説明

生体負荷の指標剤および生体負荷の測定方法

【課題】自覚症状に頼る評価方法しかなかったストレスおよび疲労を始めとする様々な精神あるいは肉体の状態を客観的かつ特異的に評価できる手段の提供。
【解決手段】IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100,RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1からなる群より選ばれる少なくとも2種の因子を含有してなる、ストレスまたは疲労の指標剤;前記因子をそれぞれ特異的に認識する分子からなる群より選ばれる少なくとも2種の分子を含有してなる、ストレスまたは疲労の検査薬;前記検査薬を用いるストレスまたは疲労の測定方法;前記因子群より選ばれる少なくとも2種の因子に加重配分してなる指標剤であって、精神状態または精神障害の強度を評価するための指標剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体負荷の指標剤および生体負荷の測定方法に関する。詳しくは、分子生物学的アプローチによりストレス、疲労などの生体負荷を客観的に評価する技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
精神的および/または肉体的ストレスは、神経、内分泌および免疫系を含む宿主の防御に影響を及ぼす(非特許文献1および2を参照)。宿主の防御にかかわる生理活性因子、具体的にはグルココルチコイドなどのホルモン、カテコールアミンなどの神経伝達物質、一部のサイトカインなどは、ストレスによって増加する(非特許文献1および3を参照)。しかしながら、ストレスがこれら分子群の体内動態を変動させる分子機構は、十分に理解されていない。
【0003】
ストレス下では、血中糖質コルチコイドおよびカテコールアミンの増加のほか(非特許文献4を参照)、だ液中アミラーゼ(非特許文献5を参照)や血中サイトカインの増加(非特許文献1および3を参照)が報告されていた。生体は、精神ストレス、身体ストレス、物理ストレス、化学ストレスの種類を問わず、いずれの負荷に対しても同様の応答を示すものと古くから考えられており(非特許文献6を参照)、そのことからストレス応答は汎適応症候群と定義付けられていた(非特許文献6を参照)。従って、ストレス後の身体変化から、負荷されたストレスを判別、強度を評価することはできないものとされてきた。
【0004】
ホルモン、神経伝達物質、サイトカインは、感染、炎症、栄養状態、運動等に応じて、全体として一定の体内動態に従って変動し、特定の体内レベルパターンを保っていると信じられていた(非特許文献1および6を参照)。しかし、本発明者の研究によりストレス、特に精神的ストレスが加わった時にのみ発動するインターロイキン(IL)−18の分泌経路が明らかになった。すなわち、炎症や感染によってはマクロファージから分泌されるIL−18(非特許文献8を参照)は、非炎症性、非感染性のストレス、特に精神的ストレスに際しては、下垂体から分泌された副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって、副腎において発現(非特許文献7を参照)し、血中に分泌されることが示された(非特許文献9−11を参照)。
【0005】
IL−18は、炎症、感染時に分泌されるサイトカインであり、IL−6の誘導、分泌を抑制することが明らかにされていた(非特許文献12および特許文献1を参照)が、精神的ストレスによるIL−18血中レベル上昇時のみ、IL−6を誘導、血中レベルの上昇を惹起する(非特許文献9−11を参照)。これは精神的ストレスに特異的な反応がIL−18とIL―6にあり、その発動によって、両者の濃度関係にひずみが生じることを意味した。
【0006】
IL―18およびIL−6のみならず、ホルモン、神経伝達物質、サイトカイン類の免疫制御分子の多くは、普段から、精神的ストレス、運動によるストレス以外にも、炎症、感染、年齢、性別、肥満度等に応じて変動している。そのため、それぞれの体内レベルは外的、内的環境の強い影響下にある(非特許文献1を参照)。したがって、それら構成的に分泌されている分子を測定して、その濃度関係にひずみを見いだしたとしても、特定のストレスによるひずみなのか、炎症、感染、年齢、性別、肥満度等によるものかの評価ができなかった(非特許文献13に示すところの学会発表)。
【0007】
現代社会において、ストレスの明確な指標はいまだ開発されていない。そのためにヒトはさまざまなストレスに曝され、労働効率の低下、生き甲斐の喪失、クオリティオブライフの低下ばかりでなく、精神疾患や免疫力低下、あるいは自己免疫疾患の高いリスクに曝されている。本発明者は、ストレスおよび生体負荷の判定、評価のためには、まず、ストレスに対して特異的な応答を示す分子を見いだすこと、ストレス下でのみ生じる分子の組み合わせを発見すること、が必要であり、それだけではなく、それらの分子レベルの相互関係に、ストレス下でのみ生じるひずみを発見することが重要であることを結論していた(特許文献2および3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−193098号公報
【特許文献2】国際公開第2006/003927号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/094472号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Plotnikoff, P.N. et al., Cytokines, Stress and Immunity, second edition. CRC Press. 1-16 (2007)
【非特許文献2】Kiecolt-Glaser, J. K. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 3043-3047 (1996)
【非特許文献3】Dugue, B. et al. Scand. J. Clin. Invest. 53, 555-561 (1993)
【非特許文献4】Davis EP, Granger DA. Psychoneuroendocrinology. (2009)
【非特許文献5】Su, H. et al. Free Radic Biol Med. 46. 914-21 (2009)
【非特許文献6】Motzer SA, Hertig V. Nurs Clin North Am. 39. 1-17 (2004)
【非特許文献7】Conti, B. et al. J. Biol. Chem. 272, 2035-2037 (1997)
【非特許文献8】Okamura, H. et al. Nature 378, 88-91 (1995)
【非特許文献9】Sekiyama, A. et al. Immunity 22(6), 669-677 (2005)
【非特許文献10】Sekiyama, A. et al. J Neuroimmunol. 171(1-2), 38-44 (2006)
【非特許文献11】Sekiyama, A. et al. J Med Invest. 52, 236-239 (2005)
【非特許文献12】Sakao, Y. et al., Int Immunol. 11. 471-480 (1999)
【非特許文献13】Sekiyama, A. et al. Biol Psych. 63. 12S-13S (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
生体には負荷や刺激に反応して、生体の機能を一定に保とうとする働きが備わっており、その働きをホメオスタシスおよび生体防御機構という。精神的、肉体的、物理的、化学的なストレスや疲労はホメオスタシスおよび生体防御機構に負荷となり、ホメオスタシスおよび生体防御機構の破綻によってさまざまな疾患が生じることが知られていた。
ストレス、疲労、抑鬱などのホメオスタシスおよび生体防御機構の負荷状態は、精神障害、身体障害さらには自殺を引き起こすこともあり、健康を脅かす重大な課題である。しかし、これらの症状は根本的に自覚症状であるので、自己申告による評価しかできなかった。さらに、既知の生化学的検査や心理学的検査によっては異常を検出することが極めて困難であり、客観的評価や程度の把握、対策を講じることは不可能であった。これまで、様々な生化学的または生理学的指標が提唱されたが、ホルモンやアミン類は安定性が低く、かつ定量性に欠けており、ストレスに連動してレベルが変化するものの、指標にはなり得なかった。また、宿主防御に関連する分子の多くは、年齢、性別、体重などのさまざまな因子の影響をうけるうえ、普段から分泌されているために、何によって変動したのかを知ることができなかった。
本発明の目的は、自覚症状に頼る評価方法しかなかった疲労を始めとする様々な生体への負荷を客観的かつ特異的に評価できる手段を提供することにある。また、生体ホメオスタシスおよび生体防御機構への負荷は、生体にとっては不快感を伴って自覚されるので、本発明の目的は、生体にとっての不快感、快適感を客観的かつ特異的に評価できる手段を提供することも必然的に包含している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記問題点に鑑み、鋭意検討した結果、細胞内栄養因子、分泌されないと思われてきたサイトカイン、ミッドカイン、リンフォカイン等の発現の変動を網羅的に調べることにより、ストレス応答時に分泌されるものを見いだした。その知見に基づいて、ストレス下でのみ発動する生体内カスケードを構成する因子群を新たに特定し、さらに、各種のストレスによって特徴的に生じる、体内分子レベルのひずみも明らかにした。これらをもとにストレス、疲労を始めとする様々な生体負荷を客観的に把握できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下に示す通りである。
