説明

生体材料中の病原体不活性化剤をクエンチするための方法

【課題】病原体不活性化化合物の有害な病原体を不活性化する能力を保ちながら、病原体と求電子的に反応する病原体不活性化化合物の望まない求電子副反応を防止するための方法、および望ましくない副反応を減少しながら、生体材料中の病原体を不活性化する方法を提供すること。
【解決手段】生体材料中の病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチ(quench)するための方法であって、当該方法は以下の工程:
求電子基である官能基を含むか、または求電子基を形成し得る官能基を含む、病原体不活性化化合物で、生体材料を処理する工程;および
当該求電子基と共有結合的に反応し得る求核基を含むクエンチャーで、当該生体材料を処理する工程;
を含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、1998年1月6日出願の米国暫定出願番号第60/070,597号の利益を請求し、その開示は本明細書中参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本出願は、血液製剤のような生体材料中の反応性求電子化合物をクエンチするために、材料を求核化合物で処理する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景技術)
血液製剤および他の生体材料による疾患の伝播は、依然として深刻な衛生問題のままである。血液ドナースクリーニングおよび血液試験においてかなりの進歩が生じて来てはいるが、B型肝炎(HBV)、C型肝炎(HBC)、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)のようなウイルスは、ウイルスまたはウイルス性抗体が低濃度であるため、試験の間、血液製剤中での検出を免れ得る。ウイルス性の危険に加えて、輸血に使用される予定である血液中のバクテリアまたは原生動物の存在をスクリーニングするための認可せられた試験は、目下、存在しない。危険性はまた、輸血を介したHIV伝播の危険性が認識される前に実際に生じたように、これまで未知の病原体が血液供給中に優勢になり、そして疾患の伝播の脅威を現し得るということにある。
【0004】
研究所の労働者が血液または他の体液にさらされることもまた、衛生上の危険を現す。最近では1989年に、疾病管理センターは、血液にさらされることを含む仕事を行う保健医療労働者12000人が毎年B型肝炎ウイルスに感染すると見積もった。「保健医療および公衆安全労働者へのヒト免疫不全ウイルスおよびB型肝炎ウイルスの伝播を予防するためのガイドライン」Morbidity and Mortality Weekly Report、第38巻、第S−6号、1989年6月。この統計は、生体材料中の病原体を不活性化するための方法に対する必要性を示している。
【0005】
血液製剤の臨床使用の前に、病原体を不活性化するために、化学薬品が血液または血漿中に導入されてきた。病原体の光化学的不活性化のための方法および組成物が記載されてきた。米国特許第5,587,490号、および第5,418,130号は、体液中のウイルスまたはバクテリア混入物を光化学的に不活性化するために使用される置換ソラレンを記載している。メチレンブルーのようなフェノチアジンは、照明に対して血液製剤中の病原体を不活性化することを示してきた。Wagnerら、Transfusion、33:30〜36(1993)。米国特許第5,637,451号は、フタロシアニン化合物を加え、そして材料を照射することにより赤血球含有材料中のウイルスを不活性化する方法を記載している。
【0006】
病原体不活性化のための光化学的方法の短所は、また生成する反応性フリーラジカルおよび酸素種が、血液製剤に損傷を引き起こし、そしてそれらの予定される使用に対する安定性を落とし得ることである。米国特許第4,727,027号、第5,587,490号、第5,418,130号、第5,232,844号、第5,658,722号、および第5,637,451号、ならびに国際特許出願第WO 97/16966号において記載されるように、光化学反応の間に生じるフリーラジカル損傷を減少し、そして最小限にするために、フリーラジカルクエンチャーが病原体不活性化のための光化学的方法において使用されてきた。
【0007】
光活性化を必要としない化合物が、病原体不活性化のために開発されてきた。これらの化合物は、代表的には病原体と反応する求電子試薬である。例えば、米国特許第5,055,485号は、アリールジオールエポキシドを使用した、組成物を含む細胞およびタンパク質中のウイルスの不活性化を記載している。他の化合物は、インサイチュで求電子試薬を生成する。LoGrippoらは、ウイルス不活性化のための、ナイトロジェンマスタード、CH3−N(CH2CH2Cl)2の使用を評価した。LoGrippoら、Proceedings of the Sixth Congress of the International Society of Blood Transfusion、Bibliotheca Haematologica(Hollander、編)、1958年、225〜230頁。より重要には、米国特許第5,691,132号および第5,559,250号(これらの開示は本明細書中参考として援用される)が、N1,N1−ビス(2−クロロエチル)−N4−(6−クロロ−2−メトキシ−9−アクリジニル)−1,4−ペンタンジアミン(「キナクリンマスタード」)および5−[N,N−ビス(2−クロロエチル)アミノ]メチル−8−メトキシソラレンの、血液、血液製剤、および種々の生物学的起源のサンプルにおける病原体の不活性化のための使用を記載している。ポリアミン部分に共有結合したアジリジンを含む病原体不活性化化合物もまた、Budowskyら、Vaccine Research 5:29〜39(1996)において記載されるように、使用されてきている。
【0008】
理想的には、求電子反応により不活性化する病原体不活性化化合物または中間体の、血液製剤または他の生物学的サンプルへの添加は、サンプルに対するどのような望ましくない改変も引き起こすことなく病原体を不活性化する。病原体不活性化化合物は、求電子プロセスにより病原体と反応し、そして光活性化を必要としない。それ故、反応性酸素またはフリーラジカル種が生成されず、そして酸化的損傷は関係ない。しかしながら、他の望ましくない副反応が生じ得る。例えば、タンパク質を含む他の生体材料との求電子反応が生じ得る。これらの副反応は、潜在的に、生物学的サンプルの予定される目的に対するそれらの使用をおとしめ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、病原体不活性化化合物の有害な病原体を不活性化する能力を保ちながら、病原体と求電子的に反応する病原体不活性化化合物の望まない求電子副反応を防止するための方法に対する必要が存在する。望ましくない副反応を減少しながら、生体材料中の病原体を不活性化する方法に対する必要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の開示)
材料中の反応基を含む化合物をクエンチするための方法が提供される。種々の化合物が、生体材料のような材料中、本明細書中で開示される方法を使用して、クエンチされ得る。クエンチされ得る化合物は、求電子基のような反応性基である官能基か、または求電子基のような反応性基をインサイチュで形成し得、および形成した官能基を含む化合物を含む。例えば、官能基は、インサイチュで求電子アジリジン、アジリジニウム(aziridinium)、チイラン(tiirane)、またはチイラニイウム(thiiranium)イオンのような反応性基を形成し得るマスタード基であり得る。別の実施態様において、官能基はエポキシドであり得る。
【0011】
1つの実施態様において、生体材料中の病原体を不活性化するために使用される病原体不活性化化合物の副反応をクエンチするための方法が提供される。特定の実施態様において、求電子基である官能基、または求電子基を形成し得る官能基を含む病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチするための方法が提供される。この実施態様において、生体材料は、病原体不活性化化合物、および求電子基と共有結合的に反応し得る求核官能基を含むクエンチャーで処理される。病原体不活性化化合物の求電子基は、1つの好適な実施態様において、カチオン性基である。生体材料は、例えばインビトロまたはエキソビボで、病原体不活性化化合物およびクエンチャーで処理され得る。好適な実施態様において、病原体不活性化化合物およびクエンチャーは、また病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチャーにクエンチさせながら、病原体不活性化化合物が材料中の病原体を不活性化するのに有効な量で材料に投与される。
【0012】
1つの実施態様において、クエンチャーは、2相系のような多相系中に導入され得る。例えば、クエンチャーは、膜が第一および第二相を分離している2相系へ投与され得る。1つの実施態様において、1つの相は膜により閉ざされて(bound)いる。例えば、膜は病原性有機体の外部膜を規定し得、第一相は病原性有機体を含む相であり得、そして第二相は病原性有機体の内部であり得る。膜は、例えばウイルスの脂質被覆であり得、第一相は、例えば血液のようなウイルスが分散している液体であり得、そして第二相はウイルス核酸を含むウイルスの内部であり得る。別の実施態様において、膜は細胞膜であり得、そして膜に閉ざされた相は、バクテリアのような、病原性単細胞有機体の内部であり得る。この実施態様において、病原体不活性化化合物は、2相系中へ導入され、これは好ましくは速度論的または熱力学的に膜を通り抜け得、一方でクエンチャーは実質的に、病原体不活性化化合物と比較して、速度論的または熱力学的に膜を通り抜け得ない。
【0013】
1つの実施態様において、その中に膜を含む病原体を有する第一の液相、および病原体の膜により閉ざされた第二相を含む2相生体材料中の、病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチするための方法が提供される。従って、第二相は病原体膜内に含まれる内容物である。生体材料は、求電子基を形成し得る官能基を含む病原体不活性化化合物で処理される。病原体不活性化化合物での処理の前、それと同時に、またはその後、生体材料は求電子基と共有結合的に反応し得る求核基を含むクエンチャーで処理される。好ましくは、クエンチャーは病原体不活性化化合物の前に、またはそれと同時に加えられる。好ましくは、病原体不活性化化合物は、求電子基の形成前に、速度論的または熱力学的に膜を通り抜け得る。好ましくは、病原体不活性化化合物による膜透過速度は、求電子基の形成前の病原体不活性化化合物と比較して、求電子基の形成後、実質的に減少する。好ましくは、病原体不活性化化合物は、求電子基の形成前の病原体不活性化化合物と比較して、求電子基の形成後、実質的に、速度論的または熱力学的に膜を通り抜け得ない。クエンチャーは、好ましくは、求電子基の形成前の病原体不活性化化合物と比較して、実質的に、速度論的または熱力学的に膜を通り抜け得ない。クエンチャーは、病原体不活性化化合物の求電子基と反応し得、そしてクエンチャーの、病原体不活性化化合物の求電子基との反応は、好ましくは実質的に第一相で生じる。求電子基を含む病原体不活性化化合物は、膜に閉ざされた第二相中の病原体の核酸と反応し、それにより病原体を不活性化する。この方法は、病原体が処理される相において、反応性病原体不活性化化合物、ならびにそこから形成される反応性種をクエンチしながら、病原体膜内での病原体不活性化化合物と病原体核酸との反応により病原体を不活性化させる。
【0014】
本明細書中で開示される方法は、2相系において、クエンチャーが第一相に投与され、そして実質的に病原体の外部膜を通り抜け得ず、従って実質的に第二相、すなわち病原体の内部に存在しないため、有利である。病原体不活性化化合物は、例えば、第一相へ投与され、そして求電子基の形成前に病原体の膜を通り抜け得る。インサイチュでの求電子基の形成において、病原体不活性化化合物は実質的に、もはや膜を通り抜け得ない。従って、第二相、すなわち病原体の内部で病原体不活性化化合物はクエンチされることなく病原体の核酸と反応しながら、第一相でクエンチが選択的に生じる。従って、生体材料、例えば血液製剤中、病原体不活性化化合物およびそれらの分解生成物の反応性基のクエンチは、病原体が懸濁している第一相で選択的に生じる。従って、第一相におけるクエンチは、血液中のタンパク質または細胞表面の共有結合的改変のような、病原体不活性化化合物上の反応基の望まない副反応を減少させる。この方法において、病原体不活性化化合物およびクエンチャーは、病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチしながら、材料中の病原体を不活性化するのに有効な量で投与される。従って、クエンチャーは、病原体の不活性化を生じさせながら、血液のような材料中の望まない副反応を減少させることにおいて保護的効果を有する。
【0015】
この方法は、原核および真核生物ならびに脂質被覆ウイルスのような病原体を含む生体材料を処理するために使用され得る。詳細には、この方法は、脂質被覆ウイルス、および細胞膜の形態で膜を含むバクテリアのような、膜を含む病原体を処理するために使用され得る。その中に膜を含む病原体を有する、血液製剤のような生体材料を処理するための例示的なクエンチャーには、グルタチオン、N−アセチルシステイン、システイン、メルカプトエタンスルホン酸塩、またはジメルカプロールが挙げられる。
【0016】
病原体不活性化化合物は、核酸結合リガンド、および求電子基であるか、または求電子基を形成し得る官能基を含み得、ここで求電子基は、核酸と反応して核酸と共有結合を形成し得る。病原体不活性化化合物はまたさらに、壊れやすいリンカーを含み得、これは核酸結合リガンドおよび官能基を連結する。例えば、官能基は、インサイチュで反応してアジリジニウムイオンのような求電子基を形成し得るマスタード基であり得る。例示的な病原体不活性化化合物は、キナクリンマスタード、N−(2−クロロエチル)−N−エチル−N’−(6−クロロ−2−メトキシ−9−アクリジニル)−1,3−プロパンジアミンジヒドロクロリド、および5−[N,N−ビス(2−クロロエチル)アミノ]メチル−8−メトキシソラレンを含む。他の病原体不活性化化合物は、Budowskyら、Vaccine Research 5:29〜39(1996)において記載されるような、ポリアミン部分に共有結合的に連結したアジリジンを含む化合物を含む。
【0017】
使用され得るクエンチャーは、チオール、チオ酸、ジチオ酸、ホスフェート、チオホスフェート、およびアミンのような求核官能基を含み得る。例示的なクエンチャーは、グルタチオン、N−アセチルシステイン、システイン、チオスルフェート、メルカプトエタンスルホン酸塩、およびジメルカプロールを含む。好適な実施態様において、クエンチャーはグルタチオンである。
【0018】
血液製剤のような生体材料がクエンチャーおよび病原体不活性化化合物で処理される方法において、クエンチャーは、病原体不活性化化合物を加える前、それと同時に、またはその後に材料へ加えられ得る。好ましくは、クエンチャーは病原体不活性化化合物の前、または同時に加えられる。別の好適な実施態様において、クエンチャーは、病原体不活性化化合物を加える約30分以内、例えば、約15〜20分以内、または約10分以内に加えられる。処理され得る生体材料は、全血、赤血球、血漿またはそのフラクション、および血小板のような血液製剤を含む。この方法は、個体内へ導入するのに適している処理済み血液製剤を製造するために使用され得る。例えば、処理済み材料はそれを必要としている個体中へ輸注され得る。必要に応じて、材料中の病原体不活性化化合物および/またはクエンチャーの濃度は、処理後、および輸注前に、例えば濾過または吸着により減少され得る。病原体を含む、または含むと疑われる広範な生体材料(例えば血液製剤)が処理され得る。
【0019】
1つの好適な実施態様において、赤血球を含む材料中の病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチするための方法が提供され、ここでこの方法は、赤血球を含む材料を、求電子基であるかまたは求電子基を形成し得る官能基を含む病原体不活性化化合物で処理する工程、および求電子基と電子共有的に反応し得る求核基を含むクエンチャーで材料を処理する工程を含む。1つの実施態様における病原体不活性化化合物は、核酸結合リガンド、およびインサイチュで反応してアジリジニウムイオンのような求電子基を形成し得るマスタード基を含む。材料は、濃縮(packed)赤血球を含み得る。材料は、例えば約30〜85%のヘマトクリットを有する血液製剤を含み得る。例えば、赤血球を含む材料は、病原体不活性化化合物およびクエンチャーで処理され得、次いで処理された材料はそれを必要としている個体中に輸注され得る。
【0020】
病原体不活性化化合物の濃度は、例えば、約0.1μM〜5mMであり得る。病原体不活性化化合物の濃度は、例えば、処理されるべき材料中の病原体の少なくとも約3〜6 logを不活性化するのに十分であるように提供され得る。求核基は、好ましくはチオール基である。好適な実施態様におけるクエンチャーは、グルタチオンである。グルタチオンの濃度は、例えば約0.5〜30mMのオーダーであり得る。材料は、例えば少なくとも約1〜48時間、病原体不活性化化合物およびクエンチャーとともにインキュベートされ得る。
【0021】
好ましくは、クエンチャーは、病原体不活性化化合物による病原体の不活性化を、クエンチャーの非存在下で行われるコントロールの病原体不活性化と比較して約3 log以下減少させる。別の好適な実施態様において、この方法において、クエンチャーは、病原体不活性化化合物によるウイルス性病原体の不活性化を、クエンチャーの非存在下で行われるコントロールの病原体不活性化と比較して約1 log以下減少させる。好ましくは、赤血球を含む材料が処理される実施態様において、赤血球機能は、処理後実質的に変更されない。
【0022】
1つの好適な実施態様において、ある方法が提供され、ここでその方法は赤血球含有材料を、病原体の少なくとも2 logを不活性化するのに有効量の病原体不活性化化合物およびクエンチャーで処理する工程を含み、そしてここで赤血球機能は処理により実質的に変更されない。別の好適な実施態様において、ある方法が提供され、ここでその方法は、この材料を、病原体の少なくとも2 logを不活性化するのに有効量の病原体不活性化化合物およびクエンチャーで処理する工程を含み、そしてここで赤血球の溶血は28日間の貯蔵後で3%未満である。
・本発明はさらに、以下を提供し得る:
・(項目1) 生体材料中の病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチ(quench)するための方法であって、当該方法は以下の工程:
求電子基である官能基を含むか、または求電子基を形成し得る官能基を含む、病原体不活性化化合物で、生体材料を処理する工程;および
当該求電子基と共有結合的に反応し得る求核基を含むクエンチャーで、当該生体材料を処理する工程;
を含む、方法。
・(項目2) 上記求電子基がカチオン性である、項目1に記載の方法。
・(項目3) 上記求電子基がアジリジニウムイオンである、項目2に記載の方法。
・(項目4) 上記方法が、上記生体材料をインビトロで上記病原体不活性化化合物および上記クエンチャーで処理する工程を含む、項目1に記載の方法。
・(項目5) 上記方法が、上記生体材料をエキソビボで上記病原体不活性化化合物および上記クエンチャーで処理する工程を含む、項目1に記載の方法。
・(項目6) 上記求電子基が、核酸と反応して核酸と共有結合を形成し得;そして
上記病原体不活性化化合物が核酸結合リガンドをさらに含む、項目1に記載の方法。
・(項目7) 上記官能基が、インサイチュで反応して上記求電子基を形成し得るマスタード基である、項目6に記載の方法。
・(項目8) 上記病原体不活性化化合物が、上記官能基と上記核酸結合リガンドとを連結する壊れやすい(frangible)リンカーをさらに含む、項目6に記載の方法。
・(項目9) 上記病原体不活性化化合物が、フロクマリン、フロクマリン誘導体、アクリジン、およびアクリジン誘導体からなる群より選択される核酸結合リガンドを含み;そして
上記官能基がマスタード基である、項目6に記載の方法。
・(項目10) 上記病原体不活性化化合物が、β−アラニン,N−(アクリジン−9−イル),2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル、およびキナクリンマスタードからなる群より選択される、項目1に記載の方法。
・(項目11) 上記求核基が、チオール、チオ酸、ジチオ酸、ホスフェート、チオホスフェート、チオスルフェート、およびアミンからなる群より選択される、項目1に記載の方法。
・(項目12) 上記求核基がチオールである、項目11に記載の方法。
・(項目13) 上記クエンチャーが、グルタチオン、N−アセチルシステイン、システイン、メルカプトエタンスルホン酸塩、およびジメルカプロールからなる群より選択される、項目12に記載の方法。
・(項目14) 上記クエンチャーがグルタチオンである、項目12に記載の方法。
・(項目15) 上記グルタチオンの濃度が約0.5mM〜約30mMである、項目14に記載の方法。
・(項目16) 上記生体材料が、全血、赤血球、血漿、および血小板からなる群より選択される材料を含む、項目1に記載の方法。
・(項目17) 上記病原体不活性化化合物およびクエンチャーが、少なくとも約1時間〜約48時間、材料とともにインキュベートされる、項目1に記載の方法。
・(項目18) 上記病原体不活性化化合物の濃度が約0.1μM〜約5mMである、項目1に記載の方法。
・(項目19) 上記病原体不活性化化合物の濃度が、上記材料中の病原体の少なくとも約3 log〜約6 logを不活性化するのに十分である、項目1に記載の方法。
・(項目20) 上記クエンチャーが、上記クエンチャーの非存在下で行われるコントロールの病原体不活性化と比較して約3 log以下、上記病原体不活性化化合物による病原体の不活性化を減少させる、項目1に記載の方法。
・(項目21) 上記クエンチャーが、上記クエンチャーの非存在下で行われるコントロールの病原体不活性化と比較して約1 log以下、上記病原体不活性化化合物によるウイルス性病原体の不活性化を減少させる、項目1に記載の方法。
・(項目22) 上記クエンチャーが、上記求核基を含む固体支持材料を含む、項目1に記載の方法。
・(項目23) 項目1に記載の方法であって、ここで当該方法は:
求電子基である官能基を含むかまたは求電子基を形成し得る官能基を含む、病原体不活性化化合物を含む生体材料を、当該求電子基と共有結合的に反応し得る求核基を含むクエンチャーで処理する工程;
を含む、方法。
・(項目24) 上記クエンチャーが、上記病原体活性化化合物の添加の前、またはそれと同時に、上記材料へ加えられる、項目1に記載の方法。
・(項目25) 赤血球を含む材料中の病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチ(quench)するための方法であって、当該方法は以下の工程:
求電子基である官能基を含むか、または求電子基を形成し得る官能基を含む、病原体不活性化化合物で、赤血球を含む材料を処理する工程;および
当該求電子基と共有結合的に反応し得る求核基を含むクエンチャーで、当該材料を処理する工程;
を含む、方法。
・(項目26) 上記求電子基がカチオン性である、項目25に記載の方法。
・(項目27) 上記求電子基がアジリジニウムイオンである、項目26に記載の方法。
・(項目28) 上記方法が、上記生体材料を、インビトロで、上記病原体不活性化化合物および上記クエンチャーで処理する工程を含む、項目25に記載の方法。
・(項目29) 上記方法が、上記生体材料を、エキソビボで、上記病原体不活性化化合物および上記クエンチャーで処理する工程を含む、項目25に記載の方法。
・(項目30) 上記求電子基が、核酸と反応して当該核酸と共有結合を形成し得;そして上記病原体不活性化化合物がさらに核酸結合リガンドを含む、項目25に記載の方法。
・(項目31) 上記インサイチュで反応して求電子基を形成し得る官能基が、マスタード基である、項目30に記載の方法。
・(項目32) 上記病原体不活性化化合物がさらに、上記官能基と上記核酸結合リガンドとを連結する壊れやすい(frangible)リンカーを含む、項目30に記載の方法。
・(項目33) 上記病原体不活性化化合物が、フロクマリン、フロクマリン誘導体、アクリジン、およびアクリジン誘導体からなる群より選択される核酸結合リガンドを含み;そして
上記官能基がマスタード基である、項目30に記載の方法。
・(項目34) 上記病原体不活性化化合物が、β−アラニン,N−(アクリジン−9−イル),2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル、およびキナクリンマスタードからなる群より選択される、項目25に記載の方法。
・(項目35) 上記求核基が、チオール、チオ酸、ジチオ酸、ホスフェート、チオホスフェート、チオスルフェート、およびアミンからなる群より選択される、項目25に記載の方法。
・(項目36) 上記求核基がチオールである、項目25に記載の方法。
・(項目37) 上記クエンチャーがグルタチオンである、項目36に記載の方法。
・(項目38) 上記グルタチオンの濃度が約0.5mM〜約30mMである、項目37に記載の方法。
・(項目39) 上記病原体不活性化化合物および上記クエンチャーが、少なくとも約1時間〜約48時間、材料とともにインキュベートされる、項目25に記載の方法。
・(項目40) 上記病原体不活性化化合物の濃度が約0.1μM〜約5mMである、項目25に記載の方法。
・(項目41) 上記病原体不活性化化合物の濃度が、上記材料中の病原体の少なくとも約3 log〜約6 logを不活性化するのに十分である、項目25に記載の方法。
・(項目42) 上記クエンチャーが、上記クエンチャーの非存在下で行われるコントロールの病原体不活性化と比較して約3 log以下、病原体不活性化化合物による病原体の不活性化を減少させる、項目25に記載の方法。
・(項目43) 上記クエンチャーが、上記クエンチャーの非存在下で行われるコントロールの病原体不活性化と比較して約1 log以下、病原体不活性化化合物によるウイルス性病原体の不活性化を減少させる、項目25に記載の方法。
・(項目44) 赤血球機能が上記処理後に実質的に変更されない、項目25に記載の方法。
・(項目45) 上記材料が、約30%〜約85%のヘマトクリットを有する血液製剤(blood product)を含む、項目25に記載の方法。
・(項目46) 上記材料が濃縮(packed)赤血球を含む、項目25に記載の方法。
・(項目47) 上記クエンチャーが、上記求核基を含む固体支持材料を含む、項目25に記載の方法。
・(項目48) 項目25に記載の方法であって、ここで当該方法は、
求電子基である官能基を含むか、または求電子基を形成し得る官能基を含む、病原体不活性化化合物を含む生体材料を、当該求電子基と共有結合的に反応し得る求核基を含むクエンチャーで処理する工程;
を含む、方法。
・(項目49) 上記クエンチャーが、上記病原体活性化化合物の添加の前、またはそれと同時に、上記材料へ加えられる、項目25に記載の方法。
・(項目50) 上記方法が、少なくとも2 logの病原体を不活性化するのに有効な量の、上記病原体不活性化化合物および上記クエンチャーで上記材料を処理する工程を含み、そして赤血球機能が上記処理により実質的に変更されない、項目25に記載の方法。
・(項目51) 上記赤血球の溶血が、処理後28日間の貯蔵の後に3%未満である、項目25に記載の方法。
・(項目52) 上記方法が、少なくとも2 logの病原体を不活性化するのに有効な量の、上記病原体不活性化化合物および上記クエンチャーで上記材料を処理する工程を含む、項目51に記載の方法。
・(項目53) 上記材料が血液製剤(blood product)を含み、そして上記処理後、当該血液製剤が個体中への導入に適している、項目25に記載の方法。
・(項目54) 上記方法がさらに、上記赤血球を含む処理済み材料を、それを必要としている個体中へ輸注(transfuse)する工程を含む、項目53に記載の方法。
・(項目55) 上記材料中の上記病原体不活性化化合物およびクエンチャーのうちの少なくとも1種の濃度が、上記処理後および輸注前に減少される、項目54に記載の方法。
・(項目56) 上記方法が、病原体を含む生体材料を処理する工程を含む、項目1に記載の方法。
・(項目57) 上記方法が、原核生物および真核生物ならびに脂質被覆(lipid coated)ウイルスからなる群より選択される病原体を含む生体材料を処理する工程を含む、項目56に記載の方法。
・(項目58) 上記方法が、グルタチオン、N−アセチルシステイン、システイン、メルカプトエタンスルホン酸塩、およびジメルカプロールからなる群より選択されるクエンチャーで上記材料を処理する工程を含む、項目57に記載の方法。
・(項目59) 上記方法が、病原体を含む生体材料を処理する工程を含む、項目25に記載の方法。
・(項目60) 上記方法が、原核生物および真核生物ならびに脂質被覆(lipid coated)ウイルスからなる群より選択される病原体を含む生体材料を処理する工程を含む、項目59に記載の方法。
・(項目61) 上記方法が、グルタチオン、N−アセチルシステイン、システイン、メルカプトエタンスルホン酸塩、およびジメルカプロールからなる群より選択されるクエンチャーで上記材料を処理する工程を含む、項目60に記載の方法。
・(項目62) 上記病原体不活性化化合物および上記クエンチャーが、上記病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチしながら上記材料中の病原体を不活性化するために有効な量で投与される、項目1に記載の方法。
・(項目63) 上記病原体不活性化化合物およびクエンチャーが、上記病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチしながら上記材料中の病原体を不活性化するために有効な量で投与される、項目1に記載の方法。
・(項目64) 膜を含む病原体をその中に有する液体を含む第一相と、当該病原体の膜に接して(bound)いる第二相とを含む二相生体材料中の、病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチ(quench)するための方法であって、当該方法は以下:
当該生体材料を、求電子基を形成し得る官能基を含む病原体不活性化化合物で処理する工程;および
当該求電子基と共有結合的に反応し得る求核基を含むクエンチャーで、当該生体材料を処理する工程;
を含み、
ここで、当該病原体不活性化化合物は、当該求電子基の形成前に、当該クエンチャーに対して速度論的に当該膜を通り抜け得;そして
ここで、当該病原体不活性化化合物は、当該求電子基の形成前の当該病原体不活性化化合物に対して、当該求電子基の形成後に当該膜を実質的に速度論的に通り抜け得ない、方法。
・(項目65) 上記方法が、上記クエンチャーを上記病原体不活性化化合物の求電子基と反応させる工程を含み、そしてここで、当該クエンチャーは、実質的に上記第一相において当該病原体不活性化化合物の求電子基と反応する、項目64に記載の方法。
・(項目66) 上記方法が、上記求電子基を含む病原体不活性化化合物を、上記第二相中の病原体の核酸と反応させ、それにより上記病原体を不活性化させる工程を含む、項目65に記載の方法。
・(項目67) 上記膜が脂質を含む、項目64に記載の方法。
・(項目68) 上記病原体が、上記膜を規定する脂質被覆(lipid coat)を含むウイルスであり、そしてここで上記第二相が当該脂質被覆の内部により規定される、項目64に記載の方法。
・(項目69) 上記病原体が、上記二相系の膜を規定する脂質を含む細胞膜を含むバクテリアであり、そしてここで上記第二相が当該細胞膜の内部により規定される、項目64に記載の方法。
・(項目70) 上記クエンチャーが、上記求電子基の形成前の病原体不活性化化合物と比較して、実質的に速度論的には上記膜を通り抜け得ない、項目64に記載の方法。
・(項目71) 上記病原体不活性化化合物が、アジリジニウムイオンである求電子基を形成し得る官能基を含む、項目64に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、グルタチオンおよび病原体不活性化化合物で処理した後、生存しているネズミ赤血球を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(発明を実施するための最適な様式)
材料中の、求電子基を含む化合物のような反応性化学種をクエンチするための方法が提供される。1つの実施態様において、血液製剤のような生体材料を含む材料中の病原体不活性化化合物をクエンチするための方法が提供される。別の実施態様において、病原体不活性化化合物で処理される、赤血球のような生体材料の改変を阻害するための方法が提供される。病原体不活性化化合物およびクエンチャーは、病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチしながら、材料中の病原体を不活性化するのに有効な量で投与される。従って、クエンチャーは、病原体の不活性化を生じさせながら、血液製剤のような材料中の望まない副反応を減少させることにおいて、保護的効果を有する。
(定義)
「病原体」は、ヒト、他の哺乳動物、または脊椎動物に疾患を引き起こしうる因子を含む任意の核酸として定義される。病原体因子は、単細胞または多細胞であり得る。病原体の例は、ヒト、他の哺乳動物、または脊椎動物に疾患を引き起こす、バクテリア、ウイルス、原生動物、真菌、酵母、糸状菌、およびマイコプラズマである。病原体の遺伝材料は、DNAまたはRNAであり得、そして遺伝材料は一重らせんまたは二重らせん核酸として存在し得る。表Iは、ウイルスの例を列挙し、そしていかなる様式においても本発明を制限することを意図しない。
【0025】
【表1】

