説明

生物由来の生理活性物質の測定方法、それを実行するためのプログラム及び、生物由来の生理活性物質の測定装置

【課題】エンドトキシンやβ−D−グルカンなどの生物由来の生理活性物質とLALとの反応を利用して前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定する際に、より高い測定精度を得ることが可能な測定方法及びそれを実行するプログラム、それを用いた測定装置を提供する。
【解決手段】所定の時間間隔をあけた二つの時刻における、試料とLALとの反応によって変化する物理量の差分値を各時刻で記録し、その差分値が閾値を通過した時刻を反応開始時刻と判定する差分法において、上記の二つの時刻の時間間隔を一定としない。時間間隔を測定開始からの時間関数として定義して経時的に変化するようにするか、または、予め時間間隔が異なる系列を複数用意しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシンやβ−D−グルカンなど、LALとの反応によってゲル化する特性を有する生物由来の生理活性物質を含有する試料中の該生理活性物質を検出しまたはその濃度を測定するための測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁に存在するリポ多糖であり、最も代表的な発熱性物質である。このエンドトキシンに汚染された輸液、注射薬剤、血液などが人体に入ると、発熱やショックなどの重篤な副作用を惹起するおそれがある。このため、上記の薬剤などは、エンドトキシンにより汚染されることが無いように管理することが義務付けられている。
【0003】
ところで、カブトガニの血球抽出物(以下、「LAL : Limulus amoebocyte lysate」ともいう。)の中には、エンドトキシンによって活性化されるセリンプロテアーゼが存在する。そして、LALとエンドトキシンとが反応する際には、エンドトキシンの量に応じて活性化されたセリンプロテアーゼによる酵素カスケードによって、LAL中に存在するコアギュロゲンがコアギュリンへと水解されて会合し、不溶性のゲルが生成される。このLALの特性を用いて、エンドトキシンを高感度に検出することが可能である。
【0004】
また、β−D−グルカンは真菌に特徴的な細胞膜を構成しているポリサッカライド(多糖体)である。β−D−グルカンを測定することによりカンジダやスペルギルス、クリプトコッカスのような一般の臨床でよく見られる真菌のみならず、稀な真菌も含む広範囲で真菌感染症のスクリーニングなどに有効である。
【0005】
β−D−グルカンの測定においても、カブトガニの血球抽出成分がβ−D−グルカンによって凝固(ゲル凝固)する特性を利用して、β−D−グルカンを高感度に検出することが可能である。
【0006】
このエンドトキシンやβ−D−グルカンなどの、カブトガニの血球抽出成分によって検出可能な生物由来の生理活性物質(以下、所定生理活性物質ともいう)の検出または濃度測定を行う方法としては、所定生理活性物質の検出または濃度測定(以下、単純に「所定生理活性物質の測定」ともいう。)をすべき試料とLALとを混和した混和液を静置し、LALと所定生理活性物質との反応によるゲルの生成に伴う試料の濁りを経時的に計測して解析する比濁法がある。
【0007】
上記の比濁法によって所定生理活性物質の測定を行う場合には、乾熱滅菌処理されたガラス製測定セルに測定試料とLALとの混和液を生成させる。そして、混和液のゲル化を外部から光学的に測定する。これに対し、測定試料とLALとの混和液を例えば磁性攪拌子を用いて攪拌することにより、ゲル微粒子を生成せしめ、ゲル粒子により散乱されるレーザー光の強度、あるいは、混和液を透過する光の強度から、試料中の所定生理活性物質の存在を短時間で測定できるレーザー光散乱粒子計測法(以下、単に光散乱法ともいう。)、あるいは、比濁法の一形態ではあるものの測定試料を攪拌して混和液におけるゲル化の状態を均一化し反応を促進する攪拌比濁法が提案されている。
【0008】
一方、試薬中に添加した凝固酵素に対する合成基質を予め入れておき、凝固酵素によって分解された合成基質が発色、あるいは、蛍光、さらには発光する現象を測定する方法があり、発色を利用した方法は比色法として所定生理活性物質の定量法の重要な測定手法の一つとして広く利用されている。
【0009】
ゲル化、あるいは発色を判定する手段として、ゲル化や発色に起因して変化する物理量が予め設定した閾値以上となりまたは閾値を越えた時点(以下、閾値を通過した時点と簡略化する。)を反応開始時間とする閾値法や一定時間における光透過率や吸光度の変化量の大きさを基準とする微分法などが利用されている。閾値法を用いた場合、試料中の所定生理活性物質の量と反応開始時間の関係は両対数において負の傾きの直線関係になることが知られている。また、光透過率、あるいは吸光度など、ゲル化や発色に起因して変化する物理量の時間変化曲線はロジスティック曲線に近似できる。従って、低濃度の所定生理活性物質と反応した場合には非常に緩慢な変化が見られ、高濃度の所定生理活性物質と反応した場合には急峻な変化が見られる。よって、どちらの反応にも同一の閾値を当てはめて反応開始時間を決定する場合には、閾値法では低濃度の試料に対しては測定時間が長期化するという不都合があった。
【0010】
一方、光透過率や吸光度の変化量を求める微分法ではそれらの変化量と作用させた所定生理活性物質の濃度の関係に直線関係が認められるが、直線関係が認められるのは狭い濃度範囲に限定されてしまい、高濃度と低濃度を同時に測定することが出来ない。
【0011】
これらの問題を解決するために光透過率や吸光度の時間曲線の面積を使用する面積法が提案されている。面積法では各時刻の面積値を記録し、その値が予め設定された閾値以上となりまたは閾値を越えた時点を所定生理活性物質の反応開始時間(検出時間)としている。しかし、実際には、LAL反応とは無関係に光透過率や吸光度が一定の割合で変化するような反応が観察されることがある(以下、この変化を「漸次減少/上昇」ともいう。)。図15はエンドトキシン反応による光透過率の経時変化の一例である。測定開始後約18分までの間、漸次減少現象が起き、光透過率が直線的に低下していることがわかる。そのような場合には、面積法ではLAL反応とは無関係に面積値が線形に増加してしまうため、所定生理活性物質を正しく測定できない場合があった。
【0012】
また、一定時間間隔をあけた2点の光透過率や光散乱粒子数の差分値を各時刻で記録し、その値が予め設定された閾値を通過した時点を検出時間とする差分法が考案されている。差分法では微分法と異なり変化量そのものと所定生理活性物質の濃度を関連付けるのではなく、閾値を通過するのに必要な時間と所定生理活性物質の濃度を関連付けているため微分法で見られたような測定可能な濃度範囲が狭いという不都合が解決されている。また、LAL反応とは無関係に起こる線形の光透過率や吸光度の変化があっても差分値を取ることにより、この変化は定数となるため容易に除去可能であり、測定精度を向上させることが可能となった。
【0013】
しかしながら、差分法においても、変化曲線の推移が緩慢な低濃度の所定生理活性物質の測定時には測定に必要な大きな差分値を得ることが出来ず、測定が困難になるおそれがあった。そのため、これらの不都合を解決した、広い濃度範囲の所定生理活性物質の測定が可能であって、LAL反応とは無関係な光透過率や吸光度などの変化の影響を受けない精度の高い測定法の確立が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−061314号公報
【特許文献2】特開平10−293129号公報
【特許文献3】国際公開第WO2008/038329号パンフレット
【特許文献4】特開2009−150723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的とするところは、カブトガニの血球抽出物であるLALと生物由来の生理活性物質との反応に起因して変化する物理量が閾値を通過する時刻を基準とした生物由来の生理活性物質の測定法において、より高い測定精度を得ることが可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、所定の時間間隔をあけた二つの時刻における、所定生理活性物質を含む試料とLALとの反応によって変化する物理量の差分値を継続的に取得し、その値が予め設定された閾値を通過した時刻を反応開始時刻と判定する差分法に関する。そして、本発明においては、上記二つの時刻の時間間隔を一定とせず、低濃度の試料の測定においても現実的な反応開始時刻が得られるように、時刻に応じて変更することを最大の特徴とする。
【0017】
より詳しくは、カブトガニの血球抽出物であるLALと所定の生物由来の生理活性物質を含む試料とを混和させ、該混和後において、LALと前記生理活性物質との反応に起因して変化する所定の物理量を継続的に検出値として取得し、
