説明

生物学的特異的反応物質の測定方法

【課題】免疫凝集反応を利用して、試料中の被検査物質を迅速、簡便かつ高精度に測定または検出する測定方法を提供する。
【解決手段】(A) 前記センサの反応部に被検査物質と前記担体粒子を含む反応液を挿入する工程と、(B)前記試料液と前記担体粒子を含む反応液に電圧を印加する工程と、(C)(B)工程中に前記担体粒子群の凝集および分散の割合を検出する工程と、
(D) (B)工程で印加した電圧を停止する工程と、(E) 前記担体粒子群の凝集および分散の割合を検出する工程と、(F)(C)工程で検出された結果と(D)工程で検出された結果の両方に基づき、試料液中の生物学的特異的反応物質の存在を検出する工程とを含むことを特徴とする生物学的特異的反応性物質の存在を検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液中の生物学的特異的反応物質を、生物学的特異的凝集反応を用いて測定または検出する方法に関し、特に免疫凝集反応を利用して、試料中の被検査物質を迅速、簡便かつ高精度に測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
試料液中の被検査物質を検出するために、被検査物質に対して特異的に結合することが可能な抗体を利用する方法は従来、数多く考案されている。そのひとつに、抗原抗体反応によって生じた免疫凝集物を光学的に検出する方法がある。
【0003】
この方法では、まず、被検査物質を含む試料液に被検査物質に特異的に結合することが可能な抗体を一定量加えて、凝集物を形成させる。次に、凝集物に光を照射すると、光は凝集物に当たって散乱する為に、試料液を透過する光量が変化する。光量の変化は、透過光、反射光、散乱光のいずれかを測定することにより知ることができる。
【0004】
一般に透過光を測定する方法が免疫比濁法であり、散乱光を検出する方法が免疫比朧法として区別されているが、凝集物による光の散乱の影響を観察するという点では同じ検出原理であると言える。凝集物の量は、被検査物質の濃度に比例して変化するので、透過光、反射光、散乱光のいずれかを測定すれば、被検査物質の濃度を求めることが可能である。
【0005】
この方法について感度をさらに向上させる方法がラテックス凝集法である。前述の方法において、抗体をラテックスに結合させておくと、被検査物質と抗体が結合することによって、ラテックス粒子の凝集物が形成される。ラテックス粒子の凝集物は、抗原抗体反応性物質の凝集物よりもはるかに光の散乱が大きいので、より高感度な検出が可能である。
【0006】
ラテックス凝集法をさらに高感度化させる方法が、特許文献1により開示されている。図8から図11を用いて、文献1に開示されている測定装置および測定方法について説明する。図8は測定チップの断面図、図9は測定装置のブロック図、図10および図11は測定チップの電極部分の拡大図である。スライドグラス16、17に、厚さ0.02mmの電極9が、電極間距離が0.5mmになるように挟み込まれている。
【0007】
ラテックス粒子15は、スライドグラス16、17および電極9で囲まれた導入路18に懸濁液として分散されている。電極9に、交流電源供給装置19を用いて交流電圧を印加し、上記反応系に電圧を印加することによって、ラテックス粒子15がパールチェーンと呼ばれる直線的に並ぶ現象を起こす(図13 図番20)。上記、交流電圧を印加したときの電界強度は、5〜50V/mm程度が好適とされている。
【0008】
その後電場を停止すると直線的に並んでいたラテックス粒子15は再び分散する。パールチェーン化の際に抗原抗体反応性物質が存在しない場合は、図11aのようにラテックス粒子15は分散する。一方で、抗原抗体反応性物質が存在する場合は電場を停止後もラテックス粒子15の再分散が起こらず、パールチェーン化した担体粒子の存在がなおも認められる(図11b)。したがって、電場を停止後も再分散しない、すなわち抗原抗体凝集反応に関与しているラテックス粒子15を、顕微鏡22、CCDカメラ23、画像処理ボード24、パーソナルコンピュータ25より成る画像処理装置により、ラテックス粒子15の凝集状態を測定して、抗原抗体反応性物質の存在を検出又は測定する。
【0009】
以上のように、パールチェーン現象を起こすことにより迅速かつ高感度な測定を実現している。