【0012】
〔1〕 IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1からなる群より選ばれる少なくとも2種の因子を含有してなる、ストレスの指標剤。
〔2〕 IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1をそれぞれ特異的に認識する分子からなる群より選ばれる少なくとも2種の分子を含有してなる、ストレスの検査薬。
〔3〕 IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1からなる群より選ばれる少なくとも2種の因子を含有してなる、疲労の指標剤。
〔4〕 IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1をそれぞれ特異的に認識する分子からなる群より選ばれる少なくとも2種の分子を含有してなる、疲労の検査薬。
〔5〕 前記分子が抗体である前記〔2〕または〔4〕に記載の検査薬。
〔6〕 前記〔2〕または〔5〕に記載の検査薬を用いて、生体試料中の因子の量を測定する工程を含む、ストレスの測定方法。
〔7〕 前記〔4〕または〔5〕に記載の検査薬を用いて、生体試料中の因子の量を測定する工程を含む、疲労の測定方法。
〔8〕 前記生体試料が血漿、血清、唾液または尿である、前記〔6〕または〔7〕に記載の測定方法。
〔9〕 IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1からなる群より選ばれる少なくとも2種の因子に加重配分してなる指標剤であって、精神的疲労、肉体的疲労、ストレス、抑うつ気分、快適気分、不快気分、気分変調、強迫性、パニック、不安、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、緊張、労働強度、学習強度、うつ、統合失調症、うつに類似した精神状態、統合失調症に類似した精神状態および自殺の危険度からなる群より選ばれる精神状態を評価するための指標剤。
〔10〕 IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1からなる群より選ばれる少なくとも2種の因子に加重配分してなる指標剤であって、精神的疲労、ストレス、うつ、抑うつ状態、気分障害、統合失調症、強迫性障害、パニック障害、不安障害、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、過緊張、労働もしくは学習に対する不適応、希死念慮、人格障害、アルコール性精神病、不眠、日周リズム障害、精神神経症、認知症、中枢神経性変性疾患および自殺企図からなる群より選ばれる精神障害の強度を評価するための指標剤。
〔11〕 IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1をそれぞれ特異的に認識する分子からなる群より選ばれる少なくとも2種の分子を含有してなる、精神的疲労、肉体的疲労、ストレス、抑うつ気分、快適気分、不快気分、気分変調、強迫性、パニック、不安、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、緊張、労働強度、学習強度、うつ、統合失調症、うつに類似した精神状態、統合失調症に類似した精神状態および自殺の危険度からなる群より選ばれる精神状態の検査薬。
〔12〕 IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1をそれぞれ特異的に認識する分子からなる群より選ばれる少なくとも2種の分子を含有してなる、精神的疲労、ストレス、うつ、抑うつ状態、気分障害、統合失調症、強迫性障害、パニック障害、不安障害、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、過緊張、労働もしくは学習に対する不適応、希死念慮、人格障害、アルコール性精神病、不眠、日周リズム障害、精神神経症、認知症、中枢神経性変性疾患および自殺企図からなる群より選ばれる精神障害の強度の検査薬。
〔13〕 前記分子が抗体である前記〔11〕または〔12〕に記載の検査薬。
〔14〕 前記〔11〕または〔13〕に記載の検査薬を用いて生体試料中の因子の量を測定する工程、ならびに
前記測定工程で得られた量を加重配分して前記〔9〕に記載の指標剤と比較する工程
を含む、精神的疲労、肉体的疲労、ストレス、抑うつ気分、快適気分、不快気分、気分変調、強迫性、パニック、不安、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、緊張、労働強度、学習強度、うつ、統合失調症、うつに類似した精神状態、統合失調症に類似した精神状態および自殺の危険度からなる群より選ばれる精神状態の測定方法。
〔15〕 前記〔12〕または〔13〕に記載の検査薬を用いて生体試料中の因子の量を測定する工程、ならびに
前記測定工程で得られた量を加重配分して前記〔10〕に記載の指標剤と比較する工程
を含む、精神的疲労、ストレス、うつ、抑うつ状態、気分障害、統合失調症、強迫性障害、パニック障害、不安障害、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、過緊張、労働もしくは学習に対する不適応、希死念慮、人格障害、アルコール性精神病、不眠、日周リズム障害、精神神経症、認知症、中枢神経性変性疾患および自殺企図からなる群より選ばれる精神障害の強度の測定方法。
〔16〕 前記生体試料が血漿、血清、唾液または尿である、前記〔14〕または〔15〕に記載の測定方法。
〔17〕 IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1をそれぞれ特異的に認識する分子からなる群より選ばれる少なくとも2種の分子を別々の区画に格納してなる検査キットであって、精神的疲労、肉体的疲労、ストレス、抑うつ気分、快適気分、不快気分、気分変調、強迫性、パニック、不安、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、緊張、労働強度、学習強度、うつ、統合失調症、うつに類似した精神状態、統合失調症に類似した精神状態および自殺の危険度からなる群より選ばれる精神状態の検査キット。
〔18〕 IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1をそれぞれ特異的に認識する分子からなる群より選ばれる少なくとも2種の分子を別々の区画に格納してなる検査キットであって、精神的疲労、ストレス、うつ、抑うつ状態、気分障害、統合失調症、強迫性障害、パニック障害、不安障害、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、過緊張、労働もしくは学習に対する不適応、希死念慮、人格障害、アルコール性精神病、不眠、日周リズム障害、精神神経症、認知症、中枢神経性変性疾患および自殺企図からなる群より選ばれる精神障害の強度の検査キット。
〔19〕 前記分子が抗体である前記〔17〕または〔18〕に記載の検査キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明のストレスまたは疲労の指標剤によると、生体に加わった各種の負荷のそれぞれに応じて特異的に発現、カスケードを形成する因子を含有することから、ヒトを始めとする哺乳動物のストレスまたは疲労の度合いを客観的かつ分子生物学的に評価することができる。本発明のストレスまたは疲労の検査薬によると、生体に加わった各種の負荷に応じて特異的に発現、カスケードを形成する因子を認識する分子を含有することから、ヒトを始めとする哺乳動物のストレスまたは疲労の度合いを客観的かつ定量的に検査することができる。本発明のストレスまたは疲労の測定方法によると、本発明の検査薬を用いて、生体試料中の因子の濃度を測定することから、ヒトを始めとする哺乳動物のストレスまたは疲労の度合いを客観的かつ定量的に測定することができる。本発明の上記因子を加重配分してなる指標剤によると、ヒトを始めとする哺乳動物の様々な精神状態または精神障害の強度を客観的、網羅的かつ分子生物学的に評価することができる。本発明の精神状態または精神障害の強度の検査薬によると、生体内で様々な作用を有するミッドカイン、栄養因子等の因子を認識する分子を含有し、当該分子を加重配分することから、ヒトを始めとする哺乳動物の様々な精神状態または精神障害の強度を客観的かつ定量的に検査することができる。本発明の精神状態または精神障害の強度の測定方法によると、本発明の精神状態または精神障害の検査薬を用いて、本発明の精神状態または精神障害の指標剤を指標とすることから、ヒトを始めとする哺乳動物の様々な精神状態または精神障害の強度を客観的かつ定量的に評価することができる。本発明の精神状態または精神障害の強度の検査キットによると、本発明の検査薬を別々の区画に格納することから、当該精神状態または精神障害の強度を単独または網羅的な検査の便宜に供することができる。
【0014】
様々な精神状態、疲労状態の評価および精神障害、疲労性障害の評価には、訓練を積んだ専門医による時間をかけた診察が必要とされてきたが、それを血液、髄液または尿の採取のみで実施することが可能となるため、日常的な健康診断に簡便に組み込むことができる。
【0015】
