説明

環境助長割れ監視試験方法および環境助長割れ監視試験装置

【課題】環境助長割れ監視試験方法においてその測定された電位差変化は微小であることが多いため、電流の供給点、電位差計測の接点位置が異なる場合や、その接点での結線抵抗が異なる場合などは、計測誤差の要因となる可能性があった。
【解決手段】環境助長割れ監視装置および方法において、電流供給端子15、電位差計測端子16に対する試験片11の相対位置を同一にする試験冶具12の位置決め機構14を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラントなどの構造物部材の環境助長割れを監視する環境助長割れ監視試験方法および環境助長割れ監視試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境助長割れは、周辺雰囲気の影響によって、材料の強度が不活性環境中より低下して損傷を生じる事象である。 材料と環境の組み合わせによって起こりやすさに差異があることが知られており、原子炉水中におけるステンレス鋼溶接部の応力腐食割れや、鉄鋼材料の塩素イオンを含む環境中での割れ、水素を含む雰囲気中での水素割れなど、様々な損傷事例が報告されている。
【0003】
このような環境助長割れについては、その損傷発生を未然に防ぐため、環境と材料、荷重条件を任意に組み合わせ、その発生可能性の高い組み合わせを把握するための試験方法の開発が行なわれてきた。
【0004】
原子炉水中における応力腐食割れを例にとると、原子炉水の温度および圧力を模擬した高温高圧純水中におけるU-ベンド試験、SSRT(低ひずみ速度引張)試験、CBB(Creveced bend beamtest)試験、単軸定荷重試験(UCL)などがその発生しやすさを診断する試験方法として用いられてきた。
これに対し、実機構造物での損傷が報告される一方で、実験室での加速試験では、その割れ感受性が明瞭に検出されない場合があることが報告されてきている。この対策として、実機構造物よりも荷重条件をきびしく設定した試験体を実機環境にそのまま浸漬し、割れ発生の可能性を評価する方法が考えられてきている。
【特許文献1】特開2006−138797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景技術における試験方法では、試験片が曝される環境が、実機と同一になる利点があるのに対し、試験片を、試験専用の試験槽ではなく、商用運転を行なっている実機プラントに設置することとなるため、き裂進展のモニタリングが困難になることが予測される。
【0006】
たとえば実験室等での試験装置では、モニタリング用のセンサおよびセンサケーブルを備えた装置を用いて、電位差計測等によりき裂の発生および進展をモニタしているが、実機では、このようなモニタリング用センサケーブルの設置自体が難しいため、試験片を定期的に取り出して、各種計測を行ない、き裂の発生および進展挙動を把握する方法が考えられる。
【0007】
この場合、試験片を取り出して計測を行なう際の条件が均一でないと、計測誤差の原因となり、感度の高い計測が困難となる。たとえば、電位差によるき裂検出は、定電流源に接続された電流入出力端子と,電位差計測装置に接続された電位差測定端子と,電位差計測装置に接続されたデータ解析装置とを用いて、試験片に交流または直流の電流を付与した状態で、構造物の外表面上の電位差測定端子を介し電位差を計測し、得られた電位差データをデータ解析装置により解析して、試験片へのき裂の発生を検出する方法であるが、電位差変化は微小であることが多いため、電流の供給点、電位差計測の接点位置が異なる場合や、その接点での結線抵抗が異なる場合などは、計測誤差の要因となり、き裂の発生および進展を高い感度で検出することが難しくなると考えられる。
【0008】
本発明は、上述の技術課題である途中取り出しを行なった場合の電位差計測の感度向上を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る環境助長割れ監視試験方法は、予め定められた腐食環境中に、応力およびひずみを予め付与した試験片を浸漬し、この試験片を定期的に取り出して、この試験片の電位差を測定しき裂の発生および進展を検出する環境助長割れ監視試験において、電流供給端子、電位差計測端子に対する試験片の相対位置を同一にする試験冶具の位置決め機構を設けて、試験前および試験期間中の定期取り出し時に、毎回同一の端子位置に電位差計測端子、電流供給端子を接触させて、電位差計測を行なうことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る環境助長割れ監視試験装置は、予め定められた腐食環境中に、応力およびひずみを予め付与した試験片を浸漬し、この試験片を定期的に取り出して、この試験片の電位差を測定しき裂の発生および進展を検出する環境助長割れ監視装置において、電流供給端子、電位差計測端子に対する試験片の相対位置を同一にする試験冶具の位置決め機構を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記手段によって、同一の試験片を対象に、時間をおいて電位差計測を行なう場合においても、接点位置、接点抵抗を同様に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