【特許文献1】特開平7−83928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の測定方法では電圧が印加された担体粒子がすべてパールチェーン化状態になっていないため、反応に関与していない担体粒子が存在していた。その結果、本来被検査物質と反応し凝集するべき粒子が反応に関与しないため、検出値が低くなっていた。
通常、迅速に担体粒子をパールチェーン化状態にするためには電界強度を上げることや粒子濃度をあげる必要がある。しかしながら、前者の方法では、電圧印加時に測定チップ内の試料液の温度が上昇するという課題がある。一方で、粒子濃度を上げると、本来1個で存在するはずの粒子同士が重なり、凝集物と認識される、すなわち正の誤差を生じるという課題があった。
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、試料液中の生物学的特異的反応物質を、生物学的特異的凝集反応を用いて短時間で高感度に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために本発明の生物学的特異的反応性物質の測定方法は、試料液中の生物学的特異的反応物質の存在を前記生物学的特異的反応物質と特異的に反応する物質が固定された担体粒子とを用いて検出する方法であって、
少なくとも
(A)前記測定チップの反応部に被検査物質と前記担体粒子を含む反応液を挿入する工程と、
(B)前記試料液と前記担体粒子を含む試料液に電圧を印加する工程と、
(C)工程B中に前記担体粒子群の凝集および分散の割合を検出する工程と、
(D)工程Bで印加した電圧を停止する工程と
(E)前記担体粒子群の凝集および分散の割合を検出する工程と
(F)工程Cで検出された結果と工程Dで検出された結果の両方に基づき、試料液中の生物学的特異的反応物質の存在を検出する工程と
を含む。
【0013】
この構成により、パールチェーン化に関与した粒子だけが結果に反映されるため、シグナルが大きくなり、高感度な測定を提供できる。さらに、測定毎にパールチェーン化された担体粒子の割合度が異なった場合の補正ができるため精度向上にもつながることが期待できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の生物学的特異的反応物質の測定方法によれば、パールチェーン化に関与した粒子だけが結果に反映されるため、シグナルが大きくなり、高感度な測定を提供できる。さらに、測定毎にパールチェーン化された担体粒子の割合度が異なった場合の補正ができるため精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施の形態1)
実施の形態1の生物学的特異的反応物質の測定方法について以下に説明する。
1.本発明の測定チップおよび装置
図1には、本発明の測定システムのブロック図が示される。分析装置は電圧を印加する電圧印加部1と、担体粒子群の凝集または分散割合を取得する検出部2と、電圧印加部1と検出部2を制御し、さらに検出部2から得られた結果を数値解析する解析制御部3を備えている。また、測定チップ4が挿入できるコネクタ6も備えている。
【0016】
図2は測定チップの平面図であり、図3は、図2のA−A’線での部分断面図である。測定チップは、上基板7と、下基板8と、中空形状であり、1対の対向電極9A、Bを含む反応部10と、試料を点着する点着口11と、反応部10の気体を前記試料の流入によって排出する空気孔12を有している。
【0017】
本発明で用いられる試料液は、塩を所定の濃度で含む電解質溶液、あるいは、生体内試料である、血液・血漿試料である。
【0018】
検出部2は、測定チップの反応部10内に配置される担体粒子13の挙動、すなわち、担体粒子が二個以上で凝集しているかまたは凝集せずに単独で存在しているか検出できる。例えば、検出部2は画像撮像手段であってもよく、測定チップ4の上基板7または下基板8に透明性を付与すれば、検出部2によって反応部10内の様子を容易に撮像することができる。なお、撮像は動画であっても、静止画であってもよい。
【0019】
制御解析部3は、分析装置による測定の制御とともに、検出部2で検出された結果を処理することができる。また、電圧印加部1や検出部2を動作の制御を行うことができる。
【0020】
