説明

状態推定システム及び方法

【課題】人などのユーザの行動状態やこの行動により操作される物体の状態などが推定できるようにする。
【解決手段】状態推定部101は、取り出したユーザの状態及び物体IDより、ユーザセンサ部120が装着されているユーザを含むこのユーザの環境の状態を推定する。状態推定部101のユーザ行動状態推定部102は、ユーザの状態及び物体IDと、状態記憶部104に記憶されているユーザ行動結果とより、ユーザの行動の状態を推定する。また、状態推定部102の物体状態推定部103は、ユーザの状態及び物体IDと、状態記憶部104に記憶されている操作結果とより、物体センサ部130が設けられている物体の状態を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザに装着したユーザセンサより得られるユーザ状態と、ユーザに操作される物体に設けられた物体センサより得られる物体が受けた操作状態とより、ユーザの行動状態などを推定する状態推定システム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、牛や馬などの動物(個体)における体温及び動作などの状態を、対象となる個体に所定のセンサを装着して計測した結果を用い、リアルタイムに測定及び推定を行うことが可能となっている。さらに、測定対象の個体だけでなく、当該個体の近傍に存在する他の個体に装着されたセンサが発する通信電波などを感知し、近傍のセンサで計測された値を用い、測定対象の個体の状態推定をより精度良く行うものがある(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−320290号公報
【非特許文献1】R.O.Duda, P.E.Hart, and D.G.Stork, John Wiley&Sons 2001.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術では、次に示すような問題があった。まず、上述した従来の技術では、習性として群れをなし、各個体間の動作や状態が高い相関を持つ家畜などを測定対象とし、ある個体の異常を検知する場合は有効である。しかしながら、従来の技術では、個体群の種類や装着するセンサの種類が異なる場合や、各個体間で動作や状態の相関が元々高くない測定対象、例えば、人とその周りの物体を測定する場合は、状態を高い精度で推定することができない。
【0005】
また、叙述した従来の技術では、センサによる通信電波などの強度を利用して各個体間の近傍性を判断しているが、この技術では、人が道具を操作しているなどの状態を推定することが困難である。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、人などのユーザの行動状態やこの行動により操作される物体の状態などが推定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る状態推定方法は、物体が受けた操作を検出するために物体に設けられた物体センサ部から送信された物体センサ部を識別するための物体IDを受信する第1ステップと、物体IDを受信したことにより、ユーザに装着されたユーザセンサ部が測定しているユーザ状態をユーザセンサ部に送信させる指示をユーザセンサ部に送信する第2ステップと、ユーザセンサ部から送信されたユーザ状態を受信する第3ステップと、予め用意されているユーザ状態と物体IDとの組みに、ユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つが対応付けられているデータベースより、受信した物体IDとユーザ状態との組みに対応するユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つを取り出して推定結果とする第4ステップとを少なくとも備えるようにしたものである。
【0008】
上記状態推定方法において、第4ステップでは、ユーザ状態と物体IDとを特徴ベクトルとしたパターン認識により、データベースより、受信した物体IDとユーザ状態との組みに対応するユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つを取り出すようにすればよい。また、ユーザセンサ部は、ユーザ状態としてユーザの筋電位を測定するものであればよい。
【0009】
