説明

生物医学的適用のための光熱的構造物、およびその方法

【課題】生物医学的適用のための光熱的構造物を提供すること。
【解決手段】組織(例えば、角質層)に対しての光熱的材料(例えば、染料または色素)の均一な適用のために設計された光熱的構造物。1つの実施態様において、この光熱的構造物は、キャリア(例えば、接着剤またはインク)と混合される光熱的材料を備え、そして得られた混合物が、光熱的構造物を形成するために基板(例えば、不活性ポリマー性基板)に塗布される。別の実施態様において、光熱的構造物は、フィルム形成ポリマー性材料中に混合される光熱的材料を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、1998年3月6日出願の米国仮出願第60/077,135号の優先権の利益を請求する。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、組織の熱的な切除のために(例えば、マイクロポアの作製のため)有用である光熱的構造物に関する。
【背景技術】
【0003】
(当該分野の議論)
従来のグルコースモニタリングデバイスは、種々の方法(例えば、針またはランセット)によって個体から血液を採取するという原理に基づいて作動する。個体は、血液と相互作用する化学物質を備えるストリップへ、血液の小滴を注ぐ。このストリップは、ストリップの反射率の変化に基づいてグルコース濃度を測定するための、血液−グルコースメーター中へと挿入される。
【0004】
より侵襲性が少ないモニタリング技術を提供するように開発された、代替的グルコースモニタリング技術が存在する。そのような技術の1つには、間質液中のグルコースレベルを測定することが、挙げられる。間質液のサンプルを得るために、角質層の障壁機能を、克服しなければならない。
【0005】
Eppsteinらに対する、1997年2月7日出願の米国特許出願第08/776,863号(題「Microporation Of Human Skin For Drug Delivery and Monitoring Applications」)は、角質層を切除して少なくとも1つのマイクロポアを形成する方法を開示する。この方法は、光供給源の放射範囲を超える強力な吸収を示す有効量の光吸収化合物を用いて、角質層の選択された領域を処置する工程、および光学的に光吸収化合物を加熱することによって角質層を熱により切除する工程による。熱が、この光吸収化合物によって角質層へと伝導伝達され、選択された領域中の組織に結合した水および他の蒸発可能な物質の温度を、水および他の蒸発可能な物質の蒸発点より上に上昇させる。この技術を、本明細書中では以後、光学的熱切除と呼ぶ。この米国特許出願(第08/776,863号)中で開示される別のマイクロポア化技術には、組織に直接適用される固体熱プローブの使用が挙げられる。被験体に対して、これらの技術は、ランセットを使用することよりも大いに痛みが少ない(完全に無痛でなくとも)。
【0006】
この光学的熱切除技術の実施を最適にするために、多量の光吸収化合物を、処置される組織に接触して正確に配置することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
簡単に言うと、本発明は、組織の光熱的処置の目的のための、組織(例えば、角質層)に対する光熱的または光熱的材料(例えば、染料または色素)の均一な適用のための、方法および構造物に関する。1つの実施態様において、光熱的構造物は、キャリア(例えば、接着剤またはインク)と混合した光熱的材料を備え、そして生じた組合せ物は、基板(例えば、不活性ポリマー基板)に塗布されて、光熱的構造物を形成する。キャリアにこの光熱的材料を適用する手段には、プリント、噴霧、および鋳造が挙げられるが、これらに限定されない。光熱的構造物の別の実施態様において、この光熱的材料を、フィルム形成ポリマー材料に組み込み得、次いで得られた混合物を加工してフィルムを形成し得る。いずれの実施態様の光熱的構造物も、組織(例えば、角質層)と接触して配置され、そして光供給源(例えば、レーザー)により照射される。
【0008】
本発明は、以下を提供する。
(項目1) 組織を処置するための光熱的構造物であって、以下:
(a)多量の光熱的材料;
