説明

環境条件の変化に対する植物の適応反応を改善するための液体無機組成物の使用

本発明は、下記の配合(I)を含むことを特徴とする、環境条件の変化に対する植物の適応反応を改善するための葉スプレー用の液体無機組成物の使用に関する:

−総アンモニア態窒素 (N%) 0.08%〜2%
−K2Oとして表すカリウム (%) 3%〜6%
−MgOとして表すマグネシウム (%) 0.4%〜0.8%
−Na2Oとして表すナトリウム (%) 1%〜2%
−CaOとして表すカルシウム (%) 0%〜0.5%
−SO3として表す総硫酸塩 (%) 3%〜6%
−P2O5として表す総リン分 (%) 0%
−塩化物 Cl (%) 1%〜2%
−重炭酸塩 (HCO3の%) 1.2%〜3.0%
−ホウ素 (%) 0.1〜0.2%
−銅 (%) 0.018%〜0.03%
−マンガン (%) 0.00005%〜0.006%
−ヨウ素 (%) 0.02%〜0.04%
−亜鉛 (%) 0.00005%〜0.006%
−鉄 (mg/kg) 0.0002〜0.003
−水 100%までの十分量の水

(上記百分率は、組成物総質量と比較した質量%からなる)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業、園芸、樹木栽培においてまたは牧畜草原において有用な植物の健康を保護または改善する物質を施す組成物の分野に関する。本発明は、さらに詳細には、外的生物または非生物ストレスに対する植物の防御系を増強する組成物の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
生長、発達、バイオマス蓄積および収穫量に関する植物の性能は、特に、物理的、化学的および生物学的ストレスを生じさせる事象のような植物の環境条件の変化に対する植物の適応能力に依存している。
例えば、水ストレス、浸透圧ストレスまたは熱ストレスのようなストレスの多い事象は、植物生長に関する、ひいては、農業、園芸、樹木栽培または牧畜草原地域における生産性レベルに関する要因を制約していることが観察されている。熱または干ばつ条件に曝される植物は、典型的に、植物バイオマス、種子、果実、およびヒトまたは家畜のような動物が食し得る他の生産物の乏しい収穫量しか有していない。ストレス事象によって生じる、利用可能な植物物質の、例えば、コメ、トウモロコシまたはコムギの栽培における収穫量の損減のような農作物の損減は、幾つかの発展途上国における食糧難の一因となる。
【0003】
ストレス事象は、植物内に、植物が生存するのを可能にする資源を動員し、所望の植物物質の初期収穫量を維持するのに使用した資源の損失に対する植物の健康を保護する生理学的防御メカニズムを生じさせる。
一般に、植物を外的ストレス事象の結果から少なくとも部分的に保護するように策定された種々の生物学的または化学技術的解決法は、当該技術の状況において知られている。
特に、例えば、国際出願(PCT) WO2007/125531号、WO2007/060514号、WO2008/050350号およびW2008/145675号に開示されているような、改良されたストレス抵抗性の遺伝特性を有するトランスジェニック植物を生産するように設計された植物の遺伝子組換え技術を挙げることができる。しかしながら、これらの技術は、特異的で時間を要し費用高の方法であり、植物種毎に繰返して遺伝子的に改変しなければならない。さらにまた、多くの国々において、現在は、野外での遺伝子組換え種の植物の栽培に対して全面的なまたはほぼ全面的な法的規制が存在する。
【0004】
植物のストレス事象に対する抵抗性問題を解決する他の方法によれば、現在、有機または有機・無機施肥組成物、特に、栄養成分の不足に対処するための全体的なまたは特定の性質を有すると認められる液体組成物が市販されている。また、病原性生物有機体からのストレスに対抗する植物の自然防御反応を刺激するように設計された組成物、例えば、植物から抽出した分子、アグロポリマーの加水分解物、微生物の抽出物、天然または変性多糖類、植物ホルモン、ペプチド類またはタンパク質、または植物防御メカニズムに関与することが知られている植物タンパク質の作用薬または拮抗薬物質のような物質を含有する組成物も知られている。
【0005】
上記の各組成物は、特に、栄養成分の不足を改善する或いはある種のウイルス、微生物または昆虫類のような病原性生物有機体に対する植物防御を刺激するのに満足できることが証明できている。
しかしながら、本出願人の知る限り、植物を、水ストレス、浸透圧ストレスまたは熱ストレス状態のような非生物タイプのストレス事象に対して保護するまたは刺激すると共に、同時に、真菌のようなキチンリッチ攻撃体に対する植物の反応に寄与することのできる純粋に無機質の組成物は存在しない。
【0006】
全ての場合において、農業、園芸、樹木栽培または牧畜草原における経済的重要性および健常な植物、特に、良好な生産収穫量を産する植物を得ることの人または動物食料における重要性を考慮すると、当該技術の状況において、既知の組成物と比較して、手頃な価格で、代替的なまたは改善された組成物を一般的に入手し得ることが求められている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、本説明の残余において詳細に明記する配合(I)を有する液体無機組成物の、植物の環境条件の変化に対する適応反応を改善するための使用に関する。
配合(I)を有する液体無機組成物は、その葉スプレー用剤形においては、水中または水性液体中に希釈した形で使用する濃縮組成物からなる。
さらに詳細には、本発明は、下記で開示する配合(I)を有する液体無機組成物の、生物または非生物ストレス事象に対する植物の適応反応を改善するための使用に関する。
【0008】
非生物ストレス事象としては、特に、水ストレス、浸透圧ストレス、熱ストレスまたは栄養欠乏がある。
生物ストレス事象としては、特に、キチンを含有する病原性微生物のような生物有機体およびこれらの各種生物有機体が産生するまたはこれらの生物有機体に由来する物質(キチンのような)との接触またはこれらの生物有機体および物質からの感染がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】および
【図1B】増分量の配合(I)を有する組成物による処理によって誘発させたシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の10日齢植物体におけるカルシウム応答曲線を示す。x軸:秒での時間。y軸:細胞質ゾル中のマイクロモル(μM)でのCa2+イオン濃度。
【図2A】および
【図2B】配合(I)を有する組成物の不存在または存在下での植物の事前処理24時間後に低温ショックによって誘発させたシロイヌナズナの10日齢植物体におけるカルシウム応答曲線を示す。図2Aおよび2Bは、2組の同一試験の結果を示す。x軸:秒での時間。y軸:細胞質ゾル中のマイクロモル(μM)でのCa2+イオン濃度。
【0010】
【図3】配合(I)を有する組成物の不存在または存在下での植物の事前処理24時間後に浸透圧ショックによって誘発させたシロイヌナズナの10日齢植物体における過酸化水素(H2O2)産生曲線を示す。x軸:秒での時間。y軸:任意(相対的)発光単位(RLU)。
【図4】配合(I)を有する組成物の不存在または存在下での植物の事前処理24時間後に化学物質のキチンによる誘導因子ショックによって誘発させたシロイヌナズナの10日齢植物体における過酸化水素(H2O2)産生曲線を示す。x軸:秒での時間。y軸:任意(相対的)発光単位(RLU)。
【0011】
【図5】前以って種々のストレス事象に供したシロイヌナズナ植物体の発育に対する、配合(I)を有する組成物の長期効果を示す。y軸:ストレス状態適用の2週間中の生長のセンチメートルでの植物体生長測定値。x軸上の棒グラフ:(a) 無処理でストレスに供しなかった対照植物体;(b) NaClによる水ストレスに供した無処理対照植物体;(c) マンニトールによる浸透圧ストレスに供した無処理植物体;(d) 配合(I)を有する組成物で処理し、ストレスに供しなかった植物;(e) 配合(I)を有する組成物で処理し、NaClによる水ストレスに供した植物体;(f) 配合(I)を有する組成物で処理し、マンニトールによる浸透圧ストレスに供した植物体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
多くの研究の後に、本出願人は、環境条件の変化に対する植物の適応反応を改善する性質を有することが証明された液体無機組成物を開発した。
特に、本説明において下記で定義するような配合(I)を有する液体無機組成物は、適切に希釈して使用するとき、水ショック、浸透圧ショックおよび真菌のような生物有機体由来のある種の物質との接触時の防御反応のような種々の環境条件の変化に対する反応における植物の適応反応を改善する性質を有することを証明している。
【0013】
従って、本発明は、下記の配合(I)を含むことを特徴とする、環境条件の変化に対する植物の適応反応を改善するための葉スプレー用の液体無機組成物の使用に関する:

−総アンモニア態窒素 (N%) 0.08%〜2%
−K2Oとして表すカリウム (%) 3%〜6%
−MgOとして表すマグネシウム (%) 0.4%〜0.8%
−Na2Oとして表すナトリウム (%) 1%〜2%
−CaOとして表すカルシウム (%) 0%〜0.5%
−SO3として表す総硫酸塩 (%) 3%〜6%
−P2O5として表す総リン分 (%) 0%
−塩化物 Cl (%) 1%〜2%
−重炭酸塩 (HCO3の%) 1.2%〜3.0%
−ホウ素 (%) 0.1〜0.2%
−銅 (%) 0.018%〜0.03%
−マンガン (%) 0.00005%〜0.006%
−ヨウ素 (%) 0.02%〜0.04%
−亜鉛 (%) 0.00005%〜0.006%
−鉄 (mg/kg) 0.0002〜0.003
−水 100%までの十分量の水

(上記百分率は、組成物総質量と比較した質量%からなる)。
【0014】
配合(I)を有する無機組成物は、濃縮形の無機組成物からなる。葉スプレー用の使用に当っては、配合(I)を有する液体無機組成物を、水中または水性液体中に適切に希釈する。
ある組成物が配合(I)を有する組成物の無機成分における上記の定性的および定量的特性を有することを検証するためには、当業者であれば、有利には、このタイプの組成物についての周知の測定方法を参照するであろう。
【0015】
例えば、当業者であれば、下記の組成分析方法を使用し得るであろう:
(i) アンモニアの形の窒素含有量については、Conwayによって説明された方法を使用する(ヨーロッパ指令(European Directives)第73/47号および第81/681号によって改定されたようなEC指令(European Community Directive)第71/393号);
(ii) カリウム含有量については、フランス規格 NF U 44‐140、およびフレーム発光法に関するK2O測定法を使用する;
(iii) マグネシウム含有量については、フランス規格 NF U 44‐140およびNF U 44‐146に説明されている測定法、および原子吸光法を使用する;
(iv) ナトリウム Na2O含有量については、フランス規格 NF U 44‐140に説明されている測定方法、およびフレーム光度法を使用する。
【0016】
(v) カルシウム含有量については、フランス規格 NF U 44‐140において定義されている原子吸光分光法、および原子吸光法を使用する;
(vi) 総硫酸塩含有量については、ヨーロッパ規格 CEE 8.1に定義されている方法、および重量測定法を使用する;
(vii) P2O5のパーセント(質量/質量)として表す総リン分の測定については、フランス規格 NF U 42‐241 (CEE 3.1)およびNF U 42‐246 (分光光度法)に定義されている方法を使用する;
(viii) 塩化物含有量については、フランス規格 NF U 42‐371に定義された方法を使用する。
【0017】
(ix) 重炭酸塩含有量については、フランス規格 NF EN ISO 9963‐1 (T 90‐036)に説明されている方法に従う炭酸水素イオンについての測定方法を使用する;
(x) ホウ素含有量については、最終濃度が10% (質量/質量)よりも低い場合は、ヨーロッパ規格 CEE 9‐1およびCEE 9‐5に定義されている測定法を使用し;最終濃度が10% (質量/質量)を越える場合は、ヨーロッパ規格 CEE 10‐1およびCEE 10‐5を使用する;
(xi) 銅含有量については、ヨーロッパ規格 CEE 9‐1およびCEE 9‐7に定義されている測定法、および原子吸光法を使用する;
(xii) マンガン含有量については、規格 ICP NF EN ISO 11885に定義されている測定方法を使用する。
【0018】
(xiii) ヨウ素含有量については、以下の方法を使用する:サンプルをグローテ・クレケラー(Grote-Krekeler)調製法によって灰分に還元する(石英管(規格 DIN 53 474)を小陶材るつぼに滑り込ませる)。ガス状ヨードを苛性ソーダ中に吸収させ、次いで、光度測定を、サンデル・コルトフ(Sandell-Kolthoff)の方法(レドックス対 Ce(IV)/As(III)の436nmでの触媒作用による)を使用して実施する。
(xiv) 亜鉛含有量については、規格 ICP NF EN ISO 11885に定義されている測定方法を使用する;そして、
(xv) 鉄含有量については、規格 ICP NF EN ISO 11885に定義されている測定方法を使用する。
【0019】
好ましい実施態様においては、配合(I)を有する組成物は、専ら無機成分または化合物を含む組成物からなる。これらの実施態様においては、配合(I)を有する組成物は、純粋にまたは専ら無機組成物からなり、従って、炭化水素化合物でない有機成分または化合物を含有しない。例えば、配合(I)を有する組成物は、ビタミン、アミノ酸、糖類、有機酸または塩基等を含有しない。
他の特徴によれば、配合(I)を有する組成物は、濃縮形で存在し、一般に、植物に対して使用する前に希釈する。
上記の配合(I)を有する組成物を製造するには、当業者であれば、有利には、実施例を含む本説明の技術的内容を参照するであろう。
【0020】
本明細書において使用するときの用語“植物”は、単子葉植物および双子葉植物を意味するものと理解されたい。
本発明の意味における植物は、農業、園芸、樹木栽培または牧畜草原において使用する植物を包含する。
特に、これらの植物は、主要穀類作物、果樹および顕花植物を包含する。これらの植物は、特に、コムギ、オオムギ、脂肪種子ナタネ、トウモロコシおよびコメ、並びにリンゴ、西洋ナシ、プラム、モモおよびアンズの木のような樹木種を包含する。
【0021】
双子葉植物は、下記の種および科を包含する:スイレン科(Nymphaeaceae)マツモ科(Ceratophyllaceae)キンポウゲ科(Ranunculaceae)ケシ科(Papaveraceae)ケマンソウ科(Fumariaceae)ニレ科(Ulmaceae)アサ科(Cannabinaceae)イラクサ科(Urticaceae)ヤマモモ科(Myricaceae)ブナ科(Fagaceae)カバノキ科(Betulaceae)ザクロソウ科(Aizoaceae)アカザ科(Chenopodiaceae)スベリユヒ科(Portulacaceae)ナデシコ科(Caryophyllaceae)タデ科(Polygonaceae)イソマツ科(Plumbaginaceae)ミゾハコベ科(Elatinaceae)オトギリソウ科(Guttiferae/Hypericaceae/Clusiaceae)アオイ科(Malvaceae)アオイ科(Malvaceae)モウセンゴケ科(Droseraceae)スミレ科(Violaceae)ウリ科(Cucurbitaceae)ヤナギ科(Salicaceae)アブラナ科(Cruciferae/Brassicaceae)モクセイソウ科(Resedaceae)ガンコウラン科(Empetraceae)ツツジ科(Ericaceae)イチヤクソウ科(Pyrolaceae)シャクジョウソウ科(Monotropaceae)サクラソウ科(Primulaceae)スグリ科(Grossulariaceae)ベンケイソウ科(Crassulaceae)ユキノシタ科(Saxifragaceae)バラ科(Rosaceae)マメ科(Leguminosae/Fabaceae)グミ科(Elaeagnaceae)、アリノトウグサ科(Halogaraceae)ミソハギ科(Lythraceae)アカバナ科(Onagraceae)ヤドギリ科(Viscaceae)ニシキギ科(Celastraceae)モチノキ科(Aquifoliaceae)トウダイグサ科(Euphorbiaceae)クロウメモドキ科(Rhamnaceae)アマ科(Linaceae)ヒメハギ科(Polygalaceae)カエデ科(Aceraceae)カタバミ科(Oxalidaceae)フウロソウ科(Geraniaceae)ツリフネソウ科(Balsaminaceae)ウコギ科(Araliaceae)セリ科(Umbelliferae/Apiaceae)リンドウ科(Gentianaceae)キョウチクトウ科(Apocynaceae)ナス科(Solanaceae)ヒルガオ科(Convolvulaceae)ネナシカズラ科(Cuscutaceae)ミツガシワ科(Menyanthaceae)ムラサキ科(Boraginaceae)シソ科(Lamiaceae)スギナモ科(Hippuridaceae)アワゴケ科(Callitrichaceae)オオバコ科(Plantaginaceae)フジウツギ科(Buddlejaceae)モクセイ科(Oleaceae)ゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)ハマウツボ科(Orobanchaceae)タヌキモ科(Lentibulariaceae)キキョウ科(Campanulaceae)アカネ科(Rubiaceae)スイカズラ科(Caprifoliaceae)レンプクソウ科(Adoxaceae)オミナエシ科(Valerianaceae)マツムシソウ科(Dipsacaceae)およびキク科(Compositae/Asteraceae)
【0022】
本明細書において使用するときの植物の“適応反応”なる用語は、その植物に環境条件の急速な変化を適用した後の植物何らかの検知可能な生理的変化を意味するものと理解されたい。上記検知可能な生理的変化は、細胞内代謝物のような1種または数種の組織代謝物の量または濃度の何らかの変化或いは上記植物の酵素活性の何らかの検知可能な定性的または定量的変化或いは上記植物の形態の何らかの検知可能な変化を包含する。植物の適応反応は、特に、“第2メッセンジャー”として知られる代謝物の植物細胞による産生をもたらす。第2メッセンジャーは、カルシウムイオンおよび反応性酸素種(ROS)を包含する。
【0023】
“環境条件”は、水条件、塩分条件、浸透圧条件、酸化条件および熱条件を包含する。また、植物の環境条件の急速な変化は、本説明においては、“ショック”または“ストレス”とも称する。環境条件は、(i) 植物の生物学的環境の結果である“生物”条件、および(ii) 植物の物理的および化学的環境の結果である“非生物”条件を包含する。
非生物ストレスまたはショックからなる環境条件の変化は、塩、浸透圧、酸化、熱および水ストレスまたはショック、並びにある種の金属またはある種の合成有機毒性化学物質またはある種の天然または合成無機物質のような毒性物質と接触している植物が引起すショックを包含する。また、これらの環境条件の変化は、イオン化または非イオン化放射線への暴露および栄養物の欠乏または過剰も包含する。
【0024】
塩ストレスまたはショックは、植物が高塩化ナトリウム量を有する土壌において、例えば、沿岸地または牧草地において生長する場合に生じ得る。塩ストレスは、特に、植物組織内での恒常性とイオン分布の規制緩和をもたらし、種子発芽および植物生長の変化に至る。
また、浸透圧ストレスまたはショックは、マンニトールリッチ基質において生長させることによって人工的に誘発させ得る。浸透圧ストレスは、特に、植物組織内での恒常性とイオン分布の規制緩和をもたらし、種子発芽および植物生長の変化に至る。
酸化ストレスまたはショックは、メチルビオロゲン上で生長させることによって人工的に誘発させ得る。酸化ストレスは、特に、反応性酸素種(ROS)の形成、タンパク質変性および葉緑素分解を生じさせ、植物の退色をもたらし、植物の死に至り得る。
【0025】
熱ストレスまたはショックは、加熱によって生じるストレスおよび低温によって生じるストレスを包含する。高温で生長させることによって誘発させたストレスは、特に、タンパク質の変性を生じさせ、植物生長の変化をもたらす。低温において生長させることによって誘発させたストレスは、特に、反応性酸素種の形成および細胞膜の破損を生じさせ、植物生長の変化をもたらす。
水ストレスは、乾燥条件において生長させることによって誘発させ得る。水ストレスは、特に、細胞生長と光合成の抑制を生じさせ、植物生長の変化をもたらす。
【0026】
生物ストレスまたはショックからなる環境条件の変化は、植物を単細胞または多細胞生物体、例えば、細菌、ウイルス、真菌、草食性生物体、昆虫または病原性生物体と接触させることによって生じたストレスまたはショック、或いは植物を単細胞または多細胞生物体に由来する物質と接触させることによって生じたストレスまたはショックを包含する。生物ストレスは、細菌、ウイルスもしくは真菌またはこれらの一部分、或いは細菌、ウイルスまたは真菌起原の物質によって生じ得る。
【0027】
本発明に従う配合(I)を有する組成物は、植物の環境条件の変化に対する適応反応に関与する生理学的経路を直接誘発させる、特に、実施例において示しているCa2+イオン濃度の上昇作用によって説明しているように、カルシウムシグナル伝達経路を誘発させるという性質を有する。従って、配合(I)を有する組成物は、細胞の細胞質ゾル中でカルシウム変化を誘発させ、その変化量は、植物と接触させる配合(I)を有する組成物の量に依存する。
【0028】
また、配合(I)を有する組成物は、低温ショックのような非生物ストレスに対する植物の反応の変化を誘発させることも証明している。
同様に、実施例において示した結果は、本発明に従う配合(I)を有する組成物が、浸透圧ストレスの適用に対する反応において過酸化水素(H2O2)産生の増進を刺激し得ることも証明している。
従って、ある種のその局面においては、配合(I)を有する組成物によってもたらされる植物の適応反応の改善は、本発明の意味においては、下記を包含する:
(i) 植物の非生物または生物ストレスに対するカルシウム応答を検出可能に増進させる性質、上記カルシウム応答の増進は、植物組織中の、特に、植物細胞の細胞質ゾル中のCa2+イオン濃度を測定することによって検出し得る;そして、
(ii) 非生物または生物ストレスに応答しての植物組織中での過酸化水素の産生を検出可能に増進させる性質。
【0029】
本発明に従う配合(I)を有する組成物が生物または非生物ストレスに反応しての植物のカルシウム応答を増進させる性質を有するという事実は、重要である;何故ならば、カルシウム応答の時点で産生されるカルシウムイオンは、生物または非生物ストレスを受けた植物の適応反応の誘発をもたらすカスケード過程において代謝的に且つ年代的に極めて高位置にあるシグナル伝達経路における“第2メッセンジャー”と称する最先端の種として知られているからである。カルシウムイオン濃度の上昇は、カルシプロテインのようなこれらのイオンに対して親和性を有するタンパク質の活性化を生じさせることは知られている。その場合、活性化されたカルシプロテインは、同様に、キナーゼのような他の酵素活性タンパク質を活性化するか、或いは“ポンプ”タンパク質のような他の非酵素タンパク質を活性化する(Sanders, D., Brownlee, C., and Harper, J.F. (1999). Communicating with calcium. Plant Cell 11, 691-706. Shapiro, A.D. (2005);Nitric oxide signaling in plants. Plant Hormones VOL 72, 339-398; Brownlee, C. (2003);Plant signalling: Calcium first and second. Current Biology 13, R923-R924., Hetherington, A.M., and Brownlee, C. (2004);The generation of Ca2+ signals in plants. Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol 55, 401-427.; Harper, J.F., Breton, G., and Harmon, A. (2004);Decoding Ca(2+) signals through plant protein kinase. Annu Rev Plant Biol 55, 263-288.; Mori, I.C., Murata, Y., Yang, Y.Z., Munemasa, S., Wang, Y.F., Andreoli, S., Tiriac, H., Alonso, J.M., Harper, J.F., Ecker, J.R., Kwak, J.M., and Schroeder, J.I. (2006);CDPKs CPK6 and CPK3 function in ABA regulation of guard cell S-type anion- and Ca2+-permeable channels and stomatal closure - art. no. e327. Plos Biology 4, 1749-1762.; George, L., Romanowsky, S.M., Harper, J.F., and Sharrock, R.A. (2007);The ACA10 Ca2+ ATPase Regulates Adult Vegetative Development and Inflorescence Architecture in Arabidopsis. Plant Physiol)。これらのカスケード過程は、初ストレスに反応して、その植物特有の適応反応を発現するのを助ける。植物の適応反応の例としては、水ストレスの期間中に水分損失を抑制する気孔閉鎖、熱または浸透圧ストレスに反応しての保護オスモライトの産生、および病原性生物体の伝播を抑制する作用を有する内生毒性物質の産生を挙げることができる。
【0030】
本発明に従う配合(I)を有する組成物が生物または非生物ストレスに反応して植物の酸化応答、特に、反応性酸素種の産生を増進させる性質を有するという事実は、重要である。さらに詳細には、本発明に従う配合(I)を有する組成物が、最も安定な反応性酸素種である過酸化水素の産生増進をもたらし、従って、“第2メッセンジャー”化合物として、植物の反応性応答を生じるのに必要な細胞反応を遠隔的に誘発させ得ることは、特に有利である。反応性酸素種の産生は、非生物ストレスに対する植物の殆どの適応反応の誘発の原因となることを思い起さなければならない。また、生物または非生物ストレスに反応しての植物の適応反応は、以下のことを包含する反応性酸素種の産生をもたらすことも明確にすべきである:過剰エネルギーの熱散逸、酸素を電子輸送鎖受容体として使用するエネルギーの光化学散逸、産生したROSを解毒するための全群の抗酸化酵素および分子の使用、抗酸化酵素(スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ、チオレドキシン/チオレドキシンレダクターゼ対、熱ショックタンパク質)の関与、鉄‐および銅‐担持タンパク質(トランスフェリン、フェリチン)の関与、小抗酸化分子(グルタチオン;カロテノイド類;ビタミンA、C (アスコルビン酸)、E (トコフェロール);ユビキノン;フラボノイド類;ビリルビン)の関与、および抗酸化酵素活性の共同因子として不可欠である少数元素(銅、亜鉛、セレン)の関与。
【0031】
従って、これらの局面の1つにおいては、配合(I)を有する組成物の使用は、この使用が生物または非生物ストレスに対する植物の適応反応を改善することに特徴を有する。
ある種の実施態様においては、配合(I)を有する組成物の使用は、非生物ストレスが水ストレス、浸透圧ストレス、熱ストレスまたは栄養不足の中から選ばれることに特徴を有する。栄養不足は、少数元素の不足のようなミネラル不足を包含する。
他の実施態様によれば、配合(I)を有する組成物の使用は、生物ストレスが、特に、キチンを含有する病原性微生物のような生物有機体およびこれらの各種生物有機体が産生するまたはこれらの生物有機体に由来するキチンのような物質との接触、またはこれらの生物有機体または物質からの感染を包含することに特徴を有する。
【0032】
さらにまた、本出願人は、本発明に従い、配合(I)を有する組成物が、特に葉に適用することによって、正常生長条件に置いた植物および少なくとも1種の非生物または生物ストレス条件を適用した植物の双方の植物の根の生長を刺激する性質を有することも証明している。
従って、さらに他の局面においては、本発明に従う上記の使用は、配合(I)を有する組成物が植物の根発達の増進をもたらすことに特徴を有する。根発達の増進は、平均長を測定することによって、根生長速度の増進により実証し得る。
従って、配合(I)を有する組成物は、(i) 環境条件の変化に対する植物の適応反応を増進させる効果と(ii) 根発達の増進に対する効果によって実証される生理刺激剤効果とを兼ね備えている。
【0033】
従って、本発明によれば、配合(I)を有する組成物は、植物に、好ましくは葉に散布することによって適用したとき、下記の技術的効果をもたらすことを証明している:
・水ストレス、浸透圧ストレスおよび熱ストレスに対する植物のカルシウム応答の増進;
・キチン誘導物質による植物防御メカニズムの誘導反応の増進;
・過酸化水素(H2O2)のような反応性酸素種の産生の刺激による、植物細胞の酸化状態の改善;
・若い植物の根生長速度の増進;および、
・若い植物の干ばつに対する抵抗性の増進。
【0034】
特に、配合(I)を有する組成物の下記の効果は、実施例において証明されている:
A. シグナル伝達経路に関与する生物/非生物ストレスに対する植物反応の第2メッセンジャー (Ca2+およびH2O2)のレベルにおいて:
a) 配合(I)を有する組成物は、シロイヌナズナ植物体の細胞内での細胞質カルシウム変異に関与するシグナル伝達経路によって誘発される外来性刺激として植物に認識されている。配合(I)を有する組成物による処理は、ストレスに反応する植物の能力の変化を誘発させる。
b) 配合(I)を有する組成物で事前処理した植物体におけるキチン誘導物質に応答しての(H2O2)のような反応性酸素種の産生は、水をスプレーした植物体において測定した産生よりも高い。この結果は、病原性因子が産生した誘導物質に応答しての、配合(I)を有する組成物で事前処理した植物の防御反応の増進を示唆している。
B. 植物体の生長および発達レベルにおいて:
a) 配合(I)を有する組成物は、シロイヌナズナ植物体の根生長を、正常条件または(浸透圧または塩)ストレス条件において有意に増進させる。
b) 強い水ストレスに供した植物体の回復または発達は、配合(I)を有する組成物による前処理によって改善される。
従って、実施例における結果は、配合(I)を有する組成物が、正常生長条件およびストレス条件の双方において、植物体の生長および発達に対して有益な効果を有することを証明している。
【0035】
ある種の有利な実施態様においては、本発明の組成物は、配合(I)に包含される下記の配合(II)を有する:

−総アンモニア態窒素 (N%) 0.08%〜1%
−K2Oとして表すカリウム (%) 3.5%〜4.5%
−MgOとして表すマグネシウム (%) 0.4%〜0.5%
−Na2Oとして表すナトリウム (%) 1.2%〜1.6%
−CaOとして表すカルシウム (%) 0%〜0.1%
−SO3として表す総硫酸塩 (%) 3%〜5%
−P2O5として表す総リン分 (%) 0%
−塩化物 Cl (%) 1%〜2%
−重炭酸塩 (HCO3の%) 1.5%〜1.9%
−ホウ素 (%) 0.1%〜0.15%
−銅 (%) 0.020%〜0.026%
−マンガン (%) 0.00005%〜0.0002%
−ヨウ素 (%) 0.025%〜0.031%
−亜鉛 (%) 0.00005%〜0.0002%
−鉄 (mg/kg) 0.0002〜0.001%
−水 100%までの十分量の水

(上記百分率は、組成物総質量と比較した質量%からなる)。
【0036】
さらに他の有利な実施態様においては、本発明の組成物は、配合(I)および(II)の各々に包含される下記の配合(III)を有する:

−総アンモニア態窒素 (N%) 0.09%
−K2Oとして表すカリウム (%) 4%
−MgOとして表すマグネシウム (%) 0.45%
−Na2Oとして表すナトリウム (%) 1.40%
−CaOとして表すカルシウム (%) 0.05%
−SO3として表す総硫酸塩 (%) 3.85%
−P2O5として表す総リン分 (%) 0%
−塩化物 Cl (%) 1.40%
−重炭酸塩 (HCO3の%) 1.7%
−ホウ素 (%) 0.12%
−銅 (%) 0.023%
−マンガン (%) 0.00005%
−ヨウ素 (%) 0.028%
−亜鉛 (%) 0.00005%
−鉄 (mg/kg) 0.0003
−水 100%までの十分量の水

(上記百分率は、組成物総質量と比較した質量%からなる)。
【0037】
また、本発明のさらなる目的は、実施例を含む本説明において開示した任意の組成物、特に、配合(I)、(II)および(III)を有する組成物である。
ある種の実施態様においては、配合(I)を有する組成物は、下記の表に明記したプロトコールに従って得ることができる:

−水道水 100%までの十分量の水
−ヨウ化カリウム 0.030〜0.50%
−塩化ナトリウム 0.8〜1.2%
−ホウ酸 0.6〜1.0%
−炭酸ナトリウム 2.0〜4.0%
−塩化マグネシウム 2.0〜4.0%
−硫酸カリウム 7.0〜1.10%
−硫酸銅・五水和物 0.05〜0.15%
−硫酸アンモニウム 1.5〜3.5%

(上記百分率は、液体組成物の総質量と比較した、各成分における質量%からなる)。
【0038】
上記各種成分を、周囲温度で、水道水に添加し、その後、得られた溶液を、安定な液体組成物が得られるまで、激しく混合する。その後、液体組成物を濾過して溶解していない固形物を除去して、配合(I)を有する透明な即使用組成物を得る。
有利には、配合(II)を有するその特定の例のような配合(I)を有する組成物は、濃縮形の液体配合物からなり、この配合物を一定容量の水中に希釈して希釈即使用組成物を得る。
【0039】
従って、本発明は、配合(II)を有する組成物のような配合(I)を有する濃縮組成物からなり、この濃縮組成物をその容量の50〜10000倍の水、好ましくはその容量の100〜5000倍の水、例えば、その容量の100〜1000倍または400〜600倍の水に希釈している、環境条件の変化に対する植物の適応反応を改善するための、葉スプレー用の液体無機組成物の使用にも関する。
【0040】
また、本発明は、葉スプレー前に、配合(I)を有する組成物を、水または水性液体中に、0.1:500 (容量/容量)〜10:500 (容量/容量)の範囲の、好ましくは0.5:500 (容量/容量)〜2:500 (容量/容量)の範囲の組成物(I):水または水性液体の割合で希釈することを特徴とする、配合(I)を有する濃縮無機組成物の使用にも関する。
実際には、上記希釈組成物を、有利には植物の空中部分上への散布によって、好ましくは葉スプレーによって植物に適用する。
ある種の実施態様においては、上記希釈組成物は、散布により、植物の空中部分上に、1年間当り1回または数回に分けて、処理すべき植物表面の1ヘクタール当り0.5L〜20L、好ましくは処理すべき植物表面の1ヘクタール当り1L〜10Lの範囲の量で適用する。
【0041】
さらにまた、本発明を添付図面および以下の実施例によって説明するが、これらの実施例によって如何なる形でも限定されるものではない。
実施例
A. 実施例における材料および方法
A. 1. 植物材料
10日齢のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の生態型 Col 0 (野外)または生態型
No0 (エクオリンカルシウムプローブを発現するトランスジェニック)の植物体。
植物体を、栄養寒天(MurashigeおよびSkoogのMS培地)上でのペトリ皿内インビトロまたは鉢内もしくはジフィー(Jiffy)ポット内での鉢植え用土壌上のいずれかで栽培する。
植物体をインビトロ栽培するに当っては、シロイヌナズナの前以って滅菌した種子を約100個の種子の数列で植え付ける。
【0042】
A. 2. シロイヌナズナ植物体のカルシウム応答の測定
測定前日、50本のほぼ10日齢植物体をインビトロ培地から集め、ペトリ皿内で、3本一組で、2μMのセレンタラジン(coelentarazine)を含有する500μlの水中に入れ、その後、1夜周囲温度にて暗中でインキュベートする。翌日、測定を、照度計により、3本の植物体のバッチを配合(III)を有する組成物の選定された濃度の1mlの溶液を含むペトリ皿に移し、植物体を生産物と接触(浸漬による)させた後に上記エクオリンが発するシグナルを記録することによって実施する。シグナルを15分間記録した後、エクオリンを、100mMのCaCl2を含有する溶解溶液を注入することによって除去してシグナルを標準化する。
【0043】
A. 3. シロイヌナズナ植物体のH2O2産生の測定
10日齢シロイヌナズナ植物体によるH2O2の産生を、ルミノールの酸化によって生じた発光によって測定した。3本の植物体のバッチを照度計内のペトリ皿に入れ、その後、発光を、350mMのマンニトールまたは10μg/mlのキチンのいずれかを加え、この場合H2O2産生を誘発し得る陽性対照として使用する反応培地(20μMのルミノール、4単位のペルオキシダーゼ、5mMのTris‐HCl pH 7.8)の注入後に、10分間測定した。
【0044】
A. 4. 配合(I)を有する組成物で事前処理したインビトロ栽培植物体の根生長の測定
各試験において、1列の10日齢植物体を、2%の配合(III)を有する組成物をスプレーすることによって処理し、その後、正常培地またはストレス誘発性培地(100mMのNaClまたは350mMのマンニトール)のいずれかに移した。その後、根生長を毎日追跡した。
【0045】
A. 5. 配合(I)を有する組成物による事前処理後のストレス条件でのシロイヌナズナ植物体発達の観察
シロイヌナズナの種子を、鉢内で、鉢植え用土壌上に植え付け、その後、ファイトトロン(t = 22/20℃、光周期 9/15、70%湿度)内で10日間栽培した(シロイヌナズナ)。
その後、若い植物体を、葉に水(対照)または水中2%の配合(III)を有する組成物をスプレーすることによって処理し、その後、植物体を以下のストレス条件に置いた:浸透圧ストレス(350mMのマンニトールを含む水の毎日の供給)、塩ストレス(100mMのNaClを含む水の供給)または水ストレス(水供給なし)。
その後、植物体の発達を、写真により毎日追跡した。
【実施例1】
【0046】
配合(I)を有する組成物の調製
配合(I)を有する組成物を、以下の配合(III)を有する組成物によって調製した:

−総アンモニア態窒素 (N%) 0.09%
−K2Oとして表すカリウム (%) 4%
−MgOとして表すマグネシウム (%) 0.45%
−Na2Oとして表すナトリウム (%) 1.40%
−CaOとして表すカルシウム (%) 0.05%
−SO3として表す総硫酸塩 (%) 3.85%
−P2O5として表す総リン分 (%) 0%
−塩化物 Cl (%) 1.40%
−重炭酸塩 (HCO3の%) 1.7%
−ホウ素 (%) 0.12%
−銅 (%) 0.023%
−マンガン (%) 0.00005%
−ヨウ素 (%) 0.028%
−亜鉛 (%) 0.00005%
−鉄 (mg/kg) 0.0003
−水 100%までの十分量の水