材料または化合物の「インビボ」使用は、材料または化合物の、生きているヒト、哺乳動物、または脊椎動物中への導入として定義される。
【0026】
材料または化合物の「インビトロ」使用は、材料または化合物の、生きているヒト、哺乳動物、または脊椎動物の外側での使用として定義され、ここで材料または化合物は、生きているヒト、哺乳動物、または脊椎動物中へ再導入することを意図しない。インビトロ使用の例は、研究室装置を使用する血液サンプルの成分分析がある。
【0027】
化合物の「エキソビボ」使用は、生きているヒト、哺乳動物、または脊椎動物の外側で、生体材料の処理のために化合物を使用することとして定義され、ここで処理された生体材料は、生きているヒト、哺乳動物、または脊椎動物の内側で使用することを意図する。例えば、ヒトからの血液の除去、および病原体を不活性化するためのその血液中への化合物の導入は、その血液がそのヒトまたは別のヒト中へ再導入されることを意図する場合に、その化合物のエキソビボ使用として定義される。ヒト血液の、そのヒトまたは別のヒト中への再導入は、化合物のエキソビボ使用とは対照的に、血液のインビボ使用である。血液がヒト中へ再導入されるときに、化合物が依然として血液中に存在しているならば、化合物は、そのエキソビボ使用に加えて、インビボでもまた導入される。
【0028】
「処理され得る材料」は、任意の材料を含み、生体材料を含む。そのような材料は、化学製品、溶液を含み、これは、塩、または緩衝化溶液、および溶媒を含む。生きているヒト、哺乳動物、または脊椎動物と接触することになるか、またはその中へ導入される任意の材料(ここで、そのような接触が疾患または病原体を伝染させる危険をもたらす)が、本明細書中で開示されるように処理され得る。
【0029】
「生体材料」は、任意の型の生物学的有機体を起源とする材料として定義される。生体材料の例は、以下を含むがこれらに限定されない;血液、血漿、分画化血漿、血小板調製物、赤血球、および濃縮赤血球のような血液製剤、髄液、唾液、尿、汗、糞、精液、乳、組織サンプル、ホモジナイズされた組織サンプル、ならびに生物学的有機体にその起源を有する任意の他の物質。生体材料はまた、その起源を生物学的有機体に持つ物質を組み込んでいる合成材料を含む;例えば、病原体またはその一部分を含むワクチン調製物(この場合、病原体がその起源を生物学的有機体に持つ物質である)または組換えタンパク質、血液および分析試薬の混合物である、分析のために調製されたサンプル、細胞培養培地、細胞培養物、ウイルス培養物、および生きている有機体から由来する他の培養物など。
【0030】
「病原体の不活性化」は、材料中の病原体を繁殖し得ないようにする工程として定義される。不活性化は、残存する繁殖し得る病原体のフラクションの、負の対数として表される。従って、特定の濃度にある化合物が材料中の病原体の90%を繁殖し得ないようにするならば、10%または1/10(0.1)の病原体が繁殖し得るままである。0.1の負の対数は1であり、そしてその化合物のその濃度は1 logまで病原体を不活性化したとされる。あるいは、化合物は、その濃度で1 logの殺傷を有するとされる。従って、特定の濃度にある化合物が10%または0.1を除く全ての病原体を繁殖不可能にするならば、それは1 logで病原体を不活性化するとされる。1%または0.1%を除く全ての病原体を不活性化することは、それぞれ、その化合物のその濃度において2 logまたは3 logの病原体の減少に対応する。
【0031】
(クエンチされる化合物)
種々の化合物が、生体材料のような材料中で、本明細書中で開示される方法を使用してクエンチされ得る。クエンチされ得る化合物は、求電子基のような反応基であるか、またはそれを形成し得る、および例えばインサイチュでそれを形成した官能基を含む化合物を含む。例えば、官能基は、インサイチュで反応基(例えば、求電子アジリジン、アジリジニウム、チイラン、またはチイラニイウムイオンなど)を形成し得るマスタード基であり得る。別の実施態様において、官能基はエポキシドであり得る。クエンチャーは、求核基を含み、そしてクエンチャーの求核基の、反応性求電子基との共有結合的反応により、化合物の求電子性反応基を補足するように作用する。クエンチャーは、求電子基を含む化合物ならびにそこから形成された反応性種を含む反応性種を補足するために使用され得る。
【0032】
1つの実施態様において、材料中の病原体を不活性化するために使用される化合物をクエンチするための方法が提供される。血液製剤において、不活性化されることが望ましい病原体は、微生物(例えば、原核生物、真核生物、および核酸を含むウイルス性微生物など)ならびにそのような微生物由来の核酸ゲノムまたはそのフラグメントを含む。不活性化され得るウイルスの例は、脂質被覆ウイルス(例えば、水泡性口内炎ウイルス(VSV)、モロニー肉腫ウイルス、シンドビスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1,HIV−2)、ヒトT−細胞白血病ウイルス−I(HTLV−I)、B型肝炎ウイルス、C型肝炎およびヘルペス群ウイルスなど)、ならびにパルボウイルスを含む非エンベロープウイルス(non−enveloped virus)を含む。
【0033】
反応性求電子基を含むか、または光活性化を必要とすることなくインサイチュで反応して反応性求電子基を形成する化合物が、生体材料中の病原体を不活性化するために開発されてきた。反応性求電子基は、ウイルスおよびバクテリアのような病原体の核酸と反応して、それらを不活性化させる。しかしながら、これらの反応性化合物はまた、望まない副反応に関係し得る。本明細書中で提供されるのは、クエンチ化合物を加えて、化合物上の求電子基と病原体との反応により病原体を不活性化するこれらの化合物の、望まない副反応を減少する方法である。
【0034】
反応性求電子基を形成し、そして病原体を不活性化するために使用され得る病原体不活性化化合物の例は、PCT WO 96/14737、PCT WO 96/39818に、および米国暫定出願番号第60/043,696号(1997年4月15日出願)に記載される(これらの開示は本明細書中で援用される)。さらに、ナイトロジェンマスタード、CH3−N(CH2CH2Cl)2は、特定の病原体を不活性化し得る。LoGrippoら、Proceedings of the Sixth Congress of the International Society of Blood Transfusion、Bibliotheca Haematologica(Hollander、編)、1958年、225〜230頁。
【0035】
好適であるのは、エフェクターと共有結合したアンカーを含む病原体不活性化化合物である。用語「アンカー」は、DNAまたはRNAのような核酸生物高分子に、非共有結合的に結合し得る部分を示す。「アンカー」はまた、「核酸結合リガンド」として示される。用語「エフェクター」は、核酸と反応して核酸と共有結合を形成し得る部分を示す。好ましくは、エフェクターは、求電子基であるか、または求電子基を形成し得る官能基であり、ここで求電子基は、核酸と共有結合を形成し得る。例えば、PCT WO 96/14737、PCT WO 96/39818、および米国特許第5,559,250号(これらの開示は本明細書中で援用される)は、マスタード基であるエフェクターおよび核酸結合リガンドを含む病原体不活性化化合物を記載している。ポリアミンアンカーに共有結合で接続されたアジリジンを含む病原体不活性化化合物もまた、Budowskyら、Vaccine Research 5:29〜39(1996);およびPCT WO 97/07674に記載されるように、使用され得る(これらの開示は本明細書中で参考として援用される)。
【0036】
例示的な化合物は、キナクリンマスタードであり、その構造は以下に示される。
【0037】
【化1】

病原体不活性化化合物はまた、アンカーが壊れやすいリンカーに共有結合している形態で提供され得、リンカーはエフェクターに共有結合している。用語「壊れやすいリンカー」は、アンカーおよびエフェクターに共有結合で連結している部分を示し、そしてこれは、アンカーおよびエフェクターがもはや共有結合で連結しないように特定の条件下で分解し得る。アンカー−壊れやすいリンカー−エフェクターの配列は、アンカーの結合能力によって、化合物が核酸に特異的に結合することを可能にする。このことは、エフェクターを核酸との反応のために近接させる。アンカー−壊れやすいリンカー−エフェクターの配列を含む病原体不活性化化合物は、米国暫定出願番号第60/043,696号(1997年4月15日出願)に、および米国特許出願番号第09/003,115号(1998年1月6日出願)に開示される(これらの開示は本明細書中で参考として援用される)。エフェクターは、例えば、マスタード基、マスタード基等価物、またはエポキシドであり得る。
【0038】
例示的な病原体不活性化化合物(PIC)は、PIC−1およびPIC−2を含み、それらの構造は以下に示される。PIC−1はエステル官能性を有する壊れやすいリンカーを含むが、一方PIC−2はアミド官能性を有する壊れやすいリンカーを含む。
【0039】
【化2】

