説明

球状炭酸カルシウムの製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、球状炭酸カルシウムの製造方法に関し、より詳しくはインキ、ゴム、合成樹脂、塗料、紙、医薬品、食品、化粧品、電子工業、セラミック等における添加剤、充填剤等に利用可能な球状炭酸カルシウムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】炭酸カルシウムの結晶形には六方晶系(菱面体)のカルサイト形、斜方晶系(針状体)のアラゴナイト形および擬六方晶系(球状体)のバテライト形がある。このうちカルサイト形およびアラゴナイト形は天然に存在するが、バテライト形は天然中に存在せず、不安定であるとされている。すなわち、炭酸カルシウムの結晶形のうち、カルサイト形が安定であるのに対して、アラゴナイト形およびバテライト形は準安定であり、とくにバテライト形は水と接触すると容易にカルサイト形またはアラゴナイト形に転移するという特質がある。
【0003】ところで、炭酸カルシウムの製造方法には、一般に下記の3種類が知られている。
(1)塩化カルシウムと炭酸塩(炭酸ナトリウム等)または炭酸水素塩とを反応させる方法(2)水酸化カルシウムと炭酸塩または炭酸水素塩とを反応させる方法(3)水酸化カルシウムと炭酸ガスとを反応させる方法これらの方法のうち、最も広く採用されているのは(3)の方法である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記(1)〜(3)の方法で製造される炭酸カルシウムはいずれもカルサイト形か、あるいはこれにアラゴナイト形を含むものであり、バテライト形である球状の炭酸カルシウムを安定して得るのはきわめて困難であった。その原因は前述のようにバテライト形がきわめて不安定であり、容易にカルサイト形またはアラゴナイト形に転移してしまうためである。
【0005】しかしながら、炭酸カルシウを球状化することにより、炭酸カルシウムの充填性、分散性、研磨性などの種々の特性が改善され、好ましい特性が付与されることから、従来より、球状炭酸カルシウムを提供することが多方面から求められていた。そのため、例えば、バテライト形炭酸カルシウムの表面を高級脂肪酸で処理して安定化することが提案されているが(特開昭55−95617号公報)、高級脂肪酸で処理するため、水への分散性が非常に悪化するという問題が生じる。また、カルシウム塩と炭酸塩との水溶液反応により炭酸カルシウムを製造するに際して、カルシウム以外の2価金属イオンを添加して反応を行わせる方法も提案されているが(特公昭63−5331号公報)、充分な安定化効果が得られない。さらに、球状バテライト形炭酸カルシウムを高温で熱処理して球状のままカルサイトに転移させる方法も提案されているが(特公昭63−10923号公報)、高温処理のため粒子同士の融着が生じたり、コストが高くなる等の問題がある。
【0006】従って、本発明の目的は、安定なバテライト形を含む球状炭酸カルシウムの製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、バテライト形を30%以上含有する球状炭酸カルシウムが、上記目的を達成しうるという新たな事実を見出し、本発明を完成するに到ったのである。かかる本発明の球状炭酸カルシウムを製造するためには、塩化カルシウムと炭酸水素塩および/または炭酸塩とを水系媒体中にて反応させるにあたって、前記水系媒体中に、下記一般式(I) 〜(VIII)で表されるリン酸化合物のうち少なくとも1種を、生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.3重量%以上の割合で存在させる。
【0008】
n+2 n 3n+1 ・・・(I )
(式中、Mは水素原子またはアルカリ金属、nは1または1より大きい整数である)
(MPO3)m ・・・(II)
(式中、Mは前記と同じ、mは3または4の整数である)
【0009】
【化7】


(式中、M3a,M3b, M3c, M3dおよびM3eは同一または異なって、水素原子またはアルカリ金属である)
【0010】
【化8】


(式中、M4a,M4b, M4cおよびM4dは同一または異なって、水素原子またはアルカリ金属である)
【0011】
【化9】


(式中、M5a,M5b, M5c, M5d,M5eおよびM5fは同一または異なって、水素原子またはアルカリ金属である)
【0012】
【化10】


(式中、M6a,M6b, M6c, M6d,M6e,M6f,M6gおよびM6hは同一または異なって、水素原子またはアルカリ金属、zは1〜4の整数である)
【0013】
化11】