測定チップ4は中空の反応部10が形成されておればよく、例えば、凹部をもつ上基板7と、下基板8からなり、それらが挟まれてもよいし、または、上基板7と、下面基板8と、中間基板からなり、それらを重ねあわせてもよい。 いずれにしても、測定チップ4の反応部10は、その頂面を上基板7、底面を下基板8としている。また、反応部10では電圧印加によりパールチェーン化した担体粒子割合と電圧停止後の凝集した担体粒子割合を検出できればよく、好ましくは反応部10中で両者の検出が行われることであるが、例えば、パールチェーン化した担体粒子割合と電圧停止後の凝集した担体粒子割合を別々の部で検出しても良い。
【0021】
上基板7と下基板8の材料は、絶縁材料で構成されている。絶縁材料の例としては、有機材料またはガラスなどの無機絶縁材料から選ばれる。
【0022】
有機材料の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエンスチレン共重合体、シリコン樹脂、ポリフェニレンオキサイド及びポリスルホンなどが含まれる。
【0023】
無機絶縁材料の例には、アルミナ、サファイア、フォルステライト、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素などが含まれる。ガラスは、アルカリガラス、アルカリソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどである。
【0024】
基板の材質をPET樹脂などの有機材料とすると、製造コストを抑制することができ、また製造プロセスも容易になるため、生産効率も大幅に向上させることができる。
【0025】
測定チップ4の反応部10には、担体粒子13が提供される。反応部10では、担体粒子13をパールチェーン状に配列させるため、対向電極を含んでいる。なお、画像撮像手段のように光学的に担体粒子の挙動を検出する場合は、上基板7および下基板8の一部は透明性を有することが必要である。反応部10の深さは、直径数μmの大きさを持つ担体粒子13を反応部10に投入することができ、かつ、担体粒子13の凝集度合いを検出できれば特に限定されるものではない。
【0026】
検出が画像撮像手段であれば、5μm以上10μm以下であることが望ましい。かかる深さは、担体粒子13を一層に配置させることができるためである。
【0027】
反応部10の幅および長さは、電極9A、Bを内部に配置、すなわち、電極9A、Bと試料液が接触し、かつ、必要な量の試料液が注入できる溶液を持てば任意である。例えば、反応部10の幅は0.1mm以上10mm以下であり、好適には0.2mm以上1mm以下であり、代表的には0.7mmである。反応部10の長さは、約5mmである。
【0028】
反応部10の内部表面は、親水性であっても、疎水性であってもよい。また、いずれの表面の一部または全部を、親水性または疎水性にしてもよい。また、粒子の吸着を抑制する表面処理が施されていてもよい。
【0029】
点着口11の形状は、試料液を挿入でき、反応部10に担体粒子13を含む試料液を導入できれば特に制限されるものではない。
【0030】
空気孔12は反応部10の気体を試料の流入によって排出する場所に配置されておればよく、反応部10の気体を排出すれば、大きさは特に制限されることはない。
(測定チップの作製方法)
測定チップ4の作製方法は、特に限定されない。例えば、測定チップ4は、以下の工程で作製される。
(工程1)上基板7に反応部10の形状に応じた凹部と、必要に応じて試料液を注入するための点着口11および空気孔12等を形成する。
【0031】
工程1の、凹部、点着口11、空気孔12は当業者に公知の技術で形成される。一例を示すと、切削技術やレーザーによる除去技術、あるいはインプリント技術やフォトリソグラフィーなどが選択される。なお、反応部10は直方体に限定されることなく、例えば、円柱であってもよい。また、点着口11と空気孔12をつなぐ形状であればよい。
(工程2)下基板8に電極を形成する。
【0032】
電極の形成方法はスパッタや蒸着に代表される薄膜堆積技術、あるいは印刷技術など当業者に公知の技術を用いて作製される。好適に用いられるのはスパッタであり、これにより電極9A、9Bの膜厚を薄くでき、工程3で貼り合せる際の電極段差によるスキマが生じないため望ましい。
【0033】
