説明

生体細胞用固定液

本発明は、有核細胞および赤血球を含む細胞サンプルのインビトロでの保存のための固定液に関し、ここで前記溶液は、細胞を固定するためのアルコールを含む。前記固定液は、細胞壁で浸透圧ショックを避けるための生理食塩水を含み、さらに前記溶液で固定された有核細胞および赤血球の大きさおよび完全性を保存するためのホルマリンおよびポリエチレングリコールを含む。本溶液は、ケトンまたは酢酸類のいずれ由来の化合物も含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を固定するためのアルコールを含む種類の、細胞学的なサンプルをインビトロで保存するための生体細胞用固定液に関する。
【発明の概要】
【0002】
固定液または固定剤(fixative)は、細胞学者によるそれらのその後の分析を考慮して、細胞を含む採取サンプルまたは細胞学的なサンプルを保存するために、および維持するために提供される。これらの細胞サンプルは、例えば、患者について針で穿刺すること、洗浄すること、ブラッシングすること、または尿を採取することにより取得してもよい。細胞は、例えば、子宮、肝臓、胃、乳房などの任意の器官に由来してもよい。細胞のサンプルは、例えば、尿、腹水、胸膜または心膜液などから採取した液体サンプル;子宮頸部の塗抹標本、膣スワッブなどの塗抹標本;乳房、甲状腺などの表面腺、または、すい臓または肝臓などの深くにある腺などの器官の穿刺でもよい。
【0003】
「細胞学的固定剤(cytological fixative)」または「細胞学的固定液(cytological fixing solution)」により、細胞の固定を達成するために細胞学的分析で一般的に使用される溶液を意味する。
【0004】
固定は、それらがサンプルになる前の状態で、可能な限り、細胞の形態を保存することを意図する。最良の固定剤は、急速に作用する間、細胞の内部の形態の分析を妨げるかもしれない任意の二次修飾または人工産物をできる限り少なく産生するものである。
【0005】
アルコールホルマリン酢酸またはAFAは知られ、および農業および獣医学界で特に長い間使用されてきた。AFAは、メチルまたはエチルアルコール、ホルマリンおよび氷酢酸を含む。ホルマリンは、ギ酸、ホルムアルデヒドおよびパラホルムアルデヒドおよびメタノールからなる。例はLocquin製のAFAであり、組成は、以下:
‐ 80°エチルアルコール 100cc
‐ 実験用38%ホルマリン 10cc
‐ 氷酢酸 5cc
‐ サッカロース 10g
‐ 蒸留水 20cc
である。
【0006】
現在、パパニコロー染色剤、またはメイグリュンワルドギムザ(MGG)染色などの標準染色後、氷酢酸が、赤血球を破壊しおよび分析において非常に厄介な、または免疫細胞化学的研究、もしくは他の研究のために非常に厄介なヘモグロビンの堆積物を伴うそれらの内容物を溶解する。さらに、この濃度で、エチルアルコールは、引火性として規制の点から考慮され、およびホルマリンは、毒性および発がん性として考慮される。
【0007】
本発明の目的は、分析を考慮して、有核細胞および赤血球の完全な状態の良い保存を可能にする生体細胞のための固定液であるが、それにもかかわらず、使用者により有害でないものを提供することである。
【0008】
この目的のために、本発明の目的は、細胞壁で、浸透圧ショックを避けるために生理食塩水を含み、前記溶液中で、固定された有核細胞および赤血球のサイズおよび完全性を保持するためにホルマリンおよびポリエチレングリコールを含む、上記の種類の生体細胞用固定液である。
【0009】
本発明の他の態様によれば、生体細胞用固定液は、一またはいくつかの以下:
‐ 固定液が、赤血球の完全性を保存するために、任意のアセトンまたはケトン類由来の化合物または酢酸を含まず、
‐ アルコールが、エタノールまたはイソプロパノールであり、
‐ アルコールが、エタノールおよびイソプロパノールの混合物であり、
‐ アルコール量が、実質的に固定液の45体積%未満であり、
‐ ホルマリン量が、実質的に固定液の約0.2‐1体積%の間を含み、
‐ 固定液が、実質的にpH6.4‐7.4の間を含む固定液のpHを有する緩衝液を含み、および
‐ 固定液が以下:
‐ 生理食塩水590mL、
‐ PEG(カルボワックス(登録商標))10mL、
‐ イソプロピルアルコール203mL、
‐ 精製エタノール193mL、
‐ 0.01体積%アジ化ナトリウム