まず、図1 を用いて第1の実施形態について説明する。 本第1の実施形態は、計測用フレーム13内に冶具12が位置決め機構14を介して配置されている。この冶具12には一定の力が加えられた状態で試験片11が設置されている。
【0014】
そして、試験片11には電流供給端子15および電位差計測端子16がバネまたはねじ等の保持機構18によって、一定以上の力で接触させている。この電位差計測端子16からの計測信号は電気的に接続された電位差計測装置および制御装置17によって収集計測および電流供給制御がなされている。
【0015】
このように構成された本実施の形態において、はじめに環境助長割れ監視試験に用いる試験片11について、冶具12に設置した後に、計測用フレーム13に固定配置して、試験前の電位差を計測する。このとき、試験冶具12と計測フレーム13の相対的な位置関係は、位置決め機構14を用いて決定し、この相対位置は、この試験中に取り出して電位差計測を行なう場合、冶具12ごとに一定となるようにする。
【0016】
この状態で、電流供給端子15、電位差計測端子16を、ばね機構21、またはねじ部材から成るねじ込み機構22等の保持機構18を用いて試験片に一定以上の力で接触させ、電位差を計測し記録する。
【0017】
試験片11はその表面においてある時間の後に試験環境において皮膜が形成される。この後に試験片11の表面に新らたにき裂が発生すると、き裂内面は皮膜のついていない新生面なので試験片11母材が環境中に溶け出す。この時に電位差計測端子16の間に流れる電位差が変化(腐食電位が低下する)して、電位差計測装置および制御装置17に記録された電位差に変化が現れる。
【0018】
したがって、電位差計測端子16と電位差計測装置および制御装置17を観察することにより、き裂の発生がわかる。なお、この電位差の変化は、き裂が発生した都度に現れる。これが電位差法によるき裂発生モニタリングである。
【0019】
このあとで、実機プラント等の原子炉水などの応力腐食割れが起こりうる圧力、温度、水質を模擬した予め定められた腐食環境に冶具ごと浸漬を行ない、プラント停止にあわせて中途取り出しを行ない、その都度電位差の計測を行ないき裂の発生およびき裂の進展挙動を計測する。
【0020】
本実施の形態により、原子炉水など応力腐食割れが起こりうる腐食環境中に、応力およびひずみをあらかじめ付与した試験片を浸漬し、これをプラント停止にあわせて定期的に取り出して、電位差法によるき裂発生モニタリングを行なう際に、毎回同一の端子位置において電流の付加と電位差の検出を行なうことができ、感度の高い環境助長割れ監視試験を実施することができる。
【0021】
さらに電位差計測端子16、電流供給端子15をばね機構あるいはねじ込み機構から成る保持機構18を用いて、一定力以上で試験片に接触させることにより、プラント停止にあわせた定期的な取り出しによるき裂モニタリング試験を行なう際に、毎回、同様の接点状態において電位差計測を行なうことを可能とする。これにより、感度の高い環境助長割れ監視試験を実施することができる。
【0022】
(第2の実施形態)
図2および図3を用いて第2の実施形態について説明する。なお、図1と同一部分には同一符号を付し構成の説明は省略する。 本第2の実施形態は、上述した第1の実施形態の試験片11に変えて、予き裂34が形成された平板予き裂試験片31または予き裂入り小型試験片32とした例である。予き裂入り小型試験片32においては予き裂34が形成され、応力を試験片32に与えるために負荷用ボルト33が設けられている。
【0023】
第2の実施形態では、試験対象とする試験片形状を予き裂34が形成された平板予き裂試験片31または予き裂入り小型試験片32とすることで、き裂発生のみならずき裂進展挙動についても予き裂34の進展の状態から実機環境中でデータの採取をすることができる。
【0024】
(第3の実施形態)
図4を用いて第3の実施形態について説明する。 本第3の実施形態は、第1の実施形態に加えて、絶縁材41を冶具12の下部に配設して構成し、図1と同一部分には同一符号を付し構成の説明は省略する。 本第3の実施形態では、試験冶具12と、計測用フレーム13間を絶縁して電位差の計測を行なう。本方法により、試験冶具12と計測用フレーム13間の絶縁を図ることができ、計測対象部以外への付与電流の流出を抑制し、電位差法によるき裂モニタリングを行なう際のS/N比を高めることができる。
【0025】
(第4の実施形態)
図5を用いて第4の実施形態について説明する。なお、図1と同一部分には同一符号を付し構成の説明は省略する。
