説明

生体組織処理装置

【課題】大量に供給する処理液を、所望の温度に迅速に調節する装置の提供。
【解決手段】生体組織を処理液によって処理する処理槽2と、該処理槽2において生体組織が処理されるときの処理液の処理温度より低い第1の温度の処理液を収容する第1の容器3aと、処理温度より高い第2の温度の処理液を収容する第2の容器3bと、第1の容器3aおよび第2の容器3bから処理槽2に処理液を送液する回路5と、第1の温度、第2の温度および処理温度に基づいて、第1の容器3aおよび第2の容器3bからそれぞれ回路5を介して処理槽2に送液される処理液の送液量の割合を制御する送液量制御部7とを備える生体組織処理装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織の処理に必要な大量の輸液を一度に加温できる輸液加温装置を備えた細胞処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−56286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の場合、ヒータの温度を変化させたときに、その温度変化に対して輸液全体の温度がゆっくり追従する。したがって、例えば、輸液の温度が一度所望の温度を超えてしまうと、所望の温度まで下降させるのに時間がかかってしまうため、輸液を急激に加温することは難しい。そこで、ヒータの温度を所望の温度またはそれよりも若干高い温度に設定して徐々に輸液を加温した場合には、輸液の加温に時間がかかるという不都合がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、大量に供給する処理液を、所望の温度に迅速に調節することができる生体組織処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体組織を処理液によって処理する処理槽と、該処理槽において前記生体組織が処理されるときの前記処理液の処理温度より低い第1の温度の前記処理液を収容する第1の容器と、前記処理温度より高い第2の温度の前記処理液を収容する第2の容器と、前記第1の容器および前記第2の容器から前記処理槽に前記処理液を送液する回路と、前記第1の温度、前記第2の温度および前記処理温度に基づいて、前記第1の容器および前記第2の容器からそれぞれ前記回路を介して前記処理槽に送液される処理液の送液量の割合を制御する送液量制御部とを備える生体組織処理装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、第1の容器および第2の容器から回路を介して処理槽に処理液を送液することにより、生体組織を処理槽で処理することができる。
この場合に、送液量制御部によって、第1の温度の処理液と第2の温度の処理液の送液量の割合を調節するだけで、処理槽における処理液の温度が適切な処理温度に調節される。また、各容器に収容される処理液の厳密な温度制御が不要になるので、処理液を第1の温度または第2の温度に急激に加温または降温することが可能となる。これにより、大量に供給する処理液を、所望の温度に迅速に調節することができる。
【0008】
上記発明においては、前記送液量制御部が、前記回路によって、前記第1の容器または前記第2の容器から前記処理槽まで送液される前記処理液の送液時間に基づいて、前記処理液の送液量の割合を制御することとしてもよい。
このようにすることで、回路の送液中に処理液の温度が変化しても、処理槽での処理液の温度の誤差を、流量の割合を調節することにより補正することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記第1の容器および前記第2の容器の外部の温度を測定する外気温測定部を備え、前記送液量制御部が、前記外気温測定部によって測定された温度に基づいて、前記処理液の送液量の割合を制御することとしてもよい。
このようにすることで、室温などが変化することにより、回路の送液中に処理液の温度が変化しても、処理槽での処理液の温度の誤差を補正することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記処理槽において前記生体組織と前記処理液とを撹拌する撹拌手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、処理槽の各位置における処理液の温度を均一にすることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記処理槽において前記処理液の温度を測定する液温測定部を備え、前記送液量制御部は、前記液温測定部によって測定された温度に基づいて、前記処理液の送液量の割合を制御することとしてもよい。
このようにすることで、各温度の処理液が混合された後の実際の処理液の温度を測定することにより、各温度の処理液の送液量の割合をさらに適切に調節することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大量に供給する処理液を、所望の温度に迅速に調節することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織処理装置の全体構成図である。
