生体組織処理装置
【課題】条件や目的に応じて必要量の細胞を精度よく機械的に分離する。
【解決手段】体内から脂肪組織が採取される患者条件に関する患者情報、および、脂肪組織から分離した細胞の使用条件に関する臨床情報の少なくとも一方が入力される入力部1と、入力部1に入力された前記患者情報、および/または、前記臨床情報に基づいて、脂肪組織から細胞を分離する処理条件を設定する制御部3とを備える生体組織処理装置100を提供する。
【解決手段】体内から脂肪組織が採取される患者条件に関する患者情報、および、脂肪組織から分離した細胞の使用条件に関する臨床情報の少なくとも一方が入力される入力部1と、入力部1に入力された前記患者情報、および/または、前記臨床情報に基づいて、脂肪組織から細胞を分離する処理条件を設定する制御部3とを備える生体組織処理装置100を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、体内から採取した生体組織から幹細胞等の生体組織由来細胞(以下、単に「細胞」という。)を分離し、再生医療などに用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の技術においては、ドナーの肥満度指数、アクセス可能な脂肪組織収集部位のアベイラビリティ、併用および先在する投薬療法と条件、および、生体組織を収集すべき臨床目的を含む多くの変量により、採取する生体組織の量を決めることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−519883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した様々な条件や目的に応じて、採取した生体組織から細胞を分離するための処理条件も異なるところ、従来は、医師等ごとに自らの判断に基づいて処理条件を決定することが一般的であり、上記条件や目的に応じた必要量の細胞を機械的に精度よく分離することができないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、必要量の細胞を精度よく機械的に分離することができる生体組織処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、生体組織が採取される患者条件に関する患者情報および前記生体組織から分離した細胞の使用条件に関する臨床情報の少なくとも一方が入力される入力部と、該入力部に入力された前記患者情報および/または前記臨床情報に基づいて、前記生体組織から前記細胞を分離する処理条件を設定する処理条件設定部とを備える生体組織処理装置を提供する。
【0007】
生体組織が採取される患者条件と生体組織から分離された細胞の使用条件とにより、必要な細胞数は異なる。本発明によれば、処理条件設定部により、患者条件に関する患者情報および/または使用条件に関する臨床情報に基づいて、生体組織から細胞を分離する処理条件を設定することで、状況に応じた必要量の細胞を機械的に精度よく分離することができる。
【0008】
上記発明においては、前記患者情報および/または前記臨床情報に基づいて、必要細胞数が含有される必要生体組織量を算出する必要量算出部を備え、前記処理条件設定部が、前記必要量算出部により算出された必要生体組織量を参照して前記処理条件を設定することとしてもよい。
一定量の生体組織から回収可能な細胞数は限られている。処理条件設定部が、必要細胞数が含有される必要生体組織量を参照して処理条件を設定することで、限られた生体組織量から状況に応じた必要量の細胞を効率的に分離することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記処理条件設定部が、前記患者から採取された生体組織量を参照して前記処理条件を設定することとしてもよい。
このように構成することで、患者から採取された生体組織量に応じて、より多くの細胞を分離することができるような処理条件を設定し、細胞の回収量の低減を抑制することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記患者情報に基づいて、前記患者から採取可能な生体組織量を算出する採取可能量算出部と、該採取可能量算出部により算出された生体組織量を表示する表示部とを備えることとしてもよい。
表示部に表示された患者から採取可能な生体組織量を医師等が見ることで、患者から生体組織を採取しすぎるのを防止することができる。この場合において、採取可能量算出部が、採取可能な生体組織量を患者情報に基づいて算出することで、患者ごとに、より適量の生体組織を採取することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記入力部に入力された前記患者情報および/または前記臨床情報と前記処理条件設定部により設定された前記処理条件とを関連つけて記憶する記憶部を備えることとしてもよい。
このように構成することで、以後の同一内容の生体組織処理を効率的に行うことができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記患者情報が、患者の性別、患者の年齢、患者の身長、患者の体重、患者の肥満度、および、血中成分に関する情報のうち少なくとも1つを含むこととしてもよい。
また、上記発明においては、前記臨床情報が、前記細胞を適用する症例、前記細胞を適用する手技、前記患者から前記生体組織を採取する部位、前記生体組織の採取方法、および、前記生体組織を採取する採取者に関する情報のうち少なくとも1つを含むこととしてもよい。
また、上記発明においては、前記処理条件が、前記生体試料の洗浄処理に関する条件、前記生体試料の消化処理に関する条件、前記細胞の抗凝集処理に関する条件、および/または、前記細胞の濃縮処理に関する条件であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、必要量の細胞を精度よく機械的に分離することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織処理装置のブロック図である。
【図2】図1の入力部の概略図である。
【図3】患者情報および入力情報を示す図である。
