説明

状態識別方法及び状態識別システム

現場における状態診断のために、使用方法が簡便で、診断精度が高く、処理速度が速く、携帯ができる診断システムを提供する必要がある。本発明では、処理アルゴリズムが複雑で長い処理時間を必要とする診断機能の学習過程を、計算能力が高くメモリ容量が大きい計算機で行い、計算機での学習により構成された診断機能に必要な要素をポケットサイズの携帯型診断装置に転送し、携帯型診断装置を用いて迅速に状態診断を行う状態識別方法及び状態識別システムを提案した。更に、状態診断のための情報処理を効率的に行うために、診断のために測定した波形データから雑音を除去して得た特徴波形データをパラメータ波形データに変換し、パラメータ波形データが計測した信号を時間スケールにおける圧縮する役割を果たすので、パラメータ波形データを用いて状態診断を迅速に行う。

【発明の詳細な説明】
一.技術分野
本発明は、設備診断、インフラ施設診断、医療診断、音声認識及びパターン認識などの分野において、対象物の状態判定や信号識別を行うための状態識別方法及び状態識別システムに関するものである。
二.背景技術
従来の状態診断は、次のように行われる。
(1) 計算機で状態識別処理を行う(例えば、参考文献(1))。なお、本明細書記載の「計算機」とは実用上ポケットサイズで実現しにくい情報処理装置のことである。
(2) ポケットサイズの携帯式識別装置で全ての状態識別処理を行う(例えば、参考文献(2))。
(3) 状態識別のために測定された時系列信号をそのまま高速フーリエ変換処理や包絡線処理や特徴パラメータや情報理論などに用いることにより状態識別を行う(例えば、参考文献(3))。
三.発明が解決しようとする課題
しかしながら、前記従来の諸手法には次のような問題があった。
第(1)の方法では、複雑な信号処理や学習処理や識別処理などが容易に行えるため、知能化状態識別システムが構築し易いが、携帯式(ポケットサイズ)の識別装置として実現することが困難な場合がある。
第(2)の方法では、ポケットサイズの携帯型識別装置は計算能力やメモリ容量などの制限により複雑な信号処理や学習処理などのために非常に時間がかかるだけでなく、高精度が要求される状態識別問題に対応できない場合が多い。
第(3)の方法は、状態識別の分野で一般的に用いられる方法であるが、波形データを測定する時にサンプリング周波数が高く、測定時間が長い場合、膨大な量の波形データの処理を必要とするため、ポケットサイズの携帯型識別装置による処理は困難である。
四.課題を解決するための手段
上記に述べたような問題点を解決するために、本発明においては、処理アルゴリズムが複雑で、長い処理時間を必要とする状態識別機能の学習・構築過程を、計算能力が高くメモリ容量が大きい計算機で行い、計算機での学習により構築された状態識別機能に必要な要素を携帯型識別装置に転送し、携帯型識別装置を用いて迅速に状態識別を行うことができる。また、携帯型識別装置により得られた波形データと識別結果を計算機に転送して、計算機により原因分析や状態傾向管理などのより高度な処理を行うこともできる。
更に状態識別の情報処理を効率的に行うには、状態識別のために測定された波形データから雑音を除去して得た特徴波形データをパラメータ波形データに変換し、パラメータ波形データが特徴波形データを時間スケールにおける圧縮する役割をも果たすので、パラメータ波形データを用いて状態識別を迅速に行うことができる。
五.発明の効果
本発明においては、現場で対象物の状態識別を効率的に行うために、処理アルゴリズムが複雑で長い処理時間を必要とする学習過程を、計算能力が高くメモリ容量が大きい計算機で行い、計算機での学習により構築された状態識別機能に必要な要素を携帯型識別装置に転送し、携帯型識別装置を用いて迅速に信号計測と状態識別を行うことができる。また、携帯型識別装置により得られた状態識別時の波形データと識別結果を計算機に転送して、計算機により原因分析や状態傾向管理などのより高度な処理を行うこともできる。
更に状態識別のための情報処理を効率的に行うために、状態識別のために取得した特徴波形データをパラメータ波形データに変換し、パラメータ波形データが特徴波形データを時間スケールにおける圧縮する役割を果たすので、パラメータ波形データを用いて状態識別を迅速に行うことができる。
六.発明を実施するための最良の形態
図1は本発明の処理の流れを示す。図2は図1に示す状態識別システムを実現するためのハードウェアの構成図である。図3は携帯型識別装置の回路図の一例である。図3には、1はセンサ、2はアンプ、3はフィルタ、4は処理部、5は結果表示器、6はデータ用RAM、7はAD変換器、8はDCポート、9はSCI、10は1チップCPU、11はフラッシュROM、12は外部計算機である。
以下には図1に示す信号計測と状態識別の処理の流れを説明する。
なお、設備診断分野や医療診断分野では、「状態識別」のことを「状態診断」とも言うが、本明細書では統一に「状態識別」と記する。
1.計算機での学習による状態識別機能の構築
1−1.識別すべき状態の設定
識別すべき諸状態の特徴を反映する波形データが測定できる場合、これらの波形データを用いて状態識別機能の構築を行う。設備診断や医療診断の場合、一般に基準状態は正常状態であるが、他の状態は異常状態という。
1−2 信号の計測
識別すべき各状態の特徴周波数帯域に応じて波形データを計測して取得する。例えば、設備診断の場合、図4に示すように各種異常状態が発生した時、異常の特徴を示す信号はそれぞれ低、中、高周波数領域に現れる。雑音の影響を小さくするために、信号計測時に識別すべき異常状態によって波形データをこれらの低、中、高周波数領域に分けて測定する必要がある。
1−3 雑音除去による特徴波形データの抽出
異常状態の早期検出のために、測定された波形データから更に雑音を除去し特徴波形データを抽出する必要がある。雑音除去する方法はこれまでに多く報告されている(例えば、参考文献(4)、(5))。
1−4 パラメータ波形の算出
波形データを計測して得る時にサンプリング周波数が高く、測定時間が長い場合、波形データの量が膨大になり、状態識別処理のために時間がかかり、状態識別の効率が悪くなる。そこで、抽出された特徴波形データをパラメータ波形データに変換した後、パラメータ波形データを用いて状態識別を行う。変換に用いる特徴パラメータは有次元特徴パラメータと無次元特徴パラメータがある(例えば、参考文献(6))。
例えば、図5(a)はある軸受の外輪傷状態で測定した生波形データであり、図5(b)は雑音を除去した特徴波形データであり、図5(c)は有次元特徴パラメータ(実効値)で算出されたパラメータ波形データである。生の波形データの数が8192個であるのに対して、実効値のパラメータ波形データの数はわずか128個であるから、データ圧縮の効果が確認できる。パラメータ波形データを計算する時に用いる特徴波形データ数は次の式で計算される。

