説明

生態系に配慮された水路構造

【課題】 水量の少ない河川等の水路においても、湿潤状態を保って野性生物の生息環境を確保せしめる。
【解決手段】 水路2の底部に、その底部幅よりも小さい幅を有する小水路7を、U字溝3の連設により構築する。U字溝3の両側壁には、隔壁板11を落とし込むための嵌合溝10,10を設ける。そして、隔壁板11,11間に形成された空所19に石を充填し、その上面部の全体をネット部材26で押さえる。ネット部材26の縁部分を隔壁板11にボルト固定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、流量の少ない河川や用排水路においても、湿潤状態を保って野生生物の生息環境を確保せしめる、生態系に配慮された水路構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】流量の少ない河川や用排水路、取り分け、底面と両側面がコンクリートで被覆された三面張り水路にあっては、野生生物の生息を可能ならしめる湿潤状態の場所を確保し難く、環境保全の面から問題があった。
【0003】本発明は、かかる問題点に鑑みて開発されたものであり、水路の一部に湿潤状態を保つ場所を形成して、ここに野生生物の生息環境を形成せしめる、生態系に配慮された水路構造の提供を目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため本発明は以下の手段を採用する。即ち本発明に係る生態系に配慮された水路構造(以下水路構造という)は、水路の底部に、その底部幅よりも小さい幅を有し、且つ水路の長さ方向に長く、又、上端開放部が前記底部の上面と略面一である小水路が、U字溝を連通状態に埋設することにより形成されており、該U字溝の両側壁の内面部に対向して設けた上下方向に延びる嵌合溝に、両端部分が案内されて隔壁板が落とし込まれることにより、前記小水路が、その長さ方向に所要間隔をおいて隔壁板で仕切られ、隔壁板間に空所が形成されていることを特徴とするものである。
【0005】前記水路構造は、水路勾配を考慮して空所の長さ(隔壁板間の距離)を所要に調節できるようにする(水路勾配が大きい程、空所の長さを小さくして魚道機能を高める場合等)ため、隔壁板を落とし込むための対向する嵌合溝を、U字溝に、間隔をおいて複数対、設けるのがよい。
【0006】これらの水路構造において、隔壁板の下端面に設けた係合凹部を、U字溝の底面に突設された係合突部に嵌合状態とすると、隔壁板を、より安定して水路に固定できる。
【0007】又前記各水路構造は、小水路の、隣り合う隔壁板間の空所に玉石等の石を充填し、その石層の上面部の全体を、縁部分が水路の側壁の内面部又は隔壁板に固定されたネット部材で押さえるのがよい。このようにすると、石間に形成された空隙に泥や有機物を堆積させて、石層を、微生物や藻の良好な繁殖源となし得、野生生物にとっての生息環境を、より良好なものとなしうる。そして、石層の上面部を覆うネット部材は、水路が増水したときに、石が、隔壁板を乗り越えて流れる恐れを防止する。
【0008】このように、石層の上面部をネット部材で押さえる場合、ネット部材の縁部分を隔壁板の立面に沿って折曲すると共に、該折曲した入隅部分にアングル状の固定部材を当てがい、その際、該固定部材の基片をネット部材の上面に当接させ、且つその立片と隔壁板との間で前記ネット部材の縁部分を挟み、隔壁板を貫通し且つ前記立片に設けたボルト孔を挿通する固定ボルトの両端部分をなすネジ軸部に、ナットを螺合し緊締することにより、該隔壁板の両側の空所に張設されたネット部材の縁部分を同時に、隔壁板に固定状態とするのがよい。
【0009】前記各水路構造において、隔壁板の上辺をV字状に形成すると、小水路を水が流れる場合、隔壁板の中央部より溢流する趣のある流れ状態を形成できて好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1〜3において本発明に係る水路構造は、水路1の底部2の一部分に、U字溝3を連通状態に埋設することにより、上端開放部5が前記底部2の上面6と略面一である小水路7を、水路の長さ方向に沿って形成したものである。
【0011】前記U字溝3には、図2に示すように、その両側壁9,9の内面部に、上下方向に延びる嵌合溝10,10が対向状態で、U字溝の長さ方向に間隔をおいて複数対、設けられている。そして、嵌合溝10,10の所要のものに、隔壁板11の両端部分12,12を嵌合させて落とし込むことにより、小水路7が、その長さ方向に所要間隔で仕切られている。
【0012】なお本実施の形態において、落とし込まれた隔壁板11は、図4〜5に拡大して示すように、その下端面13に設けた係合凹部15が、U字溝の底面に突設された係合突部16と嵌合状態とされて、固定の安定性が向上されている。又、隔壁板の上辺17はV字状に形成されている。
【0013】そして、隣り合う隔壁板11,11間の空所19に石20を充填して石層21を形成すると共に、この石層21の上面部22の全体を、図4、図6に拡大して示すように、縁部分23が小水路7に固定されたネット部材26で押さえてなる。本実施の形態においては、ネット部材26の縁部分を隔壁板の立面に沿って折曲すると共に、該折曲した入隅部分にアングル状の固定部材27を当てがい、その際、該固定片の基片28をネット部材26の上面に当接させ、且つその立片29と隔壁板11との間で前記ネット部材の折曲部23aを挟み、隔壁板11を貫通し且つ前記立片29に設けたボルト孔31を挿通する固定ボルトの両端部分をなすネジ軸部32,32にナット33を螺合し緊締することにより、該隔壁板11の両側の空所に張設されたネット部材の縁部分23,23を同時に、隔壁板11に固定している。なお小水路7への縁部分23の固定は、前記と同様構成の固定片を用い、該縁部分23をU字溝3の側壁の内面部に螺着して行ってもよい。図3において符号34は、空所19における水面を示す。