【図4】患者情報に基づく必要脂肪組織量の算出例を示す図である。
【図5】患者から採取可能な最大脂肪組織量を示す図である。
【図6】図1の生体組織処理装置により脂肪組織から細胞を分離する工程を示すフローチャートである。
【図7】患者から採取可能な脂肪組織量を設定する工程を示すフローチャートである。
【図8】処理モードを変更する場合のフローチャートである。
【図9】必要脂肪組織量と採取した脂肪組織量との関係から設定する処理条件を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態の変形例に係る生体組織処理装置の処理装置を示す概略構成図である。
【図11】細胞処理データの要約が表示される表示部を示す概略図である。
【図12】細胞処理データの詳細が表示される表示部を示す概略図である。
【図13】細胞処理データの要約を示す図である。
【図14】細胞処理データの詳細を示す図である。
【図15】表示部に表示される患者情報の詳細を示す図である。
【図16】表示部に表示される測定情報の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る生体組織処理装置について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態においては、生体組織として脂肪組織を処理する場合について説明する。
本実施形態に係る生体組織処理装置100は、図1に示すように、脂肪組織から細胞を分離するための処理情報を入力する入力部1と、入力部1に入力された処理情報に基づいて、脂肪組織から細胞を分離する処理条件を設定する制御部(処理条件設定部、必要量算出部、採取可能量算出部)3と、制御部3により設定された処理条件に基づき脂肪組織を処理する処理装置5と、処理情報や処理条件および計測データ等を表示する表示部7と、これらの処理情報、処理条件および計測データ等を記憶する記憶部9とを備えている。
【0016】
入力部1は、例えば、図2に示すように、処理情報を入力する入力画面を有しており、キーボードボタン11を押すと、キーボード画面からキーボード13を用いて処理情報を入力することができるようになっている。処理情報としては、脂肪組織が採取される患者の条件に関する情報(以下、「患者情報」という。)と、脂肪組織から分離した細胞を使用する条件に関する情報(以下、「臨床情報」という。)が挙げられる。
【0017】
患者情報は、図3に示すように、患者の性別、患者の年齢、患者の肥満度、および、血中アルブミン濃度等の生化学検査データ(血中成分に関する情報)の他、患者の身長、患者の体重等である。
臨床情報は、同図に示すように、細胞を適用する症例、細胞を適用する手技、患者から脂肪組織を採取する部位、脂肪組織の採取方法(吸引方法)、および、脂肪組織を採取する担当医(採取者)に関する情報等である。
【0018】
制御部3は、入力部1に入力された患者情報および臨床情報に基づいて、脂肪組織から細胞を分離する処理モードを選択するようになっている。処理モードは、例えば、基準となる標準処理、標準処理より処理時間が短い時間短縮処理、標準処理より細胞を高濃度に濃縮する高細胞濃度処理、ユーザが全て任意の値を手動で設定するユーザ設定処理等が挙げられる。これらの複数の処理モードは予め制御部3に登録されている。
【0019】
また、制御部3は、患者情報および臨床情報に基づいて、必要細胞数と、必要細胞数が含有される必要脂肪組織量(必要生体組織量)とを算出するようになっている。必要脂肪組織量は、例えば、図4に示されるように、患者情報における性別、年齢、BMI値(Body mass index(体格指数))および血中アルブミン濃度等に基づいて算出される。
ここで、BMI=W/H2(W:体重(kg)、H:身長(m))である。
また、例えば、症例や手技ごとに必要な細胞数とその細胞数が含有される脂肪組織量をあらかじめ制御部3に設定しておき、制御部3が、臨床情報に基づいて、必要細胞数と、必要細胞数が含有される必要脂肪組織量とを算出することとしてもよい。
【0020】
同図において、符合Qは標準の必要脂肪組織量(ml)を示している。男性は繊維組織が多いため、女性より10%多く脂肪組織を必要とする。41歳以上は脂肪単位量当たりの特定細胞数が少ないため、40歳以下より10%多く脂肪組織を必要とする。BMI値が18未満は脂肪単位量当たりの細胞数が多いため、BMI値が18〜27より脂肪組織量を10%少なくする。一方、BMI値が27以上は脂肪単位量当たりの細胞数が少ないため、BMI値が18〜27より脂肪組織量を10%多くする。血中アルブミン濃度が4g/dL未満はアルブミン量に比例して脂肪単位量当たりの特定細胞数が変化するため、4g/dL以上より10%多く脂肪組織を必要とする。
【0021】
制御部3は、算出した必要脂肪組織量を参照して処理条件を設定するようになっている。処理条件としては、例えば、脂肪組織の洗浄処理に関する条件、脂肪組織の消化処理に関する条件、細胞の抗凝集処理に関する条件、および、細胞の濃縮処理に関する条件が挙げられる。
【0022】
脂肪組織の洗浄処理に関する条件としては、洗浄処理にかける時間や洗浄液の注入量が設定される。脂肪組織の消化処理に関する条件としては、消化処理にかける時間や消化酵素の注入量が設定される。細胞の抗凝集処理に関する条件としては、抗凝集処理にかける時間が設定される。細胞の濃縮処理に関する条件としては、濃縮処理にかける時間や細胞懸濁液の回収量が設定される。
【0023】
さらに、制御部3においては、患者から採取可能な脂肪組織量が設定されるようになっている。患者から採取可能な脂肪組織量は、患者から採取可能な最大脂肪組織量Qmax以下の量が設定されるようになっている。最大脂肪組織量Qmaxは、例えば、図5に示されるように、患者情報のBMIの値に基づいて、予め制御部3に設定されている。
【0024】
処理装置5は、制御部3により設定された処理条件に従って脂肪組織から細胞を分離するようになっている。この処理装置5は、生体から採取した脂肪組織の洗浄や分解を行う分解処理部21と、分解処理部21により分解された脂肪組織に含まれる細胞のろ過や濃縮を行う濃縮処理部23と、分解処理部21において脂肪組織を洗浄した洗浄液の廃液および濃縮処理部23において細胞を洗浄した洗浄液の廃液を回収する廃液回収部25を備えている。
