説明

生化学反応カセット

【課題】反応チャンバー内でのハイブリダイゼーション反応を効率良く行ない、かつ、蒸発も抑制できる生化学反応カセットを提供すること。
【解決手段】標的物質検出用のプローブの固定領域3を有し、該固定領域に資料を反応させるための反応チャンバー13と、外部とを連通させる第1の流路11および第2の流路12とを有する生化学反応カセット1に、第1の流路を密閉することが可能である密閉部と、反応チャンバー内の圧力を略一定に保つ圧力緩和手段とを備える標的物質検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等の検体中の病原菌等に由来する遺伝子の有無に関する検査を行って、検査対象者の健康状態の判定材料とする場合に好適に利用できるDNAマイクロアレイなどのプローブ担体を備える生化学反応カセットに関する。さらに詳しくは、反応チャンバー内の蒸発を抑制するための生化学反応カセットの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核酸の塩基配列の解析、核酸試料中の標的核酸の検出を迅速・正確に行なう方法として、DNAマイクロアレイに代表されるプローブ担体を用いたハイブリダイゼーション反応を利用した方法が多く提案されている。DNAマイクロアレイとは、標的核酸と相補的な塩基配列を有するプローブを、ビーズ、ガラス板等の固相上に高密度で固定したものであり、これを用いた標的核酸の検出は一般に以下のような工程を有する。
【0003】
第1の工程として、PCR法に代表される増幅方法によって標的核酸を増幅する。具体的には、まず、核酸試料溶液に第1および第2のプライマーを加え、温度サイクルをかける。第1のプライマーは標的核酸の一部と特異的に結合し、第2のプライマーは標的核酸と相補的な核酸の一部と特異的に結合する。標的核酸を含む二本鎖核酸と第1および第2のプライマーが結合すると、伸長反応によって標的核酸を含む二本鎖核酸が増幅される。十分に標的核酸を含む二本鎖核酸が増幅された後に、核酸試料溶液に第3のプライマーを加えて温度サイクルをかける。第3のプライマーは、酵素、蛍光物質、発光物質等で標識されており、標的核酸と相補的な核酸の一部と特異的に結合する。標的核酸に相補的な核酸と第3のプライマーが結合すると、伸長反応によって酵素、蛍光物質、発光物質等で標識された標的核酸が増幅されるのである。結果として、核酸試料溶液に標的核酸が含まれている場合は標識された標的核酸が生成され、核酸試料溶液に標的核酸が含まれない場合は標識された標的核酸は生成されない。
【0004】
第2の工程として、この核酸試料溶液をDNAマイクロアレイに接触させ、DNAマイクロアレイのプローブとハイブリダイゼーション反応させる。プローブと相補的な標的核酸がある場合は、プローブと標的核酸がハイブリッド体を形成する。
【0005】
第3の工程として、標的核酸の検出を行なう。プローブと標的核酸がハイブリッド体を形成しているか否かは、標的核酸の標識物質によって検出が可能であり、これにより特定の塩基配列の有無を確認できる。
【0006】
このハイブリダイゼーション反応を利用したDNAマイクロアレイは、病原菌を特定する医療診断や患者の体質等を検査する遺伝子診断への応用が期待されている。しかしながら、核酸の増幅・ハイブリダイゼーション・検出の各工程は、それぞれ個別の装置で行なわれている事が多く、作業が煩雑であり、診断にかなりの時間を要する。特に、スライドグラス上でハイブリダイゼーション反応を行なう構成では、プローブ固定面が露出しているため、スライドグラス上に指などが触れることでプローブが欠落・汚染する可能性がある。したがって、その取り扱いは慎重に行なう必要がある。また、ハイブリダイゼーション反応を進行させる時、核酸試料溶液の温度を上昇させる。この時の温度は標的核酸の種類・長さによって異なるが、多くの場合は50〜70℃に設定される。これによって核酸試料溶液が蒸発し、標的核酸の濃度が変化して検出結果に影響を与えたり、核酸試料溶液とプローブが接触しない領域ができたりしてハイブリダイゼーション反応を阻害する可能性がある。これらを解決するために、反応チャンバー内にDNAマイクロアレイを備え、反応チャンバー内でハイブリダイゼーション反応を行ない、蒸発を抑制する生化学反応カセットの構造がいくつか提案されている。
【0007】
特許文献1では、サンプル塔によって液体の蒸発を抑制する構成が開示されている。また、特許文献2では、細い流路で構成され、かつ、流路から分岐された表面が疎水性であるエア抜き路を備えた構成が開示されている。
