説明

生体信号測定装置

【課題】生体の複雑な動きに追従して生体信号を正確に検出し、配線に起因する信号の検出不良及び伝送不良を減少し、配線に起因する拘束感がほとんど無く、長時間の装着において不快感が少ないワイヤーを用いた生体信号測定装置を提供すること。
【解決手段】生体信号を検出する検知部および該検知部からの信号を伝送する配線を少なくとも含み、該配線が10%以上の伸縮性を有し、伸縮に伴う電気抵抗変化が10%未満であることを特徴とする生体信号測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活動状態において安定した信号を検出でき、長時間の装着において不快感が少ない生体信号測定装置に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
生体信号の代表的な物には、心電、筋電、脳波、脈波、血圧および体温などがある。
これらの信号は、安静状態において測定されることが一般的である。しかし、近年、活動状態で長時間、生体信号を測定し活用しようとする研究が、様々な分野で活発に行なわれている。
【0003】
例えば、心臓疾患のある患者の心電を日常生活中下でモニターして治療に役立てようとするもの、および心電の変化より心拍パターンを解析し、交換神経および副交感神経の活動状態を知ることでストレスやうつ病の治療に役立てようとするもの、などがある。
一方、筋肉の疲労状態に係わる筋電位の変化を知ることにより、労働災害を防ごうとする研究や、様々な部位の筋肉の伸縮を測定してアシストスーツ、リハビリグローブ、筋電義手および筋電義足を作動させようとする試み等がある。
【0004】
また、在宅介護の現場では、足のむくみ、手足の指先温度、血圧および血中酸素濃度などを検出し患者の状態を遠隔地からモニターする研究がなされている。他には、脳波やこめかみの動きから、眠気を計測したり、手足を用いずに他の機器を遠隔操作しようとする試みもある。
これらは、いずれも生体信号を検出する検出部位で検出された信号を演算子へ送り、データ処理して活用される。
【0005】
生体信号を測定し活用するために、安定した信号を測定すること、および被測定者の負担が少ないこと、が求められ、通常は安静下で測定される。生体信号を活動状態下で、長時間の測定を行なうためには、信号の安定性及び被測定者の負担の点で、様々な問題が発生する。その代表的なものを以下に列記する。
1)安定した信号の検出を阻害する要因。
(1)活動時に検出部がずれる、または、外れる。
(2)皮膚表面のすれやこすれに伴うノイズ信号の発生。
(3)変形に伴う配線の断線。
2)被測定者の負担が大きくなる要因。
(1)配線のつっぱりによる拘束感。
(2)装着部の強固な接着による異物感。
(3)局部的な重量物装着による違和感。
【0006】
これらを解決するために、電極の改良(特許文献1〜3参照)、接着方法の改良(特許文献4および5参照)および装着方法の改良(特許文献6および7参照)等が数多くなされている。
しかし、配線の問題は依然として解決されておらず、配線の問題を回避するために、ワイヤレス化を行なう提案(特許文献8参照)がなされている。
ワイヤレス化は理想的に見えるが、1つの部品の中に信号検出部、電源および発信装置を備えつける必要があり、大きくかつ重くならざるを得ず、強い接着力のある部材を用いる必要がある。また、複数の位置の電位を相対的に測定する場合には適さない。このため、配線を用いて、前述の問題を解決したいという要請は強いものがある。
【0007】
配線に関する技術は、フェライトコアを具備するもの(特許文献8参照)、分岐部により複数本のコードを中継するもの(特許文献9参照)、および複数の電極と夫々接続されるリード線を密に撚り、磁界中に置くことにより外部磁界の影響を排除するもの(特許文献10参照)などがあるが、伸縮性に関するものは無い。一方伸縮性の基材にペースト状の導電性物質を蛇行形状にプリントし、電極内部の配線として用いる技術が開示されている(特許文献11参照)。しかし本発明者らの知見によると、当該技術は大きな変形を伴う場合導電物質間の接触状態が変化して抵抗値が変動しやすく、さらに、繰り返し伸縮によって断線しやすい。このため、電極と外部を結ぶ「配線」としては適さないものと推定される。
【0008】
【特許文献1】特開2008−200365号公報
【特許文献2】特開2006−280735号公報
【特許文献3】特許第3893561号公報
【特許文献4】特開2008−6096号公報
【特許文献5】特許第3623124号公報
【特許文献6】特開2006−110180号公報
【特許文献7】特開2007−89676号公報