【0025】
分解処理部21は、脂肪組織と洗浄液を攪拌し、脂肪組織を洗浄するようになっている(脂肪組織の洗浄処理)。また、分解処理部21は、脂肪組織を消化酵素液とともに攪拌することにより消化し、細胞懸濁液を生成するようになっている。
濃縮処理部23は、凝集した細胞をフィルタでろ過あるいは解かすようになっている(細胞の抗凝集処理)。また、濃縮処理部23は、例えば、遠心分離機(図示略)を備えており、分解処理部21から送られてくる細胞懸濁液を遠心処理し、細胞懸濁液中の細胞と他の成分とを比重に応じて分離させて細胞を濃縮するようになっている(細胞の濃縮処理)。
【0026】
表示部7には、制御部3により算出された必要細胞数および必要脂肪組織量や、制御部3により設定された処理条件および採取可能量等が表示されるようになっている。
記憶部9は、入力部1に入力された患者情報および臨床情報と、必要細胞数、必要脂肪組織量、処理条件および採取可能量等が制御部3から入力され、これらをそれぞれ関連づけて記憶するようになっている。
【0027】
次に、このように構成された本実施形態に係る生体組織処理装置100の作用について、図6のフローチャートを参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織処理装置100を用いて、生体の脂肪組織から細胞を分離するには、まず、入力部1に、脂肪組織が採取される患者の患者情報を入力するとともに(ステップSA1A)、脂肪組織から分離した細胞を適用する臨床情報を入力する(ステップSA1B)。
【0028】
入力部1に患者情報および臨床情報が入力されると、制御部3により、患者情報および臨床情報に基づいて、症例に応じた処理モード(例えば、標準処理A。)が選択される(ステップSA2)。続いて、制御部3により、患者情報および臨床情報に基づいて、必要細胞数と(ステップSA3)、必要細胞数が含有される必要脂肪組織量が算出される(ステップSA4)。
【0029】
例えば、患者が65歳の男性でBMIの値が28の場合には、図4に示されるように、性別、年齢およびBMIにおいて、標準の必要脂肪組織量Q(ml)よりそれぞれ10%ずつ多く脂肪組織が必要になる。したがって、この患者から採取する必要脂肪組織量はQ×130%:(+30%)となる。
制御部3により算出された必要細胞数および必要脂肪組織量は、表示部7により表示される。
【0030】
また、制御部3により、患者から採取可能な脂肪組織量P(ml)が設定される。脂肪組織量Pの算出方法について、図7のフローチャートを用いて説明する。まず、標準の必要脂肪組織量Qと比例係数kとが乗算されて脂肪組織量Pが算出される(ステップSB1)。比例係数kは、1+Σfiとする。ここで、fiは、図4に示す患者情報(性別、年齢、BMI、血中アルブミン濃度)により決まる必要な脂肪組織量Qとの差分である。
【0031】
次に、算出された脂肪組織量Pが、制御部3に予め設定されている患者から採取可能な最大脂肪組織量Qmax(図5参照)より小さいか否かが判定される(ステップSB2)。脂肪組織量Pが最大脂肪組織量Qmaxより小さい場合は、P(=kQ)が患者から採取可能な脂肪組織量として設定される(ステップSB3A)。一方、脂肪組織量Pが最大脂肪組織量Qmaxより大きい場合は、P(=Qmax)が患者から採取可能な脂肪組織量として設定される(ステップSB3B)。設定された脂肪組織量Pは、表示部7に表示される(ステップSB4)。このように、患者から採取可能な脂肪組織量Pを患者情報に基づいて設定することで、患者ごとに、より適量の脂肪組織を採取することができる。
【0032】
図6のフローチャートに戻り、担当医により、表示部7の表示された必要脂肪組織量に従って、患者から脂肪組織が採取される(ステップSA5)。この場合において、患者から採取可能な脂肪組織量Pを必要脂肪組織量とともに表示部7に表示することで、担当医は患者から脂肪組織を採取しすぎるのを防止することができる。
【0033】
次に、制御部3により、患者情報および臨床情報と必要脂肪組織量とに基づいて、処理条件が設定される(ステップSA6)。
例えば、図3に示されるように、患者が男性の場合は脂肪組織に繊維組織が多いため、脂肪組織の消化処理時間を長くしたり消化酵素の注入量を増加したりするように、消化処理を強化する処理条件が設定される。患者が高齢者の場合は、脂肪単位量あたりの特定細胞数が少ないため、遠心処理時間を長くしたり細胞懸濁液の回収量を増加したりするように、遠心処理を強化する処理条件が設定される。BMIの値が低く脂肪単位量当たりの細胞数が少ない場合や、血中アルブミン濃度が低く脂肪単位量当たりの特定細胞数が少ない場合は、遠心処理時間を長くしたり細胞懸濁液の回収量を増加したりするように、濃縮処理を強化する処理条件が設定される。血管内投与の場合は、フィルタ処理等による細胞の抗凝集処理時間を長くするように、抗凝集処理を強化する処理条件が設定される。また、採取された脂肪組織に混合されている脂肪組織以外の内容物(血液や試薬)が多い場合は、脂肪組織の洗浄処理時間を長くしたり洗浄液の注入量を増加したりするように、洗浄処理を強化する処理条件が設定される。
【0034】
制御部3により処理条件が設定されると、処理装置5により、処理条件に従って脂肪組織が処理される(ステップSA7)。分解処理部21により脂肪組織が分解されて細胞懸濁液が生成され、濃縮処理部23により細胞懸濁液が遠心分離されて細胞懸濁液内の細胞と他の成分とが比重に応じて分離される。これにより、脂肪組織から濃縮した細胞が分離される。記憶部9により、患者情報、臨床情報、必要細胞数、必要脂肪組織量、処理条件および採取可能量等がそれぞれ関連づけられて記憶される(ステップSA8)。
【0035】
次に、図8のフローチャートを参照し、ステップSA4において算出された必要脂肪組織量Q1と、ステップSB5−1において実際に採取された脂肪組織量Q2との関係から、選択された処理モードを変更する場合について説明する。ステップSA1〜ステップSA4、ステップSA7〜ステップSA8については、図6のフローチャートと同様である。
【0036】