また、上記状態推定方法において、ユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つと対応するアドバイスを備えたアドバイスデータベースより、推定結果として取り出したユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つに対応するアドバイスを取り出し、ユーザに提示する第5ステップを備えるようにしてもよい。また、推定結果として取り出したユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つを、予め設定されている通信対象に送信する第5ステップを備えるようにしてもよい。
【0010】
本発明に係る状態推定システムは、物体に設けられて物体が受けた操作を検出して物体センサ部を識別するための物体IDを送信する物体センサ部と、ユーザに装着されてユーザの状態を測定して送信するユーザセンサ部と、物体IDを受信する送受信部と、物体IDを受信したことにより、ユーザセンサ部が測定しているユーザ状態をユーザセンサ部に送信させる指示を送受信部からユーザセンサ部に送信させる通信制御部と、送受信部が受信した物体ID及びユーザセンサ部から送信されたユーザ状態を記憶する受信データ記憶部と、予め用意されているユーザ状態と物体IDとの組みに、ユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つが対応付けられているデータベースと、受信データ記憶部に記憶されている物体IDとユーザ状態との組みに対応するユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つをデータベースより取り出して推定結果とする状態推定部とを少なくとも備えるものである。
【0011】
上記状態推定システムにおいて、状態推定部は、ユーザ状態と物体IDとを特徴ベクトルとしたパターン認識により、データベースより、受信した物体IDとユーザ状態との組みに対応するユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つを取り出すものであればよい。また、ユーザセンサ部は、ユーザ状態としてユーザの筋電位を測定するものであればよい。
【0012】
上記状態推定システムにおいて、ユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つと対応するアドバイスを備えたアドバイスデータベースと、推定結果として取り出したユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つに対応するアドバイスを取り出すアドバイス生成部と、アドバイス生成部が取り出したアドバイスをユーザに提示する情報提示部とを備えるようにしてもよい。また、通信制御部は、推定結果として取り出したユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つを、予め設定されている通信対象に送信するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、予め用意されているユーザ状態と物体IDとの組みに、ユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つが対応付けられているデータベースより、受信した物体IDとユーザ状態との組みに対応するユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つを取り出して推定結果とするようにしたので、人などのユーザの行動状態やこの行動により操作される物体の状態などが推定できるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における状態推定システムの構成例を示す構成図である。この状態推定システムは、状態推定装置100と、ユーザセンサ部120と、物体センサ部130A,130B,130Cを備える。ユーザセンサ部120は、行動などの推定対象となるユーザに装着される。また、物体センサ部は、ユーザの周囲に配置されている物体に取り付けられている。なお、本例では、3つの物体センサ部130を備える場合を示しているが、これに限るものではなく、物体センサ部130は、4つ以上備えられいてもよく、また、1つであっても良い。
【0015】
本状態推定システムを構成している状態推定装置100は、状態推定部101,状態記憶部104,送受信部105,受信データ記憶部106,通信制御部107,及び入力部108を備えている。また、状態推定部101は、ユーザ行動状態推定部102と物体状態推定部103とを備えている。また、ユーザセンサ部120は、ユーザ状態測定部121,記憶部122,送受信部123,及び制御部124を備えている。また、物体センサ部130Aは、操作状態検出部131,記憶部132,送受信部133,及び制御部134を備えている。なお、物体センサ部130B及び物体センサ部130Cも、物体センサ部130Aと同様の構成である。
