説明

生体洗浄器、生体洗浄システムおよび生体洗浄方法

【課題】容易且つ効率的な洗浄を行うことが可能な生体洗浄器、生体洗浄システムおよび生体洗浄方法を提供する。
【解決手段】生体洗浄器1は、洗浄対象部位に近接または接触される洗浄部10と、片手で把持可能なハンドル部20と、洗浄部10とハンドル部20を繋ぐ軸部30と、を備え、洗浄部10は、洗浄用の清浄液を注入する清浄液吐出孔12、および洗浄後の洗浄済み液を吸引する洗浄済み液吸引孔14を有し、ハンドル部20は、ハンドル部20を把持した状態の手指で清浄液の注入および洗浄済み液の吸引をON/OFF可能なスイッチ機構22、24を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば人体の口腔内等を洗浄するための生体洗浄器、生体洗浄システムおよび生体洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の日本の医療現場では、医師および看護師の絶対的な不足の中、これらの医療従事者が特に厳しい労働環境にあり、患者に十分な処置ができない状況が続いている。また、経営状態のひっ迫している病院においては、入院期間の短縮を始め、診断および治療の適切な合理化が求められている。従来、このような診断および治療の適切な合理化を阻む大きな要因として、院内感染の問題が強く認識されており、院内感染の効果的な抑制が強く望まれている。
【0003】
一方、患者の受ける放射線治療や診断、気管挿管その他の処置に起因する口腔内粘膜の障害に伴い、唾液の分泌量が減少して唾液による自然の抗菌効果が低下することがあり、患者の口腔ケアの不徹底が各種感染の重要な原因になっていることが明らかになってきた。特に、がん関連の患者等、免疫力が低下した患者に対する口腔ケアは、極めて重要な問題となっている。
【0004】
このため、先進的な医療施設では、口腔ケアの充実を目指している。しかしながら、先に述べたように、限られたマンパワーの中、全ての患者に丁寧な口腔ケアを施すことは難しく、臨床的にリスクの高い重要な患者を選別して口腔ケアを実施し、口腔ケアの効率と効果を高める必要がある。
【0005】
口腔乾燥患者の選別に関しては、水分センサーを用いて極めて短時間に患者の口腔乾燥を測定し、リスクの高い患者をスクリーニング出来る技術が実用化され、大きな朗報となっている。しかしながら、患者をスクリーニングしても、口腔ケアにマンパワーがかかるのであれば、やはり、口腔ケアによって感染抑制の実を上げることは難しくなる。
【0006】
その理由として、既存機器で、一人で容易且つ安価に口腔ケアを行うことが可能な優れた機器が供給されていないことが大きい。勿論、過去においては、感染と口腔ケアにこのような密接な関連性のあることが認識されていなかったため仕方のないことでもあった。但し、口腔ケアを行う従来機器においても、単なる歯ブラシ的なものに注水できるようにしたものや、注水だけではなく、吸引の機能を付けたものというように、多少の工夫はなされている(例えば、特許文献1または2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−103937号公報
【特許文献2】特開2001−299784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、口腔ケアを行う従来機器においては、看護師等が一人で容易に使用可能なものといった現場のニーズを確実に取り入れ、それを具体的なデバイスとすべく技術的進歩を組み込んだものはなかった。
【0009】
特に、このようなデバイスは、高価で長期間使用可能であるが、煩雑なメンテナンス等が必要なものであれば、総合的に見て病院の省力化につながらず、また、高価なものであれば、必要な台数を臨床現場に導入し、患者ごとに決められたものを使用することにはつながらない。1台の機器を多くの患者に共通して使用すると、この機器を介してさらに感染のリスクが生じることとなるため、このようなデバイスは、実質的に患者専用または使い捨て可能なものとする必要がある。
【0010】
これらの要求を満たすには、既存の医療機器の技術の延長線上で製品開発を考えるのではなく、日用品等、民生品に多用されている材料やコンポーネントの活用が重要になる。看護師等が一人で容易に使用できるように、コンパクト且つ片手で完全に操作可能なものとするためには、使用者の手元に吸引の機構を構成する必要があるが、日本の民生品の電子部品の精度、細密度、信頼性および汎用性、さらには合理的な価格で提供可能な生産力は、世界に冠たるレベルにあり、これを応用することで、発明者のコンセプトの実現が可能になった。