【0014】又本発明に係る水路構造において、隔壁板を落とし込むための対向する嵌合溝10,10を、間隔をおいて複数対、設けることがある。図2においては、一点鎖線で示す場合を含めて3対、設けられている。又図7は、U字溝3の両端寄り部位の夫々、嵌合溝10,10を設けた場合を示す。図8は、図7に示す構成のU字溝3を用いて構築した小水路7を示すものであり、水路勾配が緩くて所要の水深を確保できることから、図2〜3に示した場合よりも隔壁板11,11間の間隔を大きく設定している。又前記各小水路において、隔壁板間の空所に石層が設けられないこともある。
【0015】
【発明の効果】本発明は以上のように構成しているため、以下の如き優れた効果を奏する。
■ 流量の少ない河川や用排水路にあっても、水路に湿潤状態を形成し、野生生物の生息環境を確保せしめ、生態系の保全に積極的に寄与できる。
【0016】■ 特に、隔壁板間の空所に石を充填したときは、石間に形成された空隙に泥や有機物が堆積して、石層が、微生物や藻の繁殖源となるために、これを栄養源として原生動物や水生昆虫、各種の水生動物が繁殖することが期待できる。このように、野生生物にとっての生息環境をより良好なものとなしうる利点がある。
【0017】■ 隔壁板の下端面に設けた係合凹部を、U字溝の底面に突設された係合突部に嵌合状態とする場合は、隔壁板を水路により安定的に固定できる。
【0018】■ 空所に石層を形成した場合、上面部の全体をネット部材で押さえる構成とすることにより、水路が増水したときにも、石が隔壁板を乗り越えて流れないように、石層を空所に固定できる。
【0019】■ 石層の上面部をネット部材で押さえる場合、ネット部材の縁部分を隔壁板の立面に沿って折曲すると共に、該折曲した縁部分をアングル状の固定部材で固定することとし、その際、隔壁板を貫通し且つ前記固定部材の立片のボルト孔を挿通する固定ボルトの両端部分をなすネジ軸部にナットを螺合し緊締することにより、該隔壁板の両側の空所に張設されたネット部材の縁部分を同時に、隔壁板に安定的に固定できることとなる。
【0020】■ 又、水路を構築するU字溝に、隔壁板の嵌合溝が複数対、設けられているときは、嵌合溝の選択により、隔壁板間の間隔を所要に設定できる。これにより、同一のU字溝を用いて、空所の長さを所要に調節でき、例えば勾配が大きい程、空所の長さを小さくして魚道機能を高めることができる。
【0021】■ 又、隔壁板の上辺をV字状に形成することにより、小水路を水が流れる場合、隔壁板の中央部より溢流する趣のある流れ状態を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の水路構造を説明する断面図である。
【図2】小水路を説明する斜視図である。
【図3】小水路を説明する断面図である。
【図4】石層の上面部を押さえるネット部材の固定状態を説明する断面図である。
【図5】隔壁板の底部分における固定状態を示す拡大断面図である。
【図6】隔壁板へのネット部材の固定状態を示す拡大断面図である。
【図7】U字溝の他の態様を説明する斜視図である。
【図8】そのU字溝を用いて構築した小水路を説明する平面図である。
【符号の説明】
1 水路
2 底部
3 U字溝
5 上端開放部
7 小水路
9 側壁
10 嵌合溝
11 隔壁板
15 嵌合凹部
16 嵌合突部
17 隔壁板の上辺
19 空所
20 石
21 石層
26 ネット部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水路の底部に、その底部幅よりも小さい幅を有し、且つ水路の長さ方向に長く、又、上端開放部が前記底部の上面と略面一である小水路が、U字溝を連通状態に埋設することにより形成されており、該U字溝の両側壁の内面部に対向状態に設けた上下方向に延びる嵌合溝に、両端部分が案内されて隔壁板が落とし込まれることにより、前記小水路が、その長さ方向に所要間隔をおいて隔壁板で仕切られ、隔壁板間に空所が形成されていることを特徴とする生態系に配慮された水路構造。
【請求項2】 隔壁板を落とし込むための対向する嵌合溝が、U字溝に、間隔をおいて複数対、設けられたことを特徴とする請求項1記載の生態系に配慮された水路構造。
【請求項3】 隔壁板の下端面に設けた係合凹部が、U字溝の底面に突設された係合突部と嵌合状態とされて、隔壁板が水路に固定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の生態系に配慮された水路構造。
【請求項4】 小水路の、隣り合う隔壁板間の空所に石を充填し、その石層の上面部の全体を、縁部分が水路の側壁の内面部又は隔壁板に固定されたネット部材で押さえたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の生態系に配慮された水路構造。
【請求項5】 ネット部材の縁部分を隔壁板の立面に沿って折曲すると共に、該折曲した入隅部分にアングル状の固定部材を当てがい、その際、該固定部材の基片をネット部材の上面に当接させ、且つその立片と隔壁板との間で前記ネット部材の縁部分を挟み、隔壁板を貫通し且つ前記立片に設けたボルト孔を挿通する固定ボルトの両端部分をなすネジ軸部に、ナットを螺合し緊締することにより、該隔壁板の両側の空所に張設されたネット部材の縁部分を同時に隔壁板に固定したことを特徴とする請求項4記載の生態系に配慮された水路構造。
【請求項6】 隔壁板は、その上辺がV字状に形成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の生態系に配慮された水路構造。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平9−125345
【公開日】平成9年(1997)5月13日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−313493
【出願日】平成7年(1995)11月6日
【出願人】(000137074)株式会社ホクコン (40)