【特許文献1】特登録2759071号公報
【特許文献2】特開2002−102681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ハイブリダイゼーション反応には数十分から数時間必要である。また、生化学反応カセットが保持している核酸試料溶液は微量である。よって、蒸発による核酸試料溶液の減少率は大きくなりやすい。
【0009】
特許文献1では、サンプル塔を高くするに従って蒸発量が減少しているが、サンプル塔内部と外部とを完全に遮蔽する構成ではない。また、特許文献2の構成のように、表面が疎水性のエア抜き路であっても、エア抜き路からの水蒸気の流出は防ぐことはできない。
【0010】
蒸発を防止するのみであれば、カセットの注入口や連通孔に蓋をして水蒸気が外部に漏れないようにすることができる。しかし、生化学反応カセットでは、ハイブリダイゼーション反応を促進するために、プローブ面上で核酸試料溶液を揺動させる必要がある。この揺動を行なわないと、ハイブリダイゼーション反応の進行が遅かったり、斑ができたりしてしまう。注入口や連通孔を蓋で塞いでしまうと、カセット内部の液体を動かすための空気を供給できなくなってしまう。
【0011】
本発明の目的は、反応チャンバー内でのハイブリダイゼーション反応を効率良く行ない、かつ、蒸発も抑制できる生化学反応カセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の生化学反応カセットは、標的物質検出用のプローブの固定領域を有し、該プローブ固定領域に試料を反応させるための反応チャンバーと、該反応チャンバーと外部とを連通させる第1の流路および第2の流路とを有し、
前記第1の流路を密閉する密閉部と、前記反応チャンバー内の圧力を略一定に保つ圧力緩和手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、反応チャンバー内でハイブリダイゼーション反応をさせる際に、密閉部を密閉することで反応チャンバーからの試料の蒸発を防止し、試料の減少・濃度の変化を抑制することができる。この時、ハイブリダイゼーション反応の効率を向上させるために試料の攪拌を行なうが、反応チャンバー内の圧力を略一定に保つ圧力緩和手段の効果により試料の流れを阻害することがない。したがって、迅速・正確に行うことができる標的物質検出用の生化学反応カセット、さらに標的物質検出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明にかかる生化学反応カセットは、標的物質検出用のプローブ固定領域に試料を反応させるための反応チャンバーと、そのチャンバーと外部とを連通させる第1および第2の流路とを設けた構成をなす。第1の流路を密閉する密閉部と、反応チャンバー内の圧力を略一定に保つ圧力緩和手段とを備えることにより、試料の蒸発の防止と試料の撹拌が可能となる。圧力緩和手段は第1の流路に連結することができ、これにより、試料の蒸発を防止するために密閉部を密閉しても、カセット内部の圧力を大気圧と略一定になるように維持しながら、試料の撹拌を行うことができる。
【0015】
本発明の標的物質として、核酸、ペプチド、タンパク質などを挙げることができる。
【0016】
密閉部は、回動式、スライド式の蓋などを用いる密閉手段により第1の流路を密閉することが可能である。本発明の生化学反応カセットが上記密閉手段を具備することができる一方、上記生化学反応カセットの密閉部を密閉することが可能であれば、標的物質検出装置のいずれにも設置することができる。
【0017】
反応チャンバー内の圧力を略一定に保つことができる圧力緩和手段は、第1の流路に連通したバッファー室とそのバッファー室に備えられた可撓性部材とを備える。可撓性部材は、ウレタンゴム、シリコンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴムなどを用いることができる。さらに、圧力緩和手段は、第1の流路に連通した連通孔と、その連通孔に備えられたプラグとからなる構成をなす。このプラグは連通孔内を移動可能であり、それにより圧力緩和となる。
【0018】
本発明に係る標的物質検出装置は、上記生化学反応カセットを配置し、さらに液体注入手段と、圧力調整手段と、密閉手段とを備える構成を有する。液体注入手段で反応チャンバーに注入する工程、密閉手段で密閉部を密閉する工程、圧力調整手段によって反応チャンバーの試料を移動する工程を含む。試料の移動により生じる反応チャンバー内の圧力の変化を圧力緩和手段によって緩和することにより、標的物質を検出することが可能となる装置である。