広範な基が、アンカー、リンカー、およびエフェクターとして使用され得る。アンカー基の例は、以下を含むがこれらに限定されない;インターカレーター、マイナーグルーブバインダー、メジャーグルーブバインダー、ポリアミンを含む静電相互作用により結合する分子、および配列特異的相互作用により結合する分子。以下は、可能なアンカー基の非制限的列挙である:
アクリジン(およびアクリジン誘導体、例えば、プロフラビン、アクリフラビン、ジアクリジン、アクリドン、ベンズアクリジン、キナクリン)、アクチノマイシン、アンスラサイクリノン、ロドマイシン、ダウノマイシン、チオキサンテノン(およびチオキサンテノン誘導体、例えばミラシルD)、アントラマイシン、マイトマイシン、エキノマイシン(キノマイシンA(quinomycin A))、トリオスチン(triostins)、エリプチシン(ellipticine)(ならびに二量体、三量体、およびそれらのアナログ)、ノルフィリンA(norphilin A)、フルオレン(および誘導体、例えば、フルオレノン、フルオレノジアミン)、フェナジン、フェナントリジン、フェノチアジン(例えばクロルプロマジン)、フェノキサジン、ベンゾチアゾール、キサンテンおよびチオキサンテン、アントラキノン、アントラピラゾール、ベンゾチオピラノインドール、3,4−ベンゾピレン、1−ピレニルオキシラン、ベンズアントラセン、ベンゾジピロン、キノリン(例えば、クロロキン、キニン、フェニルキノリンカルボキサミド)、フロクマリン(furocoumarines)(例えば、ソラレンおよびイソソラレン)、エチジウム、プロピジウム(propidium)、コラリン(coralyne)、および多環式芳香族炭化水素ならびにそれらのオキシラン誘導体;
ジスタマイシン(distamycin)、ネトロプシン(netropsin)、他のレキシトロプシン(lexitropsin)、Hoechst33258および他のHoechst色素、DAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)、ベレニル(berenil)、およびトリアリールメタン色素;
アフラトキシン;
スペルミン、スペルミジン、および他のポリアミン;ならびに
三重らせん形成、D−ループ形成、および一重らせん標的への直接塩基対形成のような配列特異的相互作用により結合する、核酸またはアナログ。これらの化合物の誘導体もまた、アンカー基の非制限的例であり、ここで化合物の誘導体は、任意の部位で任意の型の1つ以上の置換基を持つ化合物、化合物の酸化または還元生成物、などを含むが、これらに限定されない。
【0040】
壊れやすいリンカーの例は、以下を含むがこれらに限定されない;エステルのような官能基を含む部分(ここでエステルのカルボニル炭素は、アンカーとエステルのsp3酸素との間にある;この配列は「順接(forward)エステル」とも呼ばれる)、「逆接(reverse)エステル」(ここでエステルのsp3酸素は、アンカーとエステルのカルボニル炭素との間にある)、チオエステル(ここでチオエステルのカルボニル炭素は、アンカーとチオエステルの硫黄との間にあり、「順接チオエステル」とも呼ばれる)、逆接チオエステル(ここでチオエステルの硫黄は、アンカーとチオエステルのカルボニル炭素との間にあり、「逆接チオエステル」とも呼ばれる)、順接および逆接チオノエステル、順接および逆接ジチオ酸、スルフェート、順接および逆接スルホネート、ホスフェート、ならびに順接および逆接ホスホネート基。「チオエステル」は、−C(=O)−S−基を表す;「チオノエステル」は、−C(=S)−O−基を表し、そして「ジチオ酸」は−C(=S)−S−基を表す。壊れやすいリンカーはまた、アミドを含み、ここでアミドのカルボニル炭素はアンカーとアミドの窒素との間にある(「順接アミド」とも呼ばれる)か、またはここでアミドの窒素はアンカーとアミドのカルボニル炭素との間にある(「逆接アミド」とも呼ばれる)。「順接」および「逆接」として表され得る基に対して、順接方向とは、官能基の加水分解後、得られる酸官能性がアンカー部分に共有結合され、そして得られるアルコール、チオール、またはアミン官能性がエフェクター部分に共有結合される、官能基の方向である。逆接方向とは、官能基の加水分解後、得られる酸官能性がエフェクター部分に共有結合され、そして得られるアルコールまたはチオール官能性がアンカー部分に共有結合される、官能基の方向である。
【0041】
アミド部分のような壊れやすいリンカーはまた、処理される生体材料中の内因性酵素により、または材料へ加えられた酵素により、酵素的分解の条件下分解し得る。
【0042】
エフェクターの例は、以下を含むがこれらに限定されない;マスタード基、マスタード基等価物、エポキシド、アルデヒド、ホルムアルデヒドシントン、ならびに他のアルキル化剤、および架橋化剤。マスタード基は、モノまたはビスハロエチルアミン基、およびモノハロエチルスルフィド基を含むとして定義される。マスタード基等価物は、マスタードと類似の機構により反応する基により定義される(例えば、モノまたはビスメシルエチルアミン基、モノメシルエチルスルフィド基、モノまたはビストシルエチルアミン基、およびモノトシルエチルスルフィド基など)。ホルムアルデヒドシントンは、水性溶液中で壊れてホルムアルデヒドになる任意の化合物として定義され、ヒドロキシメチルグリシンのようなヒドロキシメチルアミンを含む。ホルムアルデヒドシントンの例は、米国特許第4,337,269号に、および国際特許出願第WO 97/02028号において与えられる。
【0043】
病原体不活性化化合物の濃度は、病原体の型、処理される生体材料の性質、および使用される不活性化化合物のような要因に基づいて選択され得る。
【0044】
(クエンチ化合物)
クエンチ化合物(本明細書中「クエンチャー」とも示される)で生体材料を処理して、材料中の反応性求電子種の望まない副反応を減少するための方法が提供される。詳細には、生体材料中の病原体を不活性化する病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチするための方法が提供され、ここで病原体不活性化化合物は、病原体の核酸に損傷を与える求電子基を含んでいるか、またはそれを形成し得るかのいずれかである。クエンチャーは、病原体不活性化化合物の、および病原体不活性化化合物により生成した反応生成物の望まない反応を減少させる。病原体不活性化化合物の求電子基と反応し得る求核基を含むクエンチャーが好ましい。求核基を含むクエンチャーは、クエンチャーの求核基と、反応性求電子基との共有結合反応により、化合物の反応性求電子基を補足するように作用する。クエンチャーにより補足され得る反応性種は、求電子基を含む化合物、ならびにそれから形成される反応性求電子基を含む種を含む。
【0045】
本明細書中で開示される方法の利点は、病原体不活性化化合物の望まない副反応を減少させ、しかしながら病原体不活性化化合物による病原体不活性化が依然として生じ得るように、有効量のクエンチャーが使用され得ることである。従って、クエンチャーは、病原体不活性化を生じさせながら、血液のような材料中の望まない副反応を減少させることにおいて保護的効果を有する。種々の副反応が減少され得る。例えば、血液製剤を含む材料が処理される方法において、赤血球の改変が減少され得る。例えば、IgGのようなタンパク質の結合、および/または病原体不活性化化合物の赤血球への結合が減少され得る。
【0046】
1つの実施態様において、血液製剤のような生体材料は、求電子基であるか、またはそれを形成し得る官能基を含む病原体不活性化化合物、およびクエンチャーで処理される。好適な実施態様において、病原体不活性化化合物は、核酸結合リガンド、および反応性求電子基であるか、またはそれを形成し得る官能基であるエフェクターを含む。求電子基は、例えば、オキシラン、チイラン、チイラニウム、またはアジリジニウムイオン、あるいはアジリジンであり得る。エフェクターは、求電子基を形成し得るマスタード基であり得る。マスタード基は、例えば、求電子アジリジン、または求電子アジリジニウムもしくはチイラニウムイオンをインサイチュで形成し得る。
【0047】
この方法において、生体材料は病原体不活性化化合物の求電子基と共有結合的に反応し得る求核官能基を含むクエンチャーで処理される。クエンチャーは、病原体不活性化化合物を加える前、それと同時に、またはその後、材料に加えられる。好適な実施態様において、クエンチャーは病原体不活性化化合物を加える前、またはそれと同時に加えられる。1つの好適な実施態様において、クエンチャーは病原体不活性化化合物と同時に加えられる。別の好適な実施態様において、クエンチャーは病原体不活性化化合物を加える前後、約30分以内、例えば、約15〜20分以内、または必要に応じて、約10分以内に加えられる。材料は、例えば、インビトロまたはエキソビボで処理され得る。病原体不活性化化合物の病原体を不活性化する能力に影響を及ぼすことなく、そして生体材料の性質を実質的に変化させることなく、病原体不活性化化合物の望まない副反応を減少させるクエンチャーが好ましい。
【0048】
クエンチャーの例は、求核基、または求電子基と反応する他の基を含む化合物である。クエンチ化合物の混合物もまた、使用され得る。例示的な求核基は、チオール、チオ酸、ジチオ酸、チオカルバメート、ジチオカルバメート、アミン、ホスフェート、およびチオホスフェート基を含む。クエンチャーは、ピリジンのような窒素複素環であるか、またはそれを含み得る。クエンチャーは、グルコース−6−リン酸のようなリン酸含有化合物であり得る。クエンチャーはまた、チオール含有化合物であり得、以下を含むがこれらに限定されない;グルタチオン、システイン、N−アセチルシステイン、メルカプトエタノール、ジメルカプロール、メルカプタン、メルカプトエタンスルホン酸およびそれらの塩(例えば、MESNA、ホモシステイン、アミノエタンチオール、ジメチルアミノエタンチオール、ジチオトレイトール、および他のチオール含有化合物)。クエンチャーはまた、ナトリウムまたは塩酸塩のような、塩の形態であり得る。
【0049】
他のチオール含有化合物は、メチルチオグリコレート、チオ乳酸、チオフェノール、2−メルカプトピリジン、3−メルカプト−2−ブタノール、2−メルカプトベンゾチアゾール、チオサリチル酸、およびチオクト酸を含む。例示的な芳香族チオール化合物は、2−メルカプトベンズイミダゾールスルホン酸、2−メルカプト−ニコチン酸、ナフタレンチオール、キノリンチオール、4−ニトロ−チオフェノール、およびチオフェノールを含む。他のクエンチャーは、ニトロベンジルピリジン、およびセレン化物塩のような無機求核試薬またはセレノシステインのような有機セレン化物、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、スルフィド、チオリン酸塩、ピロリン酸塩、ヒドロスルフィド、および亜ジチオン酸塩を含む。クエンチャーはまた、求核基を含むペプチド化合物であり得る。例えば、クエンチャーは、例えば、GlyCysのようなジペプチド、グルタチオンのようなトリペプチドを含むシステイン含有化合物であり得る。
【0050】
求核基または求核基を含む化合物を含む高分子錯体もまた、本発明の範囲内である。別の実施態様において、チオール基のような求核基、または求核基を含む化合物は、クロマトグラフィー材料のような固体支持体上に固定されて、固定クエンチャーを形成する。固体支持体は、例えばアガロース、ポリスチレン、または他のクロマトグラフィー材料であり得る。例えば、グルタチオン、または硫黄基のような求核基を含む他の化合物が、エポキシ活性化アガロースへ接着され得る。例えば、グルタチオン−アガロースは、Sigma(St.Louis、MO)から市販されており、ここでグルタチオンは、アミノ基を通して、エポキシ活性化4%架橋ビーズ状アガロース(10炭素スペーサーを介する)へ接着されている。さらに、システイン−アガロースがSigmaから入手可能であり、これはアミノ基を通して臭化シアン活性化4%架橋ビーズ状アガロースへ接着されている。任意の範囲の活性化クロマトグラフィー樹脂または他の材料が、1個、2個、またはそれより多くの求核基を含むように誘導化され得る。誘導化され得るそのような活性化マトリックスは、臭化シアン、エポキシ、ニトロフェニルおよびN−ヒドロキシスクシンイミジルクロロホルメート、チオピリジル、ポリアクリルヒドラジド、およびオキシランアクリル酸活性化マトリックスを含む。チオールのような固定された求核基を含む他の例示的なクロマトグラフィー材料(市販されている)は、DuoliteGT−73ポリスチレンチオール含有樹脂およびDuoliteC−467を含み、これはアミノホスホン酸基を含む(Supelco、Bellefonte、PA)。
【0051】
別の実施態様において、クエンチャーの反応は、グルタチオントランスフェラーゼのような酵素の反応により、触媒され得る。グルタチオントランスフェラーゼの存在はまた、クエンチャーの、求電子基を含む病原体不活性化化合物との反応性に影響を与える。例えば、グルタチオントランスフェラーゼは、膜系中で区分けされて、グルタチオントランスフェラーゼが存在する領域においてクエンチを生じさせ、そして増強させ得る。
【0052】
クエンチャーはまた、例えば、酵素の反応により、または前駆体分子からの化学的再配列を通して、インサイチュで生成され得る。酵素的触媒によりインサイチュでクエンチャーを生成する化合物の例は、アミフォステン(Ethyol(登録商標)、U.S.Bioscience、West Conshohocken、PA)である。
【0053】
(血液製剤の処置のためのクエンチャーの好ましい性質)
1つの実施態様において、赤血球を含む生体材料中の病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチするための方法が提供される。例えば、材料は約30〜85%のヘマトクリットを有する血液製剤であり得る。病原体不活性化化合物は、好ましくは、求電子基であるか、または求電子基を形成し得る官能基を含む。
【0054】
クエンチャーは、病原体不活性化化合物を加える前、それと同時に、またはその後、血液製剤に加えられる。好ましくは、血液製剤の処理において、クエンチャーは病原体不活性化化合物の前に、またはそれと同時に加えられる。別の好適な実施態様において、クエンチャーは、病原体不活性化化合物を加える約30分以内に、また早く15〜20分以内に、または必要に応じて約10分以内に加えられる。処理され得る血液製剤の例は、全血、血小板、赤血球、および血漿を含む。好ましいクエンチャーは、病原体不活性化または血液製剤に有意に影響を与えること無く、反応性化合物の望まない副反応を減少させる化合物である。例えば、クエンチャーは、病原体不活性化化合物で処理される血液製剤へ加えられ得、ここで病原体不活性化化合物は、i)核酸結合リガンド(核酸へ非共有結合的に結合し得る);およびii)カチオン性求電子基のような求電子基であるか、またはそれを形成し得る基、を含む。病原体不活性化または処理される特定の血液製剤の性質に有意に影響を与えることなく化合物の望まない副反応を減少し得るクエンチャーが好ましい。1つの好適なクエンチャーはグルタチオンである。
【0055】
好適な実施態様における病原体不活性化化合物は、核酸結合リガンドおよびインサイチュで反応して求電子基を形成し得るマスタード基を含み、ここで求電子基はアジリジニウムイオンである。非共有結合核酸リガンドおよびマスタード基を含む化合物が、例えば、米国特許第5,559,250号において記載される。例示的な化合物は、キナクリンマスタードを含む。これらの化合物は、病原体の核酸物質に結合し、そしてそれをアルキル化することにより、病原体を不活性化すると思われる。不活性化反応において、化合物上のマスタード基は反応性アジリジニウムイオンを形成する。病原体の核酸は、化合物により形成された求電子アジリジニウム中間体への核酸の求核攻撃により化合物と反応すると思われる。どのような理論にも制限されていないが、グルタチオンのようなクエンチャーは、求電子アジリジニウム中間体へのクエンチャーの求核攻撃により、類似の様式でこれらの病原体不活性化化合物と反応し、もはや核酸と反応し得ない反応生成物(単数または複数)を生成すると思われる。
【0056】
どのような理論にも制限されていないが、求核試薬(Nu1およびNu2)の病原体不活性化化合物上のマスタード基との反応の、提案される機構は、以下のスキームIに示される。
【0057】
【化3】