一の取得時刻における検出値と、前記一の取得時刻より所定時間間隔だけ前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値が閾値以上となり又は閾値を越えた場合に、該一の取得時刻をもって反応開始時刻とし、
前記反応開始時刻に基づいて前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定する、生物由来の生理活性物質の測定方法であって、
前記所定時間間隔を、前記一の取得時刻に応じて変更することを特徴とする。
【0018】
すなわち、所定生理活性物質の測定においてLALと所定生理活性物質の反応とは無関係に変化する漸次増加/減少が観察された場合には、一定の時間間隔による検出値の差分をとることで、漸次増加/減少の影響を除去し、所定生理活性物質の測定精度の向上を図ることができると考えられる。しかしながら、特に低濃度の所定生理活性物質の測定においては、検出値の変化量自体が小さいために、差分を取る際の時間間隔が狭いと充分な差分値を得ることができず、結果として所定生理活性物質の測定が困難になる場合があった。
【0019】
それに対し、本発明においては、差分を取るための時間間隔を、検出値の取得時刻に応じて変更することとした。すなわち、これまで測定が困難であったような差分値が非常に小さいような場合には差分を取るための時間間隔を長めに設定し、少なくとも現実的な時刻に上記差分が閾値を通過するようにした。これによれば、測定試料における所定生理活性物質の濃度が高濃度でも低濃度でも、所定生理活性物質の測定を高精度に行うことが可能となる。
【0020】
なお、上記の物理量としては、光透過率、吸光度、散乱光強度、光散乱粒子数、蛍光強度、化学発光強度などの光学的な強度、あるいは、試料の粘性や電気伝導度などの電気工学的な強度を例示することができる。
【0021】
また、本発明においては、前記LALと前記試料の混和液中に光を入射するとともに該入射した光のうちの前記混和液を透過した光または前記混和液により散乱した光の強度を継続的に検知し、
継続的に検知された前記光の強度より取得された光透過率、吸光度、散乱光強度、光散乱粒子数、蛍光強度、化学発光強度のうちいずれか一を検出値としてもよい。
【0022】
これによれば、非接触的な方法で、前記LALと前記試料の混和後において、LALと前記生理活性物質との反応に起因して変化する物理量を継続的に取得することが可能となり、より容易に、精度よく所定生理活性物質の測定を行うことができる。
【0023】
また、本発明においては、前記所定時間間隔を、前記一の取得時刻がより後になるほど長くするようにしてもよい。
【0024】
すなわち、差分を取得するための時間間隔を測定開始からの経過時間の時間関数で定義する。これによれば、所定生理活性物質の濃度が低く、二つの取得時刻において取得された検出値の差分が小さく、該差分値がなかなか閾値を通過しないような場合には、時間間隔を長くすることで相対的に差分値を大きくすることが可能である。その結果、所定生理活性物質の濃度が低い場合でも、前記差分値が閾値を通過し易くすることができ、現実的な測定時間で測定開始時刻を得ることが可能となる。
【0025】
また、本発明においては、前記所定時間間隔が一定に設定された取得時刻の系列であって互いに該所定時間間隔が異なる複数の系列を備え、
前記一の取得時刻に応じて、使用される系列を切り替えるようにしてもよい。
【0026】
ここでは、例えば所定時間間隔を1分毎とした系列と、6分毎とした系列と、30分毎とした系列とを備えるようにしてもよい。そして、前記物理量の取得時刻に応じて使用される取得時刻の系列を切り替える。例えば、所定生理活性物質の濃度が低く、2つの取得時刻において取得された検出値の差分が小さく、該差分値がなかなか閾値を通過しないような場合には、時間間隔が長い系列を使用するようにしてもよい。そうすれば、相対的に差分値を大きくすることが可能である。その結果、所定生理活性物質の濃度が低い場合でも、前記差分値が閾値を通過し易くすることができ、現実的な測定時間で測定開始時刻を得ることが可能となる。
【0027】
また、本発明においては、前記使用される系列は、前記一の取得時刻における検出値と、前記一の取得時刻より所定時間間隔だけ前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値が最も大きい系列としてもよい。
【0028】
すなわち、毎回の物理量の取得時刻において、複数の系列のうち、検出値の差分値が最大である系列を選び、その系列における差分値と閾値とを比較するようにする。そうすれば、各取得時刻において、常に最大の差分値と閾値とを比較することができる。従って、差分値が閾値を通過するまでの時間を可及的に短くすることができる。その結果、より効率的に所定生理活性物質の測定が可能になるとともに、差分値が閾値を通過することがなく測定が不可能になるといった不都合を解消することができる。
【0029】
また、本発明においては、前記一の取得時刻における検出値と、前記一の取得時刻より前記所定時間間隔だけ前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値を、取得時刻を変えて複数取得し、大きさ順に並べた場合の所定順位の値を基準差分値とし、前記差または差の絶対値から該基準差分値を差し引いた値が前記閾値以上となり又は前記閾値を越えた場合に、該一の取得時刻をもって反応開始時刻とするようにしてもよい。
【0030】
ここで、測定開始後の物理量の検出値に、漸次減少/上昇が生じている場合には、前記一の取得時刻における検出値と、前記一の取得時刻より前記所定時間間隔だけ前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値から、測定開始後初期に得られた差または差の絶対値を差し引くことによって、漸次減少/上昇の測定への影響を低減することが考えられる。
【0031】
しかしながら、検出値または、検出値との差または差の絶対値が小さい場合には、差し引く値を精度良く求めること自体が困難となり、高精度に、漸次減少/上昇の影響を除外することが困難となる場合があった。そこで、本発明においては、一の取得時刻における検出値と、一の取得時刻より所定時間間隔だけ前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値を、取得時刻を変えて複数取得しておき、大きさ順に並べた場合の所定順位の値を基準差分値とし、前記差または差の絶対値から該基準差分値を差し引いた値と閾値とを比較することとした。
【0032】
例えば、過去に得られた上記差または差の絶対値の値を、大きさ順に並べ替えて下位の5つのデータのうち、3番目に小さい値を基準差分値としてもよい。そうすることにより、検出値または、検出値との差または差の絶対値が小さい場合にも、差し引く値の信頼性を向上させることができ、より精度よく、漸次減少/上昇の測定への影響を低減することができる。
【0033】
また、本発明においては、前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであってもよい。
【0034】
そうすれば、最も代表的な発熱性物質であるエンドトキシンの検出または濃度測定がより正確に行なえ、エンドトキシンに汚染された輸液、注射薬剤、血液などが人体に入り、副作用が惹起されることを抑制できる。同様に、β−D−グルカンの検出または濃度測定がより正確に行なえ、カンジダやスペルギルス、クリプトコッカスのような一般の臨床でよく見られる真菌のみならず、稀な真菌も含む広範囲で真菌感染症のスクリーニングをより正確に行なうことが可能となる。
【0035】
また、本発明は、所定の生物由来の生理活性物質を含む試料とカブトガニの血球抽出物であるLALとの混和液を光の入射可能に保持するとともに該混和液における反応を進行させる混和液保持手段と、
前記混和液保持手段中の前記混和液を攪拌する攪拌手段と、
前記混和液保持手段中の混和液に光を入射する光入射手段と、
前記入射光の前記混和液における透過光または散乱光を受光し電気信号に変換する受光手段と、
前記受光手段において変換された電気信号から前記試料中における前記生理活性物質とLALとの反応開始時刻を判定する判定手段と、
予め定められた、前記反応開始時刻と前記生理活性物質の濃度との関係より、前記試料中の前記生理活性物質の存在または濃度を導出する導出手段と、を備え、
前記判定手段は、所定の時間間隔で設定された取得時刻における、前記電気信号に所定の演算を加えた信号または前記電気信号を検出信号値とし、一の取得時刻における検出信号値と、より前の取得時刻における検出信号値との差または差の絶対値が閾値以上となり又は閾値を越えた時刻をもって反応開始時刻と判定する生物由来の生理活性物質の測定装置であって、
前記判定手段は、前記所定の時間間隔を、前記一の取得時刻に応じて変更することを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定装置であってもよい。
【0036】
その場合、前記判定手段は、前記所定の時間間隔を、前記一の取得時刻がより後になるほど長くするようにしてもよい。