【0019】
液体注入手段として、ピペットチップ、キューブ、キャピラリーなどを挙げることができる。なお、液体を移動させる手段には、ピペッター、シリンジポンプ、ダイアフラムポンプなどがある。
【0020】
密閉手段として、密閉部を塞ぐキャップを挙げることができる。このキャップは、ウレタンゴム、シリコンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴムなどの可塑性部材や、これらの可塑性部材をプラスチック、ガラスなどと組み合わせた構成などを用いることができる。
【0021】
圧力調整手段と液体注入手段とを兼用することができる。具体的には、液体注入手段であるピペットチップをカセットの流路に当設させ、ピペッターの動きによってカセット内部の圧力を調整する。これにより装置の小型化の効果がある。
【実施例】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明にかかる実施例について説明する。
【0023】
(実施例1)
図1は本発明の第1の実施例に係る生化学反応カセットの構造を示す平面図および断面図である。図1(a)が上面図、図1(b)が図1(a)におけるb−b断面の断面図、図1(c)が図1(a)におけるc−c断面の断面図、図1(d)が底面図である。
【0024】
まずカセットの構造について説明する。カセット1は、ガラス基板2と材質がポリカーボネードである筐体10とが接合された構成をなす。なお、ガラス基板に対する筺体の接合形態は図示した例に限定されず、種々の形態を採り得る。また、筐体10の材質はポリカーボネードに限定されるものではなく、ポリカーボネード以外のプラスチック、ガラス、ゴム、シリコンおよびこれらの少なくとも2種からなる複合材料等でも良い。ガラス基板2と筐体10の接合面において、筐体10に所定の断面形状の窪みが設けられており、ガラス基板2と筐体10との間に反応チャンバー13が形成される。これにより、反応チャンバー13の底面はガラス基板2の表面の一部から構成されるようになる。反応チャンバー13に充填された核酸試料溶液に標的核酸が含まれている場合、ガラス基板2の表面の一部に設けられたプローブ固定領域3のプローブと標的核酸とが反応する。標的核酸とプローブの組み合わせは、これらの両方がDNAである場合など、検出目的に応じて選択できる。
【0025】
筐体10には流路11・12が設けられており、反応チャンバー13とカセット1外部の空間とを連結する。流路11・12の開口部には、テーパー部16・17がそれぞれ備えられている。また、筐体10には上部が開口したバッファー室15が設けられている。バッファー室15は流路11に連通孔14を介して連結しており、かつ、上部を可撓性部材31によって塞がれている。
【0026】
さらに、カセット1上部には密閉部材30が備えられており、流路11の上部を塞いでいる。密閉部材30を図示しない開閉手段によって回動させることで、流路11上部の開閉ができるようになっている。
【0027】
次に、カセット1を用いてプローブ固定領域3のプローブと標的核酸とをハイブリダイゼーション反応させる時の工程について、図2を用いて説明する。
【0028】
まず、核酸試料溶液を準備し、必要に応じて先に述べた方法により標的核酸の増幅を行なう。核酸試料溶液に標的核酸が存在する場合、増幅工程において蛍光物質で標識された標的核酸が生成される。ここでは標識物質として蛍光物質を挙げたが、発光物質や酵素等でも良い。図2(a)に示すように、核酸試料溶液100を液体注入手段40に吸引し、カセット1に注入する準備をする。そして、密閉部材30を図示しない開閉手段によって回動させ、流路11の上部を開放しておく。
【0029】
次に、図2(b)に示すように、液体注入手段40をカセット1のテーパー部16に挿し込み、反応チャンバー13に核酸試料溶液100を注入する。
【0030】
核酸試料溶液100を反応チャンバー13に充填したのち、図2(c)に示すように、液体注入手段40をテーパー部16から引き抜き、密閉部材30を図示しない開閉手段によって回動させ、流路11の上部を再び塞ぐ。この時、流路12側は液体駆動手段50で塞ぐ。
【0031】
以上の工程で、ハイブリダイゼーション反応を行なうための準備が終了する。以上の作業により、反応チャンバー13、流路11・12、連通孔14、バッファー室15の圧力は、カセット1外部の大気圧と等しい状態を保つことになる。