これらのことから、本発明は、健常人であるかどうかを問わず、一般的なストレスの有無、疲労の有無、および強弱の判定に用いることができる。これをもとに、予防医学および公衆衛生行政の基礎の再構築;病気療養中の患者の生活強度、精神衛生の評価と管理;病気回復期の患者の生活強度、精神衛生の評価と管理;産業または労働衛生ないし労災の範囲認定;労働環境の評価;労働強度の評価;居住または労働環境アセスメント;学校衛生ないし学習環境または強度の評価;環境アセスメント;ストレスもしくは疲労を主徴とする疾患または障害(心身症、うつ、精神神経症、慢性疲労症候群、人格障害、性格障害、不適応症候群、ひきこもり、もえつき症候群、無気力症、心因反応、PTSD、その他ほとんどの疾患)の状態の評価;国際レベルでのストレスの評価基準の一本化;ならびに上記の各評価の国際基準の策定に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例10のうつ病の判定に用いたロジスティック回帰分析の結果を示す。
【図2】図2は、実施例11の統合失調症の判定に用いたロジスティック回帰分析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明における評価対象は、生体における負荷の状態と病態とに分けられる。本発明における評価判別の次元は、状態の場合は当該状態とその程度の顕在化であり、一方、病態の場合は顕在化した病態の種類と程度である。さらに、本発明は、顕在化した状態でも客観的評価基準のない病態に対して、潜在的な状態、すなわち、生体内部のリンフォカイン、ミッドカインの変動の把握からのアプローチによる病態の評価基準の提供にも照準を合わせている。
【0018】
本発明のストレスまたは疲労の指標剤は、IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1からなる群より選ばれる少なくとも2種の因子を含有するものである。
【0019】
本発明において「指標剤」とは、自己申告による評価方法しか確立されていなかった様々な精神状態を客観的に把握するための指標となる生体内マーカーをいう。あるいは、「指標剤」とは、精神障害の強度を客観的に把握するための指標となる生体内マーカーであってもよい。
【0020】
本発明において「生体負荷」とは、生体の精神および肉体に対する化学的、物理的、精神的、言語的または労作的負荷を意味する。また、「生体負荷」とは、病態などにより生じる生体内部からの恒常的な負荷も含む意味である。例えば、生体ホメオスタシス破綻状態、生体ホメオスタシス破綻負荷状態、生体ホメオスタシス破綻前駆状態、生体防御機構破綻状態、生体防御機構破綻負荷、生体防御機構破綻前駆状態なども、本発明における「生体負荷」に含まれる。
【0021】
本発明において「ストレス」とは、生体の精神および肉体に対する化学的、物理的、精神的、言語的または労作的な臨時の負荷が加わったことによる生体の様々な応答を意味する。また、「ストレス」とは、生体内部からの恒常的な負荷が加わったことによる生体の様々な応答も意味する。
【0022】
本発明において「疲労」とは、肉体疲労および精神疲労を含むあらゆる疲労を意味する。
【0023】
本発明の指標剤に含まれる因子は、上記群より選ばれる少なくとも2種である。より特異的な疲労の指標となるためには、3〜21種類であり、好ましくは3〜15種類であり、より好ましくは5〜13種、さらにより好ましくは8〜12種である。
【0024】
本発明において「IL-1α」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_000575等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「IL-1α」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0025】
本発明において「IL-2ra」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_000417、AY563103等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「IL-2ra」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0026】
本発明において「IL-16」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_172217、NM_004513、BC040272等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「IL-16」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0027】
本発明において「CTACK」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_006664等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「CTACK」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0028】
本発明において「GRO-α」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_001511、BC011976等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「GRO-α」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0029】
本発明において「ICAM-1」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_000201等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「ICAM-1」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0030】
本発明において「IFN-α2」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_000605等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「IFN-α2」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0031】
本発明において「LIF」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_002309等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「LIF」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0032】
本発明において「MCP-3」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:X72309、X72308等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「MCP-3」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0033】
本発明において「M-CSF」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_000757等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「M-CSF」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0034】
本発明において「MIF」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_002415等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「MIF」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。
なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0035】
本発明において「MIG」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_002416等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「MIG」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0036】
本発明において「β-NGF」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_002506等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「β-NGF」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0037】
本発明において「SCF」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:M59964で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「SCF」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0038】
