説明

生体組織接着剤塗布用具およびノズルヘッド

【課題】薬液の広範囲への噴射が可能で、患部への確実な薬液の塗布が可能な生体組織接着剤塗布用具を提供する。
【解決手段】生体組織接着剤塗布用具100のノズル本体10を、空間12、ガス注入口15、薬液注入口16a、16bを有するコネクタ11と、長尺なノズル管20と、薬液、ガスを外部に噴出するノズルヘッド30とから構成する。ノズルヘッド30は、薬液吐出口34a、34bから薬液を外部に吐出する薬液噴出路33a、33bと、ガス噴出口35a、35bからガスを外部に噴射するガス噴出路22と、を有する。薬液噴出路33a、33b、ガス噴出路22はノズルヘッド30の中心軸に対して傾斜し、ノズル本体10の遠位端DE側から目視した状態で、薬液吐出口34a、34bとガス噴出口35a、35bとが、ノズルヘッド30の外周縁よりも内側に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織接着用の薬液を生体の患部に噴霧して塗布するための、生体組織接着剤塗布用具およびノズルヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織接着剤塗布用具として、例えば、穿刺針等で腹壁に形成した穿孔内に、トラカールを挿入し、このトラカール内に、長尺なノズルを挿入し、縫合部に薬液を噴霧して止血閉鎖を行うものがあった。しかし、腹壁に開口した穿孔の直下であって、ノズルからの薬液の噴霧方向に縫合部が存在するとは限らず、位置がずれていることがある。この場合、直線的なノズル管では縫合部に薬液を充分に噴霧できない、腹壁に再度穿孔を形成する手間や患者への負担がかかる、などの不具合を生じることがあった。
【0003】
この不具合を解消するため、予めノズルを屈曲させて形成し、斜め方向に薬液を噴霧できるようにした塗布用具が知られている。また、特許文献1では、可撓性を有するカテーテル(ノズル)を有し、トラカールへの挿入前に予めノズルを屈曲させて、薬液の噴霧方向を任意に変化させることが可能な塗布用具が開示されている。さらに、特許文献2では、ノズルヘッド近傍に屈曲部を設け、ノズルヘッドを任意の方向に屈曲させることができる塗布用具が開示されている。しかも、ノズルのトラカールへの挿入のときは、ノズルを直線的なままで挿入することができ、ノズルヘッドが体内に到達したら、このノズルヘッドを屈曲部によってノズルの軸線方向に対して傾斜させることができる。以上のような塗布用具では、ノズルに対して傾斜方向に薬液を噴霧することができる。その結果、縫合部が穿孔の直下から多少ずれた位置にあっても、薬液を充分に噴霧することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−255729号公報
【特許文献2】特開2009−226189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の塗布用具等、予めノズルを屈曲させてトラカールに挿入するものでは、屈曲させたノズルが径方向に広幅となるため、大径なトラカールが必要となる。そのため、腹部等に大径な穿孔を開ける必要があり、患者への負担は大きい。一方、特許文献2に記載の塗布用具では、ノズルヘッドとノズルとを直線的にトラカールに挿入可能となるように、ノズルとは別個に用意したシースを、ノズルの外周に配置している。このとき、ノズルヘッドはシースの先端から突出してシース内部に引き込まれないよう、ノズルヘッドをシースの内径よりも大径に形成している。また、屈曲部はシース内に位置し、軸方向に平行な状態となっている。そして、ノズル管が挿入されたシースを、トラカール内に挿入した後、ノズル管の屈曲部をシースから突出させることで、ノズルヘッドを患部方向に屈曲させている。さらに、シースとノズル管との間にガス流通部を形成しているため、シース自身が大径となるだけでなく、ノズルヘッドがさらにシースよりも大径となる。また、屈曲したノズルヘッドを強制的に直線的にしてトラカールに挿入するため、医者自身も操作が困難であった。また、特許文献1等のように予め屈曲させてトラカールに挿入する製品に比べ、径方向に過大に広幅となることはないが、ノズルより大径なシースが必要で、さらに、シースより大径なノズルヘッドを有しているため、やはりある程度は大径のトラカールを使用する必要があった。したがって、この場合も患者の腹壁等に大径な穿孔を開口する必要があり、患者への負担も大きかった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、患者へ過大な負担を与えることなく、容易な操作により、薬液の広範囲への噴霧が可能で、縫合部等への薬液の確実な噴霧が可能な生体組織接着剤塗布用具およびそのノズルヘッドを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の生体組織接着剤塗布用具は、内部に空間を有するノズル本体と、ノズル本体の空間にガスを充填するためのガス注入口と、ノズル本体に設けられ、当該ノズル本体に薬液を供給する薬液注入口と、ノズル本体の遠位端側に設けられ、薬液およびガスを外部に噴出するノズルヘッドと、薬液注入口と連通し、薬液注入口から供給された薬液を先端の薬液吐出口より外部に吐出する薬液噴出路と、空間に充填されたガスを、薬液吐出口の近傍に設けられたガス噴出口より外部に噴射し、薬液噴出路から吐出される薬液を霧化するガス噴出路と、を有し、薬液噴出路およびガス噴出路がノズルヘッドの中心軸に対して傾斜して形成されているとともに、ノズル本体の遠位端側から目視した状態で、薬液吐出口およびガス噴出口が、ノズルヘッドまたはノズル本体の外周縁よりも内側に位置する。
【0008】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、ノズル本体は長尺なノズル管をさらに有し、当該ノズル管の遠位端側に、ノズルヘッドが設けられているものであってもよい。
【0009】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、ノズルヘッドは、遠位端側に、薬液噴出路に対して略直交するように形成された傾斜面を有し、当該傾斜面に、薬液吐出口およびガス噴出口を設けたものであってもよい。
【0010】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、薬液噴出路の遠位端はノズルヘッドの傾斜面から外部に突出し、当該薬液噴出路が、傾斜面の遠位端よりも、ノズルヘッドの近位端側に位置しているものであってもよい。