ステップSB5−2において、制御部3により、実際に採取された脂肪組織量Q2が必要脂肪組織量Q1より小さいと判定されると、選択されていた処理モードAから、例えば、足りない脂肪組織量を補うように細胞を多く回収することができる処理モードA´に変更される(ステップSB5−3B)。そして、ステップSA6において、制御部3により、図9に示されるように、遠心処理時間を長くしたり細胞懸濁液の回収量を増加したりするように、濃縮処理を強化する処理条件が設定される。
実際に採取された脂肪組織量Q2が必要脂肪組織量Q1より大きい場合は、選択された処理モードAは変更されない(ステップSB5−3A)。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る生体組織処理装置100によれば、脂肪組織が採取される患者条件と脂肪組織から分離された細胞の使用条件とにより必要な細胞数は異なるため、制御部3により、患者情報および臨床情報に基づいて処理条件を設定することで、必要量の細胞を精度よく機械的に分離することができる。
【0038】
本実施形態においては、患者情報と臨床情報の両方を用いて処理条件を設定することとしたが、例えば、患者情報および臨床情報のいずれか一方のみを用いて処理条件を設定することとしてもよい。
また、本実施形態においては、濃縮処理部23が遠心分離機を備え、遠心分離機により細胞の濃縮処理を行うこととしたが、細胞懸濁液に含まれる細胞と他の成分とを分離することができればよく、例えば、遠心分離機に代えて、細胞懸濁液に含まれる細胞をフィルタリングにより分離するフィルタリング装置を採用することとしてもよい。
【0039】
本実施形態は、以下のように変形することができる。
例えば、図10に示すように、処理装置5が、分解処理部21から濃縮処理部23に送られる細胞懸濁液の細胞濃度を測定する測定部31と、排液回収部25に送られる廃液の細胞濃度を測定する測定部33とを備えることとしてもよい。また、測定部31、33により測定された細胞濃度に基づいて、細胞懸濁液の特性を患者情報および/または臨床情報と対応づけて記憶部9に記憶させることとしてもよい。細胞懸濁液の特性としては、例えば、細胞数、細胞濃度、生細胞数、生細胞率、細胞の厚さ等が挙げられる。
図10において、符合27は細胞を洗浄するための洗浄液を貯留する洗浄液収容部を示し、符合28は分解処理部21、細胞濃縮部23、廃液回収部25および洗浄液収容部27を接続する搬送路を示し、符合29は搬送路28により液体を送るためのポンプを示しいている。測定部31,33は、例えば、光学センサ(図示略)を備え、光学センサにより細胞懸濁液の透過率から濁度を算出して、細胞濃度を測定することとしてもよい。
【0040】
本変形例においては、例えば、図11および図12に示すように、表示部7に細胞分離処理データ(計測データ)の要約と詳細とを表示することとしてもよい。細胞分離処理データの要約としては、例えば、図13に示されるように、細胞No、日時、処理モード、患者情報、測定情報等が表示される。細胞分離処理データの詳細としては、例えば、図14に示されるように、細胞No、日時、処理モード、脂肪組織量、最終生成物量、処理時間およびステータスが表示される。また、患者情報は、図15に示すように、細胞No、日時、性別、年齢、採取部位、採取方法および担当医を詳細に表示することとしてもよい。また、測定情報は、図16に示すように、細胞No、日時、細胞数、細胞濃度、生細胞数、生細胞率および検査結果を詳細に表示することしてもよい。
【0041】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本実施形態においては、生体組織として、脂肪組織を例示したが、これに代えて、骨髄その他の生体組織を採用してもよい。また、生化学検査データとして、血中アルブミン濃度を採用したが、これに代えて、他のタンパク質濃度を採用してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 入力部
3 制御部(処理条件設定部、必要量算出部、採取可能量算出部)
7 表示部
9 記憶部
100 生体処理装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、体内から採取した生体組織から幹細胞等の生体組織由来細胞(以下、単に「細胞」という。)を分離し、再生医療などに用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の技術においては、ドナーの肥満度指数、アクセス可能な脂肪組織収集部位のアベイラビリティ、併用および先在する投薬療法と条件、および、生体組織を収集すべき臨床目的を含む多くの変量により、採取する生体組織の量を決めることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−519883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した様々な条件や目的に応じて、採取した生体組織から細胞を分離するための処理条件も異なるところ、従来は、医師等ごとに自らの判断に基づいて処理条件を決定することが一般的であり、上記条件や目的に応じた必要量の細胞を機械的に精度よく分離することができないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、必要量の細胞を精度よく機械的に分離することができる生体組織処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、生体組織が採取される患者条件に関する患者情報および前記生体組織から分離した細胞の使用条件に関する臨床情報の少なくとも一方が入力される入力部と、該入力部に入力された前記患者情報および/または前記臨床情報に基づいて、前記生体組織から前記細胞を分離する処理条件を設定する処理条件設定部とを備える生体組織処理装置を提供する。
【0007】
生体組織が採取される患者条件と生体組織から分離された細胞の使用条件とにより、必要な細胞数は異なる。本発明によれば、処理条件設定部により、患者条件に関する患者情報および/または使用条件に関する臨床情報に基づいて、生体組織から細胞を分離する処理条件を設定することで、状況に応じた必要量の細胞を機械的に精度よく分離することができる。
