説明

生体組織処理装置

【課題】装置を大型化することなく、十分な攪拌を得て、簡易に十分な細胞数を生体組織から分離する。
【解決手段】生体組織を含む液体Aを導入する組織導入部2と、消化酵素Bを導入する酵素導入部4と、組織導入部2から導入された生体組織を含む液体Aと酵素導入部4から導入された消化酵素Bとを含む混合液Cを攪拌させつつ流動させる攪拌流路5とを備え、該攪拌流路5が、組織導入部2から導入された生体組織を含む液体Aを流動させる主配管9と、該主配管9の壁面に接続され、酵素導入部4から導入された消化酵素Bを主配管9内に、生体組織を含む液体Aの流動方向に交差する方向に噴出させる少なくとも1つの副配管10とを備える生体組織処理装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織から細胞を分離するために、生体組織を生体適合性のある塩類溶液中に懸濁し、消化酵素を添加し、生体組織を消化して細胞を分離する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この方法では、生体組織を含む塩類溶液と消化酵素との混合液を容器内に収容して攪拌することで、生体組織を消化した後に、得られた細胞懸濁液を細胞濃縮装置に配管によって導くことが行われる。
【0003】
また、消化用の容器を用いることなく、生体組織を含有する液体と消化酵素との混合液を細胞濃縮装置に接続される配管内を流動させながら消化する方法も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/009036号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、容器内で消化するために相当の時間を要し、処理が長期化するという不都合がある。
一方、特許文献2の方法では、配管内を流動させながら消化するので、時間の無駄をなくすことはできるが、配管内において混合液を十分に攪拌するためには、乱流状態で流動させるために高速に流動させなければならない。そして、混合液を高速に流動させながら酵素が生体組織を消化する時間を確保するためには、配管を十分に長くする必要があり、装置が大型化する不都合がある。逆に配管を短くすると、十分な消化が行われずに、分離される細胞数が減少してしまうという不都合がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、装置を大型化することなく、十分な攪拌を得て、簡易に十分な細胞数を生体組織から分離することができる生体組織処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体組織を含む液体を導入する組織導入部と、消化酵素を導入する酵素導入部と、前記組織導入部から導入された生体組織を含む液体と前記酵素導入部から導入された消化酵素とを含む混合液を攪拌させつつ流動させる攪拌流路とを備え、該攪拌流路が、前記組織導入部から導入された前記生体組織を含む液体を流動させる主配管と、該主配管の壁面に接続され、前記酵素導入部から導入された前記消化酵素を主配管内に、前記生体組織を含む液体の流動方向に交差する方向に噴出させる少なくとも1つの副配管とを備える生体組織処理装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、組織導入部から導入された生体組織を含む液体が、攪拌流路を構成する主配管内を流動する際に、酵素導入部から導入された消化酵素が、主配管に接続された副配管から主配管内に、液体の流動方向に交差する方向に噴出されるので、攪拌流路を構成する主配管内に複雑な流れが形成されて、混合液が攪拌させられつつ流動される。これにより、主配管の長さを長くすることなく、層流状態となるような比較的低い流速で流動させることで攪拌時間を確保して、十分な消化を行うことができる。
【0009】
すなわち、装置を大型化することなく、簡易に十分な数の細胞を生体組織から分離することができる。
また、乱流状態となるような高い流速で混合液を流動させずに済むので、混合液内に含まれる細胞に与えるダメージを低減して健全な状態の細胞を得ることができる。
【0010】
上記発明においては、前記副配管が、前記生体組織を含む液体の流動方向に対して斜め前方に向けて前記消化酵素を噴出させることとしてもよい。
このようにすることで、主配管内に噴出される消化酵素の噴流が、主配管内を流動する生体組織を含む液体に対して対向流となることが防止され、細胞に過度のダメージを与えずに済む。
【0011】
また、上記発明においては、前記副配管が、前記生体組織を含む液体の流動方向に間隔をあけて複数設けられていてもよい。