【0016】
次に、各構成について、より詳細に説明する。
【0017】
まず、送受信部105では、無線通信により受信したデータを受信データ記憶部106に記憶する。また、送受信部105は、通信制御部107の制御により、必要とするデータの送出の指示を送信し、この指示の結果送信されたデータを受信して、受信データ記憶部106に記憶する。このようにして受信データ記憶部106に記憶されたデータの中より、状態推定部101が、ユーザの状態を示すデータ(ユーザ状態)及び操作を受けた物体を示すデータ(物体ID)を取り出す。
【0018】
以上のようにして各データが取り出されると、状態推定部101は、取り出したユーザの状態及び物体IDより、ユーザセンサ部120が装着されているユーザを含むこのユーザの環境の状態を推定する。状態推定部101のユーザ行動状態推定部102は、上記ユーザの状態及び上記物体IDと、状態記憶部104に記憶されているユーザ行動結果とより、ユーザの行動の状態を推定する。また、状態推定部102の物体状態推定部103は、上記ユーザの状態及び上記物体IDと、状態記憶部104に記憶されている操作結果とより、物体センサ部130が設けられている物体の状態を推定する。また、入力部108よりユーザ行動の状態が入力されると、状態推定部101が、入力されたユーザ行動の状態を状態記憶部104に記憶する。
【0019】
状態推定装置100は、例えば、CPUと主記憶装置と外部記憶装置とネットワーク接続装置となどを備えたサーバ(コンピュータ機器)であり、主記憶装置に展開されたプログラムによりCPUが動作することで、上述した各機能が実現される。また、各機能は、複数のコンピュータ機器に分散させるようにしてもよい。例えば、送受信部105は、シリアルポート,パラレルポート,LAN(Local Area Network),USB(Universal Serial Bus),CF(Compact Flash)インタフェースなどのインタフェースを介して接続されていても良い。
【0020】
次に、ユーザセンサ部120において、ユーザ状態測定部121は、例えば、ユーザの腕の筋肉が発生する電位(筋電位)などのユーザ(人体)の状態を測定する。ユーザ状態測定部121に測定されたユーザの状態(ユーザ状態)は、制御部124に制御されている送受信部123により、状態推定装置100に対して送出される。また、記憶部122には、ユーザセンサ部120及びユーザセンサ部120が装着されているユーザを識別するための識別情報などが記憶されている。ユーザセンサ部120は、例えば、状態推定装置100からのデータ送出指示を送受信部123が受け付けると、制御部124の制御により、記憶部122に記憶されている識別情報と共に、ユーザ状態測定部121が測定しているユーザ状態を、状態推定装置100に対して送信する。
【0021】
なお、ユーザ状態測定部121は、筋電位の測定に限るものではなく、対象となる(装着されている)ユーザの心拍,脈拍,血流,血中飽和酸素濃度,心電,皮膚温度,皮膚導電率,脳波などの生体情報を測定するセンサであればよい。また、ユーザ状態測定部121は、例えば、加速度センサや、足の裏に加わる圧力の分布を測定する足圧センサであっても良い。
【0022】
また、ユーザセンサ部120は、例えば衣服に取り付けられている状態,リストバンド型,腕時計型などの、可能な範囲で違和感の低減された状態で装着可能な形態(形状)であることが望ましい。また、ユーザセンサ部120は、ユーザに装着されて携帯されるため、図示していないが、電池を備え、電池により駆動される。また、送受信部123は、無線通信により状態推定装置100(送受信部105)と通信を行うものであり、無線通信としては、例えば、無線LAN,特定小電力無線,微弱無線,「ZigBee」(登録商標),及び「Bluetooth」(登録商標)などを用いればよい。
【0023】
次に、物体センサ部130Aにおいて、操作状態検出部131は、例えば、物体センサ部130Aが設けられている物体をユーザが持つなど、ユーザにより当該物体が操作を受けた状態(操作状態)を検出する。操作状態検出部131に操作状態が検出されると、制御部134は、記憶部132に記憶されている物体IDを、送受信部133により状態推定装置100に対して送出する。なお、記憶部132には、物体センサ部130A及び物体センサ部130Aが設置されている物体を識別するための識別情報(物体ID)が記憶されている。
【0024】