【0008】
上記発明においては、前記患者情報および/または前記臨床情報に基づいて、必要細胞数が含有される必要生体組織量を算出する必要量算出部を備え、前記処理条件設定部が、前記必要量算出部により算出された必要生体組織量を参照して前記処理条件を設定することとしてもよい。
一定量の生体組織から回収可能な細胞数は限られている。処理条件設定部が、必要細胞数が含有される必要生体組織量を参照して処理条件を設定することで、限られた生体組織量から状況に応じた必要量の細胞を効率的に分離することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記処理条件設定部が、前記患者から採取された生体組織量を参照して前記処理条件を設定することとしてもよい。
このように構成することで、患者から採取された生体組織量に応じて、より多くの細胞を分離することができるような処理条件を設定し、細胞の回収量の低減を抑制することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記患者情報に基づいて、前記患者から採取可能な生体組織量を算出する採取可能量算出部と、該採取可能量算出部により算出された生体組織量を表示する表示部とを備えることとしてもよい。
表示部に表示された患者から採取可能な生体組織量を医師等が見ることで、患者から生体組織を採取しすぎるのを防止することができる。この場合において、採取可能量算出部が、採取可能な生体組織量を患者情報に基づいて算出することで、患者ごとに、より適量の生体組織を採取することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記入力部に入力された前記患者情報および/または前記臨床情報と前記処理条件設定部により設定された前記処理条件とを関連つけて記憶する記憶部を備えることとしてもよい。
このように構成することで、以後の同一内容の生体組織処理を効率的に行うことができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記患者情報が、患者の性別、患者の年齢、患者の身長、患者の体重、患者の肥満度、および、血中成分に関する情報のうち少なくとも1つを含むこととしてもよい。
また、上記発明においては、前記臨床情報が、前記細胞を適用する症例、前記細胞を適用する手技、前記患者から前記生体組織を採取する部位、前記生体組織の採取方法、および、前記生体組織を採取する採取者に関する情報のうち少なくとも1つを含むこととしてもよい。
また、上記発明においては、前記処理条件が、前記生体試料の洗浄処理に関する条件、前記生体試料の消化処理に関する条件、前記細胞の抗凝集処理に関する条件、および/または、前記細胞の濃縮処理に関する条件であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、必要量の細胞を精度よく機械的に分離することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織処理装置のブロック図である。
【図2】図1の入力部の概略図である。
【図3】患者情報および入力情報を示す図である。
【図4】患者情報に基づく必要脂肪組織量の算出例を示す図である。
【図5】患者から採取可能な最大脂肪組織量を示す図である。
【図6】図1の生体組織処理装置により脂肪組織から細胞を分離する工程を示すフローチャートである。
【図7】患者から採取可能な脂肪組織量を設定する工程を示すフローチャートである。
【図8】処理モードを変更する場合のフローチャートである。
【図9】必要脂肪組織量と採取した脂肪組織量との関係から設定する処理条件を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態の変形例に係る生体組織処理装置の処理装置を示す概略構成図である。
【図11】細胞処理データの要約が表示される表示部を示す概略図である。
【図12】細胞処理データの詳細が表示される表示部を示す概略図である。
【図13】細胞処理データの要約を示す図である。
【図14】細胞処理データの詳細を示す図である。
【図15】表示部に表示される患者情報の詳細を示す図である。
【図16】表示部に表示される測定情報の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る生体組織処理装置について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態においては、生体組織として脂肪組織を処理する場合について説明する。
本実施形態に係る生体組織処理装置100は、図1に示すように、脂肪組織から細胞を分離するための処理情報を入力する入力部1と、入力部1に入力された処理情報に基づいて、脂肪組織から細胞を分離する処理条件を設定する制御部(処理条件設定部、必要量算出部、採取可能量算出部)3と、制御部3により設定された処理条件に基づき脂肪組織を処理する処理装置5と、処理情報や処理条件および計測データ等を表示する表示部7と、これらの処理情報、処理条件および計測データ等を記憶する記憶部9とを備えている。
【0016】
入力部1は、例えば、図2に示すように、処理情報を入力する入力画面を有しており、キーボードボタン11を押すと、キーボード画面からキーボード13を用いて処理情報を入力することができるようになっている。処理情報としては、脂肪組織が採取される患者の条件に関する情報(以下、「患者情報」という。)と、脂肪組織から分離した細胞を使用する条件に関する情報(以下、「臨床情報」という。)が挙げられる。
【0017】
患者情報は、図3に示すように、患者の性別、患者の年齢、患者の肥満度、および、血中アルブミン濃度等の生化学検査データ(血中成分に関する情報)の他、患者の身長、患者の体重等である。
臨床情報は、同図に示すように、細胞を適用する症例、細胞を適用する手技、患者から脂肪組織を採取する部位、脂肪組織の採取方法(吸引方法)、および、脂肪組織を採取する担当医(採取者)に関する情報等である。
【0018】