本第4の実施形態は、第1の実施形態に加えて、試験片11に電流供給端子15および電位差計測端子16用の端子用突起51または端子用穴52を設けたものである。
【0026】
本第4の実施形態では、試験片11との接点を取るために、図5(a)においては試験片11に予め端子用突起51を形成する。このような端子用突起51は、スポット溶接等で形成可能である。
【0027】
電位差計測時は、端子用突起51と電流供給端子15および電位差計測端子16を接触させる。
【0028】
また、端子用突起51の代わりに、図5(b)に示すように端子用穴52を予め設けておいてもよい。電位差計測時は、端子用穴52を用いて、電流供給、電位差計測端子を試験片に接触させて計測を行なうものとする。このように試験片11に電流供給端子15および電位差計測端子16用の端子用突起51または端子用穴52を設けておくことにより、プラント停止にあわせた定期的な取り出し時の電位差計測における端子位置を同一にすることができる。
【0029】
また、第4の実施形態において電流供給端子15においては端子用突起51を、また電位差計測端子16においては端子用穴52を設けた構成、または突起と穴を逆の端子用に設けることによれば電流供給端子15と電位差計測端子16の位置を間違えることなく正確に設置することができる。
【0030】
なお、本発明においては上述した実施の形態1から4を適宜組み合わせることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る環境助長割れ監視試験方法を示す概略縦断面図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る環境助長割れ監視試験方法を示す概略縦断面図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る環境助長割れ監視試験方法の変形例を示す要部平面図。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る環境助長割れ監視試験方法を示す概略縦断面図。
【図5】(a)および(b)は本発明の第4の実施形態に係る環境助長割れ監視試験方法を示す要部斜視図。
【符号の説明】
【0032】
11…試験片
12…冶具
13…計測用フレーム
14…位置決め機構
15…電流供給端子
16…電位差計測端子
17…電位差計測装置および制御装置
18…保持機構
21…ばね機構
22…ねじ込み機構
31…平板予き裂試験片
32…予き裂入り小型試験片
33…負荷用ボルト
34…予き裂
41…絶縁材
51…端子用突起
52…端子用穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた腐食環境中に、応力およびひずみを予め付与した試験片を浸漬し、この試験片を定期的に取り出して、この試験片の電位差を測定しき裂の発生および進展を検出する環境助長割れ監視試験において、電流供給端子、電位差計測端子に対する試験片の相対位置を同一にする試験冶具の位置決め機構を設けて、試験前および試験期間中の定期取り出し時に、毎回同一の端子位置に電位差計測端子、電流供給端子を接触させて、電位差計測を行なうことを特徴とする環境助長割れ監視試験方法。
【請求項2】
前記電位差計測での、電流供給端子、電位差計測端子の押し付け力を任意の力以上とするため、両端子を保持機構により試験片に接触させることを特徴とする請求項1記載の環境助長割れ監視試験方法。
【請求項3】
前記試験片に、平滑試験片または予き裂入りの試験片を用いて浸漬期間中のき裂発生を監視することを特徴とする請求項1または2記載の環境助長割れ監視試験方法。
【請求項4】
前記試験冶具とこの試験冶具を収納する計測用フレームとの間を絶縁材によって絶縁することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の環境助長割れ監視試験方法。
【請求項5】
前記試験片に電流供給端子および電位差計測端子の接点となる端子突起または端子用穴を設けたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の環境助長割れ監視試験方法。
【請求項6】
予め定められた腐食環境中に、応力およびひずみを予め付与した試験片を浸漬し、この試験片を定期的に取り出して、この試験片の電位差を測定しき裂の発生および進展を検出する環境助長割れ監視装置において、電流供給端子、電位差計測端子に対する試験片の相対位置を同一にする試験冶具の位置決め機構を設けたことを特徴とする環境助長割れ監視試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−68862(P2009−68862A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234645(P2007−234645)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】