【0011】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、ノズルヘッドは、少なくとも遠位端の外周縁の先端頂部近傍が径方向に丸みを有する形状であってもよい。
【0012】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、薬液噴出路を複数有し、複数の薬液噴出路は、遠位端側が傾斜面にノズルヘッドの中心軸に対して交差方向に並列に配置され、ガス噴出口は、複数の薬液噴出路の外周にそれぞれ形成され、各ガス噴出口には、各薬液噴出路を挟んで、傾斜面の遠位端側と近位端側に、薬液噴出路の外周に沿って薬液吐出口からの薬液の吐出方向に噴出するように整流する一対のフィン部材がそれぞれ形成されているものであってもよい。
【0013】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、複数のガス噴出口は、傾斜面の内側であって、複数のガス噴出口の間に突出形成されたガス分流壁によって仕切られているものであってもよい。
【0014】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、薬液噴出路およびガス噴出路は、ノズルヘッドの中心軸に対する傾斜角度が、10°以上60°以下であるものであってもよい。
【0015】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、ノズルヘッドは、外周に薬液の吐出方向を示す表示手段を、さらに有するものであってもよい。
【0016】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、第1のノズル本体と、第2のノズル本体と、第1のノズル本体または第2のノズル本体が選択的に装着されるスプレーガン本体と、を有し、第2のノズル本体は、薬液噴出路およびガス噴出路がノズルヘッドの中心軸に対して傾斜せず平行に形成されていてもよい。
【0017】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、第1のノズル本体と、第2のノズル本体とは、中心軸に対する縦断面において、ガス噴出路とガス注入口とが、同一平面内に存在するものであってもよい。
【0018】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、ノズルヘッドおよびノズル本体の外周縁の直径は、ともに5mm以下であってもよい。
【0019】
また、本発明のノズルヘッドは、生体組織接着剤を塗布するためのノズルヘッドであって、生体組織接着剤の薬液を薬液吐出口より吐出する薬液噴出路と、薬液吐出口の近傍に設けられたガス噴出口よりガスを噴射するガス噴出路と、を有し、薬液噴出路から吐出される薬液を、噴射されるガスによって霧化し、薬液噴出路およびガス噴出路がノズルヘッドの中心軸に対して傾斜して形成されているとともに、ノズルヘッドの遠位端側から目視した状態で、薬液吐出口およびガス噴出口が、ノズルヘッドの外周縁よりも内側に位置することを特徴とする。
【0020】
なお、本発明の各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。また、本発明でいう上流側とは、薬液噴出路に薬液を注入する薬液注入口側やガス供給元側を意味し、下流側とは、薬液やガスを外部に吐出する薬液吐出口側、ガス噴出口側、ノズル本体の先端側を意味する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の生体組織接着剤塗布用具およびノズルヘッドによれば、薬液噴出路およびガス噴出路が、ノズルヘッドの中心軸に対して傾斜して形成されている。また、ノズル本体の遠位端側から目視した状態で、薬液噴出路の吐出口およびガス噴出路の噴出口が、ノズルヘッドまたはノズル本体の外周縁よりも内側に位置している。そのため、従来のようにノズルヘッドを伸張状態から屈曲状態に変化させる必要がなく、さらに、シース等も不要でノズルヘッドを小径に形成することができる。また、ノズルヘッドの薬液噴出路およびガス噴出路が傾斜していることから、薬液を広範囲に噴霧することが可能となる。そのため、穿孔の位置の直下に縫合部が位置していなくても、再度穿孔する必要がなく、縫合部へ薬液を確実に噴霧することができる。このように、患者へ過大な負担を与えることなく、広範囲への噴霧が可能で、縫合部等への薬液の確実な噴霧が可能な生体組織接着剤塗布用具およびノズルヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態にかかる生体組織接着剤塗布用具の一例を示し、ノズル本体に2つの異なる薬液がそれぞれ充填されたシリンジ本体が接続された状態の概略を示す斜視図である。
【図2】本実施形態にかかる生体組織接着剤塗布用具のノズル本体を示す図であって、(a)はノズル本体の平面図であり、(b)はノズル本体の中心軸を通る縦断面図である。
【図3】ノズルヘッドの拡大図であり、(a)は側面図であり、(b)は底面図である。
【図4】ノズルヘッドの拡大図であり、(a)は遠位端側から見た側面図であり、(b)は近位端側から見た側面図である。
【図5】図3(b)のB−B線断面図である。
【図6】ノズルヘッドの円筒部を除き、傾斜面、薬液噴出路、ガス噴出口、フィン部材、ガス分流壁等を有する内側部を示す斜視図である。
【図7】ノズルヘッドによる薬液の噴霧範囲を説明するための説明図であり、(a)は薬液噴出路とガス噴出路とがノズルヘッドの中心軸に対して平行に形成された、従来のノズル本体の噴霧範囲を示す概略図であり、(b)は薬液噴出路とガス噴出路とがノズルヘッドの中心軸に対して傾斜したノズル本体の噴霧範囲を示す概略図である。
【図8】本実施形態の生体組織接着剤塗布用具を、スプレーガン本体に装着して使用した際の一使用例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の生体組織接着剤塗布用具100は、種類の異なる薬液を充填した2つのシリンジ本体40a、40bと、このシリンジ本体40a、40bを後端に接続するコネクタ11、コネクタ11の先端に連結された長尺なノズル管20、および、ノズル管20の先端に接続されたノズルヘッド30を備えたノズル本体10と、を有して構成されている。本明細書では、生体組織接着剤塗布用具100やノズル本体10等において、ノズルヘッド30の方向(下流側)を遠位端DEと呼び、シリンジ本体40a、40bの接続方向(上流側)を近位端PEと呼ぶ。また、各部材において、遠位端DE方向にある部位を先端または遠位端側と呼び、近位端PE方向にある部位を後端または近位端側と呼ぶ。