【0037】
また、前記判定手段は、前記所定の時間間隔が一定に設定された取得時刻の系列であって互いに該所定時間間隔が異なる複数の系列を備え、
前記一の取得時刻に応じて、使用される系列を切り替えるようにしてもよい。
【0038】
また、前記使用される系列は、前記一の取得時刻における検出値と、前記一の取得時刻より所定時間間隔だけ前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値が最も大きい系列であるようにしてもよい。
【0039】
また、前記一の取得時刻における検出値と、前記一の取得時刻より所定時間間隔だけ前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値を、取得時刻を変えて複数取得し、大きさ順に並べた場合の所定順位の値を基準差分値とし、前記差または差の絶対値から該基準差分値を差し引いた値が前記閾値以上となり又は前記閾値を越えた時刻をもって反応開始時刻と判定するようにしてもよい。
【0040】
また、前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであるようにしてもよい。
【0041】
また、本発明は、上記した生物由来の生理活性物質の測定方法を実行するためのプログラムであってもよい。
【0042】
なお、上記した本発明の課題を解決する手段については、可能なかぎり組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明にあっては、エンドトキシンやβ−D−グルカンなどの生物由来の生理活性物質とLALとの反応に起因して変化する物理量が閾値を通過する時刻を基準とした生物由来の生理活性物質の測定法において、より高い測定精度を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例における比濁計測装置の概略構成を示す図である。
【図2】通常差分法によって取得した吸光度の時間的変化の、エンドトキシン濃度による違いを示すグラフである。
【図3】通常差分法によって取得した吸光度差分値の時間的変化の、エンドトキシン濃度による違いを示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1における時間関数差分法によって取得した吸光度差分値の時間的変化の、エンドトキシン濃度による違いを示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1における時間関数差分法によるエンドトキシン測定を行うための測定ルーチンについてのフローチャートである。
【図6】本発明の実施例1に係る測定ルーチンにおける検出判定を行うサブルーチンについてのフローチャートである。
【図7】本発明の実施例2における多系列差分法によって取得した吸光度差分値の時間的変化の、エンドトキシン濃度による違いを示すグラフである。
【図8】本発明の実施例2における多系列差分法によるエンドトキシン測定の測定ルーチン2のフローチャートである。
【図9】各種差分法における、攪拌比濁法によるエンドトキシン測定の検量線の直線性を比較したグラフである。
【図10】本発明の実施例4に係る多系列差分法における、比色法によるエンドトキシン測定の検量線の直線性を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例5に係る多系列差分法における、攪拌比濁法によるβ―D−グルカン測定の検量線の直線性を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例6におけるLALビーズ法によるエンドトキシン測定に多系列差分法を適用した場合のエンドトキシン測定の検量線の直線性を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例7に係る多系列差分法において漸次減少/上昇が見られる際に、各時刻における差分値からバックグランド値として差し引く値を動的に更新した場合の、エンドトキシン測定の検量線の直線性を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例7における基準差分値算出サブルーチンを示すフローチャートである。
【図15】漸次減少/上昇が見られる場合の、エンドトキシン反応による光透過率の経時変化の例を示すグラフである。
【図16】エンドトキシンまたはβ―D−グルカンにより、LALがゲル化する過程及び、その検出方法について説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
LALとエンドトキシンとが反応してゲルが生成される過程(以下、リムルス反応ともいう。)はよく調べられている。すなわち、図16に示すように、エンドトキシンがLAL中のセリンプロテアーゼであるC因子に結合すると、C因子は活性化して活性型C因子となる、活性型C因子はLAL中の別のセリンプロテアーゼであるB因子を水解して活性化させ活性化B因子とする。この活性化B因子は直ちにLAL中の凝固酵素の前駆体を水解して凝固酵素とし、さらに、この凝固酵素がLAL中のコアギュロゲンを水解してコアギュリンを生成する。そして、生成したコアギュリンが互いに会合して不溶性のゲルをさらに生成し、LAL全体がこれに巻き込まれてゲル化すると考えられている。
【0046】
また、同様にβ−D−グルカンがLAL中のG因子に結合すると、G因子は活性化して活性型G因子となる、活性型G因子はLAL中の凝固酵素の前駆体を水解して凝固酵素とする。その結果、エンドトキシンとLALとの反応と同様、コアギュリンが生成され、生成したコアギュリンが互いに会合して不溶性のゲルをさらに生成する。
【0047】
この一連の反応は哺乳動物に見られるクリスマス因子やトロンビンなどのセリンプロテアーゼを介したフィブリンゲルの生成過程に類似している。このような酵素カスケード反応はごく少量の活性化因子であっても、その後のカスケードを連鎖して活性化していくために非常に強い増幅作用を有する。従って、LALを用いた所定生理活性物質の測定法によれば、サブピコグラム/mLオーダーのきわめて微量の所定生理活性物質を検出することが可能になっている。
【0048】
エンドトキシンならびにβ―D−グルカンを定量するための試薬としては、カブトガニの血球抽出物(LAL: Limulus amebocyte lysate)を原料としたリムルス試薬、ならびに、リムルス試薬に凝固酵素により加水分解され着色強度、蛍光強度、または化学発光強度のいずれかが増加する合成基質を添加した試薬が使用される。また、リムルス試薬中のC因子の組換え体(リコンビナントC因子)とその合成基質(着色、蛍光、化学発光かの手段は問わない)の混合試薬などが使用される場合もある。さらに、リムルス試薬中のG因子の組換え体(リコンビナントG因子)とその合成基質(着色、蛍光、化学発光かの手段は問わない)の混合試薬などを使用することも可能である。
【0049】
エンドトキシンとLALとの反応に起因して変化する物理量は、試薬の種類に応じて選択すればよい。試料の光透過率または、濁度、散乱光強度、光散乱粒子数、吸光度、蛍光強度、化学発光強度などの光学的な物理量の変化を検出するか、試料のゲル化に伴う試料の粘性、電気伝導度などの物理量の変化を検出すればよい。これらの物理量の検出には、濁度計、吸光光度計、光散乱光度計、レーザー光散乱粒子計測計、蛍光光度計、フォトンカウンターなどの光学機器、ならびに、これらを応用した専用の測定装置を使用することができる。また、粘度計、電気伝導率計やこれらを応用した専用の測定装置を使用しても構わない。
【0050】
エンドトキシンやβ−D−グルカンなどの所定生理活性物質を定量する測定法としては前述のように比濁法、攪拌比濁法ならびに、光散乱法が挙げられる。図16に示すように、これらの測定法はLALの酵素カスケード反応によって生成されるコアギュリンの会合物を前者は試料の濁りとして、後者は系内に生成されるゲルの微粒子の数として検出することで、高感度な測定を可能にしている。
【0051】
比濁法は、特別な試薬が不要である点と、測定可能な所定生理活性物質の濃度範囲が広い点などにおいて、現場での使い勝手のよさがあるという評価がある。しかしながら一方で、比濁法は、低濃度の所定生理活性物質を測定する場合には非常に長い時間を要する問題があった。これは、比濁法がプロテアーゼカスケードの最終産物であるコアギュリンそのものの生成量を見ているのではなく、それがさらに会合して形成されたゲルによって光の吸光度が増加していく過程を見ているためである。
【0052】
すなわち、コアギュリンの濃度がある程度以上の濃度に達しないとゲル化は生じないため、比濁法において所定生理活性物質が検出されるにはゲルが生じるまで待つ必要がある。そのため、所定生理活性物質の濃度が高い場合には速やかに必要充分濃度のコアギュリンが生成してゲル化が始まるため測定時間は短くなるが、所定生理活性物質の濃度が低いとゲル化に必要なコアギュリン濃度に達するのに時間がかかり測定時間が長くなってしまう。その点、攪拌比濁法においては所定生理活性物質とLALとの混和液を攪拌することで両者の反応を促進し測定時間の短縮が図られている。
