説明

生花の加工方法、および生花加工用処理液

【課題】特別な設備を必要とせず、かつ少ない工程で色むらのない着色を行うことのできる生花の加工方法、および生花加工用処理液を提供する。
【解決手段】容器11に無水エタノールおよびイソプロパノールの混合物を収容し、第1の処理液1を用意する。別の容器12には、無水エタノールおよびイソプロパノールの混合物300cc〜400ccに対して、アミノ酸、およびクエン酸をそれぞれ1g以下、チタニウムホワイト(二酸化チタン)を5重量%含有するように作成した第2の処理液2を用意する。脱水工程において、第1の処理液1に生花10を浸すことにより生花10から組織水を脱水する。吸収工程において、第2の処理液2に上記脱水処理された生花10を浸すことにより、二酸化チタンを生花10に吸収させる。乾燥工程において、第2の処理液2中から取り出した生花10を、大気中で常温乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生花の加工方法に関し、特に脱水処理した生花に顔料を吸収させる処理を含む生花の加工方法と、その方法に好適に使用される生花加工用処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生花を保存するための方法としては、ドライフラワー、プリザーブドフラワー、押し花等が知られている。生花をドライフラワー等に加工する際には、生花の組織水を脱水する処理や生花を乾燥させる処理が広く用いられている。
【0003】
また、顔料あるいは染料を混合したアルコール類の保存液に生花を浸すことにより、着色したドライフラワー等に加工する技法が提案されている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−41401号公報
【特許文献2】特開2004−203815号公報
【0005】
特許文献1は、色素を含む溶液中に生花を浸漬した状態で高圧処理を行うことにより生花内に色素を浸透させ、その後に乾燥処理を行うドライフラワーの製造方法を開示する。特に特許文献1は、色素(ビオラミンR(赤色)、サンセットエローFCF(黄色)、あるいは精製キノリンイエローWS(黄色))を含有させた水溶液とグリセリンの混合溶液中に、白色のバラの花を浸漬した状態で、500気圧の圧力で高圧処理を行い、その後水洗いし、常温で乾燥処理することで染色されたバラを得る方法を開示する。
【0006】
特許文献2は、切花の組織水を、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールと色素とを含む保存溶液に置換する保存花の制作方法を開示し、特に、メタノール、エタノール等のアルコール中に切花を浸し、切花中の組織水をアルコールに予備置換する工程と、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールと、メタノール、エタノール等のアルコールと色素とを混合して得た保存溶液に切花を浸す浸透工程とを含む切花の保存方法を開示する。
【0007】
ところで、白いバラ等の生花をドライフラワーやプリザーブドフラワーなどの保存花に加工する場合、生花が本来呈する白色をそのまま保持させあるいは再現することが難しいことが一般に知られている。この点、上記の特許文献2は、白いバラの染色や淡い色の保存花を制作するための一方法を提案している。すなわち、保存花を制作する際の白さや染色のばらつきの問題を解消するために、前記浸透工程の後に過酸化水素系の漂白剤による漂白工程を付加すること、前記浸透工程の時に真空ポンプや掃除機による減圧工程を付加すること、前記浸透工程の時に前記減圧工程と超音波やその他の振動機による振動工程とを付加することを開示する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1が開示する方法は、高圧により植物内に色素を浸透させるものであるため、短時間で処理が可能であり、大量生産に適した方法であると考えられる。しかしながら、500気圧、1000気圧といった高圧処理を行うための加圧装置が必要となるため、高額の設備投資や設置場所の確保が難しい小店舗の法人や個人事業主が導入するには不向きであると考えられる。
【0009】
他方、特許文献2が開示する方法は、白さや染色のばらつきの問題を解消するために漂白工程を付加している。この漂白工程には過酸化水素系の漂白剤が使用されるため、漂白工程の前後に無水エタノールで洗浄する工程が必要であり、作業が煩雑となりがちであるという問題がある。