【0025】
本実施形態の生体組織接着剤塗布用具100では、ノズル本体10に接続された2つのシリンジ本体40a、40b内の薬液を、ノズルヘッド30から同時に噴射するものである。各シリンジ本体40a、40bには薬液がそれぞれ充填されている。薬液は、単独で、または複数種類を混合することで生体組織接着剤として用いられる。例えば、粘性の異なる薬液であって、外気との接触や他の薬剤との混合により、瞬時に固化し易い薬液が用いられる。より具体的には、フィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液がそれぞれ充填され、ノズル本体10から外部に各薬液を吐出し、ガスによりこれらの薬液を混合して患部に塗布することにより、患部を接着するものである。
【0026】
コネクタ11は、内部に形成された空間12と、この空間12内にガスを充填するためのガス注入口13と、ガス注入口13の上流側に配置され、ガス濾過用のフィルタ141を内装したフィルタ部14と、フィルタ部14の上流に配置され、ガスの供給源に連結されフィルタ部14を通してガス注入口13にガスを送気するガス送気口15と、シリンジ本体40a、40bをそれぞれ接続する薬液注入口16a、16bと、シリンジ本体40a、40bをコネクタ11に固定する連結手段としてのバンド部材17と、を備えている。このように、ガス送気口15から送られたガスがフィルタ部14を通過してガス注入口13に注入されることで、コネクタ11の空間12に、無菌ガスを充填することができる。そのため、より清潔なガスを患部に噴霧できるし、目詰まり等することのない、円滑なガスの供給が可能となる。また、コネクタ11の表面には、薬液注入口16a、16bの近傍に、識別手段18a、18bが設けられている。この識別手段18a、18bは、異なる薬品が充填された、2本のシリンジ本体40a、40bのいずれを接続するかを識別するためのものである。識別手段18a、18bは、シリンジ本体40a、40bの接続位置が解れば、いずれの手段を用いてもよいが、本実施形態では、コネクタ11の表面に、赤色と青色の丸印のシールを添付している。このように、識別手段18a、18bを設けることで、シリンジ本体40a、40bを交換する際に、前回と同種の薬液が充填されたシリンジ本体40a、40bを薬液注入口16a、16bに接続することができる。そのため、後述の薬液噴出路33a、33bの内部に薬液が残留していた場合でも、異なる薬液が互いに混合されることがなく、薬液噴出路33a、33bの内部での薬液の固化や目詰まりを良好に防止することができる。
【0027】
以下、本明細書では、生体組織接着剤塗布用具100において、ノズル本体10のコネクタ11の薬液注入口16a、16b、識別手段18a、18b等を設けた側を、上方と呼び、ガス注入口13、フィルタ部14、ガス送気口15等を設けた側を下方と呼び、中心軸に対して上下に直交する方向を上下方向と呼ぶ。また、シリンジ本体40a、薬液注入口16a、識別手段18a側を右側とし、シリンジ本体40b、薬液注入口16b、識別手段18b側を左側とし、中心軸に対して左右に直交する方向を左右方向と呼ぶ。なお、生体組織接着剤塗布用具100の使用のときの、上下方向、左右方向とは必ずしも一致する訳ではない。
【0028】
シリンジ本体40a、40bには、内部に充填された薬液を薬液注入口16a、16bの内部に注入するピストン41a、41bが挿入されている。このピストン41a、41bの近位端PE側には、これらを連結して同時に押圧可能とするためのピストン押圧手段42が接続されている。また、シリンジ本体40a、40bの近位端PE側は、シリンジ固定部材43によって保持固定されている。この構成により、ピストン押圧手段42によるピストン41a、41bの押圧のときに、シリンジ本体40a、40bの上下方向や左右方向への不測の位置ズレや、コネクタ11からの不測の離脱を防止することができる。また、シリンジ固定部材43の遠位端側には、突起部431が上方に突出形成されている。シリンジ本体40a、40bをコネクタ11に接続したときに、バンド部材17の保持部172を保持して、シリンジ固定部材43の突起部431に、バンド部材17の係合孔173を係合する。これにより、コネクタ11と2本のシリンジ本体40a、40bとが容易に分離することなく、互いを安定して接続することができる。
【0029】
バンド部材17は、図2に示すように、コネクタ11との接続部171近傍が側面V字型に形成されたV字部174を有している。このV字部174が軸方向に弾性的に拡縮変形することで、バンド部材17を軸方向に伸縮することができる。そのため、シリンジ固定部材43とバンド部材17との位置合わせが多少ずれていても、突起部431にバンド部材17の係合孔173を確実に係合させることができる。なお、バンド部材17にも、矢印や色印など、シリンジ本体40a、40bの識別手段を設けてもよい。さらには、シリンジ本体40a、40bの容器にも色分けや色印を付するなど、充填された薬液を容易に識別できるようにしてもよい。
【0030】
ノズル管20は、コネクタ11の空間12と連通し、当該空間12に送気されるガスを下流側のノズルヘッド30方向に流動させるガス噴出路22と、コネクタ11の薬液注入口16a、16bと連通し、薬液を下流側のノズルヘッド30に供給する薬液チューブ21a、21bと、を備えている。薬液チューブ21a、21bの遠位端側は、後述するノズルヘッド30の薬液噴出管32a、32bと、それぞれ接続されている。本実施形態では、ノズル管20は、長尺な円筒形に形成されている。また、シース等が不要で、細いトラカールに挿入できるため、穿孔をより小さくして、患者への負担を小さくすることができる。また、円筒形のノズル管20を周回方向に回転させても、幅等が異なることがなく均一であるため、腹壁等へ形成する穿孔を極力小さくすることができる。また、トラカールの内部等へのノズル管20の挿入や挿入後の回転等も、円滑に行うことができる。
【0031】
次に、ノズルヘッド30について、図3から図6を用いて説明する。ノズルヘッド30は、生体組織接着剤を塗布するために用いられる。ノズルヘッド30は、これらの図に示すように、生体組織接着剤の薬液を薬液吐出口34a、34bより吐出する薬液噴出路33a、33bと、薬液吐出口34a、34bの近傍に設けられたガス噴出口35a、35bよりガスを噴射するガス噴出路22と、を有している。ガス噴出口35a、35bから噴射されるガスは、薬液噴出路33a、33bから吐出される薬液を霧化する。ノズルヘッド30においては、薬液噴出路33a、33bおよびガス噴出路22がノズルヘッド30の中心軸に対して傾斜して形成されている。そして、本実施形態のノズルヘッド30においては、ノズルヘッド30の遠位端側から目視した状態で、薬液吐出口34a、34bおよびガス噴出口35a、35bが、ノズルヘッド30の外周縁よりも内側に位置している。