電極9の膜厚は、1nm〜10μmから選ばれ、特にスパッタを用いる時は、50nm〜500nmであり、好適には100nmが製造時間の観点から好ましい。電極9A、9Bの幅は任意であり、通常0.5mm〜5mm程度である。さらに、電極9A、9Bは電圧印加部と連通するよう、配線や電気的接触を実現する端子を有する。電極9Aと9Bを配置する間隔は、20〜1000μmから選ばれる。間隔20μm以下では、直径が数μmである粒子が十分に数珠繋ぎ状に形成するための領域を確保できず、また、間隔1000μm以上では、有効な電界強度が得られない。あるいは、有効な電界強度を得るために、50V以上の大きな電圧印加が必要となるため、好ましくない。
【0034】
より望ましくは、100〜500μmであり、好適には上記の観点から500μmである。電極材料は、導電性を有する材料であり、かつ、溶液中での交流電圧の印加で溶解・剥離しない特性を有すれば任意であり、通常、金、銀、白金、銅、アルミ、クロム、ニッケル、タングステンやその合金から選ばれる。
【0035】
好適には、下基板8とスパッタ技術によって強固に成膜でき、交流電圧印加に対する膜の安定性から金である。なお、電極9ABが形成される面は、下基板に限定されることはなく、上基板であっても良い。また、電極形状は、対向電極であればよく、粒子がパールチェーン状態に配置されるように電場を形成できるのであれば特に制限されることはない。
(工程3)次に、上基板7と下基板8を貼り合せる。
【0036】
工程3の上基板7と下基板8の貼り合わせは公知の技術を用いればよい。これらの工程を経て、測定チップ4は作製されて使用される。
【0037】
測定チップ4の反応部10には担体粒子13が提供される。担体粒子13は、試料液が注入される前にあらかじめ反応部10に配置されていてもよいが、試料液とともに反応部10に供給されてもよい。
【0038】
本発明の担体粒子13の例には、ラテックス粒子、ベントナイト、カオリン、金コロイド、赤血球細胞、ゼラチン、リポソームなどが含まれるが、好ましくはラテックス粒子である。凝集反応において一般に用いられているラテックス粒子が使用でき、例えば、ポリスチレン系ラテックス、ポリビニルトルエン系ラテックス、ポリメタクリレート系ラテックスなどが使用できる。ラテックス粒子には、官能基モノマー(−COOH、−OH、−NH、−SO等)が共重合して導入されていてもよい。
【0039】
担体粒子13の平均粒径は、例えばラテックス粒子の場合、0.5〜100μmが好ましい。担体粒子6の平均粒径は、例えばラテックス粒子の場合、さらに好ましくは1〜10μmである。
【0040】
担体粒子濃度が高いほどパールチェーンが形成されやすいので凝集反応が促進される。しかし、担体粒子の濃度が高すぎると、反応部10で粒子同士の重なりが起こり、正の誤差となる。この観点から担体粒子の濃度は、例えばラテックス粒子の場合、好ましくは0.01〜1重量%、より好ましくは0.1〜0.5重量%、最も好適には、0.4重量%である。
【0041】
粒子の平均粒径は、例えばラテックス粒子の場合、0.5〜10μmが好ましい。平均粒径がO.5μm以下では粒子に十分な誘電泳動力が働かず、パールチェーンが形成されにくく好ましくない。また、平均粒径が10μm以上であると電圧印加を切った後の粒子の分散が起こりにくく、好ましくない。粒子の平均粒径は、例えばラテックス粒子の場合、さらに好ましくは1〜5μm、最も好適には2〜3μmである。
【0042】
本発明の好ましい態様としては、被検査物質が抗原及び/又は抗体である該方法が挙げられる。更なる本発明の好ましい態様として、担体粒子が抗体を感作させたラテックス粒子であり、被検査物質が抗原である該方法が挙げられる。ラテックス粒子への抗体の感作は、例えば、従来周知の方法でラテックス粒子に抗体を吸着又は結合させることにより実施することができる。
【0043】
(測定方法)
本発明の検出または測定方法を以下に概説する。図4に実施の形態1に示す測定方法のフローチャートを示す。
【0044】
免疫反応は、抗体を吸着させた粒子の凝集度で抗体に特異的に結合する抗原の量を検出する原理に基づく。まず、測定チップ4の点着口11に被検査物質と担体粒子13を含む溶液(以下、反応液と呼ぶ)が投入される(工程A)。工程Aにより、反応部10に反応液が充たされ、反応液は電極9A、9Bと接する。また、反応部10では担体粒子13は溶液中で所定の濃度で分散された状態となる。この状態を作り出すために、担体粒子13を予め分散した反応液を投入してもよいし、反応部10に予め担体粒子13を担持し、被検査物質を含む試料液を添加してもよい。
【0045】