【0011】
本発明は、上記の現場ニーズを満たすデバイスの提供を、長期にわたり関係を有する患者の回復に対して真剣に取り組む臨床施設からの強い要望に基づき、本願の発明者らが鋭意検討した結果、具体化の考え方に思い至ったものであり、容易且つ効率的な洗浄を行うことが可能な生体洗浄器、生体洗浄システムおよび生体洗浄方法を提供しようとするものである。
【0012】
すなわち、本願の発明者らは、日常的に人々に多用されている電動歯ブラシのように片手で全て操作可能、且つ電池駆動で電気的安全性が高く、また、病院に既にふんだんにある道具以外には大きな道具を必要とせず、さらに、安価で患者が回復した後には使い捨て可能ないわゆるディスポからなるデバイスを発明するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明は、洗浄対象部位に近接または接触される洗浄部と、片手で把持可能なハンドル部と、前記洗浄部と前記ハンドル部を繋ぐ軸部と、を備え、前記洗浄部は、洗浄用の清浄液を注入する清浄液吐出孔、および洗浄後の洗浄済み液を吸引する洗浄済み液吸引孔を有し、前記ハンドル部は、前記ハンドル部を把持した状態の手指で前記清浄液の注入および前記洗浄済み液の吸引をON/OFF可能なスイッチ機構を備えることを特徴とする、生体洗浄器である。
【0014】
(2)本発明はまた、前記洗浄済み液を吸引する吸引ポンプが、前記ハンドル部に設けられることを特徴とする、上記(1)に記載の生体洗浄器である。
【0015】
(3)本発明はまた、前記洗浄済み液を吸引する吸引ポンプが、前記洗浄部に設けられることを特徴とする、上記(1)に記載の生体洗浄器である。
【0016】
(4)本発明はまた、前記吸引ポンプは、モータによって回転駆動される回転子を備え、前記回転子および前記モータは、カップリング部材を介して接続され、互いに離隔して配置されることを特徴とする、上記(2)または(3)に記載の生体洗浄器である。
【0017】
(5)本発明はまた、前記洗浄部は、生体組織と接触して汚れや菌などをこすり落とすための洗浄子を有することを特徴とする、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の生体洗浄器である。
【0018】
(6)本発明はまた、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の生体洗浄器と、前記生体洗浄器にチューブを介して接続され、前記清浄液を貯留する清浄液リザーバと、前記生体洗浄器にチューブを介して接続され、前記洗浄済み液を貯留する洗浄済み液リザーバと、を備えることを特徴とする、生体洗浄システムである。
【0019】
(7)本発明はまた、前記清浄液リザーバは、前記洗浄対象部位よりも高い位置に配置され、先記洗浄済み液リザーバは、前記洗浄対象部位よりも低い位置に配置されることを特徴とする、上記(6)に記載の生体洗浄システムである。
【0020】
(8)本発明はまた、前記清浄液リザーバは、貯留された前記清浄液を加圧する加圧装置を有することを特徴とする、上記(6)または(7)に記載の生体洗浄システムである。
【0021】
(9)本発明はまた、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の生体洗浄器、または上記(6)乃至(8)のいずれかに記載の生体洗浄システムを使用することを特徴とする、生体洗浄方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る生体洗浄器、生体洗浄システムおよび生体洗浄方法によれば、容易且つ効率的な洗浄を行うことが可能という優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)本発明の実施形態に係る生体洗浄器の正面図である。(b)同生体洗浄器の側面図である。
【図2】図1(a)のA−A線断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る生体洗浄システムを示した概略図である。
【図4】生体洗浄器のその他の形態の例を示した正面図である。(b)図4(a)のA−A線断面図である。
【図5】生体洗浄器のその他の形態の例を示した正面図である。(b)図5(a)のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
【0025】