【特許文献8】特開2002−125943号公報
【特許文献9】特開平11−1788号公報
【特許文献10】特許第3586785号公報
【特許文献11】特許第3923861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ワイヤーを用いた生体信号測定装置において、生体の複雑な動きに追従して生体信号を正確に検出し、配線に起因する信号の検出不良及び伝送不良(検出部のずれ又ははずれ、配線の断線)を減少し、配線に起因する拘束感(つっぱり)がほとんど無く、活動状態において安定した信号を検出でき、長時間の装着において不快感が少ない生体信号測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、配線に起因する検出不良及び伝送不良が無く、配線に起因する拘束感(つっぱり感)がほとんど無く、活動状態において安定した信号を検出でき、長時間の装着において不快感が少ない生体信号測定装置を得るために鋭意検討した結果、生体信号を検出する検知部および該検知部からの信号を伝送する配線を少なくとも含む生体信号測定装置において、当該配線として、10%以上の伸縮性を有し、伸縮に伴う電気抵抗変化が10%未満である配線を用いることにより達成できることを見出し本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明は下記の発明を提供する。
(1)生体信号を検出する検知部および該検知部からの信号を伝送する配線を少なくとも含み、該配線が10%以上の伸縮性を有し、伸縮に伴う電気抵抗変化が10%未満であることを特徴とする生体信号測定装置。
(2)配線が、導体細線を1本以上集合した集合線を含み、伸張方行に対し配線長さの1.2倍以上の長さを有していることを特徴とする上記1項に記載の生体信号測定装置。
(3)集合線が弾性長繊維の周囲に配置されていることを特徴とする上記2項に記載の生体信号測定装置。
(4)装着部材をさらに含み、該装着部材が装着部伸張方向に10%以上の伸縮性を有することを特徴とする上記1〜3項のいずれか一項に記載の生体信号測定装置。
(5)装着部伸張方向に沿って、10%以上の伸縮性を有する配線が配置されていることを特徴とする上記4項に記載の生体信号測定装置。
(6)装着部材の10%伸張応力Aと配線の10%伸張応力Bが下記式を満足することを特徴とする上記4または5項に記載の生体信号測定装置。
1/100<A/B<100
(7)配線の20%伸張時荷重が500cN以下であることを特徴とする上記1〜6項のいずれか一項に記載の生体信号測定装置。
(8)配線がシールドされていることを特徴とする上記1〜7項のいずれか一項に記載の生体信号測定装置。
(9)配線の弛緩状態における電気抵抗が100Ω/m以下であることを特徴とする上記1〜8項のいずれか一項に記載の生体信号測定装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の生体信号測定装置は、配線に起因する信号の検出不良及び伝送不良(検出部のずれ又ははずれ、配線の断線)が無く、配線に起因する拘束感(つっぱり)が感じられず、活動状態において安定した信号を検出でき、長時間の装着において不快感が少ない生体信号測定装置である。
例えば、非常に小さな応力で、高い伸縮性を有し、生体の細かな複雑な動きにたいして充分な伸縮追従性を有する。また、繰返し伸縮動作に対しても、検出精度の低下が軽微である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明について、以下具体的に説明する。
図1は本発明の生体信号測定装置の一例であるが、本発明の生体信号測定装置は、生体信号を検出する検知部(1)および該検知部からの信号を伝送する配線(3)を少なくとも含み、生体に装着される。検知部および配線以外に、検知部からの信号を処理するデバイス(2)および生体に装着させるための装着部材(4)を含むことが好ましい。
【0014】
生体信号測定装置にとって、検知部からの信号を処理するデバイスは必ず必要であるが、これは必ずしも生体に装着されている必要はない。配線の一端は検知部に接続され、他端は検知部からの信号を処理するデバイスに接続されるが、検知部からの信号を処理するデバイスが生体に装着されず、例えば机上に置かれている場合は、配線の一端にコネクターを設けておき、コネクターと信号処理デバイス間を別の信号伝送線で接続すればよい。
【0015】
生体信号を検出する検知部は、最も代表的なものとして生体用の電極がある。電極以外には、振動検出デバイスや、赤外線酸素濃度検出装置などがある。本発明の生体信号測定装置は、検知部で検出された生体信号を電気信号に変換し、配線により信号を処理するデバイスへ伝送される装置であればどのような生体信号測定装置にも適応される。