ここで、fは解析したい特徴周波数であり、fは時系列波形データのサンプリング周波数である。
例えば、軸受の状態識別の場合は、パラメータ波形データを計算する時に用いる特徴波形データの数は次の式で計算される。

ここで、fは外輪傷状態時の特徴(パス)周波数であり、fは時系列波形データのサンプリング周波数である。
軸受の状態を識別するために、FFTにより求めた実効値のパラメータ波形データのスペクトルを図5(d)に示す。図5(d)のスペクトルにある1番目のピークの周波数は110Hzで、該軸受の外輪傷状態時の特徴(パス)周波数と一致するから、「外輪傷状態」であると判定できる。
同様に、図5(e)は無次元特徴パラメータ(実効値比、つまり、波形データの区間実効値と全体実効値との比)で算出されたパラメータ波形データを示す。図5(e)のスペクトル(図5(f))からも「外輪傷状態」であると判定できる。
1−5 諸状態を識別するための知識の確立
(1) ニューラルネットワーク、或いは、多値ニューラルネットワークの場合
ニューラルネットワーク、或いは、多値ニューラルネットワークにより状態識別を行うために、特徴波形データ(或いは、パラメータ波形データ)の特徴を表す有限個の指標を計算する必要がある。このような指標を「特徴パラメータ」という.従来特徴パラメータは数多く定義されている(例えば、参考文献(7))
ニューラルネットワーク、或いは、多値ニューラルネットワークを学習させるために、次のような入力データと教師データが必要である。