【0053】
また、光散乱法は試料を攪拌する点とレーザーによりゲル化ではなく粒子を検出する点が比濁法からの改良点であり、比濁法に比べると測定時間を大幅に短縮することができる。比濁法及び攪拌比濁法と、光散乱法とでは、見ている物理量は異なるものの、ある一定の閾値を越えた時点を反応の開始点として捉える閾値法である点では共通である。
【0054】
ここで、上記のいずれの測定法においても、測定開始直後からリムルス反応の状態とは関係なく、比濁法と攪拌比濁法では混和液の吸光度が増加し、光散乱法では混和液におけるゲル粒子数が増加する漸次減少/上昇の現象が観察される場合がある。
【0055】
測定試料中の所定生理活性物質の濃度が高い場合には、漸次減少/上昇の影響を受ける前に混和液のゲル化が進み、凝集判定が完了するため、漸次減少/上昇の影響で測定精度が低下する危険性は比較的少ない。しかしながら、測定試料中の所定生理活性物質の濃度が低い場合には、濃度測定に長時間を要するため、漸次減少/上昇の影響で吸光度やゲル粒子数の変化曲線が閾値を実際より早期に越えてしまい、反応開始時刻の判定の精度が低下するおそれがある。
【0056】
本実施の形態においては、所定生理活性物質の検出または濃度測定において、漸次減少/上昇の現象が発生することに備え、試料とLALとの混和液における吸光度やゲル粒子数そのものが閾値を越えることに基づいて反応開始時刻を判定する手法は採用しない。所定の時間間隔で吸光度やゲル粒子数を取得し、その時間間隔における吸光度やゲル粒子数の差分値(変化量)が閾値以上となりまたは閾値を越えた時刻を反応開始時刻と判定する差分法を採用する。このことにより、漸次減少/上昇が発生しても、その影響を除去または低減することができ、所定生理活性物質とLALとの反応開始時刻の判定をより高精度に行うことができる。
【0057】
しかしながら、差分法を採用した場合においても、吸光度やゲル粒子数を取得する時間間隔を一定とした場合には、前述のように、吸光度やゲル粒子数の変化曲線の推移が緩慢な低濃度の所定生理活性物質の測定では、充分に大きい差分値を得ることが困難となり、現実的な時間内での測定が困難になる場合があった。
【0058】
そこで、本発明においては、差分法においてさらに、吸光度やゲル粒子数の差分を取得する際の時間間隔を、取得時刻に応じて変更することとした。より具体的には、吸光度やゲル粒子数の差分を取得する際の時間間隔を測定開始からの時間関数として定義して経時的に間隔が変化するようにするか、または、予め時間間隔が異なる系列を複数用意しておく。なお、以下の説明においては特に断らない限り、LALとエンドトキシンとを反応させることによるエンドトキシンの測定を例にとって説明する。
【0059】
〔製造例〕
所定生理活性物質の測定にはこれらが混入していない試薬、調製用水、ならびに、これらが付着していない実験器具の使用が不可欠である。試薬の溶解やエンドトキシン希釈系列の調製にはエンドトキシンの混入量が極めて微量である注射用水(大塚製薬製)を使用した。また、ピペットチップなどの消耗品にはエンドトキシンフリーと明記された個別包装された資材を使用した。また、測定容器はガラス製であるため、一般的なエンドトキシンを不活化する処理(乾熱処理)したものを使用した。
【0060】
<製造例1(測定用ガラス容器)>
測定用ガラス容器(φ6mm)に攪拌用のステンレス製の攪拌子(4.5mm、太さ0.7mm)を入れ、容器の開口部をアルミ箔で覆った。ガラス容器20本を束にしてさらにアルミ箔で覆ったものを1パッケージとし、このパッケージを複数集めて金属製の乾熱滅菌缶に入れて蓋をし、250℃で3時間乾熱処理を行った。
【0061】
〔実施例〕
以下に、差分法においてさらに、吸光度やゲル粒子数の差分を取得する際の時間間隔を、取得時刻に応じて変更する実施例について説明する。以下の実施例では、LALと所定生理活性物質との反応に起因して変化する物理量として吸光度を採用した。しかしながら、本発明は以下の実施例に例示した測定対象物質、測定試薬、ならびに測定対象の物理量に限定されるものではない。また、以下においては、上記した、時間関数によって定義される時間間隔で差分値を取得する手法を「時間関数差分法」と呼び、異なる時間間隔を有する複数の系列を用いて差分値を取得する手法を「多系列差分法」と呼ぶこととする。
【0062】
まず、本実施例において吸光度を取得するために使用した比濁計測装置について説明する。図1には、本実施例のエンドトキシンの測定装置としての比濁計測装置1の概略構成を示す。本実施例の比濁計測装置1では、攪拌比濁法によってエンドトキシンの測定を行う。本実施例においては、調製した希釈系列のエンドトキシンを含んだ試料を製造例1で製作した測定用ガラス容器(以下、キュベット)2に移注する。キュベット2の周囲を囲うように保温器5が設けられている。この保温器5の内部には図示しない電熱線が備えられており、この電熱線に通電されることにより、キュベット2を約37℃に保温するようになっている。このキュベット2の中にはステンレス製の攪拌子3が備えられている。この攪拌子3は、キュベット2の下部に設置された攪拌器4の作用によってキュベット2の中で回転する。すなわち、攪拌器4はモータ4aとモータ4aの出力軸に設けられた永久磁石4bとからなっている。そして、モータ4aに通電されることで永久磁石4bが回転する。この永久磁石4bからの磁界が回転するために、ステンレス製の攪拌子3が回転磁界の作用で回転する。この攪拌子3と攪拌器4とは攪拌手段に相当する。本実施例では攪拌子3の回転速度は1000rpmとした。
【0063】
なお、比濁計測装置1には光入射手段としての光源6と受光手段としての受光素子9が設置されている。光源6から出射した光はアパーチャ7を通過した後、保温器5に設けられた入射孔5aを通過してキュベット2中の試料に入射される。キュベット2中の試料を透過した光は保温器5に設けられた出射孔5bから出射され、アパーチャ8を通過して受光素子9に照射される。受光素子9では、受光した光の強度に応じた光電信号を出力する。この光電信号の出力は、判定手段及び導出手段としての演算装置10に入力される。演算装置10においては、予め格納されたプログラム(アルゴリズム)に従い、反応開始時刻の判定及び、エンドトキシン濃度の導出が行われる。なお、この他に導出されたエンドトキシン濃度を表示する表示装置を含めて比濁計測装置1としてもよい。以下の測定は、比濁計測装置1を用いて計測したものである。
【0064】
<比較例(時間間隔が一定の通常の差分法)>
本実施の形態ではまず、時間関数差分法ならびに多系列差分法の効果を実証するために、比較対象として時間間隔が一定の通常の差分法によるエンドトキシンの測定を行った。リムルス試薬として和光純薬製のリムルスES−IIシングルテストを使用した。エンドトキシンの濃度が1.0、0.1、0.01、0.001EU/mLの濃度の希釈系列を調製してリムルス試薬とキュベット2中で反応させた。比濁測定装置1(吸光度測定装置(EX−100:興和株式会社製))を使用して吸光度の記録及び解析を行なった。
【0065】
差分値の取得には上記したように時間間隔を一定とする方法を用いた。時間間隔は3分とし、経時的に差分値を記録しながら、吸光度差分値が閾値を越えた時刻を反応開始時刻(検出時刻)とした。閾値には0.003という値を用いた。各々の試料の吸光度変化曲線を図2に、吸光度差分値の経時変化曲線を図3に示す。
【0066】
図3を見て分かるように、吸光度差分値を取得する時刻の時間間隔を変化させない通常の差分法では、エンドトキシン濃度が1.0〜0.001EU/mLの濃度範囲ではエンドトキシンの測定が可能であったが、それ以下の濃度の0.0001EU/mLでは吸光度差分値が充分大きな数値とならず、閾値を越えることがなかったため検出することが不可能であった。
【0067】
<実施例1(時間関数差分法)>
次に、実施例1として、時間差分を取得する際の時間間隔を時間関数で定義する時間関数差分法について説明する。ここで、低濃度のエンドトキシンとLALとを反応させたときは吸光度の変化が緩慢であるため、時間とともに時間間隔が拡大していく関数を使用する必要がある。具体的には測定開始からの時刻に線形(1次関数)で変化させていっても良いし、2次関数や3次関数のような1変数多項式で定義して変化させても良い。あるいは、指数関数、対数関数などを利用しても良い。実際には、比濁測定装置1から得られる吸光度のデータは、例えば、1秒間隔などの固定された時間間隔でサンプリングされることが多いので、その場合は上記で例示した関数と装置固有の固定時間間隔の合成によって得られた不連続な時間間隔関数を取ることとしてもよい。
【0068】
ここでは、上記の比較例で得られた各々の吸光度変化曲線データを用いて、時間関数差分法により吸光度の差分値の変化を求めた。測定に使用した比濁計測装置1は1秒間隔でデータを出力する仕様になっているので、時間関数を連続関数で定義することは出来ない。ここでは、差分値を算出するための時間間隔I(分)は式(1)のような不連続関数として定義した。