(b)該光熱的材料と混合されているキャリアであって、該光熱的材料が該キャリア中に実質的に均一に溶解または懸濁されている、キャリア;および
(c)該キャリア−光熱的材料混合物を塗布される基板
を備える、光熱的構造物。
(項目2) 項目1に記載の光熱的構造物であって、かつ前記基板と前記キャリアとの間に下地材料の層をさらに備える、光熱的構造物。
(項目3) 前記光熱的材料が染料または色素である、項目1に記載の光熱的構造物。
(項目4) 前記キャリアが、固体ポリマー、接着剤、ゲルおよびインクのうちの1つである、項目1に記載の光熱的構造物。
(項目5) 組織を処置するための光熱的構造物であって、以下:
(a)多量の光熱的材料;および
(b)該光熱的材料の実質的に均一な懸濁液を含むフィルム材料
を備える、光熱的構造物。
(項目6) 項目5に記載の光熱的構造物であって、かつ前記フィルム材料が、ポリエステル、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル性材料、セルロースおよびセルロースの誘導体のうちの1つからなる、光熱的構造物。
(項目7) 前記光熱的材料が染料または色素である、項目6に記載の光熱的構造物。
(項目8) 組織を処置するための方法であって、以下の工程:
(a)多量の光熱的材料を含む光熱的構造物を該組織に適用する工程;および
(b)該光熱的構造物を電磁放射に供する工程
を包含する、方法。
(項目9) 前記適用する工程が、前記多量の光熱的材料が実質的に均一に溶解または懸濁されているキャリアを、塗布される基板を適用する工程を包含する、項目8に記載の方法。
(項目10) 前記適用する工程が、前記基板を前記組織に接着する工程を包含する、項目9に記載の方法。
(項目11) 前記適用する工程が、前記光熱的材料の実質的に均一な懸濁液を混合しているフィルムを適用する工程を包含する、項目8に記載の方法。
(項目12) 前記電磁放射が、約10nm〜約50,000nmの波長範囲である、項目8に記載の方法。
(項目13) 前記供する工程が、多色光供給源から電磁放射を放射する工程を包含する、項目8に記載の方法。
(項目14) 前記供する工程が、レーザーから電磁放射を放射する工程を包含する、項目8に記載の方法。
(項目15) 項目8に記載の方法であって、かつ前記組織の熱的切除によって作製される開口部から体液を回収する工程をさらに包含する、方法。
(項目16) 項目15に記載の方法であって、かつ前記体液中の少なくとも1つの分析物の濃度を決定する工程をさらに包含する、方法。
(項目17) 前記決定する工程が、グルコースの濃度を決定する工程を包含する、項目16に記載の方法。
(項目18) 項目8に記載の方法であって、かつ前記開口部中へ浸透体を導入する工程をさらに包含する、方法。
【0009】
本発明の以上の目的および他の目的と利点は、以下の説明が、添付の図面と組合せて参照された場合に、より容易に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明に従う光熱的構造物を支持するデバイスの、拡大長手方向断面図である。
【図2】図2は、本発明に従う光熱的構造物の使用を図解する。
【図3】図3は、本発明に従う光熱的構造物の使用を図解する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(定義)
本明細書中で使用される場合、語句「生物学的流体」とは、血清または全血ならびに間質液を含むことが、意図される。「間質液」とは、身体において、細胞間の空隙を占める透明な流体である。用語「角質層」とは、皮膚の最も外部の層を意味し、これは、種々の乾燥状態において、約15〜約20の細胞層からなる。角質層は、身体の内側から外部環境への水分の損失に対する障壁、および外部環境から身体の内部への攻撃からの障壁を提供する。用語「表皮」とは、皮膚の代謝的に活性な領域を意味する。表皮は、角質層の直下にあり、そして角質層の約10倍の厚さである。表皮は、血液を含まない。用語「真皮」とは、表皮の約10倍の厚さでありそして表皮の直下に見出される、皮膚の領域を意味する。真皮は多量のコラーゲンを含み、このことは皮膚の構造的一体性を提供する。真皮は、皮膚の残りの層に酸素および栄養分を供給する、小さい毛細血管の層を含む。
【0012】