【0032】
以下、より具体的に説明する。ノズルヘッド30は、その遠位端側に、薬液噴出路33a、33bに対して略直交するように形成された傾斜面31を有している。傾斜面31には、薬液吐出口34a、34bおよびガス噴出口35a、35bが設けられている。ここで、薬液噴出路33a、33bに対して傾斜面31が略直交であるとは、両者が厳密に直交している状態のほか、傾斜面31の法線方向に沿って薬液が薬液噴出路33a、33bから吐出されることをいう。より具体的には、ノズルヘッド30は、ノズル管20と外径が同一の円筒形であって、当該円筒の遠位端側に、傾斜面31を有している。この傾斜面31は、ノズルヘッド30の中心軸と当該傾斜面31の法線ベクトルとが同一平面内にあり、かつ、中心軸と法線ベクトルとが交差するように形成されている。なお、同一平面とは、2つのシリンジ本体40a、40bを隔てる平面をいう。したがって、本実施形態の傾斜面31は、上方が最も突出し、下方に向かって後方に傾斜する形状となっている。
【0033】
また、本実施形態のノズル本体10は、コネクタ11の中心軸とノズルヘッド30の中心軸とが一致している。そのため、生体組織接着剤塗布用具100の操作者は、ノズルヘッド30をトラカール等に挿入した際に、トラカールから突出したコネクタ11の方向を視認することで、ノズルヘッド30の傾斜面31の傾斜方向、さらには、薬液の吐出方向を容易に認識することができる。なお、本実施形態では、ノズルヘッド30の射出成形や組立のし易さを考慮して、ノズルヘッド30は、円筒形の外側部である円筒部301と、傾斜面31や、後述の薬液噴出管32a、32b、ガス噴出口35a、35b、フィン部材36a、36b、ガス分流壁37等が形成された内側部302とに、別個に形成している。そして、円筒部301内に、内側部302を挿入して組立てた後、双方を溶着している。このノズルヘッド30の近位端側の接合部304を、ノズル管20の先端に挿入し、ノズルヘッド30をノズル管20に、溶着等により接着している。この接着は、ノズル管20の外周とノズルヘッド30の外周との繋ぎ目が、滑らかに連結されるように行う。これにより、体腔内等へ挿入した際に、ノズル管20とノズルヘッド30との繋ぎ目が臓器等を傷つけることなく、円滑な挿入が可能となる。
【0034】
また、ノズルヘッド30の内側部302には、円筒部301の中心軸(すなわち、ノズルヘッド30の中心軸)に対して傾斜して形成された2つの薬液噴出管32a、32bが形成されている。この2つの薬液噴出管32a、32bは、図2(a)(b)、図3(a)(b)等に示すように、先端が傾斜面31から突出し、当該傾斜面31の左右方向に並列に配置されている。そして、ノズルヘッド30の内部の薬液噴出管32a、32bの近位端側に、前述した薬液チューブ21a、21bの遠位端側が接続されている。この薬液チューブ21a、21bにより、2つの薬液噴出管32a、32bと2つの薬液注入口16a、16bとがそれぞれ連通している。また、この薬液チューブ21a、21bと薬液噴出管32a、32bとの内部が、薬液噴出路33a、33bとなる。さらに、薬液噴出管32a、32bの遠位端側には、薬液注入口16a、16bから、薬液噴出路33a、33bを通過して供給された薬液をノズルヘッド30から外部に吐出する薬液吐出口34a、34bが形成されている。なお、本実施形態でいう「外部に吐出」または「外部に噴出」とは、ノズルヘッド30内から、外の縫合部等の患部に向かって薬液やガスを「吐出」または「噴出」することをいう。
【0035】
このような構成により、図3(a)に示すように、薬液噴出路33a、33bの遠位端側が、ノズルヘッド30の中心軸に対して傾斜して形成されることとなる。また、薬液噴出管32a、32bが、ノズルヘッド30の傾斜面31において、2つのシリンジ本体40a、40bを隔てる平面内ではなく、この平面および中心軸と直交する方向(左右方向)に並列に配置されている。この配置により、傾斜した薬液噴出管32a、32bとこれに接続した薬液チューブ21a、21b、および、シリンジ本体40a、40bとが、同一平面により隔てられることとなる。そのため、シリンジ本体40a、40bから、薬液注入口16a、16b、薬液チューブ21a、21b、薬液噴射路32a、32bまで、上流から下流への薬液の流動を円滑に行うことができ、薬液吐出口34a、34bからの薬液の吐出も良好に行うことができる。
【0036】
ノズルヘッド30の内部は、ノズル管20の内部と連通し、これらの内部の薬液噴出路33a、33b以外の空間が、ガス噴出路22となっている。ノズルヘッド30には、さらに、各薬液吐出口34a、34bの近傍外周に、ガス噴出口35a、35bが開口されている。これらガス噴出口35a、35bは、ガス噴出路22の遠位端側であって、傾斜面31に対して直交して設けられている。そのため、ガス噴出路22は、遠位端側に位置するガス噴出口35a、35bが、ノズルヘッド30の中心軸に対して、薬液噴出路33a、33bの遠位端側(すなわち、薬液噴出管32a、32b)と略同一方向に傾斜して形成される。したがって、コネクタ11のガス注入口13から空間12に充填され、ガス噴出路22を流動してきたガスは、ガス噴出口35a、35bから外部へ、ノズルヘッド30の中心軸と傾斜する方向に噴射される。また、傾斜面31に設けられたガス噴出口35a、35bは、傾斜面31から突出して設けられた薬液吐出口34a、34bよりも近位端側に位置している。そのため、ガスは薬液よりも後方からノズルヘッド30の中心軸と傾斜する方向に噴射される。このようなガス噴射により負圧が生じ、各薬液吐出口34a、34bから外部へ中心軸と傾斜する方向に吐出された薬液が霧化される。なお、ノズルヘッド30は、図4(a)に示すように、ノズル本体10の遠位端側から目視した状態で、薬液噴出路33a、33bの先端(薬液吐出口34a、34b)およびガス噴出路22の先端(ガス噴出口35a、35b)が、ノズルヘッド30またはノズル本体10の外周縁よりも内側に位置するよう構成する。
【0037】