ここで、pijは第i番目の特徴パラメータで、第j回目に抽出された特徴波形データ(或いは、パラメータ波形データ)で求めた値である。nは特徴パラメータの種類数であり、mは波形データの測定回数である。dijは入力データの第j行に対応する第i番目の状態の発生率である。入力データと教師データの求め方の例は(例えば、参考文献(8))に示している。
(2)GA特徴パラメータの場合
状態a時と状態b時の特徴波形データ(或いは、パラメータ波形データ)で求めた特徴パラメータをそれぞれp(a)ijとp(b)ijとすると、入力データは次のように求められる。

ここで、nは特徴パラメータの種類数であり、mは波形データの測定回数である。
状態aと状態bとを識別できる良好な特徴パラメータは遺伝的アルゴリズムにより求められる。なお、遺伝的アルゴリズムにより求めた良好な特徴パラメータをGA特徴パラメータと呼ぶ。具体的な求め方の例は(例えば、参考文献(9))に示している。
(3)ファジィ識別機構の場合
ファジィ識別機構の場合、ファジィ推論の前件部(入力)と後件部(結論)は、特徴波形データ(或いは、パラメータ波形データ)を用いて求められる。具体的な求め方は(例えば、参考文献(10))に示している。
(4)その他の方法
上記に示した3種類の状態識別方法以外に他の方法もあるが、いずれにしても状態識別機能を構築するために、特徴波形データ、或いは、パラメータ波形データを用いて各状態を識別するための知識を確立しておく。
1−6 状態識別機能を学習により構築する
上記に説明したように、各状態を識別するための知識を確立しておくと、携帯型識別装置のために、状態識別機能を学習により構築できる。状態識別機能を構築する例は、ニューラルネットワークの場合(例えば、参考文献(8))に、GA特徴パラメータの場合(例えば、参考文献(9))に、ファジィ識別の場合(例えば、参考文献(10))に示している。
1−7 状態識別機能に必要な要素を携帯型識別装置への転送
計算機から携帯型識別装置へ転送する、状態識別機能に必要な要素は、ニューラルネットワーク、或いは、多値ニューラルネットワークの場合は重み係数であり、GA特徴パラメータの場合は遺伝的アルゴリズムにより求めた状態識別用の良好なGA特徴パラメータと状態判定基準であり、ファジィ識別機構の場合は識別推論用のメンバーシップ関数である。
2.帯型識別装置による状態識別の準備と実行
2−1 識別の準備
計算機から転送された、状態識別機能に必要な要素を受け取った後、携帯型識別装置が単独で状態識別を行うために状態識別機能を構築する。例えば、ニューラルネットワークの場合、計算機で得られた学習済みのニューラルネットを携帯型識別装置で実行できるように準備し、波形データの測定条件及び状態識別時の判定基準を設定して置く。
2−2 状態識別の実行
携帯型識別装置の状態識別機能を備えた後、実際に対象物に対して信号の計測、雑音の除去及びパラメータ波形データの算出は上述の計算機での学習時(1−1〜1−4の内容)と同じである。計算機での学習により得られた状態識別機能を携帯型識別装置で実行させることにより信号計測と状態識別を行う。
2−3 状態識別結果の表示及び計算機への識別結果転送
携帯型識別装置で得られた識別結果を携帯型識別装置の表示部に表示させ、状態識別結果を示す。また、必要があれば、状態識別時に計測した波形データと状態識別結果を携帯型識別装置に蓄えて、計算機に転送した後、計算機で更に原因分析や状態傾向管理を行う。
七.実施の実例
1.多値ニューラルネットワークの例
図1に示す流れに従って、多値ニューラルネットワークを用いた状態識別システムの構築例を示す。
図6は対象の軸受と信号計測用のマイクを示す。識別すべき状態は,正常,転動体傷,内輪傷,外輪傷の4状態である。状態識別機能の学習を行う時に用いた波形データは、図6に示す対象の軸受から1m離れたところで計測した音響信号の波形データである。また,バンドパスフィルタ(5kHz〜40kHz)で測定した音響信号からの雑音除去を行った後、次式で正規化した。