マスタード基は、スキームIに示されるように、プロトン化型Bに、または脱プロトン化型Aに、のいずれかであり得る。典型的には、生理学的pHにおいて、アジリジニウム中間体CおよびEの分子内形成が容易となる。アジリジニウム中間体CおよびEと反応し得る求核基を含むクエンチャーが使用され、最終生成物Fを形成し、ここで求核基はマスタード基の塩素原子と置換する。
【0058】
アジリジニウムイオンの反応性は高いが、反応速度は依然として反応する求核試薬の性質に依存する。その上さらに、クエンチャー求核試薬は、例えば、存在する他の内因性求核試薬よりも高い濃度で存在する場合、またはそれらがより反応性が高い場合、他に存在する内因性求核試薬と競合し得る。生理学的条件下、好適な求核基は、チオール基である。他の求核基は、ホスフェートおよびアミノ基を含む。
【0059】
クエンチャーは、好ましくは、血液製剤の機能を維持し、かつ病原体不活性化化合物の副作用を最小限にする。血液製剤、特に赤血球を含む血液製剤の処理のための好適なクエンチャーは、グルタチオンである。グルタチオンは、マスタード基を含む病原体不活性化化合物のような、アジリジニウム中間体を形成する病原体不活性化試薬と組み合わせた材料を含む赤血球の処理において使用するのに特に有用である。グルタチオンのチオール基は、親マスタード化合物とよりも速くアジリジニウム中間体と反応する。
【0060】
クエンチャーは、好ましくは、細胞膜およびウイルス脂質被覆のような病原体外部膜を実質的に通り抜けない。クエンチャーは、好ましくは、病原体不活性化化合物により引き起こされる病原体の核酸に対する損傷をクエンチャーが有意に減少させるほどの程度で、ウイルス、バクテリア、および他の標的病原体の脂質膜を通り抜けない。さらに、クエンチャーは、好ましくは、病原体不活性化化合物自身と反応するよりはむしろ、この化合物から形成された求電子基と反応する。任意の理論により制限されないが、病原体不活性化化合物は、ウイルス脂質被覆およびバクテリア膜のような病原体膜を自由に通過し得るが、しかしアジリジニウムイオンのようなカチオン性求電子基が形成された後、化合物はどのような有意の程度でも病原体膜を通過し得ないと思われる。従って、標的病原体の外側で形成される求電子カチオンは、実質的に核酸と架橋し得ない;しかしながら、クエンチャーはそれらと反応し得る。逆に言えば、1つの実施態様において、求電子カチオンが病原体の内側で形成される場合、クエンチャーは病原体膜を通り抜ける能力が無く、そして核酸の架橋は加えられたクエンチャーから実質的に有意の干渉を受けることなく進行する。
【0061】
病原体不活性化化合物による病原体不活性化に干渉することなく、クエンチャーが病原体不活性化化合物と反応して望まない副反応をクエンチすることが好ましい。このことは、例えば、実質的に病原体膜を横切らないクエンチャーの使用により生じ得、そしてそれ故に副反応を病原体膜の外側でクエンチする。別の実施態様において、クエンチャーは、病原体不活性化化合物、またはそれらから形成される反応性中間体と速度論的に非常にゆっくりと反応し得る、すなわち、実質的に病原体不活性化と干渉しない。
【0062】
1つの実施態様において、クエンチャーは、第一および第二相を分離する膜を含む2相系のような多相系へ投与され得る。1つの実施態様において、2相系において1つの相は膜により閉じられている。膜は、天然または合成分子、あるいはそれらの混合物で構成された、天然または合成の半透過性バリアであり得る。例えば、膜で閉じられた相は、病原性有機体の内部であり得、そして他方の相は、病原性有機体が含まれている相であり得る。例えば、病原体は、血液を含む液相のような流体相中に懸濁され得る。膜に閉じられた相は、例えば、ウイルス核酸を含むウイルス脂質被覆の内部であり得る。別の実施態様において、膜は細胞膜であり得、そして膜で閉じられた相は、バクテリアのような病原性単細胞有機体の内部であり得る。病原体不活性化化合物の少なくとも一部分が、好ましくは、速度論的または熱力学的に膜を通り抜け得、一方でクエンチャーは、病原体不活性化化合物と比較して、実質的に、速度論的または熱力学的に膜を通り抜け得ない。
【0063】
他の膜は、例えばLasic,D.、Liposomes in Gene Deliverly、CRC Press、Boca Raton、FL、1997、第6章において記載されるように、リポソームを含む。リポソームは、レシチン、スフィンゴミエリン、およびホスファチジルエタノールアミンのような自己集合した両親媒性分子を使用して小胞性粒子として形成され得る。リポソームはまた、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、およびホスファチジルイノシトールのような、負に電荷を帯びた脂質を使用して形成され得る。カチオン性リポソームもまた、市販されているカチオン性界面活性剤を使用するか、または以下に記載されるようにコレステロールに連結したポリカチオン性基を使用して、調製され得る;GaoおよびHuang、Biochem.Biophys.Res.Commun.、179:280〜285(1991);Nucleic Acids Res.、21:2867〜2872(1993);およびBiochemistry、35:1027〜1036(1996)。膜はまた、米国特許第5,753,258号において記載されるように、人工ウイルス外被を含む(その開示は本明細書中で援用される)。膜はさらに、白血球のような非病原性細胞の膜を含む。
【0064】
1つの実施態様において、その中に膜を含む病原体を有する液体を含む第一の相、および病原体の膜により閉ざされた第二の相を含む、2相の生体材料において病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチするための方法が提供される。生体材料は、求電子基を形成し得る官能基を含む病原体不活性化化合物で処理される。病原体不活性化化合物で処理される前、それと同時に、またはその後、生体材料は、求電子基と共有結合的に反応し得る求核基を含むクエンチャーで処理される。好ましくは、クエンチャーは病原体不活性化化合物の前、またはそれと同時に加えられる。別の好適な実施態様において、クエンチャーは、病原体不活性化化合物を加える前後の約30分以内、または約15〜20分以内、または必要に応じて約10分以内に加えられる。
【0065】
好ましくは、病原体不活性化化合物は、クエンチャーと比較して、求電子基を形成する前に、実質的に速度論的に膜を通り抜ける。病原体不活性化化合物はまた、好ましくは、求電子基の形成前の病原体不活性化化合物と比較して、求電子基の形成後、実質的に速度論的に膜を通り抜けない。クエンチャーは、病原体不活性化化合物の求電子基と反応することが可能であり、そしてクエンチャーの病原体不活性化化合物の求電子基との反応は、実質的に第一相で生じる。求電子基を含む病原体不活性化化合物は、病原体膜内の第二相で病原体の核酸と反応し、それにより病原体を不活性化する。膜は、例えば、脂質を含み得る。病原体は、例えば、膜を規定する脂質被覆を含むウイルスであり得、ここで第二相は、脂質被覆の内部により規定される。病原体はまた、2相系の膜を規定する脂質を含む細胞膜を含むバクテリアであり得、ここで第二相は、細胞膜の内部により規定される。
【0066】
有利なことには、2相系において、クエンチャーは第一相へ投与され、そして実質的に病原体の膜を通り抜け得ない。病原体不活性化化合物は、例えば、第一相へ投与される。病原体不活性化化合物は、求電子基の形成前に、膜を通り抜けて第二相へ移り得る。インサイチュでの求電子基の形成に際して、病原体不活性化化合物は、実質的にもはや膜を通り抜け得ない。従って、クエンチは選択的に第一相において生じ、一方で第二相、すなわち病原体の内部において、病原体不活性化化合物はクエンチされることなく病原体の核酸と反応する。従って、血液製剤のような生体材料において、病原体不活性化化合物およびその分解生成物上の反応基のクエンチは、病原体が懸濁している第一相において選択的に生じる。従って、第一相におけるクエンチは、第一相において病原体不活性化化合物上の反応基の望まない副反応(例えば、血液中のタンパク質の共有結合的改変)を減少する。この方法において、病原体不活性化化合物およびクエンチャーは、病原体不活性化化合物の望ましくない副反応をクエンチしながら、材料中の病原体を不活性化するのに有効な量で投与される。従って、クエンチャーは、病原体不活性化を生じさせながら、血液製剤のような材料中の望まない副反応を減少させるということにおいて、保護的効果を有する。
【0067】
グルタチオンは、それをクエンチャーとして特に有用にする多くの性質を有する。それは、通常全ての細胞型に存在する。それは、バクテリアおよび脂質外被ウイルスの細胞膜または脂質被覆のような膜を受動的に通過し得るとは、実質的に思われない。pH7において、グルタチオンは電荷を帯び、そして能動輸送が存在しない場合、脂質二重層を有意の程度で透過しない。このことは、VSVおよびグルタチオンにより実質的に影響を受けない他の外被ウイルスのウイルス不活性と矛盾しない。HIVおよびVSVのような脂質外被ウイルスの不活性化は、グルタチオンまたはN−アセチルシステイン、2個のチオールクエンチ剤の存在により影響されない。グルタチオンはウイルス不活性化においてほとんど効果が無く、そして一方でそれはStaphylococcus epidermisおよびYersinia enterocoliticaの不活性化にいくらか効果を有する。これは加えられるクエンチャーの用量を最小限にすることにより操作され得る。例えば、約2〜4mMのグルタチオンの存在は、約1〜2 log殺傷で、0.3mM PIC−1によるYersinia enterocoliticaの不活性化を減少させる。グルタチオンはまた、赤血球のインビトロ貯蔵と両立し得る。
【0068】
実質的に、処理後に赤血球機能に損傷を与えないか、または赤血球を改変せず、かつまた実質的に病原体不活性化化合物による病原体不活性化を減少させないクエンチャーが好ましい。赤血球機能へ実質的に損傷を与える効果のないことは、赤血球機能の試験について当該分野で公知の方法により測定され得る。例えば、細胞内ATP(アデノシン5’−三リン酸)、細胞内2,3−DPG(2,3−ジホスホグリセロール)、または細胞外カリウムのような指標の濃度が測定され、そして未処理のコントロールと比較され得る。さらに、溶血、pH、ヘマトクリット、ヘモグロビン、浸透圧脆弱性、グルコース消費量、および乳酸生成が測定され得る。
【0069】
ATP、2,3−DPG、グルコース、ヘモグロビン、溶血、およびカリウムを測定するための方法は、当該分野で利用可能である。例えば、Daveyら、Transfusion、32:525〜528(1992)を参照のこと(その開示は、本明細書中で援用される)。赤血球機能を測定するための方法もまた、Greenwaltら、Vox Sang、58:94〜99(1990);Hogmanら、Vox Sang、65:271〜278(1993);およびBeutlerら、Blood、第59巻(1982)において記載される(これらの開示は、本明細書中参考として援用される)。細胞外カリウム濃度は、Ciba Corning Model 614K+/Na+ Analyzer(Ciba Corning Diagnostics Corp.、Medford、MA)を使用して測定され得る。pHは、Ciba Corning Model 238 Blood Gas Analyzer(Ciba Corning Diagnostics Corp.、Medford、MA)を使用して測定され得る。
【0070】
グルタチオンのようなクエンチャーの存在下、赤血球を、核酸結合リガンドおよびマスタード基を含む病原体不活性化化合物で処理する方法において、好ましくは、1つの実施態様において、細胞外カリウムの濃度は、1日後、未処理のコントロール中に示される量の3倍よりも大きくはなく、より好ましくは2倍以下である。
【0071】
また、1つの実施態様において、病原体不活性化の間、溶血または他の損傷のような赤血球の望ましくない改変を阻害するクエンチャーが好ましい。好ましくは、処理された赤血球の溶血は、28日貯蔵後に3%未満、より好ましくは42日貯蔵後に2%未満、そして最も好ましくは4℃で42日貯蔵後に約1%未満またはそれと等しい。
【0072】
赤血球への、IgG結合のようなタンパク質結合を減少し得、かつクエンチャーの不在下行われたコントロールと比較して病原体不活性化を実質的に阻害しない条件下で使用され得るクエンチャーが好ましい。病原体不活性化化合物の赤血球表面への結合を阻害するクエンチャーもまた好ましい。例示的なクエンチャーはグルタチオンである。グルタチオンは、病原体不活性化化合物による赤血球の潜在的な改変を、有利に減少する。
【0073】
IgG、アルブミン、およびIgMのような種の赤血球への結合もまた、当該分野で利用可能な方法を使用して測定され得る。1つの実施態様において、クエンチャーの存在下、核酸結合リガンドおよびマスタード基のようなエフェクターを含む病原体不活性化化合物で赤血球を処理する方法において、IgGの赤血球への結合は、クエンチャーの不在下におけるIgGの結合と比較して減少し得る。グルタチオンのようなクエンチャーおよび病原体不活性化化合物の存在下のIgGの赤血球への結合は、好ましくは、クエンチャーの不在下のIgG結合の約75%未満、または好ましくは約50%未満である。
【0074】
赤血球への分子の結合は、例えばアクリジンおよびIgGに対する抗体を使用して検出され得る。アッセイにおいて使用するための抗体は、市販で入手され得るか、または当該分野で利用可能な方法を使用して作られ得る(例えば、HarlowおよびLane、「Antibodies,a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,」1988において記載される(この開示は本明細書中参考として援用される))。例えば、抗−IgGは、Caltag、Burlingame、CA;Sigma Chemical Co.、St.Louis、MO、およびLampire Biological Laboratory、Pipersvelle、PAから市販されている。
【0075】
病原体不活性化化合物またはそのフラグメントの赤血球への結合を減少させるクエンチャーが好ましい。赤血球を含む生体材料が、マスタード基のようなエフェクターおよびアクリジン基のような核酸結合基を含む病原体不活性化化合物で処理される実施態様において、病原体不活性化化合物またはそのフラグメントの赤血球への結合は、減少され得る。例えば、病原体不活性化化合物から誘導されるアクリジン(ここで核酸結合リガンドがアクリジンである)の赤血球への結合は、グルタチオンのようなクエンチャーの存在下減少され得る。好適な実施態様において、クエンチャーの存在下、アクリジン基を含む病原体不活性化化合物で処理された赤血球へのアクリジンの結合は、クエンチャーの不在下のアクリジン結合の、約75%未満、または好ましくは約50%未満、または別の好適な実施態様において、約5%未満である。
【0076】
1つの実施態様において、病原体不活性化後、反応性求電子アルキル化種の濃度を、例えば、約1〜48時間以内、例えば約24時間で、少なくとも約5%、または約20%、または必要に応じて約50%、またはそれより多く減少させるクエンチャーが提供される。反応性求電子種の存在は、LC−MS(液体クロマトグラフィー−質量分析)を含むクロマトグラフィー法のような当該分野で利用可能な方法を使用して、測定され得る。
【0077】
1つの実施態様において、病原体不活性化化合物による病原体の不活性化を、クエンチャーの不在下行われたコントロールの病原体不活性化と比較して、約1 logより多く、または約2 logより多く、または必要に応じて、約3 logより多く、あるいは別の実施態様において4 logよりも多くは決して減少させないクエンチャーがまた、好ましい。好ましくは、クエンチャーは、病原体不活性化化合物によるウイルス性病原体の不活性化を、クエンチャーの不在下行われたコントロールの病原体不活性化と比較して、約1 logよりも多く、または約2 logよりも多く、または必要に応じて約3 logよりも多くは決して減少させない。病原体不活性化化合物およびクエンチャーの濃度は、所望のlog殺傷を得るように、およびクエンチャーの存在により生じ得る不活性化の減少を最小限にするように調製され得る。
【0078】
1つの好適な実施態様において、ある方法が提供され、ここでその方法は、赤血球含有材料を、有効量の病原体不活性化化合物およびクエンチャーで処理して病原体の少なくとも2 logを不活性化する工程を含み、そしてここで、赤血球機能は、処理により実質的に変更されない。別の好適な実施態様において、ある方法が提供され、ここでその方法は、材料を、有効量の病原体不活性化化合物およびクエンチャーで処理して病原体の少なくとも2 logを不活性化する工程を含み、そしてここで、赤血球の溶血は、処理後28日の貯蔵後、3%未満である。
【0079】