【0016】
検知部として電極を用いた例についてさらに詳述する。
生体用電極は、最も汎用的なものとしてAg/AgCl電極がある。他にはカーボンを用いたものや、チタンを用いたものなどが知られている。微弱な電位を検出する場合は、静止電極電位の安定したAg/AgCl系が推奨される。
生体への電極の接続を安定させるために、電極は通常粘着性電解質膜を介して生体へ接続される。粘着性電解質膜としては、アクリル系樹脂架橋材に水、多価アルコールおよび電解質中性塩類を均一に含有させたものが例示される。
【0017】
電極を生体へ接続させる部材には、主として、接着性の材料を有する部材および電極を生体に圧接するために柔軟な支持体を有する部材等がある。
接着力の強い材料を用いると、装着時または、脱着時に苦痛を感じることが多いため、苦痛を伴わない着脱が可能な接着力を持つ材料が好ましい。柔軟な支持体だけで圧接する場合は、強い力で圧接すると強い拘束感が生まれ長時間の装着には適さない。一方緩やかな力で圧接する場合は、活動に伴う被装着部の変形により検知部がずれることがある。
違和感なく着脱可能な接着性を有する部材と、柔軟な支持体による圧接を併用するものが好ましい。
【0018】
検知部からの信号を処理するデバイスとしては、メモリー部、演算部、表示部および送信部などがある。ノイズ信号を除去するためのハイパスフィルタとロウパスフィルターを具備していても良い。なお、これらのデバイスに加え、電源部を具備していても良い。
検出された信号は演算子へ送られデータ処理されて活用される。信号が直接演算子へ送られデータ処理され表示されるケース、データを一旦メモリーにストックしメモリーを介して表示装置に表示されるケース、同じくメモリーを介して他の演算子へ送られデータ処理されるケース、あるいは無線発信器を経由して演算子へ伝送されるケース等がある。
なお、本発明では電子部品に類するものをデバイスと呼び、布帛、ベルトなど電子部品を含まない構造体を部材と呼ぶ。
【0019】
配線は検知部および/または検知部からの信号を処理するデバイスと一体となっていても、それぞれがセパレートされていても良い。
配線は10%以上の伸縮性があることが必須である。これ未満の場合、伸縮性を有していても、生体の皮膚表面の変形に追随できず、拘束感を緩和する効果が乏しい。好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である。
なお、ここで言う伸縮性とは、所定の伸張率で伸張したのち弛緩し、回復率が50%以上である場合をいう。即ち、例えば1mの配線を1.1mまで伸張した後、弛緩した場合に、配線の長さが1.05m以下になっていれば、10%の伸縮性があることになる。
【0020】
検知部等を被装着部へ装着するにあたり、検知部と検知部からの信号を処理するデバイスとの距離が活動により変化するため、変化時の最大長さ以上の配線を装着する必要が生じる。このため、変化時の最小距離においては、配線がたるみじゃまになる。
また、伸縮性のある支持体へあらかじめ配線を組み込んだ場合であっても、配線に伸縮性がないため、支持体の伸縮性が阻害される。
【0021】
配線の伸縮性を10%以上とすることで、配線を生体に沿わせて配置することができ柔軟な支持体の伸縮性も阻害しなくなる。伸縮性が阻害されると、皮膚と配線の接触力が極端に変化することがあり、この変化に対して生体が反応して、ノイズ信号が発生する。
従って、良好な伸縮性を保持しつつ、生体へ装着することは、被装着者の快適性の観点のみならず、ノイズ信号の発生を抑制するという効果もあり、装着性と安定性を両立する極めて重要な技術である。
【0022】
配線は伸縮に伴なう電気抵抗の変化が10%未満であることが必須である。生体信号は概して微弱であり、配線が伸縮することにより電気抵抗値が変化すると、生体信号は乱れ、正しく測定することができない。
電気伝導物質をプリントなどで配置した配線は、静止状態では安定した伝送性を発揮できるが、変形を伴う場合電気抵抗が変化しやすく、断線しやすいという欠点がある。
このため、配線は導体線からなることが好ましい。さらに好ましくは、導体細線を1本以上集合した集合線である。導体細線の集合線とすることで、屈曲性が向上し断線しにくくなる。さらに、配線が柔らかくなり、装着性も向上するという利点がある。
【0023】
配線の伸張荷重は小さい方が好ましい。20%伸張時の荷重が500cN以下であることが好ましい。さらに好ましくは200cN以下、特に好ましくは100cN以下である。500cNを超える場合は、伸縮に及ぼす力が大きくなり、大きな変形を伴う部分に用いた場合には、動きの自由度が阻害されていると感じることがある。