ここで、操作状態検出部131は、対象となる物体に対するユーザの接触を検出する接触センサや、当該物体の振動を検出する振動センサなどであればよい。また、対象となる物体が、例えば家庭で用いられる電気機器や電子機器の場合、これらの操作の状態を検出するセンサであっても良い。また、送受信部133は、前述同様であり、無線通信により状態推定装置100(送受信部105)と通信を行うものであり、無線通信としては、例えば、無線LAN,特定小電力無線,微弱無線,「ZigBee」(登録商標),及び「Bluetooth」(登録商標)などを用いればよい。なお、物体センサ部130Aは、設置される物体が移動する場合は、電池により駆動されるようにすればよい。また、物体センサ部130Aは、設置される物体が、上記電気機器など家庭内に固定されて配置されている場合、商用電源により駆動するようにしても良い。なお、物体センサ部130B,物体センサ部130Cも、物体センサ部130Aと同様である。
【0025】
ここで、状態記憶部104について説明する。状態記憶部104は、ユーザセンサ部120により測定されたユーザ状態及び操作状態が物体センサ部130Aに検出された物体の物体IDと、これらに対応するユーザの行動とが関連付けられた参照データを予め記憶している。参照データは、図2に例示するように、ユーザ状態測定部121に測定されたユーザのある部位の筋肉の筋電位1(第1測定値),他の部位の筋肉の筋電位2(第2測定値),及び操作状態が操作状態検出部131に検出された物体IDに対し、これらが測定及び検出されたときに観測されたユーザの行動とが関連付けられている。
【0026】
例えば、筋電位1の値「a1」、筋電位2の値「a2」,及び物体IDが「y」に対し、ユーザは該当する物体を「手に取る」という行動が関連付けられている。ここで、例えば、物体ID「y」は、物体センサ部130Aの識別子であり、物体ID「z」は、物体センサ部130Bの識別子であり、物体ID「q」は、物体センサ部130Cの識別子である。なお、筋電位の値は、平滑フィルタ処理された筋電位センサの値をアナログデジタル変換し、ある一定のサンプリング周期でサンプリングし、得られた筋電位データをある一定期間で積分したものであり、ある一定期間における筋力の大きさと考えることができる。
【0027】
次に、状態推定システムの動作例について、図3の説明図を用いて説明する。例えば、物体センサ部130Aが取り付けられている物体が、持ち上げられるなどの所定の操作を受けると、物体センサ部130Aの操作状態検出部131が、受けた操作を検出する(ステップS301)。操作状態検出部131が操作を検出すると、制御部134の制御により、送受信部133が、記憶部132に記憶されている物体IDを、状態推定装置100(送受信部105)に送信する(ステップS302)。
【0028】
物体センサ部130Aより送信された物体IDが状態推定装置100の送受信部105に受信されると(ステップS303)、この状態を検出した通信制御部107の制御により、受信した物体IDを受信した時刻の情報と共に受信データ記憶部106に記憶する(ステップS304)。また、通信制御部107は、上記データを受信データ記憶部106に記憶すると、送受信部105を制御し、ユーザセンサ部120に対して測定値の送信の指示を送信する(ステップS305)。
【0029】
測定値送信の指示がユーザセンサ部120の送受信部123で受け付けられると、制御部124は、ユーザ状態測定部121で測定されているユーザ状態の測定値(筋電位)を、送受信部123より状態推定装置100に対して送信する(ステップS306)。ユーザセンサ部120より送信された測定値が状態推定装置100の送受信部105に受信されると(ステップS307)、この状態を検出した通信制御部107の制御により、受信した測定値を受信データ記憶部106に記憶する(ステップS308)。
【0030】
以上のようにして、物体ID及び測定値が受信データ記憶部106に記憶されると、状態推定部101では、これら測定値と物体IDとの情報をもとに、ユーザ行動状態推定部102が、状態記憶部104に記憶されている参照データを参照することで、ユーザの行動状態を推定する(ステップS309)。得られた測定値と物体IDとをもとに、この組みに対応するものとして状態記憶部104より取り出したユーザの行動が、ユーザ状態を推定した結果となる。
【0031】
ここで、状態記憶部104に記憶してある参照データの作成について簡単に説明する。まず、状態推定装置100を、参照データの作成モードとしておく。この状態で、ユーザセンサ部120が装着されているユーザにより、例えば、物体センサ部130Aが取り付けられている物体を持ち上げなどの所定の操作を行う。この操作により、物体センサ部130Aの操作状態検出部131が、受けた操作を検出する(ステップS401)。操作状態検出部131が操作を検出すると、制御部134の制御により、送受信部133が、記憶部132に記憶されている物体IDを、状態推定装置100(送受信部105)に送信する(ステップS402)。