(式中、M7a,M7bおよびM7cは同一または異なって、水素原子またはアルカリ金属、xとyとの和は4〜16である)
【0014】
【化12】


(式中、M8aおよびM8bは同一または異なって、水素原子またはアルカリ金属、qは1〜18の整数である)上記一般式(I)および(II)で表されるリン酸化合物中のMはすべてがアルカリ金属である場合のほか、一部がアルカリ金属で他が水素原子である場合も包含するものである。
【0015】本発明の球状炭酸カルシウムを得る反応は、塩化カルシウムと炭酸水素塩および/または炭酸塩との反応を基本としている。炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸水素カリウムがあげられる。また炭酸塩としては、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムがあげられる。両成分の反応比(モル比)は、塩化カルシウム:炭酸水素塩の場合で1:0.5〜1:2の範囲であるのが適当であり、好ましくは1:2である。塩化カルシウム:炭酸塩の場合で1:0.5〜1:2の範囲であるのが適当であり、好ましくは1:1である。
【0016】反応は、両成分のそれぞれの水溶液を調製し、一方の成分の水溶液中に他方の成分の水溶液を添加し、所定時間だけだけ攪拌することによって行う。このとき、前記一般式(I) 〜(VIII)で表されるリン酸化合物は予め他方の成分の添加前に水溶液中に溶解させておく。かかるリン酸化合物は、いわゆる結晶改質剤として作用するものと推定され、球状炭酸カルシウムを優先的に生成させることができる。
【0017】リン酸化合物としては、前記一般式(I) 〜(VIII)で表される化合物であり、以下に具体的に例示する。一般式(I) または(II)で表されるリン酸化合物としては、例えばオルトリン酸、オルトリン酸ナトリウム、オルトリン酸カリウム、ピロリン酸、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム; トリメタリン酸、トリメタリン酸ナトリウム、トリメタリン酸カリウム、テトラメタリン酸、テトラメタリン酸カリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸カリウムなどの直鎖状または環状のリン酸化合物があげられる。
【0018】また、一般式(III), (IV), (V), (VI), (VII) で表されるホスホン酸( またはその塩) およびホスフィン酸( またはその塩) としては、例えば2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4、2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4−一ナトリウム塩、2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4−一カリウム塩、2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4−二ナトリウム塩、2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4−二カリウム塩、2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4−三ナトリウム塩、2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4−三カリウム塩、2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4−四ナトリウム塩、2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4−四カリウム塩;1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸−一ナトリウム塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸−一カリウム塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸−二ナトリウム塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸−二カリウム塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸−三ナトリウム塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸−三カリウム塩;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)−一ナトリウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)−一カリウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)−二ナトリウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)−二カリウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)−三ナトリウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)−三カリウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)−四ナトリウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)−四カリウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)−五ナトリウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)−五カリウム塩;エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)−一ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)−一カリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)−二ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)−二カリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)−三ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)−三カリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)−四ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)−四カリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)−五ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)−五カリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)−六ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)−六カリウム塩;ビス(ポリ−2−カルボキシエチル)ホスフィン酸、ビス(ポリ−2−カルボキシエチル)ホスフィン酸ナトリウム、ビス(ポリ−2−カルボキシエチル)ホスフィン酸カリウムなどがあげられる。
【0019】前記一般式(VIII)で表されるリン酸化合物は、ジアルキルエステルとモノアルキルエステルとの混合物であり、かかる混合物の形態で工業的に入手することができるものである。具体的には、例えばメチルアシッドホスフェイト、メチルアシッドホスフェイト−一ナトリウム塩、メチルアシッドホスフェイト−一カリウム塩、メチルアシッドホスフェイト−二ナトリウム塩、メチルアシッドホスフェイト−二カリウム塩;エチルアシッドホスフェイト、エチルアシッドホスフェイト−一ナトリウム塩、エチルアシッドホスフェイト−一カリウム塩、エチルアシッドホスフェイト−二ナトリウム塩、エチルアシッドホスフェイト−二カリウム塩;イソプロピルアシッドホスフェイト、イソプロピルアシッドホスフェイト−一ナトリウム塩、イソプロピルアシッドホスフェイト−一カリウム塩、イソプロピルアシッドホスフェイト−二ナトリウム塩、イソプロピルアシッドホスフェイト−二カリウム塩;ブチルアシッドホスフェイト、ブチルアシッドホスフェイト−一ナトリウム塩、ブチルアシッドホスフェイト−一カリウム塩、ブチルアシッドホスフェイト−二ナトリウム塩、ブチルアシッドホスフェイト−二カリウム塩;2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト−一ナトリウム塩、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト−一カリウム塩、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト−二ナトリウム塩、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト−二カリウム塩などがあげられる。
【0020】リン酸化合物の添加量は、生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.3重量%以上の割合であり、好ましくは0.3〜50重量%、より好ましくは0.6〜20重量%である。リン酸化合物の添加量が0.3重量%に満たないときは、生成した球状炭酸カルシウム中に菱面体の炭酸カルシウムの混在が認められるようになるため、好ましくない。
【0021】リン酸化合物の存在下での塩化カルシウムと炭酸水素塩および/または炭酸塩との反応は、0〜60℃、好ましくは10〜40℃で行なうのが適当である。また、反応時間は攪拌下で5〜30分程度、好ましくは10〜20分程度が適当である。反応後の反応液のpHは、炭酸水素塩の場合で6〜8、炭酸塩の場合で8〜10であった。
【0022】反応後、生成物を濾別し、水で洗浄、乾燥することより、目的とする炭酸カルシウムが得られる。このものは、平均粒径(メジアン径)が約4〜8μmの範囲にあり、粒径約2〜12μmの範囲には50%以上の粒子が存在する。このようにして得られた炭酸カルシウムは、X線回折の結果、少なくともバテライト形を30%以上含むほぼ球状物である。かくして得られる球状炭酸カルシウムは室温大気中で長期間にわたって安定である。
【0023】なお、本発明でいう球状とは、真円形の球状のほか、楕円形に近いものをも含む概念である。また、反応は水溶液のほか、水に低級アルコール等の溶剤を混合したような水系媒体中にて行ってもよい。
【0024】
【作用】本発明の球状炭酸カルシウムは、大気中での安定性にすぐれており、その球形状態を長期間にわたって維持することができる。また、本発明の方法では、所定量の特定リン酸化合物の存在下で反応を行わせるので、該リン酸化合物が結晶改質剤として作用し、安定な球状炭酸カルシウムを高収率で経済的に得ることができる。
【0025】
【実施例】つぎに実施例をあげてこの発明の球状炭酸カルシウムおよびその製造方法を説明する。
実施例1生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.3重量%となるようにトリメタリン酸ナトリウム30mgを添加した、0.5モル/l のCaCl2 水溶液200 ml を1000mlビーカーに入れ、室温下、マグネチックスターラーで攪拌しながら、この水溶液に0.5モル/l のNa2 CO3 水溶液200mlを加えた。混合後、さらに10分間攪拌を続行し、ついで反応物をメンブランフィルタで濾別し、充分に水で洗浄したのち、約120℃で乾燥させ、炭酸カルシウムを得た。
実施例2トリメタリン酸ナトリウムの60mg( 生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.6 重量%) を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例3トリメタリン酸ナトリウムの2000mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して20重量%) を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例4トリメタリン酸ナトリウムの5000mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して50重量%) を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例5トリメタリン酸ナトリウムに代えて、テトラメタリン酸ナトリウムの60mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.6重量%)を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例6トリメタリン酸ナトリウムに代えて、トリポリリン酸ナトリウムの60mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.6重量%)を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例7トリメタリン酸ナトリウムに代えて、2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4の60mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.6重量%)を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例8トリメタリン酸ナトリウムに代えて、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸の60mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.6重量%)を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例9トリメタリン酸ナトリウムに代えて、アミノトリ(メチレンホスホン酸)の60mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.6重量%)を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例10トリメタリン酸ナトリウムに代えて、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)の60mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.6重量%)を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例11トリメタリン酸ナトリウムに代えて、ビス(ポリ−2−カルボキシエチル)ホスフィン酸ナトリウムの60mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.6重量%)を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例12トリメタリン酸ナトリウムに代えて、メチルアシッドホスフェイトの60mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.6重量%)を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例13トリメタリン酸ナトリウムに代えて、ブチルアシッドホスフェイトの60mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.6重量%)を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例14炭酸塩として炭酸ナトリウムに代えて、1.0モル/lの炭酸水素ナトリウム水溶液200mlを用いたほかは、実施例2と同様にして炭酸カルシウムを得た。
実施例15トリメタリン酸ナトリウムの10000mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量と同量である100重量%)を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
比較例トリメタリン酸ナトリウムの10mg(生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.1重量%)を添加したほかは、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを得た。
【0026】各実施例および比較例で得られた炭酸カルシウムの収量、平均粒径、比表面積、バテライトの割合をそれぞれ表1に示した。平均粒径はメジアン径であり、比表面積はBET法で求めた。なお、粒径は、堀場製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置「LA−500」を用いた。また、バテライトの割合は、下記式に従って算出した M.S.Rao,Bull.Chem.Soc.Japan,46,1414(1973)。
【0027】
バテライトの割合F(v) =f(v) ×100ここで、f(v) = 1- I104(C)/(I110(V) +I112(V)+I114(V)+I104(C)) 式中、I104(C) はカルサイトの104 面におけるX線回折強度、 I110(V) はバテライトの110 面におけるX線回折強度、 I112(V) はバテライトの112 面におけるX線回折強度、 I114(V) はバテライトの114 面におけるX線回折強度である。
【0028】
【表1 】