【0024】
生体信号は微弱な電流であるため、電気抵抗が小さい配線を用いることが好ましい。好ましくは弛緩状態で100Ω/m以下、より好ましくは10Ω/m以下、さらに好ましくは1Ω/m以下である。
【0025】
上述の特性を有する配線の製造方法について、以下に説明する。
配線に伸縮性を付与するには、伸縮性のある編み組織の中に導体線を編み込むことや、あらかじめ、弾性を有する長繊維の周囲に導体線を配置し伸縮性を付与する方法等がある。
伸縮性の配線は、あらかじめ伸縮性を付与した導体線を編み組織に編み込むこと、伸縮性のある織り組織の中に織り込むこと、または、伸縮性のある組織に貼り付けることなどによって得ることができる。
【0026】
細くて、伸縮性に富んだ配線を得るためには、弾性長繊維の周囲に弾性長繊維の長さの1.2倍以上の長さを有する導体線を配置したものが推奨される。
さらに好ましくは、弾性長繊維を芯部として、該芯部を1倍以上に伸張し、その周囲に導体線を捲回し、その外周を絶縁性繊維または弾性樹脂で被覆したもの、または、弾性長繊維の周囲に絶縁性繊維を配置し、その周囲に導体線を捲回し、その外周を絶縁性繊維または弾性樹脂で被覆したもの、または、弾性長繊維と、導体線を交互に編み組み、その外周を絶縁性繊維または、弾性樹脂で被覆することにより得ることができる。
弾性長繊維への捲回にあたっては、長さ方向にピッチ間隔の変動が少ないように捲回することが好ましい。
【0027】
再外層の被覆は、生体からの汗の進入を防ぐため、弾性樹脂を用いることが推奨される。弾性樹脂は、単独では、いわゆるゴムチューブを形成することができるものであればいずれを用いることもできる。
ゴムチューブ形成工程中で連続的に弾性樹脂で外部を被覆することも、いわゆるバッチ処理として、数m単位のゴムチューブを用いて、短距離毎に被覆することもできる。
ゴムチューブが形成される樹脂は天然ゴム、合成ゴム、などを用いることができる。合成ゴム系では、シリコンゴムや、フッ素ゴム、等を例示することができるが、これに限定されるものではない。 伸縮性に富む点よりシリコンゴムが推奨される。
【0028】
本発明で用いる弾性長繊維は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでも良い。弾性長繊維の伸度は20%以上、好ましくは50%、さらに好ましくは100%以上、特に好ましくは300%以上で伸縮性に富むものが好ましく、ポリマーの種類は特に限定されない。例えば、ポリウレタン系弾性長繊維、ポリオレフィンン系弾性長繊維、ポリエステル系弾性長繊維、ポリアミド系弾性長繊維、天然ゴム系弾性長繊維、合成ゴム系弾性長繊維および天然ゴムと合成ゴムの複合ゴム系弾性長繊維等をあげることができる。
【0029】
ポリウレタン系弾性長繊維は、伸びが大きく、耐久性にもすぐれ、本発明の弾性長繊維として好適である。
天然ゴム系長繊維は、断面積あたりの応力が他の弾性長繊維に対比して小さく、伸縮性を発現しやすい。しかし、劣化しやすいため、長期にわたり伸縮性を保持することが難しい。従って、短期の使用を目的とする場合(例えばデスポタイプ)に好適である。
合成ゴム系弾性長繊維としては、シリコン系ゴムからなる糸状体や、フッ素系ゴムからなる糸状体を挙げることができる。シリコン系ゴムからなる糸状体は、伸縮性に富み、耐久性に優れ好適である。フッ素系ゴムは、伸縮性が乏しいが伝送性及び耐久性に優れるという特徴を有しており、伸びの少ない部位に用いる場合に好適である。
【0030】
本発明で用いられる導体線は、導電性のよい金属からなる導体細線の集合線であることが好ましい。
導電性の良い物質とは比抵抗が1×10-4Ω・cm以下の電気伝導体を言う。 特に好ましくは1×10-5Ω・cm以下の金属を言う。具体的な例としては、所謂銅(比抵抗が0.2×10-5Ω・cm)アルミ(比抵抗が0.3×10-5Ω・cm)などを挙げることができる。
【0031】
銅線は、比較的安価で電気抵抗が低く細線化も容易で、最も好ましい。アルミニウム線は軽量であるから、銅線に続いて好ましい。銅線は軟銅線または錫銅合金線が一般的であるが、強力を高めた強力銅合金(例えば、無酸素銅に鉄、燐およびインジウム等を添加したもの)、錫、金、銀または白金などでメッキして酸化を防止したもの、電気信号の伝送特性を向上させるために金その他の元素で表面処理したものなどを用いることもできるが、これに限定されるものではない。
【0032】