【0032】
次に、図示しない温度調整手段によって核酸試料溶液100を適切な温度に保持してハイブリダイゼーション反応を進行させる。この時、核酸試料溶液100の標的核酸がプローブ固定領域3上のプローブと接触する頻度を増加させるため、核酸試料溶液100を反応チャンバー13内で往復運動させて攪拌する。図2(d)に示すように、液体駆動手段50で流路12の空気をカセット1外部に排出することで、核酸試料溶液100は流路12側へ移動する。流路11上部は密閉部材30で塞がれている。よって、流路11と連通孔14で連結したバッファー室15の空気が流路11へ流れ、核酸試料溶液100が移動した量に相当する体積分だけ可撓性部材31が変形する。このとき、バッファー室15内の圧力は、可塑性部材31を介してカセット1外部の大気圧とつりあっている。つまり、図2(d)の時の反応チャンバー13、流路11・12、連通孔14、バッファー室15の圧力は、図2(c)の時の圧力を維持する。次に、液体駆動手段50で空気を流路12に導入させると、図2(c)の状態に戻る。つまり、液体駆動手段50で空気の排出・導入を繰り返すことで、反応チャンバー13内の核酸試料溶液100が攪拌される。この時、カセット1は液体駆動手段50を含めた状態で、核酸試料溶液100が移動し得る空間を密閉にしているため、液体が蒸発して水蒸気がカセット1外部に逃げることを防ぐことができる。
【0033】
以上説明したように、反応チャンバーを密閉にしながらも、反応チャンバー内で核酸試料溶液の攪拌を行なえるので、核酸試料溶液の蒸発による不具合を回避しつつ、ハイブリダイゼーション反応の効率を向上させることができる。
【0034】
(実施例2)
図3は本発明の第2の実施例に係る生化学反応カセットの構造を示す平面図および断面図である。図3(a)が上面図、図3(b)が図3(a)におけるb−b断面の断面図、図3(c)が図3(a)におけるc−c断面の断面図、図3(d)が底面図である。
【0035】
カセットの構造は、第1の実施例に記載したカセットの構造とほぼ共通であり、異なるのは、密閉部材30がカセット1に備えられていないことである。
【0036】
このカセット1を用いてプローブ固定領域3のプローブと標的核酸とをハイブリダイゼーション反応させる時の工程について、図4を用いて説明する。
【0037】
まず、核酸試料溶液を準備し、必要に応じて先に述べた方法により標的核酸の増幅を行なう。核酸試料溶液に標的核酸が存在する場合、増幅工程において蛍光物質で標識された標的核酸が生成される。ここでは標識物質として蛍光物質を挙げたが、発光物質や酵素等でも良い。図4(a)に示すように、核酸試料溶液100を液体注入手段40に吸引し、カセット1に注入する準備をする。
【0038】
次に、図4(b)に示すように、液体注入手段40をカセット1のテーパー部16に挿し込み、反応チャンバー13に核酸試料溶液100を注入する。
【0039】
核酸試料溶液100を反応チャンバー13に充填したのち、図4(c)に示すように、液体注入手段40をテーパー部16から引き抜く。そして、キャップ部材60で流路11の上部を塞ぎ、液体駆動手段50で流路12の上部を塞ぐ。
【0040】
以上の工程で、ハイブリダイゼーション反応を行なうための準備が終了する。以上の作業により、反応チャンバー13、流路11・12、連通孔14、バッファー室15の圧力は、カセット1外部の大気圧と等しい状態を保つことになる。
【0041】
次に、図示しない温度調整手段によって核酸試料溶液100を適切な温度に保持してハイブリダイゼーション反応を進行させる。この時、核酸試料溶液100の標的核酸がプローブ固定領域3上のプローブと接触する頻度を増加させるため、核酸試料溶液100を反応チャンバー13内で往復運動させて攪拌する。図4(d)に示すように、液体駆動手段50で流路12の空気をカセット1外部に排出することで、核酸試料溶液100は流路12側へ移動する。流路11上部はキャップ部材60で塞がれている。よって、流路11と連通孔14で連結したバッファー室15の空気が流路11へ流れ、核酸試料溶液100が移動した量に相当する体積分だけ可撓性部材31が変形する。この時、バッファー室15内の圧力は、可塑性部材31を介してカセット1外部の大気圧とつりあっている。つまり、図4(d)の時の反応チャンバー13、流路11・12、連通孔14、バッファー室15の圧力は、図4(c)の時の圧力を維持する。次に、液体駆動手段50で空気を流路12に導入させると、図4(c)の状態に戻る。つまり、液体駆動手段50で空気の排出・導入を繰り返すことで、反応チャンバー13内の核酸試料溶液100が攪拌される。この時、カセット1は液体駆動手段50・キャップ部材60を含めた状態で、核酸試料溶液100が移動し得る空間を密閉しているため、液体が蒸発して水蒸気がカセット1外部に逃げることを防ぐことができる。
