説明

玉型加工眼鏡レンズの洗浄治具及び玉型加工眼鏡レンズの加工方法

【課題】 眼鏡レンズの玉型加工において、眼鏡レンズを損傷することなく、しかも作業効率の良い洗浄治具及び加工方法を提供する。
【解決手段】 洗浄治具1は、洗浄装置内の洗浄液面上方において洗浄治具1を掛けてつり下げる掛着部11と、掛着部11の両端から略直角の同方向にそれぞれ延伸するアーム部12と、アーム部12の先端部に玉型加工された眼鏡レンズ3が固着された保持具2を支えて保持する掛止部13とから構成され、掛着部11に、2つのアーム部12および掛止部13が、掛着部11に対してほぼ対称形状の合い向きに、掛着部11に延伸して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズを眼鏡フレームに嵌合するように加工する玉型加工における眼鏡レンズの洗浄治具、及び玉型加工の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、完成した円形の眼鏡レンズを、眼鏡フレームの内周縁の形状に合わせて縁摺り加工等を行う玉型加工を行い、得られた玉型を眼鏡フレームに嵌め込んで眼鏡として完成させている。通常、玉型加工は、保持具に固着した眼鏡レンズを、玉型加工装置を用いて研削により加工される。この研削時には、一般的に純水が研削液として用いられ、循環ろ過しながら繰り返し使用される。こうした玉型加工により、水やけ(研削液が乾いた後に汚れが残る状態)や、発生する研削粉が眼鏡レンズに付着する。こうした研削粉や水やけに対応するために、眼鏡レンズに研削液を噴射する研削液噴射機構部と、空気噴射装置から送られる空気を眼鏡レンズに噴射する空気噴射手段を有する眼鏡レンズの縁摺り加工装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−225828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の縁摺り加工装置では、研削粉が眼鏡レンズに付着することや水やけは防げるが、装置が複雑化すると共に大型化し、しかも製造コストも嵩むという課題が生じる。こうしたことは、縁摺り加工装置(玉型加工装置)が、顧客が選択したさまざまな眼鏡フレームの形状に合わせるための加工装置であり、多品種少量の加工が要求される作業にはそぐわない。
【0005】
そこで従来は、一般的に、眼鏡レンズに付着した研削粉を除去するために、玉型加工後に保持具と眼鏡レンズとを分離する工程(デブロック工程)を経て、さまざまな形状に玉型加工された眼鏡レンズの外周面を、3〜4点でばね圧等によって固定できる洗浄治具に、1枚毎セットし、洗浄装置(洗浄液)に吊り下げて洗浄を行っていた。このため、洗浄治具へのセット時に、形状の異なる眼鏡レンズを誤って落下したり、洗浄装置と眼鏡レンズとが接触するなどにより、眼鏡レンズに傷をつける(損傷する)要因となっていると共に、作業効率の低下を招いていた。また、眼鏡レンズの玉型加工は、通常2枚1組(眼鏡の両玉)を対に加工するため、他の眼鏡レンズと混ざらないための洗浄管理に手間がかかっていた。さらに、洗浄前に取外しされた保持具は、玉型加工時に付着した汚れを拭き取った後、保持具に眼鏡レンズを取付ける工程(ブロック工程)で再使用するために、改めて汚れを拭き取る作業が必要であった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、眼鏡レンズの玉型加工において、眼鏡レンズを損傷することなく、しかも作業効率の良い洗浄治具及び加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の洗浄治具は、保持具を用いる眼鏡レンズの玉型加工において、前記玉型加工後の前記眼鏡レンズを洗浄するための洗浄装置に用いる洗浄治具であって、前記洗浄治具は、眼鏡レンズが固着された保持具と、前記保持具を吊り下げる吊下げ具とを有し、前記保持具は、眼鏡レンズを固着する固着部と、玉型加工装置に装着する装着部と、外周面に環状の溝部とを備え、前記吊下げ具は、前記溝部に係合し前記保持具を支えて保持する掛止部と、前記洗浄装置の洗浄液内に掛けて吊り下げる掛着部と、前記掛止部と前記掛着部とを接続するアーム部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、洗浄治具を構成する吊下げ具に直接接触するのは眼鏡レンズが固着された保持具であり、眼鏡レンズは吊下げ具に直接接触しないため、眼鏡レンズを損傷することが少なくなる。また、さまざまな形状に玉型加工された眼鏡レンズではなく、形状が同一な保持具を吊下げ具に取付けするため、取付け作業が容易に行え、作業効率が向上する。さらに、眼鏡レンズが保持具に固着されている状態で、吊下げ具に取付けて洗浄するため、洗浄液内の眼鏡レンズの安定性も向上する。
【0009】
また、本発明の洗浄治具は、前記アーム部は、前記掛着部の両端から延伸し、延伸した一方のアーム部からさらに延伸した第1の前記掛止部と、他方のアーム部からさらに延伸した第2の前記掛止部を備え、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部は互いに対向し、該第1及び第2の掛止部に、前記眼鏡レンズが固着された前記保持具を対に保持することを特徴とする。
上記の構成によれば、一般的に2枚1組で用いられる眼鏡レンズを、吊下げ具の2つの掛止部に、2枚を対で取付けること(取付けることが可能なこと)から、さまざまな玉型形状や光学特性の異なる多数の玉型加工後の眼鏡レンズの洗浄を同時に行っても、眼鏡レンズが混ざることがなく、洗浄作業の効率がより向上する。
【0010】
また、本発明の洗浄治具は、前記掛止部は、前記溝部に弾圧して前記保持具を保持すると共に、前記保持具が取外し可能に構成されていることを特徴とする。
上記の構成によれば、保持具が吊下げ具(掛止部)から取外し可能に構成されていることにより、吊下げ具を繰り返し使用することが可能である。また、吊下げ具は、さまざまな形状に玉型加工された眼鏡レンズ形状に関係なく、同一形状の溝部に弾圧して保持具(眼鏡レンズ)を保持することにより、保持具の吊下げ具(掛止部)への取付け、および取外しを容易に行うことができ、洗浄作業効率が向上する。
【0011】
また、本発明の洗浄治具の前記吊下げ具は、1本の線材を折曲して形成されていることを特徴とする。
上記の構成によれば、吊下げ具は、1本の線材のみで構成されることから、容易に、しかも低コストで製作することができる。
【0012】
また、本発明の眼鏡レンズの加工方法は、保持具を用いる眼鏡レンズの玉型加工において、前記保持具に前記眼鏡レンズを固着するブロック工程と、前記保持具に固着された眼鏡レンズを、玉型加工装置によって玉型加工する加工工程と、玉型加工された眼鏡レンズが固着された前記保持具を、前記吊下げ具に取付ける取付け工程と、前記吊下げ具に取付けられた前記眼鏡レンズが固着された保持具を洗浄する洗浄工程と、洗浄された前記保持具に固着された眼鏡レンズを、前記吊下げ具から取外す取外し工程と、前記吊下げ具から取外しされた前記保持具に固着された眼鏡レンズを、前記保持具と前記眼鏡レンズとに分離するデブロック工程とを有することを特徴とする。
【0013】
上記の加工方法によれば、洗浄工程の後に、眼鏡レンズと保持具とを分離する(保持具から眼鏡レンズを取外す)ことにより、眼鏡レンズに付着した研削粉が洗浄工程において除去されると同時に、保持具の汚れ(研削紛等)も除去することができ、改めて保持具の汚れを拭き取る必要がなくなり、作業効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の洗浄治具を構成する保持具の説明図で、同図(a)は平面図、同図(b)は側面図であり、図2は、本発明の洗浄治具を構成する吊下げ具の斜視図である。また、図3は、吊下げ具に保持具が保持された状態を示す図であり、同図(a)は正面図、同図(b)は同図(a)におけるA−A線からみた側面図である。