図4(a)、(b)、図6に示すように、薬液吐出口34a、34bの外周にそれぞれ形成されたガス噴出口35a、35bは、各薬液噴出管32a、32bを挟んだ両側、すなわち、アナログ時計の文字盤でいう3時9時方向に、それぞれ一対のフィン部材36(36a1、36a2、36b1、36b2)が形成されている。以下、図4(a)のように先端外周縁38を上方に配置してノズルヘッド30を遠位端DE側から目視した状態において、上方を12時方向、右方を3時方向、下方を6時方向、左方を9時方向と呼称する場合がある。このようなフィン部材36により、ガス噴出口35a、35bは、傾斜面31の上方(12時方向)のガス噴出口35a1、35b1と、下方(6時方向)のガス噴出口35a2、35b2に分断される。したがって、ガス噴出路22を流動してきたガスは、傾斜面31の12時方向(ガス噴出口35a1、35b1)と6時方向(ガス噴出口35a2、35b2)に整流され、薬液噴出管32a、32bの外周に沿って、薬液の吐出方向と同一方向に噴出する。なお、フィン部材36は、薬液噴出管32a、32bの壁面と傾斜面31とに両端がそれぞれ一体成形され、薬液噴出管32a、32bを傾斜面31に連結する役目も担っている。
【0038】
また、ガス噴出口35a(35a1、35a2)、35b(35b1、35b2)は、傾斜面31の内側であって、ガス噴出口35a、35bの間に、突出形成されたガス分流壁37によって仕切られている。このガス分流壁37は、具体的には、図6に示すように、傾斜面31の遠位端側から近位端側、さらに、内側部302の下底壁303まで延在して突出形成されている。このようなガス分流壁37により、ノズル管20等のガス噴出路22の内部を直進してきたガスが、略均等に分割されて、各ガス噴出口35a、35bから噴出する。さらに、このガス噴出口35a、35bも、12時方向(35a1、35b1)、および6時方向(35a2、35b2)に開口している。そのため、ガス噴出路22の上方を流動してきたガスは、傾斜面31に突き当たった後、傾斜面31の傾斜方向に流動して、12時方向のガス噴出口35a1、35b1から外部に噴射される。一方、下底壁303側の下方を流動してきたガスは、6時方向のガス噴出口35a2、35b2から外部に噴出される。したがって、ガス噴出路22を流動してきたガスがノズルヘッド30の内部で淀むことなく、円滑に外部に噴射されることとなり、その結果、2つの薬液が均等に混合され、これらの薬液の霧化を良好に行うことができる。また、ガス分流壁37は、ガスを分流するだけでなく、傾斜面31の補強部材としての役目も担っている。ガス分流壁37の存在によって傾斜面31が頑強となり、高圧なガス圧への耐圧性にも優れた傾斜面31を得ることができる。
【0039】
ノズルヘッド30は、傾斜面31の外周縁の遠位端側(上方)の先端頂部近傍(以下、先端頂部近傍の外周縁を、先端外周縁38と呼ぶ)を当該傾斜面31よりも遠位端側に突出形成している。この先端外周縁38は、外周縁の先端頂部近傍が径方向に丸みを有する形状(R形状)に形成され、厚み方向が鋭利ではなく丸みを帯びている。すなわち、図5等に示すように、本実施形態では、傾斜面31の先端外周縁38を、当該傾斜面31より先端方向に突出し、かつ、丸く面取りして丸みを帯びるような形状に形成している。さらに、ノズルヘッド30の傾斜面31から突出する薬液噴出路33a、33b(すなわち、薬液噴出管32a、32b)の遠位端側が、ノズルヘッド30の先端外周縁38よりも、ノズルヘッド30の近位端側に位置するような寸法合わせで形成している。このような構成とすることで、ノズルヘッド30をトラカール等に挿入する際に、丸みを帯びた先端外周縁38が先に進行する。さらに、薬液噴出管32a、32bが先端外周縁38より近位端側に位置するため、先端外周縁38や薬液噴出管32a、32bの先端が、トラカール等の内壁や患者の体内の臓器等を傷つけることや、引っ掛かることがない。そのため、ノズルヘッド30およびノズル管20を、トラカールの内部および体内に、円滑に挿入することができる。
【0040】
また、図3(a)に示すように、ノズルヘッド30は、薬液の吐出方向を示す表示手段を、さらに有している。本実施形態では、円筒部301の外周の左右に、矢印39a、39bを凹設することによって表示手段としている。この矢印39a、39bは、円筒部301の型枠に予め形成され、円筒部301の射出成形と同時に形成される。薬液噴出管32a、32bの先端は、微細であるため、肉眼や内視鏡等で、薬液の吐出方向を確認しにくい可能性がある。しかし、本実施形態のように、ノズルヘッド30の外周に矢印39a、39bで薬液の吐出方向を、大きく表示することで、当該吐出方向を、肉眼でも確認し易い。また、体腔内にノズルヘッド30を挿入したときにも、内視鏡等を用いて矢印39a、39bで薬液の吐出方向を容易に確認することができる。そのため、縫合部等の患部へ薬液を確実に噴霧することができる。また、表示手段は、矢印以外で形成してもよいし、凹設だけでなく、突設、印字、シール添付等で形成してもよい。しかし、本実施形態のように、凹設により表示手段を形成することにより、表示手段がトラカールや体腔内に引っ掛かる、塗料やシール部材が体液等で劣化する等の不具合がない。したがって、ノズルヘッド30のトラカールや体腔内への挿入作業を円滑に行うことができる。
【0041】
ここで、ノズル本体10の好ましい寸法について説明する。本実施形態のノズルヘッド30およびノズル本体10の外周縁の直径(外径)は、ともに5mm以下であることが好ましい。ノズルヘッド30およびノズル本体10の外周縁の直径とは、これらの長軸直交断面(横断面)が円形の場合は当該円形の直径をいい、横断面が非円形の場合は長径寸法をいう。本実施形態のノズル本体10およびノズルヘッド30は、横断面が円形であることが好ましい。また、薬液噴出管32a、32bの傾斜面31からの面直方向の突出長さは、1.0mm程度が好ましい。薬液噴出管32a、32bの外径(直径)は1.0mm程度、内径すなわち薬液吐出口34a、34bの直径は0.5mm程度、2つの薬液吐出口34a、34bの中心間距離は2.0mm程度が好ましい。したがって、ノズルヘッド30を接続したノズル管20の外径も、5.0mm程度が好ましい。ノズル管20の軸方向の長さは、320mm程度が好ましい。このような寸法とすることで、トラカールを用いた生体組織接着剤塗布用具100の使用の際に、体内において、穿孔に近い患部は勿論、穿孔から遠い位置にある患部まで、ノズル本体10のノズルヘッド30を到達させることができる。また、ノズルヘッド30等を極力小さく形成することができるため、トラカールも必然的に小さいものを用いればよい。したがって、穿孔も小さく形成すればよく、患者への負担も少なくすることができる。
【0042】