また、減圧工程により保存液の吸収速度を高めることや、振動工程により保存液中の色素粒子を花弁の中に行き来させることによって、色むらを解消する効果が期待できるものであるが、減圧工程や振動工程が増えるために作業が煩雑となりがちであり、また、これらの追加工程を行うための設備が別途必要となるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、特別な設備を必要とせず、かつ少ない工程で色むらのない着色を行うことのできる生花の加工方法、および生花加工用処理液を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、特に、簡易な処理により色むらのない白色の加工花を得ることのできる生花の加工方法、および生花加工用処理液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明の生花の加工方法は、生花から組織水を脱水する脱水工程と、脂肪族の低級アルコール類からなる液に顔料を混合した処理液であって、前記顔料に対する水素イオン指数(pH)緩衝作用を有するよう調製された前記処理液中に、前記脱水処理された生花を浸し、前記顔料を前記生花に吸収させる吸収工程と、前記処理液中から取り出した前記生花を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の生花の加工方法において、前記脱水工程が、脂肪族の低級アルコール類からなる液中に生花を浸し、前記生花が含有する組織水を脱水する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の生花の加工方法において、前記吸収工程が、脂肪族の低級アルコール類からなる液に、クエン酸、クエン酸塩(クエン酸一ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸一カリウム)、酢酸、酢酸塩(酢酸ナトリウム)、L−酒石酸、およびL−酒石酸塩(L−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸水素カリウム)のうちから選択される1種または2種以上の成分と、アミノ酸、乳酸、および乳酸ナトリウムのうちから選択される1種または2種以上の成分と、顔料とを混合した処理液中に、前記脱水処理された生花を浸し、前記顔料を前記生花に吸収させる工程を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明の生花の加工方法は、生花から組織水を脱水する第1の処理工程と、脂肪族の低級アルコール類からなる液に、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、L−酒石酸、およびL−酒石酸塩のうちから選択される1種または2種以上の成分と、アミノ酸、乳酸、および乳酸ナトリウムのうちから選択される1種または2種以上の成分と、白色顔料とを混合した処理液中に、前記脱水処理された生花を浸し、前記白色顔料を前記生花に吸収させる第2の処理工程と、前記処理液中から取り出した前記生花を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の生花の加工方法において、前記第1の処理工程が、脂肪族の低級アルコール類からなる液に、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、L−酒石酸、およびL−酒石酸塩のうちから選択される1種または2種以上の成分と、アミノ酸、乳酸、および乳酸ナトリウムのうちから選択される1種または2種以上の成分と、白色顔料とを混合した予備処理液中に、生花を浸し、前記生花が含有する組織水を脱水するとともに前記白色顔料を予備吸収させる工程を含むことを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項4または5記載の生花の加工方法において、前記白色顔料が、チタニウムホワイト、シルバーホワイト、ジンクホワイト、白亜、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、胡粉、石膏、硫酸バリウム、およびアルミナホワイトのうちのいずれか1種または2種以上であることを特徴とする。
【0017】
請求項7記載の発明の生花加工用処理液は、脱水処理した生花に顔料を吸収させるための生花加工用処理液であって、顔料を混合した脂肪族の低級アルコール類からなる液の水素イオン指数(pH)が、前記顔料に対して緩衝作用を有するよう調製されていることを特徴とする。
【0018】
請求項8記載の発明の生花加工用処理液は、脱水処理した生花に顔料を吸収させるための生花加工用処理液であって、脂肪族の低級アルコール類からなる液に、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、L−酒石酸、およびL−酒石酸塩のうちから選択される1種または2種以上の成分と、アミノ酸、乳酸、および乳酸ナトリウムのうちから選択される1種または2種以上の成分と、顔料とを混合したことを特徴とする。
【0019】