【0015】
先ず、図1に基づいて保持具について説明する。保持具2は、眼鏡レンズの玉型加工をする際に用いられるホルダである。保持具2は、玉型加工装置(図示せず)に装着される円筒形の装着部21と、装着部21より大きな外形の略円筒形からなり眼鏡レンズ3(二点鎖線で示す)が固着される固着部22と、装着部21と固着部22との間の外周面に形成された凹状の溝部23とからなる。また、装着部21の円筒底面には、円筒形の円を中心とする所定幅及び深さの割溝24が形成されている。この割溝24は、玉型加工装置への装着の際に、玉型加工装置のホルダ受け(チャック)に案内されて加工の位置決め基準となる。
【0016】
溝部23は、後述する吊下げ具1に係合し(嵌め込まれ)、吊下げ具1に弾圧保持される保持溝である。この溝部23の溝幅は、吊下げ具1を形成する線材が取外し可能な寸法に設定される。また、溝部23の溝の深さは、保持具2を形成する線材により保持具2が保持できる任意の寸法でよいが、保持具2の取付けおよび取外しの作業性を考慮して、ほぼ線材の太さ程度の深さが好ましい。さらに、保持具2の取付けのし易さを図るために、固着部22には溝部23に接続する面取り面22Aが形成されている。
【0017】
こうした保持具2の固着部22の略平端面に、二点鎖線で示すモノマー原料をガラス型等の成形型に充填して重合し完成した円形の眼鏡レンズ3が、例えば粘着テープ25により貼り付け固定(固着)される。眼鏡レンズ3の固着時に、多焦点レンズや乱視矯正用レンズなどレンズに方向性を有する場合は、割溝24を基準として加工する玉型形状に対応した方向に貼り付け固定される。眼鏡レンズ3が固着された保持具2は、玉型加工装置のホルダ受けに取付けられて玉型加工が行われる。
【0018】
玉型加工は、眼鏡レンズ3の外周面に研削用の砥石を接触させて目的の形状に加工を行う。なお、本実施形態における玉型加工には、縁摺り加工のほか、レンズ端面の溝掘り加工あるいはヤゲン加工(眼鏡フレームの溝に入れるための面取り、もしくは山切りカット)といった加工が含まれる。
【0019】
次に、吊下げ具1について、図2に示す吊下げ具の斜視図、及び図3の吊下げ具に保持具(眼鏡レンズ)が保持された状態を示す図に基づいて説明する。
【0020】
図2において、吊下げ具1は、玉型加工された眼鏡レンズ3を、洗浄装置を用いて洗浄する際に用いる治具であり、1本の線材を折曲して形成されている。この吊下げ具1は、例えば断面が略円形で径1.5mmのステンレス線からなり、図3(a)において、二点鎖線で示す洗浄装置の洗浄槽50内の洗浄液51に浸漬する際に、洗浄液51の液面上方に配置された引っ掛け棒52に、吊下げ具1を掛けて吊り下げる掛着部11と、掛着部11の両端から略直角の同じ方向にそれぞれ延伸する2つ(対)のアーム部12と、各アーム部12からさらに延伸する先端部に、玉型加工された眼鏡レンズ3が固着された保持具2を支えて保持する、第1の掛止部及び第2の掛止部としての掛止部13とから構成されている。この2つの掛止部13は、一般的に眼鏡レンズを2枚1組で用いる(注文される)ため、2枚を対にして保持できるように形成されている。また、2つのアーム部12および掛止部13が、掛着部11に対してほぼ対称形状の合い向きに形成されている。
【0021】
掛止部13は、アーム部12の先端から略半円形の形状に延伸して形成されている。この略半円形に形成される曲線の内側半径は、ここに嵌め込まれる保持具2の溝部23の底面外径に近い値に設定され、溝部23が嵌め込まれた時に広げられて曲率が変化する。すなわち、掛止部13が広げられることにより、保持具2の溝部23が弾圧されて、保持具2(眼鏡レンズ)が保持される。なお、掛止部13へ保持具2を嵌め込む際に、眼鏡レンズ3を傷つけることがないように、掛止部13の先端端面を丸めておくのが好ましい。