また、薬液噴出路33a、33bおよびガス噴出路22の各遠位端側、すなわち、薬液噴出管32a、32bおよびガス噴出口35a、35bは、ノズルヘッド30の中心軸に対する傾斜角度θpが、10°以上60°以下が好ましく、20°以上45°以下がより好ましく、30°以上45°以下が更に好ましい。図3では、傾斜角度θpを30°としている。傾斜角度θpを上記の下限以上とすることにより、薬液を実用的に十分に広い範囲に噴霧することができ、ノズルヘッド30の挿入方向からずれた位置にある患部にも確実に薬液を塗布することができる。また、傾斜角度θpを上記の上限以下とすることで、所定径のノズルヘッド30の内部でも薬液噴出管32a、32bの長さを十分に確保できるとともに、薬液噴出管32a、32bに接続する薬液チューブ21a、21bが当該接続部分で急角度に折れ曲がってしまう不具合がなく内腔面積が充分に保持される。したがって、ノズルヘッド30の中心軸方向に平行に流動してきた薬液を、傾斜した薬液噴出管32a、32bの薬液吐出口34a、34bから外部に円滑に吐出することができる。
【0043】
本実施形態に係る生体組織接着剤塗布用具100のノズル本体10を形成する好ましい材料について説明する。コネクタ11は、空間12内に送気されるガスへの耐圧性に優れる観点から、ABS樹脂等で形成するのが好ましい。コネクタ11のバンド部材17は、コストや製作の容易さに優れる観点から、ポリプロピレン(PP)樹脂等で形成するのが好ましい。ノズル管20は、トラカール内に挿入するときに、屈曲等することなく真っ直ぐに挿入できる、体液等に対する耐腐食性に優れるという観点から、アルミ等の金属で形成するのが好ましい。薬液チューブ21a、21bは、耐薬品性や傾斜のための可撓性に優れるという観点から、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂等で形成するのが好ましい。
【0044】
ノズルヘッド30は、体液等に対する耐腐食性や薬液等に対する耐薬品性に優れるという観点から、ABS樹脂等で形成するのが好ましい。なお、図示はしないが、ノズルヘッド30およびノズル管20の先端付近まで、ポリエチレン(PE)樹脂製のキャップを被せることが好ましい。このキャップにより、ノズル本体10の保管の際などに、ノズルヘッド30の先端外周縁38や、傾斜面31から突出した薬液吐出口34a、34bを保護することができる。
【0045】
ここで、図7を用いて従来のノズル本体と本実施形態のノズル本体10との薬液の噴霧範囲の違いについて説明する。図7(a)は、従来のノズル本体1の概略図で、長尺なノズル管2の先端に、ノズルヘッド3を有している。ノズルヘッド3の遠位端側には、ノズルヘッド3およびノズル管2の中心軸方向と平行に突出する2つの薬液吐出口4a、4bを有している。このような構成のノズル本体1(以下、ストレート型のノズル本体1と呼ぶ)をトラカール50の内部に挿入し、薬液を塗布した場合、薬液吐出口4a、4bからの薬液の噴霧範囲は、θ1の範囲のみに限定される。そのため、患者の腹部や胸部等に穿孔を形成してトラカール50を挿入し、ノズル本体1をトラカール内に挿通したとき、穿孔のほぼ直下にある患部には、薬液を塗布することができる。しかし、θ1の範囲からずれた位置にある患部には、薬液の塗布が困難である。その結果、腹部等の異なる位置に穿孔を形成し直す必要があり、患者に負担をかけることとなっていた。また、特開平7−255729号公報の可撓性を有するカテーテルでは、予め先端を屈曲させて挿入するため、当初から大径なトラカールを選択するか、または大径なトラカールに交換する必要であった。さらに、特開2009−226189号公報に記載のノズルヘッドでも、ノズルを直線的にトラカール内に挿入し、その後屈曲させるためのシースが必要となっていた。その結果、トラカールと穿孔とを大径にする必要があり、この場合も患者に大きな負担をかけ、操作者にも負担をかけることとなっていた。
【0046】
しかしながら、図7(b)に示すように、本実施形態に係るノズル本体10(以下、傾斜型のノズル本体10と呼ぶ)では、薬液吐出口34a、34bがノズルヘッド30の軸方向に対して、予め傾斜して形成されているため、薬液も斜め方向に噴霧される。そのため、穿孔の略直下からずれた位置にある患部にも、薬液を塗布することができる。さらに、図7(b)に円形矢印で示すように、ノズルヘッド30を周回方向に適宜回転することにより、最大で360°方向に噴霧方向を変化させることができ、噴霧範囲がθ2のように広がる。なお、θ3で表される円錐状の領域内に薬液を塗布する場合には、直線矢印で示すように、ノズル本体10に対するノズル管20の挿入長さを適宜調整するとよい。ことにより、薬液吐出口34a、34bの噴霧範囲を拡大することができる。
【0047】
上述のように構成された生体組織接着剤塗布用具100を用いて、生体の患部に噴霧して塗布するには、ノズル本体10の近位端側の薬液注入口16a、16bに、2種類の異なる薬液を充填したシリンジ本体40a、40bを接続する。このシリンジ本体40a、40bの近位端側に、シリンジ固定部材43を装着する。そして、シリンジ固定部材43の突起部431に、コネクタ11のバンド部材17の係合孔173を係合することで、シリンジ本体40a、40bとコネクタ11とを固定する。また、シリンジ本体40a、40bに挿入されたピストン41a、41bの近位端側に、これらを同時に押圧して薬液を同時に注入するためのピストン押圧手段42を装着する。
【0048】
次に、たとえば、患者の腹部に穿孔を形成し、その穿孔にトラカールを挿入する。このトラカール内に、本実施形態の生体組織接着剤塗布用具100に係るノズル本体10のノズルヘッド30を挿入する。ここで、ノズルヘッド30の先端外周縁38が、丸みを帯びている。さらに、薬液吐出口34a、34bが、先端外周縁38より近位端側に位置し、かつ、ノズル本体10の遠位端側から目視した状態でノズルヘッド30の外周縁より内側に位置している。そのため、ノズルヘッド30の先端でトラカールや体内を傷つけることや、引っかかり等がなく、ノズルヘッド30およびノズル管20の円滑な挿入が可能となる。また、ノズル管20が直線的で、剛性を有するため、変形などすることなく、穿孔の直下に挿入することができる。
【0049】
