説明

環境監視装置

【課題】QCMセンサを用いた、温度補正係数の測定が不要な環境監視装置の提供。
【手段】
共振子1の共振周波数を測定する共振周波数測定器21と 環境温度を測定する温度センサ2と、測定された共振周波数および環境温度を、測定時刻と関連づけた共振周波数の時系列データD2および環境温度の時系列データD1として記憶する記憶装置30と、記憶装置30に記憶された環境温度の時系列データD1から、環境温度が第1の所定温度Tc1になる第1の時刻t1を算出する第1の時刻算出部12aと、記憶装置30に記憶された共振周波数の時系列データD2から、第1の時刻t1における共振周波数を第1の共振周波数f1として算出する第1の共振周波数算出部13aとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境中の被測定物質濃度を監視する環境監視装置には、振動子、例えば水晶振動子に付着する被測定物質の重量変化を、振動子の共振周波数変動として測定するセンサ、例えばQCMセンサ(Quarts Crystal Microbalanceセンサ)が広く用いられている。
【0003】
このような環境監視装置のセンサとして使用される振動子は、環境物質、例えば大気に直接暴露されるため、環境の大きな温度変動を受けやすい。振動子の共振周波数は、温度依存性を有するため、付着物質の重量変化の他、振動子の温度に依存する。このため、被測定物質の付着量を精密に測定するためには、振動子の温度補正が不可欠である。
【0004】
しかし、振動子の共振周波数の温度依存性は振動子ごとに異なる場合が多く、各振動子ごとに個々の温度補正係数を測定する必要がある。従来、振動子の温度補正係数は、振動子を環境監視装置に組み込む前に、あるいは組み込んだ後環境監視装置を使用する前に、温度試験を行い振動子の共振周波数の温度依存性を測定することで算出していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−058319号公報
【特許文献2】特開2004−294356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、振動子の温度補正係数の算出は、環境監視装置を使用する前に予め温度試験を行い、振動子の共振周波数の温度依存性を測定することでなされていた。かかる温度試験は、振動子又は環境監視装置を恒温槽に収容し、温度を階段状に変化させ、一定温度に保持された状態で共振周波数を測定し、温度と共振周波数との関係を測定する必要があり、相当の工数がかかっていた。
【0007】
さらに、恒温槽の温度を変化した後、定常温度に到達するまでには長時間を要する。とくに、環境監視装置の温度試験は、室温近傍から±十数℃以内の狭い温度範囲で測定されるため温度の変化量が小さく、恒温槽の温度を昇降した後定常温度に到達するまでの時間が長い。このため、温度補正係数の測定に長時間を要し、振動子のみならず環境監視装置の製造コストが高くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、振動子に付着する被測定物質の重量変化を振動子の共振周波数の変動として観測する環境監視装置において、温度補正係数を算出するための温度試験を必要としない環境監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための本発明は、その一態様によれば、被測定物質の付着により共振周波数が変化する振動子と、複数の測定時刻を含む第1の測定時刻で前記共振周波数を測定する共振周波数測定器と、複数の測定時刻を含む第2の測定時刻で環境温度を測定する温度センサと、測定された前記共振周波数を、前記第1の測定時刻と関連づけた共振周波数の時系列データとして記憶し、かつ、測定された前記環境温度を、前記第2の測定時刻と関連づけた環境温度の時系列データとして記憶する記憶装置と、前記記憶装置に記憶された前記環境温度の時系列データから、前記環境温度が第1の所定温度になった第1の時刻を算出する第1の時刻算出部と、前記記憶装置に記憶された前記共振周波数の時系列データから、前記第1の時刻の共振周波数を第1の共振周波数として算出する第1の共振周波数算出部と、前記第1の時刻の共振周波数を被測定物質の付着量へ換算する換算部と、を有することを特徴とする環境監視装置として提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、測定された環境温度および共振周波数の時系列データから、環境温度が第1の所定温度となったときの共振周波数を抽出して、その抽出された共振周波数から被測定物質の付着量を換算する。この付着量は、常に所定の環境温度のときに測定された共振周波数から換算されるので、環境温度の変動の影響を受けない。従って、温度補正係数を算出するための温度試験を行う必要がない環境監視装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態の環境監視装置の構成図
【図2】本発明の第1実施形態の環境監視装置の機能構成図
【図3】本発明の第1実施形態のフローチャート
【図4】本発明の第1実施形態の測定データ
【図5】本発明の第1実施形態の環境温度の時系列データ(その1)
【図6】本発明の第1実施形態の環境温度の時系列データ(その2)
【図7】本発明の第1実施形態の共振周波数の時系列データ(その1)
【図8】比較例の共振周波数の時系列データ
【図9】本発明の第1実施形態におけるデータ処理を説明する図(その1)
【図10】本発明の第1実施形態におけるデータ処理を説明する図(その2)
【図11】本発明の第2実施形態の環境監視装置の機能構成図
【図12】本発明の第2実施形態の環境監視装置のフローチャート
【図13】本発明の第2実施形態におけるデータ処理を説明する図(その1)
【図14】本発明の第2実施形態におけるデータ処理を説明する図(その2)
【図15】本発明の第2実施形態の変形例におけるデータ処理を説明する図
【図16】本発明の第3実施形態の環境監視装置の機能構成図
【図17】本発明の第3実施形態の環境監視装置のフローチャート
【図18】本発明の第3実施形態におけるデータ処理を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1実施形態は、環境温度が所定温度に一致する時刻における被測定物質の付着量を観測データとして出力する環境監視装置に関する。
【0013】
図1は本発明の第1実施形態の環境監視装置の構成図であり、環境監視装置の主要なハードウエア構成を表している。
【0014】
図1を参照して、本第1実施形態の環境監視装置100は、CPU120、メモリ110、記憶装置30及び出力装置41がバス111に接続されたコンピュータと、バス111に接続された観測部20とを有する。
【0015】
観測部20は、環境温度を測定する温度センサ2と、環境中に含まれる被測定物質の付着により共振周波数が変化する振動子1とを備える。
【0016】
温度センサ2は、環境温度を測定できるものであればよく、例えば温度を電圧または電流に変換する半導体温度センサを用いることができる。また、共振周波数の温度依存性が知られた振動子を用い、温度変化を共振周波数の変動として検知することもできる。この温度センサ2は、バス111に接続された温度測定回路22により駆動され、測定された温度データはバス111に出力される。
【0017】
振動子1は圧電板の表面に形成された電極を有する。その振動子1の共振周波数は、圧電板表面又は電極表面に吸着ないし化学反応により付着した被測定物質の重量に応じて変化する。本第1実施形態では、振動子1として、共振周波数の温度依存性が小さなATカットの厚み滑り振動をする水晶振動子を用いた。かかる水晶振動子は、カット方位の僅かなずれにより共振周波数の温度特性が変化する。このため、個々の振動子1の温度特性は、それぞれ異なるものとなる。
【0018】
なお、本第1実施形態で用いられる振動子1は、被測定物質が累積して付着するものであっても、被測定物質の付着量が環境中の濃度に応じて変化するものであってもよい。前者の振動子には、例えば環境中の腐食物質による電極の腐食量を測定する腐食センサがあり、後者の振動子には、例えば環境中の有機化学物質の濃度を測定する有機ガスセンサがある。第1実施形態の以下の説明では、被測定物質が累積して付着する振動子1、即ち被測定物質が非可逆的に累積して付着する振動子1について説明する。なお、被測定物質の付着量が環境中の濃度に応じて可逆的に変化する振動子1についても同様に説明される。