制御部3は、入力部1に入力された患者情報および臨床情報に基づいて、脂肪組織から細胞を分離する処理モードを選択するようになっている。処理モードは、例えば、基準となる標準処理、標準処理より処理時間が短い時間短縮処理、標準処理より細胞を高濃度に濃縮する高細胞濃度処理、ユーザが全て任意の値を手動で設定するユーザ設定処理等が挙げられる。これらの複数の処理モードは予め制御部3に登録されている。
【0019】
また、制御部3は、患者情報および臨床情報に基づいて、必要細胞数と、必要細胞数が含有される必要脂肪組織量(必要生体組織量)とを算出するようになっている。必要脂肪組織量は、例えば、図4に示されるように、患者情報における性別、年齢、BMI値(Body mass index(体格指数))および血中アルブミン濃度等に基づいて算出される。
ここで、BMI=W/H2(W:体重(kg)、H:身長(m))である。
また、例えば、症例や手技ごとに必要な細胞数とその細胞数が含有される脂肪組織量をあらかじめ制御部3に設定しておき、制御部3が、臨床情報に基づいて、必要細胞数と、必要細胞数が含有される必要脂肪組織量とを算出することとしてもよい。
【0020】
同図において、符合Qは標準の必要脂肪組織量(ml)を示している。男性は繊維組織が多いため、女性より10%多く脂肪組織を必要とする。41歳以上は脂肪単位量当たりの特定細胞数が少ないため、40歳以下より10%多く脂肪組織を必要とする。BMI値が18未満は脂肪単位量当たりの細胞数が多いため、BMI値が18〜27より脂肪組織量を10%少なくする。一方、BMI値が27以上は脂肪単位量当たりの細胞数が少ないため、BMI値が18〜27より脂肪組織量を10%多くする。血中アルブミン濃度が4g/dL未満はアルブミン量に比例して脂肪単位量当たりの特定細胞数が変化するため、4g/dL以上より10%多く脂肪組織を必要とする。
【0021】
制御部3は、算出した必要脂肪組織量を参照して処理条件を設定するようになっている。処理条件としては、例えば、脂肪組織の洗浄処理に関する条件、脂肪組織の消化処理に関する条件、細胞の抗凝集処理に関する条件、および、細胞の濃縮処理に関する条件が挙げられる。
【0022】
脂肪組織の洗浄処理に関する条件としては、洗浄処理にかける時間や洗浄液の注入量が設定される。脂肪組織の消化処理に関する条件としては、消化処理にかける時間や消化酵素の注入量が設定される。細胞の抗凝集処理に関する条件としては、抗凝集処理にかける時間が設定される。細胞の濃縮処理に関する条件としては、濃縮処理にかける時間や細胞懸濁液の回収量が設定される。
【0023】
さらに、制御部3においては、患者から採取可能な脂肪組織量が設定されるようになっている。患者から採取可能な脂肪組織量は、患者から採取可能な最大脂肪組織量Qmax以下の量が設定されるようになっている。最大脂肪組織量Qmaxは、例えば、図5に示されるように、患者情報のBMIの値に基づいて、予め制御部3に設定されている。
【0024】
処理装置5は、制御部3により設定された処理条件に従って脂肪組織から細胞を分離するようになっている。この処理装置5は、生体から採取した脂肪組織の洗浄や分解を行う分解処理部21と、分解処理部21により分解された脂肪組織に含まれる細胞のろ過や濃縮を行う濃縮処理部23と、分解処理部21において脂肪組織を洗浄した洗浄液の廃液および濃縮処理部23において細胞を洗浄した洗浄液の廃液を回収する廃液回収部25を備えている。
【0025】
分解処理部21は、脂肪組織と洗浄液を攪拌し、脂肪組織を洗浄するようになっている(脂肪組織の洗浄処理)。また、分解処理部21は、脂肪組織を消化酵素液とともに攪拌することにより消化し、細胞懸濁液を生成するようになっている。
濃縮処理部23は、凝集した細胞をフィルタでろ過あるいは解かすようになっている(細胞の抗凝集処理)。また、濃縮処理部23は、例えば、遠心分離機(図示略)を備えており、分解処理部21から送られてくる細胞懸濁液を遠心処理し、細胞懸濁液中の細胞と他の成分とを比重に応じて分離させて細胞を濃縮するようになっている(細胞の濃縮処理)。
【0026】
表示部7には、制御部3により算出された必要細胞数および必要脂肪組織量や、制御部3により設定された処理条件および採取可能量等が表示されるようになっている。
記憶部9は、入力部1に入力された患者情報および臨床情報と、必要細胞数、必要脂肪組織量、処理条件および採取可能量等が制御部3から入力され、これらをそれぞれ関連づけて記憶するようになっている。
【0027】
次に、このように構成された本実施形態に係る生体組織処理装置100の作用について、図6のフローチャートを参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織処理装置100を用いて、生体の脂肪組織から細胞を分離するには、まず、入力部1に、脂肪組織が採取される患者の患者情報を入力するとともに(ステップSA1A)、脂肪組織から分離した細胞を適用する臨床情報を入力する(ステップSA1B)。
【0028】
入力部1に患者情報および臨床情報が入力されると、制御部3により、患者情報および臨床情報に基づいて、症例に応じた処理モード(例えば、標準処理A。)が選択される(ステップSA2)。続いて、制御部3により、患者情報および臨床情報に基づいて、必要細胞数と(ステップSA3)、必要細胞数が含有される必要脂肪組織量が算出される(ステップSA4)。
【0029】
例えば、患者が65歳の男性でBMIの値が28の場合には、図4に示されるように、性別、年齢およびBMIにおいて、標準の必要脂肪組織量Q(ml)よりそれぞれ10%ずつ多く脂肪組織が必要になる。したがって、この患者から採取する必要脂肪組織量はQ×130%:(+30%)となる。
制御部3により算出された必要細胞数および必要脂肪組織量は、表示部7により表示される。
【0030】
また、制御部3により、患者から採取可能な脂肪組織量P(ml)が設定される。脂肪組織量Pの算出方法について、図7のフローチャートを用いて説明する。まず、標準の必要脂肪組織量Qと比例係数kとが乗算されて脂肪組織量Pが算出される(ステップSB1)。比例係数kは、1+Σfiとする。ここで、fiは、図4に示す患者情報(性別、年齢、BMI、血中アルブミン濃度)により決まる必要な脂肪組織量Qとの差分である。
【0031】