まず、図1および2を用いて、本発明の実施形態に係る生体洗浄器1について説明する。図1(a)および(b)に示されるように、本実施形態の生体洗浄器1は、洗浄対象部位に近接または接触される洗浄部10と、生体洗浄器1の使用者が片手で把持するハンドル部20と、洗浄部10とハンドル部20を繋ぐ軸部30と、洗浄対象部位から洗浄済み液を吸引する吸引ポンプ40と、吸引ポンプ40を駆動するモータ50と、モータ50を制御する制御回路60と、モータ50および制御回路60を駆動する為のバッテリ70とを備えている。
【0026】
洗浄部10は、例えば入院患者の口腔内等に挿入されて洗浄を行う部分である。従って、洗浄部10の正面には、洗浄対象部位に洗浄用の清浄液を注入するための清浄液吐出孔12と、洗浄対象部位に溜まった洗浄済み液を唾液等の体液や汚れ等と共に吸引するための洗浄済み液吸引孔14とが設けられている。
【0027】
なお、本実施形態では、洗浄済み液吸引孔14の内側に清浄液吐出孔12を設けているが、清浄液吐出孔12および洗浄済み液吸引孔14の配置はこれに限定されるものではなく、その他の任意の配置を採用することができる。また、清浄液吐出孔12および洗浄済み液吸引孔14を複数設けるようにしてもよい。
【0028】
洗浄部10にはまた、生体組織と接触して汚れや菌などをこすり落とすための洗浄子16を、必要に応じて設けるようにしてもよい。この洗浄子16の構成は、汚れ等をこすり落とすことが可能なブラシやスポンジ等の既知の構成を採用することができる。
【0029】
ハンドル部20は、使用者が片手で把持して生体洗浄器1を操作するための部分である。従って、ハンドル部20は、片手で握ることが可能な適宜の外径(例えば、30〜50mm)で、略紡錘状の握りやすい形状に構成されている。なお、ハンドル部20の外周面に、手の形状に合わせた凹凸形状や滑り止めの為の凹凸形状を設けるようにしてもよい。
【0030】
ハンドル部20の外周部には、清浄液の注入をON/OFFするための注入用スイッチ機構22と、洗浄済み液の吸引をON/OFFするための吸引用スイッチ機構24とが配置されている。本実施形態では、ハンドル部20を把持している手の人差指と親指で2つのスイッチ機構22、24をそれぞれ操作できるように、注入用スイッチ機構22および吸引用スイッチ機構24を互いに反対側となる位置に配置しているが、注入用スイッチ機構22および吸引用スイッチ機構24の配置はこれに限定されるものではなく、その他の任意の配置を採用することができる。
【0031】
ハンドル部20における軸部30の反対側端部には、洗浄用の清浄液を供給する清浄液供給チューブ80が接続される清浄液用コネクタ26と、洗浄済み液を排出する洗浄済み液排出チューブ90が接続される洗浄済み液用コネクタ28が設けられている。図示は簡略化しているが、清浄液用コネクタ26および洗浄済み液用コネクタ28の構成は、例えば医療用チューブのコネクタ等、既知の各種コネクタ構造を採用することができる。
【0032】
軸部30は、洗浄部10とハンドル部20を適度に離隔させることによって、洗浄操作を行いやすくするための棒状の部材である。軸部30は、洗浄部10と一体的に構成されており、接続部32を介してハンドル部20に着脱可能に固定されている。すなわち、本実施形態の生体洗浄器1は、洗浄部10および軸部30を容易に交換して使い捨て可能ないわゆるディスポとして構成している。
【0033】
なお、図示は簡略化しているが、接続部32の構成は、例えば圧入や係合、螺合等、既知の各種接続構造を採用することができる。また、洗浄部10に対して軸部30を着脱可能に構成するようにしてもよいし、軸部30の中間部に接続部32を設け、洗浄部10および軸部30の洗浄部10側の部分を交換可能に構成するようにしてもよい。
【0034】
図2に示されるように、生体洗浄器1は、全体的に略中空体として構成されており、内部には、清浄液吐出孔12と清浄液用コネクタ26を繋ぐ流通路である清浄液供給通路12aと、洗浄済み液吸引孔14と洗浄済み液用コネクタ28を繋ぐ流通路である洗浄済み液排出通路14aとが設けられている。
【0035】
すなわち、本実施形態では、清浄液供給チューブ80から供給された清浄液は、清浄液用コネクタ26から清浄液供給通路12aを介して洗浄対象部位に注入されるようになっている。また、洗浄済み液吸引孔14から吸引された洗浄済み液は、洗浄済み液排出通路14aを介して洗浄済み液排出チューブ90へ排出されるようになっている。なお、図示は省略しているが、清浄液供給通路12aおよび洗浄済み液排出通路14aは、接続部32において容易に接続・分離可能に構成されている。
【0036】