【0019】
この振動子1は、バス111に接続された共振周波数測定器21により駆動されてその共振周波数が測定され、測定された共振周波数はバス111に出力される。この共振周波数測定器21は、振動子1の共振周波数を測定可能であればとくに制限はなく、例えば振動子1を含むコルピッツ発振回路と、その発振周波数を計測する周波数測定回路とから構成することができる。なお、振動子1は、交換可能なように、共振周波数測定器21に着脱可能に接続されることが好ましい。
【0020】
メモリ110は、CPU120が実行するプログラムを収容する。このメモリ110として、例えばROM、RAMの何れか又は両方を含む半導体メモリを用いることができる。記憶装置30は、測定された環境温度および共振周波数のデータを測定時刻と関連づけて記憶する。この記憶装置30として、大量のデータを少ない消費電力で記憶することができる記憶装置、たとえば磁気ディスク装置または不揮発性の半導体メモリ(例えばフラッシュメモリを用いたUSBメモリ又はSDメモリ)を用いることが好ましい。
【0021】
出力装置41は、各種データ、例えば観測データあるいは各種のデータ処理がなされたデータを、CPU120からの指示に従い外部機器へ出力する。
【0022】
CPU120は、メモリ110に収容されたプログラム(図2のプログラム10を含む。)を実行し、プログラムに従って観測部20、記憶装置30及び出力装置41の動作を制御する。
【0023】
図2は本発明の第1実施形態の環境監視装置の機能構成図であり、環境監視装置100が有する主な機能を表している。
【0024】
図2を参照して、本第1実施形態の環境監視装置100は、CPU120がプログラム10を実行することで、時刻発生部11、第1の時刻算出部12a、第1の共振周波数算出部13a及び換算部17が有する以下の各機能を実現する。
【0025】
時刻発生部11は、温度測定時刻を表す信号p2及び共振周波数測定時刻を表す信号p1を発生する。第1の時刻算出部12aは、記憶装置30内に記憶された環境温度の時系列データD1に基づき、環境温度が所与の一定温度(第1の所定温度)になる第1の時刻t1を算出する。第1の共振周波数算出部13aは、記憶装置30内の共振周波数の時系列データD2に基づき、第1の時刻t1における共振周波数(以下「第1の共振周波数f1」という。)を算出する。換算部17は、第1の共振周波数f1を被測定物質の付着量に換算する。以下、これら各部の機能を、プログラム10のフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0026】
図3は本発明の第1実施形態のフローチャートであり、図2のプログラム10に従って環境監視装置100が実行する工程を表している。
【0027】
図2および図3を参照して、ステップS11で、時刻発生部11は、環境温度の測定時刻tp2に立ち上がる信号p2および共振周波数の測定時刻tp1に立ち上がる信号p1を生成し、バス111を介して観測部20へ出力する。なお、本第1実施形態では、信号p1、p2として、予め定められた時間間隔、例えば1時間間隔で発生し、同一タイミングで立ち上がるパルスを発生した。
【0028】
次いで、ステップS12で、観測部20は、信号p1を受信すると、共振周波数測定器21を駆動して振動子1の共振周波数を測定する。さらに、信号p2を受信すると、温度測定回路22を駆動して温度センサ2が感知する環境温度を測定する。本第1実施形態では信号p1、p2は同時に立ち上がるので、共振周波数および環境温度の測定は同一時刻になされる。もちろん、立ち上がり時刻が異なる信号p1、p2発生して、共振周波数と環境温度を異なる時刻で測定してもよい。
【0029】
次いで、ステップS13で、ステップS12で測定された環境温度及び共振周波数のデータを記憶装置30に記憶する。このとき、測定された環境温度は、測定時刻tp2に関連づけて記憶され、測定時刻tp2に関連づけられた環境温度の時系列データD1として保存される。また,測定された共振周波数は、測定時刻tp1に関連づけて記憶され、測定時刻tp1に関連づけられた共振周波数の時系列データD2として保存される。
【0030】
次いで、ステップS14で、予め与えられた観測期間、例えば1ヶ月間の観測期間が終了したか否かが判定される。観測期間が終了していないと判定された場合は、ステップS11〜S14のルーチンを繰り返す。終了したと判定されると、次のステップS15を実行する。従って、ステップS14で観測期間が終了したと判定されたとき、記憶装置30には全観測期間にわたり測定された環境温度および共振周波数の時系列データD1、D2が記憶されている。
【0031】
上述したステップS11〜ステップS14とは独立して、ステップS18で、第1の所定温度Tc1を設定する。第1の所定温度Tc1として、任意の温度を与えることができる。第1の所定温度Tc1として、例えば通常ATカットの水晶振動子1の温度特性の基準とされる常温、即ち25℃に設定することができる。これにより、振動子1の温度依存性が小さくなり、付着量の精密な測定がなされる。また、観測期間のうちの任意の期間、例えは3日間〜1月間の期間中に測定された環境温度の平均値あるいは最高温度と最低温度の中央値とすることもできる。これにより、後述するように、多くの時点において付着量が算出されるので、付着量の変動を緻密な時間間隔で算出することができる。
【0032】
次いで、ステップS15で、第1の時刻算出部12aは、環境温度が第1の所定温度Tc1に一致する時刻t1(i)(以下、「第1の時刻t1」という。)を算出する。ここで、iは自然数である。ステップS15では、まず、記憶装置30から環境温度の時系列データD1を読み出す。
【0033】
図4は本発明の第1実施形態の測定データであり、記憶装置30に記憶された環境温度および共振周波数の時系列データD1、D2をグラフに表示したものである。なお、図4の上部に環境温度の時系列データD1を、下部に共振周波数の時系列データD2を表示した。また、共振周波数は、観測開始時点からの周波数変動幅により表示した。図5は本発明の第1実施形態の環境温度の時系列データ(その1)であり、図4中の環境温度の時系列データD1のうち、測定開始から1日〜3日間のデータの詳細を表している。図6は本発明の第1実施形態の環境温度の時系列データ(その2)であり、図4中の環境温度の時系列データD1のうち、測定開始後23日〜25日間のデータの詳細を表している。
【0034】
図4を参照して、測定された環境温度は、ほぼ日周期で変動している。一方、観測された振動子1の共振周波数は、日周期で階段状に低減している。この共振周波数の変動が日周期で変動する環境温度に影響される程度は、このままでは振動子1の温度補正係数が未知なため明らかでない。
【0035】
図2および図5を参照して、第1の時刻算出部12aは、記憶装置30から読み出した環境温度の時系列データD1を、近似式により、例えば折れ線グラフにより近似する。次いで、その近似式が第1の所定温度Tc1と交差する第1の時刻t1(1)〜t1(11)を算出する。即ち、環境温度の近似式が第1の所定温度Tc1に一致する時刻を、第1の時刻t1(1)〜t1(11)として求める。
【0036】
図6を参照して、測定開始後23日〜25日間の環境温度の時系列データは、第1の所定温度Tc1=25℃と一致することがない。従って、この期間では、第1の時刻t1(i)の数が零になる。このように、第1の時刻t1(i)の数が零ないし少ない場合、後述する第1の共振周波数の算出時点が少なくなり、時間間隔が粗いデータしか得られず好ましくない。このため、第1の所定温度Tc1を第1の所定温度Tc1’に変更して、環境温度の近似式が第1の所定温度Tc1’と交差する第1の時刻t1’(i)の数(交差点の数)を多くすることが好ましい。本第1実施形態では、第1の所定温度Tc1’をTc1’=28℃とすることで、23日〜25日の3日間で14時点の第1の時刻t1’(1)〜t1’(14)を算出した。なお、第1の所定温度Tc1’は第1の所定温度Tc1とともに予め設定してもよく、観測結果を参照して第1の時刻t1’(i)の数が多くなるように、例えば観測開始から23日目〜25日目の3日間の平均環境温度あるいは最大最小温度の中央値に設定してもよい。
【0037】