ここで、x’は測定した信号の離散波形データであり、μとSはそれぞれx’の平均値と標準偏差である。
なお、この例では、サンプリング周波数が40kHzで1個の波形データ数が4096であるので、図5に示すようなパラメータ波形データを求めていない。なお、1個の波形データ数が多い場合、図5に示すパラメータ波形データを求めてから、次に示す特徴パラメータを求めて学習と識別を行ってもよい。
特徴波形データから算出された状態識別用の特徴パラメータは次に示す11個である。

ここで、

は絶対平均値で,Nはデータの総数である。

は標準偏差である。

ここで、μは波形の極大値(ピーク値)の平均値である。

ここで、μmaxは波形の10個の最大値の平均値である。


ここで、σは極大値の標準偏差値である。

ここで、μとσはそれぞれ極小値(谷値)の平均値と標準偏差値である。

図7は各状態での特徴波形データ(それぞ30個)により求めた特徴パラメータ(p〜p11)の値の例を示す。
特徴パラメータ値を次の式により整数化する。

ここで,int[x]はxの小数点を切り捨て,整数を求める関数である。Npiはmax{pij}からmin{pij}までの分割数を示す。この例では、m=120,i=1〜11である。
特徴パラメータの値の組合わせと状態kの発生率(可能性度合)との関係は次式で計算される。

例えば、p〜p11の値の組合わせが{2,5,12,1,12,4,9,16,17,3,5}の時、状態kが3回発生し、状態k以外の状態が7回発生したとすると、その時の状態kの可能性度合(発生率)が0.3で、状態kでない状態の可能性度合(発生率)が0.7である。このように、求めた状態識別機能(多値ニューラルネットワーク)の学習用データの一例を図8に示す。なお、入力データの冗長部分は(例えば、参考文献(8))に記述のラフ集合により除去した。
ここで軸受の状態識別用の多値ニューラルネットワークの例として図9に示す。図8に示す学習用のデータを用いて、計算機で図9に示す多値ニューラルネットワークを学習させ、学習済みの多値ニューラルネットワークの重み係数を携帯型識別装置に転送する。
携帯型識別装置は多値ニューラルネットワークの重み係数を受け取った後、図9に示す学習済みの多値ニューラルネットワークを実行できるように準備しておく。状態識別の時、図1に示す信号計測と状態識別の実行手順に従って図9に示す多値ニューラルネットワークを実行すれば、図10に示す識別結果が得られる。図10において、例えば、正常状態で測定した波形データから求めた特徴パラメータの値の組合わせ{3,2,1,16,14,17,16,3,4}を学習済みの多値ニューラルネットワークに入力すれば、多値ニューラルネットワークから出力された各状態の可能性度合(発生率)は、正常:0.79、転動体傷:0.34、内輪傷:0.46、外輪傷:0.34であるので、「正常状態」と判定できる。同様に、他の状態の識別結果も図10に示している。
2. GA特徴パラメータの例(参考文献(9))
図1に示す流れに従って、GA特徴パラメータを用いた状態識別システムの構築例を示す。
図11は図6の回転機械において識別すべき4状態(正常状態、外輪傷、内輪傷、転動体傷)で測定された加速度信号から抽出した特徴波形データとパラメータ波形データを示す。特徴波形データのサンプリング周波数(f)は25600Hzで、外輪傷のパス周波数は54Hzであるので、式(2)によればパラメータ波形データを計算する時に用いる特徴波形データの数は241でした。特徴波形データの点数が32768に対して、パラメータ波形データの点数がわずか136であるので、状態識別処理の効率が高められる。
これらの状態を識別するために、パラメータ波形データを用いて式(8)〜式(15)のp,p,p,p,p,pの値を算出する。
各状態を効率的に識別するために、図13に示す逐次的な状態識別を行う。この場合、各状態を識別するための専用の特徴パラメータが必要である。そこで、遺伝的アルゴリズム(GA)、或いは、遺伝的プログラミング(GP)を用いて各状態を識別するための良好なGA特徴パラメータを探索して求める。例えば、図13に示す4状態を識別するために求めたGA特徴パラメータは次に示す。
正常状態識別用のGA特徴パラメータ:

外輪傷状態識別用のGA特徴パラメータ:

内輪傷状態識別用のGA特徴パラメータ:

転動体傷状態識別用のGA特徴パラメータ:

更に、これらのGA特徴パラメータのばらつきや曖昧性を統計理論や可能性により調べ、状態識別用の判定基準を作成する。例えば、正常状態識別用のGA特徴パラメータPが近似的に正規分布に従うとし、正常状態時のPの平均値と標準偏差をμとσとすると、実際の状態識別時にPの値が次の条件式を満足すれば、約99.9%の確信度で「正常状態」と判定する。そうでなければ、約99.9%の確信度で「正常状態でない」と判定する。

このように、計算機で求めた各GA特徴パラメータ及び判定基準を携帯型識別装置に転送する。
携帯型識別装置が各GA特徴パラメータ及び判定基準を受け取った後、状態識別の時、図1に示す信号計測と状態識別の実行手順に従って各GA特徴パラメータ及び判定基準を用いて状態識別を行えば、識別結果が得られる。
3. ファジィ識別機構の例
図1に示す流れに従って、ファジィ識別機構を用いた状態識別システムの構築例を示す(参考文献(10))。
図13はある回転機械の歯車装置の状態識別を行うために測定した4状態(正常、偏心、磨耗、局所傷)の加速度波形データとスペクトルの例を示す。これらの状態を識別する知識を準備するために調べた結果、この回転機械の4状態を識別するために有効な周波数領域の特徴パラメータは次のp、p、p、pである。