ハンドル部20内の清浄液供給通路12aの途中には、注入用スイッチ機構22の操作によって開閉されるバルブ22aが設けられている。また、ハンドル部20内の洗浄済み液排出通路14aの途中には、吸引用スイッチ機構24の操作によって起動または停止される吸引ポンプ40が設けられている。
【0037】
すなわち、本実施形態では、外部から圧送された清浄液の洗浄対象部位への注入および停止をバルブ22aの開閉によって切り替えると共に、洗浄対象部位からの洗浄済み液の吸引および停止を吸引ポンプ40の起動および停止によって切り替えるように構成されている。なお、バルブ22aは、注入用スイッチ機構22の操作によって機械的に開閉されるものであってもよいし、注入用スイッチ機構22の操作に伴う電気信号に基づいて開閉する電磁弁等であってもよい。
【0038】
吸引ポンプ40は、洗浄済み液排出通路14aが接続されるケーシング42と、ケーシング42の内部で回転して圧力差を発生させる回転子44とから構成されている。回転子44は、吸引ポンプ40に隣接してハンドル部20内に配置されたモータ50の駆動軸52に接続されており、モータ50に駆動されて回転する。モータ50の起動および停止は、吸引用スイッチ機構24の操作に基づき制御回路60を介して行われる。
【0039】
本実施形態では、このように吸引ポンプ40をハンドル部20内に配置して洗浄済み液吸引孔14に近接させることにより、管路内で生じる損失を低減し、従来の装置のように大型のポンプを使用することなく十分な吸引力を発生させることを可能としている。すなわち、ハンドル部20内に収容可能なサイズの吸引ポンプ40およびモータ50でありながらも、従来の装置と同等の吸引力を発生させることが可能となっている。なお、吸引ポンプ40の種類は、特に限定されるものではなく、遠心ポンプや斜流ポンプ等のターボ型以外にも、既知の構成の各種ポンプを採用することができる。
【0040】
制御回路60は、モータ50等を制御する回路であり、ハンドル部20内に配置されている。なお、図示は省略しているが、制御回路60、モータ50および2つのスイッチ機構22、24に対しては、適宜の防水対策および絶縁対策が施されている。
【0041】
ハンドル部20内にはさらに、モータ50および制御回路60等を駆動するためのバッテリ70が収容されている。上述のように、本実施形態では、電力消費の少ない小型のポンプ40およびモータ50を使用しているため、2本の一般的な単三乾電池をバッテリ70として採用し、ハンドル部20内に収容することが可能となっている。
【0042】
バッテリ70は、図示を省略した開閉蓋を開いて交換可能となっている。なお、バッテリ70としては、各種一次電池または二次電池を採用することが可能であり、二次電池を採用する場合には、ハンドル部20のいずれかの部位に充電用端子を設けるようにしてもよい。
【0043】
洗浄部10、ハンドル部20および軸部30を構成する材質は、特に限定されるものではなく、例えばABS樹脂等の比較的硬質な樹脂を採用することができる。また、洗浄部10、ハンドル部20および軸部30は、同一の材質から構成されるものであってもよいし、異なる材質から構成されるものであってもよい。さらに、例えばハンドル部20の外周面にゴム等からなる滑り止め部材を設けるようにしてもよい。
【0044】
次に、図3を用いて、本実施形態に係る生体洗浄システム2について説明する。
【0045】
本実施形態の生体洗浄システム2は、例えばベッドBに横臥した人体Mの口腔内等の洗浄対象部位Pを洗浄するためのシステムである。同図に示されるように、本実施形態の生体洗浄システム2は、上述の生体洗浄器1と、清浄液供給チューブ80と、清浄液を貯留する清浄液リザーバ82と、洗浄済み液排出チューブ90と、洗浄済み液を貯留する洗浄済み液リザーバ92とを備えている。
【0046】
清浄液供給チューブ80は、生体洗浄器1と清浄液リザーバ82を接続し、清浄液リザーバ82に貯留された清浄液を生体洗浄器1に供給するものである。清浄液供給チューブ80は、生体洗浄器1の操作に支障をきたさない程度の柔軟性を有するチューブであればよく、例えば医療現場で一般的に使用されているエチレン酢酸ビニル製のチューブ等を使用することができる。なお、清浄液供給チューブ80の長さは、清浄液リザーバ82の配置にもよるが、生体洗浄器1の操作をスムーズに行うためには、2〜3mの範囲内であることが好ましい。
【0047】