(上記百分率は、組成物総質量と比較した質量%からなる)。
【0047】
配合(III)を有する組成物は、下記の表に要約しているプロトコールに従って調製した。

【0048】
上記各種成分を、周囲温度で、水道水に添加し、その後、溶液を、安定な液体組成物が得られるまで激しく混合した。
その後、液体を濾過して、配合(III)を有する透明で安定な即使用可溶性組成物を得る。濾過するには、7〜10マイクロメートル範囲の孔サイズを有する無灰セルロース濾紙 PRAT DUMAS (登録商標)を使用し得る。
以下の実施例においては、配合(III)を有する組成物を、水道水中で0.01%〜8.00% (容量/容量)の範囲の種々の希釈度で使用し、得られた希釈組成物を葉スプレー用に使用した。
【実施例2】
【0049】
配合(I)を有する組成物の葉への適用に対するシロイヌナズナ植物体のカルシウム応答の測定
本出願人は、配合(III)を有する組成物の適用が、配合(III)を有する組成物が植物において適応反応をもたらす刺激物質として植物に認識されることを明らかにする細胞内のカルシウム変化をもたらしていることを証明した。
結果は、図1Aおよび1Bに示しており、これらの図は、10日齢シロイヌナズナ植物体において異なる濃度の配合(III)を有する組成物によってもたらされたカルシウム変化を示している(矢印 = 植物体の生産物との接触時間)。
【0050】
これを実施するために、エクオリンに対する遺伝子を細胞質ゾル中に発現するシロイヌナズナ植物体を使用した。配合(III)を有する組成物の水中0.01〜8% (容量/容量)の希釈物を試験し、水を含む対照を試験した。植物体を上記溶液と接触させたとき、操作自体(機械的ショック)に起因し、生産物濃度とは無関係な急速なシグナル変化を観察した(この変化は、水対照によっても観察された)。
結果は、配合(III)を有する組成物が、植物体を生産物と接触させた後の30秒と1分の間のピーク、およびその後の2% (容量/容量)よりも低い希釈における基準レベルへの漸進的戻り段階または2% (容量/容量)よりも高い希釈における広汎な平坦化によるバイモーダルな投与量依存性カルシウム応答をもたらしていること示している。配合(III)を有する組成物の濃度が2% (容量/容量)よりも高いと、カルシウム応答は、急速で、強くて、高背景ノイズを伴うことに注目すべきである。
【0051】
従って、これらの結果から、以下のように結論付け得る:
1) 配合(III)を有する組成物は、0.01%
(容量/容量)まで高度に希釈してさえも、植物のカルシウム応答に対する刺激作用を有する。生産物は、濃度、従って、配合(III)を有する組成物の葉に適用する量によって変動する細胞質ゾル中でのカルシウム変化をもたらす。
2) 2% (容量/容量)よりも高い濃度においては、このカルシウム応答は、2%よりも低い濃度において得られる応答と異なる特徴を有する。2% (容量/容量)よりも高い濃度においては、そのカルシウム応答は、特に、大きな平坦化段階を有しており(デルタ[Ca2+] > 0.5%)、この段階は、これらの“第2メッセンジャー”カルシウムシグナルに対する異なる最終生物学的応答を暗示し得る。
【実施例3】
【0052】
低温ショックに対するシロイヌナズナ植物体のカルシウム応答に対する配合(I)を有する組成物の葉適用の長期効果試験
低温ショックによってもたらされるカルシウム応答に対する配合(III)を有する組成物によるシロイヌナズナ植物体の事前処理の効果を測定するために、10日齢植物体に、測定前日に、配合(III)を有する組成物の2%溶液または水(対照)をスプレーした。処理後のおよそ3時間で、これらの植物体を集め、前記の材料および方法において説明しているようにして、セレンタラジン中で1夜インキュベートした。翌日、これらの植物体において低温ショックによってもたらされたカルシウム応答を記録した。
植物体を4℃の水中に浸漬することによって得られる低温ショックは、急速で強い短命のカルシウム応答を生じさせることが知られている。
【0053】
図2Aおよび2Bは、配合(III)を有する組成物による事前処理の24時間および48時間後の2群の独立の三重試験において得られた平均結果を示している。
24時間後、有意の差異が、事前処理(配合(III)を有する組成物または水)に応じて、上記ストレスによって生じた応答の強度において観察された。
配合(III)を有する組成物による処理は、低温に対する応答を有意に増進させることが示されている。
第2群の試験においては、配合(III)を有する組成物による処理は、水で処理した植物と比較して、低温に対する有意の脱感作を生じさせている。
検討した試験に応じて、配合(III)を有する組成物は、そのように、その効果について結論を引出すことのできない上記応答に対する増幅または抑制効果のいずれかを有している。2群の試験における48時間後では、PRP処理が水処理(対照)と区別し得なかったことは明白である。
結論として、実施例3の結果は、2% (容量/容量)の配合(III)を有する組成物による事前処理は、2% (容量/容量)の配合(III)を有する組成物が最大24時間の遅れ以内で適用された場合は、低温ショックに対するカルシウム応答において植物内での挙動変化をもたらしていることを示している。
【実施例4】
【0054】
浸透圧ショックに対するまたは病原性生物体が産生する物質による誘導物質処理に対する反応におけるシロイヌナズナ植物体中でのH2O2の産生に対する配合(I)を有する組成物の長期効果試験
実施例4においては、目的は、浸透圧ショックによりまたは真菌微生物が産生する誘導物質、即ち、キチンによりもたらされるH2O2応答に対する配合(III)を有する組成物によるシロイヌナズナ植物体の事前処理の効果を判定することであった。キチンは、この場合、H2O2産生およびマーカーの1つがH2O2産生である防御反応をもたらし得る病原性因子によって生じる擬態ストレスをもたらすことが知られている陽性対照として使用する。
【0055】
このことを実施するために、測定前日に、10日齢植物体に、配合(III)を有する組成物の2%溶液または水(対照)をスプレーした。翌日、浸透圧ショック(図3)またはキチン(図4)のいずれかによるH2O2の産生を、これらの植物体において、前記の材料および方法において説明しているようにして測定した。
結果は、図3および4に示している。図3および4は、水または2% (容量/容量)の配合(III)を有する組成物で24時間前に事前処理したシロイヌナズナ植物体における浸透圧ショック(図3)またはキチン(図4)に応答してのH2O2の産生を示している。
【0056】
水ストレスをこの場合擬態するマンニトールに対する応答においては、観察された応答の強度は、極めて変動性である。配合(III)を有する組成物で事前処理した植物体において測定した強度レベルは、水で事前処理した植物体において測定した強度レベルよりも低い。しかしながら、マンニトールは、H2O2産生をもたらさず、前以って水(H2O対照)をスプレーしたまたは配合(III)を有する組成物(PRP)をスプレーした植物にマンニトールの代りに水を適用することによって得られたH2O2産生とは有意に異なっている。
【0057】
キチンによってもたらされるH2O2の産生に関しては、配合(III)を有する組成物で事前処理した植物体においては、キチンは、配合(III)を有する組成物で事前処理したが水の存在下にインキュベートした植物体(PRP)のH2O2産生よりも4〜5倍高いH2O2産生をもたらしていることが観察されている。
水で事前処理しキチンにより刺激した植物体の場合は、H2O2産生は、同じ植物体の水による刺激(H2O対照)と有意に異なってはいない。
【0058】
結論として、実施例4からの結果は、配合(III)を有する組成物による植物体の事前処理がキチンに応答してのH2O2産生に対して刺激作用を有することを示している。このことは、配合(III)を有する組成物で事前処理した植物体が、キチンを含有または産生する病原性因子、例えば、真菌による可能性ある感染に応答してのその防御反応を増進させる能力を有することを示唆している。
【実施例5】
【0059】
インビトロ栽培のシロイヌナズナ植物体の根生長に対する配合(I)を有する組成物の長期効果
実施例5の試験においては、寒天皿内で生長させたシロイヌナズナ植物体に、2% (容量/容量)の配合(III)を有する組成物または水のいずれかをスプレーした。
翌日、植物体を、正常培地または100mMのNaClもしくは350mMのマンニトールを含有するストレス誘発性培地いずれかの新しい皿に移した。
その後、植物体の主根の長さを毎日測定した。
【0060】
図5は、バッチ当り20〜30本の植物体において、移植後24時間で行った測定の結果を示している。かなり大きな長さの変動性にもかかわらず、PRP‐EPV生産物の極めて有意な全体的効果(p < 0.01)が根生長に関して観察された。主根の長さ増大は、対照条件(無ストレス)またはストレス条件(NaClまたはマンニトール)のいずれであれ、H2Oで処理した植物体におけるよりも配合(III)を有する組成物で事前処理した植物体における方が大きかった。グラフを見るに、上記事前処理植物体は対照植物体よりも良好にストレスに耐えていたことが明白である。
結論として、実施例5の結果は、配合(III)を有する組成物は主根の生長に対してプラス効果を有することを示している。ストレス条件において含まれるこの良好な生長は、水ストレスに対するより良好な許容を助長している。
【実施例6】
【0061】
鉢内で栽培したシロイヌナズナ植物体の発達に対する配合(I)を有する組成物の長期効果
シロイヌナズナ植物体の各種ストレスに対する抵抗性に対しての配合(III)を有する組成物の効果を試験するために、10日齢の鉢内生長植物体を、2% (容量/容量)の配合(III)を有する組成物または水(対照)をスプレーすることによって処理し、その後、翌日以降の日々においては、350mMのマンニトール(水ストレスを刺激する浸透圧ストレス)または100mMのNaCl (塩ストレス)を含有する水を給水し、或いは給水しないで放置した (水ストレス)。
ストレス処理の2週間後、植物体に真水を通常に給水した。
【0062】
上記の各処理は、植物体が配合(III)を有する組成物によって処理されているまたは処理されていないの如何にかかわらず、植物体の発達に対して同じ効果を有することを観察した。
対照的に、給水を停止することによる水ストレスの後は、補水後の発達回復は、配合(III)を有する組成物によって事前処理している植物体において改良されているようである。この改良された回復は、補水の10日後においてはるかに顕著であった。
結論:実施例5の結果は、配合(III)を有する組成物による事前処理は高水ストレス(空中部分の干上げ)後の植物回復を改善することを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の配合(I)を含むことを特徴とする、環境条件の変化に対する植物の適応反応を改善するための葉スプレー用の液体無機組成物の使用:

−総アンモニア態窒素 (N%) 0.08%〜2%
−K2Oとして表すカリウム (%) 3%〜6%
−MgOとして表すマグネシウム (%) 0.4%〜0.8%
−Na2Oとして表すナトリウム (%) 1%〜2%
−CaOとして表すカルシウム (%) 0%〜0.5%
−SO3として表す総硫酸塩 (%) 3%〜6%
−P2O5として表す総リン分 (%) 0%
−塩化物 Cl (%) 1%〜2%
−重炭酸塩 (HCO3の%) 1.2%〜3.0%
−ホウ素 (%) 0.1〜0.2%
−銅 (%) 0.018%〜0.03%
−マンガン (%) 0.00005%〜0.006%
−ヨウ素 (%) 0.02%〜0.04%
−亜鉛 (%) 0.00005%〜0.006%
−鉄 (mg/kg) 0.0002〜0.003
−水 100%までの十分量の水

(上記百分率は、組成物総質量と比較した質量%からなる)。
【請求項2】
生物または非生物ストレスに対する植物の適応反応を改善する、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記非生物ストレスが、水ストレス、浸透圧ストレス、熱ストレス、イオン化または非イオン化照射に対する過暴露からのストレス、栄養欠乏、毒性物質によって生じるストレスのうちから選ばれる、請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記生物ストレスが、細菌、ウイルス、真菌、草食性生物体、昆虫および病原体のうちから選ばれる、請求項2記載の使用。
【請求項5】
前記配合(I)を有する組成物が、植物の根発達の増進ももたらす、請求項1〜4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
葉スプレー前に、前記配合(I)を有する組成物を、水または水性液体中に、0.1:500 (容量/容量)〜10:500 (容量/容量)の範囲の組成物(I):水または水性液体の割合で希釈する、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
前記配合(I)を有する組成物を、水または水性液体中に、0.5:500 (容量/容量)〜2:500 (容量/容量)の範囲の組成物(I):水または水性液体の割合で希釈する、請求項6記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−514975(P2012−514975A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544914(P2011−544914)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050042
【国際公開番号】WO2010/081987
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(511169690)
【Fターム(参考)】