次いで、ステップS16で、第1の共振周波数算出部13aは、記憶装置30から読み出した共振周波数の時系列データD2を近似式、例えば折れ線グラフで近似する。そして、第1の時刻算出部12aが算出した第1の時刻t1(i)および必要ならば第1の時刻t1’(i)における共振周波数を、以下に説明するようにその近似式から算出する。
【0038】
図7は本発明の第1実施形態の共振周波数の時系列データ(その1)であり、図4に示す本発明の第1実施形態の測定データのうち、記憶装置30に記憶されている共振周波数の時系列データD2の1日〜3日間に測定されたデータをグラフに表したものである。図8は、比較例の共振周波数の時系列データであり、温度補正された共振周波数を表している。図7〜図8では、共振周波数を、測定開始時の共振周波数からの周波数変動幅(周波数差)により表示した。
【0039】
なお、この比較例は、第1実施形態の環境監視装置100の振動子1の温度補正係数を予め測定し、その温度補正係数を用いて第1実施形態の測定結果を温度補正したものである。温度補正係数は、−7Hz/℃(−0.28ppm/℃)であった。
【0040】
図7を参照して、振動子1の共振周波数は、おおよそ階段状に減少している。しかし、一部区間で上昇が見られる。ここで用いた振動子1は、被測定物質が非可逆的に累積する型であり、温度が一定であれば共振周波数は常に一定または減少しなければならない。従って、この上昇は被測定物質の付着によるものではなく、環境温度の変動に起因すると推測される。図8を参照して、予め測定されていた温度補正係数を用いて補正された比較例の共振周波数は、階段状に変動しており、上昇は観測されない。このことは、共振周波数の測定データを温度補正なしに直接用いたのでは、被測定物質の付着量を精密に測定することが困難であることを示している。
【0041】
図9は本発明の第1実施形態におけるデータ処理を説明する図(その1)であり、第1の共振周波数算出部13aが実行するデータ処理方法を表している。なお、図9上部の白抜きの小径の円は、図6に図示する環境温度の時系列データD1を表示し、図9下部の塗り潰した小径の円は、図7に図示する共振周波数の時系列データD2を表示している。
【0042】
図9を参照して、第1の共振周波数算出部13aは、第1の時刻算出部12aが算出した第1の時刻t(i)における振動子1の共振周波数f1(i)を算出する。具体的には、記憶装置30から読み出した共振周波数の時系列データD2を近似式、たとえば折れ線グラフにより近似する。そして、第1の時刻t(i)における近似式の値、即ち折れ線グラフが第1の時刻t(i)を表す線(図9中一点鎖線)と交差する点の共振周波数f1(i)を、第1の共振周波数f1(i)として算出する。言い換えれば、第1の共振周波数f1(i)は、第1の時刻t(i)の前後の測定時刻で測定された共振周波数を、直線補完することで算出される。もちろん、他の近似方法を用いて算出してもよい。
【0043】
算出された第1の共振周波数f1(i)を、図9中にf1(1)〜f1(11)を付した大径の白塗りの円(○)で示した。ここでf1(1)〜f1(11)はそれぞれ、第1の時刻t(1)〜t(11)における第1の共振周波数f1(1)〜f1(11)表している。
【0044】
本第一実施形態では、この算出された第1の共振周波数f1(i)を用いて被測定物質の付着量を算出する。即ち、図9中の第一の共振周波数f1(i)を表す円を結ぶ折れ線グラフG1(太い実線)を、温度補正された共振周波数(の変動幅)と見做して、付着量に換算する。
【0045】
上述したように、第1の共振周波数f1(i)は、第1の時刻t1(i)における共振周波数を、即ち環境温度が第1の所定温度になるときの共振周波数を近似している。言い換えれば、第1の共振周波数f1(i)は、その全てが同一温度(第1の所定温度Tc1)で測定されている。即ち、第1の共振周波数f(i)相互間では測定時の環境温度の差がない。このため、この第1の共振周波数f1(i)は、温度変動の影響を受けず、環境物質の付着量の変動のみに起因して変動する。このため、第1の共振周波数f1(i)の変動を、被測定物質の付着量の変動に換算しても、環境温度変動の影響を受けない正確な付着量が算出される。このように、本第1実施形態の環境監視装置100では、振動子1の測定された共振周波数を温度補正することなくそのまま用いて、被測定物質の付着量の変動を正確に測定することができる。
【0046】
図9中のt1(1)〜t1(2)、t1(3)〜t1(6)およびt1(9)〜t1(10)の区間(時刻間)では、共振周波数の変動が小さく1Hz以下である。被測定物質が非可逆的に累積して付着する振動子1では、かかる共振周波数の変動幅が小さな区間は、非測定物質の付着速度が遅く、非測定物質の濃度が低いことを意味する。この共振周波数の変動幅が小さな区間において、算出された第1の共振周波数の変動幅df(観測開始時点からの変動幅)は、f1(1)〜f1(2)でdf=0Hz、f1(3)〜f1(6)でdf=−155Hz、およびf1(9)〜f1(10)でdf=−317Hzであった。この変動幅dfは、これらの区間における、25℃を基準温度として温度補正された図8に示す共振周波数の変動幅と一致している。また、図9中の第1の共振周波数f1(i)を直線で結んだ折れ線グラフG1(太い実線)は、図8に示す温度補正された比較例のデータを良く近似している。このように、第1の共振周波数を用いて、温度補正をすることなく温度補正されたデータを近似することができる。
【0047】
なお、折れ線グラフG1により温度補正されたデータをより精密に近似するには、第1の共振周波数が算出される時刻を多くかつその時間間隔を短くすることが望ましい。そのため、第1の時刻t1(i)の間隔が短くかつ多くなるように、第1の所定温度Tc1を選択することが好ましい。
【0048】
図10は本発明の第1実施形態におけるデータ処理を説明する図(その2)であり、第1の共振周波数算出部13aが実行する測定開始から23日〜25日間のデータ処理を表している。なお、図10上部の白塗りの小径の円は、図6に示した環境温度の時系列データD1を、下部の塗り潰した小径の円は、図4の23日〜25日間に測定された振動子1の共振周波数の時系列データD2を表示している。
【0049】
図10を参照して、第1の所定温度Tc1’を28℃に設定したときの第1の時刻t1’(i)は、図6を参照して説明したように、23日〜25日の3日間において14時点の第1の時刻t1’(1)〜t1’(14)が算出される。図9を参照して説明した上述の第1の共振周波数の算出と同様の方法を用いて、記憶装置30から読み出した共振周波数の時系列データD2から第1の時刻t1’(i)における共振周波数f1’(i)を第1の共振周波数f1’(i)として算出した。その結果を、図10中にf1’(i)を付した大径の白抜きの円(○),およびその間を結ぶ折れ線グラフG1’(太い実線)により表示した。
【0050】
この第1の共振周波数f1’(i)は、上述した第1の共振周波数f1(i)と同様に、同一環境温度における共振周波数であるから、環境温度に影響されることなく付着量を正確に反映する。従って、この第1の共振周波数f1’(i)を被測定物質の付着量に換算することで、振動子の温度補正を行うことなく正確な付着量の変動を測定することができる。
【0051】
上述した第1の共振周波数f1(i)、f1’(i)は、環境温度がそれぞれ異なる第1の所定温度Tc1、Tc1’のときの共振周波数であるから、これら第1の共振周波数f1(i)、f1’(i)のデータを、温度補正することなく直接接続することはできない。しかし、第1の共振周波数f1(i)、f1’(i)が重なる測定期間があり、かつその期間内で第1の共振周波数f1(i)、f1’(i)が滑らかに変化するのであれば、両者のデータを容易に接続することができる。例えば、一方のグラフの共振周波数に一定の周波数を加算して、その重なる期間内で両者のグラフを滑らかに接続する。この場合、この加算した周波数を第1の所定温度Tc1、Tc1’の温度差で除した値を、温度補正係数として用いて温度補正することで、両者のグラフを接続することができる。
【0052】
ただし、常に両者のグラフを滑らかに接続することができるとは限らない。例えば、第1の時刻t1(i)、t1’(i)の時間間隔が長く、この間の被測定物質の濃度変動、即ち共振周波数の変動が大きい場合である。ごの場合、第1の共振周波数f1(i)及び第1の共振周波数f1’(i)は、測定時間間隔内で急激に変動するため、滑らかに接続することができない。かかる場合でも、後述の第2または第3実施形態のようにして温度補正係数を算出することができれば、温度補正をして接続することができる。
【0053】
次いで、再び図3を参照して、ステップS17で、換算部17は、第1の共振周波数f1(i)、f1’(i)の周波数変動量dfを被測定物質の付着量に換算する。この換算は、周知のように、予め測定された換算係数を周波数変動量dfに乗ずることでなされる。なお、換算係数の測定は、任意の一定温度において、振動子に付着する物質の重量変動により生ずる共振周波数の変動量を測定することで足りるから短時間でなされ、温度補正係数の測定のように長時間を要しない。換算された付着量は、その結果を出力装置41から出力され、また、必要ならば記憶装置30に記憶される。
【0054】
本発明の第2実施形態は、付着物質が非可逆的に累積する振動子1を用いた自動的に温度補正がなされる環境監視装置に関する。
【0055】
図11は本発明の第2実施形態の環境監視装置の機能構成図であり、本発明の第2実施形態の環境監視装置200が有する主要な機能を表している。なお、本第2実施形態のハードウェア構成は、図1に示す第1実施形態の環境監視装置100と同様である。
【0056】
図11を参照して、本第2実施形態の環境監視装置200は、プログラム10の実行により、第2の時刻算出部12b、第2の共振周波数算出部13b、第1及び第2の微小変動域抽出部14a、14b、補正係数算出部15および温度補正部16の各機能を実現する。さらに、本第2実施形態の環境監視装置200は、図2に図示した第1実施形態の環境監視装置100の機能を全て有している。
【0057】
図12は本発明の第2実施形態の環境監視装置のフローチャートであり、プログラム10に従って環境監視装置200が実行する工程を表している。
【0058】
図12を参照して、本第2実施形態の環境監視装置200では、まずステップS21で、時刻発生部11が、それぞれ環境温度および共振周波数の測定時刻を指示する信号p2、p1を発生する。この時刻発生部11の機能および動作は、第1実施形態のステップS11で実行する時刻発生部11の機能及び動作と同様てある。
【0059】
次いで、ステップS22で、観測部20は、信号p2を受けて温度センサ2による環境温度の測定を温度測定回路22に実行させ、信号p1を受けて振動子1の共振周波数を共振周波数測定器21に測定させる。次いで、ステップS23で、これらの観測データを測定時刻と関連づけた環境温度の時系列データD1および共振周波数の時系列データD2として記憶装置30に記憶する。
【0060】
次いで、ステップS24で、CPU120は所与の観測期間が終了したか否かを判定し、終了していなければステップS21〜S24を繰り返す。観測期間が終了すると次のステップS25を実行する。上述したステップS21〜ステップS24が実行する機能は、図3を参照して説明した第1実施形態のステップS11〜S14と同様である。また、環境温度の時系列データD1および共振周波数の時系列データD2も、第1実施形態と同様である。
【0061】
上記ステップS11〜S14とは独立して、ステップS30で、第1実施形態のステップS18と同様にして、第1の所定温度Tc1を、また、必要ならば第1の所定温度Tc1’を設定する。この第1の所定温度Tc1、Tc1’の設定は、第1実施形態と同一である。
【0062】
本第2実施形態では、ステップS30で、さらに第2の所定温度Tc2を設定する。この第2の所定温度Tc2は、第1の所定温度Tc1と温度差ΔT℃だけ異なる温度として与えられる。温度差ΔTは、正負いずれの温度差でもよく、振動子1の共振周波数の温度依存性が測定される大きさ、例えは1℃〜数℃に選ばれる。なお、温度差ΔTの絶対値は、大き過ぎると、後述するステップS25でなされる第2の時刻の算出が困難になる。逆に、小さ過ぎると、第1及び第2の所定温度Tc1、Tc2における共振周波数の差が小さくなり、ステップS28において温度補正係数を精密に算出することが難しくなる。
【0063】
次いで、ステップS25で、第1及び第2の時刻算出部12a、12bが、それぞれ第1の時刻t1および第2の時刻t2を算出する。
【0064】
図13は本発明の第2実施形態におけるデータ処理を説明する図(その1)であり、観測開始から1日〜3日間のデータの処理方法を表している。図14は本発明の第2実施形態におけるデータ処理を説明する図(その2)であり、観測開始から23日〜25日間のデータの処理方法を表している。なお、図13及び図14の上部は環境温度の時系列データD1とそれから算出された第1及び第2の時刻t1(i)、t2(i)を、下部は共振周波数の時系列データD2とそれから算出された第1及び第2の共振周波数f1(i)、f2(i)を表している。
【0065】
ステップS25では、第1及び第2の時刻算出部12a、12bは、まず、記憶装置30から環境温度の時系列データD1(第1実施形態の環境温度の時系列データD1と同様である。)を読み出す。
【0066】
次いで、図13の上部を参照して、第1の時刻算出部12aは、環境温度の時系列データD1が第1の所定温度Tc1に一致する第1の時刻t1(i)を算出する。なお、図13中に、算出された第1の時刻t1(i)を経過時間の短い順にt1(1)〜t1(11)を付して表示した。ここで、第1の所定温度Tc1を25℃に設定し、第1実施形態と同様の近似法により第1の時刻t1(i)を算出した。
【0067】
次いで、第2の時刻算出部12bは、環境温度の時系列データD1が第2の所定温度Tc2に一致する第2の時刻t2(i)を算出する。算出された第2の時刻t2(i)を、図13中に、経過時間の順に第2の時刻t2(1)〜t2(2)を付して表示した。なお、第2の所定温度Tc2を24℃に設定し、第1の時刻の算出に用いたのと同様の近似(直線補完)を用いて第2の時刻t2(i)を算出した。
【0068】
図14の上部を参照して、第1の時刻算出部12aは、環境温度の平均温度が上昇する23日〜25日間の環境温度の時系列データD1を処理する際には、25℃に設定された第1の所定温度Tc1を、第1実施形態と同様に28℃に設定された第1の所定温度Tc1’に変更する。即ち、第1の所定温度Tc1’=28℃とする。そして、23日〜25日間の環境温度の時系列データD1が、第1の所定温度Tc1’=28℃と一致する第1の時刻t1’(i)を算出する。この算出方法は、図13に示す第1の時刻t1(i)の算出と同様してなされる。その結果、23日〜25日間で、図4に示す第1の時刻f1’(1)〜f1’(14)までの14時点が算出された。
【0069】
また、第2の時刻算出部12bは、23日〜25日間の環境温度の時系列データD1に対して、第2の所定温度Tc2’と交差する第2の時刻t2’(i)を算出する。この第2の所定温度Tc2’を27℃に設定したとき、2時点の第2の時刻t2’(1)〜t2’(2)が算出された。
【0070】
次いで、ステップS26で、第1及び第2の共振周波数算出部13a、13bは、それぞれ第1の時刻t1(i)、t2(i)における第1及び第2の共振周波数f1(i)、f2(i)を以下の手順により算出する。
【0071】
まず、図13を参照して、観測開始時から1日〜3日間の観測データの処理について説明する。
【0072】
図13の下部を参照して、第1の共振周波数算出部13aは、まず、記憶装置30から共振周波数の時系列データD2を読み出す。図13に、読み出された共振周波数の時系列データD2を、小径の塗り潰した円を結ぶ折れ線グラフで表示した。
【0073】
次いで、共振周波数の時系列データD2を用いて、第1の時刻t1(1)〜t1(11)における共振周波数(第1の共振周波数f1(1)〜f1(11))を第1の共振周波数f1として算出した。この第1の共振周波数f1(i)は、第1実施形態の第1の共振周波数f1(i)の算出と同様の近似と補完とにより算出した。即ち、共振周波数の時系列データD1が第1の時刻t1(i)を表す線(図13中の垂直の一点鎖線)と交差する点の共振周波数を算出する。
【0074】
図13に、算出された第1の共振周波数f1(1)〜f1(11)を白抜きの大径の円により表示し、その間を結ぶ折れ線グラフG1を表示した。この第1の共振周波数f1は、第1実施形態の第1の共振周波数f1(i)の算出と同様にして算出される。従って、この図13に示す第1の共振周波数f1(1)〜f1(11)および折れ線グラフG1、は図9に示す第1実施形態の第1の共振周波数f1(1)〜f1(11)および折れ線グラフG1と同じである。
【0075】