ここで、


ここで、fは周波数で、fmaxはサンプリング周波数の1/2で、F(f)はスペクトルである。
この場合、図14に示すような流れで状態識別を行う。特徴波形データは正常状態を識別する場合は5kHz以下のスペクトル、他の状態を識別する場合は8kHz以下のスペクトルである。また、各状態を識別するために用いる特徴パラメータは図14に示すとおりである。
更に、これらの特徴パラメータのばらつきや曖昧性を統計理論や可能性により調べ、状態識別用のメンバーシップ関数(判定基準)を作成する。例えば、可能性理論により求めた正常状態識別用の特徴パラメータp、pのメンバーシップ関数p(x)は図15と図16に示す。例えば、実際の状態識別時に得た特徴波形データから求めた可能性分布関数(図15と図16の中の「識別時のメンバーシップ関数」)を「正常状態のメンバーシップ関数」と「正常状態でない状態のメンバーシップ関数」とマッチングさせた結果、
による識別結果:
正常状態の可能性度合=0.95
正常状態でない状態の可能性度合=0.8
による識別結果:
正常状態の可能性度合=0.4
正常状態でない状態の可能性度合=0.99
最終的にファジィ推論のルールにより、
正常状態の可能性度合=minimum{0.95,0.4}=0.4
正常状態でない状態の可能性度合=minimum{0.8,0.99}=0.8
従って、正常状態の可能性度合より正常状態でない状態の可能性度合の方が大きいので、「正常状態でない状態」と判定する。
他の状態の識別も同様に図14の流れに従って行うことが出来る。
以上のように、計算機で各状態を識別するための特徴パラメータを性能の確認により選択し、状態識別のメンバーシップ関数(判定基準)を作成した後、携帯型識別装置に転送する。
携帯型識別装置が各特徴パラメータ及びメンバーシップ関数(判定基準)を受け取った後、状態識別の時、図1に示す状態識別の実行手順に従って各特徴パラメータ及びメンバーシップ関数(判定基準)を用いて状態識別を行えば、識別結果が得られる。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の処理流れを示すフローチャートである。
図2は本発明のハードウェアの構成を示すグラフであり、図中の符号は次の通りである。
1 センサ、2 信号計測装置、3 計算機、4 携帯型識別装置、5 センサ
図3は携帯型識別装置の構築を示すグラフであり、図中の符号は次の通りである。
1 センサ、2 アンプ、3 フィルタ、4 処理部、5 結果表示器、6 データ用RAM、7 AD変換器、8 DCポート、9 SCI、10 1チップCPU、11 フラッシュROM、12 外部計算機。
図4は各周波数領域の特徴波形データの例を示すグラフである。
図5はパラメータ波形データの例及び状態識別の例を示すグラフである。
図6は回転機械を示すグラフである。
図7は特徴パラメータの値の例を示すテーブルである。
図8は多値ニューラルネットワーク(状態識別機能)の学習用のデータ例を示すテーブルである。
図9は軸受の状態識別用の多値ニューラルネットワークの例を示すグラフである。
図10は多値ニューラルネットワークによる識別結果の例を示すテーブルである。
図11は軸受の各状態における特徴波形データとパラメータ波形データとの例を示すグラフである。
図12は軸受の各状態を識別するための逐次的な状態識別の流れを示すフローチャートである。
図13は歯車の各状態における振動加速度波形データとスペクトルとの例を示すグラフである。
図14は歯車の各状態を識別するための逐次的な状態識別の流れを示すフローチャートである。
図15は歯車の正常状態を識別するための特徴パラメータpのメンバーシップ関数の例を示すグラフである。
図16は歯車の正常状態を識別するための特徴パラメータpのメンバーシップ関数の例を示すグラフである。
参考文献
(1)特許公開平9−33298
(2)特許公開2000−171291
(3)特許公開平7−318457
(4)豊田利夫,陳 鵬,溝田武人:スペクトルの統計的検定による故障信号の抽出、日本精密工学会誌、第58巻,第6号、pp.1041−1046、1992.
(5)Peng CHEN,Toshio TOYOTA:Extraction Method of Failure Signal by Genetic Algorithm and the Application to Inspection and Diagnosis Robot,IEICE TRANSACTIONS on Fundamentals of Electronics,Communications and Computer Science,VOL.E78−A,No.12,pp.1622−1626,1995.
(6)特許公開2001−180702
(7)陳 鵬,豊田利夫:遺伝的プログラミングによる周波数領域の特徴パラメータの自己再組織化,日本機械論文集(C編),Vol.65 No.633,p.1946−1953,1998.
(8)陳 鵬、豊田利夫:ラフ集合による診断知識の獲得法および線形補間型ニューラルネットワークによる故障診断法、設備管理学会誌、第9巻、第3号、p.383−388、1997.