本明細書中で使用される場合、用語「組織」とは、その細胞間物質とともに、構造材料を形成する、特定の種類の細胞の集合を意味する。組織の少なくとも1つの表面は、電磁放射に接近可能でなければならず、その結果、本発明の1つの実施態様を実行し得る。好ましい組織は皮膚である。本発明の使用に適切な他の組織には、粘膜組織および軟らかい器官が挙げられる。
【0013】
本明細書中で使用される場合、「切除」とは、選択された領域中の蒸発可能な物質が、水および他の蒸発可能な物質の蒸発点より上に温度上昇され、それにより選択された領域中の組織のいくらかを切除する時に放出される運動エネルギーにより、周辺の組織から組織の選択された領域を切除するのが制御されているプロセスをいう。
【0014】
本明細書において使用される場合、「ポア化」「マイクロポア化」または任意のこのような同様な用語は、生物学的膜(例えば、皮膚もしくは粘膜)または組織の外層中に所望の深さの、またはこれらを貫通する小孔もしくは細孔を形成して、選択された目的あるいは特定の医学的手順もしくは外科的手順のために、生物学的流体(例えば、分析物)の生物学的膜内からの通過、あるいは生物学的膜の外から身体中への浸透体もしくは薬物の通過に対する、この生物学的膜の障壁特性を弱めることを意味する。
【0015】
本明細書中に使用される場合、語句「光熱的材料」とは、電磁放射を吸収し、そして熱エネルギーを放射し、そして伝導により熱エネルギーを伝達し得る、化合物または化合物の混合物を意味する。
【0016】
本明細書中で使用される場合、語句「光熱的構造物」または「光熱的アセンブリー」とは、光熱的材料を含む少なくとも1つの層を備える構造物を意味する。この構造物は、フィルム、シート、ブロック、膜、ゲル、織布もしくは不織布、または前記のものの組合せの形をとり得る。本明細書中で使用される場合、用語「ポリマー」とは、反復する構造単位を有する化合物を意味する。反復する構造単位(すなわち、モノマー)には、セルロース誘導体モノマー、アルキレンモノマー、エステルモノマー、カルボネートモノマー、アミドモノマー、アクリルモノマー、寒天モノマー、ビニルモノマーなどが含まれるが、これらに限定されない。本明細書中で使用される場合、用語「接着剤」とは、2つの表面間の接着を促進する、化合物、または化合物の混合物を意味する。
【0017】
本明細書中で使用する場合、用語「一体型デバイス」とは、組織を(適切なエネルギー源に連結された場合に)マイクロポア化すること、組織から(好ましくは、そのように作製されたマイクロポアを通じて)生物学的流体を収集し、そしてその生物学的流体を分析して、その特徴を決定することに適切なデバイスを意味する。
【0018】
用語「加熱プローブ」とは、電気エネルギーまたは電磁(光学)エネルギーの適用に応じて加熱され得るプローブ(好ましくは固相)を意味する。単純のために、このプローブを、加熱状態のプローブ、または非加熱状態であるが加熱可能であるプローブを含む、「加熱プローブ」と呼ぶ。
【0019】
本明細書中に記載されるマイクロポア化技術は、1997年2月7日に出願された、同時継続中の米国特許出願第08/776,863号(題「Microporation of Human Skin for Drug Delivery and Monitoring Applications」(この全体が、本明細書中で参考として援用される)にさらに記載される。
【0020】
図1は、本発明に従う光熱的構造物を支持する、一体型組織ポア化流体収集および分析デバイス(参照番号10で示される)を図示する。このデバイス10は組織接触層12を備え、この組織接触層12は組織(例えば、皮膚、粘膜組織など)と接触して配置されるように設計されている。光熱的構造物は、この組織接触層12の一部を占めており、参照番号22で示されている。必要に応じた流体輸送層18が、化学的補助された灯心を使用して、生物学的流体(例えば、間質液)を輸送するように提供され得る。メーター−インターフェース層20が、この流体輸送層18にかぶさっており、そしてセンサー28が、分析のために収集された生物学的流体に接触するのを支持する。
【0021】