本発明において「SCGF-β」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:D86586等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「SCGF-β」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0039】
本発明において「SDF1a」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:AY874118、L36034等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「SDF1a」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0040】
本発明において「TNF-β」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:X02911、X01393、NM_009588、NM_002341、BC069330、D12614、D00102、L11015等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「TNF-β」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0041】
本発明において「S100」とは、TroponinCなどと同様にEF-handと呼ばれるloop-helix-loop構造を有するカルシウム結合性蛋白である。1965年ウシ脳から分離された。8〜14kDほどの低分子酸性蛋白。α(Gene:1q21)およびβ(Gene:21q22)の2つのサブユニットからなる二量体構造をとり、α鎖β鎖から成るS100A(他にααもある)とβ鎖β鎖から成るS100Bとを指す。現在16種類のサブタイプが確認されている。S100Aは、Gene ID:6271としてNCBIに登録され、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_006271等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。S100Bは、Gene ID:6285としてNCBIに登録され、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_006272等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「S100」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0042】
本発明において「RAGE(Receptor for Advanced glycation end products)」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_001136、NM_172197等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「RAGE」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0043】
本発明において「IL−18BP」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:AF215907、NM025217、NM001039659、NM173042、NM001039660、NM001145055、NM001145057等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「IL−18BP」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0044】
本発明において「VCAM-1」とは、ヒトアミノ酸配列および塩基配列として、Genbankアクセッション番号:NM_080682、NM_001078、X53051等で公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、「VCAM-1」には、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0045】
本発明の指標剤を構成する前記分子群は、別々の容器に格納されていることが好ましい。また、本発明の指標剤は、前記分子群を主成分とする限り、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、緩衝液、生理食塩水等の溶媒、安定化剤、静菌剤、防腐剤などがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0046】
本発明の指標剤は、動物の生理状態がストレスまたは疲労、好ましくは心理的ストレスに起因する疲労に陥っていることの指標となるものである。特に動物の生体試料、好ましくは血漿、血清、唾液または尿中の前記因子の濃度比率を指標とすることにより、疲労の程度を容易かつ定量的に知ることができる。上記様々な因子の生体内の量の上昇も疲労の指標となる。具体的には、本発明の指標剤に含まれる少なくとも2種の因子の濃度相関表を正常値から弱い疲労ないしは強い疲労の場合までのものを準備し、検体と比較できるようにしておくことが好ましい。
【0047】
本発明のストレスまたは疲労の検査薬は、IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1をそれぞれ特異的に認識する分子からなる群より選ばれる少なくとも2種の分子を含有することを特徴とする。
【0048】
前記分子としては、抗体、ペプチド(抗体を除く)、核酸、低分子化合物などが含まれる。比較的容易に入手または製造可能な抗体が好ましい。
【0049】
前記「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはF(ab’)もしくはFab’フラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する前記抗体の一部が包含される。
【0050】
前記「ペプチド(抗体を除く)」とは、上記因子(特定のタンパク質)と特異的に結合するタンパク成分をいい、具体的には、サイトカイン結合タンパク質、サイトカイン受容体、サイトカイン可溶化受容体、またはそれらの結合部位などがあげられる。
【0051】
前記「核酸」とは、上記因子(特定のタンパク質)に結合可能な特定の塩基配列を有する核酸をいい、具体的には、DNA、RNAまたは核酸類似体などがあげられる。
【0052】
前記「低分子化合物」とは、前記ペプチドの立体構造および静電気的性質を基に設計した有機または無機低分子化合物をいう。
【0053】
前記抗体は、常法に従って製造することができる(Current Protocol in Molecular Biology, Chapter 11.12〜11.13(2000))。具体的には、前記抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製した前記因子のいずれかを用いて、あるいは常法に従ってこれら因子の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製した前記因子のいずれか、あるいはこれらタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞を培養して得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。また、キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号)、Vol.6、No.10、1988」、特公平3-73280号公報等を参考に製造することができる。F(ab’)またはFab’は、イムノグロブリンを、蛋白分解酵素であるペプシンまたはパパインで処理することによりそれぞれ製造することができる。
【0054】
このような抗体は、遊離の状態、標識された状態または固相化された状態で前記検査薬に含まれる。本発明の検査薬は、診断薬に一般に含まれる担体を含有してもよい。かかる担体としては、保存剤、安定剤、緩衝剤、水、生理食塩水等の溶媒などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0055】
本発明は、前記検査薬を用いて、生体試料中の因子の量を測定する工程を含む、ストレスまたは疲労の測定方法を提供する。
【0056】
ストレスまたは疲労の測定方法は、前記検査薬中に含まれる分子、好ましくは抗体を用いた自体公知の手法により、生体試料、好ましくは血漿、血清、唾液または尿中の因子の量を定性的または定量的に測定することができる。このような多数のタンパク質を同時に簡便に測定可能なシステムとして、蛋白認識センサーを付着させたマイクロビーズを用いて、マイクロビーズを懸濁させた液中で結合反応を行う液相中のプロテインアレイシステム(例:Bio-Plex(商品名)サスペンションアレイシステム(Bio-Rad Laboratories製))が好ましい。このようなアレイシステムを用いた場合、数pg/mlから数十ng/mlという幅広い測定範囲を測定することができる。
【0057】
得られた各因子の生体試料中の量を、前記ストレスまたは疲労の指標剤と対比することにより、動物のストレスの度合いまたは疲労度を客観的かつ定性的または定量的に評価することができる。
【0058】
前記動物は、ヒトを始めとする脊椎動物であることが好ましく、特にウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、イヌ、ネコ等の家畜または愛玩動物が好ましい。本発明のストレスまたは疲労の測定方法を家畜または愛玩動物にも適用することによって、人工的に飼育することがストレスを負荷することにつながりやすい畜産またはペット産業の分野において、動物のストレスまたは疲労状態を客観的に監視することが可能であり、動物の健康状態を把握し、良好に管理するのに好都合である。