また、炭酸カルシウムの理論収量に対するトリメタリン酸ナトリウムの添加量(重量%)とバテライトの割合との関係を図1に示す。図2および図3はそれぞれ実施例1および4のX線回折の結果を示すグラフである。また、図4は、実施例2で得られた球状炭酸カルシウムの示差熱分析(DTA)曲線および重量変化(TG)曲線を示すグラフである。DTA曲線に見られる420℃での発熱は、バテライトからカルサイトへの転移によるものと考えられる。
【0029】図5〜図19はそれぞれ実施例1〜15で得た球状炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真、図20は比較例で得た球状炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真である。また、実施例2で得られた球状炭酸カルシウムを室温大気中(約25℃)に放置してその安定性を調べた。その結果を表2に示す。また、120日経過後の炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真を図21に示す。なお、以上の電子顕微鏡写真の倍率はいずれも1000倍である。
【0030】これらの実施例および比較例から、所定量の特定リン酸化合物の存在下で反応を行わせることにより、球状炭酸カルシウムが得られることがわかる。また、球状炭酸カルシウムは大気中で安定であり、容易にカルサイト形等に転移することがない。
【0031】
【発明の効果】本発明で得られる球状炭酸カルシウムは,大気中で安定であり、その球形の粒子形状を長期間にわたって維持することができ、従って分散性、充填性、滑性、伸展性、研摩性、塗装性、展着性等の特性にすぐれ、添加剤、充填剤として好適に使用できるという効果がある。
【0032】また、本発明の球状炭酸カルシウムの製造方法によれば、塩化カルシウムと炭酸水素塩および/または炭酸塩とを、所定量の特定リン酸化合物の存在下で反応させることにより、球状炭酸カルシウムを容易に製造することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】生成炭酸カルシウムの理論収量に対するトリメタリン酸ナトリウムの添加量(重量%)とバテライトの割合との関係を示すグラフである。
【図2】実施例1のX線回折の結果を示すグラフである。
【図3】実施例4のX線回折の結果を示すグラフである。
【図4】実施例2で得られた球状炭酸カルシウムの示差熱分析曲線および重量変化曲線を示すグラフである。
【図5】実施例1で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例2で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例3で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例4で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例5で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例6で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例7で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例8で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図13】実施例9で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図14】実施例10で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図15】実施例11で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図16】実施例12で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図17】実施例13で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図18】実施例14で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図19】実施例15で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図20】比較例で得た球状炭酸カルシウムの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図21】実施例2で得られた炭酸カルシウムを室温大気中で120日間放置したときの粒子構造を示す電子顕微鏡写真である。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】塩化カルシウムと炭酸水素塩および/または炭酸塩とを水系媒体中にて反応させる炭酸カルシウムの製造方法において、前記水系媒体中に、下記一般式(I)〜(VIII)で表されるリン酸化合物のうち少なくとも1種を、生成する炭酸カルシウムの理論収量に対して0.3重量%以上の割合で存在させることを特徴とする球状炭酸カルシウムの製造方法。
n+2n3n+1 …… (I)
(式中、Mは水素原子またはアルカリ金属、nは1または1より大きい整数である)
(MPO3m …… (II)
(式中、Mは前記と同じ、mは3または4の整数である)
【化1】