電磁(例えば、光学)エネルギーが、メーター−インターフェース層20を通じて、組織接触層12上の光熱的構造物22上へと放射される。従って、このメーター−インターフェース層20は、それを通じて形成される開口部24を備えるか、あるいは、このメーター−インターフェース層20の全体または十分な部分が、光熱的構造物22を加熱するために使用される波長の電磁エネルギーに対して透過性の材料からなるかのいずれかである。
【0022】
このデバイス10に関するさらなる詳細が、米国特許仮出願第60/007,135号(その全体が本明細書中で参考として援用される)に開示されている。
【0023】
光熱的構造物22は、供給源(例えば、レーザーまたは他の光供給源)からの電磁エネルギーを吸収して熱くなり得、そしてその熱を角質層へ伝達し、制御されかつ所望の深さで、皮膚にマイクロポアを形成する。
【0024】
この光熱的構造物22は、再現可能な様式で組織へ適用され得る様式で提供される光熱的材料を備える。これは、組織が曝露される光熱的材料の量を正確に知り得ることを確実にする。
【0025】
本発明における使用に適切な光熱的材料は、1つ以上の波長の電磁放射を吸収し得る。本発明に適切であると考えられる電磁放射には、電磁スペクトルの紫外領域、可視領域および赤外領域からの放射が挙げられる。しかし、可視放射および赤外放射を使用することが好ましい。紫外線は、約10nm〜約380nmの範囲の波長を有する。可視放射は、約380nm〜約780nmの範囲の波長を有する。赤外放射は、約780nm〜約50,000nmの範囲の波長を有する。本発明における使用に適切な光熱的材料には、染料および色素が挙げられるが、これらに限定されない。用語「色素」とは、それら色素が適用される媒体中で事実上不溶性である着色料の種類を記載するために使用される。色素は、特定の形態を保持し、媒体中に懸濁されている。用語「染料」とは、それら染料が適用される媒体中で、可溶性であるか、または少なくとも部分的に可溶性である着色料を記載するために使用される。染料は、それら染料が塗布される基板に対して親和性を示す。本発明における使用に適切な染料の種類には、ジフェニルメタン染料、メチン−ポリメチン染料、ポルフィン染料、インダンスレン(indathrene)染料、キノン、ジチオール金属錯体、ジオキサジン、ジチアジン、ポリマー性発色団が挙げられるが、これらに限定されない。本発明における使用に適切な色素の種類には、カーボンブラック、炭素ベースの色素、金属、金属ゾル、染色ラテックス、無機色素が挙げられるが、これらに限定されない。本発明に好ましい発色団には、銅フタロシアニン、インドシアニン(indocyanine)グリーン、ニグロシン、ニューブルー、コロイド状銀(直径20〜100nm)、カーボンブラック、IR−780、IR−140、イルガラン(irgalan)ブラック、ナフトールグリーンB、テルラピリリウム(tellurapyryllium)、およびバナジル−テトラ−t−ブチルナフタロシアニンが挙げられる。いずれの場合においても、染料の粒子または色素の粒子は、それら粒子がキャリア材料と容易に混合され得る大きさでなければならない。染料の粒子および色素の粒子が、例えば、約50μm以下かつ好ましくは5μm未満の長さ、直径などの主要寸法を有することが好ましい。
【0026】
光熱的材料は、好ましくは、約120℃より下の温度で融解または分解せず、そして一定量の電磁エネルギーを吸収し得、そしてそれを、伝導の機構による組織の切除を生じるのに十分な一定量の熱エネルギーへと変換し得る。
【0027】
本発明の1つの実施態様において、光熱的材料を、キャリアを利用して組織接触層12に塗布する。この組織接触層12は、基板として作用する。このキャリアは、光熱的材料が染料である場合は、その光熱的材料が均一に溶解され得る材料であり、または光熱的材料が色素である場合には、光熱的材料が均一に懸濁され得る材料である。染料および色素とともに使用するのに適切なキャリア材料には、固体ポリマー、接着剤、ゲル、液体、ガラス、油、グリース、および紙が挙げられるが、これらに限定されない。これらの材料には、アクリル性材料、シリコーン材料、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、セルロース、ポリビニル誘導体、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのようなポリマー性材料が挙げられ得る。
