説明

球形グラファイトおよびその製造方法およびこれを用いた導電性ペースト

【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野 本発明は導電性ペースト等に見られるような樹脂に導電性を付与するために用いられる球形グラファイトおよびその製造方法およびこれを用いた導電性ペーストに関するものである。
従来の技術 炭素にはススのようなアルモファス状である一般にカーボンと呼ばれるものとグラファイトと呼ばれる結晶性のものがあり、その形状は球状,鱗片状および棒状にほぼ限定される。
棒状である炭素繊維は航空機の一部やゴルフシャフト、釣りのロッド等の構造材の強化材として、また球形であるカーボンは印刷抵抗として、鱗片状グラファイトは導電性ペーストや音響振動板等、多くの分野で炭素材料が使用されている。これにともない炭素製品の高強度化や高導電性化のためグラファイト化についての研究が盛んに行われている例えば、武井 武編 新しい工業材料の科学「炭素と黒鉛製品」金原出版)。
さらに、従来にないグラファイト製品としてフィルム状グラファイトやピッチから作製した球形グラファイトなども商品化されている(例えば、村上睦明 CPC研究会「炭素原料の有効利用」1.3新しいグラファイト材料および森田健一著「炭素繊維産業」P92〜P95 近代編集社)。
このような炭素の導電性を利用したものに導電性ペーストがある。導電性ペーストとしては銀系、銀パラジウム系および銅等の金属フィラーをエポキシ樹脂等に分散したものが主流であるが、グラファイト等のカーボン系の導電性ペーストも市販されている(例えば、「導電性樹脂の実際応用技術」シーエムシー)。
発明が解決しようとする課題 しかしながら、導電性ペーストについては金属系の場合は導電性は良いが腐食やマイグレーションを起こし易く、一方カーボン系は化学的に安定である反面、導電性が低い欠点を有している。
カーボン系導電性ペーストの導電性が低い原因としては、フィラー自身の導電性が低いことと形状的に異方性を持つことが原因として考えられる。
鱗片状グラファイトは面内にフィラーが並ぶため、垂直方向には導電性が出ない欠点を持ち、球状であるアモルファスカーボンは導電性が低い短所がある。
球状でグラファイト化したものとしてピッチを原料としメソフェイズ状態を経由して作製した球状グラファイトがある。形状的には等方的であるが、第4図にピッチ系球形グラファイトの結晶構造図を示すように、芳香族面41が点対称にはなっておらず、導電性が球体内部で異方性を有することとなり、これを導電性ペーストのフィラーとして使用する場合、接触の仕方によっては導電性が大きく低下し、平均としてもあまり大きな導電性が出ない欠点を有している。
さらに、炭素繊維のような棒状のものも面内に配向し導電性に方向性を持つ欠点がある。
本発明は上記課題に鑑み、グラファイト結晶が球体の表面に平行に配向したことを特徴とする導電性に優れかつ異方性のない球形グラファイトおよびその製造方法およびこれを用いた導電性ペーストを提供するものである。
課題を解決するための手段 本発明は原料として(I)のイミド結合骨格を

分子中に有するポリイミド系樹脂もしくはポリオキサジアゾールもしくはポリパラフェニレンビニレン等の球形をした耐熱性樹脂を用い、第1段階として窒素雰囲気中で600〜1200℃まで温度を上げ、前駆体を作製した後、第2段階としてアルゴンガス中もしくは真空中で2400℃以上まで温度をあげることを特徴とする製造方法によってグラファイト結晶が球体の表面に配向した球形グラファイトが得られる。これを導電性フィラーとして用いることで導電性が高く、方向性のない導電性ペーストが得られる。
なお、導電性ペーストの成分として少量のケッチェンブラックカーボンを混合した導電性ペーストはより導電性を高める効果があった。
作用 本発明は上記したポリイミド系樹脂もしくはポリオキサジアゾールもしくはポリパラフェニレンビニレン等の球形をした耐熱性樹脂を第1段階として窒素雰囲気中て600〜1200℃まで温度を上げ、前駆体を作製し、第2段階としてアルゴンガス中もしくは真空中で2400℃以上まで温度をあげることでグラファイト結晶が球体の表面に平行に配向したタマネギのような構造の球形グラファイトが得られる。これは前躯体の形成時点で同心球状にヘテログラファイト構造化が進むためと考えられる。
これを導電性フィラーとして用いた場合、電流がこの球形グラファイトの表面を均一に流れるため、接触点の違いによる導電性の低下がない。さらに球形グラファイト自体の導電性もピッチ系の球形グラファイトのそれよりも結晶構造が完全であるため優れている。
この際、房状のケッチェンブラックカーボンを少量混合することで繊維間の結合確率がより向上し導電性が良くなる。
なお、第2段階での焼成工程を窒素ガス中で行った場合は分子中のカーボンと窒素がスが反応を起こし、グラファイト化がうまくできない。
このように、グラファイト結晶が球体の表面に平行に配向したことを特徴とする球形グラファイトを混合した導電性ペーストは導電率が高く、方向性を持たない利点がある。
