説明

生分解性プラスチック製土のう袋、同土のう袋を用いた土のう及び同土のうによる埋立方法

【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】本発明は埋立地盤の築造に関し、特に生分解性プラスチック製の土のう袋及びこれを使用して作った土のうを用いて埋立てを行う埋立方法に関する。
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来、海岸や河川岸側に礫、土砂、土のう、あるいはテトラポットのごときコンクリート成形体を湖沼、河川、海岸等の水中に投入・堆積して埋立による地盤拡張あるいは護岸を図ることが行われている。すなわち埋立方法としては以下のごとき方法があるが、それぞれには以下のごとき幾つかの問題点があった。■、砂質材料を排砂管を使用して運搬しそのまま撒き出す方法:該方法により築造された地盤は強度が低く、地盤の利用には地盤改良が必須である。■、泥水モルタルなどのようにセメントと土とを混合してスラリー化し、水底から打設しながら埋立てる方法:該方法は打設に労力と費用がかかる。■、砂質材料にセメントを加湿状態で添加し、水面上から撒き出す方法:該方法により築造された地盤は強度が不均一であり、埋立材料が高価である。■、袋材に低強度のモルタル材を詰めてこれを水中に投入して埋立てる方法(実績はあまり多くない):該方法は地盤中にプラスチックが残留するため、土地を利用する際の地下工亊等に支障を生じる。袋材に水溶性材料を使用する方法も考えられるが、海上工亊では常に水が被るため、使用は難しい。
【課題を解決するための手段】本発明者は上記課題を解決すべく種々検討し、特に上記■の方法に付き検討をした結果、同方法の問題点を解決する発明をなした。すなわち本発明は、生分解性プラスチックを用いて製作してなることを特徴とする土のう袋を提供すること、同袋に土、砂、硬化性地盤材料等の充填物を詰め入れてなる土のうを提供すること、及び同袋を用いて製作された土のうを使用して埋立てを行う埋立方法を提供するものである。上記本発明においては、生分解性プラスチックとして、微生物生産のポリエステルプラスチックを用いることが好ましいが、その他の生分解性プラスチック、例えば澱粉混入ポリエチレン、脂肪酸ポリエステル混入ポリエチレン等の生物崩壊性プラスチック等であってもよい。生分解性プラスチックはコストが高いという欠点はあるものの、強度は通常のプラスチックシートと遜色がなく、数週間で地盤中に存在している細菌(例えば、Alcaligenes faecalis T:該菌は菌体外に、微生物生産ポリエステルを分解する酵素であるP(3HB)デポリメラーゼを分泌する。)によって分解するといった特長がある。生分解性プラスチックには、例えば微生物の作るポリエステルがあり、これは水素細菌、らん藻、窒素固定菌、枯草菌、土壌菌などに、吉草酸(C4COOH)と酪酸(C3COOH)、あるいは4−ヒドロキシ酪酸(CHOHC4COOH)と酪酸との組み合わせからなる餌料物質を与えて、発酵合成することにより得られるものであり、このポリエステルは酵素分解性と加水分解性の特性を有する。該ポリエステルの構造は、例えば水素細菌にプロピオン酸を与える発酵法(ICI社法(イギリス国))によると、下記構造式(化1)の3−ヒドロキシブチレート(3HB)と3−ヒドロキシバリレート(3HV)とのユニットからなるランダム共重合ポリエステル:P(3HB−co−3HV)であるとされる。
【化1】