【0028】
これらキャリア中の光熱的材料の濃度は、変化し得る。染料の十分な濃度は、代表的に、レーザーの波長で1.0より大きい光学濃度を得るために必要とされる濃度である。適切な濃度の決定は、当業者による試行錯誤によって容易に決定され得る。
【0029】
光熱的材料に加えて、キャリアに添加され得る他の成分には、可塑剤、界面活性剤、結合剤、架橋剤が挙げられるが、これらに限定されない。これらの材料は市販されている。
【0030】
一般に、光熱的材料を含むキャリアを塗布し得る基板(すなわち、組織接触層)には、ポリマー性材料、布、不織材料、細孔膜、ガラス、および金属箔が挙げられるが、これらに限定されない。この基板は、好ましくは、組織との密接な接触を可能にするのに十分なほど可撓性である。この基板は、キャリアに十分に接着し、その結果、使用前、または使用中に分離しないようであるべきである。この基板を調製するのに適切な材料には、ポリエステル、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル性材料、セルロース、セルロースの誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
別の実施態様において、光熱的材料を、組織接触層12を形成するフィルム形成材料と混合する。このフィルム形成材料は、好ましくは、光熱的材料の均一な懸濁液を可能にし、そして被験体の組織に従うのに十分な可撓性を可能にするフィルムへと形成され得る。この実施態様における使用に適切なフィルム形成材料には、ポリエステル、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル性材料、セルロース、セルロースの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。他の物質、例えば、光熱的構造物が加熱された場合に蒸発させられ得、それにより、組織に対して作用するためにマイクロポア化される組織中へと放出されるフラックスエンハンサ化合物を、この光熱的材料と混合して懸濁液にし得る。
【0032】
組織接触層12の厚さは重要ではないが、好ましくは、約0.05mm〜約2.0mmの範囲である。この層の表面の寸法は重要ではないが、大きい方の寸法は好ましくは約5mm〜約60mmの範囲であり、そして小さい方の寸法は好ましくは約5mm〜約60mmである。組織接触層12は、方形であるように示されているが、他の形状(例えば、円形、楕円形、三角形、正方形などの他の形状)もまた適切であり、そして同じことは、光熱的構造物22についても真である。組織接触層12を、接着剤、静電力、または被験体によりはたらかされる圧力を使用して、被験体の皮膚に接着し得る。皮膚と組織接触層12との間のシールは、好ましくは、十分に隙間がなく、その結果、生物学的流体は、シールを通って、またはシール中へと漏出しない。
【0033】
光熱的構造物22を備える組織接触層12を調製するための、いくつかの方法が存在する。1つの方法に従って、色素(例えば、カーボンブラック)を、圧力感受性接着組成物中へ均一に懸濁し得る。次いで、この接着組成物をポリマー性基板上へ型にとり得るか、またはプリントし得る。次いで、この接着組成物を硬化させ得る。別の方法に従って、染料(例えば、銅フタロシアニン)を、有機溶媒(例えば、エタノール)中に懸濁し得る。懸濁液を、エアブラシを使用して、ポリマー性膜の片側に塗布し得る。次いで、フィルムを硬化させ得る。なお別の方法に従って、色素(例えば、カーボンブラック)を、ポリマーベースのインク(例えば、透明なマニキュア液)中に懸濁し得る。次いで、このインクを、ポリマー性基板上へ型にとり得るか、またはプリントし得る。次いで、フィルムを乾燥させ得る。なお別の方法に従って、色素(例えば、カーボンブラック)を、ポリマー性材料(例えば、直鎖状の低密度のポリエチレン)中に混合し得る。次いで、この混合物を融解し、そしてフィルムへと押し出し形成し得る。次いで、このフィルムを硬化させ得る。
【0034】