グルタチオンで処理された赤血球は、未処理のコントロールと比較して、赤血球機能において有意な差異を示さない。グルタチオンそれ自身は、インビボまたはインビトロ機能アッセイにより測定されるように、有意な程度に赤血球溶解または他の損傷に寄与しない。グルタチオンは、病原体不活性化化合物の存在下の赤血球溶解を減少させ得る。赤血球は、インビトロまたはエキソビボでグルタチオンで処理され得る。チオ硫酸、MESNA、およびN−アセチルシステインのようなある化合物は、クエンチのために有効な濃度で活性ではないか、または赤血球を改変し得るかのいずれかである。
【0080】
(病原体不活性化およびクエンチの条件)
生体材料を病原体不活性化化合物およびクエンチャーで処理して望まない副反応を減少させるための条件は、選択された材料、クエンチャーおよび不活性化する化合物に基づいて選択され得る。種々の生体材料が、例えばインビトロまたはエキソビボで、病原体不活性化化合物およびクエンチャーで処理され得る。条件は、生体材料を実質的に変化させない一方で、病原体不活性化を生じさせるように選択される。
【0081】
好適な実施態様において、血液製剤は、核酸結合リガンドおよびマスタード基のようなエフェクターを含む病原体不活性化化合物で不活性化され、ここでマスタード基はインサイチュで反応性求電子基を形成し得る。血液製剤は、クエンチャーで処理されて、血液製剤の性質に有意に影響することなく、病原体不活性化化合物の望まない副反応を防止する。クエンチャーは、病原体不活性化化合物の前、後、またはそれと同時に加えられ得る。好ましくは、クエンチャーは病原体不活性化化合物の前、またはそれと同時に血液製剤に加えられる。別の好適な実施態様において、クエンチャーは病原体不活性化化合物を加えた前後の約30分以内、または約15〜20分以内、または必要に応じて約10分以内に加えられる。赤血球含有材料は、例えばインビトロまたはエキソビボで処理され得る。
【0082】
処理される血液製剤中の病原体不活性化化合物およびクエンチ剤の濃度は、赤血球機能のような材料の性質を依然保護しながら、そしてまた病原体の所望のlog殺傷を達しながら、望まない副反応の所望の減少を生じるために必要とされるのに応じて、調製され得る。
【0083】
クエンチャーの濃度は、1つの非制限的例では、約0.1mM〜約30mM、または約0.5mM〜30mMであり得る。赤血球の処理に適した条件の非制限的例は、約0.1mM〜約30mMのグルタチオン、例えば、約0.5mM〜約20mM、または約2mM〜4mMのグルタチオン、あるいは1つの実施態様において約1mM〜3mMである。
【0084】
クエンチャー:病原体不活性化化合物のモル比は、1つの非制限的実施態様において、約100:1〜1:1、例えば約50:1、または例えば約10:1の範囲であり得る。赤血球の処理のために使用され得る、グルタチオン:病原体不活性化化合物の非制限的例示的な比は、約100:1〜1:1、例えば約50:1〜1:1、または別の実施態様において、約10:1〜約2:1であり得る。1つの好適な実施態様において、グルタチオン:病原体不活性化化合物のモル比は約10:1である。例えば、赤血球を含む組成物の処理において、グルタチオンのモル濃度は、好ましくは、病原体不活性化化合物のモル濃度の約5〜20倍、例えば約10倍である。クエンチャーの病原体不活性化化合物に対する比は、選択された病原体不活性化化合物およびクエンチャーに依存して変化し得る。
【0085】
核酸結合リガンドおよびマスタード基のようなエフェクターを含む病原体不活性化化合物の典型的な濃度は、約0.1μM〜5mM、例えば約50〜500μMのオーダーである。例えば、サンプル中の病原体の、少なくとも約1 log、例えば少なくとも約3〜6 log、または必要に応じて少なくとも約5〜6 logを不活性化するのに十分である、病原体不活性化化合物の濃度が使用され得る。1つの実施態様において、好ましい病原体不活性化化合物は、約500μMよりも決して多くない濃度で少なくとも1 log殺傷を、より好ましくは約500μMよりも決して多くない濃度で少なくとも3 log殺傷を生じるものである。別の非制限的な例において、病原体不活性化化合物は、約0.1μM〜約3mMの濃度において少なくとも1 log殺傷を、好ましくは少なくとも6 log殺傷を有し得る。例えば、約0.15mMのキナクリンマスタードおよび約3mMのグルタチオンの濃度は、赤血球機能を保護しながら、赤血球含有組成物中の2 logより多いVSVおよびHIVを不活性化するために使用され得る。
【0086】
1つの好適な実施態様において、ある方法が提供され、ここでその方法は、赤血球含有材料を有効量の病原体不活性化化合物およびクエンチャーで処理して病原体の少なくとも2 logを不活性化する工程を含み、そしてここで赤血球機能は処理により実質的に変更されない。別の好適な実施態様において、ある方法が提供され、ここでその方法は、材料を有効量の病原体不活性化化合物およびクエンチャーで処理して病原体の少なくとも2 logを不活性化する工程を含み、そしてここで赤血球の溶血は28日間の貯蔵後で3%未満である。
【0087】
病原体不活性化化合物およびクエンチャーとの血液製剤のインキュベーションは、例えば少なくとも約0.5〜48時間またはそれより多く、例えば少なくとも約1〜48時間、または少なくとも約1〜24時間、あるいは、例えば少なくとも約8〜20時間行われ得る。別の実施態様において、インキュベーションは、さらに材料を加工処理または使用するまで続く。
【0088】
クエンチャーは、病原体不活性化化合物の前、それと同時に、またはその後に血液製剤のような材料に加えられ得る。好ましくは、クエンチャーは、病原体不活性化化合物の前、またはそれと同時に加えられる。別の好適な実施態様において、クエンチャーは、病原体不活性化化合物を加える前後の約30分以内、または約15〜20分以内に加えられる。
【0089】
グルタチオンのようなあるクエンチャーは、経時的に酸化されるかまたはそれ以外で分解するか、または反応し得る。例えば、クエンチャーがチオール含有化合物である場合、クエンチャーは酸化されてジスルフィド二量体を形成し得る。クエンチャーがインサイチュで実質的に分解してしまうかまたはそれ以外に反応してしまう前に、クエンチャーが病原体不活性化化合物をクエンチし得るような時および濃度で、クエンチャーを材料へ加えることが好ましい。例えば、クエンチャーがグルタチオンである場合、グルタチオンが病原体不活性化化合物の前に加えられる実施態様において、グルタチオンは好ましくは、病原体不活性化化合物を加える約12時間未満前に加えられる。好適な実施態様において、グルタチオンは病原体不活性化化合物と同時に加えられる。別の実施態様において、グルタチオンは、病原体不活性化化合物を加えた後、30分以内に、または約15〜20分以内に、または必要に応じて約10分以内に加えられる。病原体不活性化化合物を加えた時間と近いグルタチオンの添加は、例えば血漿のようなある生体材料中で起こり得る、例えば酸化またはペプチド分解による、グルタチオン濃度の可能な減少を最小限にすることに対して有利である。
【0090】
赤血球については、インキュベーションは典型的には、約2℃〜37℃、好ましくは約18℃〜25℃の温度で行われる。例えば、クエンチャーがグルタチオンである場合、赤血球は、病原体不活性化化合物およびグルタチオンとともに、約22℃の温度で約12時間インキュベートされ得る。血小板については、温度は好ましくは約20〜24℃である。血漿については、温度は約0〜60℃、代表的には約0〜24℃であり得る。
【0091】
(生体材料)
種々の生体材料が、病原体不活性化化合物およびクエンチ化合物で処理され得る。クエンチ化合物で処理され得る生体材料は、全血、濃縮赤血球、血小板、および新鮮なまたは凍結した血漿のような血液製剤を含む。血液製剤はさらに、血漿タンパク質部分、抗血友病因子(因子VIII)、因子IX、および因子IX複合体、フィブリノーゲン、因子XIII、プロトロンビンおよびトロンビン、免疫グロブリン(例えば、IgG、IgA、IgD、IgE、およびIgM、ならびにそれらのフラグメント)、アルブミン、インターフェロン、ならびにリンホカインを包含する。合成血液製剤もまた意図される。
【0092】
他の生体材料は、ワクチン、組み換えDNA製造タンパク質、およびオリゴペプチドリガンドを含む。尿、汗、唾液、糞便、脊髄液のような臨床サンプルもまた包含される。さらに合成血液または血液製剤貯蔵媒体が包含される。
【0093】
(処理後の材料中の化合物の濃度の減少)
血液製剤のような生体材料中の病原体不活性化化合物および/またはクエンチャーの濃度は、処理後、例えばバッチ中への吸着またはフロー除去プロセスにより減少され得る。使用され得る方法および装置は、PCT US96/09846;米国特許出願番号第08/779、830号(1997年1月6日出願);および同時出願において、米国特許出願番号第09/003,113号(1998年1月6日出願)において記載される(これらのそれぞれの開示は、その全てにおいて参考として本明細書中で援用される)。
【0094】
本発明は、以下の非制限的な実施例を参考にすることにより、さらに理解される。
【0095】
(材料)
以下の材料を、以下の実施例において使用した。
【0096】
Adsolは、Baxter Healthcare Corp.、Deerfield、ILから市販されているが、今回および以下の実験において使用されたAdsolは、以下の混合物を滅菌濾過することにより作成した:1リットルの蒸留水中、22gのグルコース、9gのNaCl、7.5gのマンニトール、および0.27gのアデニン。
【0097】
エリトロゾルは、Baxter Healthcare Corp.、Deerfield、ILから入手したか、または1リットルの蒸留水中、クエン酸ナトリウム二水和物(7.82g);酸性リン酸ナトリウム二水和物(0.73g);リン酸ナトリウム二水和物(3.03g);アデニン(0.22g);マンニトール(7.74g);およびグルコース(9g)を混合することにより作製した。
【0098】
キナクリンマスタードは、Aldrich Chemical Co.、St.Louis、MOから入手した。グルタチオンおよびシステインは、Sigma、St.Louis、MOから入手した。PIC−1(β−アラニン,N−(アクリジン−9−イル),2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル)は、米国仮出願番号第60/043,696号(1997年4月15日出願)に記載されるとおりに合成した(この開示は本明細書中で援用される)。PIC−2(β−アラニン,N−(アクリジン−9−イル),2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルアミド)は、米国特許出願番号第09/003,115号(1998年1月6日出願)に記載されるとおりに合成した(この開示は本明細書中で援用される)。
【0099】
水疱性口内炎ウイルス(VSV)は、ATCC American Type Cell Culture、Rockville、MDから入手した(力価8.8 log単位)。
【0100】
全血をSacramento Blood Center(Sacramento CA)から入手した。
【0101】
濃縮赤血球(PRBC)を、Sacramento Blood Centerから約55〜65%のヘマトクリット(HCT)で入手したか、または添加溶液としてAdsolまたはErythrosolを使用して以下のように調製した:受け取りの20時間以内に、Sacramento Blood Bankから受け取った全血の単位を3800rpmで5分間遠心分離し、そして血漿を別の容器中へ急送した;毛細管を血液サンプルで満たし、そして5分間回転させることにより、%ヘマトクリットを測定した;赤血球により占められる体積を較正曲線と比較した;94mLのAdsolまたはErythrosolを加えた;最終のヘマトクリットを処理に応じて50〜60%の範囲にした。
【実施例】
【0102】
(実施例)
(実施例1:リン酸イオンと病原体不活性化化合物との反応)
リン酸イオンと病原体不活性化化合物との反応性を実証した。反応性は、より高いpH値、より高い温度、そしてより高いリン酸イオン濃度となるにつれて増加することが分かった。
【0103】
室温(RT)でpH値の増加する、25mMリン酸緩衝液での100μM PIC−1のインキュベーションにおいて、分解速度の大きな増加を観測した。pH約6で25分のt1/2と比較して、pH2.2において、450分のt1/2を観測した。PIC−1のリン酸イオンとの反応は、HPLCにより測定されるように、少なくとも2種の観測可能なリン酸中間体を生成する。PIC−1の二リン酸エステルはさらに、壊れやすいエステルで加水分解する。PIC−1とリン酸イオンとの間の反応混合物のLC/MS分析を行なった。反応条件(pH=7,リン酸緩衝液)下観測された種は、ジオールの二リン酸エステル、一リン酸エステル、およびクロロヒドロキシ化合物のリン酸エステルであった。
【0104】
キナクリンマスタード(これは、壊れやすいリンカーを欠いている)もまた、リン酸イオンと反応する。室温での、100μMのキナクリンマスタードと50mMのリン酸との反応は、37℃での、130mMのリン酸との同一反応よりもゆっくりである(それぞれ、t1/2=10分、および3.5分)。このことは、最終生成物のビスホスホエステルのよりゆっくりとした生成、および中間体種のより長い寿命の両方により実証される。
【0105】
キナクリンマスタードとグルコース−6−リン酸との反応もまた、pH=7.8で容易であった。HPLCにより新しい生成物種を観測し、少なくとも1種の付加物がグルコース−6−リン酸と形成されることと一致する。
【0106】
(実施例2:チオールおよび他の求核試薬と病原体不活性化化合物との反応)
チオール含有化合物グルタチオンと病原体不活性化化合物との反応性を研究した。反応性は、より高いpH値、より高い温度、そしてより高いチオール濃度になるにつれて増加することが分かった。1mMのキナクリンマスタードを、25mMのHEPES(N−[2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−[2−エタンスルホン酸]、Sigma、St.Louis、MO中、pH7で、4mMのグルタチオン(GSH)とともにインキュベートした。さらに、100μMのPIC−1を、室温で、25mMのHEPES中、pH7で、4mMのGSHとともにインキュベートした。キナクリンマスタードおよびPIC−1とグルタチオンとの反応は、それぞれ50分および32分のt1/2で生じた。PIC−1/GSHビス付加物を質量分析により同定した。初期の時点でのグルタチオンとの反応混合物のLC/MS分析は、グルタチオンモノ付加物/アジリジニウム中間体を同定した。
【0107】
チオールと病原体不活性化化合物との反応をまた、チオール基の消滅をモニターすることで追跡し、Ellman反応を通して測定した。これはAldrichimica Acta、4:33(1971)において記載されるように行ない、その開示は本明細書中援用される。Ellman反応は、1:1.9の化学量論で、そしてキナクリンマスタードの分解と一致する時間推移で、2個の2−クロロエチル基を含む化合物(キナクリンマスタード)とチオールとの反応を実証した。これらの結果は、マスタード中心での定量的なグルタチオンの反応性がチオエーテル共有結合を形成することを実証する。
【0108】
他のチオールがPIC−1と反応することを見出し、これにはN−アセチルシステイン、システイン、ホモシステイン、ジペプチドGlyCys、アミノエタンチオール、ジメチルアミノエタンチオール、ジチオトレイトール、2−メルカプトニコチン酸、2−メルカプトベンズイミダゾールスルホン酸、およびキノリンチオールが含まれる。チオールは、Aldrich Chemical Company(St.Louis MO)または(Sigma、St.Louis MO)から市販されている。全ての場合において、中間体種の形成を、反応混合物のHPLC分析を通して観測し、そしてスルフヒドリル基の消費をEllman反応を通して観測した。キナクリンマスタードはまた、求核試薬、チオ硫酸、ヒドロスルフィド(HS-)、およびジチオカルバメートと反応することを見いだした。
【0109】
(実施例3:グルタチオンの赤血球膜透過の研究)
グルタチオンの赤血球膜を透過する能力をウイルスの外被に対するモデル膜系として研究した。というのは両者がこのペプチドに対してどのような能動輸送系も欠いているからである。赤血球(Sacramento Blood Centerの濃縮赤血球、HCT55〜65%)の内側と外とのGSHの分配を、外因性グルタチオンを加えた後の、細胞の内側および外側におけるチオール基の量を測定することにより評価した。表2は、グルタチオン総量(細胞内および上清)および赤血球のグルタチオン細胞内量を3mMのGSHの添加するかまたは添加しない場合の時間の関数として示す。GSHの濃度は、Beckman DU−20(Beckma、Irvine、CA)単波長分光計を使用して、412nmでの吸光度に基づいて計算した。結果は、両コンパートメント中のスルフヒドリル基の量が一定のままであることを示す。
【0110】
【表2】