請求項9記載の発明の生花の加工方法は、生花から組織水を脱水する脱水工程と、脂肪族の低級アルコール類からなる液に、タルク、シルクパウダー、パールパウダー、セリサイト粉末、マイカ粉末、ミリスチン酸亜鉛、無水ケイ酸粉末、軽質炭酸マグネシウム、カオリン、ベントナイト、コーンスターチ、ワキシースターチ、サゴスターチ、タピオカスターチ、小麦粉澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、および甘藷澱粉のうちから選択される1種または2種以上の粉末を白色顔料として混合した処理液中に、前記脱水処理された生花を浸し、前記白色顔料を前記生花に吸収させる吸収工程と、前記処理液中から取り出した前記生花を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
請求項10記載の発明は、請求項9記載の生花の加工方法において、前記脱水工程が、煮沸した水、酢、または酢の希釈液に、生花を浸し、前記生花が含有する組織水を脱水する工程を含むことを特徴とする。
【0021】
請求項11記載の発明の生花加工用処理液は、脱水処理した生花に顔料を吸収させるための生花加工用処理液であって、脂肪族の低級アルコール類からなる液に、タルク、シルクパウダー、パールパウダー、セリサイト粉末、マイカ粉末、ミリスチン酸亜鉛、無水ケイ酸粉末、軽質炭酸マグネシウム、カオリン、ベントナイト、コーンスターチ、ワキシースターチ、サゴスターチ、タピオカスターチ、小麦粉澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、および甘藷澱粉のうちから選択される1種または2種以上の粉末を白色顔料として混合したことを特徴とする。
【0022】
本発明者は、脱水処理された生花に顔料を均一に吸収させるための各種条件について鋭意各種の実験を行った結果、脂肪族の低級アルコール類からなる液に顔料を混合したある特定の組成の処理液を作成し、この処理液に脱水処理された生花を浸すことで、色むらのない加工花が得られることを見出し、第1の発明を完成した。すなわち、第1の発明は、脂肪族の低級アルコール類からなる液に顔料を混合した処理液であって、顔料に対する水素イオン指数(pH)緩衝作用を有するよう調製された処理液を作成し、脱水処理された生花を浸し、顔料を生花に吸収させるものである。
【0023】
本発明者は、第1の発明において、処理液中で、脱水処理された生花に顔料が均一に吸収される仕組みは、概して以下のとおりであると考えている。ここでは一例として、白色の生花に吸収させる顔料としてチタニウムホワイトを用いる場合について、その仕組みを説明する。
【0024】
低級アルコール類の液にチタニウムホワイトを混合する場合、チタニウムホワイトの成分である二酸化チタン(TiO)から水酸化チタンが生成される。水酸化チタンは基本的に水素イオン指数(pH)7の中性を示すが、液中の微量の不純物(容器の汚れや作業中に混入する塵等)の影響によりpH値は変化しpHは安定しない。
【0025】
水酸化チタンは、酸性の液中ではプラスに帯電し、塩基性の液中ではマイナスに帯電する。液のpHが中性(pH=7)付近では、プラスに帯電したイオンとマイナスに帯電したイオンが同時に存在するため、これらが電気的に引き寄せあい、液中で二酸化チタンの粒子が分散しにくい状態にあると考えられる。処理液中顔料の分散状態が不十分であると、脱水された生花に均一に吸収されにくいという問題があることが、各種の実験を通じて判明した。
【0026】
溶液中の両性電解質の代数和が0になる状態を等電点といい、一般に等電点は溶液の水素イオン指数(pH)で示されることが知られている。ここで、両性電解質とは、酸性と塩基性の両方の性質をもつ電解質をいい、ある種の金属の水酸化物では、酸性液中では塩基として作用し、また塩基性液中では酸として作用するものがあることが知られている。脂肪族のアルコール類に二酸化チタンを混合した場合に生成される水酸化チタンは、この両性電解質の性質を有していると考えられる。
【0027】
二酸化チタン・アナターゼ型の場合の等電点はpH=6.1となる。そこで、二酸化チタンを混合した脂肪族のアルコール類に、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、L−酒石酸、またはL−酒石酸塩等の弱酸を単独でまたは混合して適量添加し、処理液のpH値が顔料である二酸化チタンの等電点(pH=6.1)付近となるようにし、かつ、アミノ酸、乳酸、または乳酸ナトリウム等を適量添加することで、顔料に対するpH緩衝作用を有するよう調製する。すると、混合した二酸化チタンの粒子が処理液中で安定して分散した状態(沈降や凝集のしにくい状態)となる。
【0028】
このような処理液によれば、漂白工程等の追加の工程を経ることなく、処理液に脱水処理された生花を浸すだけで、顔料を生花に均一に吸収させることができ、作業性を大幅に向上させることができる。また、このような処理液は、繰り返し使用しても二酸化チタンの粒子の分散安定性が劣化しにくいため、安定した吸収処理を行うことができる利点がある。
【0029】
上記の顔料は、pH緩衝作用を有するよう調整された脂肪族のアルコール類からなる液に均一に混合しかつ分散しうるものであれば、例えば絵画の画材として一般に公知の各種・各色の顔料を用いることができるが、脂肪族の低級アルコール類に混合したときに金属の水酸化物を生成するような無機顔料が好適である。