生体信号は微弱なものが多く、ノイズの影響を受けることがある。この影響を少なくするために、配線がシールドを有しているものが好ましい。しかし、10%以上の伸縮性が無い場合は、上記装着性が満足されないため、シールドされていても、10%以上の伸縮性を有していなければならないことはいうまでもない。
シールドは、配線を構成する導体線の外側に配置される導電性物質によって、外部からの電磁波の浸入を防ぐまたは、内部からの電磁波の漏洩を防ぐ目的で用いられる。
その方法は、導体によりアースまたは、反射する方法と磁性体により吸収する方法、または、これらを複合した方法がある。
【0033】
導体によりアースまたは、反射する方法としては、中心導体の外周(絶縁物質を介在する)に、例えば、銅線、アルミ線などの導体細線や、銀メッキ繊維などの導電性繊維を捲回または編組することにより得ることができる。また、アルミ箔や、銅箔、銀メッキテープなどのテープ状物質を捲回することにより得ることもできる。また、磁性体を用いる方法としては、磁性紛体(例えばフェライト)を練り込んだ繊維を配置する方法、磁性紛体を塗布したテープを捲回する方法。磁性粉体を練り込んだ、ゴムチューブにより被覆する方法等を例示することができる。
【0034】
本発明の生体信号測定装置は生体に装着するための少なくとも1つの装着部材と一体化されていることが好ましい。装着部材は周方向または装着部材伸張方向に10%以上の伸縮性を持つ部材であることが好ましい。
この装着部材によって、検知部、信号処理デバイス、配線、さらには他のデバイスを生体に装着することにより、活動時の生体外周距離の変形に追随することができ、検知部、信号処理デバイス、配線、さらには他のデバイスがすれたり、はずれたりすることが抑制され、安定した信号を検出でき、かつ、装着に伴う不快感を減少することができる。
【0035】
形体は特に限定されないが、伸縮性がある筒状またはベルト状部を有することが好ましい。伸縮性のある筒状体またはベルト状体を用いることで、検知部を被検知部に圧接させることが容易にできる。
伸縮性は10%以上が好ましい。これ未満の場合は、着脱が困難であったり、装着時に、強い拘束感を感じるか、または、検知部の接触不良が発生する。好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である。
【0036】
伸縮性のある筒状部は、弾性繊維を含んで筒編みすることで得ることができる。弾性繊維を含んだ織物を切断し縫製することによっても得ることができる。
弾性長繊維としては、ポリウレタン系弾性長繊維または、天然ゴム系弾性長繊維が広く行き渡っており、好ましく用いられる。
弾性長繊維は、いわゆるベア(裸)で用いることも、カバーリング糸(あらかじめナイロン繊維やポリエステル繊維でカバーリングした糸)を用いることもできる。
【0037】
また、周方向の一部に伸縮性の生地を配置し、両端を長さが調整できるようにフックやマジックテープ(登録商標)を取り付けたベルト状物とすることもできる。この場合も周方向に10%以上の伸縮性があることが重要である。腰部に巻きつけるベルトや、腕や足に装着するベルトや、胸や頭皮に装着するベルト状物とすることもできる。
【0038】
他の形体としては、所謂パンテーストッキングやシームレスインナーの形状とすることも、腹巻のような形状とすることも、水着やボデースーツのような形状とすることも、サポーターベルトのような形体にすることも、所謂ブラジャーの形体にすることも、全身ストッキングの形体にすることもできる。
いずれの場合も、周方向または装着部位の伸張方向に対して10%以上の伸縮性があることが好ましい。
【0039】
生体に配線を配置するにあたり、生体の伸張方向に対して伸縮性が発現するように伸縮性のある配線を配置することが好ましい。
配線と装着部材の伸縮性が近いことが好ましい。より具体的には、装着部材の伸縮性配線に隣接する部分の単位断面積あたりの伸張応力(A(cN/mm2))と配置される伸縮性配線の伸張応力(B(cN/mm2))とが、10%伸張時 1/100<A/B<100であることが好ましい。より好ましくは、1/50<A/B<10である。さらに好ましくは 1/10<A/B<1である。伸張10%〜20%の間で1/50<A/B<10である。特に好ましくは伸張10%〜30%の範囲で1/50<A/B<10である。最も好ましくは10%〜30%の範囲で、1/10<A/B<1である。配線の伸縮性と装着材料の伸縮性が近いことにより、生体の変形に従って、連続的接圧変化で装着部材が変形し、配線によるごわごわ感を発現することがなくなる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明を実施例および比較例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