次いで、第2の共振周波数算出部13bは、記憶装置30から読み出された共振周波数の時系列データD2を用いて、第2の時刻t2(i)における共振周波数(f2(1)〜f2(2)を算出する。この第2の共振周波数f2(i)も、第1の共振周波数f1(i)と同様にして算出した。即ち、共振周波数の時系列データD1を表す折れ線グラフが、第2の時刻t2(i)を表す線(図13中の時刻t2(i)を通る垂直な一点鎖線)と交差する点の共振周波数を算出する。図13に、算出された第2の共振周波数f2(1)〜f2(2)を2重の四角形により表示し、その間を太い直線で結んで表示した。
【0076】
次に、図14を参照して、観測開始時から23日〜25日間の観測データの処理について説明する。
【0077】
図14の下部を参照して、第2の共振周波数算出部13bは、まず、記憶装置30から共振周波数の時系列データD2を読み出す。図14に読み出された共振周波数の時系列データD2を、小径の塗りつぶした円を結ぶ折れ線グラフで表示した。
【0078】
次いで、共振周波数の時系列データD2を用いて、第1の時刻t1’(1)〜t1’(14)における共振周波数(第1の共振周波数f1’(1)〜f1’(14))を第1の共振周波数f1’として算出した。この第1の共振周波数f1’(i)は、第1実施形態の第1の共振周波数f1(i)の算出と同様の近似と補完とにより算出される。即ち、共振周波数の時系列データD1が第1の時刻t1’(i)を表す線(図14中の垂直の一点鎖線)と交差する点の共振周波数を算出する。
【0079】
図14に、算出された第1の共振周波数f1’(1)〜f1’(14)を白抜きの大径の円により表示し、その間を結ぶ折れ線グラフG1を表示した。この第1の共振周波数f1’は、第1実施形態の第1の共振周波数f1の算出と同様にして算出される。従って、この図14に示す第1の共振周波数f1’(1)〜f1’(14)および折れ線グラフG1’は図10に示す第1実施形態の第1の共振周波数f1’(1)〜f1’(14)および折れ線グラフG1’と同じである。
【0080】
次いで、第2の共振周波数算出部13bは、記憶装置30から読み出された共振周波数の時系列データD2を用いて、第2の時刻t2’における共振周波数(f2’(1)〜f2’(2)を算出する。この第2の共振周波数f2’(i)も、第1の共振周波数f1’(i)と同様にして算出される。即ち、共振周波数の時系列データD2が第2の時刻t2’(i)を表す線(図14中の時刻t2’(i)を通る垂直な一点鎖線)と交差する点の共振周波数を算出する。図14に、算出された第2の共振周波数f2’(1)〜f2’(2)を2重の四角形により表示し、その間を太い直線で結んで表示した。
【0081】
次いで、ステップS27で、第1の微小変動域抽出部14aは、図13を参照して、互いに隣接する第1の時刻t1(i)およびt1(i+1)における第1の共振周波数f1(i)およびf1(i+1)を比較する。そして、その差分Δfが、予め設定された微小変動周波数の範囲内、例えば±1Hz以内であれば、第1の時刻t1(i)から次の第1の時刻t1(i+1)までの間を第1の微小変動域として抽出する。図13を参照して、かかる第1の微小変動域として、第1の共振周波数f1(1)〜f1(2)の間、第1の共振周波数f1(3)〜f1(6)の間、および第1の共振周波数f1(9)〜f1(10)の間が抽出された。本第2実施形態の振動子1は付着量の累積値を検知するセンサであるから、これらの第1の微小変動域は、付着量が増加しない、ないし付着量の増加速度が小さな時間帯であることを意味する。
【0082】
さらにステップS27では、第2の微小変動抽出部14bは、例えば観測開始から1日〜3日間の観測データに対して図13を参照して、互いに隣接する第2の時刻t2(i)およびt2(i+1)における第2の共振周波数f2(i)およびf2(i+1)を比較する。そして、その差分Δfが、予め設定された微小変動周波数の範囲内、例えば±1Hz以内であれば、第2の時刻t2(i)から次の第2の時刻t2(i+1)までの間を第2の微小変動域として抽出する。図13を参照して、第2の微小変動域として、第2の共振周波数f2(1)〜f2(2)の間が抽出された。
【0083】
同じくステップS27で、第1の微小変動域抽出部14aは、例えば観測開始から23日〜25日間の観測データに対して図14を参照して、互いに隣接する第1の時刻t1’(i)およびt1’(i+1)における第1の共振周波数f1’(i)およびf1’(i+1)を比較する。そして、その差分Δfが、微小変動周波数の範囲内であれば、その区間を第1の微小変動域として抽出する。図14を参照して、かかる微小変動域として、第1の共振周波数f1’(1)〜f1’(3)の間、第1の共振周波数f1’(8)〜f1’(9)の間、および第1の共振周波数f1’(12)〜f1’(13)の間が抽出された。
【0084】
さらにステップS27で、第2の微小変動抽出部14bは、図14を参照して、互いに隣接する第2の時刻t2’(i)およびt2’(i+1)における第2の共振周波数f2’(i)およびf2’(i+1)を比較する。そして、その差分Δfが、微小変動周波数の範囲内であれば、第2の時刻t2’(i)から次の第2の時刻t2’(i+1)までの間を第2の微小変動域として抽出する。図14を参照して、第2の微小変動域として、第2の共振周波数f2’(1)〜f2’(2)の間が抽出された。
【0085】
次いで、ステップS28で、補正係数算出部15は、第1の微小変動域と第2微小変動域とが重複する重複期間を抽出する。そして、重複期間における第1の共振周波数f1と第2の共振周波数f2との差分に基づき、以下に説明する手順で振動子1の温度補正係数κを算出する。
【0086】
補正係数算出部15は、図13および図14を参照して、まず、ステップS27で抽出された第1の微小変動領域と第2の微小変動領域とが重複する重複期間を検出する。
【0087】
具体的には、第1の微小変動域の各区間の両端の時刻と、第2の微小変動域の各区間の両端の時刻とを逐次照合し、第1および第2の微小変動域とが重なる重複期間を検出する。かかる重複期間は、例えば図13では時刻t2(1)〜t2(2)の区間、図14では時刻t2’(1)〜t2’(2)の区間として検出される。図13および図14では第2の微小変動域の全体が第1の微小変動域に含まれるが、これに限られず第1および第2の微小変動域の一部が重なる区間があればよい。
【0088】
次いで、補正係数算出部15は、第1および第2の微小変動領域が重なる区間(重複期間)における第1の共振周波数f1(またはf1’)と第2の共振周波数f2(またはf2’)との周波数差δf=f1−f2(またはf1’−f2’)を算出する。そして、温度補正係数κを、
κ=δf/ΔTc (1)
により算出する。ここで、ΔTcは第1の所定温度Tc1(またはTc1’)と第2の所定温度Tc2(またはTc2’)との温度差であり、ΔTc=Tc1−Tc2(または、ΔTc=Tc1’−Tc2’)である。
【0089】
上述したように、第1および第2の微小変動域は、いずれも被測定物質の付着速度が零ないし遅い区間であり、この区間では付着量は殆ど変動しない。即ち、重複期間における第1および第2の共振周波数f1、f2(またはf1’−f2’)は、同一付着量に対する共振周波数に対応している。振動子1の共振周波数は、温度と付着量に依存するから、この重複期間の第1および第2の共振周波数の差は測定時の環境温度の差、即ち第1の所定温度Tc1と第2の所定温度Tc2との違いに起因している。従って、1式に従い、この重複期間における第1および第2の共振周波数の差を、第1および第2の所定温度の差分で除することで温度補正係数κが算出される。
【0090】
図13を参照して、時刻t2(1)〜t2(2)間の重複期間では、図13中のf1(5)とf1(6)を結ぶ太い直線で表される第1の共振周波数f1の変動幅は−155Hzで一定であった。一方、f2(1)とf2(2)を結ぶ太い直線で表される第2の共振周波数f2の変動幅は−149Hzで一定であった。従って、δf=f1−f2=−6Hzと算出される。また、Tc1=25℃、Tc2=24℃であるから、δTc=Tc1−Tc2=1℃である。これから、1式を用いて、補正係数κ=−6Hz/℃が算出された。
【0091】
同様に、図14の時刻t2’(1)〜t2’(2)間の重複期間では、第1の共振周波数f1’は、図14中のf1’(12)とf1’(13)とを結ぶ太い直線で表され、その共振周波数の変動幅は−3241Hzであった。一方、図14中のf2’(1)とf2’(2)とを結ぶ太い直線で表される第2の共振周波数f2’の変動幅は−3234Hzであった。従って、δf=f1’−f2’=−7Hzと算出される。また、Tc1’=28℃、Tc2’=27℃であるから、ΔTc=Tc1’−Tc2’=1℃である。これから、1式を用いて、補正係数κ=−7Hz/℃と算出される。