の80体積%‐95体積%の間および4%緩衝ホルマリンの20体積%‐5体積%の間を含む
特徴を含む。
従って、本液は、細胞比率のより良い保持、特に、細胞の面積に対して相対的に核の面積、および特に赤血球の優れた保存を可能にする。さらに本固定液は、あまり引火性でなく、有毒および発がん性でない。本発明は、例としてのみ提供されおよび図面に関してなされた以下の明細書を読むことでより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、乳房から採取した細胞のサンプルの写真であり、前記サンプルは、本発明による固定液で維持されている。
【図2】図2は、甲状腺から採取した細胞のサンプルの写真であり、前記サンプルは、本発明による固定液で維持されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、細胞学者により分析されることを意図した生体細胞を含む、細胞学的なサンプルをインビトロで保存することを意図する固定液に関する。
【0012】
固定液は、一般的に使用される固定液の基剤として普通使用される蒸留または脱イオン水の代わりに、等張塩化ナトリウム溶質または生理食塩水を含む。
【0013】
生理食塩水は、長い間知られ、および1Lの水あたり塩化ナトリウム9gの量で、蒸留水中に塩化ナトリウムを含む。生理食塩水は、細胞壁で、それに任意の浸透圧ショックを避けるために、適当なオスモル濃度条件で細胞を維持する等(iso)浸透圧であり、および従って細胞質および核膜を破裂することによる細胞の破壊を避ける。生理食塩水のオスモル濃度は、1Lあたり308ミリオスモルと等しい。
【0014】
オスモル濃度は、培地の濃度である。これは、浸透の概念を頼っており、そしてそれは、固定液および細胞の細胞質液などの、異なる濃度の2つの溶液を分離する半透膜を通じて溶媒の拡散である。
【0015】
さらに、固定液は、アルコール培地中にそれらを固定することにより、それらの状態で細胞を保存するためのアルコールを含む。
【0016】
好ましくは、アルコールの量は、難燃性であるために、実質的に固定液の45体積%未満である。従って、この低いアルコール含量は、より危険がないように、固定液のより容易な輸送および保存を可能にする。難燃性により、特に、本発明による溶液が、溶液の包装上に製品の引火性を示すセーフティピクトグラムの使用を必要としないことを意味する。
【0017】
アルコールは、例えば、エタノールまたはイソプロパノールである。代替物によれば、アルコールは、エタノールおよびイソプロパノールの混合物である。しかしながら、アルコールのみでは、薬剤を脱水しおよび減少し、従って、核および細胞質の退縮により細胞の大きさを変化させる。
【0018】
この欠点を克服するために、固定液はさらに、細胞の大きさを保持するためホルマリンを含む。Saccomanno等により既に公開された知られた方法では、固定液は、またカルボワックス(登録商標)またはポリエチレングリコールを含んでもよい。知られおよび既に公開された方法では、ホルマリンは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびその塩など、脱灰または抗凝集剤に関係付けられてもよい。また知られおよび既に公開された方法では、ジチオトレイトール(DTT)またはアセチルシステインなどの粘液溶解剤は、粘液を含有するサンプルに添加されてもよい。
【0019】
ホルマリンで、赤血球および有核細胞は、それらを溶解することなしに、保持されてもよく、大きさの観点で基準(reference)を保証し、細胞学者がより適切な診断をすることを可能にする。
【0020】
特に、これは、本発明による固定液中に保持された細胞サンプルの図1および図2で見られるように、図において1として参照される赤血球は、完全に保存されおよびインタクトであり、そしてそれは、これらのサンプルの適切な分析を行うための可能性を提供する。
【0021】
好ましくは、ホルマリンの量は、固定液の約0.2‐約1体積%の間を実質的に含む。この濃度では、ホルマリンまたはホルムアルデヒドは、ホルマリンが腐食性および発がん性である1%‐25%の一般的に使用される濃度と異なり、フランス国立安全研究所(Institut National de Recherche et de securite(INRS))により編集された毒性シートにより単に刺激性として見なされる。従って、本発明による溶液の包装は、腐食性製品を示すセーフティピクトグラムの使用もまた必要でない。それゆえ、1%未満の濃度では、溶液は、全くリスクなしに扱われるであろうし、注意のレベルは、それを扱うために、より低くなる。