清浄液リザーバ82は、洗浄用の清浄液を貯留するための容器である。清浄液リザーバ82は、底部に清浄液供給チューブ80を接続可能な容器であればよく、例えばナイロンとポリエチレンのラミネート材からなる医療用のソフトバッグ等を使用することができる。なお、図示は省略するが、清浄液リザーバ82の底部または清浄液供給チューブ80の途中にクレンメ等のバルブを別途設け、清浄液の供給速度および供給量を調節するようにしてもよい。
【0048】
洗浄済み液排出チューブ90は、生体洗浄器1と洗浄済み液リザーバ92を接続し、洗浄対象部位Pから吸引した洗浄済み液を洗浄済み液リザーバ92内に排出するものである。洗浄済み液排出チューブ90は、清浄液供給チューブ80と同様に、例えばエチレン酢酸ビニル製のチューブ等を使用することができる。なお、洗浄済み液排出チューブ90の長さは、洗浄済み液リザーバ92の配置にもよるが、生体洗浄器1の操作をスムーズに行うためには、2〜3mの範囲内であることが好ましい。
【0049】
洗浄済み液リザーバ92は、洗浄対象部位Pを洗浄後の汚れや体液等を含んだ洗浄済み液を貯留するための容器である。洗浄済み液リザーバ92は、上部に洗浄済み液排出チューブ90を接続可能な容器であればよく、清浄液リザーバ82と同様に、例えばナイロンとポリエチレンのラミネート材からなる医療用のソフトバッグ等を使用することができる。なお、図示は省略するが、貯留した洗浄済み液を排出するための排出孔を、洗浄済み液リザーバ92の底部に設けるようにしてもよい。
【0050】
本実施形態の生体洗浄システム2では、清浄液リザーバ82および洗浄済み液リザーバ92を、例えば点滴架台100等に吊下げることにより、清浄液リザーバ82を洗浄対象部位Pよりも上方に配置し、洗浄済み液リザーバ92を洗浄対象部位Pよりも下方に配置するようにしている。
【0051】
このように、清浄液リザーバ82を洗浄対象部位Pよりも高い位置に配置することで、水頭差(ヘッド差)により清浄液を供給することができるため、清浄液供給用のポンプを別途設ける必要がなく、生体洗浄システム2の構成を簡素化することができる。また、洗浄済み液リザーバ92を洗浄対象部位92よりも低い位置に配置することにより、吸引ポンプ40の吸引力を水頭差によって補助することができるため、吸引ポンプ40を小型化して生体洗浄器1をコンパクトに構成し、看護師等の使用者が片生体洗浄器1を手で容易に操作するのを可能にすることができる。
【0052】
なお、清浄液リザーバ82の底部と洗浄対象部位Pの高さの差H1は、特に限定されるものではないが、清浄液吐出孔12からの吐出圧を適宜に設定するためには、40〜60cmの範囲内であることが好ましい。また、洗浄済み液リザーバ92の底部と洗浄対象部位Pの高さの差H2は、特に限定されるものではないが、洗浄済み液の排出をスムーズに行うためには、70〜90cmの範囲内であることが好ましい。
【0053】
また、清浄液リザーバ82に、例えば圧縮空気を導入することによって清浄液を加圧する加圧装置を設けるようにしてもよい。このように、加圧装置等で清浄液を加圧することにより、清浄液リザーバ82の高さを確保できないような場合においても、必要な吐出圧を得ることができる。
【0054】
洗浄対象部位Pの洗浄は、看護師等の使用者が生体洗浄器1を片手で持ち、洗浄部10を洗浄対象部位Pに近接または接触させた状態で注入用スイッチ機構22および吸引用スイッチ機構24を操作し、清浄液を注入して洗い流した汚れ等を洗浄済み液と共に吸引することにより行う。洗浄部10に洗浄子16を設けている場合は、生体洗浄器1を適宜に動かして洗浄子16を洗浄対象部位Pにこすり付け、汚れ等を落とす。
【0055】
本実施形態では、片手で生体洗浄器1を完全に操作することが可能であるため、空いているもう片方の手で洗浄対象部位を保持したり、押し広げたりすることができ、洗浄を容易且つ丁寧に行うことができる。さらに、もう片方の手でピンセット、ヘラまたはブラシ等を使用することも可能となっている。
【0056】
次に、図4および5を用いて、生体洗浄器1のその他の形態について説明する。
【0057】
図4(a)および(b)は、洗浄部10に吸引ポンプ40およびモータ50を配置した例を示している。この例では、洗浄部10の正面中央部に洗浄済み液吸引孔14を設けると共に、その後方に薄型の吸引ポンプ40および薄型のモータ50を配置している。また、清浄液吐出孔12は、吸引ポンプ40およびモータ50を避けて洗浄部10の正面上部および下部にそれぞれ2つずつ設けられている。その他の構成は、図1および2に示した例と基本的に同一である。
【0058】