【0092】
本第2実施形態では、観測開始から1〜3日目および23日〜25日のデータから算出された温度補正係数κ=6Hz/℃およびκ=7Hz/℃の平均値κ=6.5Hz/℃を温度補正係数として用い、1カ月の観測期間に測定された共振周波数の時系列データD2を補正した。この温度補正係数κ=6.5Hz/℃は、比較例における実測値の温度補正係数7Hz/℃と良く一致している。
【0093】
図14に、比較例の温度補正された共振周波数の時系列データを、二重丸(◎)で表示した。微小変動域(t1’(1)〜t1’(3)、t1’(8)〜t1’(9)、t1’(12)〜t1’(13))では、第1の所定温度Tc1’=28℃で測定された第1の共振周波数f11’(1)〜f1’(3)、f1’(8)〜f1’(9)、f1’(12)〜f1’(13)’は、この微小変動域の比較例の温度補正された共振周波数より18Hz〜20Hz低く、この3区間では平均18.6Hz低かった。この周波数の差18.6Hzは、第1共振周波ft1’が測定された第1の所定温度tc1’=28℃と比較例の補正温度25℃との温度差3℃に、第2実施形態で求めた温度補正係数κ=6.5Hz/℃を乗じた19・5Hzにほぼ一致している。これは、第2実施形態において、正確な温度補正係数κが求められたことを示している。
【0094】
上述したように、本第2実施形態によれば、微小変動域における第1および第2の共振周波数の差から、温度試験を行うことなく、振動子1の共振周波数の温度補正係数を算出することができる。
【0095】
ステップS28の後、ステップS29で、換算部17はステップS17と同様に、上述の温度補正係数κを用いて温度補正された振動子1の共振周波数の周波数変動量dfを、被測定物質の付着量に換算する
なお、微小変動周波数の大きさは、第1の所定温度Tc1と第2の所定温度Tc2との温度差に起因して生ずる共振周波数の周波数差Δfより十分小さく設定される。このように設定することで、第1の微小変動域内の共振周波数の変動を主として環境温度の変化に依存させ、付着量の変動の影響を小さくすることができる。このため、付着量の変動に起因する温度補正係数の誤差が小さくなる。
【0096】
上述の第2実施形態では、第1の所定温度Tc1’を28℃とし、第2の所定温度Tc2’を24℃に設定した。この第2の所定温度Tc2’に、さらに異なる温度の第2の所定温度Tc2”を追加することができる。
【0097】
図15は本発明の第2実施形態の変形例におけるデータ処理を説明する図であり、第2の実施形態に第2の所定温度Tc2”を追加してなされたデータ処理を説明している。
【0098】
図15を参照して、この変形例では、第2の所定温度Tc2”が設定され、環境温度の時系列データD1が第2の所定温度Tc2”(例えはTc2”=33℃)に一致する第2の時刻t2”(1)〜t2”(4)が算出される。この第2の時刻t2”(1)〜t2”(4)は、第2の共振周波数算出部13bにより、ステップS25の第2の時刻t2’(1)〜t2’(2)の算出と同様のデータ処理を用いて算出される。
【0099】
この変形例では、その他のデータ処理、例えば第1および第2の時刻t1’、t2’の算出、第1および第2の共振周波数f1’、f2’の算出、第1および第2の微小変動域の算出とその重複期間の算出は、第2の実施形態と同様にデータ処理される。以下、変形例について、主として第2の実施形態に追加される処理を説明する。
【0100】
変形例の第2の共振周波数算出部13bは、第2の時刻t2”(1)〜t2”(4)における第2の共振周波数f2”(1)〜f2”(4)を算出する。そして、変形例の第2の微小変動域抽出部14bは、隣接する第2の共振周波数を比較し、その周波数差が所与の微小変動周波数より小さな区間を第2の微小変動域として抽出する。これらの処理は、第2実施形態のステップS25〜S27と同様になされる。
【0101】
次いで、補正係数算出部15は、第2の共振周波数f2”(1)〜f2”(4)に基づき抽出された第2の微小変動域(図15中のf2”(3)〜f2”(4)の区間)と、第1の微小変動域とが重なる重複期間(図15中のt2”(3)〜t2”(4)の期間)を抽出する。この抽出はステップS27と同様になされる。
【0102】
ついで、補正係数算出部15は、抽出された重複期間t2”(3)〜t2”(4)における第1の共振周波数f1’(12)〜f1’(14)と、この重複期間t2”(3)〜t2”(4)における第2の共振周波数f2”(3)〜f2”(4)との周波数差δfを算出する。そして、温度補正係数κをκ=δf/ (Tc1’−Tc2”)により算出する。
【0103】
図15を参照して、重複期間t2”(3)〜t2”(4)における第1の共振周波数f1’の変動量は−3241Hz、第2の共振周波数f2”の変動量は−3278Hzであり、周波数差δfは、δf=f1’−f2”=37Hzと算出される。また、Tc1’=28℃、Tc2”=33℃から、(Tc1’−Tc2”)=−5℃と算出される。従って、温度補正係数κはκ=−7.4Hz/℃と算出される。この温度補正係数κ=−7.4Hz/℃は、比較例の温度補正係数κ=−7Hz/℃と良く一致している。
【0104】
本第2実施形態の変形例では、第2実施形態で求めた温度補正係数κ=−6Hz/℃、κ=−7Hz/℃およびこの変形例で求めた温度補正係数κ=−7.4Hz/℃の平均値−6.8Hz/℃を温度補正係数κとして用い、共振周波数の時系列データD2を温度補正した。
【0105】
上述した変形例によれば、第1の所定温度Tc1’より低温および高温の2つの第2の所定温度Tc2’、Tc2”が設定される。このため、環境温度が第1の所定温度Tc1’より高低いずれの側に変化しても第2の時刻が算出されるので、第2の時刻の数が多くなり、緻密なデータ処理が可能となる。また、第1の所定温度Tc1’と第2の所定温度Tc2”との温度差が5℃と大きいので、精密な温度補正係数κが求められる。
【0106】
本発明の第3実施形態は、付着物質が可逆的に付着する振動子1を用いた環境監視装置に関する。
【0107】
図16は本発明の第3実施形態の環境監視装置の機能構成図であり、本発明の第3実施形態の環境監視装置300が有する主な機能を表している。
【0108】
図16を参照して、本第3実施形態の環境監視装置300は、第1実施形態と同様に、環境温度および振動子1の共振周波数を測定する観測部20、記憶装置30、時刻発生部11、第1の時刻発生部12a、第1の共振周波数算出部13a、換算部17、および、出力部18を備える。これらは、振動子1を除き、第1実施形態と同様の機能を有し、同様に動作する。従って、説明の重複を避けるため、以下、とくに第1実施形態と異なる主な点について説明する。
【0109】
本第3実施形態の環境監視装置300は、さらに、第3の微小変動域抽出部14c、温度依存性検知部15cおよび温度補正部16cを有する。なお、本第3実施形態で用いられる振動子1は、被測定物質が可逆的に付着する、従って、被測定物質の環境中濃度に応じて共振周波数が可逆的に変化するものである。
【0110】
図17は本発明の第3実施形態の環境監視装置のフローチャートであり、プログラム10に従って実行される工程をあらわしている。
【0111】
図16および図17を参照して、ステップS41で、時刻発生部11は測定時刻を指示するパルスp1、p2を発生する。そして、ステップS42で、観測部20は、パルスp1、p2に同期して環境温度および振動子1の共振周波数を測定する。次いで、ステップS43で、測定された環境温度および共振周波数は、測定時刻と関連づけられた環境温度および共振周波数の時系列データD1、D2として記憶装置30に記憶される。ついで、ステップS44で、所定の観測期間が経過したか否かが評価され、否と判定されたときは再びステップS41から繰り返す。観測期間が終了したと判定されると、次のステップS45を実行する。
【0112】
これらステップS41〜S44の動作は、第1実施形態でのステップS11〜S14と同様である。従って、ステップS45の実行時には、全観測期間の環境温度および共振周波数の時系列データD1、D2が記憶されている。
【0113】