【0042】
以上説明したように、反応チャンバーを密閉にしながらも、反応チャンバー内で核酸試料溶液の攪拌を行なえるので、核酸試料溶液の蒸発による不具合を回避しつつ、ハイブリダイゼーション反応の効率を向上させることができる。
【0043】
(実施例3)
図5は本発明の第3の実施例に係る生化学反応カセットの構造を示す平面図および断面図である。図5(a)が上面図、図5(b)が側面図、図5(c)が図5(a)におけるc−c断面の断面図、図5(d)が底面図である。
【0044】
カセットの構造は、第1の実施例に記載したカセットの構造と共通の部分が多く、異なる部分はバッファー室15がなく、連通孔14がカセット1外部に連結していることである。また、連通孔14内部にはプラグ32が移動可能に配置されている。さらに、密閉部材30の開閉方法は回動式ではなく、スライド式である。
【0045】
次に、カセット1を用いてプローブ固定領域3のプローブと標的核酸とをハイブリダイゼーション反応させる時の工程について、図6を用いて説明する。
【0046】
まず、核酸試料溶液を準備し、必要に応じて先に述べた方法により標的核酸の増幅を行なう。核酸試料溶液に標的核酸が存在する場合、増幅工程において蛍光物質で標識された標的核酸が生成される。ここでは標識物質として蛍光物質を挙げたが、発光物質や酵素等でも良い。図6(a)に示すように、核酸試料溶液100を液体注入手段40に吸引し、カセット1に注入する準備をする。そして、密閉部材30を図示しない開閉手段によってスライドさせ、流路11の上部を開放しておく。
【0047】
次に、図6(b)に示すように、液体注入手段40をカセット1のテーパー部16に挿し込み、反応チャンバー13に核酸試料溶液100を注入する。
【0048】
核酸試料溶液100を反応チャンバー13に充填したのち、図6(c)に示すように、液体注入手段40をテーパー部16から引き抜き、密閉部材30を図示しない開閉手段によってスライドさせ、流路11の上部を再び塞ぐ。この時、流路12側を液体駆動手段50で塞ぐようにする。
【0049】
以上の工程で、ハイブリダイゼーション反応を行なうための準備が終了する。以上の作業により、反応チャンバー13、流路11・12、連通孔14の圧力は、カセット1外部の大気圧と等しい状態を保つことになる。
【0050】
次に、図示しない温度調整手段によって核酸試料溶液100を適切な温度に保持してハイブリダイゼーション反応を進行させる。この時、核酸試料溶液100の標的核酸がプローブ固定領域3上のプローブと接触する頻度を増加させるため、核酸試料溶液100を反応チャンバー13内で往復運動させて攪拌する。図6(d)に示すように、液体駆動手段50で流路12の空気をカセット1外部に排出することで、核酸試料溶液100は流路12側へ移動する。流路11上部は密閉部材30で塞がれている。よって、連通孔14内の空気が流路11へ流れ、核酸試料溶液100が移動した量に相当する体積分、プラグ32が移動する。この時、連通孔14内の圧力は、プラグ32を介してカセット1外部の大気圧とつりあっている。つまり、図6(d)の時の反応チャンバー13、流路11・12、連通孔14の圧力は、図6(c)の時の圧力を維持する。次に、液体駆動手段50で空気を流路12に導入させると、図6(c)の状態に戻る。つまり、液体駆動手段50で空気の排出・導入を繰り返すことで、反応チャンバー13内の核酸試料溶液100が攪拌される。この時、カセット1は液体駆動手段50を含めた状態で、核酸試料溶液100が移動し得る空間は密閉になっているため、液体が蒸発して水蒸気がカセット1外部に逃げることを防ぐことができる。
【0051】
以上説明したように、反応チャンバーを密閉にしながらも、反応チャンバー内で核酸試料溶液の攪拌を行なえるので、核酸試料溶液の蒸発による不具合を回避しつつ、ハイブリダイゼーション反応の効率を向上させることができる。
【0052】
(実施例4)
図7は本発明の第4の実施例に係る生化学反応カセットの構造を示す平面図および断面図である。図7(a)が上面図、図7(b)が側面図、図7(c)が図7(a)におけるc−c断面の断面図、図7(d)が底面図である。
【0053】