I=floor(T/10)+1・・・・・(1)
ただし、Tは測定開始からの時間(分)である。
【0069】
また、関数floor(X)は床関数を示す。また、ここでは、閾値は0.01の一定値とした。本条件で時間関数差分法により吸光度の差分値の変化を求めた結果を、各々の希釈系列の試料に対する吸光度差分値の経時変化曲線として図4に示す。図4から分かるように、エンドトキシンの濃度が0.001EU/mL、0.0001EU/mLなどの低濃度の場合の吸光度差分値の曲線が、図3に示した比較例に対してより大きな値となっており、双方の場合において、現実的な測定時間で反応開始時刻の判定が可能となっている。
【0070】
なお、本実施例においては、測定の初期であってLALとエンドトキシンとの反応に漸次減少/上昇が現われないうちは吸光度の差分値も略一定の値となるため、差分値の初期値を記憶しておいて各時刻の差分値からバックグランド値として差し引いてもよい。このようにすれば、漸次減少/上昇の測定への影響を低減することが可能である。
【0071】
しかしながら、本実施例では時間間隔を時間関数で変化させていくので、漸次減少/上昇が線形性の変化であっても差分を取る時間間隔が拡大していくことで、漸次減少/上昇による差分値も時間関数で拡大していく。従って、漸次減少/上昇の測定への影響を完全に除去することはできない。それに対しては、反応初期の差分値をバックグランド値として記憶しておき、各取得時刻における時間間隔と初期の時間間隔の比を係数としてバックグランド値に乗じた値を各取得時刻において得られた差分値から差し引くなどの工夫をするとよい。
【0072】
また、本実施例における差分値の閾値は、上述のように測定開始からの時刻によらず一定の値を使用しても良いし、時間関数によって変化する閾値を利用しても良い。実際には、所定生理活性物質とLALとを反応させた場合の吸光度の変化は、所定生理活性物質の濃度が低いと非常に緩慢になってしまうため、時間関数を利用する場合には閾値の絶対値は時間とともに減少していくように設定してもよい。その際の時間関数としては1次関数、1変数多項式などが想定され利用することが可能である。
【0073】
あるいは、予め図3に示すような、各エンドトキシン濃度における吸光度差分値の時間変化のグラフが求められた場合に、各エンドトキシン濃度についての曲線のピークの例えば20%の値を結んだ曲線で、閾値を定義してもよい。そうすれば、エンドトキシン濃度が低い場合でも、より確実に差分値が閾値を越えるようにすることができる。また、閾値は測定開始からの経過時間に反比例するような曲線で定義してもよい。
【0074】
図5には、上記の時間関数差分法によるエンドトキシン測定を行うための測定ルーチンについてのフローチャートを示す。本ルーチンは測定の開始とともに演算装置10によって実行されるプログラムである。本ルーチンが実行されると、まず、S101において初期化動作が行われ、測定開始からの時間である変数Tの値がリセットされる。次にS102に進み、受光素子9が受光した光の強度に応じた光電信号のデータを演算装置10に取り込む。次に、S103に進み、式(1)によって、現時点のTの値に基づいて、差分値を算出するための時間間隔I(分)を演算する。
【0075】
次に、S104において、現時点が吸光度の初期値の記憶時刻か否かが判定される。本実施例においては、吸光度の初期値の記憶時刻は測定開始後の1秒後と設定されている。S104において肯定判定された場合にはS105に進む。一方、S104において否定判定された場合にはS106に進む。S105においては、受光素子9が受光した光の強度に応じた光電信号のデータの初期値(基準光強度)が記憶される。S106においては、現時点が予め定められたサンプリング時間か否かが判定される。このサンプリング時間の判定は、前回のサンプリング時間に対して、S103で算出されたサンプリング間隔が経過したか否かによって判定する。ここで肯定判定された場合にはS107に進む。一方、ここで否定判定された場合にはS102の処理の前に戻る。
【0076】
S106において肯定判定された場合、すなわち現時点がサンプリング時間である場合には、S107においては演算装置10内のメモリにおけるデータ配列を更新する。すなわち、S102で取り込まれたデータを最新のデータとしてメモリに格納する。次に、S108においては、現時点が予め定められた判定時刻か否かが判定される。ここで予め定められた判定時刻とは、最新のデータと前回のデータとの差分値と、予め定められた閾値とを比較して、反応開始時刻であるか否かを判定する時刻であり、この時刻はサンプリング時刻と同等に設定してもよいし、全く独立に設定しておいてもよい。S108において否定判定された場合にはS102の処理の前に戻る。一方、S108において肯定判定された場合にはS109に進む。
【0077】
S109においては、光透過率又は吸光度を算出する。光透過率は、データ配列のうち、最新のデータを予め取得しておいた試料がない状態におけるデータで除することで算出してもよい。また吸光度は、算出された光透過率を1から差し引くことで算出してもよい。次にS110においては、差分値を算出する。本実施例では、最新のデータから算出した光透過率または吸光度の値から、データ配列における一つ前のサンプリング時間に対するデータから算出した光透過率または吸光度の値を差し引くことによって算出してもよい。
【0078】
S111においては、基準差分値を算出する。本実施例においては、基準差分値は、測定開始後の2回目のサンプリング時刻においてサンプリングしたデータから算出した光透過率または吸光度から、1回目のサンプリング時刻にサンプリングしたデータから算出した光透過率または吸光度を差し引くことによって算出する。この基準差分値は、本測定における漸次減少/上昇の影響を除外するためのバックグラウンド値である。
【0079】
S112においては検出判定を行う。ここでは、基本的にはS110で算出した差分値からS111で算出した基準差分値を差し引いた値が、予め定めておいた閾値より大きいか否かを判定し、閾値より5回連続で大きいと判定された場合は反応開始時刻を検出したと判定し、閾値以下である場合は反応開始時刻を未だ検出していないと判定する。そして、ここで反応開始時刻を検出したと判定された場合には反応開始時刻の値と検出済であることが演算装置10のメモリに記憶される。この処理の詳細については後述する。
【0080】
S113においては、タイマTの値を更新する。そして、S114においては、反応開始時刻が検出済か否かが判定される。S112において反応開始時刻を検出したと判定され検出済と記憶されている場合には一旦本ルーチンを終了する。一方、S114において検出済でないと記憶されている場合にはS102の処理の前に戻る。
【0081】
次に、図6には、上記の測定ルーチンにおけるS112の検出判定を行うサブルーチンについてのフローチャートを示す。本サブルーチンが実行されると、まず、S1001において、S110で算出した差分値からS111で算出した基準差分値を差し引いた値が、予め定めておいた閾値より大きいか否かが判定される。ここで肯定判定された場合にはS1002に進む。一方、否定判定された場合にはS1007に進む。
【0082】
S1002においては、直前4回の判定においてもS1001の条件がクリヤされているか否かが判定される。ここで肯定判定された場合にはS1003に進む。一方、否定判定された場合にはS1007に進む。すなわち、S1002においては、S110で算出した差分値からS111で算出した基準差分値を差し引いた値が、予め定めておいた閾値より大きいという状態が5回連続でクリヤされたか否かが判定される。
【0083】
次に、S1003においては、反応開始時刻が検出されたと判定する。一方、S1007においては反応開始時刻が未検出であると判定する。S1004においては、S1003で反応開始時刻が検出されたと判定された際の時刻Tを検出時刻(反応開始時刻)とし、この検出時刻を表示するとともに演算装置10のメモリに記録する。
【0084】
S1005においては、予め取得しておいた、エンドトキシン濃度と反応開始時刻との関係を格納したマップ(検量線に相当する)から、エンドトキシン濃度を算出し、この値を表示するとともに演算装置10のメモリに記録する。S1006においては、検出判定済と演算装置10のメモリに記憶する。一方、S1008においては、検出判定済でないと演算装置10のメモリに記憶する。S1006またはS1008の処理が終了すると本ルーチンを終了し、測定ルーチンのS113の処理に進む。
【0085】
なお、図5で示した測定ルーチンのフローチャート及び、図6で示したサブルーチンのフローチャートは、本実施例における測定を行うためのルーチンの例であり、これらのフローチャートで示されたフローに限定されるという趣旨ではない。また、図6のS1002においては、S110で算出した差分値からS111で算出した基準差分値を差し引いた値が、予め定めておいた閾値より大きいという状態が5回連続でクリヤされたか否かが判定されたが、これは、測定精度を上げるための処置であり、上記の状態がクリヤされるべき回数が5回以外、例えば、1回でもよいことは当然である。