次いで、ステップS41〜S44とは別に、ステップS51で、第1の所定温度Tc1(図18参照)が設定される。さらに、ステップS45で、第1の時刻算出部12aは、第1の時刻t1を算出する。このステップS51、S45の工程は、第1実施形態のステップS18、S15と同様である。
【0114】
図18は本発明の第3実施形態におけるデータ処理を説明する図であり、図18上部に、観測期間の一部における、環境温度の時系列データD1を、図18下部に共振周波数の時系列データD2と温度補正された共振周波数の時系列データD’2を表した。
【0115】
図18上部を参照して、ステップS45で、第1の時刻算出部12aは、ます記憶装置30から環境温度の時系列データD1を読み出す。次いで、環境温度の時系列データD1を近似式、例えは折れ線グラフにより近似し、この近似式が第1の所定温度Tc1に一致する時刻t1(1)〜t1(4)を算出する。このステップS45は、第1実施形態のステップS15と同様である。
【0116】
ついでステップS46で、第1の共振周波数算出部13aは、記憶装置から読み出した共振周波数の時系列データD2を近似式、例えば折れ線グラフで近似する。そして、第1の時刻t1(1)〜t1(4)における近似式の値を、第1の共振周波数f1(1)〜f1(4)として算出する。算出された第1の共振周波数f1(1)〜f1(4)を、図18下部中に大径の白抜きの円(○)により示す。このステップS46の工程は、第1実施形態のステップS16と同様になされる。
【0117】
ついで、ステップS47で、第3の微小変動域抽出部14cは、互いに隣接する第1の共振周波数f1(1)〜f1(4)を比較し、その周波数差の絶対値が予め定めた微小変動周波数、例えば1Hzより小さい時間帯を、第3の微小変動域として抽出する。ここでは、図18下部中の大径の白抜きの円を参照して、共振周波数の差が1Hz以内となる第1の共振周波数f1(2)、f1(3)、f1(4)を含む区間、即ち第1の時刻t1(2)〜t1(4)の時間帯が第3の微小変動域として抽出された。このステップS47の抽出工程は、第2実施形態のステップS27における第1の微小変動領域の抽出方法と同様である。なお、上述の第3の微小変動域の抽出は、全観測期間についてなされ、多くの場合は複数の第3の微小変動域が抽出される。
【0118】
次いで、ステップS48で、温度依存性検知部15cは、一つの第3の微小変動領域を選択し、その第3の微小変動領域において観測される共振周波数が、環境温度の1次式に従うか否かを検知する。
【0119】
具体的に説明すると、初めに、図18上部を参照して、第3の微小変動領域内の任意の観測時刻to(i)を選定する。次いで、選択された観測時刻to(i)における環境温度Toを、環境温度の時系列データD1から抽出する。次いで、図18下部を参照して、共振周波数の時系列データD2から観測時刻to(i)で測定された共振周波数fo(i)を抽出する。
【0120】
次いで、共振周波数fo(i)と第3の微小変動領域内の第1の共振周波数、例えばf1(2)(=f1(3)=f1(4))との周波数差(fo(i)−f1(2))を求める。他方、観測時刻to(i)における環境温度To(i)と第1の所定温度Tc1との温度差(To(i)−Tc1)を求める。
【0121】
次いで、その比γ=周波数差(fo(i)−f1(2))/温度差(To(i)−Tc1)を、選択された第3の微小変動域内の全ての観測時刻to(i)について算出する。そして、その比γが、選択された第3の微小変動域の全域で一定ならば、共振周波数foは環境温度Tの一次式、
共振周波数fo=γT+定数 (2)
に従う温度依存性を有すると判定する。逆に、比γが一定でなければ、共振周波数foは、環境温度の他、被測定物質の濃度変動に影響されていると判定する。その判定の根拠は次の理由による。
【0122】
第3実施形態の共振子1の共振周波数は、一般に温度と被測定物質の濃度に線型に依存して変化する。第3の微小変動域では、第1の共振周波数f1(2)〜f1(4)は、全て同じ環境温度(第1の所定温度Tc1)の下で測定されており温度変動の影響を受けない。従って、第1の共振周波数f1(2)〜f1(4)が微小変動周波数以内で一致することは、これら第1の共振周波数f1(2)〜f1(4)が測定された第1の時刻t1(2)、t1(3)、t1(4)において被測定物質濃度が一定であることを示している。このことは、第3の微小変動域内で被測定物質濃度が一定であることを強く推定させる。
【0123】
この推定に基づき、被測定物質の濃度は第1の微小変動域内で一定であると仮定する。さらに、被測定物質の濃度が正確に環境温度に比例して変動することはないと仮定する。通常は環境中の被測定物質濃度が環境温度に比例して増減することは極めて稀であり、多くの場合はこの仮定が成立する。
【0124】
かかる2つの仮定のもとに、第3の微小変動域内で2式が成立するならば、その第3の微小変動域内での第1の共振周波数f1の変動は、2式で表されるように、環境温度の変化に追従する。なぜなら,第3の微小変動域内では被測定物質濃度の変動はないと仮定するからである。
【0125】
上述した理由により、多くの場合、2式が成立するとき、振動子1の共振周波数は、2式に従う温度依存性を有するとしてよい。ただし、被測定物質の濃度が第3の微小変動域内で正確に環境温度に比例して変動することはないとする仮定は、成立しない場合がある。たとえば、被測定物質の濃度が環境温度の一次式に従って変化する場合である。従って、上述の第1の微小変動域を時間間隔、例えは数日〜数週間の時間をおいて複数域抽出し、その複数の第1の微小変動域内で2式が成立することを確認することが好ましい。これにより、被測定物質の濃度が、一時期のみ環境温度の1次式に比例して変化することによる誤判定を回避することができる。
【0126】
さらに、上述した第3の微小変動域内の第1の共振周波数f1(例えばf1(2)、f1(3)、f1(4))が、被測定物質の濃度が零のときの共振周波数に等しい場合に限り、ステップS48の判定を行うようにしてもよい。通常、共振周波数から被測定物質濃度への換算係数の測定は、予め、被測定物質濃度と共振周波数との関係を第1の所定温度Tc1で測定してなされる。このため、被測定物質濃度が零に対応する共振周波数は予め知得される場合が多い。
【0127】
この場合、測定された共振周波数が、被測定物質濃度が零に対応する共振周波数よりも高周波側にずれるならば、そのずれは環境温度にのみ依存していると判定することができる。なぜなら、濃度は零以下、即ち負にはなり得ないから、測定された共振周波数が濃度変化によって上記知得された共振周波数を超えることはないからである。従って、第3の微小変動域内において測定された共振周波数が、被測定物質濃度が零に対応する共振周波数よりも高周波側にずれた区間があり、かつ、この区間を含めた第3の微小変動域について2式が成立する場合は、共振周波数は2式に従って変動していると解される。
【0128】
このように、第1の共振周波数が被測定物質濃度が零に対応する共振周波数に等しい区間を抽出することにより、被測定物質の濃度が環境温度の1次式に比例して変化する場合に生ずる誤判定を回避することができる。
【0129】
次いで、ステップS49で、温度補正部16cは、比γを温度補正係数γとして算出する。次いで、ステップS50で、全ての第3の微小変動域についてステップS48、S49を実行したか否かを判定し、否と判定したときはステップS52で、次の(測定時刻が遅い側の)第3の微小変動域を抽出して、再びステップS48、S49を繰り返す。全ての第3の微小領域についてステップS48、S49を実行したと判定されると、次のステップS53を実行する。
【0130】
次いで、ステップS53で、温度補正部16cは、比γを温度補正係数γとして用いて共振周波数数の時系列データD2を温度補正する。このとき、複数の第3の微小変動域で算出された比γの平均値を温度補正係数γとすることが、偶発的な誤差を回避ために好ましい。
【0131】
ここでは、第1の微小変動域内で、比κの平均値はκ=−6.5Hz/℃と算出された。図18下部の白抜きの3角形(△)は、温度補正後の共振周波数の時系列データD’2を表している。温度補正後の共振周波数の時系列データD2’は、第1の微小変動域内でほぼ一定値に補正されている。他方、その前後の時間帯、即ち第1の所定温度Tc1より高温となる時間帯では、温度補正後の共振周波数の時系列データD2’は、環境温度が高温になるにつれて、補正前の共振周波数の時系列データD2より周波数が増加する方向に補正されている。この補正係数の大きさおよび補正の方向は、この振動子1の予め測定された補正係数とよく一致した。