このようにすることで、主配管内に複数箇所から噴出される消化酵素の噴流によって、より効果的に混合液が攪拌される。
【0012】
また、上記発明においては、前記副配管が、前記主配管の長手軸に交差する平面における前記主配管の断面の接線に沿う方向に前記消化酵素を噴出させることとしてもよい。
このようにすることで、攪拌流路を構成する主配管内において螺旋状に旋回する旋回流が発生し、より効果的に混合液が攪拌される。
【0013】
また、上記発明においては、前記攪拌流路の下流に接続され、該攪拌流路を通過した混合液内の細胞を濃縮する細胞濃縮部を備えていてもよい。
このようにすることで、攪拌流路内において生体組織が十分に消化されることにより得られた細胞懸濁液は、攪拌流路の下流に接続された細胞濃縮部に供給され、そこで濃縮されて、純度の高い細胞群として回収することができる。攪拌流路を細胞濃縮部への細胞懸濁液の供給用の管路としても利用することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記細胞濃縮部が、前記攪拌流路を通過した混合液を収容する容器を備え、該容器の底部を半径方向外方に向けて回転させる遠心分離装置であってもよい。
このようにすることで、混合液を収容した容器をその底部が半径方向外方に向かうように回転させることにより、底部側から比重の大きさ順に細胞と上清とを分離することができ、細胞を簡易に濃縮することができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記攪拌流路に、該攪拌流路内を流動する混合液を加温するヒータが設けられていてもよい。
このようにすることで、ヒータの作動により攪拌流路を流動している混合液を消化に適した温度に加温することができ、消化を促進して、生体組織の十分な消化と処理時間の短縮とを図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、装置を大型化することなく、十分な攪拌を得て、簡易に十分な細胞数を生体組織から分離することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織処理装置を示す(a)全体構成図、(b)攪拌流路の縦断面図、(c)切断面Dに沿う主配管の横断面図である。
【図2】図1の生体組織処理装置の細胞濃縮部による濃縮処理を説明する全体構成図である。
【図3】図1の生体組織処理装置の攪拌流路の第1の変形例を示す縦断面図である。
【図4】図1の生体組織処理装置の攪拌流路の第2の変形例を示す横断面図である。
【図5】図1の生体組織処理装置の攪拌流路の第3の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る生体組織処理装置1について図面を参照して、以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織処理装置1は、図1(a)に示されるように、生体(例えば、ヒトの体内)から採取された生体組織(例えば、脂肪組織)を含む液体A(生体適合性のある塩類溶液)を導入する組織導入口(組織導入部)2を一端に備えた導入流路3と、消化酵素Bを収容した酵素容器(酵素導入部)4と、導入流路3および酵素容器4に接続された攪拌流路5と、該攪拌流路5の下流に接続された細胞濃縮装置6とを備えている。
【0019】
導入流路3には、図1に示されるように、生体組織を含む液体Aを一方向に送るポンプ7が設けられている。
攪拌流路5は、導入流路3に逆止弁8を介して接続され水平に配置された主配管9と、酵素容器4に接続された複数の副配管10とを備えている。
【0020】
主配管9にはその下流側に生体組織を捕集するフィルタ11と、該主配管9を開閉するバルブ12とが配置されている。
副配管10には、図1(a)に示されるように、酵素容器4から供給された消化酵素液Bを一方向に送るポンプ13と、該副配管10を開閉するバルブ14とが設けられている。
【0021】
副配管10は、図1(b)に示されるように、複数本に分岐して、それぞれが、主配管9の壁面を貫通して主配管9内に開口する吐出口10aを有している。
本実施形態においては、副配管10は、図1(b),(c)に示されるように、主配管9の内壁面に沿って斜め前方、すなわち、主配管9の長手軸に交差する所定の切断面Dによる横断面においてその接線方向に消化酵素液Bを噴出するように各吐出口10aを配置している。
【0022】