このように、吸引ポンプ40およびモータ50を洗浄部10内に配置することで、吸引ポンプ40をさらに洗浄対象部位に近接させることが可能となるため、吸引ポンプ40およびモータ50の小型化を図りながらも、十分な吸引力を発生させることができる。すなわち、生体洗浄器1のさらなるコンパクト化、軽量化を実現し、使い勝手を向上させることができる。
【0059】
図5(a)および(b)は、洗浄部10内に吸引ポンプ40を配置すると共に、ハンドル部20内にモータ50を配置した例を示している。この例では、軸部30が緩やかに曲折した形状に構成され、洗浄部10が斜め方向に向くように構成されている。そして、洗浄部10の斜めに向けられた面の中央部に洗浄済み液吸引孔14を設けると共に、その後方に薄型の吸引ポンプ40を配置している。また、清浄液吐出孔12は、吸引ポンプ40を避けて洗浄済み液吸引孔14の上方および下方にそれぞれ2つずつ設けられている。
【0060】
洗浄部10内に配置された吸引ポンプ40の回転子44と、ハンドル部20内に配置されたモータ50の駆動軸52は、曲折された軸部30に沿って配置された、例えばニッケルチタンワイヤ等のフレキシブルシャフト54を介して接続されている。
【0061】
すなわち、このフレキシブルシャフト54は、互いに離隔して配置され、且つ回転方向の一致しない回転子44およびモータ50を接続するカップリング部材として機能している。なお、図示は省略しているが、フレキシブルシャフト54は、接続部32においてモータ52の駆動軸52に対して容易に接続・分離可能に構成されている。
【0062】
このように、吸引ポンプ40の回転子44とモータ50を、フレキシブルシャフト54等のカップリング部材を介して接続し、両者を離隔させて配置することにより、電気絶縁性を高め、生体洗浄器1の安全性を高めることができる。特に、フレキシブルシャフト54を樹脂等の絶縁性材料から構成するようにすれば、電気絶縁性をより高めることができる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態の生体洗浄器1および生体洗浄システム2によれば、清浄液吐出孔12からの注液、洗浄済み液吸引孔14からの吸引、および洗浄子16によるブラッシング等の各操作を、任意の組み合わせで操作者一人の片手で自由に操作することが可能となる。
【0064】
また、操作者のもう片方の手で洗浄対象部位である患者の口腔における開口の確保や、患者の頭部の保持等が可能になると共に、もう片方の手でピンセットやヘラ等を使用することも可能となるため、より洗浄を行いやすくすることができる。なお、生体洗浄器1を清浄液の注入および洗浄済み液の吸引に特化して使用し、もう片方の手で歯ブラシやスポンジ等を使用して洗浄を行うようにすることもできる。
【0065】
また、電源として一般的な電池を使用しているため、電気的な安全性が高く、液体の清浄液を注入しながらの洗浄においても感電や漏電等の事故を未然に防ぐことができる。さらに、吸引ポンプ44の回転子44とモータ50の駆動軸52を絶縁性のカップリング部材を介して接続するようにすれば、電気的な安全性をより高めることができる。
【0066】
また、生体洗浄器1は民生用の安価な部品から構成することが可能であり、生体洗浄システム2は医療現場で一般的に使用されているソフトバッグや点滴架台等を活用して容易に構成することが可能であるため、製造コストおよびランニングコストの両方を低減することができる。また、生体洗浄器1および生体洗浄システム2の各部を、使い捨て可能ないわゆるディスポ化することが容易となるため、メンテナンスの手間を省くと共に、生体洗浄器1および生体洗浄システム2を介した感染を効果的に抑制することができる。
【0067】
また、従来の装置のように比較的大型のポンプやタンク等を使用していないため、医療施設内等における移動が容易であると共に、電源の確保や設置場所の確保等を考慮する必要がなく、操作も簡単であるため、移動、設置、洗浄および後片付けの全ての段階を看護師等が1人で行うことができる。さらに、取り扱いが容易であることから、介護士や入院患者に付き添う家族等による使用も可能であり、在宅での使用も可能となっている。この結果、病院だけではなく、療養型の長期入院病棟や在宅においても口腔ケアを充実させることが可能となり、各種感染の予防を徹底することができる。
【0068】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の生体洗浄器、生体洗浄システムおよび生体洗浄方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0069】