実施例 以下に本発明の第1の実施例について、図面を参照しながら説明する。第1図は本発明の第1の実施例における球形ポリイミドの製造工程図である。第1図においては10はタンク、11は原料、12は撹拌器、13はヒータ、14は窒素ガスである。
以下に球形ポリイミドの製造方法を示す。まず、反応性モノマーとして無水ピロメリット酸2gとビス−(4−アミノフェニル)エーテル2gをまずよく混合し、これを分散媒のアルキル化ジフェニル(サーモS800、新日本製鉄化学製)96gに分散させたものを原料11としてタンク10に入れ、撹拌器12で1200rpmの回転速度で混合しながらヒータ13で250℃まで加熱を行なった。この際、窒素ガス14を液中に注入した。3時間程度加熱状態で静置し、反応を進行させた。その後、沈澱物をアセトンで3回洗浄して球形のポリイミドを得た。分散媒のアルキル化ジフェニルと反応性モノマーは相溶性がないため、高速回転で撹拌することによって反応性モノマーは液滴状態で分散し(エマルジョン)、その大きさは回転数によって変化する(ほぼ反比例の関係)。
この様にしてできた形状ポリイミドの大きさは電子顕微鏡観察より平均粒径が0.15μmの真球であることがわかった。また偏光顕微鏡観察より同心円状の縞が観察され、同心球が多層化したような構造(タマネギのような構造)であると考えられる。
次に、この球形ポリイミドをグラファイト化する工程を説明する。
第1段階として上記球形ポリイミド窒素ガス雰囲気中で1000℃まで昇温速度5℃/分で温度を上げ、前駆体を作製した。第2段階としてアルゴンガス中で2800℃まで温度をあげ1時間焼成を行なった。
第1段階を終わった時点でヘテログラファイト化が進み、第2段階の途中からグラファイト化が進行し、導電性が向上するものと考えられる。
第2図に本実施例の球形グラファイトの結晶構造を示す。なお、21は芳香族面である。
第3図に焼成温度とできた球形グラファイトの比抵抗との関係を示すが、焼成温度が2400℃を越さないと充分な導電性が得られないことがわかった。
この様にして得られた球形グラファイトは比抵抗が8.5=10-5Ω・cmと低く、また等方性である特徴を持つ。
この特徴を生かして上記球形グラファイトをノボラック型エポキシを主材としてポリアミド系の硬化材からなる接着材に複合して導電性ペーストを作製した。
フィラーとして球形グラファイトを用いることによって、85wt%〜90wt%で比抵抗の極小が現われ、導電性ペーストの比抵抗は1.2×10-3Ω・cmと従来の炭素系導電性ペーストに比べ1桁低い比抵抗となった。
上記本実施例の導電性ペーストと従来のカーボン系導電性ペーストと銀ペーストと銅ペーストとの信頼性の比較をバイアス電圧を印加した状態で85℃,85%RHの加速条件で行なったところ、銅ペーストは銅フィラー表面の酸化のために時間とともに抵抗値が大きくなり、銀ペーストはマイグレーションを生じて短絡を起こした。
従来のカーボン系導電性ペーストは安定であったが接続抵抗が初期から高かった。球形グラファイトを導電性フィラーとする導電性ペーストを初期接続抵抗値が低く、加速試験での抵抗変化もほとんど認められなかった。
銀ペーストの場合は硫化水素ガスや亜硫酸ガスによって侵されるが、本実施例の導電性ペーストはこれらのガスに対しても非常に安定であった。
以下に本発明の第2の一実施例について説明する。第1の実施例の反応性モノマーの代わりにP−クロロオキサジアゾール4gを用いて、これに重合開始剤としてベンジルパーオキサイド0.05gを加えて分散媒アルキル化ジフェニル96gに分散し、その後窒素ガス中で高速撹拌しながら240℃で4時間重合を行なった。重合終了後、沈澱物をアセトンでよく洗浄した後、平均粒径0.1μmのパラオキサジアゾールの球形耐熱性樹脂を得た。
次に、第1段階として上記球形パラオキサジアゾールを窒素ガス雰囲気中で800℃まで昇温速度4℃/分で温度を上げ、前駆体を作製した。第2段階として真空中で2800℃まで温度をあげ1時間焼成を行なった。
第1段階を終わった時点で9%の窒素を含む炭素前駆体となっており、窒素を含むヘテログラファイト構造を有していた。第2段階の途中から脱水素化と脱窒素化の反応とともに縮合多環化が起こり、同心球状に層状グラファイト化が進行し、導電性が向上するものと考えられる。
この様にして得られた球形グラファイトは比抵抗が7×10-5Ω・cmと低く、また等方性である特徴を持つ。
上記球形グラファイトをオレフィン系ホットメルト樹脂に75wt%混ぜ込んで導電性ペーストを作製した。この導電性ペーストの比抵抗は4×10-3Ω・cmと熱硬化性樹脂をバインダとした第1の実施例に比べて若干抵抗が大きくなる欠点を持つ反面、接合時間が短くリペアー性(取り外しが可能)もあるといった作業性において優れた性能を有していた。
以下に本発明の第3の一実施例について説明する。第2の実施例と同様にしてポリパラフェニレンビニレンの球形重合物をまず作製し、次に、この球形耐熱性樹脂を第1段階として窒素ガス雰囲気中で1200℃まで昇温速度5℃/分で温度を上げ、第2段階としてアルゴンガス中で3000℃まで温度を上げ1時間焼成を行なった。