【0059】
本発明の検査薬は、前記分子、好ましくは抗体が別々の容器に格納されていることが好ましい。前記分子を別々の容器に格納することにより、後述する精神状態または精神障害の強度の検査キットとすることもできる。該検査キットに含まれるその他の試薬としては、試薬や生体試料を希釈するための緩衝液、蛍光色素、反応容器、陽性対照、陰性対照、検査プロトコールを記載した指示書等があげられる。本発明のキットを使用することにより、精神状態または精神障害の強度の測定が簡便となる。
【0060】
本発明は、前記因子群(IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1)より選ばれる少なくとも2種の因子に加重配分した指標剤を、精神的疲労、肉体的疲労、ストレス、抑うつ気分、快適気分、不快気分、気分変調、強迫性、パニック、不安、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、緊張、労働強度、学習強度、うつ、統合失調症、うつに類似した精神状態、統合失調症に類似した精神状態および自殺の危険度からなる群より選ばれる精神状態を評価するための指標剤として提供することができる。
【0061】
ここで、「うつに類似した精神状態、統合失調症に類似した精神状態」とは、外見上はうつ、または統合失調症と見受けられるが、実際はこれらの精神障害を罹患または発症していない精神状態をいい、気分障害、強迫性障害、パニック障害、不安障害、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、過緊張、労働もしくは学習に対する不適応、希死念慮、人格障害、アルコール性精神病、不眠、日周リズム障害、精神神経症および自殺企図を含む精神障害に類似した精神状態も含む。
【0062】
本発明は、前記因子群(IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1)より選ばれる少なくとも2種の因子に加重配分した指標剤を、精神的疲労、ストレス、うつ、抑うつ状態、気分障害、統合失調症、強迫性障害、パニック障害、不安障害、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、過緊張、労働もしくは学習に対する不適応、希死念慮、人格障害、アルコール性精神病、不眠、日周リズム障害、精神神経症、認知症(アルツハイマー型老年痴呆、アルツハイマー病、ピック病)、中枢神経性変性疾患(OPCA(オリーブ核橋小脳変性症)、パーキンソン病、びまん性レビー小体病)および自殺企図からなる群より選ばれる精神障害の強度を評価するための指標剤として提供することができる。
【0063】
上記指標剤はいずれも、状態、障害または疾患の発症状態のみならず、病前状態(すなわち、理学的検査によっては明らかな疾患とはみとめられないが、病態および病態の萌芽は存在し、発症の危険性が有意に予測される状態)をも評価することが可能である。
【0064】
本発明において「ストレス」とは、生体の精神および肉体に対する化学的、物理的、精神的、言語的または労作的な臨時の負荷が加わったことによる生体の様々な応答を意味するが、前記因子の加重配分のやり方によって、特定の負荷による特定のストレスの指標を提供することができる。具体的には、加重配分により得られる係数を各因子に掛けることにより、精神状態としてのストレスまたは精神障害としてのストレスの指標を提供することができる。
【0065】
本発明において「疲労」は、肉体疲労および精神疲労を含むものであるが、前記因子の加重配分のやり方によって、肉体疲労に重点を置いた指標、精神疲労に重点を置いた指標のいずれをも提供することができる。具体的には、加重配分により得られる係数を各因子に掛けることにより、肉体疲労および精神疲労を始めとする精神状態または精神疲労に基づく精神障害の指標を提供することができる。
【0066】
本発明において「抑うつ気分」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0067】
本発明において「うつ」とは、DSM-IVに規定される内容と、精神医学において「大うつ病」と呼ばれてきた一群の疾患とをいう。
【0068】
本発明において「気分変調」とは、気分の浮き沈みのことをいう。
【0069】
本発明において「気分障害」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0070】
本発明において「統合失調症」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0071】
本発明において「強迫性」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0072】
本発明において「強迫性障害」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0073】
本発明において「パニック」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0074】
本発明において「パニック障害」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0075】
本発明において「不安」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0076】
本発明において「不安障害」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0077】
本発明において「恐怖症」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0078】
本発明において「対人恐怖」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0079】
本発明において「社会恐怖」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0080】
本発明において「緊張」とは、精神的緊張、交感神経系の亢進(応答)を主徴とする、化学的、物理的、精神的、言語的または労作的負荷への応答をいう。
【0081】
本発明において「過緊張」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0082】
本発明において「労働強度」とは、労働の後にクレペリンテスト、疲労度調査などにより知ることができる疲れの度合いをいう。
【0083】
本発明において「労働に対する不適応」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0084】
本発明において「学習強度」とは、学習の後にクレペリンテスト、疲労度調査などにより知ることができる疲れの度合いをいう。
【0085】
本発明において「学習に対する不適応」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0086】
本発明において「自殺の危険度」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0087】
本発明において「希死念慮」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0088】
本発明において「自殺企図」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0089】
本発明において「人格障害」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0090】
本発明において「アルコール性精神病」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0091】
本発明において「不眠」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0092】
本発明において「日周リズム障害」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0093】
本発明において「精神神経症」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0094】
本発明において「快適気分」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0095】
本発明において「不快気分」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0096】
本発明において「抑うつ状態」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0097】
本発明において「認知症」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0098】
本発明において「アルツハイマー型老年痴呆」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0099】
本発明において「アルツハイマー病」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0100】