これにより、ポンプ13の作動によって副配管10内を送られてきた消化酵素液Bが、主配管9内を流動する生体組織を含む液体Aに向けて、その流動方向に交差する方向に噴出され、生体組織を含む液体Aと消化酵素液Bとが攪拌されて混合されるようになっている。混合液Cは、図1(c)に示されるように、主配管9内を流動させられる間に旋回流を形成し、より効果的に攪拌されるようになっている。
【0023】
また、吐出口10aは、主配管9の長手軸方向に間隔をあけて複数設けられている。
これにより、生体組織を含む液体Aが主配管9内を流動させられつつ、複数回にわたって消化酵素液Bを噴出させられるようになっている。
また、細胞濃縮装置6は、遠心分離容器15と、該遠心分離容器15の底部を半径方向外方に向けて回転させる遠心分離機16とを備えている。
【0024】
このように構成された本実施形態に係る生体組織処理装置1の作用について説明する。
本実施形態に係る生体組織処理装置1を用いて生体組織から細胞を分離して濃縮するには、まず、生体から採取された生体組織を含む液体Aを組織導入口2から導入流路3に導入し、ポンプ7を作動させることにより、逆止弁8を介して攪拌流路5内に流動させる。また、副配管10のバルブ14を開いてポンプ13を作動させることにより、酵素容器4に収容されている消化酵素液Bを攪拌流路5内に噴出させる。
【0025】
副配管10の吐出口10aは、主配管9の内壁面に沿って斜め前方に消化酵素液Bを噴出するように配置されているので、消化酵素液Bは、生体組織を含む液体Aの流れに逆らうことなく、生体組織を含む液体A内に噴出されて混合される。これにより、生体組織を構成する細胞に過度のダメージを与えることなく、生体組織を含む液体A内に消化酵素液Bをムラなく均一に混合することができる。
【0026】
この場合において、本実施形態に係る生体組織処理装置1によれば、攪拌流路5内においては、乱流状態を生じさせるような高い流速ではなく、十分に低い流速で流動させながら攪拌することができる。したがって、攪拌流路5内においては混合液Cは時間をかけてゆっくり流動し、短い流路長でも十分な消化を行うことができる。したがって、装置全体をコンパクトに構成することができる。
【0027】
また、本実施形態においては、主配管9に形成されている副配管10の吐出口10aが、主配管9の長手方向に間隔をあけて複数配置されているので、生体組織を含む液体Aが主配管9内を流動させられながら、複数回にわたって消化酵素液Bを噴射させられることにより、その都度、新たな消化酵素液Bを供給される。これにより、生体組織が効率的に消化されることになる。
【0028】
さらに、本実施形態においては、吐出口10aが、主配管9の横断面の接線方向に向けて消化酵素液Bを噴出するように配置されているので、吐出口10aから噴出された消化酵素液Bは主配管9の内面に沿って流動し、主配管9内に旋回流が形成される。生体組織が脂肪組織のような水より小さい比重を有する場合には、主配管9内において生体組織は流通断面の上部、液体成分は流通断面の下部を流動しがちであるが、旋回流を形成することで、これらが相互に上下方向に巻き込まれて、十分に攪拌が行われることになる。
【0029】
そして、生体組織を含む液体Aと消化酵素液Bとの混合液Cが攪拌されることにより、生体組織が消化されて細胞が分離される。これにより、混合液C中には、未消化の生体組織と、生体組織から分離された細胞とが浮遊する。
【0030】
そして、混合液Cが攪拌流路5の下流側まで流動した時点で、生体組織の消化が十分に行われ、下流に接続されている細胞濃縮装置6へと導くことができる。攪拌流路5の下流側には、フィルタ11が設けられているので、混合液C内に含まれる未消化の生体組織はフィルタ11によって捕集され、生体組織から分離した細胞および液体成分がフィルタ11を通過して細胞濃縮装置6に導入される。
【0031】
細胞濃縮装置6に導かれた混合液Cは、遠心分離容器15内に収容される。そこで、図2に示されるように、遠心分離機16を作動させて遠心分離容器15をその底部が半径方向外方に向かうように回転させることにより、底部側に比重の大きな細胞群がペレット状に堆積され、細胞群に対して底部から離れた側に液体成分が分離される。すなわち、遠心分離容器15内の液体成分を吸引除去することにより、濃縮された細胞群を得ることができる。図中黒塗りで示したバルブ8,14は閉止状態であることを示している。
【0032】
このように、本実施形態に係る生体組織処理装置1によれば、組織導入口2から細胞濃縮装置6に至る途中に配置されている攪拌流路5において、生体組織を含む液体Aと消化酵素液Bとの混合液Cを低速で流動させる間に生体組織が消化される。したがって、主配管9長を短くして装置をコンパクトに構成しつつ、混合液Cを十分に攪拌して消化を促進することができ、未消化のまま残る生体組織を低減して、効率的に細胞を回収することができる。