この光熱構造物は、本明細書中で開示される一体型デバイスを含むが、これらに限定されない、多くの適用における有用性を有する。この光熱的構造物を、種々の方法において組織に適用し得る。キャリアと混合された光熱的構造物の場合において、このキャリアは、圧力感受性接着剤であり得、この接着剤は、組織にアセンブリーを接着する。フィルムの場合において、このフィルムを、静電力を使用して組織に接着し得る。付着のための他の手段には、フィルムに適用される圧力、およびフィルム(または光熱的構造物)と組織との間の領域を排気しててこのフィルムを組織に接触するように引っ張るための真空が挙げられる。付着の手段の組合せもまた使用し得る。
【0035】
本発明の光熱的構造物は、特に塗布の様式における、先行技術のいくつかの問題を克服する。詳細には、光熱的材料のペースト、または光熱的材料の懸濁液が、標的組織に局所的に塗布されてきた。これらの材料は、レーザーからの放射に対する均一でなく、かつ制御されない曝露を生じる。光熱的材料の変わりやすくかつ不正確な塗布は、光熱的処置の再現不可能な結果を生じ得る。
【0036】
さらに、組織に光感受性染料を塗布する以前の方法は、光熱的処置後に過剰の染料を除去する際に困難さを生じる。この困難さはまた、残りの染料と近接する組織、衣服などの混入の可能性を引き起こす。
【0037】
本発明に従う光熱的構造物は、光熱的材料を組織から容易に除去し、そして光熱的処置後に廃棄し得る様式で、光熱的材料を展開する。さらに、この光熱的構造物は、再現可能な結果を伴う光熱的材料を展開する。
【0038】
以下は、光熱的構造物の実施例である。
【0039】
(実施例1)
カーボンブラック(20nm)を、アクリルベースの圧力感受性接着剤(Aroset A 1081、Ashland Chemical)中に均一に懸濁して、20gカーボンブラック/リットルの濃度を有する懸濁液を提供した。次いで、得られた懸濁液をポリエステルフィルム(厚さ25μm)上へ型とりをした。次いで、この接着剤を加熱により硬化させた。硬化後、接着剤層は、厚さ約50μmであった。カーボンブラック−接着剤とフィルム基板の組合せが、光熱的構造物を構成した。直径0.4インチの円形の光熱的構造物を調製し、そして被験体の前腕手掌上に配置した。1ワットのCWレーザーダイオード(810nm)(Coherent Inc.、Santa Clara CA、部品番号#S−81−100C−100T)からの光を平行にし、そして皮膚の表面の平面で直径約80μmのサイズのスポットへ焦点を合わせた。皮膚で250mWのピーク出力で、各50ミリ秒の30パルスを送達した。パルス間で各々80ミリ秒の遅延を伴った。このパルス系列を反復して、1.0mmの円の円周上に間隔を置かれた光熱的処置部位を6つ生成した。光熱的構造物の除去後、角質層において、得られた小さい孔が存在することを、検出または観察し得た。
【0040】
(実施例2)
カーボンブラック(<1μm)を、アクリルベースのインク(例えば、透明なマニキュア)中に懸濁して、10g/lの濃度を有する懸濁液を提供した。次いで、この懸濁液を、ポリエステル基板(厚さ0.050mm)上に型をとるかまたはプリントした。この懸濁液を硬化させた。次いで、得られたコーティングされた基板を、皮膚に直接(フィルムとして)かまたは間接的(デバイスの一部として)かのいずれかで局所的に適用した。レーザーからの光または多色光供給源からの光を、光熱的処置のために、フィルム、および着色料と皮膚との間の界面上に焦点を合わせた。光熱的処置後、フィルムを除去し、そして廃棄した。
【0041】
(実施例3)
カーボンブラック(<1μm)をポリエステルに混合して、最終濃度10g/lを有する混合物を提供した。この混合物は、商標名「MELINEX 427/200」として市販されていた。この混合物を融解し、次いで融解した混合物を押し出し形成してフィルム(厚さ0.050mm)を形成した。次いで、このフィルムを硬化させた。次いで、得られたフィルムを、直接(フィルムとして)かまたは間接的(デバイスの一部として)のいずれかで、皮膚に局所的に適用した。レーザーからの光または多色光供給源からの光を、光熱的処置のために、フィルム、および着色料と皮膚との間の界面上に焦点を合わせた。光熱的処置後、フィルムを除去し、そして廃棄した。
【0042】
(実施例4)