【0032】
物体センサ部130Aより送信された物体IDが状態推定装置100の送受信部105に受信されると(ステップS403)、この状態を検出した通信制御部107の制御により、受信した物体IDを受信した時刻の情報と共に受信データ記憶部106に記憶する(ステップS404)。また、通信制御部107は、上記データを受信データ記憶部106に記憶すると、送受信部105を制御し、ユーザセンサ部120に対して測定値の送信の指示を送信する(ステップS405)。
【0033】
測定値送信の指示がユーザセンサ部120の送受信部123で受け付けられると、制御部124は、ユーザ状態測定部121で測定されているユーザ状態の測定値を、送受信部123より状態推定装置100に対して送信する(ステップS406)。ユーザセンサ部120より送信された測定値が状態推定装置100の送受信部105に受信されると(ステップS407)、この状態を検出した通信制御部107の制御により、受信した測定値を受信データ記憶部106に記憶する(ステップS408)。
【0034】
以上のようにして、物体ID及び測定値が受信データ記憶部106に記憶されると、状態推定部101が測定値及び物体IDを取り出する。このようにして測定値と物体IDとが取り出されると、前述したように参照データの作成モードとされている状態推定部101では、入力部108に対するユーザ行動の状態の入力を待つ。上述した物体ID及び測定値の生成の元となるユーザの行動状態が、入力部108に入力されると(ステップS409)、状態推定部101は、既に取り出してある測定値及び物体IDの組みに、入力された行動状態を組み合わせ、状態記憶部104に参照データとして記憶する(ステップS410)。
【0035】
次に、得られた物体IDや測定値などと、状態記憶部104に記憶されている参照データとを用いたユーザの行動状態の推定について、より詳細に説明する。例えば、ユーザ行動状態推定部102は、得られた物体IDと測定値とを特徴ベクトルとしたパターン認識により、参照データよりユーザの行動状態を推定する。このパターン認識には、最近隣法,ニューラルネットワーク,及びサポートベクトルマシンなどの方法を用いればよい(非特許文献1参照)。
【0036】
パターン認識の例としてニューラルネットワークを利用した場合について説明する。まず、ユーザの行動状態やユーザに操作された物体の物体IDによるカテゴリcを、「c~=f(X,W),X=(a1,a2,・・・,ai,y)T,W=(w1,w2,・・・,wiT・・・(1)」と定める。これは、カテゴリcを非線形関数で構成する場合である。ここで、c~は、ユーザの行動状態やユーザにより操作された物体IDのカテゴリを数値化したものであり、例えば、「ユーザxが物体yを手に取る」という行動は1、「ユーザxが物体yを置く」という行動は2とするなど、f(X,W)は、XとWの非線形関数、Wは係数ベクトル,a1,a2,・・・,aiは、i個のユーザセンサ部による測定値及び物体センサ部により得られる値、yは数値化された物体IDである。ここでは、操作される物体は1つとしたが、複数でもよく、この場合は、物体IDが複数となる。
【0037】
係数ベクトルWは、ある期間のトレーニングデータX,c,c~を用いて決定する。この決定について図5のフローチャートを用いて説明する。まず、ユーザセンサ部による測定値(ユーザ状態データ)及び物体センサ部により得られる値(物体ID)によりベクトルXを構成する(ステップS501)。
【0038】
次に、ニューラルネットワークによって推定したカテゴリ値c~と実際のカテゴリ値cとの誤差としてこれら差を自乗和した「E=1/2Σ(c~−c)2・・・(2)」を算出し(ステップS502)、算出した誤差を用いて「dΕ/dW=Σ(c~−c),∂f(X,W)/∂W・・・(3)」を計算し(ステップS503)、「W=W+ΔW,ΔW=−αdΕ/dW・・・(4)」により、係数ベクトルWを更新する(ステップS504)。なお、αは正の実数であり、ΔWはWの更新量である。
【0039】
次いで、ステップS502で算出したΕが、予め設定されている値εよりも小さい場合、ステップS504で更新された係数ベクトルWを、状態推定のために用いるユーザの行動状態及び物体IDによるカテゴリcの係数ベクトルWと決定する。このようにして決定された係数ベクトルWを用いた式(1)により、ニューラルネットワークによりカテゴリ値c~を推定すればよい。
【0040】