ノズルヘッド30が患部付近に到達したら、操作ボタン(図示せず)などを操作して、ガス供給源からコネクタ11の空間12にガスを充填すると、ガスはガス噴出路22の内部を、下流側のガス噴出口35a、35bに向かって流動する。同時に、ピストン41a、41bを連結するピストン押圧手段42を押圧して、シリンジ本体40a、40b内の2種類の薬液を、薬液注入口16a、16bから薬液チューブ21a、21bに注入する。これらの薬液は、薬液チューブ21a、21b内部の薬液噴出路33a、33bを流動し、ノズルヘッド30の中心軸に対して傾斜して配置された薬液噴出管32a、32b内を通過して、薬液吐出口34a、34bから外部に吐出される。この薬液吐出口34a、34bから吐出した薬液が、ガス噴出口35a、35bから噴出したガスによって霧状に混合されて、患部に噴霧される。また、ガス分流壁37で、薬液吐出口34a、34bごとにガスを分流している。さらに、12時6時方向(上下方向)にガス噴出口35a1、35a2、35b1、35b2を形成してガスを整流している。そのため、淀みや詰まりのない、ガスの円滑な噴出が可能となり、薬液の霧化と患部への塗布も、より良好に行うことができる。
【0050】
なお、上述したように、本実施形態では、薬液吐出口34a、34bとガス噴出口35a、35bとが、ノズルヘッド30の中心軸に対して傾斜して配置されているため、薬液を斜め方向に噴霧することができる。また、図7(b)を用いて説明したように、ノズルヘッド30を周回方向に回転させて噴霧方向を変えることや、ノズル管20の患部への挿入長さを適宜調整することで、薬液の噴霧方向や噴霧位置を多様に変化させることができるため、患者への負担の少ない手術が可能となる。
【0051】
また、この薬液の噴霧の際に、ピストン押圧手段42により、ピストン41a、41bを同時に押圧することができる。したがって、2つの薬液の円滑な吐出ができるとともに、バランスのよい好適な混合割合で患部に塗布することができ、接着効果を向上させることができる。
【0052】
次いで、ピストン41a、41bの押圧を停止すると、薬液の吐出が停止する。この停止の際に、ガスの流れによる負圧で薬液吐出口34a、34b内の先端側の薬液が外部に排出される。そのため、薬液噴出管32a、32b内に残留した薬液が外気や他の薬液と接触することがない。したがって、ノズルヘッド30の目詰まりを良好に防止して、次回の薬液塗布も良好に行うことができる。このように、薬液の噴霧範囲を広げ、何れの位置の患部であっても薬液の塗布が可能で、患者への負担の少ない生体組織接着剤塗布用具100を得ることができる。しかも、このような製品を、薬液噴出路33a、33bおよびガス噴出路22の遠位端側を傾斜して形成し、ノズル本体10の遠位端側から目視した状態で、薬液噴出路33a、33bの先端(薬液吐出口34a、34b)およびガス噴出路22の先端(ガス噴出口35a、35b)が、ノズルヘッド30またはノズル本体10の内側に位置するよう構成するだけで形成することができる。したがって、薬液塗布に優れた生体組織接着剤塗布用具100を、簡易な構成で容易かつ廉価に提供することが可能となる。
【0053】
なお、上記各実施形態では、ピストン押圧手段42を手動でスライド操作する生体組織接着剤塗布用具100を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。たとえば、図8に示すような、スプレーガン本体60に、本実施形態の生体組織接着剤塗布用具100を装着して、薬液の塗布を行ってもよい。スプレーガン本体60は、ガスボンベ61、このガスボンベ61とノズル本体10のガス送気口15とを連通するガス用チューブ62、ガスと薬液とを同時に噴出するためのトリガー63、および、ピストン41a、41bを同時に押圧するための押圧手段64等を有して構成されている。このように生体組織接着剤塗布用具100をスプレーガン本体60に装着した後、ノズルヘッド30をトラカールに挿入し、スプレーガン本体60のトリガー63を操作することで、ガスと薬液とを同時に噴射することができる。
【0054】
また、本実施形態に係るノズル本体10だけでなく、従来のストレート型のノズル本体1を用意し、使用目的に応じて、これらをスプレーガン本体60に選択的に装着して使用してもよい。さらに、薬液噴出路32a、32bの傾斜角度を任意に変化させた傾斜型ノズル本体10を複数用意してもよい。このような構成の生体組織接着剤塗布用具では、穿孔直下に位置する患部に薬液を噴霧する際には、ストレート型のノズル本体(第2のノズル本体)1をスプレーガン本体60に装着して薬液を塗布する。一方、穿孔の直下からずれた位置にある患部には、傾斜型のノズル本体(第1のノズル本体)10をスプレーガン本体60に装着して、薬液を塗布する。第2のノズル本体1の構造は、薬液噴出路32a、32bおよびガス噴出路22がノズルヘッド3の中心軸に対して傾斜せず平行に形成されている点を除き、第1のノズル本体10の構造と共通である。このように、薬液の吐出方向が異なるノズル本体1、10を選択的に使い分けることで、いずれの位置にある患部にも、より確実に薬液を塗布することができる。また、ノズルヘッド30の中心軸に対して薬液噴出路32a、32bが傾斜し、かつその傾斜角度が互いに相違する複数のノズル本体10を用意し、これらを選択的にスプレーガン本体60に装着して用いてもよい。
【0055】
また、図8に示すように、傾斜型のノズル本体10(第1のノズル本体)や、ストレート型のノズル本体1(第2のノズル本体)を、中心軸に対する縦断面において、ガス噴出路22とガス注入口13とが、同一平面内に存在するよう構成することが好ましい。すなわち、ガス噴出路22の紙面真下側にガス注入口13が存在するように構成する。この構成により、ノズル本体1、10に矢印39a、39b等がなくても、スプレーガン本体60の方向により、薬液の噴射方向を容易に把握することができる。
【0056】
なお、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含むものである。
【0057】
例えば、本実施形態のノズル本体10は、2つの薬液噴射路32a、32bを設けていたが、本願がこれに限定されることはなく、1つの薬液噴射路のみ設けてもよいし、3つ以上設けてもよい。そして、薬液噴射路とガス噴出路とをノズルヘッドの中心軸に対して傾斜して形成し、薬液吐出口とガス噴出口とをノズルヘッド等の内側に形成する。これにより、1液または3液以上の薬液を、傾斜方向に広範囲で噴射することが可能となる。また、本実施形態のノズル本体10は、長尺なノズル管20を有しているが、体表により近い縫合部等への薬液塗布等には、本実施形態よりも短尺なノズル管としてもよい。また、体表の縫合部等への薬液塗布等には、ノズル管を有せず、コネクタの先端に直にノズルヘッドが接続されたものを使用してもよい。
【符号の説明】
【0058】