このポリエステルは、例えば厚さ70μmのフィルムが20〜25℃で、約6週間で分解されるといわれる。その他、澱粉を混入したポリエチレン等の生物崩壊性プラスチックも土中において、澱粉部分が微生物により分解される結果、袋がその強度を全く保持できなくなって残存しなくなり、本発明埋立方法の効果が達成される。本発明では、この生分解性プラスチックを使用して袋材を製造し、中に充填物を詰めて水中に沈める。充填物としては、土、砂のほか、これらにセメントを混合した混合土、モルタル等の硬化性地盤材料を採用することが好ましい。埋立地盤の強度を合理的に増加させるには、埋立後に強度発現が見込める材料を使用すべきであるが、土にセメントなどの硬化材を混合したもの、泥水にセメントを混合したもの(泥水モルタル)等が硬化性地盤材料となる。上記のようにこうした混合土をスラリー状として打設したり、粉状で直接投入すると水と混合するのを防ぐことが難しいため、本発明の土のう袋体を使用する方法は、それを防止できる点においても好ましい。なお、この袋中に詰める材料には生分解プラスチックを分解する細菌(例えば、上記Alcaligenes faecalis T)を混合しておくことも好ましく、その結果埋立後、より速い速度で袋材は分解する。
【 作 用 】生分解性プラスチック製土のう袋は、堆積された土のうが月日が経つにつれ、その袋が土中の微生物によって分解される結果、土のう充填物と異質のプラスチック袋が消失する。よって、その後該埋立充填物が一体化し、また表面が露出して自然状態が回復され、さらにその後該埋立部を工亊するときに支障が生じない。
【 実 施 例 】次に本発明の実施例を図面を参照して説明する。
実施例1:図1に示す生分解性プラスチック繊維製布で作成した長尺の筒状袋1、あるいは図2に示すごとき上部に絞め紐2を有する普通形状の袋1’を、微生物生産ポリエステルで作成した。長尺袋は直径1m、長さ20mのサイズのものを作成した。また、普通形状の袋は縦50cm、横50cmのサイズのものを作成した。これら袋の強度は通常のプラスチック袋と同等かそれより高いものであり、充填物の泥水セメント物などの硬化性地盤材料を詰め込んでも取扱時に破損したりする問題はなかった。
実施例2:図3に示すごとく、前記実施例1の長尺袋1aを河川の水中4の水底岩盤6近くから上方の川岸5にかけて敷設する。次いで、川岸5の地上部から、圧送ポンプPを用いて硬化性地盤材料3(泥水セメント混合物)を注入管7を介して奥部から供給し、注入管7を引き上げながら順に上方までに充填した。こうした硬化性地盤材料3の充填された長尺袋1aを多数並列に敷設して川岸の埋立護岸を完成した。敷設後数カ月で長尺袋1aは微生物による分解を受けていた。
実施例3:図4に図示するごとく、海洋の水中4の海底地盤6へ実施例1で作成した袋1bに硬化性地盤材料3を詰め込んだ土のう1b’を投入・堆積して消波離岸堤を築造した。敷設後、数カ月で袋1bは分解していた。
【発明の効果】本発明の生分解性プラスチックでできた土のう袋中に充填物、例えば泥水モルタル等の硬化性地盤材料を詰め、この土のうを海岸、湖沼等の水中に投入・堆積させて埋立地盤を築造すれば、袋はやがて土中の微生物により分解される結果、土のう充填物とは異質のプラスチック袋が消失し、よって、その後該埋立充填物が一体化し、また表面が露出して自然状態が回復され、さらにその後該埋立部を工亊するときに支障が生じない。生分解性プラスチックは微生物分解後は、通常、水と炭酸ガスになるが、いずれも容易に中詰材に吸収されるため公害問題等は生じない。
【図面の簡単な説明】
【図1】生分解性プラスチック繊維製布で作成した長尺の筒状袋1aの斜視図。
【図2】上部に絞め紐2を有する普通形状の生分解性プラスチック製袋1bの斜視図。
【図3】長尺袋1aを河川の水中4の水底岩盤6近くから上方の川岸5にかけて敷設し、充填物を詰め込む状態を示す説明図。
【図4】海洋の水中4の海底地盤6へ袋1bに硬化性地盤材料3を詰め込んだ土のう1b’を投入・堆積して消波離岸堤を築造する側面説明図。
【符号の説明】
1a:生分解性プラスチック製長尺袋,
1b:,生分解性プラスチック製普通形状袋,
1b’:土のう,
2:絞め紐,3:硬化性地盤材料,4:水中,5:川岸,
6:地盤,7:注入管,8:圧送ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 生分解性プラスチックを用いて製作してなることを特徴とする土のう袋。
【請求項2】 生分解性プラスチックが、微生物生産のポリエステルプラスチックであることを特徴とする請求項1記載の土のう袋。
【請求項3】 生分解性プラスチックが、澱粉混入ポリエチレン、脂肪酸ポリエステル混入ポリエチレン等の生物崩壊性プラスチックであることを特徴とする請求項1記載の土のう袋。
【請求項4】 上記請求項1ないし3のいずれかに記載の土のう袋に土、砂、硬化性地盤材料等の充填物を詰め入れてなることを特徴とする土のう。
【請求項5】 充填物に生分解性微生物を混入させてなることを特徴とする請求項4記載の土のう。
【請求項6】 生分解性プラスチックを用いて製作された土のう袋に充填物を詰めて土のうを製造し、この土のうを水中等に投入・堆積して埋立てることを特徴とする埋立方法。
【請求項7】 充填物が、硬化性地盤材料であることを特徴とする請求項6記載の埋立方法。
【請求項8】 充填物に生分解性プラスチックを分解する微生物を混入させておくことを特徴とする請求項6又は7に記載の埋立方法。
【請求項9】生分解性プラスチックが、請求項1ないし3のいずれかに記載のものであることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の埋立方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【特許番号】第2808192号
【登録日】平成10年(1998)7月31日
【発行日】平成10年(1998)10月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−25347
【出願日】平成3年(1991)1月25日
【公開番号】特開平4−297607
【公開日】平成4年(1992)10月21日
【審査請求日】平成9年(1997)10月8日
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【参考文献】
【文献】特開 昭59−38407(JP,A)
【文献】特開 平4−221123(JP,A)
【文献】特開 平2−298525(JP,A)