(実施例4:水疱性口内炎ウイルスのキナクリンマスタードでの不活性化)
病原体不活性化剤の添加に続いて15分後、種々のクエンチャーを加えた効果を研究した。水疱性口内炎ウイルス(VSV)(ATCC American Type Cell Culture、Rockville、MD、力価8.8log単位/mL)を、Sacramento Blood Center(Sacramento、CA)から入手した、HCT55〜65%の濃縮赤血球(PRBC)中に希釈し、そして150μMのキナクリンマスタード(QM)で処理した。QMを加えて15分後、種々のクエンチャーを1mMと10mMとの間の用量で加えた。クエンチャーは、アミノエタンチオール(AET)、チオ硫酸、グルタチオン、およびN−アセチルシステイン(NAC)であり、これらはAldrich Chemical Co.(St.Louis MO)から入手した。4時間室温でインキュベート後、生存能力のあるウイルスをウイルスプラークアッセイで評価した(Markusら、Virology、57:321〜338(1974))。
【0111】
表3は、インキュベーションの15分後に加えられた種々のクエンチャーの存在下、150μMのQMによるVSVの不活性化の結果を示す。クエンチャーの不在下、QMは3.5 logのVSVを不活性化した。AETおよびチオ硫酸は、用量依存性の様式で不活性化を減少させた。グルタチオンもNACも、いずれもVSV不活性化の減少を示さなかった。
【0112】
【表3】