【0132】
本第3実施形態によれば、被測定物質の環境中濃度に比例して共振周波数が変動する振動子をセンサとする環境監視装置において、予め温度補正係数を求めることなく温度補正することができる環境監視装置が実現される。
【0133】
上述の第1〜第3実施形態の温度センサに代えて、温度依存性を有する振動子、例えばオフカットされたATカットの水晶振動子を、環境温度を測定するための温度センサ用振動子として用いることもできる。この振動子は,温度と共振周波数との関係が知られていなくても差し支えない。
【0134】
振動子の使用温度範囲においては、通常は環境温度に比例して(温度の一次式に従って)共振周波数が変化する。従って、温度センサ用振動子の共振周波数を環境温度の指標とすることができる。即ち、温度に代えて、温度センサ用振動子の共振周波数を用いることができる。しかし、温度の絶対値は知ることができない。
【0135】
温度センサ用振動子を温度センサとして用いる場合、温度に代えて、温度センサ用振動子の共振周波数を用いる。具体的には、第1および第2の所定温度に代えて、任意に選定された2つの共振周波数を設定する。この共振周波数は第1および第2の所定温度に厳密に対応する共振周波数である必要はなく、第1および第2の所定温度のときにおおよそ予想され得る範囲内の周波数として、共振周波数を定めれば足りる。このように、環境温度を含む全ての温度を共振周波数に置き換え、第1〜第3実施形態と同様に温度補正係数κ’を算出する。
【0136】
この方法によると、温度補正係数κ’の単位は無次元(Hz×Hz-1)であり、Hz×℃-1を単位とする温度補正係数κは算出されない。しかし、上述した第1〜第3実施形態において、被測定物質の付着量δWは、
δW=α×((f−fo)−κ×(T−To)) (3)
として換算される。ここで、αは周波数差を付着量に換算する換算係数、fは任意の時刻tにおける振動子1の共振周波数f、foは観測開始時点における振動子1の共振周波数、Tは時刻tにおける環境温度およびToは観測開始時点における環境温度である。
【0137】
3式の温度を表す項TおよびToを、それぞれ時刻tにおける温度センサ用振動子の共振周波数Fおよび観測開始時点における温度センサ用振動子の共振周波数Foで置き換える。これより、3式は
δW=α×((f−fo)−κ’×(F−Fo)) (4)
と変形される。そして、4式から、温度センサ用共振子の共振周波数差(F−Fo)に基づき、正確な付着量が算出される。なお、本方法によっては、温度の絶対値および温度差は知得されない。しかし、付着量は算出されるので環境監視装置としてとくに問題にはならない。
【0138】
このように、環境温度を共振子の共振周波数の変化としてデジタル回路で測定する温度センサ用振動子を用いることで、回路の精密な調整を要するアナログ回路からなる温度センサに比べ、より製造コストを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明を腐食物質または有機ガスの環境中濃度を監視する環境監視装置に適用すると、予め温度補正をする必要がないので、低価格の環境監視装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0140】
1 振動子
2 温度センサ
10 プログラム
11 時刻発生部
12a 第1の時刻算出部
12b 第2の時刻算出部
13a 第1の共振周波数算出部
13b 第2の共振周波数算出部
14a 第1の微小変動域抽出部
14b 第2の微小変動域抽出部
14c 第3の微小変動域抽出部
15 補正係数算出部
15c 温度依存性検知部
16、16c 温度補正部
17 換算部
18 出力部
41 出力装置
20 観測部
21 共振周波数測定器
22 温度測定回路
30 記憶装置
100、200、300 環境監視装置
110 メモリ
111 バス
120 CPU
f1(i)、f1’(i) 第1の共振周波数
f2(i)、f2’(i)、f2”(i) 第2の共振周波数
t1(i)、t1’(i) 第1の時刻
t2(i)、t2’(i)、t2”(i) 第2の時刻
Tc1、Tc1’ 第1の所定温度
Tc2,Tc2’、Tc2” 第2の所定温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物質の付着により共振周波数が変化する振動子と、
複数の測定時刻を含む第1の測定時刻で前記共振周波数を測定する共振周波数測定器と、
複数の測定時刻を含む第2の測定時刻で環境温度を測定する温度センサと、
測定された前記共振周波数を、前記第1の測定時刻と関連づけた共振周波数の時系列データとして記憶し、かつ、測定された前記環境温度を、前記第2の測定時刻と関連づけた環境温度の時系列データとして記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶された前記環境温度の時系列データから、前記環境温度が第1の所定温度になった第1の時刻を算出する第1の時刻算出部と、
前記記憶装置に記憶された前記共振周波数の時系列データから、前記第1の時刻の共振周波数を第1の共振周波数として算出する第1の共振周波数算出部と、
前記第1の時刻の第1の共振周波数を被測定物質の付着量へ換算する換算部と、
を有することを特徴とする環境監視装置。
【請求項2】
前記振動子は、環境中の被測定物質が非可逆的に累積して付着する振動子からなり、
算出された前記第1の共振周波数の時間変動が所与の微小変動周波数より小さい期間を第1の微小変動域として抽出する第1の微小変動域抽出部と、
前記記憶装置に記憶された前記環境温度の時系列データから、前記環境温度が前記第1の所定温度と異なる第2の所定温度になった第2の時刻を算出する第2の時刻算出部と、
前記記憶装置に記憶された前記共振周波数の時系列データから、前記第2の時刻の共振周波数を第2の共振周波数として算出する第2の共振周波数算出部と,
算出された前記第2の共振周波数の時間変動が所与の前記微小変動周波数より小さい期間を第2の微小変動域として抽出する第2の微小変動域抽出部と、
前記第1及び第2の微小変動域が重畳する重複期間における前記第1及び第2の共振周波数の差を前記第1及び第2の所定温度の差で除した温度補正係数を算出する補正係数算出部と、
前記温度補正係数を用いて前記共振周波数の時系列データを温度補正する温度補正部と、
を有することを特徴とする請求項1記載の環境監視装置。
【請求項3】
前記振動子は、環境中の被測定物質の濃度に比例して共振周波数が変動する振動子からなり、
前記記憶装置に記憶された前記共振周波数の時系列データから、互いに隣接する前記第1の測定時刻における前記第1の共振周波数の差が、所与の微小変動周波数より小さい期間を第3の微小変動域として抽出する第3の微小変動域抽出部と、
前記第3の微小変動域の前記共振周波数foが、前記環境温度Tの一次式
fo=γT+定数
に従って変動するか否かを判定する温度依存性検知部と、
前記一次式に従って変動すると判定されたとき、前記一次式の比例係数γを補正係数として用いて、前記共振周波数の時系列データを温度補正する温度補正部と、
を有することを特徴とする請求項1記載の環境監視装置。
【請求項4】
複数の観測期間中に観測された前記共振周波数の時系列データおよび前記環境温度の時系列データから算出された前記補正係数の平均値を、補正係数として用いることを特徴とする請求項2又は3記載の環境監視装置。
【請求項5】
所与の観測期間中に観測された前記環境温度の時系列データの平均温度を、前記第1の所定温度とすることを特徴とする請求項1〜3記載の環境監視装置。
【請求項6】
前記温度センサに代えて、環境温度に対応して共振周波数が変化する第2の振動子を用い、
測定された前記環境温度に代えて、前記環境温度に対応する前記第2の振動子の共振周波数を用い、
前記第1の所定温度に代えて、所与の該1の所定周波数とした、
ことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の環境監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−202766(P2012−202766A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66278(P2011−66278)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)