【0022】
吊下げ具1に保持具2を取付ける取付け方は、玉型加工された眼鏡レンズ3が固着された保持具2を、吊下げ具1の掛着部11側から掛止部13に、保持具2の面取り面22Aを案内にして、滑らせるように移動させて溝部23に嵌め込んで取付ける。この取付け時に、掛止部13が広げられることにより、眼鏡レンズ3が固着された保持具2が吊下げ具1に弾圧保持される。この保持具2の吊下げ具1への取付けは、眼鏡レンズ3が固着された固着部22側を、2つ(対)のアーム部12および掛止部13の内側方向、あるいは外側方向のどちらにも取付けることができるが、取付け時に、眼鏡レンズ3がアーム部12接触する等により、傷をつけてしまうのを防ぐと共に、取付けの作業性の面からも、外側方向に取付けるのが好ましい(図3(a)参照)。
【0023】
一方、吊下げ具1から保持具2を取外す取外し方は、眼鏡レンズ3が固着された保持具2を、吊下げ具1の掛止部13から掛着部11側方向に引き上げて、保持具2と吊下げ具1とを分離する。保持具2を取外すことにより、掛止部13が元の略半円形の曲線形状に戻る。
【0024】
次に、本実施形態の玉型加工の加工方法を、図4の玉型加工の工程を示すフロー図に基づいて説明する。
玉型加工は、先ず、ステップS11のブロック工程において、モノマー原料をガラス型等の成形型に充填して重合し完成した円形の眼鏡レンズ3が、保持具2の装着部21に形成された割溝24を基準に、固着部22の略平端面に粘着テープ25を用いて所定の位置関係に固着される。そして、ステップS12の加工工程に移行する。
【0025】
ステップS12の加工工程では、保持具2に固着された眼鏡レンズ3を図示しない玉型加工装置のホルダ受けに、保持具2の割溝24を基準として取付けると共に保持し、そして、眼鏡レンズ3の外周面に研削用の砥石を接触させて、目的の形状に縁摺り加工や、レンズ端面の溝掘り加工あるいはヤゲン加工を行う。こうした加工のうち、溝堀り加工や面取り加工は、眼鏡レンズに嵌合する眼鏡フレームによって、どちらか一方の加工が行われる場合と、いずれの加工も行われない場合とがある。なお、この玉型加工時には、研削液として純水を用い、循環ろ過しながら使用される。この循環ろ過することにより研削液(純水)が泡立つのを防止するために、消泡剤が混入されている。この眼鏡レンズ3の玉型加工による研削粉や研削液に含まれる消泡剤が、眼鏡レンズ3及び保持具2に付着する。そして、この眼鏡レンズ3及び保持具2に付着した研削粉や消泡剤を洗浄するために、ステップS13の取付け工程に移行する。
【0026】
ステップS13の取付け工程では、玉型加工された眼鏡レンズ3が固着された保持具2を、吊下げ具1に取付ける。保持具2の取付けは、玉型加工された眼鏡レンズ3の周縁部を手で持って、吊下げ具1の一方の掛止部13に保持具2の溝部23を嵌め込む。同様に、吊下げ具1のもう一方の掛止部13に、保持具2の溝部23を嵌め込む。そして、ステップS14の洗浄工程に移行する。
【0027】
ステップS14の洗浄工程では、吊下げ具1に保持された、玉型加工された眼鏡レンズ3が固着された保持具2を、洗浄装置を用いて洗浄を行う。洗浄装置として、例えば2槽式の超音波洗浄機を用い、洗浄液として、例えば1槽目に純水に界面活性剤を添加したものを、2槽目にリンス液として純水を用いる。1槽目の界面活性剤は、研削粉を除去すると共に、研削液に含まれる消泡剤を除去する。
【0028】
保持具2を保持する吊下げ具1の洗浄装置への取付け方は、洗浄装置の洗浄槽50の洗浄液51上方に配置した引っ掛け棒52に、吊下げ具1の掛着部11を掛けて、洗浄液中に吊り下げる(図3参照)。そして、所定時間超音波を発生させて、眼鏡レンズ3及び保持具2に付着した研削粉の除去、及びレンズ面の洗浄を行う。そして、吊下げ具1(保持具2及び眼鏡レンズ3)を、洗浄槽50の洗浄液51中から引き上げて、乾燥の後に、ステップS15の取外し工程に移行する。