カセットの構造は、第1の実施例に記載したカセットの構造とほぼ共通であり、異なるのは、連通孔14・バッファー室15・密閉部材30・可撓性部材31がカセット1に備えられていないことである。このカセット1を用いてプローブ固定領域3のプローブと標的核酸とをハイブリダイゼーション反応させる時の工程について、図8を用いて説明する。
【0054】
まず、核酸試料溶液を準備し、必要に応じて先に述べた方法により標的核酸の増幅を行なう。核酸試料溶液に標的核酸が存在する場合、増幅工程において蛍光物質で標識された標的核酸が生成される。ここでは標識物質として蛍光物質を挙げたが、発光物質や酵素等でも良い。図8(a)に示すように、核酸試料溶液100を液体注入手段40に吸引し、カセット1に注入する準備をする。
【0055】
次に、図8(b)に示すように、液体注入手段40をカセット1のテーパー部16に挿し込み、反応チャンバー13に核酸試料溶液100を注入する。
【0056】
核酸試料溶液100を反応チャンバー13に充填したのち、図8(c)に示すように、液体注入手段40をテーパー部16に挿したまま、可撓性部材33を備えたキャップ部材60で流路12の上部を塞ぐ。
【0057】
以上の工程で、ハイブリダイゼーション反応を行なうための準備が終了する。以上の作業により、反応チャンバー13、流路11・12、キャップ部材60内の圧力は、カセット1外部の大気圧と等しい状態を保つことになる。
【0058】
図示しない温度調整手段によって核酸試料溶液100の温度を適切な温度に保持してハイブリダイゼーション反応を進行させる。この時、核酸試料溶液100の標的核酸がプローブ固定領域3上のプローブと接触する頻度を増加させるため、核酸試料溶液100を反応チャンバー13内で往復運動させて攪拌する。図8(d)に示すように、液体注入手段40で流路11に空気を導入することで、核酸試料溶液100は流路12側へ移動する。流路12上部はキャップ部材60で塞がれているが、核酸試料溶液100が移動した量に相当する体積分だけ可撓性部材33が変形する。この時、キャップ部材60内の圧力は、可塑性部材33を介してカセット1外部の大気圧とつりあっている。つまり、図8(d)の時の反応チャンバー13、流路11・12、キャップ部材60内の圧力は、図8(c)の時の圧力を維持する。次に、液体注入手段40で空気を流路11から排出させると、図8(c)の状態に戻る。つまり、液体注入手段40で空気の導入・排出を繰り返すことで、反応チャンバー13内の核酸試料溶液100が攪拌される。この時、カセット1は液体注入手段40・キャップ部材60を含めた状態で、核酸試料溶液100が移動し得る空間を密閉にしているため、液体が蒸発して水蒸気がカセット1外部に逃げることを防ぐことができる。
【0059】
以上説明したように、反応チャンバーを密閉にしながらも、反応チャンバー内で核酸試料溶液の攪拌を行なえるので、核酸試料溶液の蒸発による不具合を回避しつつ、ハイブリダイゼーション反応の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施例に係る生化学反応カセットの構造を説明する平面図および断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る生化学反応カセットの動作を説明する断面図である。
【図3】本発明の第2の実施例に係る生化学反応カセットの構造を説明する平面図および断面図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る生化学反応カセットの動作を説明する断面図である。
【図5】本発明の第3の実施例に係る生化学反応カセットの構造を説明する平面図および断面図である。
【図6】本発明の第3の実施例に係る生化学反応カセットの動作を説明する断面図である。
【図7】本発明の第4の実施例に係る生化学反応カセットの構造を説明する平面図および断面図である。
【図8】本発明の第4の実施例に係る生化学反応カセットの動作を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 カセット
2 ガラス基板
3 プローブ固定領域
10 筐体
11・12 流路
13 反応チャンバー
14 連通孔
15 バッファー室
16・17 テーパー部
30 密閉部材
31・33 可撓性部材
32 プラグ
40 液体注入手段
50 液体駆動手段
60 キャップ部材