ところで、同じ物体を対象とした操作を行う場合でも、物体に設置された物体センサ部より送信されるデータは同じ物体IDとなるが、この物体IDの送信の結果、ユーザセンサ部より得られる測定値、例えば筋電位は、物体に対する異なる操作の状態を反映したものとなる。従って、ユーザセンサ部より得られるユーザ状態の測定値(筋電位)のパターンにより、ユーザがどの物体をどの様に操作したかを示す行動が、本実施の形態における状態推定装置により推定できる。
【0041】
例えば、図6に示すように、ユーザセンサからの筋電位1及び筋電位2の測定結果(a1,a2)と、物体センサからの物体ID(y)との組み合わせを特徴ベクトルとし、データベースを用いたパターン認識により、「ユーザが物体yを手に取った」という行動が推定できる。また、同じ物体yを対象とした行動であっても、ユーザセンサで測定される筋電位1及び筋電位2の測定結果の違い(a3,a4)により、「ユーザが物体yを置いた」という行動が推定できる。また、これらのことが、物体センサからの物体IDを受け付けた時刻の情報をもとにすることで、どの時刻でなされたかも推定できる。
【0042】
ところで、上述では、ユーザの行動を推定するようにしたが、これに限るものではなく、本実施の形態の状態推定装置によれば、ユーザにより操作された物体の状態を推定することもできる。物体の状態を推定する場合、まず、図7に例示するように、ユーザ状態測定部121(図1)に測定されたユーザのある部位の筋肉の筋電位1(第1測定値),他の部位の筋肉の筋電位2(第2測定値),及び操作状態が操作状態検出部131に検出された物体IDに対し、これらが測定及び検出されたときに観測された物体の状態が関連付けられた参照データを、状態記憶部104(図1)に記憶しておく。
【0043】
以下、物体の状態を推定する場合の状態推定システムの動作例について、図3の説明図を用いて説明する。例えば、物体センサ部130Aが取り付けられている物体が、持ち上げられるなどの所定の操作を受けると、物体センサ部130Aの操作状態検出部131が、受けた操作を検出する(ステップS301)。操作状態検出部131が操作を検出すると、制御部134の制御により、送受信部133が、記憶部132に記憶されている物体IDを、状態推定装置100(送受信部105)に送信する(ステップS302)。
【0044】
物体センサ部130Aより送信された物体IDが状態推定装置100の送受信部105に受信されると(ステップS303)、この状態を検出した通信制御部107の制御により、受信した物体IDを受信した時刻の情報と共に受信データ記憶部106に記憶する(ステップS304)。また、通信制御部107は、上記データを受信データ記憶部106に記憶すると、送受信部105を制御し、ユーザセンサ部120に対して測定値の送信の指示を送信する(ステップS305)。
【0045】
測定値送信の指示がユーザセンサ部120の送受信部123で受け付けられると、制御部124は、ユーザ状態測定部121で測定されているユーザ状態の測定値を、送受信部123より状態推定装置100に対して送信する(ステップS306)。ユーザセンサ部120より送信された測定値が状態推定装置100の送受信部105に受信されると(ステップS307)、この状態を検出した通信制御部107の制御により、受信した測定値を受信データ記憶部106に記憶する(ステップS308)。
【0046】
以上のようにして、物体ID及び測定値が受信データ記憶部106に記憶されると、状態推定部101では、測定値と物体IDとの情報をもとに、ユーザ行動状態推定部102が、状態記憶部104に記憶されている参照データを参照することで、物体の状態を推定する(ステップS309)。得られた測定値と物体IDとをもとに、この組みに対応するものとして状態記憶部104より取り出した物体状態が、物体の状態を推定した結果となる。
【0047】
例えば、ユーザが手に取った物体rは、高い所にあった(ユーザは高い所にある物体rを取った)と言うような状態が推定できる。また、同じ物体rに対する操作であっても、測定されたユーザ状態の測定値(筋電位)のパターンの違いにより、ユーザが手に取った物体rは、低い所にあった(ユーザは低い所にある物体rを取った)と言うような状態が推定できる。同様に、空の軽いコップを操作する場合と、飲料水を収容した重いコップを操作する場合との、腕の筋肉の筋電位パターンの違いにより、これらコップの状態が推定できる。
【0048】
上述したような本実施の形態における状態推定システムは、次に示すように、ユーザに対する行動支援にも利用可能である。例えば、図8に示すように、状態推定装置100に、情報提示部801を接続し、また、状態推定装置100をインターネットなどのネットワーク802を介してアドバイス生成部803に接続する。状態推定装置100により推定されたユーザの行動状態や物体の状態を、ネットワーク802を介してアドバイス生成部803に送信すると、アドバイス生成部803では、受信したユーザの行動状態や物体の状態の推定結果をもとに、対応する行動アドバイスをアドバイスデータベース804より取り出す。