【0086】
<実施例2(多系列差分法)>
次に、本実施の形態の実施例2として、予め、時間間隔が異なる複数の系列を用意する場合について考える。この場合は、系列の数は2つ以上である必要がある。系列の数に上限はないが、より長時間の測定に対応するのであればより多くの系列を準備することで、より精度の高い測定を行うことが可能となる。実際には準備できる系列の数は解析に使用するコンピュータの記憶領域の大きさや処理能力によって制限される。また、測定可能な装置のチャンネルが多いとそれだけの系列を同時に準備する必要がある。そのため、系列の数としてはチャンネル当たり30以下であることが好ましく、10以下がさらに望ましい。
【0087】
各系列に割り当てられた時間間隔は任意であるが、実際には、5秒、10秒、15秒、20秒などの等間隔(1次関数)で割り当てたり、1秒、3秒、10秒、30秒のように指数関数的に増加するように割り当てたりすることが可能である。このような時間間隔で取得された差分値は吸光度の変化が前述の漸次減少/上昇を含まない場合は、測定開始初期の差分値は零となることが期待される。また、吸光度の変化が漸次減少/上昇を含む場合でも、各々の系列におけるサンプリング間隔は変化しないので、各系列において、差分値の初期値を記憶しておいて各時刻の差分値からバックグランド値として差し引いてもよい。このようにすれば、各系列において、漸次減少/上昇の測定への影響を完全に除去することができる。
【0088】
本実施例においては、比較例で得られた各々の吸光度変化曲線データを用いて、多系列差分法により吸光度差分値を求めた。差分値の取得に用いる系列数を3系列とし(系列名: S1、S2、S3)、それぞれの系列は60データの吸光度を保持できる配列を持つ。各系列のデータのサンプリング間隔はFirst In First Out(FIFO:配列内の一番古いデータを捨てて行き、新たに1つデータを追加していく手法)に従ってS1では1秒毎、S2では6秒毎、S3では30秒毎に吸光度の算出とデータの更新作業(最古データの削除と最新データの配列への記録)を行った。
【0089】
吸光度の差分値ΔABSの算出は以下の式(2)に示すように、系列ごとに配列の両端の値の差分を算出することにより得た。
ΔABS=A[60]−A[1]・・・・・(2)
ただし、A[60]は各々の系列が持つ配列中の60番目(最新)の吸光度データを示し、A[1]は各々の系列が持つ配列中の1番目(最古)の吸光度データを示す。式(2)に従いS1〜S3の全ての系列に関して吸光度の差分値を算出した。なお、各系列で初めて得られた吸光度の初期値P1、P2、P3を得た。取得のタイミングはP1が開始から1分、P2は6分、P3は30分の時点である。
【0090】
上記の条件で取得した吸光度差分値には漸次減少/上昇を多少含んでいるので、各々の系列の各時刻における吸光度の差分値から吸光度の初期値を差し引いた値を経時的に記録していき、いずれかの系列の吸光度の差分値が閾値を越えた時刻を反応開始時刻(検出時刻)とした。各々の試料の吸光度の差分値の経時変化曲線を図7に示す。図7から分かるように、エンドトキシンの濃度が0.001EU/mL、0.0001EU/mLなどの低濃度の場合の吸光度差分値の曲線が、図3に示した比較例に対してより大きな値となっており、双方の場合において、現実的な測定時間で反応開始時刻の判定が可能となっている。
【0091】
本実施例においても、差分値の閾値は、上述のように測定開始からの時刻によらず一定の値を使用しても良いし、時間関数によって変化する閾値を利用しても良い。実際には、所定生理活性物質とLALとを反応させた場合の吸光度の変化は、所定生理活性物質の濃度が低いと非常に緩慢になってしまうため、時間関数を利用する場合には閾値の絶対値は時間とともに減少していくように設定してもよい。その際の時間関数としては1次関数、1変数多項式などが想定され利用することが可能である。
【0092】
なお、時間間隔が異なる複数の系列を予め準備する場合は、各系列ごとに閾値を越える時刻が異なる。この場合、反応開始時刻を判定する方法としては、最初に通過した系列の時刻を採用する。または、先に通過した2系列の平均をとるなどいろいろな判定方法が考えられる。しかし、所定生理活性物質の濃度によっては1系列のみ閾値を越えることが考えられるため、確実に検出するには、反応開始時刻として閾値を最初に越えた系列の値を使用するのが望ましい。
【0093】
なお、本実施例においては、各系列ごとに異なる閾値を適用してもよい。例えば、系列S1については0.01、S2については0.005、S3については0.003などと定義してもよい。これにより、エンドトキシンの濃度が低い試料の測定においても、より確実に差分値が閾値を越えるようにすることができる。
【0094】
図8には、上記の多系列差分法によるエンドトキシン測定の測定ルーチン2のフローチャートを示す。本ルーチンは測定の開始とともに演算装置10によって実行されるプログラムである。本ルーチンが実行されると、まず、S201において初期化動作が行われ、測定開始からの時間である変数Tの値がリセットされる。次にS202に進み、受光素子9が受光した光の強度に応じた光電信号のデータを演算装置10に取り込む。
【0095】
次に、S203において、現時点がS1、S2、S3のいずれかの系列における初期値の記憶時刻か否かが判定される。ここで系列がS1の場合は、初期値の記憶時刻は測定開始後の1秒後と設定されている。また、系列がS2の場合は、初期値の記憶時刻は測定開始後の6秒後と設定されている。ここで系列がS3の場合は、初期値の記憶時刻は測定開始後の30秒後と設定されている。S203において肯定判定された場合にはS204に進む。一方、S203において否定判定された場合にはS205に進む。
【0096】
S204においては、各系列における光強度の初期値(基準光強度)が記憶される。より詳細には、S203で系列S1における初期値の記憶時刻と判定された場合にはS204において系列S1に対する基準光強度が記憶される。S203で系列S2における初期値の記憶時刻と判定された場合にはS204において系列S2に対する基準光強度が記憶される。S203で系列S3における初期値の記憶時刻と判定された場合にはS204において系列S3に対する基準光強度が記憶される。
【0097】
S205においては、S1用のサンプリング時間か否かが判定される。このサンプリング時間は、前回のS1用のサンプリング時間に対して、予めS1用に設定されたサンプリング間隔(1秒)が経過したか否かによって判定する。ここで肯定判定された場合にはS210に進む。一方、ここで否定判定された場合にはS206に進む。
【0098】
S206においては、S2用のサンプリング時間か否かが判定される。このサンプリング時間は、前回のS2用のサンプリング時間に対して、予めS2用に設定されたサンプリング間隔(6秒)が経過したか否かによって判定する。ここで肯定判定された場合にはS220に進む。一方、ここで否定判定された場合にはS207に進む。
【0099】
S207においては、S3用のサンプリング時間か否かが判定される。このサンプリング時間は、前回のS3用のサンプリング時間に対して、予めS3用に設定されたサンプリング間隔(30秒)が経過したか否かによって判定する。ここで肯定判定された場合にはS230に進む。一方、ここで否定判定された場合にはS240に進む。
【0100】
系列S1用のサンプリング時刻であった場合に実行されるS210〜S215の処理及び、系列S2用のサンプリング時刻であった場合に実行されるS220〜S225の処理及び、系列S3用のサンプリング時刻であった場合に実行されるS230〜S235の処理は、図5に示した測定ルーチンのS107〜S112の処理と同等である。よって、これらの処理の詳細な説明はここでは省略する。なお、本ルーチンでは、S211で否定判定された場合及びS215の処理が終了した場合は、S206の処理の前に進む。また、S221で否定判定された場合及びS225の処理が終了した場合は、S207の処理の前に進む。また、S231で否定判定された場合及びS235の処理が終了した場合にはS240に進み、タイマTの値が更新される。
【0101】
S241においては、系列S1〜S3のうち、いずれかの系列が検出済か否かが判定される。ここで肯定判定された場合には一旦本ルーチンを終了する。一方、否定判定された場合にはS202の処理の前に戻る。
【0102】
なお、図8で示した測定ルーチン2のフローチャートは、本実施例における測定を行うためのルーチンの例であり、これらのフローチャートで示されたフローに限定されるという趣旨ではない。
【0103】
<実施例3(各々の差分法の比較)>