第1段階での仮焼成温度としては600℃〜1200℃が適しており、これ以下では前駆体ができず、またこれ以上では窒素とカーボンが反応し出し、グラファイト化がうまくいかない。
この様にして得られた球形グラファイトは比抵抗が6.5×10-5Ω・cmと低く、また等方性である特徴を持つ。
この球形グラファイトをイミダゾールを硬化剤とする一液型のエポキシ接着剤に70wt%、さらにケッチェンブラックカーボン10wt%を複合して導電性ペーストを作製した。
導電性フィラーとして星型炭素繊維と房状のケッチェンブラックカーボンを用いることによって、導電性ペーストの比抵抗は9×10-4Ω・cmと球形グラファイトだけの導電性ペーストに比べ若干低い比抵抗となった。
なお、ケッチェンブラックカーボンの含有量としては5〜20wt%程度が導電性の向上に有効であった。これはケッチェンブラックカーボンが房状形状をしているため球形グラファイトの粒子間に入り、接点での接触抵抗を下げるためと考えられる。
以上のように本実施例によれば球形の耐熱性樹脂を第1段階として窒素ガス雰囲気中で600〜1200℃まで温度を上げ、前駆体を作製した後、第2段階とアルゴンガス中もしくは真空中で2400℃以上まで温度を上げることにより、異方性がなく導電性に優れたグラファイト結晶が球体の表面に平行に配向した球形グラファイトを得ることができる。さらに、この球形グラファイトをエポキシ樹脂などに導電性フィラーとして複合した導電性ペーストおよびこれに加えてケッチェンブラックカーボンを少量混合した導電性ペーストは導電性に優れ、信頼性も高いものであった。
発明の効果 以上のように本発明は、イミド結合を有するポリイミド系もしくはポリオキサジアゾールもしくはポリパラフェニレンビニレンからなる球形の耐熱性樹脂を用い、第1段階として窒素ガス雰囲気中で600〜1200℃まで温度を上げ、前駆体を作製した後、第2段階としてアルゴンガス中もしくは真空中で2400℃以上まで温度を上げることによって、等方性で導電性が高い球形グラファイトが得られる。
この様にしてできた球形グラファイトをエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂やホットメルト樹脂等の熱可塑性樹脂に分散させることによって等方性の比抵抗の小さい導電性ペーストが得られる。なお、この際ケッチェンブラックカーボンを少量(5〜20wt%)を加えることによって比抵抗はさらに若干下がる傾向にある。
本発明の導電性ペーストは高温高湿中においても腐食やマイグレイションなどが全くない信頼性のきわめて高い導電性ペーストである。
以上のように本発明は等方性で導電性に優れた球形グラファイトおよびその製造方法およびこの球形グラファイトを用いた等方性の導電性,信頼性に優れた導電性ペーストを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の第1の実施例における球形ポリイミドの製造工程図、第2図は本発明の第1の実施例における球形グラファイトの結晶構造図、第3図は本発明の第1の実施例の焼成温度とできた球形グラファイトの比抵抗との関係図、第4図はピッチ系球形グラファイトの結晶構造図である。
10……タンク、11……原料、12……撹拌器、13……ヒータ、14……窒素ガス、21……芳香族面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】グラファイト結晶が球体の表面に平行に配向したことを特徴とする球形グラファイト。
【請求項2】原料として球形のイミド結合を分子の骨格に有するポリイミド系樹脂もしくはポリオキサジアゾールもしくはポリパラフェニレンビニレンを用い、第1段階として窒素ガス雰囲気中で600〜1200℃まで温度を上げ、前駆体を作製した後、第2段階としてアルゴンガス中もしくは真空中で2400℃以上まで温度をあげることを特徴とする請求項(1)記載の球形グラファイトの製造方法。
【請求項3】請求項(1)記載の球形グラファイトを導電性フィラーとしたことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項4】請求項(3)記載の導電性ペーストの成分として少量のケッチェンブラックカーボンを混合したことを特徴とする導電性ペースト。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【特許番号】第2803292号
【登録日】平成10年(1998)7月17日
【発行日】平成10年(1998)9月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−36476
【出願日】平成2年(1990)2月16日
【公開番号】特開平3−242311
【公開日】平成3年(1991)10月29日
【審査請求日】平成7年(1995)9月12日
【出願人】(999999999)松下電器産業株式会社