本発明で用いた評価方法は以下の通りである。
(1)伸縮性
把持長100mmで、試料をテンシロン万能試験機((株)エーアンドディ社製)にて引張り速度200mm/minで引張り、所定伸張率(10%刻み)で伸張後リターンし、応力がゼロになる距離(Amm(伸張ゼロの位置から当該位置までの距離))を求め次式により回復率を求める。
回復率(%)=((100−A)/100)×100
当該回復率が50%以上である最大伸張率を伸縮性とした。
【0041】
(2)配線の伸張荷重および伸張応力
標準状態(温度20℃、相対湿度65%)に試料を2時間以上静置したのち、テンシロン万能試験機((株)エーアンドディ社製)を用い、標準状態下で配線を、把持長100mm、引張り速度200mm/minで引張り、所定の伸張時の荷重(Tx)を求める。
別途、配線の外径を3箇所ノギスで測定し、断面積Sbを求める。
次式より配線の所定伸張時の単位断面積当りの伸張応力Bを求める。
B=Tx/Sb (cN/mm2
【0042】
(3)信号検出性
3−1)試験方法
被験者に、デスポーザブル電極2個を左腕上腕2頭筋に3cm間隔で取り付ける。同じくデスポーザブル電極を左手首に取り付ける。各々の電極に、伸縮性伝送線からなる配線(試料)のクリップを取り付け、立位で、ひじを直角に曲げた状態で、配線がたるまないように絆創膏で、前腕、肘、上腕、肩および腰の5箇所を固定する。この後、前腕部と上腕部は、伸縮性のある円筒ガーゼを取り付け、腰部には腹巻を取り付け配線がずれないようにする。この上から長袖の運動着を着用し、装着後、歩行時、ジョギング後について評価した。
(1)装着時:腰部にそろえた3本の配線をポリグラフ360(日本電気株式会社製)に接続し、左手でグーパーを行い、生体信号を検出する。
(2)歩行時:歩行器の上で歩行をしながら左手でグーパーを行い、生体信号を検出する。
(3)ジョギング後:歩行評価後、ポリグラフとの接続を一旦切り離し、屋外にて30分間のジョギングを行なった後、ポリグラフに再度接続し、左手でグーパーを行い、生体信号を検出する。
【0043】
3−2)信号検出性
左手でグーパーを5回行い、最大信号Vsを求める。さらに、グーパーを行なわずに、5秒間信号を採取し、この間に発生した信号の最大値をVnとする。信号検出性を下記基準で評価した。
○:Vs/Vn≧1.5
△:1.5>Vs/Vn≧1.1
×:1.1>Vs/Vn または、検出できない。
【0044】
3−3)信号検出性の総合評価
信号検出性の総合評価を下記基準で行った。
総合評価 :センサー位置 信号検出性
◎ : ずれ無し 且つ 全て○
○ : ずれ無し 且つ △が1個、残りは○
△ : ずれ無し 且つ △が2個以上 残りは○
× : ずれがある または ×が1個以上
【0045】
(4)装着性
上記(3)評価時に、被験者へインタビューを行い、次の3点で評価した。
1)突っ張り感 :配線が動きをじゃまする感じがあるか否か。
2)違和感 :検知部または配線に違和感を感じるか否か。
3)長時間装着不快感:30分のジョギングで、検知部、配線および装着部材のいずれかに不快と感じるか否か。
【0046】
(5)電気抵抗
5−1)弛緩時の電気抵抗値
弛緩した状態で1mとした配線の両端をミリオームテスター(HIOKI8630)にて電気抵抗値を測定した。
5−2)伸縮に伴う抵抗変化率
机上で、配線を直径2cmのバーを介して折り返し、所定量伸長した後、ビニールテープで固定し、配線の両端をミリオームテスターにて電気抵抗値を測定し、下記式により抵抗変化率を求めた。
電気抵抗変化率=|Rx−R0|×100/R0
ここで、R0は弛緩時電気抵抗値であり、Rxは所定伸長(x%)時電気抵抗値である。
【0047】
(6)導体線長さの倍率
配線部を弛緩状態で10cm切り出し、燃焼または溶解により導体線を取り出す。該導体線を伸張し、両端の長さ(Lm)を測定する。
導体線長さ倍率=Lm/10
【0048】
(7)装着部材の伸張応力
伸縮部配線に隣接する装着部部材を幅10mm長さ100mmで切り出し、下記の手順で装着部材の伸張応力(A)を求める。
1)厚み計(測定部直径10mm、加重1g)にて厚み(d)を測定し、単位断面積(Sa)を求める。
2)切り出した部材をテンシロン万能試験機((株)エーアンドディ社製)にて引っ張り速度200mm/minで引っ張り、所定伸長時荷重(Tx)を求める。
3)単位断面積当たりの伸張応力(A)を下記式に基づいて求める。
A=Tx/Sa (cN/mm2
【0049】
(8)筋電測定
下記条件により、筋電測定を行った。
測定装置 :ポリグラフ360(日本電気株式会社製)