【0033】
また、本実施形態に係る生体組織処理装置1によれば、主配管9内に乱流を発生させるほどの流速を細胞に与える必要がなく、混合液Cを低速で流動させるだけで済むので、細胞に与えるダメージを低減して、健全な状態の細胞群を回収することができるという利点がある。
【0034】
なお、本実施形態においては、複数の副配管10を設け、それらの吐出口10aを主配管9の長手方向に間隔をあけて配置することとしたが、単一の副配管10によって、攪拌流路5の上流側において主配管9内に消化酵素液Bを噴出させることにしてもよい。
また、消化酵素液Bを斜め前方に向けて噴出させるように吐出口10aを配置したが、これに代えて、図3に示されるように、主配管9の長手軸に直交する方向に向けて消化酵素液Bを噴出するように配置してもよい。このようにすることで、生体組織を含む液体Aの流れに対して、より流れを阻害する方向に消化酵素液Bが噴出されるので、混合液Cを良好に攪拌することができる。
【0035】
また、消化酵素液Bを、主配管9の横断面の接線方向に噴出させることとしたが、これに代えて、図4に示されるように、主配管9の中心に向けて半径方向に噴出させることにしてもよい。このようにすることで、主配管9内には旋回流は発生しないが、主配管9内の流れを乱すことができ、良好に攪拌することができる。
【0036】
また、本実施形態においては、攪拌流路5を構成する主配管9を略水平に配置することとしたが、これに限定されるものではなく、鉛直方向あるいは、水平方向に対して傾斜して配置することにしてもよい。
また、主配管9に生体組織を含む液体Aを流動させ、副配管10の吐出口10aから消化酵素液Bを主配管9内に噴出させることとしたが、これに代えて、主配管9に消化酵素液を流動させ、副配管10の吐出口から生体組織を含む液体Aを噴出させることにしてもよい。
【0037】
また、攪拌流路5を構成する主配管9には、図5に示されるように、該主配管9に沿って、主配管9内を流動する混合液Cを加温するヒータ17を設けることが好ましい。このようにすることで、混合液Cを消化に適した温度に加温して、消化を促進することができるという利点がある。
【符号の説明】
【0038】
A 生体組織を含む液体
B 消化酵素液(消化酵素)
C 混合液
1 生体組織処理装置
2 組織導入口(組織導入部)
4 酵素容器(酵素導入部)
5 攪拌流路
6 細胞濃縮装置(細胞濃縮部)
9 主配管
10 副配管
15 遠心分離容器(容器)
16 遠心分離機(遠心分離装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を含む液体を導入する組織導入部と、
消化酵素を導入する酵素導入部と、
前記組織導入部から導入された生体組織を含む液体と前記酵素導入部から導入された消化酵素とを含む混合液を攪拌させつつ流動させる攪拌流路とを備え、
該攪拌流路が、前記組織導入部から導入された前記生体組織を含む液体を流動させる主配管と、該主配管の壁面に接続され、前記酵素導入部から導入された前記消化酵素を主配管内に、前記生体組織を含む液体の流動方向に交差する方向に噴出させる少なくとも1つの副配管とを備える生体組織処理装置。
【請求項2】
前記副配管が、前記生体組織を含む液体の流動方向に対して斜め前方に向けて前記消化酵素を噴出させる請求項1に記載の生体組織処理装置。
【請求項3】
前記副配管が、前記生体組織を含む液体の流動方向に間隔をあけて複数設けられている請求項1に記載の生体組織処理装置。
【請求項4】
前記副配管が、前記主配管の長手軸に交差する平面における前記主配管の断面の接線に沿う方向に前記消化酵素を噴出させる請求項1または請求項2に記載の生体組織処理装置。
【請求項5】
前記攪拌流路の下流に接続され、該攪拌流路を通過した混合液内の細胞を濃縮する細胞濃縮部を備える請求項1に記載の生体組織処理装置。
【請求項6】
前記細胞濃縮部が、前記攪拌流路を通過した混合液を収容する容器を備え、該容器の底部を半径方向外方に向けて回転させる遠心分離装置である請求項5に記載の生体組織処理装置。
【請求項7】
前記攪拌流路に、該攪拌流路内を流動する混合液を加温するヒータが設けられている請求項1に記載の生体組織処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−166859(P2010−166859A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12574(P2009−12574)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】