次に、算出された脂肪組織量Pが、制御部3に予め設定されている患者から採取可能な最大脂肪組織量Qmax(図5参照)より小さいか否かが判定される(ステップSB2)。脂肪組織量Pが最大脂肪組織量Qmaxより小さい場合は、P(=kQ)が患者から採取可能な脂肪組織量として設定される(ステップSB3A)。一方、脂肪組織量Pが最大脂肪組織量Qmaxより大きい場合は、P(=Qmax)が患者から採取可能な脂肪組織量として設定される(ステップSB3B)。設定された脂肪組織量Pは、表示部7に表示される(ステップSB4)。このように、患者から採取可能な脂肪組織量Pを患者情報に基づいて設定することで、患者ごとに、より適量の脂肪組織を採取することができる。
【0032】
図6のフローチャートに戻り、担当医により、表示部7の表示された必要脂肪組織量に従って、患者から脂肪組織が採取される(ステップSA5)。この場合において、患者から採取可能な脂肪組織量Pを必要脂肪組織量とともに表示部7に表示することで、担当医は患者から脂肪組織を採取しすぎるのを防止することができる。
【0033】
次に、制御部3により、患者情報および臨床情報と必要脂肪組織量とに基づいて、処理条件が設定される(ステップSA6)。
例えば、図3に示されるように、患者が男性の場合は脂肪組織に繊維組織が多いため、脂肪組織の消化処理時間を長くしたり消化酵素の注入量を増加したりするように、消化処理を強化する処理条件が設定される。患者が高齢者の場合は、脂肪単位量あたりの特定細胞数が少ないため、遠心処理時間を長くしたり細胞懸濁液の回収量を増加したりするように、遠心処理を強化する処理条件が設定される。BMIの値が低く脂肪単位量当たりの細胞数が少ない場合や、血中アルブミン濃度が低く脂肪単位量当たりの特定細胞数が少ない場合は、遠心処理時間を長くしたり細胞懸濁液の回収量を増加したりするように、濃縮処理を強化する処理条件が設定される。血管内投与の場合は、フィルタ処理等による細胞の抗凝集処理時間を長くするように、抗凝集処理を強化する処理条件が設定される。また、採取された脂肪組織に混合されている脂肪組織以外の内容物(血液や試薬)が多い場合は、脂肪組織の洗浄処理時間を長くしたり洗浄液の注入量を増加したりするように、洗浄処理を強化する処理条件が設定される。
【0034】
制御部3により処理条件が設定されると、処理装置5により、処理条件に従って脂肪組織が処理される(ステップSA7)。分解処理部21により脂肪組織が分解されて細胞懸濁液が生成され、濃縮処理部23により細胞懸濁液が遠心分離されて細胞懸濁液内の細胞と他の成分とが比重に応じて分離される。これにより、脂肪組織から濃縮した細胞が分離される。記憶部9により、患者情報、臨床情報、必要細胞数、必要脂肪組織量、処理条件および採取可能量等がそれぞれ関連づけられて記憶される(ステップSA8)。
【0035】
次に、図8のフローチャートを参照し、ステップSA4において算出された必要脂肪組織量Q1と、ステップSB5−1において実際に採取された脂肪組織量Q2との関係から、選択された処理モードを変更する場合について説明する。ステップSA1〜ステップSA4、ステップSA7〜ステップSA8については、図6のフローチャートと同様である。
【0036】
ステップSB5−2において、制御部3により、実際に採取された脂肪組織量Q2が必要脂肪組織量Q1より小さいと判定されると、選択されていた処理モードAから、例えば、足りない脂肪組織量を補うように細胞を多く回収することができる処理モードA´に変更される(ステップSB5−3B)。そして、ステップSA6において、制御部3により、図9に示されるように、遠心処理時間を長くしたり細胞懸濁液の回収量を増加したりするように、濃縮処理を強化する処理条件が設定される。
実際に採取された脂肪組織量Q2が必要脂肪組織量Q1より大きい場合は、選択された処理モードAは変更されない(ステップSB5−3A)。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る生体組織処理装置100によれば、脂肪組織が採取される患者条件と脂肪組織から分離された細胞の使用条件とにより必要な細胞数は異なるため、制御部3により、患者情報および臨床情報に基づいて処理条件を設定することで、必要量の細胞を精度よく機械的に分離することができる。
【0038】
本実施形態においては、患者情報と臨床情報の両方を用いて処理条件を設定することとしたが、例えば、患者情報および臨床情報のいずれか一方のみを用いて処理条件を設定することとしてもよい。
また、本実施形態においては、濃縮処理部23が遠心分離機を備え、遠心分離機により細胞の濃縮処理を行うこととしたが、細胞懸濁液に含まれる細胞と他の成分とを分離することができればよく、例えば、遠心分離機に代えて、細胞懸濁液に含まれる細胞をフィルタリングにより分離するフィルタリング装置を採用することとしてもよい。
【0039】
本実施形態は、以下のように変形することができる。
例えば、図10に示すように、処理装置5が、分解処理部21から濃縮処理部23に送られる細胞懸濁液の細胞濃度を測定する測定部31と、排液回収部25に送られる廃液の細胞濃度を測定する測定部33とを備えることとしてもよい。また、測定部31、33により測定された細胞濃度に基づいて、細胞懸濁液の特性を患者情報および/または臨床情報と対応づけて記憶部9に記憶させることとしてもよい。細胞懸濁液の特性としては、例えば、細胞数、細胞濃度、生細胞数、生細胞率、細胞の厚さ等が挙げられる。
図10において、符合27は細胞を洗浄するための洗浄液を貯留する洗浄液収容部を示し、符合28は分解処理部21、細胞濃縮部23、廃液回収部25および洗浄液収容部27を接続する搬送路を示し、符合29は搬送路28により液体を送るためのポンプを示しいている。測定部31,33は、例えば、光学センサ(図示略)を備え、光学センサにより細胞懸濁液の透過率から濁度を算出して、細胞濃度を測定することとしてもよい。
【0040】