(式中、M3a,M3b,M3c,M3dおよびM3eは同一または異なって、水素原子またはアルカリ金属である)
【化2】


(式中、M4a,M4b,M4cおよびM4dは同一または異なって、水素原子またはアルカリ金属である)
【化3】


(式中、M5a,M5b,M5c,M5d,M5eおよびM5fは同一または異なって、水素原子またはアルカリ金属である)
【化4】


(式中、M6a,M6b,M6c,M6d,M6e,M6f,M6gおよびM6hは同一または異なって、水素原子またはアルカリ金属、zは1〜4の整数である)
【化5】


(式中、M7a,M7bおよびM7cは同一または異なって、水素原子またはアルカリ金属、xとyとの和は4〜16である)
【化6】


(式中、M8aおよびM8bは同一または異なって、水素原子またはアルカリ金属、qは1〜18の整数である)

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【特許番号】特許第3013445号(P3013445)
【登録日】平成11年12月17日(1999.12.17)
【発行日】平成12年2月28日(2000.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−415863
【出願日】平成2年12月28日(1990.12.28)
【公開番号】特開平4−238812
【公開日】平成4年8月26日(1992.8.26)
【審査請求日】平成9年3月19日(1997.3.19)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【参考文献】
【文献】特開 昭57−92520(JP,A)
【文献】特開 平2−153819(JP,A)
【文献】特開 昭62−91416(JP,A)
【文献】特開 昭64−65015(JP,A)
【文献】特開 昭52−149298(JP,A)
【文献】特開 平3−50116(JP,A)
【文献】特公 昭43−22784(JP,B1)
【文献】特公 昭44−14091(JP,B1)
【文献】特公 昭45−32532(JP,B1)
【文献】特公 昭44−5330(JP,B1)