例えば、洗浄部10、ハンドル部20および軸部30の形状、清浄液吐出孔12および洗浄済み液吸引孔14の配置、清浄液供給通路12aおよび洗浄済み液排出通路14aの径路、ならびにバルブ22a、吸引ポンプ40、モータ50、制御回路60およびバッテリ70の配置は、上記実施形態において示した形態に限定されるものではなく、その他の形態であってもよい。
【0070】
さらに、清浄液供給チューブ80、清浄液リザーバ82、洗浄済み液排出チューブ90および洗浄済み液リザーバ92は、専用に設計したものを使用してもよいし、清浄液リザーバ82および洗浄済み液リザーバ92は点滴架台100以外の部材によって配置されるものであってもよい。
【0071】
また、本発明の実施形態に記載された作用および効果は、本発明から生じる最も好適な作用および効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用および効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る生体洗浄器、生体洗浄システムおよび生体洗浄方法は、口腔内の洗浄以外にも各種部位の洗浄の分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 生体洗浄器
2 生体洗浄システム
10 洗浄部
12 清浄液吐出孔
14 洗浄済み液吸引孔
16 洗浄子
20 ハンドル部
22 注入用スイッチ機構
24 吸引用スイッチ機構
30 軸部
40 吸引ポンプ
44 回転子
50 モータ
54 フレキシブルシャフト
80 清浄液供給チューブ
82 清浄液リザーバ
90 洗浄済み液排出チューブ
92 洗浄済み液リザーバ
P 洗浄対象部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄対象部位に近接または接触される洗浄部と、
片手で把持可能なハンドル部と、
前記洗浄部と前記ハンドル部を繋ぐ軸部と、を備え、
前記洗浄部は、洗浄用の清浄液を注入する清浄液吐出孔、および洗浄後の洗浄済み液を吸引する洗浄済み液吸引孔を有し、
前記ハンドル部は、前記ハンドル部を把持した状態の手指で前記清浄液の注入および前記洗浄済み液の吸引をON/OFF可能なスイッチ機構を備えることを特徴とする、
生体洗浄器。
【請求項2】
前記洗浄済み液を吸引する吸引ポンプが、前記ハンドル部に設けられることを特徴とする、
請求項1に記載の生体洗浄器。
【請求項3】
前記洗浄済み液を吸引する吸引ポンプが、前記洗浄部に設けられることを特徴とする、
請求項1に記載の生体洗浄器。
【請求項4】
前記吸引ポンプは、モータによって回転駆動される回転子を備え、
前記回転子および前記モータは、カップリング部材を介して接続され、互いに離隔して配置されることを特徴とする、
請求項2または3に記載の生体洗浄器。
【請求項5】
前記洗浄部は、生体組織と接触して汚れや菌などをこすり落とすための洗浄子を有することを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかに記載の生体洗浄器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の生体洗浄器と、
前記生体洗浄器にチューブを介して接続され、前記清浄液を貯留する清浄液リザーバと、
前記生体洗浄器にチューブを介して接続され、前記洗浄済み液を貯留する洗浄済み液リザーバと、を備えることを特徴とする、
生体洗浄システム。
【請求項7】
前記清浄液リザーバは、前記洗浄対象部位よりも高い位置に配置され、
先記洗浄済み液リザーバは、前記洗浄対象部位よりも低い位置に配置されることを特徴とする、
請求項6に記載の生体洗浄システム。
【請求項8】
前記清浄液リザーバは、貯留された前記清浄液を加圧する加圧装置を有することを特徴とする、
請求項6または7に記載の生体洗浄システム。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載の生体洗浄器、または請求項6乃至8のいずれかに記載の生体洗浄システムを使用することを特徴とする、
生体洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−75033(P2013−75033A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216724(P2011−216724)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(592132730)株式会社ライフ (4)