測定条件 :TimeConstant 0.1
:Sensitivity 0.5
デスポーザブル心電図電極:レクトロードタイプNP(株式会社アドバンス製)の中央部を2cm×2cm切り出して使用
測定個所 :左腕前腕手根屈筋(3cm間隔で電極2個設置)
基準電位位置 :左手首くるぶし部(電極1個設置)
【0050】
(実施例1)
(配線の作製と前処理)
940dtexのポリウレタン弾性長繊維(旭化成せんい(株)製、商品名:ロイカ)を芯にして、伸張倍率を4.2倍下で、230dtexのウーリーナイロン(黒染め糸)を700T/Mの下撚りおよび500T/Mの上撚りで捲回し、ダブルカバー糸を得た。得られたダブルカバー糸を芯部にし、独自に開発した設備(特殊製紐機:(1)芯部を所定の速度で給糸する機構。(2)芯部を複数のV溝にクロスして沿わせ(所謂8の字掛け)把持し所定の速度でフィードする機構。(3)該芯部を複数のV溝にクロスして沿わせ把持し、一定速度で巻き上げる機構。(4)芯部を伸張した状態で、導体線を巻き付ける機構。(5)芯部を伸張した状態で、導体線の捲回方向と逆方向に導体線の内側と外側を通って他の糸状体を捲回する機構(導体線を巻いたボビンと他の糸状体を巻いたボビンが、前後に移動し、相互に逆方向に旋回する)を有する設備)により、2.4倍伸張しながら、導体線2USTC(0.03mmφ×90本)(有限会社竜野電線社製繊維被覆電線 芯線名:ウレタンエナメル線(U)、糸巻き層数:シングル(S)、繊維:テトロン(T)、電線:銅(C)))1本をZ方向に捲回し、S方向にエステル糸(56dtex(12f))4本を前記導体線の内側と外側を通して捲回して配線中間体を得た。
【0051】
当該配線中間体を芯にして伸張しながらゴムチューブ(RSチューブ 日星電気(株)社製)で外部被覆を施し、配線を得た。
当該配線を弛緩状態で所定の長さ採取し、両端から導体線を約10mm引き出し、長さをそろえて約8mmで切断した。当該導体線の端から約5mmの絶縁被覆を取り除き、先端にフラックス(BS−65B 太陽電線産業(株)製)を塗布した後、ハンダ浴(400℃)へ約1秒間浸漬し、導体細線の導通を高める前処理を行った後、その1端をクリップ端子にハンダ付けを行い、他端をピン型コネクター(直径2mm)にハンダ付けを行い接続した。
【0052】
(筋電測定)
被験者の肘部、上腕部および腰部に、図2に示した配線をおさえるマジックテープ(登録商標)を具備した筒状装着部材を、肩部に図3に示した装着部材をそれぞれ装着した(各々の装着部材の配線に沿った方向の伸張応力を測定した結果は下表1に示した)。なお、図3に示した装着部材は、襷掛けの伸縮性バンド部を背中に当て、両側の伸縮性筒状部をそれぞれ左右の腕に通し、左右の肩部に装着する。次に、デスポーザブル電極2個を左腕前腕手根屈筋に3cm間隔で取り付けた。同じくデスポーザブル電極を基準電位位置である左手首くるぶし部に取り付けた。次ぎに、各々の電極に前記配線のクリップを接続し、立位で、肘を直角に曲げた状態で、肘部、上腕部、肩部および腰部の装着部材のマジックテープ(登録商標)で配線を止め、それぞれのピン型コネクターを腰部に揃えた。
【0053】
【表1】

【0054】
この後、この上から長袖の運動着を着用し、筋電測定の評価を行なった。
(1)装着時:腰部にそろえた3つのピン型コネクターをポリグラフ360(日本電気株式会社製)に別途用意した信号伝送線で接続し、左手でグーパーを行い、筋電を計測した。
(2)歩行時:次ぎに、歩行器の上で歩行をしながら、左手でグーパーを行い、筋電測定および被験者の装着感のインタビューを実施した。
(3)ジョギング後:次に、一旦ポリグラフとの接続を切り離し、屋外にて30分間のジョギングを行ない、その後、装着状態を確認し、ポリグラフに接続し、左手でグーパーを行い、筋電測定を実施した。また、ジョギング時の装着感についてインタビューを行なった。
筋電測定結果、装着状態及び被験者の評価を、生体信号測定装置の特性と共に表2に示した。
【0055】
(比較例)
伸縮性のない配線を用いた以外は、実施例1と同様にして実験を行なった。装着状態及び被験者の評価等を表2に併せて示した。
【0056】
(実施例2〜4)
所定のポリウレタン弾性長繊維(旭化成せんい(株)製、商品名:ロイカ)を芯にして、2.6倍伸張下で、カバーリングマシーン(有限会社カタオカテクノ社製型式SP−D−400)を用いて、ウレタンエナメル導線(2UEW 有限会社竜野電線社製)を捲回し、配線中間体を得た。次ぎに、当該配線中間体を伸張しながら、ゴムチューブ(RSチューブ 日星電気(株)社製)により外部被覆を行い配線を得た。