(実施例5:種々のクエンチャーを同時に加えたキナクリンマスタードでの水疱性口内炎ウイルスの不活性化)
病原体不活性化化合物と同時に加えられた種々のクエンチャーの効果を研究した。水疱性口内炎ウイルス(VSV)を、濃縮赤血球(PRBC)中へ希釈した。次いで、PRBCを、150μMのキナクリンマスタード(QM)、および3mMと30mMとの間の用量で加えられた種々のクエンチャーで同時に処理した。クエンチャーは、アミノエタンチオール(AET)、チオ硫酸、グルタチオン、N−アセチルシステイン(NAC)、システイン、およびメルカプトエタンスルホン酸ナトリウム塩(MESNA)であり、これらはAldrich Chemical Co.(St.Louis MO)から入手した。室温4時間の不活性化後、生存能力のあるウイルスを、ハムスター新生児腎臓(BHK)細胞に対するウイルスの細胞変性効果(CPE)を評価することによるCPEアッセイで、評価した(Baxtら、Virology、72:383〜392(1976))。
【0113】
表4は、150μMのQMによるVSVの不活性化を、AET、チオ硫酸、グルタチオン、またはNACの同時添加で実施した実験の結果を示す。この実験において、VSVは検出下限まで殺傷され、>4.0 logが不活性化した。従って、特定のクエンチャーはこの限界により覆い隠されたウイルス不活性化の効果を有し得る。AETおよびチオ硫酸は再びウイルス不活性化の有意な阻害を示し、そしてAETはより強力なインヒビターであった。グルタチオンおよびNACは、10mMの濃度までウイルス殺傷に影響する証拠を示さず、そして30mMで阻害の証拠をいくらか示した。
【0114】
【表4】

表5は、150μMのQMによるVSVの不活性化を、グルタチオン、システイン、またはMESNAの同時添加で行なった別の実験結果を示す。QM単独による不活性化は3.0 logであり、そしてこのレベルはたとえ30mMでもグルタチオンにより影響されなかった。システインは、ウイルス不活性化において用量依存性減少を示し、そしてMESNAは、30mMのクエンチャーで2.3 log殺傷の混合した結果を与えた。
【0115】
【表5】

(実施例6:病原体不活性化剤およびクエンチャーを使用するHIVの不活性化)
PRBC中の病原体不活性化剤によるHIVの不活性化に対するグルタチオンの効果を試験した。PRBCを、Adsol添加溶液中ほぼ60%のヘマトクリットで調製した。セルフリーのHIV−IIIBのストック(Popovicら、Science、224:497(1984)、ほぼ8 log/mL)を加えて、ほぼ7 log/mlの力価にした。
【0116】
HIV混入血液のアリコートに、グルタチオンを加えて種々の最終濃度にし、続いて50μMのPIC−1を加えた。サンプルを室温で12時間インキュベートした。次いで、赤血球をペレットにし、上清フラクション中の残存ウイルスを、ミクロ−プラークアッセイを使用して検出した(Hansonら、J.Clin.Microbio.、28:2030(1990))。HIV生存能力におけるグルタチオンの効果を測定するために、コントロールサンプルをグルタチオンのみでインキュベートした。
【0117】
PIC−1およびグルタチオンによるHIVの不活性化の結果を表6に示す。表6中のデータは、セルフリーのHIVの不活性化がグルタチオンにより阻害されなかったことを実証する。室温で12時間のインキュベーションによる、HIV感染力のいくらかの損失、ほぼ0.2 logがあった(サンプル1対サンプル3)。30mMのグルタチオン単独は、さらに0.3〜0.6 logで感染力を減少させることを示した(サンプル1および3と比較したサンプル2および4)。50μMのPIC−1のみで、不活性化は約1.8 logであった;50μMのPIC−1+30mMのグルタチオンは、約2.4 logで不活性化した。不活性化における明らかな増加が、グルタチオンそれ自身の効果により完全に説明され得る。0.1mM〜30mMのグルタチオンの範囲中にわたり、HIV不活性化においてわずかな増加が存在し、これはHIVに対するグルタチオンのみの効果と一致する。
【0118】
【表6】