本発明において「ピック病」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0101】
本発明において「中枢神経性変性疾患」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0102】
本発明において「OPCA(オリーブ核橋小脳変性症)」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0103】
本発明において「パーキンソン病」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0104】
本発明において「びまん性レビー小体病」とは、DSM-IVに規定される内容をいう。
【0105】
上記以外に特に明記しなくとも、DSM-IVに規定された精神障害は、規定された内容の範囲内で本発明に組み込まれる。なお、DSM-IVが改訂された場合は、その改訂版に準ずることができる。
【0106】
本発明の精神状態または精神障害の強度の指標剤に含まれ、加重配分される因子は、上記群より選ばれる少なくとも2種である。各精神状態または精神障害の強度のより特異的な指標となるためには、3〜21種類であり、好ましくは3〜15種類であり、より好ましくは5〜13種、さらにより好ましくは8〜12種である。
【0107】
本発明の精神状態または精神障害の強度の指標剤を構成する前記分子群は、別々の容器に格納されていることが好ましい。また、本発明の精神状態の指標剤は、前記分子群を主成分とする限り、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、緩衝液、生理食塩水等の溶媒、安定化剤、静菌剤、防腐剤などがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0108】
本発明の精神状態または精神障害の強度の指標剤は、動物のメンタルヘルス分野の客観的指標となるものである。特に動物の生体試料、好ましくは血漿、血清、唾液または尿中の前記加重配分した因子を指標とすることにより、様々な精神状態を容易かつ定量的に知ることができる。
【0109】
本発明の疲労の指標剤または精神状態もしくは精神障害の強度の指標剤は、指標剤に含まれる因子に加重配分した数値の組合せ、すなわち、データベースであってもよい。指標剤をデータベース化することにより、本発明の検査薬を用いて得られた測定値から精神の様々な状態を項目ごとに容易かつ定量的に知ることができる。
【0110】
本発明の精神状態または精神障害の強度の検査薬は、前記因子(IL-1α、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、IFN-α2、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、TNF-β、S100、RAGE、IL−18BP、およびVCAM-1)をそれぞれ特異的に認識する分子からなる群より選ばれる少なくとも2種の分子を含有することを特徴とする。
【0111】
本発明の精神状態または精神障害の検査薬に含まれる分子およびその他の成分は、前記ストレスまたは疲労の検査薬に含まれるものと同様である。
【0112】
本発明は、前記精神状態または精神障害の強度の検査薬を用いて生体試料中の因子の量を測定する工程、ならびに
前記測定工程で得られた量を加重配分して前記精神状態または精神障害の強度の指標剤と比較する工程
を含む、精神状態または精神障害の強度の測定方法を提供する。
【0113】
精神状態または精神障害の強度の測定方法は、前記精神状態または精神障害の強度の検査薬中に含まれる分子、好ましくは抗体を用いた自体公知の手法により、生体試料、好ましくは血漿、血清、唾液または尿中の因子の濃度を測定することができる。このような多数のタンパク質を同時に簡便に測定可能なシステムとして、たとえばBio-Plexサスペンションアレイシステム(Bio-Rad Laboratories製)が好ましい。
【0114】
得られた各因子の生体試料中の量に係数を掛けた数値を、前記精神状態の指標剤と対比することにより、動物の精神状態を客観的かつ定量的に評価することができる。
【0115】
前記動物は、ヒトを始めとする脊椎動物であることが好ましく、特にウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、イヌ、ネコ等の家畜または愛玩動物が好ましい。本発明の精神状態または精神障害の強度の測定方法を家畜または愛玩動物にも適用することによって、人工的に飼育することがストレスを負荷することにつながりやすい畜産またはペット産業の分野において、動物の精神状態または精神障害の強度を客観的に監視することが可能であり、動物のメンタルヘルスを把握するのに好都合である。
【0116】
本発明の精神状態または精神障害の強度の検査キットは、前記分子、好ましくは抗体の少なくとも2種を別々の区画に格納していることを特徴とする。該検査キットに含まれるその他の試薬としては、試薬や生体試料を希釈するための緩衝液、蛍光色素、反応容器、陽性対照、陰性対照、検査プロトコールを記載した指示書等があげられる。本発明の検査キットを使用することにより、精神状態の測定が簡便となる。
【0117】
本発明により、様々な精神状態または精神障害における前記因子のレベルをハイスループットに解析することが可能である。本発明により見出された知見を基に個体差も容易に見出すことが可能である。これらのことから、ストレスに対する分子群、具体的には本発明において見いだされたミッドカイン、リンフォカインなどの応答の個体差による違いから新規遺伝子を発見したり、ストレス耐性のスクリーニングに適用することができる。また、本発明は、抗ストレス効果を有する薬剤の効果判定に利用することができる。本発明の利点を以下に記載する。
1:ストレスの指標用に独自に開発したセットで測定を行う。
2:血漿または血清を用いた場合、全因子の測定が50μLの試料で行うことができる。
3:全行程を6時間程度で終了することができる。
4:得られた全データをデータベース化し、簡便に統計処理することができる。
【0118】
前記利点をストレス他の測定に利用することで、従来の、医師や心理学者の面接、さらに質問紙を用いて採られたデータを何日もかけて統合して評価する方法(そのために施設ごとの結果の相違も生じていた)に比べて、格段に安価にスピーディにストレス他の精神状態を把握することが可能である。
【実施例】
【0119】
以下、実施例等により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら制限されるものではない。下記実施例において、ボランティアの被験者に対しては、事前に当該施設の倫理委員会の承認を得た後、インフォームドコンセントを得て各種テストを実施し、採血を行った。
【0120】
実施例1:精神的負荷と身体的負荷との判別
健常人ボランティア120人にクレペリンテスト(計算:精神的負荷)を施行し、四週間後に同じボランティア120人に身体的負荷を施行した。1mlの血液を抗凝固剤入りの採血スピッツに採血し、4℃冷却下で血漿を分離した。血漿を凍結保存あるいは氷上保存し、50μlに分注の後、マイクロビーズによるプロテイン・アレイシステム(Bio-Plexサスペンションアレイシステム(Bio-Rad Laboratories製を独自に改変))によって、21種のサイトカイン類を同時に測定した。さらに、従来のELISA法によってもサイトカイン類を測定し、各サイトカイン類の血中濃度を決定した。その結果得られた血中LIF濃度とMIG濃度とを独立変数として、精神的負荷と身体的負荷とを判別するロジスティック回帰分析および非線形判別分析を行った。結果(判別表)を表1に示す。
【0121】
【表1】

【0122】
表1に示される通り、感度97%、特異度95%で判別に成功している。本実験に参加したボランティアは、年齢、身長、体重を調整していない。誤判定した対象について、年齢、性別、身長、体重、BMIによる誤判定かどうかをロジスティック回帰分析によって検討した結果、年齢、性別、身長、体重、BMIによる判別の偏りはみられなかった。すなわち、それらの要因にかかわらず上記の感度、特異度が得られることが示された。
【0123】
実施例2:精神的負荷の程度の判別
健常人ボランティア120人にクレペリンテスト(計算:精神的負荷)を施行した。施行前と施行2時間後とで血液を実施例1に記載の方法で分析し、その結果得られた血中GRO-α濃度とIL-16濃度とを独立変数として、施行前と施行(負荷)2時間後を弁別するためのロジスティック回帰分析および非線形判別分析を行った。結果(判別表)を表2に示す。
【0124】
【表2】

【0125】
表2に示される通り、感度、特異度とも100%で判別に成功している。
【0126】
実施例3:精神的負荷からの回復の判別
健常人ボランティア120人にクレペリンテスト(計算:精神的負荷)を4時間施行した。4時間施行直後とテスト(負荷)終了後3時間後とで血液を実施例1に記載の方法で分析し、その結果得られた血中SCF濃度とIL-2ra濃度とVCAM-1濃度とを独立変数として、施行直後と負荷終了3時間後とを弁別するためのロジスティック回帰分析および非線形判別分析を行った。結果(判別表)を表3に示す。
【0127】
【表3】

【0128】
表3に示すように、感度89%、特異度91%であった。より多数を用いれば高率で判別可能であった。本実験に参加したボランティアは、年齢、身長、体重を調整していない。誤判定した対象について、年齢、性別、身長、体重、BMIによる誤判定かどうかをロジスティック回帰分析によって検討した結果、年齢、性別、身長、体重、BMIによる判別の偏りはみられなかった。すなわち、それらの要因にかかわらず上記の感度、特異度が得られることが示された。このような性能を持つ血液をベースにしたマーカー及び判定方法はこれまでに報告されておらず、精神的負荷(疲労)からの回復度の判定方法として初めてのものである。この数値の変動によって、食品や薬学的組成物の抗疲労効果の検証を行うことができる。