金属チタンをポリカーボネートフィルム基板上へスパッターコーティングした。この基板は、2mil(0.05mm)の厚さを有する。チタン/チタン酸化物層の厚さは、約50nmであった。このフィルムを皮膚上に配置し、金属層を皮膚と接触させた。このフィルムを、標的領域を囲む接着環により、適切な位置に維持した。レーザーからの光または多色光供給源からの光を、光熱的処置のために、フィルム、および着色料と皮膚との間の界面上に焦点を合わせた。光熱的処置後、フィルムを除去し、そして廃棄した。
【0043】
この金属層を、保護層として、ポリマー材料の薄層(例えば、0.25mil(0.006mm)のポリオキシメチルメタクリレート)で被覆し得る。
【0044】
(実施例5)
実施例1の光熱構造物を、処置すべき領域にわたる皮膚上に配置した。レーザーからの光を、アセンブリー上に焦点を合わせて、熱的に処置される角質層の小さい領域を作製した。処置される領域を、下にある細胞の癒着の損失により特徴付けた。この領域は、ゆるんだ皮膚の領域に囲まれた小さい孔としてか、または表皮層における細胞の癒着が破壊された小さい水疱に似ている領域に囲まれた小さい孔として現れる。この処置を、個々に処置された領域が重複するまで反復した。接着剤を除去した時に、処置された角質層および角質層の下にある表皮のいくらかが除去された。残りの表皮を、滅菌した綿棒を用いた穏やかに剥離することにより除去し得る。この処置は、一般的に、出血を生じない。
【0045】
(実施例6)
実施例5に記載の方法を、接着剤のない光熱構造物を用いて実施した。光熱処置後、作用された組織を、綿棒を用いて穏やかにこすることによるか、または滅菌した接着フィルム(これは、テープを除去することにより組織を除去し得る)を適用することによって除去した。
【0046】
(実施例7)
直径9mmのオリフィスを備える小さい真空チャンバーを、実施例1の手順に従って形成された6つのマイクロポアを覆うように、皮膚上に配置した。このチャンバーを、2分間約6.00psiまで排気した。真空を解放後、得られた透明な流体を、微小毛細管を使用して収集した。このプロトコルの使用を通じて、恒常的に容量0.25〜0.75μlを得た。流体の存在は、光熱的に生成された孔が、角質層を貫通して下にある表皮内に至り、角質層の障壁特性を破っていることを示した。非処置の皮膚に対して真空を適用して、測定可能な流体は全く得られなかった。
【0047】
(実施例8)
間質液のサンプルを、実施例7に記載したように得た。透明な流体を、1.0mlの、5mMリン酸塩、0.02%アジ化ナトリウム(pH7.0)中に希釈した。間質液をサンプリングしたのと同時に、血漿サンプルを、同じ被検体から得た。被験体の指を、ランセットデバイスで刺し、そして血液をヘパリンを有する毛細管中に収集した。血液サンプルを遠心分離して、細胞画分から血漿画分を分離した。1.0μlの血漿サンプルを、毛細管を使用して1.0mlのリン酸緩衝希釈液に移した。間質液および血漿の希釈サンプルを、パルスアンペロメトリー検出器を備えた高圧液体クロマトグラフィー(HPLC−PAD)を使用してグルコース含量について分析した。HPLC−PAD分析を、Dionex PA−1カラム(4.0×250mm)を使用して、150mM水酸化ナトリウムの流速1.0ml/分で作動させて実行した。注入容量10μlを作製した。グルコースは、ピーク保持時間4.0±0.3分を示した。サンプルを、グルコースを含む既知の水性スタンダードおよび血清スタンダードと比較した。そして、濃度を、グルコースピークの領域から決定した。6人の健康な、糖尿病でない被験体から得た結果を、以下の表に示す。グルコースの単位はmg/dlである。
【0048】
【表1】

(実施例9)
角質層を通じて物質を送達する能力を示すために、フルオレセインナトリウムをモデルトレーサーとして使用した。試験被験体の前腕手掌を、実施例1におけるように処置し、直径約1.1mmの円型を備える6つの孔の組を調製した。ポア化後、滅菌食塩水中10%フルオレセインナトリウム1.0μlを、これらの孔を覆うように皮膚上に配置した。皮膚のコントロール領域(形成された孔がない)を、同様に、1.0μlのフルオレセインナトリウム溶液で覆った。2分後、過剰の溶液を吸い取りによって除去し、その後、穏やかな洗剤で洗浄し、すすぎ、そして吸い取り乾燥した。孔を形成した場合、皮膚は、組織中のフルオレセインの存在に起因する目に見える色素沈着を示した。黄色に染色した領域は、直径約1.4mmであった。コントロール領域については、全く染色が明らかでなかった。紫外照射下で、孔が形成された皮膚の領域は、フルオレセインナトリウムの存在に起因して、直径約1.5mmの領域にわたって強力な黄色−緑色蛍光を示した。6つの孔各々を縁取る隣接領域は、より強力に蛍光性であった。さらに、外側角質層中のいくらかの残余の蛍光に起因すると思われる、直径約2.0mmの領域にわたるわずかな蛍光が存在した。