次に、電圧印加部1によって、測定チップ4の電極9A、9Bに交流電圧波形を印加する(工程B)。この工程Bにより、担体粒子13は反応部10内で、電界の方向に沿って、数珠つなぎ様に並ぶ(パールチェーン)。
【0046】
工程Bにおいて、電圧印加部1によって印加される交流電圧波形は、方形波、矩形波、正弦波、三角波等を用いることができる。また、電界強度は、パールチェーン19を形成するため、5〜50V/mm程度を印加することが必要である。また、周波数は10kHz〜10MHzであればよい。電圧印加部1によって印加する時間は、大多数の担体粒子13がパールチェーン化状態になる時間でよいが、例えば、10〜180秒、好ましくは15〜90秒、より好ましくは60秒である。
【0047】
次に、工程B中にパールチェーン化された担体粒子13の凝集度を検出部で測定する。(工程C)
凝集度は総粒子数に対する2個以上に凝集した粒子の総数で求めればよく、計算式は下記のとおりである。
【0048】
凝集度=(2個以上に凝集した粒子数)/(総粒子数)×100 (%)
例えば、検出部が撮像手段であれば、画像が撮像し処理することにより凝集度を求めることができる。具体的に述べると、画像を撮像し、画像に対して自動化処理を行い、画像から粒子群が認識され、しきい値で画像を二値化する処理方法を採用することにより、粒子群の抽出を行う。次に、抽出された個々の粒子群の輪郭近傍領域の面積を求めることで、2個以上に凝集した粒子群は、担体粒子1個分と区別することができる。
【0049】
工程Cで得られる凝集度は、電圧を印加することによって生じるものであり、測定対象物の有無に関係なく生じる。以下、工程Cで得られた凝集度はパールチェーン化度と呼ぶ。
【0050】
工程Cを行うタイミングは、工程Bと電圧を停止する(工程D)の間であればよいが、好ましくは工程Dの1〜20秒前、より好ましくは1〜5秒前である。
【0051】
このように工程Cでは、パールチェーン化度を計測できるため、凝集反応に関与した粒子数を測定できる。
【0052】
次に、工程Bで印加した電圧を停止する。(工程D)
電圧停止後、一定時間後担体粒子13の凝集度を検出する(工程E)。
【0053】
パールチェーン化していた担体粒子13は、被測定物質が存在していればその連結を維持し(これを会合状態と呼ぶ)、被測定物質が存在していなければ分散する(これを非会合状態と呼ぶ)。この会合状態と非会合状態の割合である分散度合いは、被測定物質の濃度に依存する。(工程Eで得られた凝集度は以下、凝集度Aと呼ぶ)しかしながら、工程Bにて、反応部10に存在するすべての担体粒子13がパールチェーン化状態になっていない場合は、本来凝集するべき担体粒子13が未反応な状態である。すなわち、このような状態では、凝集度Aは被測定物質濃度に対する本来の凝集度より低く見積もられる。
【0054】
工程Eでは前述した工程Cと同様の方法で凝集度を検出される。工程Eを行うタイミングは、工程Dの終了後であるが、担体粒子13の分散度合いを鑑みて適切に設定される。比重の大きい粒子や大きな直径を有する粒子では分散が比較的低い。例えば、10秒以上180秒以下が望ましく、好適には60秒である。
【0055】
最後に、工程Cで検出されたパールチェーン化度と工程Eで検出された凝集度Aの結果の両方に基づき、凝集度(工程Fで得られる凝集度を以下、凝集度Bと呼ぶ)を算出する。(工程F)
工程Fでは、解析制御部3で以下の式により凝集度Bが、算出される。
【0056】
凝集度B=凝集度A /パールチェーン化度 ×100 (%)
上記のような処理をすることで、パールチェーン化した担体粒子13について会合状態または非会合状態であるかを検出できる。凝集度Bは、担体粒子13に結合させた抗体と特異的に反応する、被検査物質濃度に応じて大きくなるため、試料液中の被検査物質濃度の検出に用いることができる。また、パールチェーン化に関与した担体粒子だけが被検査物質濃度の検出結果に反映されるため、凝集度Aに比べ、シグナルが大きくなり、より高感度な測定が行える。
【実施例】
【0057】
以下、本発明をより具体的に例示する。これらの実施例は、本発明を限定するものではない。
【0058】
本実施例は、第1の実施形態にかかる実施例である。実施例1として、図2、3に示されるような凹部を設けた上基板7と、下基板8との2枚構造とした測定チップを用いた。測定は図4に示すフローチャート示す方法で行った。測定システムは図5に示した。