【0129】
実施例4:身体的負荷の程度の判別
健常人ボランティア120人に身体的負荷を施行した。施行前と施行2時間後とで血液を実施例1に記載の方法で分析し、その結果得られた血中CTACK濃度とβ−NGF濃度とTNF−β濃度とを独立変数として、施行前と施行(負荷)2時間後を弁別するためのロジスティック回帰分析および非線形判別分析を行った。結果(判別表)を表4に示す。
【0130】
【表4】

【0131】
表4に示される通り、感度90%、特異度93%であった。より多数の因子を用いれば高率で判別可能であった。本実験に参加したボランティアは、年齢、身長、体重を調整していない。誤判定した対象について、年齢、性別、身長、体重、BMIによる誤判定かどうかをロジスティック回帰分析によって検討した結果、年齢、性別、身長、体重、BMIによる判別の偏りはみられなかった。すなわち、それらの要因にかかわらず上記の感度、特異度が得られることが示された。このような性能を持つ血液をベースにしたマーカー及び判定方法はこれまでに報告されておらず、身体的負荷(疲労)の強度の判定方法として初めてのものである。この数値の変動によって、食品や薬学的組成物の抗疲労効果の検証等を行うことができる。
【0132】
実施例5:身体的負荷からの回復の判別
健常人ボランティア120人に身体的負荷を施行した。施行4時間直後と終了3時間後とで血液を実施例1に記載の方法で分析し、その結果得られた血中MIF濃度とSDF1a濃度とVCAM−1濃度とを独立変数として、施行直後と終了3時間後を弁別するためのロジスティック回帰分析および非線形判別分析を行った。結果(判別表)を表5に示す。
【0133】
【表5】

【0134】
表5に示される通り、感度81%、特異度88%である。より多数の因子を用いれば高率で判別可能であった。本実験に参加したボランティアは、年齢、身長、体重を調整していない。誤判定した対象について、年齢、性別、身長、体重、BMIによる誤判定かどうかをロジスティック回帰分析によって検討した結果、年齢、性別、身長、体重、BMIによる判別の偏りはみられなかった。すなわち、それらの要因にかかわらず上記の感度、特異度が得られることが示された。このような性能を持つ血液をベースにしたマーカー及び判定方法はこれまでに報告されておらず、身体的負荷(疲労)の強度の判定方法として初めてのものである。この数値の変動によって、食品や薬学的組成物の抗疲労効果、回復補助効果の検証等を行うことができる。
【0135】
実施例6:精神疾患(うつ病)の判別
協力の同意を得たうつ病患者100名と、同様に同意を得た健常者200名の血液を実施例1に記載の方法で分析し、その結果得られた血中MCP-3濃度とICAM-1濃度とを独立変数として、うつ病と健常者とを分類するためのロジスティック回帰分析および非線形判別分析を行った。結果(判別表)を表6に示す。
【0136】
【表6】

【0137】
表6に示すとおり、98%の正診率で判別可能である。本実験に参加したボランティアは、年齢、身長、体重を調整していない。誤判定した対象について、年齢、性別、身長、体重、BMIによる誤判定かどうかをロジスティック回帰分析によって検討した結果、年齢、性別、身長、体重、BMIによる判別の偏りはみられなかった。すなわち、それらの要因にかかわらず上記の感度、特異度が得られることが示された。このような性能を持つ、血液をベースにしたマーカー及び判定方法はこれまでに報告されていない。このような精度を持つ判定方法は、他に類をみない。
【0138】
実施例7:精神疾患(統合失調症)の判別
本実験のためにあらたに被検者を募った。協力の同意を得た統合失調症病患者100名と、同様に同意を得た健常者200名の血液を実施例1に記載の方法で分析し、その結果得られた血中IL-16濃度とGRO-α濃度、LIF濃度とを独立変数として、統合失調症と健常者とを分類するためのロジスティック回帰分析および非線形判別分析を行った。結果(判別表)を表7に示す。
【0139】
【表7】

【0140】
表7に示すとおり、92%の正診率で判別可能であった。本実験に参加したボランティアは、年齢、身長、体重を調整していない。誤判定した対象について、年齢、性別、身長、体重、BMIによる誤判定かどうかをロジスティック回帰分析によって検討した結果、年齢、性別、身長、体重、BMIによる判別の偏りはみられなかった。すなわち、それらの要因にかかわらず上記の感度、特異度が得られることが示された。このような性能を持つ血液をベースにしたマーカー及び判定方法はこれまでに報告されておらず、このような精度をもつ判定方法は他に類をみないと思われる。
【0141】
実施例8:精神疾患間(統合失調症とうつ病)の判別
健常者と患者との判別ができたとしても、異なった病態を持つ疾患に対する血中サイトカイン反応の相違を弁別できないと十分ではないと考え、精神疾患間の判別を試みた。本実験のために、あらたに被験者を募った。協力の同意を得たうつ病患者100名と統合失調症病患者100名の血液を実施例1に記載の方法で分析し、その結果得られた血中LIF濃度とSCGF-β濃度とを独立変数として、うつ病患者と統合失調症とを分類するためのロジスティック回帰分析および非線形判別分析を行った。結果(判別表)を表8に示す。
【0142】
【表8】

【0143】
表8に示すとおり、100%の正診率で判別可能である。本実験に参加したボランティアは、年齢、身長、体重を調整していない。このような性能を持つ、血液をベースにしたマーカー及び判定方法はこれまでに報告されておらず、このような判定方法、精度は他に類をみないと思われる。
【0144】
実施例9:夜勤を行ったか行わなかったかの判別
協力の同意を得た一般の労働者120名を対象に、夜勤明けの朝および休日の同時刻に血液を採取し、実施例1に記載の方法で分析した。その結果得られた21種の因子の濃度すべてを独立変数として、夜勤を行ったか行わなかったかを分類するためのロジスティック回帰分析および非線形判別分析を行った。結果(判別表)を表9に示す。
【0145】
【表9】

【0146】
表9に示すとおり、100%の正診率で判別可能である。本実験に参加したボランティアは、基礎疾患の有無を問わず、また、年齢、身長、体重を調整していない。すなわち、それらの要因にかかわらず上記の感度、特異度が得られることが示された。このような性能を持つ血液をベースにしたマーカー及び判定方法はこれまでに報告されておらず、このような精度をもつ判定方法は他に類をみないと思われる。
【0147】
実施例10:精神疾患(うつ病)の判別
協力の同意を得たうつ病患者200名と、同様に同意を得た健常者400名の血液を実施例1記載の方法で分析した。具体的には、全21種の因子の血中濃度を測定し、うつ病群における各因子の濃度相関関係が、健常者群とは異なった比例関係を呈していることを、ロジスティック回帰分析で確認した。全因子の濃度を独立変数として、それぞれの分子に係数を設定し、うつ病患者の各分子血中濃度から1、健常者の各分子血中濃度からは0と算出する数式を作成し、弁別のための数理的モデルを構築した。数式での計算の結果を図1に示す。図中、横軸は血中分子濃度による数式の得点を表し、縦軸は得点域に分布する症例数を表す。すなわち、両群が離れているほど、数理モデルが両者を有効に分離していることを意味する。実施例10の実施方法は、実施例1−9と実施原理において異なるところはないが、本発明による弁別の精度および頑健性を視覚的に示すために、図を示した。
【0148】
図1に示すとおり、両群に重なりはなく、100%の正診率で弁別可能である。本実験に参加したボランティアは、年齢、身長、体重を調整していない。すなわち、それらの要因にかかわらず上記の感度、特異度が得られることが示された。このような性能を持つ血液をベースにしたマーカー及び判定方法はこれまでに報告されていない。
【0149】
実施例11:精神疾患(統合失調症)の判別
協力の同意を得た統合失調症患者200名と、同様に同意を得た健常者400名の血液を実施例1に記載の方法で分析した。具体的には、全21種の因子の血中濃度を測定し、統合失調症群における各因子の濃度相関関係が、健常者群とは異なった比例関係を呈していることを、ロジスティック回帰分析で確認した。全因子の濃度を独立変数として、それぞれの分子に係数を設定し、統合失調症患者の各分子血中濃度から1、健常者の各分子血中濃度からは0と算出する数式を作成し、弁別のための数理的モデルを構築した。数式での計算の結果を図2に示す。図中、横軸は血中分子濃度による数式の得点を表し、縦軸は得点域に分布する症例数を表す。すなわち、両群が離れているほど、数理モデルが両者を有効に分離していることを意味する。実施例11の実施方法は、実施例1−9と実施原理において異なるところはないが、本発明による弁別の精度および頑健性を視覚的に示すために、図を示した。
【0150】
図2に示すとおり、両群に重なりはなく、100%の正診率で弁別可能である。本実験に参加したボランティアは、年齢、身長、体重を調整していない。すなわち、それらの要因にかかわらず上記の感度、特異度が得られることが示された。このような性能を持つ血液をベースにしたマーカー及び判定方法はこれまでに報告されていない。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明によれば、一過性の生体反応の状態では、外界から受ける負荷の強弱の評価または負荷の効果の予測が可能である。具体的には、外的負荷による疲労・回復の評価から、各個人の疲れやすさや回復力を評価することができる。また、ある要因が各個人に対して疲れやすさや回復力に与える影響の度合いを評価することができる。このことから、本発明を労働衛生の分野に活用すれば、労働災害の予防につながる。さらには、ストレスを低減できる医薬品、食品、生活関連用品、意匠、映像、音響、建築、住環境などの開発にも貢献することができる。