【図2】図1の生体組織処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態に係る生体組織処理装置1について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る生体組織処理装置1は、図1に示されるように、生体組織を処理する処理槽2と、処理液を収容する第1の容器3aおよび第2の容器3bと、第2の容器3bに設けられたヒータ4と、各容器3a,3bから処理槽2に処理液を送液する回路5と、室温計(外気温センサ)6と、各容器3a,3bからの処理液の送液量を制御する制御部(送液量制御部)7とを備えている。
【0015】
処理槽2は、生体組織を収容しており、振とう機(撹拌手段)8の上に載置されている。処理槽2には、収容された処理液の温度を測定する液温計(液温測定部)9が設けられている。
【0016】
第1の容器3aおよび第2の容器3bは、処理液として、例えば、生体組織を洗浄する洗浄液や、生体組織を分解する消化酵素液などを収容している。第1の容器3aは、室温で管理されている。第2の容器3bは、ヒータ4によって内部の処理液を、生体組織を処理するときの処理液の処理温度より高い温度に加温可能になっている。また、各容器3a,3bにはそれぞれ、収容された処理液の温度を測定する第1の温度センサ10aまたは第2の温度センサ10bが設けられている。
【0017】
回路5は、各容器3a,3bと処理槽2とを接続するチューブ11と、送液ポンプ12と、各容器3a,3bからの処理液の流量をそれぞれ調節する第1の流量調節バルブV1および第2の流量調節バルブV2と、処理槽2の直前段においてチューブ11に設けられた開閉バルブV3とを備えている。第1の容器3aおよび第2の容器3bにそれぞれ接続されたチューブ11は、途中位置において1本に合流させられて処理槽2に接続されている。
【0018】
チューブ11の、処理槽2との接続位置の直前には、チューブ11内の処理液の温度を測定する第3の温度センサ10cが設けられている。これにより、各容器3a,3bから流出させられた処理液が混合されて処理槽2に供給される直前の温度が測定される。
室温計6は、生体組織処理装置1の周辺の室温を測定する。
【0019】
制御部7は、図示しない配線を介して、各バルブV1〜V3と送液ポンプ12と各温度センサ10a〜10cに接続されている。
制御部7は、処理温度と、第1および第2の温度センサ10a,10bによって測定された温度とに基づいて、各流量調節バルブV1,V2の流量を決定する。具体的には、
(第1の流量調節バルブV1の流量):(第2の流量調節バルブV2の流量)
=(第2の温度センサ10bの測定温度−処理温度):(処理温度−第1の温度センサ10aの測定温度)・・・(1)
となるように、各流量調節バルブV1,V2の流量の割合を決定する。
【0020】
このときに、両方の流量調節バルブV1,V2の流量を調節してもよいし、例えば、第1の流量調節バルブV1の流量を一定にし、第2の流量調節バルブのV2の流量のみを変更することにより、流量調節バルブV1,V2の流量の割合を調節してもよい。
【0021】
例えば、処理温度が40℃、第1の温度センサ10aによって測定された温度が25℃、第2の温度センサ10bによって測定された温度が90℃とすると、
(第1の流量調節バルブV1の流量):(第2の流量調節バルブV2の流量)
=90−40:40−25=10:3・・・(1)
となるように、流量調節バルブV1,V2の流量を調節する。これにより、処理液が処理温度に調節された状態で処理槽2に供給される。
【0022】
また、制御部7は、各容器3a,3bから処理槽2までのチューブ11の長さと、決定した流量調節バルブV1,V2の流量とから、処理液の各容器3a,3bから処理槽2までの送液時間を算出する。そして、制御部7は、算出した送液時間と室温計6によって測定された室温とに基づいて、先ほど決定した流量調節バルブV1,V2の流量の割合を補正する。これにより、チューブ11内を送液中に処理液の温度が変化しても、その温度の誤差が補正された処理液が処理槽2に供給される。このときの流量の補正量は、例えば、送液時間および室温と対応づけて予め制御部7に記憶されている。
【0023】
また、制御部7は、送液ポンプ12により処理液の送液を開始してから、液温計9によって測定された温度を監視する。そして、制御部7は、液温計9の測定温度が処理温度より高い場合は、第2の流量調節バルブV2の流量の割合を低くし、液温計9の測定温度が処理温度より低い場合は第2の流量調節バルブV2の流量の割合を高くする。これにより、処理槽2内の処理液の実際の温度が処理温度からずれている場合には処理温度に補正される。
【0024】
さらに、制御部7は、第3の温度センサ10cによって測定された温度が所定の閾値より高いときは、開閉バルブV3を閉状態にする。これにより、所定の閾値より高い温度の処理液が処理槽2に供給されることが防止されるようになっている。
【0025】
このように構成された生体組織処理装置1の作用について、図2を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織処理装置1により生体組織を処理するには、生体組織を処理槽2に収容し、ヒータ4によって第2の容器3b内の処理液の加温を開始する(ステップS1)。