【0029】
ステップS15の取外し工程では、洗浄工程において洗浄された眼鏡レンズ3が固着された保持具2を、保持する吊下げ具1から取外す。保持具2の取外しは、眼鏡レンズ3の周縁部を手で押さえて、眼鏡レンズ3が固着された保持具2を、吊下げ具1の掛止部13から掛着部11方向に引き上げて、保持具2と吊下げ具1とを分離する。そして、ステップS16のデブロック工程に移行する。
【0030】
ステップS16のデブロック工程では、眼鏡レンズ3が固着された保持具2を、眼鏡レンズ3と保持具2とに分離する。
【0031】
以上に説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)吊下げ具1に直接接触するのは眼鏡レンズ3が固着された保持具2であり、眼鏡レンズ3は吊下げ具1に直接接触しないため、眼鏡レンズ3を損傷することが少なくなる。また、さまざまな形状に玉型加工された眼鏡レンズ3ではなく、形状が同一な保持具2を吊下げ具1に取付けするため、取付けが容易に行え、作業効率が向上する。さらに、眼鏡レンズ3が保持具2に固着されている状態で、吊下げ具1に取付けて洗浄するため、洗浄液51内の眼鏡レンズ3の安定性も向上する。
【0032】
(2)玉型加工後の眼鏡レンズ3を、吊下げ具1に2枚を対で取付けること(取付けることが可能なこと)から、さまざまな玉型形状や光学特性の異なる多数の眼鏡レンズ3の洗浄を同時に行っても、眼鏡レンズ3が混ざることがなく、洗浄作業の作業効率がより向上する。
【0033】
(3)保持具2が吊下げ具1から取外し可能に構成されていることにより、吊下げ具1を繰り返し使用することが可能である。また、吊下げ具1は、さまざまな形状に玉型加工された眼鏡レンズ3の形状に関係なく、同一形状の溝部23に弾圧して保持具2(眼鏡レンズ3)を保持することにより、吊下げ具1の保持具2への取付け、および取外しを容易に行うことができ、洗浄作業の作業効率が向上する。
【0034】
(4)吊下げ具1は、1本の線材のみで構成されることから、容易に、しかも低コストで製作することができる。
【0035】
(5)玉型加工の加工方法は、洗浄工程の後に、保持具2から眼鏡レンズ3を取外す(眼鏡レンズ3と保持具2とを分離する)ことにより、眼鏡レンズ3に付着した玉型加工時に発生する研削粉が、洗浄工程において除去されると同時に、保持具2の汚れ(研削紛等)も除去することができ、改めて保持具2の汚れを拭き取る作業の必要がなくなり、作業効率が向上する。
【0036】
以上の実施形態の変形例を以下に記載する。
【0037】
(変形例1)
保持具2(溝部23)を弾圧して保持する吊下げ具1の掛止部13の形状が、アーム部12の先端から略半円形の形状に延伸して形成されている場合で説明したが、保持具2(溝部23)を弾圧して保持できれば、どんな形状であっても良い。
例えば、図5の洗浄治具の部分説明図に示すように、保持具2の溝部23を保持する吊下げ具40の掛止部43を矩形状に形成しても良い。この場合、保持具2の溝部23の弾圧は、掛止部43の矩形状の底部コーナから、先端部43Aをアーム部42側に例えば寸法α変形した(曲げた)形状に形成することにより、溝部23に、吊下げ具40を形成するステンレス線の変形寸法αの可とう性が付勢される。寸法αは、保持具2(玉型加工された眼鏡レンズ3)を保持した吊下げ具1の移動、あるいは洗浄装置(超音波洗浄機)による洗浄時に、保持具2が外れることがない値に適宜設定される。
【0038】
また、眼鏡レンズ3が固着された保持具2を、吊下げ具40に取付け、及び取外しする際に、作業性の向上、あるいは眼鏡レンズ3を傷つけることがないように、掛止部43の最先端部43Bを、アーム部42と反対側方向にU字状に曲げた形状に形成されている。この最先端部をアーム部と反対側方向にU字状に曲げた形状は、前記実施形態における略半円形の形状に形成された掛止部13にも適用することができる。
【0039】
(変形例2)