当該配線を用いて、実施例1と同様にして、生体信号測定装置を作製し、筋電計測による評価を実施した。得られた結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2より、既存の配線を用いた場合、歩行による運動を行なうと配線が障害となり、突っ張り感が生じた。さらにジョギングでは、引っ張られることにより検知部がはずれ、活動状態下では安定した信号を検出できないことがわかる。一方本発明の生体信号測定装置を用いると、歩行時も突っ張り感がなく、30分間のジョギングでも検出部がはずれず、運動中も安定した生体信号を検出できることがわかる。また、被験者の違和感も無く良好な装着状態を維持できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の生体信号測定装置は、安静状態はもとより活動状態における長時間装着においても不快感が無く、安定した生体信号を検出することができる画期的な生体信号測定装置である。
代表的な使用例として、筋電位を検知するものとしては、筋電義手、筋電義足、筋電位を検知して補助具を作動させるいわゆるアシストスーツ、筋電位の変化を用いた遠隔操作および筋電位を用いたゲーム等がある。また、心電位を検知するものは、いわゆる心電計があるが、常時心電測定するホルター心電計、インシデント時に心電図を確認する携帯型心電計、心拍パターン計測によって交感神経および副交感神経をモニターする強ストレス状態の解析、および同じくうつ病のモニター及び治療のためのデータ採取などに活用される。
また、足のむくみ状態や指先温度をモニターして、在宅患者の状態をドクターが自宅もしくは自院で知ることができるシステムなどにも用いることができる。また、脳波の計測やこめかみの動きの検知にも活用できる。
これらは、単独で検知しても、複数の信号を同時に検出し、総合的な解析を行なうことで、疾患の治療やリハビリの高度化、義手、義足およびアシストスーツの動作性の向上に寄与することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の生体信号測定装置の略図である。
【図2】装着部材の一例を示した略図である。
【図3】装着部材の別の一例を示した略図である。
【符号の説明】
【0061】
1 検知部
2 検知部からの信号を処理するデバイス
3 配線
4 装着部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体信号を検出する検知部および該検知部からの信号を伝送する配線を少なくとも含み、該配線が10%以上の伸縮性を有し、伸縮に伴う電気抵抗変化が10%未満であることを特徴とする生体信号測定装置。
【請求項2】
配線が、導体細線を1本以上集合した集合線を含み、伸張方行に対し配線長さの1.2倍以上の長さを有していることを特徴とする請求項1に記載の生体信号測定装置。
【請求項3】
集合線が弾性長繊維の周囲に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の生体信号測定装置。
【請求項4】
装着部材をさらに含み、該装着部材が装着部伸張方向に10%以上の伸縮性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体信号測定装置。
【請求項5】
装着部伸張方向に沿って、10%以上の伸縮性を有する配線が配置されていることを特徴とする請求項4に記載の生体信号測定装置。
【請求項6】
装着部材の10%伸張応力Aと配線の10%伸張応力Bが下記式を満足することを特徴とする請求項4または5に記載の生体信号測定装置。
1/100<A/B<100
【請求項7】
配線の20%伸張時荷重が500cN以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の生体信号測定装置。
【請求項8】
配線がシールドされていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の生体信号測定装置。
【請求項9】
配線の弛緩状態における電気抵抗が100Ω/m以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の生体信号測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−142413(P2010−142413A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322661(P2008−322661)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)