛋白を抽出する蛋白抽出カートリッジとすることにより、蛋白抽出装置とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】核酸抽出装置の一実施形態であって前面カバーが開放された状態を示す斜視図である。
【図2】前面カバーが閉じられた状態にある核酸抽出装置の外観斜視図である。
【図3】核酸抽出装置の移動ヘッドの概略構成図である。
【図4】核酸抽出装置の概略ブロック構成図である。
【図5】カートリッジホルダ、容器ホルダ、及び容器保持台が保持機構として一体に組み付けられ、載置台に搭載された状態を示す斜視図である。
【図6】カートリッジホルダ、容器ホルダ、容器保持台、及び載置台の斜視図である。
【図7】保持機構及び液容器が取り外された装置本体の斜視図である。
【図8】装置本体の斜視図であり、(a)は装置本体に載置台が取り付けられた状態を示す斜視図、(b)は更に保持機構が載置台に載置された状態を示す斜視図である。
【図9】核酸抽出を行う被処理対象カートリッジであるか否かを判定する要部構成の概略ブロック図である。
【図10】被処理対象カートリッジであるか否かを判定する手順を示すフローチャートである。
【図11】第1のパターンにおける圧力の時間変化を表わすグラフであり、設定時間内にピーク圧力に達した場合のプロファイルである。
【図12】第2のパターンにおける圧力の時間変化を表わすグラフであり、設定時間内に設定圧力に達せず、且つ設定時間内に圧力が極大となる場合のプロファイルである。
【図13】第3のパターンにおける圧力の時間変化を表わすグラフであり、設定時間内に設定圧力に達せず、且つ設定時間内に圧力が極大とならない場合のプロファイルである。
【図14】カートリッジ不装着の場合の圧力の時間変化を表わすグラフであり、エアポンプの脈動のプロファイルである。
【図15】加圧ノズルから各カートリッジへ加圧エアを供給する様子(a)〜(e)示す説明図である。
【図16】カートリッジの(a)斜視図と(b)P−P断面図である。
【図17】抽出動作の工程図(a)〜(g)である。
【符号の説明】
【0141】
4 加圧エア供給機構(加圧空気供給手段)
11 カートリッジ(核酸抽出カートリッジ)
11b フィルター部材(核酸吸着性多孔膜)
41 加圧ノズル
46 圧力センサ(圧力検出手段)
51w,51r 分注ノズル
61 カートリッジホルダ
70 制御装置(被処理対象判定手段)
100 核酸抽出装置(特定物質回収装置)
S 試料液
W 洗浄液
R 回収液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルター部材を備えたカートリッジを複数個収容可能なカートリッジホルダを有し、該カートリッジホルダに保持された前記カートリッジに対し、試料液を注入し加圧して該試料液中の特定物質を前記フィルター部材に吸着させた後、前記カートリッジに回収液を分注し加圧して前記フィルター部材に吸着した特定物質を前記回収液とともに回収する試料液中の特定物質回収装置であって、
前記カートリッジに対して加圧ノズルから加圧空気を導入する加圧空気供給手段と、
前記カートリッジ内の圧力を検出する圧力検出手段と、
前記加圧空気供給手段により前記カートリッジ内に加圧空気を導入したときに前記圧力検出手段が検出する圧力により、前記特定物質の回収を行う被処理対象カートリッジであるか否かを判定する被処理対象判定手段とを備えたことを特徴とする試料液中の特定物質回収装置。
【請求項2】
前記被処理対象判定手段が、前記圧力検出手段により検出される前記カートリッジ内の圧力のピーク値が予め設定された値よりも低い場合に、そのカートリッジを被処理対象から外すことを特徴とする請求項1記載の試料液中の特定物質回収装置。
【請求項3】
前記被処理対象判定手段が、前記圧力検出手段により検出される前記カートリッジ内の圧力の所定時間内における積分値が予め設定された値よりも小さい場合に、そのカートリッジを被処理対象から外すことを特徴とする請求項1記載の試料液中の特定物質回収装置。
【請求項4】
前記カートリッジホルダに収容された前記カートリッジに対して、前記加圧空気供給手段の加圧ノズルが、前記カートリッジの配列方向に沿って移動自在に支持されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の試料液中の特定物質回収装置。
【請求項5】
前記加圧ノズルと、少なくとも前記回収液を吐出する分注ノズルとが、可動体に一体に設けられていることを特徴とする請求項4記載の試料液中の特定物質回収装置。
【請求項6】
前記フィルター部材が、多孔膜、不織布、或いは織物のいずれかであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の試料液中の特定物質回収装置。
【請求項7】
前記特定物質が、生体由来化合物又は生物材料であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の特定物質回収装置。
【請求項8】
前記フィルター部材を備えたカートリッジが核酸を抽出するための核酸抽出カートリッジで、前記特定物質が核酸であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項記載の核酸抽出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−204228(P2006−204228A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22676(P2005−22676)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】