(実施例7:不活性化剤およびクエンチャーでのバクテリア混入RBCの処理)
赤血球サンプル中のYersinia enterocoliticaの不活性化に対するクエンチャーグルタチオンおよびシステインの効果を試験した。PRBCを、Adsol中で調製し、そしてYersinia(California Department of Health Services、Microbial Disease Laboratory、Berkeley、CA)、(血液の一般的なグラム陰性バクテリア混入物)でスパイクした。サンプルを、表7に示されるように、150μMのPIC−1およびクエンチャーで調製した。PIC−1を、クエンチャーのほぼ5分後に加えた。室温で4時間インキュベート後、バクテリアの力価を、栄養寒天に希釈物を置き、そして37℃で一晩培養することにより測定した。
【0119】
表7は、150μMのPIC−1でのYersiniaの不活性化に対するGSHおよびシステインの効果を示す。16mMの濃度で、グルタチオンまたはシステイン単独のいずれもYersiniaの力価にどのような効果も有さなかった(サンプル3および10)。しかしながら、クエンチャーを用いる不活性化において用量依存性の減少があった。不活性化は16mMのクエンチャーで4〜4.5 logで阻害された(サンプル9および16)が、しかし阻害は2mMのクエンチャーで1 log未満であった(サンプル6および13)。
【0120】
【表7】

(実施例8:Staphylococcus epidermidisの不活性化におけるクエンチャーとしてのグルタチオンの使用)
赤血球サンプル中のStaphylococcus epidermidis(California Department of Health Services、Microbial Disease Laboratory、Berkeley、CA)の不活性化に対するグルタチオンの効果を試験した。PRBCをAdsol中で調製し、そしてS.epidermidisでスパイクした。サンプルを、表8に示されるように、75μMのPIC−1およびクエンチャーのグルタチオンで調製した。PIC−1を、クエンチャーのほぼ5分後に加えた。室温で4時間インキュベート後、バクテリアの力価を、栄養寒天に希釈物を置き、そして37℃で一晩培養することにより測定した。
【0121】
表8は、75μMのPIC−1および種々の量のGSHでの、Staphylococcus epidermidisの不活性化を示す。表8に示される結果は、グルタチオンがある程度までバクテリアの不活性化を阻害するという観察と一致する。S.epidermidisは、明らかに、Yersiniaよりもグルタチオンのクエンチに対して敏感ではない。
【0122】
【表8】

1〜4mMの濃度において、クエンチャーはわずかにのみバクテリア殺傷を減少させ、そして3 logまたはそれより多いバクテリアが不活性化され得る。
【0123】
(実施例9:赤血球を含む材料中の病原体不活性化化合物の望ましくない副反応を減少させることに対するクエンチャーの効果の研究)
グルタチオンおよびシステインの、IgG、アルブミン、および病原体不活性化化合物の赤血球への結合に対する効果を試験した。PIC−1のような、核酸結合リガンドおよびマスタード基のような反応性基を含むある病原体不活性化化合物での赤血球の処理は、IgGの赤血球表面への低レベルの共有結合を導き得る。IgGの量は一般に、Direct Antiglobulin Test(DAT)において陽性の結果を生じるために要求されるレベルの下である(Walker,R.H.編、Technical Manual、第10版、American Association of Blood Banks、Arlington、VA、1990)。しかしながら、クエンチャーを含むことは、タンパク質の結合を減少または除去し得る。その上さらに、PIC−1のアクリジン部分を認識するポリクローン性抗体混合物を使用して、クエンチャーが含まれる場合に病原体不活性化化合物の赤血球表面への結合が減少される。
【0124】
PRBCを、Adsol中、60%のヘマトクリットで調製した。PIC−1での処理前、グルタチオンまたはシステインのいずれかを0.5および16mMの間の濃度で加え、そしてサンプルを混合した。PIC−1を1mMまで加え、そしてサンプルを室温で20時間インキュベートした。インキュベーション後、各サンプルの20μlを1mLの血液銀行生理食塩水で3回洗い、そして最終容積0.4mLに再懸濁した。
【0125】
抗アクリジン抗体を、HarlowおよびLane「Antibodies,a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,」1988において記載されるように調製した(この開示は本明細書中援用される)。ヤギ抗マウスIgGおよび抗ヒトアルブミン抗体を、Caltag、Burlingame、CAから入手した。
【0126】
分析のために、希釈し洗浄した赤血球の50μLアリコートを4本の管に等分し、そして抗ヒトIgG、抗ヒトアルブミン、または抗アクリジン抗体と共に37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、サンプルを1.0mLの血液銀行生理食塩水で洗った。抗ヒト抗体を、フルオレセインで共有結合的に標識し、そしてサンプルをフローサイトメーターを使用して直接分析した。抗アクリジン抗体を検出するために、サンプルを2度目に洗浄し、次いでフルオレセイン標識化ヤギ抗マウスIgGとともに37℃で30分間インキュベートした。サンプルを分析前に、先のように洗った。
【0127】
分析のために、サンプルをHaemaline2(Biochem Immunosystems、Allentown、PA)溶液中に1:1で希釈し、そして赤血球識別に最適化された設定の散乱でFACScan(Becton−Dickinson、San Jose、CA)で分析した。20000の蛍光発光を、1サンプルあたり収集した。
【0128】
表9は、IgG、アルブミン、およびアクリジンの赤血球への結合に対するグルタチオンおよびシステインの効果を示す結果を例示する。PIC−1単独での処理は、IgG、アルブミン、およびアクリジンのシグナルの明らかな増加を起こした(サンプル1および2)。16mMのグルタチオンまたはシステインいずれかとのインキュベーションは、未処理のサンプル(それぞれサンプル3および10)と比較して、蛍光を変化させなかった。いずれかのクエンチャーの存在下、PIC−1での処理は、IgG、アルブミン、およびアクリジン結合のレベルにおいて用量依存性の減少を引き起こした。IgGおよびアルブミン結合の両方が、≧2mMのクエンチャーの存在下での、バックグラウンドレベルにあるもであることを示した(サンプル6および13)。アクリジン結合は、対照的に、試験された範囲全てにわたって、クエンチャー濃度に依存した。16mMのグルタチオンまたはシステインであっても、アクリジンシグナルを完全に排除しなかった。4mMのグルタチオンで、アクリジンシグナルは53倍減少した(サンプル2対サンプル7);4mMのシステインで、アクリジンシグナルは83倍減少した(サンプル2対サンプル14)。0.3mMのPIC−1を使用する平行研究において、タンパク質およびアクリジンの結合の初期レベルはPIC−1のより低い濃度のために減少されているが、グルタチオンを使用して類似の傾向が見られた。
【0129】
【表9】

(実施例10:PIC−1処理後貯蔵されたPRBCの性質に対するグルタチオンの効果の研究)
赤血球の性質に対するグルタチオンの任意の効果を測定するために、以下の実験を二重に行った。4単位のABO−一致全血をプールし、混合し、次いで4個の血液バッグ中へ再分配して同一の500mL単位を作った。PRBCを、添加溶液としてAdsolを使用して調製した。受け取りの20時間以内に、Sacramento Blood Bankから受け取った全血の単位を3800rpmで5分間遠心分離し、そして血漿を別の容器中へ急送する。%ヘマトクリットを、毛細管を血液サンプルで満たし、そして5分間回転させることにより測定する。赤血球により占められる容積を、較正曲線と比較する。94mLのAdsolを加える。最終ヘマトクリットは、処理に応じて50〜53%の範囲であった。
【0130】
各実験において、4種の条件を試験した:(1)コントロール、PIC−1無し、およびグルタチオン無し;(2)3mMのグルタチオンのみ;(3)0.3mMのPIC−1のみ;および(4)0.3mMのPIC−1+3mMのグルタチオン。コントロールを含む全ての単位を、20℃で14時間インキュベートした。次いで、PRBCを継続のために4℃の貯蔵所へ移した。サンプルを、処理に続いて直ちに、およびそれ以降約1週間を基準に、分析のために採取した。2,3−DPG、ATP、および溶血の結果は、表10および11に要約される。これらのデータは、コントロールと比較してどの処理の間にも有意の差異を実証しなかった。細胞外カリウム、細胞内グルタチオン、浸透圧脆弱性、グルコース消費、および乳酸生成の測定もまた、グルタチオンが、単独またはPIC−1とともにのいずれでも、赤血球のインビトロ性質を有意に変更しないことを確実にした。
【0131】
細胞外カリウムレベルは、Ciba Corning Model614K+/Na+ Analyzer(Ciba Corning Diagnostics Corp.、Medford、MA)を使用して測定した。溶血を、Hogmanら、Transfusion 31:26〜29(1991)において記載されるように測定した。細胞内グルタチオンを、Beutler、「Red Cell Metabolism」、GruneおよびStratton、第3版、1984に記載されるように測定した。2,3−DPGおよびATPは、それぞれSigma手順第665および366(Sigma、St.Louis、MO)を使用して測定した。グルコース消費および乳酸生成を、それぞれSigma手順第115および735(Sigma、St.Louis、MO)を使用して測定した。浸透圧脆弱性を、Beutlerら、Blood、第59巻(1982)に記載されるように測定した。
【0132】
【表10】

【0133】
【表11】

(実施例11:GSHで処理したマウスRBCの回収および生存の研究)
ビオチン標識化ネズミ赤血球(RBC)のインビボ回収および生存に対する、0.6mMのPIC−2の、6.0mMのGSHありおよび無しでの効果を研究した。マウスRBCを標識し、次いでPIC−2、PIC−2+グルタチオン、またはグルタチオンのみで処理した。処理済み標識化細胞を、レシピエント中に注入した。これらの細胞の循環を、フローサイトメトリーにより36日にわたって追跡した。標識のみのコントロールと比較して、いずれの処理済みRBCの回収または寿命にも差異は観測されなかった。データは、処理におけるグルタチオンがインビボRBC機能と適合性であること、およびPIC−2処理それ自身が赤血球に損傷を与えないことを実証する。
【0134】
ドナーマウス(BALB/c オス)に、1日目および2日目に0.1mgのNHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)ビオチン(Pierce、Rockford、IL)を注入した。第二の注入の1時間後に、少量の、各マウスからのビオチン標識化全血を、ストレプトアビジン、R−フィコエリトリン複合体(Molecular Probes、Eugene OR)と反応させ、次いでFACScan(Becton−Dickinson、San Jose、CA)で蛍光細胞の割合を測定することにより、標識化効率をチェックした。≧90%の標識化RBCを有するマウス全てを、ドナーマウスとして使用した。
【0135】
ドナーマウスから、心臓穿刺により血液を採取し、そして1282×gで6分間で1回回転させた。血漿を除去し、そしてPRBCを、室温で14時間、±0.6mMのPIC−2±6.0mMのGSHでインキュベートした。次の朝、RBCを洗浄し、そしてHBSS(Hanks Buffered Salt Solution、Sigma、St.Louis、MO)に再懸濁した。洗浄したRBCの%ビオチン標識化を、上記のように測定した。RBCの総数を、細胞計数器(Complete Blood Count Cell counter、Biochem Immunosystems、Allentown、PA)でCBC(全血球計算)を行うことにより測定した。
【0136】
次いで、洗浄したRBCをレシピエントマウス(BALB/c メス)へ輸注した。各マウスは≒800×106のビオチン標識化RBCを受けた。輸注の時点で各マウスの重量を計り、そして標識化RBC/マウスの真の割合を、マウスの重量に基づいて計算し、そのRBCをCBCにより測定されたように計数し、そして輸注された標識化RBCの割合を上記のように決定した。
【0137】
標識化RBCの生存割合を、1時間、および1日〜40日で測定した。結果を、1時間での生存割合=100%を使用することにより規格化した。全てのマウスについて1時間での標識化RBCの真の回収%は、105.8±17.5%であった。結果を、標識化RBC静脈注射の効率における差異を斟酌するために1時間での%生存=100%に規格化した。
【0138】
PIC−2処理済みRBC生存は、実験全てにわたり実質的にコントロールと同じであった。平均中央生存値を、図1に示した。データは、PIC−2での処理が、グルタチオンありまたは無しのいずれでもRBC生存に対して有意の効果を持たなかったことを示唆する。従って、グルタチオンは処理後の赤血球のインビボ循環と適合する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載された発明。

【図1】
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【公開番号】特開2010−248245(P2010−248245A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171219(P2010−171219)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【分割の表示】特願2000−527286(P2000−527286)の分割
【原出願日】平成10年7月6日(1998.7.6)
【出願人】(500031766)シーラス コーポレイション (4)
【Fターム(参考)】