【0049】
アドバイスを取り出したアドバイス生成部803は、これをネットワーク802を介して状態推定装置100に送信する。このようにして行動アドバイスを受信した状態推定装置100は、受信した行動アドバイスを情報提示部801に提示し、ユーザに視認可能な状態とする。行動アドバイスとしては、例えば、受信したユーザの行動状態や物体の状態の推定結果より、この状態が体に負担をかける無理な動作をしているとの注意や、操作対象の物体が危険な所に配置されているなどの注意を喚起するものであり、文字表示や音声出力などにより、ユーザに認識可能な状態とする。
【0050】
また、本実施の形態における状態推定システムは、次に示すように、遠隔地のユーザ(独居高齢者など)に対する見守りシステムにも利用可能である。例えば、図9に示すように、状態推定装置100をインターネットなどのネットワーク901を介して情報受信部902に接続する。情報受信部902は、予め設定されている通信対象である。状態推定装置100は、ユーザの行動状態や物体の状態を推定すると、通信制御部107の制御により、ネットワーク901を介して情報受信部902に送信する。情報受信部902では、受信したユーザの行動状態や物体の状態の推定結果を、情報提示部903に出力する。この結果、情報提示部903に出力された推定結果により、見守り対象のユーザの行動状態や、当該ユーザの所在している居室内の物体の状態が、担当者に認識されるようになり、ユーザが体に負担をかける無理な行動をしている状態や、物体が危険な所に置かれている状態などが、担当者に容易に把握できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
上述したように、本発明によれば、ユーザ及び環境や物体の状態を高精度に推定し、ユーザにアラームなどの行動支援メッセージを提供することや、あるいは、遠隔地から通信ネットワークにより独居高齢者の見守りなどすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態における状態推定システムの構成例を示す構成図である。
【図2】状態記憶部104に記憶されている参照データの構成例を示す構成図である。
【図3】実施の形態における状態推定システムの動作例について説明する説明図である。
【図4】実施の形態における状態推定システムの動作例について説明する説明図である。
【図5】ユーザの行動状態及び物体IDによるカテゴリcを示す式における係数ベクトルWの決定について説明するフローチャートである。
【図6】状態推定の例を示す説明図である。
【図7】物体の状態を推定するときに用いる参照データの構成を示す構成図である。
【図8】本実施の形態における状態推定システムをユーザの行動支援のためのシステムに適用した場合の構成例を示す構成図である。
【図9】本実施の形態における状態推定システムをユーザの見守りのためのシステムに適用した場合の構成例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0053】
100…状態推定装置、101…状態推定部、102…ユーザ行動状態推定部、103…物体状態推定部、104…状態記憶部、105…送受信部、106…受信データ記憶部、107…通信制御部、108…入力部、120…ユーザセンサ部、121…ユーザ状態測定部、122…記憶部、123…送受信部、130A,130B,130C…物体センサ部、131…操作状態検出部、132…記憶部、133…送受信部、134…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体が受けた操作を検出するために前記物体に設けられた物体センサ部から送信された前記物体センサ部を識別するための物体IDを受信する第1ステップと、
前記物体IDを受信したことにより、ユーザに装着されたユーザセンサ部が測定しているユーザ状態を前記ユーザセンサ部に送信させる指示を前記ユーザセンサ部に送信する第2ステップと、
前記ユーザセンサ部から送信された前記ユーザ状態を受信する第3ステップと、
予め用意されているユーザ状態と物体IDとの組みに、ユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つが対応付けられているデータベースより、受信した前記物体IDと前記ユーザ状態との組みに対応する前記ユーザの行動状態及び前記物体が受けた操作状態の少なくとも1つを取り出して推定結果とする第4ステップと