比較例及び、実施例1、2に記載した手法により同一の測定データを解析し、エンドトキシン希釈系列水溶液試料の反応開始時刻が得られた。そこで、これらの方法によって得られた反応開始時刻を比較して、本実施の形態による手法の有効性を評価した。エンドトキシン濃度と反応開始時刻の関係は両対数プロットで示した場合に直線近似できることが知られている。ここでは、図9に示すように、エンドトキシン濃度(横軸)と反応開始時間(検出時間(縦軸))を各々対数にしてプロットした。各々のプロットは2回の測定の平均値として示した。
【0104】
比較例による、時間間隔を変化させない通常の差分法では、エンドトキシン濃度が1.0〜0.001EU/mLの濃度範囲ではエンドトキシンの検出が可能であったが、それ以下の濃度の0.0001EU/mLでは吸光度の差分値が充分大きな数値とならず、閾値を越えることがなかったため検出することが不可能であった。一方、本発明による時間関数差分法ならびに多系列差分法では1.0〜0.0001EU/mLという非常に広範囲の濃度でエンドトキシンを検出することができた。それぞれの差分手法によって得られたプロットの直線性(近似式と相関)について表1に示す。
【表1】

【0105】
図9及び表1から明らかなように、通常差分法の測定可能範囲はエンドトキシン濃度が0.001EU/mLの試料までが限界である。また、相関係数も他法に比べて低くなっている。プロットにおいて特に0.001EU/mLの濃度では近似式よりも上方に大きく乖離していることがこのことを裏付けている。一方、本実施の形態における2つの差分法に関しては近似式からのプロットの乖離も小さく、相関係数も非常に良好であった。特に多系列差分法では直線性がきわめて良好と言える。
【0106】
<実施例4(比色法用リムルス試薬の測定例)>
本実施例においては、比色法用リムルス試薬として生化学バイオビジネスのパイロクロムを用い、上記の実施例で使用した比濁測定装置1(EX−100)を用いてエンドトキシン希釈系列(1.0〜0.001EU/mL)の測定を行った。エンドトキシンの検出には多系列差分法を用いた。系列数、各系列のデータサンプリング間隔、各系列が保持する配列の要素数、吸光度差分値の算出方法などの条件は実施例2と全く同じ条件を利用した。反応開始時間(検出時間)をデータ数2の平均値で求め、エンドトキシン濃度との関係を両対数でプロットしたところ、図10に示すように、極めて高い直線性が得られた。近似式は式(3)で示されるものとなり、相関係数(|r|)は0.9988であった。
Y=9.0266X-0.2984・・・・・(3)
【0107】
<実施例5(β―D−グルカン測定試薬によるβ―D−グルカン測定例)>
本実施例においては、体外診断用医薬品β−グルカンテストワコーリムルス試薬(和光純薬製)を用いて30〜0.5pg/mLの濃度のβ―D−グルカン希釈系列の測定を行った。β―D−グルカンの検出には実施例2で使用した多系列差分法を用いた。系列数は3系列とし、S1のサンプリング間隔は1秒毎、以下、S2は6秒毎、S3は15秒毎とした。その結果、差分を取得する差分間隔はS1が1分、S2が6分、S3が15分となった。他の条件は実施例2に示した測定と同様にして測定した。β―D−グルカン濃度と測定で得られた反応開始時刻(検出時間)との関係を両対数でプロットしたところ、図11に示すように、極めて高い直線性を得ることができた。近似式は式(4)で示されるとおりとなり、相関係数(|r|)は0.9970であった。
Y=46.348X-0.3852・・・・・(4)
【0108】
<実施例6(LAL結合ビーズ法によるエンドトキシン測定例)>
本実施例においては、LAL結合ビーズ法(例えば、前出の特許文献4参照)を用いて1.0〜0.001EU/mLの濃度のエンドトキシン希釈系列の測定を行った。LAL結合ビーズ法においては、LAL中に含まれる蛋白質を、予め準備され薬液中に分散したビーズ(微粒子)の上に吸着または結合させた試薬を作る。そして、この試薬にエンドトキシンを含む試料を作用させることにより、微粒子同士を会合させて早期に大きな凝集塊を生成させ、この凝集塊の生成を検出することでエンドトキシンの測定を行う。
【0109】
エンドトキシンの検出には実施例2で使用した多系列差分法を用いた。系列数は3系列とし、S1〜S3の系列におけるサンプリング間隔などの解析条件は実施例2と同一とした。一方、LAL結合ビーズを用いた測定では、試料中に光散乱体であるビーズを多量に含むため、もともと濁っていた試料が凝集とともに透明化する。その過程においては、吸光度の差分値を取るよりも、光透過率の差分値を凝集判定に使用するほうが適当であることから、本実施例では実施例2と異なり光透過率の差分値をもって、凝集判定を行った。判定のための閾値はS1〜S3の全ての系列に対して2.0とした。エンドトキシン濃度と測定で得られた反応開始時刻(検出時間)との関係を両対数でプロットしたところ、図12に示すように、極めて高い直線性を得ることができた。近似式は式(5)で示されるとおりとなり、相関係数(|r|)は0.9960であった。
Y=4.307X-0.294・・・・・(5)
【0110】
<実施例7(比濁法用LAL試薬を用いたエンドトキシン測定例)>
本実施例においては、比濁法用LAL試薬を用いたエンドトキシン測定に本発明を適用した。エンドトキシンの検出には実施例2で使用した多系列差分法を用いた。系列数は3系列とし、S1〜S3の系列におけるサンプリング間隔などの解析条件は実施例2と同一とした。そして、吸光度の変化が漸次減少/上昇を含む場合に、各系列において、差分値の初期値を各時刻の差分値からバックグランド値として差し引くのではなく、差し引く値を動的に更新することとした。
【0111】
図13は比濁法用LAL試薬「パイロテル(登録商標:ケープコッド社製造、生化学バイオビジネス販売)」を用いたエンドトキシン測定例である。本実施例においては、1〜0.001EU/mLの範囲において、上記3の系列のサンプリング間隔を用いて7点の濃度のエンドトキシン希釈系列の測定を行った。
【0112】
本実施例では各サンプリング時間ごとに吸光度差分値を測定し、過去のサンプリング時間を含めて複数得られた吸光度差分値を系列毎に大きさ順に並べ替えて下位の5つのデータを更新・記録した。そして、各系列において3番目に小さい値を各系列における基準値としてその時点で得られている吸光度差分値から差し引いた。そして、その差し引いた値が閾値を超えるかどうかで反応開始時間の検出判定を行った。閾値は、サンプリング間隔が1秒あるいは6秒としたとき(系列S1及びS2において)は0.01とし、サンプリング間隔を30秒としたとき(系列S3において)は0.005とした。
【0113】
エンドトキシン濃度と測定で得られた反応開始時刻(検出時間)との関係を両対数でプロットしたところ、図13に示すように、極めて高い直線性を得ることができた。パイロテルは差分値が大きく変動する傾向があるため、吸光度の変化が漸次減少/上昇を含む場合に、各時刻における差分値から差し引く値を随時変更しながら判定を行う本実施例の方法は有効といえる。近似式は式(6)で示されるようになり、相関係数(|r|)は0.9955であった。
Y=11.191X-0.239・・・・・(6)
【0114】
図14には、本実施例における基準差分値算出サブルーチンについて説明する。この基準差分値算出サブルーチンは、本実施例において、図8に示した測定ルーチン2を実行した場合におけるS214、S224、S234の処理において実行されるサブルーチンである。本ルーチンが実行されるとまずS701において、各サンプリング時間ごとに吸光度差分値が取得される。
【0115】
S702においては、吸光度の差分値のデータが5データあるか否かが判定される。ここで肯定判定された場合にはS703に進む。一方、否定判定された場合にはS706に進む。S703においては、現時点の吸光度差分値が下位の5番目までに入るか否かが判定される。ここで肯定判定された場合にはS704に進む。一方、否定判定された場合にはS705に進む。
【0116】
S704においては、下位の5データを新たに取得されたデータを入れた上での下位の5データに更新する。S704の処理が終了するとS705に進む。S705においては、この時点における下から3番目のデータを基準差分値として設定する。なおS706においてはその時点における最小のデータを基準差分値として設定する。S705またはS706の処理が終了すると、S707に進み、S707において、基準差分値を決定、記憶して測定ルーチン2のメインルーチンに復帰する。ここで、図14で示した基準差分値算出サブルーチンのフローチャートは、本実施例における測定を行うためのルーチンの例であり、これらのフローチャートで示されたフローに限定されるという趣旨ではない。
【0117】
なお、上記の実施例においては、本発明を比濁測定装置1による攪拌比濁法に適用した例について説明したが、本発明は、攪拌を前提としない比濁法、撹拌比濁法以外の測方法、測定器について適用可能であることは当然である。また、上記の実施例においては吸光度などの物理量が閾値を越えた時刻をもって反応開始時刻とする例について説明したが、吸光度などの物理量が閾値以上となる時刻をもって反応開始時刻としてもよい。あるいは、透過光量、散乱光量、光散乱粒子数、蛍光強度、化学発光強度などの物理量が閾値を越えた時刻または閾値以上となる時刻をもって反応開始時刻としてもよい。