【0059】
(測定チップの作製)
第一に、下基板8を作製する。下基板8の材質として、清浄に処理されたほうけい酸ガラス(SCHOTT社製 D−263)板厚1.1mmを用いた。電極9A,Bのパターンに貫通させたステンシルマスク(ステンレス製)を通してスパッタすることで、ガラスと金の密着性を向上させる目的で、クロム50Åを堆積し、続けて金950Åを堆積させた。そして、電極9A、9Bと端子5を作製した。電極幅は1mm、対向電極の間隔は0.5mm、電極長さ5mmの一対の矩形電極が作製できた。
【0060】
次に、上基板7を作製する。上基板7は、ほう珪酸ガラス(SCHOTT社製 D−263)(板厚0.1mm)とした。フォトリソグラフィーとウェットエッチングにより凹部を作製した。反応部10の流路幅は0.75mm、長さは10mmとした。流路の深さは10μmとした。
【0061】
そして、上基板7と下基板8を、UV硬化性接着剤を用いて貼り合せて、測定チップを作製した。
【0062】
この構成により、反応部10の担体粒子の挙動を観察できることから、パールチェーン化度と凝集度Aが計測できる。
(試薬調製)
本実施例では、抗原―抗体反応に代表される生物学的特異反応を検証した。被検査物質は各種炎症のマーカータンパクとされるC反応性タンパク(以下、CRPと記す。)を用いた。
【0063】
担体粒子は、平均直径2μmのラテックスビーズ(バングス社)に、抗CRPモノクローナル抗体(以下、抗CRP抗体と記す。)を感作させた。抗CRP抗体溶液に2μmのラテックスビーズを添加し、2時間攪拌後、感作したラテックスを遠心分離し、上清を除去した。その後、牛血清アルブミン溶液(BSA)を添加し、抗CRP抗体感作ラテックスを作製した。溶媒の組成は、150mM 塩化ナトリウム、20mMグリシン pH8.6、0.1% BSAとした。CRP溶液は、上述したバッファでそれぞれ1.5×10^X (M)として、X=−7、−8、−9、−10、−11 の濃度に調製した。
【0064】
(パールチェーン化度および凝集度Aの計測方法)
担体粒子の挙動の観測は、オリンパス社製倒立顕微鏡を用いて、透過光観察した。この構成により、反応部の深さが10μmで規定されているので、担体粒子は2層に重なることなく、また、観測している顕微鏡の焦点から外れることもなく、担体粒子の輪郭がはっきりと観測される。
【0065】
担体粒子のパールチェーン化度および凝集度Aは、以下の式により求めた。測定装置の撮像手段によって撮像された3画面の平均をとった。
【0066】
パールチェーン化度および凝集度A =
(2個以上に凝集した粒子総数の面積)/(総粒子数の面積)×100 (%)
(実験:抗原―抗体反応)
まずCRPを含む試料液と粒子を含む反応液を90秒間室温で混合し、反応させた。なお、このとき粒子は0.4重量%となるようにした。反応後の粒子を含む反応液を点着口11に1μL注入した。(工程A)
次に、対向電極9A,Bに各交流電圧波形を電圧印加部1(波形発生器:HEWLETT PACKERD社 33120A)を使って20V,100kHzを60秒間印加した。(工程B)電圧は、必要に応じて、波形発生器の次段に電力増幅アンプ(NF ELECTRONIC INSTRUMENT社 4055 High Speed Power Amplifier)などを接続して増幅する。この工程により、反応部10内の担体粒子13は電場の力を受け、パールチェーン化する。
【0067】
電圧印加開始から55秒後に、画像を撮影しパールチェーン化度を計測する。(工程C)
次に、電圧印加を停止し(工程D)、停止から60秒経過した時の凝集度Aを求めた。(工程E)
最後に、以下の式を用いて凝集度Bを求めた。
【0068】
凝集度B=凝集度A /パールチェーン化度 ×100 (%)
実験結果を図6に示す。図6の×印は、各CRP濃度におけるパールチェーン化度、図中の白丸は凝集度A、黒丸は凝集度Bの結果である。パールチェーン化度(記号×)は電圧を印加することで強制的に担体粒子を集めていることからCRP濃度に依存せず高い凝集度となっている。しかしながら、凝集度は100%ではなく、80%程度であり、総粒子数に対し20%程度の粒子は反応に関与していないことがわかる。
【0069】
一方で、凝集度AはCRP濃度に依存した値となっている。これは、CRP非存在下ではパールチェーン化した粒子の結合を維持する力が働かないことを意味し、CRP存在下では、抗原抗体反応により結合力が生じていることがわかる。