本変形例においては、例えば、図11および図12に示すように、表示部7に細胞分離処理データ(計測データ)の要約と詳細とを表示することとしてもよい。細胞分離処理データの要約としては、例えば、図13に示されるように、細胞No、日時、処理モード、患者情報、測定情報等が表示される。細胞分離処理データの詳細としては、例えば、図14に示されるように、細胞No、日時、処理モード、脂肪組織量、最終生成物量、処理時間およびステータスが表示される。また、患者情報は、図15に示すように、細胞No、日時、性別、年齢、採取部位、採取方法および担当医を詳細に表示することとしてもよい。また、測定情報は、図16に示すように、細胞No、日時、細胞数、細胞濃度、生細胞数、生細胞率および検査結果を詳細に表示することしてもよい。
【0041】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本実施形態においては、生体組織として、脂肪組織を例示したが、これに代えて、骨髄その他の生体組織を採用してもよい。また、生化学検査データとして、血中アルブミン濃度を採用したが、これに代えて、他のタンパク質濃度を採用してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 入力部
3 制御部(処理条件設定部、必要量算出部、採取可能量算出部)
7 表示部
9 記憶部
100 生体処理装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織が採取される患者条件に関する患者情報および前記生体組織から分離した細胞の使用条件に関する臨床情報の少なくとも一方が入力される入力部と、
該入力部に入力された前記患者情報および/または前記臨床情報に基づいて、前記生体組織から前記細胞を分離する処理条件を設定する処理条件設定部とを備える生体組織処理装置。
【請求項2】
前記患者情報および/または前記臨床情報に基づいて、必要細胞数が含有される必要生体組織量を算出する必要量算出部を備え、
前記処理条件設定部が、前記必要量算出部により算出された必要生体組織量を参照して前記処理条件を設定する請求項1に記載の生体組織処理装置。
【請求項3】
前記処理条件設定部が、前記患者から採取された生体組織量を参照して前記処理条件を設定する請求項1または請求項2に記載の生体組織処理装置。
【請求項4】
前記患者情報に基づいて、前記患者から採取可能な生体組織量を算出する採取可能量算出部と、
該採取可能量算出部により算出された生体組織量を表示する表示部とを備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の生体組織処理装置。
【請求項5】
前記入力部に入力された前記患者情報および/または前記臨床情報と前記処理条件設定部により設定された前記処理条件とを関連つけて記憶する記憶部を備える請求項1から請求項4のいずれかに記載の生体組織処理装置。
【請求項6】
前記患者情報が、患者の性別、患者の年齢、患者の身長、患者の体重、患者の肥満度、および、血中成分に関する情報のうち少なくとも1つを含む請求項1から請求項5のいずれかに記載の生体組織処理装置。
【請求項7】
前記臨床情報が、前記細胞を適用する症例、前記細胞を適用する手技、前記患者から前記生体組織を採取する部位、前記生体組織の採取方法、および、前記生体組織を採取する採取者に関する情報のうち少なくとも1つを含む請求項1から請求項6のいずれかに記載の生体組織処理装置。
【請求項8】
前記処理条件が、前記生体試料の洗浄処理に関する条件、前記生体試料の消化処理に関する条件、前記細胞の抗凝集処理に関する条件、および/または、前記細胞の濃縮処理に関する条件である請求項1から請求項7のいずれかに記載の生体組織処理装置。
【請求項1】
生体組織が採取される患者条件に関する患者情報および前記生体組織から分離した細胞の使用条件に関する臨床情報の少なくとも一方が入力される入力部と、
該入力部に入力された前記患者情報および/または前記臨床情報に基づいて、前記生体組織から前記細胞を分離する処理条件を設定する処理条件設定部とを備える生体組織処理装置。
【請求項2】
前記患者情報および/または前記臨床情報に基づいて、必要細胞数が含有される必要生体組織量を算出する必要量算出部を備え、
前記処理条件設定部が、前記必要量算出部により算出された必要生体組織量を参照して前記処理条件を設定する請求項1に記載の生体組織処理装置。
【請求項3】
前記処理条件設定部が、前記患者から採取された生体組織量を参照して前記処理条件を設定する請求項1または請求項2に記載の生体組織処理装置。
【請求項4】
前記患者情報に基づいて、前記患者から採取可能な生体組織量を算出する採取可能量算出部と、
該採取可能量算出部により算出された生体組織量を表示する表示部とを備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の生体組織処理装置。
【請求項5】
前記入力部に入力された前記患者情報および/または前記臨床情報と前記処理条件設定部により設定された前記処理条件とを関連つけて記憶する記憶部を備える請求項1から請求項4のいずれかに記載の生体組織処理装置。
【請求項6】
前記患者情報が、患者の性別、患者の年齢、患者の身長、患者の体重、患者の肥満度、および、血中成分に関する情報のうち少なくとも1つを含む請求項1から請求項5のいずれかに記載の生体組織処理装置。
【請求項7】
前記臨床情報が、前記細胞を適用する症例、前記細胞を適用する手技、前記患者から前記生体組織を採取する部位、前記生体組織の採取方法、および、前記生体組織を採取する採取者に関する情報のうち少なくとも1つを含む請求項1から請求項6のいずれかに記載の生体組織処理装置。
【請求項8】
前記処理条件が、前記生体試料の洗浄処理に関する条件、前記生体試料の消化処理に関する条件、前記細胞の抗凝集処理に関する条件、および/または、前記細胞の濃縮処理に関する条件である請求項1から請求項7のいずれかに記載の生体組織処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−143261(P2012−143261A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1446(P2011−1446)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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