10:ノズル本体、11:コネクタ、12:空間、13:ガス注入口、14:フィルタ部、141:フィルタ、15:ガス送気口、16a,16b:薬液注入口、17:バンド部材、171:接続部、172:保持部、173:係合孔、174:V字部、18a,18b:識別手段、20:ノズル管、21a,21b:薬液チューブ、22:ガス噴出路、30:ノズルヘッド、301:円筒部、302:内側部、303:下底壁、304:接合部、31:傾斜面、32a,32b:薬液噴出管、33a,33b:薬液噴出路、34a,34b:薬液吐出口、35a,35b:ガス噴出口、36,36a,36b:フィン部材、37:ガス分流壁、38:先端外周縁、39a,39b:矢印(表示手段)、40a,40b:シリンジ本体、41a,41b:ピストン、42:ピストン押圧手段、43:シリンジ固定部材、431:突起部、50:トラカール、60:スプレーガン本体、61:ガスボンベ、62:ガス用チューブ、63:トリガー、64:押圧手段、100:生体組織接着剤塗布用具、PE:近位端、DE:遠位端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間を有するノズル本体と、
前記ノズル本体の前記空間にガスを充填するためのガス注入口と、
前記ノズル本体に設けられ、当該ノズル本体に生体組織接着剤の薬液を供給する薬液注入口と、
前記ノズル本体の遠位端側に設けられ、前記薬液および前記ガスを外部に噴出するノズルヘッドと、
前記薬液注入口と連通し、前記薬液注入口から供給された前記薬液を先端の薬液吐出口より外部に吐出する薬液噴出路と、
前記空間に充填されたガスを、前記薬液吐出口の近傍に設けられたガス噴出口より外部に噴射し、前記薬液噴出路から吐出される前記薬液を霧化するガス噴出路と、
を有し、
前記薬液噴出路および前記ガス噴出路が前記ノズルヘッドの中心軸に対して傾斜して形成されているとともに、
前記ノズル本体の遠位端側から目視した状態で、前記薬液吐出口および前記ガス噴出口が、前記ノズルヘッドまたは前記ノズル本体の外周縁よりも内側に位置することを特徴とする生体組織接着剤塗布用具。
【請求項2】
前記ノズル本体は長尺なノズル管をさらに有し、
当該ノズル管の遠位端側に、前記ノズルヘッドが設けられている請求項1に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項3】
前記ノズルヘッドは、遠位端側に、前記薬液噴出路に対して略直交するように形成された傾斜面を有し、
当該傾斜面に、前記薬液吐出口および前記ガス噴出口を設けた請求項1または2に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項4】
前記薬液噴出路の遠位端は前記ノズルヘッドの前記傾斜面から外部に突出し、当該薬液噴出路が、前記ノズルヘッドの遠位端よりも、前記ノズルヘッドの近位端側に位置している請求項3に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項5】
前記ノズルヘッドは、少なくとも前記遠位端の外周縁の先端頂部近傍が径方向に丸みを有する形状である請求項1から4のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項6】
前記薬液噴出路を複数有し、複数の前記薬液噴出路は、遠位端側が前記傾斜面に前記ノズルヘッドの中心軸に対して交差方向に並列に配置され、
前記ガス噴出口は、複数の前記薬液噴出路の外周にそれぞれ形成され、
各前記ガス噴出口には、各前記薬液噴出路を挟んで、前記傾斜面の遠位端側と近位端側に、前記薬液噴出路の外周に沿って前記薬液吐出口からの前記薬液の吐出方向に噴出するように整流する一対のフィン部材がそれぞれ形成されている請求項3から5のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項7】
複数の前記ガス噴出口は、前記傾斜面の内側であって、複数の前記ガス噴出口の間に突出形成されたガス分流壁によって仕切られている請求項6に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項8】
前記薬液噴出路および前記ガス噴出路は、前記ノズルヘッドの中心軸に対する傾斜角度が、10°以上60°以下である請求項1から7のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項9】
前記ノズルヘッドは、外周に前記薬液の吐出方向を示す表示手段を、さらに有する請求項1から8のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項10】
第1の前記ノズル本体と、第2の前記ノズル本体と、前記第1のノズル本体または前記第2のノズル本体が選択的に装着されるスプレーガン本体と、を有し、
前記第2のノズル本体は、前記薬液噴出路および前記ガス噴出路が前記ノズルヘッドの中心軸に対して傾斜せず平行に形成されている請求項1から9のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項11】
前記第1のノズル本体と、前記第2のノズル本体とは、中心軸に対する縦断面において、前記ガス噴出路と前記ガス注入口とが、同一平面内に存在する請求項10に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項12】
前記ノズルヘッドおよび前記ノズル本体の前記外周縁の直径が、ともに5mm以下である請求項1から11のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項13】
生体組織接着剤を塗布するためのノズルヘッドであって、
前記ノズルヘッドは、前記生体組織接着剤の薬液を薬液吐出口より吐出する薬液噴出路と、前記薬液吐出口の近傍に設けられたガス噴出口よりガスを噴射するガス噴出路と、を有し、前記薬液噴出路から吐出される前記薬液を、噴射される前記ガスによって霧化し、
前記薬液噴出路および前記ガス噴出路が前記ノズルヘッドの中心軸に対して傾斜して形成されているとともに、
前記ノズルヘッドの遠位端側から目視した状態で、前記薬液吐出口および前記ガス噴出口が、前記ノズルヘッドの外周縁よりも内側に位置することを特徴とするノズルヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−74988(P2013−74988A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216199(P2011−216199)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【出願人】(000173555)一般財団法人化学及血清療法研究所 (86)
【Fターム(参考)】