を少なくとも備えることを特徴とする状態推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の状態推定方法において、
前記第4ステップでは、ユーザ状態と物体IDとを特徴ベクトルとしたパターン認識により、前記データベースより、受信した前記物体IDと前記ユーザ状態との組みに対応する前記ユーザの行動状態及び前記物体が受けた操作状態の少なくとも1つを取り出す
ことを特徴とする状態推定方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の状態推定方法において、
前記ユーザセンサ部は、前記ユーザ状態として前記ユーザの筋電位を測定する
ことを特徴とする状態推定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の状態推定方法において、
前記ユーザの行動状態及び前記物体が受けた操作状態の少なくとも1つと対応するアドバイスを備えたアドバイスデータベースより、前記推定結果として取り出した前記ユーザの行動状態及び前記物体が受けた操作状態の少なくとも1つに対応するアドバイスを取り出し、前記ユーザに提示する第5ステップ
を備えることを特徴とする状態推定方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の状態推定方法において、
前記推定結果として取り出した前記ユーザの行動状態及び前記物体が受けた操作状態の少なくとも1つを、予め設定されている通信対象に送信する第5ステップ
を備えることを特徴とする状態推定方法。
【請求項6】
物体に設けられて前記物体が受けた操作を検出して前記物体センサ部を識別するための物体IDを送信する物体センサ部と、
ユーザに装着されて前記ユーザの状態を測定して送信するユーザセンサ部と、
前記物体IDを受信する送受信部と、
前記物体IDを受信したことにより、前記ユーザセンサ部が測定しているユーザ状態を前記ユーザセンサ部に送信させる指示を前記送受信部から前記ユーザセンサ部に送信させる通信制御部と、
前記送受信部が受信した前記物体ID及び前記ユーザセンサ部から送信された前記ユーザ状態を記憶する受信データ記憶部と、
予め用意されているユーザ状態と物体IDとの組みに、ユーザの行動状態及び物体が受けた操作状態の少なくとも1つが対応付けられているデータベースと、
前記受信データ記憶部に記憶されている前記物体IDと前記ユーザ状態との組みに対応する前記ユーザの行動状態及び前記物体が受けた操作状態の少なくとも1つを前記データベースより取り出して推定結果とする状態推定部と
を少なくとも備えることを特徴とする状態推定システム。
【請求項7】
請求項6記載の状態推定システムにおいて、
前記状態推定部は、ユーザ状態と物体IDとを特徴ベクトルとしたパターン認識により、前記データベースより、受信した前記物体IDと前記ユーザ状態との組みに対応する前記ユーザの行動状態及び前記物体が受けた操作状態の少なくとも1つを取り出す
ことを特徴とする状態推定システム。
【請求項8】
請求項6又は7記載の状態推定システムにおいて、
前記ユーザセンサ部は、前記ユーザ状態として前記ユーザの筋電位を測定する
ことを特徴とする状態推定システム。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の状態推定システムにおいて、
前記ユーザの行動状態及び前記物体が受けた操作状態の少なくとも1つと対応するアドバイスを備えたアドバイスデータベースと、
前記推定結果として取り出した前記ユーザの行動状態及び前記物体が受けた操作状態の少なくとも1つに対応するアドバイスを取り出すアドバイス生成部と、
前記アドバイス生成部が取り出した前記アドバイスを前記ユーザに提示する情報提示部と
を備えることを特徴とする状態推定システム。
【請求項10】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の状態推定システムにおいて、
前記通信制御部は、前記推定結果として取り出した前記ユーザの行動状態及び前記物体が受けた操作状態の少なくとも1つを、予め設定されている通信対象に送信する
ことを特徴とする状態推定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−89633(P2009−89633A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261720(P2007−261720)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)