【0022】
知られた方法において、固定液は、抗菌剤を含んでもよい。固定液は、実質的に6.4‐7.4の間を含む固定液のpHを有するための緩衝液を含む。このpH範囲は、細胞およびヒトの血液を保存するために最適な状態と一致する。
【実施例】
【0023】
以下の実施例は、本発明の範囲を限定することなく、本発明を例示する。
実施例1:
溶液を以下:
‐ 生理食塩水590mL
‐ PEG(カルボワックス(登録商標))10mL
‐ イソプロピルアルコール203mL
‐ 精製エタノール193mL
‐ 0.01体積%アジ化ナトリウム、
の80体積%および4%緩衝ホルマリンの20体積%で形成した。
【0024】
代替的に、溶液を、上記混合物の90体積%および4%緩衝ホルマリンの10体積%で形成してもよく、または上記混合物の95体積%および4%緩衝ホルマリンの5体積%で形成してもよい。
【0025】
本発明による固定液が、任意のアセトン、ケトン類由来のすべての化合物または酢酸を含まないことを、さらに留意されるであろう。現在、これらの製品は、破裂により、細胞に結合するヘモグロビンを放出する赤血球を溶解する。パパニコロー染色などの染色の特定の種類は、いくつかの細胞核染色剤およびヘモグロビンを関係付ける染色剤の複雑性のため、そして細胞学的なおよび特に細胞核分析を困難または不可能にすらする。また、免疫細胞化学的分析は、しばしばヘモグロビンの体積により、悩まされる。
【0026】
本発明によれば、本明細書中で記載された固定液で固定されたサンプルのパパニコロー染色または免疫細胞化学的研究によるサンプルのその後の分析および任意のアセトンまたはケトン類由来の化合物または酢酸を含まないことが改善された。
【0027】
上記固定液は、従って、分析の観点で、有核細胞および赤血球の完全な優れた保存を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞学的なサンプルをインビトロで保存するための固定液であって、有核細胞および赤血球を含み、細胞を固定するためのアルコール、細胞壁で浸透圧ショックを避けるための生理食塩水、前記溶液で固定された有核細胞および赤血球の大きさおよび完全性を保存するためのホルマリンおよびポリエチレングリコールを含み、赤血球の完全性を保存するために任意のアセトンまたはケトン類由来の化合物または酢酸を含まないことを特徴とする固定液。
【請求項2】
前記アルコールが、エタノールまたはイソプロパノールであることを特徴とする、請求項1に記載の固定液。
【請求項3】
前記アルコールが、エタノールおよびイソプロパノールの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の固定液。
【請求項4】
前記アルコール量が、実質的に前記固定液の45体積%未満であることを特徴とする、請求項1‐3のいずれか一項に記載の固定液。
【請求項5】
ホルマリン量が、実質的に前記固定液の約0.2‐1体積%の間で含むことを特徴とする、請求項1‐4のいずれか一項に記載の固定液。
【請求項6】
実質的に6.4‐7.4の間で含む前記固定液のpHを有する緩衝液を含むことを特徴とする、請求項1‐5のいずれか一項に記載の固定液。
【請求項7】
‐ 生理食塩水590mL
‐ PEG(カルボワックス(登録商標))10mL
‐ イソプロピルアルコール203mL
‐ 精製アルコール193mL
‐ 0.01体積%アジ化ナトリウム
の80体積%‐95体積%の間および4%緩衝ホルマリンの20体積%‐5体積%の間を含むことを特徴とする、請求項3‐6のいずれか一項に記載の固定液。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−518087(P2013−518087A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550492(P2012−550492)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際出願番号】PCT/FR2011/050101
【国際公開番号】WO2011/092414
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(512195795)
【Fターム(参考)】