【0118】
また、上記の実施例で吸光度を検出値とした場合には、二の取得時刻における吸光度の差分が閾値を越えた時刻をもって反応開始時刻と判定したが、例えば光透過率を検出値とした場合は、時間とともに検出値は小さくなるので、このような場合は二の取得時刻における光透過率の差分の絶対値が閾値を越えた時刻をもって反応開始時刻としてもよい。
【0119】
また、上記の実施例においては、一の取得時刻における検出値または差分値として、実際には、その取得時刻の前後の複数のデータの平均値、あるいは中央値を用いてもよい。さらにはデータを大きさ順に並べ替えた上で、指定した順位の数値を用いるなどしてもよい。そのことにより、各取得時刻における検出値または差分値に対するノイズの影響を低減することができ、より精度のよい測定が可能となる。例えば、取得時刻の前後の合計30〜40のデータを平均してその取得時刻の検出値または差分値としてもよい。
【0120】
また、上記の実施例において、差分値が閾値を超えたか否かを判定する場合に、複数の取得時刻において連続して差分値が閾値を越えたことをもって、閾値を越えたと判定するようにするのがよい。これにより、反応開始時刻の判定におけるノイズの影響を低減することができ、より確実にエンドトキシンの測定精度を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0121】
1・・・比濁計測装置
2・・・ガラス容器(キュベット)
3・・・攪拌子
4・・・攪拌器
4a・・・モータ
4b・・・磁石
5・・・保温器
5a・・・入射孔
5b・・・出射孔
6・・・光源
7・・・アパーチャ
8・・・アパーチャ
9・・・受光素子
10・・・演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カブトガニの血球抽出物であるLALと所定の生物由来の生理活性物質を含む試料とを混和させ、該混和後において、LALと前記生理活性物質との反応に起因して変化する所定の物理量を継続的に検出値として取得し、
一の取得時刻における検出値と、前記一の取得時刻より所定時間間隔だけ前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値が閾値以上となり又は閾値を越えた場合に、該一の取得時刻をもって反応開始時刻とし、
前記反応開始時刻に基づいて前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定する、生物由来の生理活性物質の測定方法であって、
前記所定時間間隔を、前記一の取得時刻に応じて変更することを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項2】
前記LALと前記試料の混和液中に光を入射するとともに該入射した光のうちの前記混和液を透過した光または前記混和液により散乱した光の強度を継続的に検知し、
継続的に検知された前記光の強度より取得された光透過率、吸光度、散乱光強度、光散乱粒子数、蛍光強度、化学発光強度のうちいずれか一を検出値とすることを特徴とする請求項1に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項3】
前記所定時間間隔を、前記一の取得時刻がより後になるほど長くすることを特徴とする請求項1または2に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項4】
前記所定時間間隔が一定に設定された取得時刻の系列であって互いに該所定時間間隔が異なる複数の系列を備え、
前記一の取得時刻に応じて、使用される系列を切り替えることを特徴とする請求項1または2に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項5】
前記使用される系列は、前記一の取得時刻における検出値と、前記一の取得時刻より前記所定時間間隔だけ前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値が最も大きい系列であることを特徴とする請求項4に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項6】
前記一の取得時刻における検出値と、前記一の取得時刻より前記所定時間間隔だけ前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値を、取得時刻を変えて複数取得し、大きさ順に並べた場合の所定順位の値を基準差分値とし、前記差または差の絶対値から該基準差分値を差し引いた値が前記閾値以上となり又は前記閾値を越えた場合に、該一の取得時刻をもって反応開始時刻とすることを特徴とする請求項4に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項7】
前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項8】
所定の生物由来の生理活性物質を含む試料とカブトガニの血球抽出物であるLALとの混和液を光の入射可能に保持するとともに該混和液における反応を進行させる混和液保持手段と、
前記混和液保持手段中の前記混和液を攪拌する攪拌手段と、
前記混和液保持手段中の混和液に光を入射する光入射手段と、
前記入射光の前記混和液における透過光または散乱光を受光し電気信号に変換する受光手段と、
前記受光手段において変換された電気信号から前記試料中における前記生理活性物質とLALとの反応開始時刻を判定する判定手段と、
予め定められた、前記反応開始時刻と前記生理活性物質の濃度との関係より、前記試料中の前記生理活性物質の存在または濃度を導出する導出手段と、を備え、
前記判定手段は、所定の時間間隔で設定された取得時刻における、前記電気信号に所定の演算を加えた信号または前記電気信号を検出信号値とし、一の取得時刻における検出信号値と、より前の取得時刻における検出信号値との差または差の絶対値が閾値以上となり又は閾値を越えた時刻をもって反応開始時刻と判定する生物由来の生理活性物質の測定装置であって、
前記判定手段は、前記所定の時間間隔を、前記一の取得時刻に応じて変更することを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項9】
前記判定手段は、前記所定の時間間隔を、前記一の取得時刻がより後になるほど長くすることを特徴とする請求項8に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項10】
前記判定手段は、前記所定の時間間隔が一定に設定された取得時刻の系列であって互いに該所定時間間隔が異なる複数の系列を備え、
前記一の取得時刻に応じて、使用される系列を切り替えることを特徴とする請求項9に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項11】
前記使用される系列は、前記一の取得時刻における検出値と、前記一の取得時刻より所定時間間隔だけ前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値が最も大きい系列であることを特徴とする請求項10に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項12】
前記一の取得時刻における検出値と、前記一の取得時刻より所定時間間隔だけ前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値を、取得時刻を変えて複数取得し、大きさ順に並べた場合の所定順位の値を基準差分値とし、前記差または差の絶対値から該基準差分値を差し引いた値が前記閾値以上となり又は前記閾値を越えた時刻をもって反応開始時刻と判定することを特徴とする請求項10に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項13】
前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであることを特徴とする請求項8から12のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項14】
請求項1から7のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法を実行するためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−117812(P2011−117812A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274890(P2009−274890)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】