【0026】
生体組織処理装置1は、第2の容器3b内の処理液が十分に高い温度に加温された後、各容器3a,3b内の処理液の温度を測定し(ステップS2)、流量調節バルブV1,V2の流量を決定する(ステップS3)。次いで、生体組織処理装置1は、各容器3a,3bから処理槽2への処理液の送液を開始する(ステップS4)。このときに、生体組織処理装置1は、振とう機8を作動させることにより、処理槽2に供給されてきた処理液が順次撹拌されて処理槽2内の処理液の温度が均一になるようにする。
【0027】
ここで、処理槽2内に供給された処理液の温度が処理温度からずれている場合(ステップS5)、各容器3a,3bからの処理液の流量の割合が調節されることにより(ステップS6)、処理槽2内の処理液の温度が処理温度に補正される。生体組織処理装置1は、全体の送液量が所定量に達すると(ステップS7)、送液ポンプ12を停止させ(ステップS8)、所定時間処理槽2内の撹拌を続けることにより生体組織を処理する(ステップS9)。
【0028】
このように、本実施形態によれば、処理槽2に供給される処理液の最終的な温度が、比較的低温の処理液の流量と比較的高温の処理液の流量の割合を変えることによって迅速に制御される。また、これにより、第2の容器3bに収容された処理液を所定の温度に厳密に制御する必要がないので、ヒータ4を高温に設定して処理液を短時間で急激に加温することが可能となる。これにより、生体組織の処理に必要な大量の処理液を、迅速に適温に調節して処理槽2に供給することができるという利点がある。
【0029】
なお、上記実施形態においては、室温の処理液と加温された処理液とを同時に処理槽2に供給することとしたが、これに代えて、各温度の処理液を別々に処理槽2に供給してもよい。この場合、処理温度より高温の処理液によって生体組織に影響が与えられるのを防ぐために、室温の処理液が先に処理槽2に供給されてから、加温された処理液が供給される。このようにしても、処理槽2内において処理液の温度を素早く所望の温度に調節することができる。
なお、この場合には、各流量調節バルブV1,V2の流量を一定にし、送液時間を調節することにより各容器3a,3bからの処理液の送液量を制御してもよい。
【0030】
また、上記実施形態においては、第3の温度センサ10cによって測定された温度が閾値を越えたときに開閉バルブV3を閉じることとしたが、これに代えて、第2の流量調節バルブV2を閉じることとしてもよい。このようにしても、閾値を越えた温度の処理液が処理槽2に供給されてしまうことを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0031】
1 生体組織処理装置
2 処理槽
3a 第1の容器
3b 第2の容器
4 ヒータ
5 回路
6 室温計(外気温センサ)
7 制御部(送液量制御部)
8 振とう機(撹拌手段)
9 液温計(液温測定部)
10a,10b,10c 温度センサ
11 チューブ
12 送液ポンプ
V1,V2 流量調節バルブ
V3 開閉バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を処理液によって処理する処理槽と、
該処理槽において前記生体組織が処理されるときの前記処理液の処理温度より低い第1の温度の前記処理液を収容する第1の容器と、
前記処理温度より高い第2の温度の前記処理液を収容する第2の容器と、
前記第1の容器および前記第2の容器から前記処理槽に前記処理液を送液する回路と、
前記第1の温度、前記第2の温度および前記処理温度に基づいて、前記第1の容器および前記第2の容器からそれぞれ前記回路を介して前記処理槽に送液される処理液の送液量の割合を制御する送液量制御部とを備える生体組織処理装置。
【請求項2】
前記送液量制御部が、前記回路によって、前記第1の容器または前記第2の容器から前記処理槽まで送液される前記処理液の送液時間に基づいて、前記処理液の送液量の割合を制御する請求項1に記載の生体組織処理装置。
【請求項3】
前記第1の容器および前記第2の容器の外部の温度を測定する外気温測定部を備え、
前記送液量制御部が、前記外気温測定部によって測定された温度に基づいて、前記処理液の送液量の割合を制御する請求項1または請求項2に記載の生体組織処理装置。
【請求項4】
前記処理槽において前記生体組織と前記処理液とを撹拌する撹拌手段を備える請求項1に記載の生体組織処理装置。
【請求項5】
前記処理槽において前記処理液の温度を測定する液温測定部を備え、
前記送液量制御部は、前記液温測定部によって測定された温度に基づいて、前記処理液の送液量の割合を制御する請求項1に記載の生体組織処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−44940(P2012−44940A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191230(P2010−191230)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】