【0049】
図2および図3は、この光熱構造物の操作および使用を図示する。この光熱構造物を使用して、角質層にマイクロポアを形成し得る。角質層における小さい孔の作製を使用して、診断的適用のための体液へのアクセスを入手し得る。さらに、ポア化を使用して、いくつかの薬物または他の生物活性物質の透過性を増加し得る。本発明に従う光熱的構造物もまた、外科的適用(例えば、表面の外傷の処置、刺青の処置、または組織表面の他の光熱的処置)において適用し得る。
【0050】
操作において、この光熱的構造物を、図2に示すように、組織(例えば、皮膚)の表面に対して配置する。電磁エネルギー(例えば、光エネルギー)の供給源を活性化させ、そしてそのエネルギーを光熱的構造物に対して焦点を合わせる。適切な時間(例えば、約10ミリ秒〜約1秒)後に、このエネルギーは、光熱的構造物22を加熱し、そして光熱的構造物22中の熱エネルギーは、組織に伝達されて組織を切除し、そして図3に示すような少なくとも1つのマイクロポア50を形成する。図3の実施例において、角質層(「SC」)中に2つのマイクロポア50を形成し、そしてこのマイクロポアは、表皮(「E」)を通り、そして真皮(「D」)中までの深さに及び得る。光エネルギーが焦点を合わせられる光熱的構造物上の位置で、この光熱的構造物は融解するか、または燃やされて、その結果、小孔60が作製される。このマイクロポア50を通って角質層を横切る生物学的流体を、分析のために収集し得る。例えば、光熱的構造物を、図1に示すデバイスのような一体型デバイスにおいて使用する場合、このマイクロポアを形成する同じ装置により、生物学的流体を回収し、そして分析する。
【0051】
本発明に従う光熱的構造物を用いる使用に適切な電磁エネルギーの供給源は、米国特許出願第08/776,863号に開示される。
【0052】
要約すると、1つの実施態様において、光熱的構造物は、以下を備える:多量の光熱的材料;この光熱的材料がその中に実質的に均一に溶解されるかまたは懸濁されるようにこの光熱的材料と混合される、キャリア;およびこのキャリア−光熱的材料混合物を塗布される基板。下地材料の層を、基板とキャリアとの間に提供し得る。別の実施態様において、この光熱的構造物は、以下を備える:多量の光熱的材料;およびこの光熱的材料の実質的に均一な懸濁液を含むフィルム材料。
【0053】
さらに、組織を処置する方法を提供する。この方法は、多量の光熱的材料を含む光熱的構造物を組織に適用する工程、およびこの光熱的構造物を電磁放射に供する工程を包含する。この適用する工程は、この光熱的材料の実質的に均一な懸濁液を取り込むキャリアを塗布される基板を適用する工程を包含し得る。この基板を、組織に接着し得る。あるいは、この適用する工程は、この光熱的材料の実質的に均一な懸濁液を取り込むフィルムを適用する工程を包含し得る。
【0054】
本発明の種々の改変および変更は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者に明らかになる。そして、本発明が、本明細書中に示される例証的実施態様に不当に制限されないことが、理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−158510(P2010−158510A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252491(P2009−252491)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【分割の表示】特願2000−534239(P2000−534239)の分割
【原出願日】平成11年3月5日(1999.3.5)
【出願人】(500415748)スペクトリクス,インコーポレイテッド (1)
【出願人】(304033971)アルテア セラピューティクス コーポレイション (2)