100 核酸試料溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質検出用のプローブの固定領域を有し、該プローブ固定領域に試料を反応させるための反応チャンバーと、該反応チャンバーと外部とを連通させる第1の流路および第2の流路と、を有する標的物質検出用の生化学反応カセットにおいて、
前記第1の流路を密閉する密閉部と、前記反応チャンバー内の圧力を略一定に保つ圧力緩和手段とを備えることを特徴とする生化学反応カセット。
【請求項2】
前記圧力緩和手段が前記第1の流路に連結していることを特徴とする請求項1に記載の生化学反応カセット。
【請求項3】
前記密閉部を密閉する密閉手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の生化学反応カセット。
【請求項4】
前記密閉手段は、回動式の蓋であることを特徴とする請求項3に記載の生化学反応カセット。
【請求項5】
前記密閉手段は、スライド式の蓋であることを特徴とする請求項3に記載の生化学反応カセット。
【請求項6】
前記圧力緩和手段は、前記第1の流路に連通したバッファー室と、該バッファー室に備えられた可撓性部材と、を備えることを特徴とする請求項1乃至5に記載の生化学反応カセット。
【請求項7】
前記圧力緩和手段は、前記第1の流路に連通した連通孔と、該連通孔に備えられたプラグとからなり、該プラグは該連通孔内を移動可能であることを特徴とする請求項1乃至5に記載の生化学反応カセット。
【請求項8】
標的物質検出用のプローブの固定領域を有し、該プローブ固定領域に試料を反応させるための反応チャンバーと、該反応チャンバーと外部とを連通させる第1の流路および第2の流路と、該第1の流路を密閉することが可能である密閉部と、前記反応チャンバー内の圧力を略一定に保つ圧力緩和手段と、を有する生化学反応カセットを配置し、液体注入手段と、圧力調整手段と、密閉手段と、を備える標的物質検出装置において、
前記液体注入手段で前記試料を前記反応チャンバーに注入する工程と、前記密閉手段で前記密閉部を密閉する工程と、前記圧力調整手段によって前記反応チャンバー内の前記試料を移動する工程とを含み、
前記試料の移動により生じる前記反応チャンバー内の圧力の変化を前記圧力緩和手段によって緩和することを特徴とする標的物質検出装置。
【請求項9】
前記密閉手段は、前記密閉部を密閉するキャップであることを特徴とする請求項8に記載の標的物質検出装置。
【請求項10】
標的物質検出用のプローブの固定領域を有し、該プローブ固定領域に試料を反応させるための反応チャンバーと、該反応チャンバーと外部とを連通させる第1の流路および第2の流路と、該第1の流路を密閉する密閉手段と、前記反応チャンバー内の圧力を略一定に保つ圧力緩和手段と、を有する生化学反応カセットを配置し、液体注入手段と、圧力調整手段と、開閉手段と、を備える標的物質検出装置において、
前記液体注入手段で前記試料を前記反応チャンバーに注入する工程と、前記開閉手段によって前記密閉手段を開閉する工程と、前記圧力調整手段によって前記反応チャンバー内の前記試料を移動する工程とを含み、
前記試料の移動により生じる前記反応チャンバー内の圧力の変化を前記圧力緩和手段によって緩和することを特徴とする標的物質検出装置。
【請求項11】
標的物質検出用のプローブの固定領域を有し、該プローブ固定領域に試料を反応させるための反応チャンバーと、該反応チャンバーと外部とを連通させる第1の流路および第2の流路と、該第1の流路を密閉することが可能である密閉部と、を有する生化学反応カセットを配置し、液体注入手段と、圧力調整手段と、前記反応チャンバー内の圧力を略一定に保つ圧力緩和手段を有する密閉手段と、を備える標的物質検出装置において、
前記液体注入手段で前記試料を前記反応チャンバーに注入する工程と、前記密閉手段で前記密閉部を密閉する工程と、前記圧力調整手段によって前記反応チャンバー内の前記試料を移動する工程とを含み、
前記試料の移動により生じる前記反応チャンバー内の圧力の変化を前記圧力緩和手段によって緩和することを特徴とする標的物質検出装置。
【請求項12】
前記圧力調整手段を前記液体注入手段と兼用することを特徴とする請求項8乃至11に記載の標的物質検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−82084(P2009−82084A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257669(P2007−257669)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】