吊下げ具1の掛着部11に、2つのアーム部12および掛止部13が、掛着部11に対してほぼ対称形状の合い向きに、掛着部11に延伸して形成されている場合で説明したが、対称形状の合い向きでなくても良い。
【0040】
図6は、別の吊下げ具に保持具が保持された状態を示す説明図であり、図6には、例えば、吊下げ具30に保持具2が保持された2組の洗浄治具が、洗浄装置にセットされた状態を示している。吊下げ具30は、掛着部31から延伸するアーム部32の2つのアーム部32A,32Bの内、例えば一方のアーム部32Bが、他方のアーム部32Aより短く形成されている。2つのアーム部32A,32Bには、それぞれアーム部32の先端から略半円形の形状に延伸して掛止部33A,33Bが形成され、眼鏡レンズ3が固着された保持具2が、眼鏡レンズ3をそれぞれのアーム部32A,32Bの外側方向にして保持されている。アーム32Bの長さは、掛着部31が洗浄装置に配置された引っ掛け棒52に掛着された時に、掛止部33Aに保持された眼鏡レンズ3の上端面と、掛止部33Bに保持された眼鏡レンズ3の下端面とが重ならない長さに設定されている。
【0041】
この吊下げ具30の掛止部33A,33Bに、前述の実施形態と同様に、玉型加工された眼鏡レンズ3が固着された保持具2を取付けし、保持具2を保持する吊下げ具30を洗浄装置の洗浄槽の洗浄液(いずれも図示せず)上方に配置した引っ掛け棒52に、吊下げ具30の掛着部31を掛けて、洗浄液中に吊り下げる。
【0042】
この吊下げ具30の吊り下げは、先ず掛着部31を、引っ掛け棒52に掛けて洗浄液中に吊り下げる。そして、吊下げ具30が移動しないように、割溝を有し、引っ掛け棒52に取外し可能に構成された止め具53A,53Bを、掛着部31の両側に嵌め込む。次に、別の保持具2(眼鏡レンズ)を保持する吊下げ具60の掛着部61を、引っ掛け棒52に吊下げ具30と同じ方向に掛けて洗浄液中に吊り下げる。そして、アーム62A側の掛着部61を、既に引っ掛け棒52に嵌め込まれた止め具53Bに接触する位置まで移動させた後に、アーム62B側の掛着部61の外側に、掛着部61に接触するように止め具53Cを引っ掛け棒52に嵌め込む。必要に応じ、さらに別の保持具(眼鏡レンズ)を保持する吊下げ具を、同様に洗浄液中に吊り下げを行う。
【0043】
この吊下げ具30及び60ように、アーム部を構成する2つのアームの長さを変えて設定することにより、洗浄装置の洗浄槽内に、玉型加工された保持具(眼鏡レンズ)を保持する吊下げ具を、一度に多数吊り下げることが可能となり、効率良く洗浄作業を行うことができる。
【0044】
(変形例3)
吊下げ具1を形成する線材は、断面が略円形で径1.5mmのステンレス線を用いた場合で説明したが、折曲して加工が可能であると共に、変形することにより保持具2を弾圧して保持ができる、どんな材質であっても良い。また、線材の断面形状及び太さは、保持具2の溝部23の形状及び寸法に対応して適宜設定することができる。
【0045】
(変形例4)
保持具2の溝部23は、玉型加工装置に装着される装着部21と、眼鏡レンズ3が固着される固着部22との間の外周面に形成された場合で説明したが、保持具2の外周面ならば、装着部21および固着部22のどちらの外周面に形成された場合であっても良い。この溝部23の形成位置は、吊下げ具1への取付け性や、固着部22に固着される円形の眼鏡レンズ3の大きさ(重さ)を考慮した安定性の良い位置を選定することができる。
【0046】
(変形例5)
吊下げ具1に保持される眼鏡レンズ3は、モノマー原料をガラス型等の成形型に充填して重合した、いわゆるプラスチック眼鏡レンズの場合で説明したが、ガラス眼鏡レンズであっても、洗浄治具(吊下げ具1及び保持具2)を同様に用いることができる。ちなみに、ガラス眼鏡レンズの場合の研削は、プラスチック眼鏡レンズよりも粗いメッシュの砥石が用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の洗浄治具を構成する保持具の説明図であり、(a)は平面図、(b)は側面図。