(9)Peng CHEN,Toshio TOYOTA:Sequential Self−reorganization Method of Symptom Parameters and Identification Method of Membership Function for Fuzzy Diagnosis,Proceedings of FUZZ−IEEE’97,Vol.2,pp.433−440,1997.
(10)陳 鵬、馮 芳、豊田利夫:特徴周波数帯域の抽出及び可能性理論による設備異常の逐次診断法、日本信頼性学会誌、第24巻、第4号、pp.311−321,2002.
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
現場で対象物の状態識別をポケットサイズの携帯型識別装置で実現するために、携帯型識別装置が具備すべき状態識別機能を、実測された波形データを用いて、計算機で学習させることにより構築する第1ステップと、前記計算機で構築された状態識別機能に必要な要素を携帯型識別装置に転送する第2ステップと、前記要素を用いて、前記状態識別機能と同じ状態識別機能を前記携帯型識別装置に構築する第3ステップと、前記携帯型識別装置を用いて対象物の状態識別を行う第4ステップと、前記携帯型識別装置で取得した波形データ及び得られた識別結果を計算機に転送する第5ステップと、前記計算機で更に必要な原因分析や状態予測を行う第6ステップとを有することを特徴とする状態識別方法及び状態識別システム。
【請求項2】
上記第1項に記載の第1ステップと第2ステップにおいて、対象物に対して予め識別すべき諸状態を決定する第1工程と、前記諸状態の特徴を反映する波形データを複数の周波数帯域において測定して取得する第2工程と、前記波形データから雑音が除去された特徴波形データを得る第3工程と、前記特徴波形データを用いて前記諸状態を識別するための知識を確立する第4工程と、前記知識を学習することにより前記諸状態を識別するための状態識別機能を構築する第5工程と、前記状態識別機能に必要な要素を携帯型識別装置に転送する第6工程と、を有することを特徴とする状態識別機能の学習方法。
【請求項3】
上記第1項に記載の第3ステップと第4ステップにおいて、前記状態識別機能に必要な要素を受け取る第1工程と、前記要素を用いて状態識別機能を構築する第2工程と、対象物の信号計測と状態識別を行うための計測条件と識別条件を設定する第3工程と、対象物の波形データを複数の周波数帯域において測定して取得する第4工程と、前記波形データから雑音が除去された特徴波形データを得る第5工程と、前記特徴波形データを用いて前記状態識別機能により状態識別を行う第6工程と、前記識別の結果を表示する第7工程とを有することを特徴とする状態識別方法。
【請求項4】
上記第1項に記載の方法において、前記状態識別機能を構築する時にニューラルネットワーク、或いは、多値ニューラルネットワーク、或いは、GA特徴パラメータ、或いは、ファジィ識別機構を用いることを特徴とする状態識別方法及び状態識別システムの構築方法。
【請求項5】
上記第1項に記載の方法において、前記状態識別機能に必要な要素は、ニューラルネットワーク、或いは、多値ニューラルネットワークの場合は重み係数であり、GA特徴パラメータの場合は遺伝的アルゴリズムにより求めた識別用の良好なGA特徴パラメータと状態判定基準であり、ファジィ識別機構の場合はメンバーシップ関数であることを特徴とする状態識別システムの構築方法。
【請求項6】
上記第2項に記載の第4工程、及び上記第3項に記載の第6工程において、前記波形データの測定条件に応じて、前記特徴波形データを更にパラメータ波形データに変換し、パラメータ波形データを用いて前記状態識別機能を構築することを特徴とする状態識別方法と状態識別システムの構築方法。
【請求項7】
上記第6項に記載の方法において、前記パラメータ波形データは、有次元特徴パラメータで算出されたパラメータ波形データと、無次元特徴パラメータで算出されたパラメータ波形データであることを特徴とするパラメータ波形データの算出方法。
【請求項8】
上記第6項に記載の方法において、前記パラメータ波形データを求めるための前記特徴波形データ数を決定する方法。
【請求項9】
対象物の波形データを取得するためのセンサー、信号計測装置、計算機、携帯型識別装置を備えた、対象物の信号計測と状態識別を行う状態識別システムであって、
該状態識別システムは、上記第1項に記載の方法を実行することを特徴とする。
【請求項10】
対象物の波形データを取得するためのセンサ、アンプ、フィルタ、処理部、データ保存用メモリ及び表示出力装置を備えた、対象物の信号計測と状態識別を行う携帯型識別装置であって、該装置は、上記第3項に記載の方法を実行することを特徴とする。

【国際公開番号】WO2004/072858
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504927(P2005−504927)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000344
【国際出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【出願人】(599064878)
【Fターム(参考)】