【0152】
本発明によれば、生体の恒常的な病態では、病状の評価および潜在する病態の把握さらには自覚症状として顕在化する前の疾患の発見が可能であることから、病態の早期発見および早期治療、治療効果の評価、治療法の有効または無効の判定、数多くの病態(具体的には、例えば、紫外線などによる皮膚障害、アトピー性皮膚炎、乾癬、尋常性挫創、天疱瘡、魚鱗癬、光線過敏症、皮膚における炎症性変化を病態に含む熱傷、放射線皮膚障害;アルツハイマー病、アルツハイマー型老年痴呆、びまん性レビー小体病、ピック病、ビンスワンガー病、パーキンソン氏病、パーキンソン症候群、脳虚血、脳虚血・再還流性障害、一酸化炭素中毒、シンナー中毒、新生児出血性脳症、低酸素脳症、高血圧性脳症、てんかん、多発性硬化症、HIV脳症、脳循環障害、脳血管障害、日周リズム異常、食欲異常、アジソン病や末端肥大症や性腺発達障害などの下垂体機能異常症、甲状腺機能異常症、肥満、血糖制御異常、原発性アルドステロン症、クッシング病などの副腎機能異常症、骨形成の異常;炎症性疾患、自己免疫性疾患、生体防御系の調節異常;関節リウマチや痛風や関節炎などの関節の炎症を病態の中核とする疾患;腎不全、体液調節の異常、カリウム・ナトリウム・塩素イオンのバランスの崩壊、浮腫、糖尿病などの耐糖能障害、るいそう、痙攣、心不全、肺水腫、低蛋白血症、出血傾向、腎尿細管上皮細胞の脱落、炎症を病態の中核とする疾患;月経異常、子宮内膜症、性欲低下などの下垂体機能異常に起因する疾患など)を一元的に把握管理可能であり、病態の治療のみならず、予防医学の効率化にも貢献することができる。さらに、本発明によれば、薬剤または食品開発における治験群の選定も容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、RAGE、VCAM-1、IL-1α、IFN-α2、TNF-β、S100、およびIL−18BPをそれぞれ特異的に認識する分子からなる群より選ばれる少なくとも2種の分子を含有してなる、精神的疲労、ストレス、うつ、抑うつ状態、気分障害、統合失調症、強迫性障害、パニック障害、不安障害、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、過緊張、労働もしくは学習に対する不適応、希死念慮、人格障害、アルコール性精神病、不眠、日周リズム障害、精神神経症、認知症、中枢神経性変性疾患および自殺企図からなる群より選ばれる精神障害の強度、または
精神的疲労、肉体的疲労、ストレス、抑うつ気分、快適気分、不快気分、気分変調、強迫性、パニック、不安、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、緊張、労働強度、学習強度、うつ、統合失調症、うつに類似した精神状態、統合失調症に類似した精神状態および自殺の危険度からなる群より選ばれる精神状態の検査薬。
【請求項2】
前記分子が抗体である請求項1に記載の検査薬。
【請求項3】
請求項1または2に記載の検査薬を用いて生体試料中の因子の量を測定する工程、ならびに
前記測定工程で得られた量を加重配分して下記指標剤と比較する工程、ここで、指標剤は、IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、RAGE、VCAM-1、IL-1α、IFN-α2、TNF-β、S100、およびIL−18BPからなる群より選ばれる少なくとも2種の因子に加重配分してなる指標剤であって、
精神的疲労、ストレス、うつ、抑うつ状態、気分障害、統合失調症、強迫性障害、パニック障害、不安障害、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、過緊張、労働もしくは学習に対する不適応、希死念慮、人格障害、アルコール性精神病、不眠、日周リズム障害、精神神経症、認知症、中枢神経性変性疾患および自殺企図からなる群より選ばれる精神障害の強度、または、
精神的疲労、肉体的疲労、ストレス、抑うつ気分、快適気分、不快気分、気分変調、強迫性、パニック、不安、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、緊張、労働強度、学習強度、うつ、統合失調症、うつに類似した精神状態、統合失調症に類似した精神状態および自殺の危険度からなる群より選ばれる精神状態
を評価するための指標剤である、
を含む、精神的疲労、ストレス、うつ、抑うつ状態、気分障害、統合失調症、強迫性障害、パニック障害、不安障害、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、過緊張、労働もしくは学習に対する不適応、希死念慮、人格障害、アルコール性精神病、不眠、日周リズム障害、精神神経症、認知症、中枢神経性変性疾患および自殺企図からなる群より選ばれる精神障害の強度、または、
精神的疲労、肉体的疲労、ストレス、抑うつ気分、快適気分、不快気分、気分変調、強迫性、パニック、不安、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、緊張、労働強度、学習強度、うつ、統合失調症、うつに類似した精神状態、統合失調症に類似した精神状態および自殺の危険度からなる群より選ばれる精神状態の測定方法。
【請求項4】
前記生体試料が血漿、血清、唾液または尿である、請求項3に記載の測定方法。
【請求項5】
IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、RAGE、VCAM-1、IL-1α、IFN-α2、TNF-β、S100、およびIL−18BPをそれぞれ特異的に認識する分子からなる群より選ばれる少なくとも2種の分子を別々の区画に格納してなる検査キットであって、
精神的疲労、ストレス、うつ、抑うつ状態、気分障害、統合失調症、強迫性障害、パニック障害、不安障害、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、過緊張、労働もしくは学習に対する不適応、希死念慮、人格障害、アルコール性精神病、不眠、日周リズム障害、精神神経症、認知症、中枢神経性変性疾患および自殺企図からなる群より選ばれる精神障害の強度、または、
精神的疲労、肉体的疲労、ストレス、抑うつ気分、快適気分、不快気分、気分変調、強迫性、パニック、不安、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、緊張、労働強度、学習強度、うつ、統合失調症、うつに類似した精神状態、統合失調症に類似した精神状態および自殺の危険度からなる群より選ばれる精神状態の検査キット。
【請求項6】
前記分子が抗体である請求項5に記載の検査キット。
【請求項7】
IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、RAGE、VCAM-1、IL-1α、IFN-α2、TNF-β、S100、およびIL−18BPをそれぞれ特異的に認識する分子からなる群より選ばれる少なくとも2種の分子を含有してなる、疲労またはストレスの検査薬。
【請求項8】
前記分子が抗体である請求項7に記載の検査薬。
【請求項9】
請求項8に記載の検査薬を用いて、生体試料中の因子の量を測定する工程を含む、疲労またはストレスの測定方法。
【請求項10】
前記生体試料が血漿、血清、唾液または尿である、請求項9に記載の測定方法。
【請求項11】
IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、RAGE、VCAM-1、IL-1α、IFN-α2、TNF-β、S100、およびIL−18BPからなる群より選ばれる少なくとも2種の因子に加重配分してなる指標剤であって、
精神的疲労、ストレス、うつ、抑うつ状態、気分障害、統合失調症、強迫性障害、パニック障害、不安障害、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、過緊張、労働もしくは学習に対する不適応、希死念慮、人格障害、アルコール性精神病、不眠、日周リズム障害、精神神経症、認知症、中枢神経性変性疾患および自殺企図からなる群より選ばれる精神障害の強度、または、
精神的疲労、肉体的疲労、ストレス、抑うつ気分、快適気分、不快気分、気分変調、強迫性、パニック、不安、恐怖症、対人恐怖、社会恐怖、緊張、労働強度、学習強度、うつ、統合失調症、うつに類似した精神状態、統合失調症に類似した精神状態および自殺の危険度からなる群より選ばれる精神状態を評価するための指標剤。
【請求項12】
IL-2ra、IL-16、CTACK、GRO-α、ICAM-1、LIF、MCP-3、M-CSF、MIF、MIG、β-NGF、SCF、SCGF-β、SDF1a、RAGE、VCAM-1、IL-1α、IFN-α2、TNF-β、S100、およびIL−18BPからなる群より選ばれる少なくとも2種の因子を含有してなる、疲労またはストレスの指標剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−101152(P2013−101152A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−35085(P2013−35085)
【出願日】平成25年2月25日(2013.2.25)
【分割の表示】特願2009−101338(P2009−101338)の分割
【原出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(304026386)