【図2】本発明の洗浄治具を構成する吊下げ具の斜視図。
【図3】吊下げ具に保持具が保持された状態を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図。
【図4】本実施形態の玉型加工工程を示すフロー図。
【図5】別の吊下げ具の部分説明図。
【図6】別の吊下げ具に保持具が保持された状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0048】
1,30,40,60…洗浄治具を構成する吊下げ具、2…洗浄治具を構成する保持具、3…眼鏡レンズ、11,31,61…掛着部、12,32,42,62…アーム部、13,33,43,63…第1の掛止部及び第2の掛止部としての掛止部、21…装着部、22…固着部、22A…面取り面、23…溝部、24…割溝、25…粘着テープ、50…洗浄槽、51…洗浄液、52…引っ掛け棒、53…止め具、ステップS11…ブロック工程、ステップS12…加工工程、ステップS13…取付け工程、ステップS14…洗浄工程、ステップS15…取外し工程、ステップS16…デブロック工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持具を用いる眼鏡レンズの玉型加工において、前記玉型加工後の前記眼鏡レンズを洗浄するための洗浄装置に用いる洗浄治具であって、前記洗浄治具は、眼鏡レンズが固着された保持具と、前記保持具を吊り下げる吊下げ具とを有し、
前記保持具は、眼鏡レンズを固着する固着部と、玉型加工装置に装着する装着部と、外周面に環状の溝部とを備え、
前記吊下げ具は、前記溝部に係合し前記保持具を支えて保持する掛止部と、前記洗浄装置の洗浄液内に掛けて吊り下げる掛着部と、前記掛止部と前記掛着部とを接続するアーム部とを備えたことを特徴とする洗浄治具。
【請求項2】
前記アーム部は、前記掛着部の両端から延伸し、延伸した一方のアーム部からさらに延伸した第1の前記掛止部と、他方のアーム部からさらに延伸した第2の前記掛止部を備え、
前記第1の掛止部と前記第2の掛止部は互いに対向し、該第1及び第2の掛止部に、前記眼鏡レンズが固着された前記保持具を対に保持することを特徴とする請求項1に記載の洗浄治具。
【請求項3】
前記掛止部は、前記溝部に弾圧して前記保持具を保持すると共に、前記保持具が取外し可能に構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の洗浄治具。
【請求項4】
前記吊下げ具は、1本の線材を折曲して形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の洗浄治具。
【請求項5】
保持具を用いる眼鏡レンズの玉型加工において、
前記保持具に前記眼鏡レンズを固着するブロック工程と、
前記保持具に固着された眼鏡レンズを、玉型加工装置によって玉型加工する加工工程と、
玉型加工された眼鏡レンズが固着された前記保持具を、前記吊下げ具に取付ける取付け工程と、
前記保持具に固着された前記眼鏡レンズを洗浄する洗浄工程と、
洗浄された前記保持具に固着された眼鏡レンズを、前記吊下げ具から取外す取外し工程と、
前記吊下げ具から取外しされた前記保持具に固着された眼鏡レンズを、前記保持具と前記眼鏡レンズとに分離するデブロック工程と
を有することを特徴とする眼鏡レンズの玉型加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−30272(P2006−30272A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204580(P2004−204580)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】