【0070】
しかしながら、上述したように反応に未関与の粒子が20%程度含まれているが、凝集度Aはその反応に未関与の粒子もあわせて計測し、凝集度を算出している。その結果、本来の凝集度より低値に見積もられる。
【0071】
その補正を行ったものが凝集度Bの結果である。凝集度Bはパールチェーン化に関与した粒子に対する凝集した粒子の割合を表している。図6より凝集度Bは凝集度Aよりも高値となっていることがわかる。しかし、ブランク値(CRP非存在条件)も高値となっている。
【0072】
そこで、図7に凝集度AおよびBについて、各CRP濃度に対する凝集度からブランク値を引き算した結果を示した。この結果より、凝集度Bのほうが凝集度Aよりもシグナルが高くなっていることがわかる。特に、CRP濃度が高い条件では顕著であり、これはCRP濃度が高い条件下においては、ほとんどの担体粒子はパールチェーン化すれば凝集するということを示唆している。
【0073】
このように、凝集度Bを用いることで、従来どおり測定時間3分程度と短時間であるが、シグナルを向上でき、抗原―抗体反応に代表される生物学的特異反応をより高感度に測定できることが示された。
【0074】
さらに、凝集度Bを用いることで、測定毎にパールチェーン度が異なった場合の補正ができるため精度向上にもつながることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明にかかる生物学的特異的反応物質の測定方法は免疫凝集反応を利用して、試料中の被検査物質を迅速、簡便かつ高感度に測定または検出する生物学的特異的反応物質として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施の形態1の測定システムのブロック図
【図2】実施の形態1の測定チップの平面図
【図3】実施の形態1の測定チップの断面図
【図4】実施の形態1に示した方法の例を説明するためのフローチャート
【図5】実施例1に示した測定システムのブロック図
【図6】実施例1の実験結果を示す図
【図7】実施例1の実験結果2を示す図
【図8】従来例の生物学的特異的測定チップの断面図
【図9】従来例の生物学的特異的反応物質の存在を検出又は測定するシステムのブロック図
【図10】従来例の電圧印加時の生物学的特異的測定チップ電極部分の拡大図
【図11】従来例の電圧停止時の生物学的特異的測定チップ電極部分の拡大図
【符号の説明】
【0077】
1 電圧印加部
2 検出部
3 解析制御部
4 測定チップ
5 端子
6 コネクタ
7 上基板
8 下基板
9A,B 電極
10 反応部
11 点着口
12 空気孔
13 担体粒子
14 撮影部
15 ラテックス粒子
16、17 スライドグラス
18 導入路
19 交流電源供給装置
20 パールチェーン
21 オシロスコープ
22 顕微鏡
23 CCDカメラ
24 画像処理ボード
25 パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液中の生物学的特異的反応物質の存在を前記生物学的特異的反応物質と特異的に反応する物質が固定された担体粒子とを用いて検出する方法であって、
少なくとも
(A)前記測定チップの反応部に被検査物質と前記担体粒子を含む反応液を挿入する工程と、
(B)前記試料液と前記担体粒子を含む試料液に電圧を印加する工程と、
(C)工程B中に前記担体粒子群の凝集および分散の割合を検出する工程と、
(D)工程Bで印加した電圧を停止する工程と
(E)前記担体粒子群の凝集および分散の割合を検出する工程と
(F)工程Cで検出された結果と工程Dで検出された結果の両方に基づき、試料液中の生物学的特異的反応物質の存在を検出する工程と
を含む生物学的特異的反応性物質の測定方法。
【請求項2】
前記検出部が行う検出手段が、画像情報取得手段であることを特徴とする請求項1記載の生物学的特異的反応性物質の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−54321(P2010−54321A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219166(P2008−219166)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)