例えば、白色顔料として、チタニウムホワイト(TiO)、シルバーホワイト(2PbCO・Pb(OH) 鉛白、フレークホワイトまたはクレムニッツホワイトともいう)、ジンクホワイト(ZnO)、白亜(CaCO)、重質炭酸カルシウム(CaCO)、沈降性炭酸カルシウム(CaCO)、胡粉、石膏(CaSO・2HO)、硫酸バリウム(BaSO)、およびアルミナホワイト(Al)のいずれか1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
白色以外の色の顔料に関し、赤色顔料としては、バーミリオン、およびカドミウムレッドがある。また、紫色顔料として、コバルトバイオレットがある。さらに、黒色顔料として、アイボリーブラック、ピーチブラック、ランプブラック、およびカーボンブラックがある。褐色顔料としては、イエローオーカー、ローシエナ、バーントシエナ、ライトレッド、ローアンバー、およびバーントアンバーがある。黄色顔料としては、イエローオーカー、オーピメント、カドミウムイエロー、およびオーレオリンがある。緑色顔料としては、テールベルト、マラカイト、カドミウムグリーン、ビリジャン(水和酸化クロム)、およびオキサイドオブクロム(酸化クロム)がある。さらに、青色顔料としては、天然または人工ウルトラマリン、アズライト、スマルト、プルシャンブルー、セルリアンブルー、およびコバルトブルーがある。
なお、チタニウムホワイト(二酸化チタン)を顔料として用いる場合、加工花に光触媒活性を付与するという付加的な利点がある。また、塩化コバルトを顔料として用いる場合、加工花の色が周囲の湿度に応じて色が変化し、湿度の変化を知らせるという付加的な利点がある。
【0030】
第1の発明の処理液に用いられる脂肪族の低級アルコール類には、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびそれらの混合物等が好適に用いられる。低級アルコール類のなかでも、無水エタノールおよびイソプロパノールの混合物が特に好適である。
【0031】
第1の発明の好ましい実施形態では、脂肪族の低級アルコール類からなる液に、クエン酸、クエン酸塩(例えば、クエン酸一ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸一カリウム)、酢酸、酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム)、L−酒石酸、およびL−酒石酸塩(例えば、L−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸水素カリウム)のうちから選択される1種または2種以上の成分と、アミノ酸、乳酸、および乳酸ナトリウムのうちから選択される1種または2種以上の成分と、顔料とを混合した、吸収処理用の処理液とすることができる。クエン酸、アミノ酸等の成分は、例えば、工業用あるいは食品用の添加物として市販されており、容易に入手可能である。
ここで、脂肪族の低級アルコール類の液中における顔料の等電点が顔料毎に異なることに留意して、クエン酸、アミノ酸等の成分の投入量を調整することが重要である。すなわち、脱水処理した生花に顔料を均一に吸収させるための生花加工用処理液の調製にあたっては、液のpH値を顔料の等電点付近に調整する作用および液のpH値を顔料の等電点付近に安定化させる作用を発現させるような適量の成分を投入する。
【0032】
第1の発明の生花の加工方法においては、吸収工程の前に行う脱水工程が、脂肪族の低級アルコール類からなる液中に生花を浸し、前記生花が含有する組織水を脱水する工程を含むことが好ましい。この脱水工程に用いる脂肪族の低級アルコール類は、吸収処理用の処理液と同様に、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびそれらの混合物等が好適に用いられ、低級アルコール類のなかでも、無水エタノールおよびイソプロパノールの混合物が特に好適である。
【0033】
また、第1の発明の一実施形態では、特に白色顔料を生花に吸収させるに際し、上記脱水工程の処理液として、吸収工程に用いる処理液と同様の組成に調整された液を予備処理液として用い、この予備処理液に生花を浸し、生花が含有する組織水を脱水するとともに白色顔料を予備吸収させることができる。このように予備吸収と本吸収の2段階の吸収処理を行うと、花の白色のトーンをより鮮明に再現することができる。
【0034】
本発明者はまた、特に白い生花について鋭意各種の実験を行った結果、脂肪族の低級アルコール類からなる液にある種の粉末を白色顔料として混合した処理液を作成し、脱水処理された生花を浸すことで、色むらのない白色の加工花が得られることを見出し、第2の発明を完成した。すなわち、第2の発明は、脂肪族の低級アルコール類からなる液に、タルク(滑石)、シルクパウダー(絹を粉砕処理した粉末)、パールパウダー(アコヤ貝の真珠層を粉砕し精製した粉末)、セリサイト(絹雲母)粉末、マイカ(雲母)粉末、ミリスチン酸亜鉛(ミリスチン酸の亜鉛塩)、無水ケイ酸(シリカ)粉末、軽質炭酸マグネシウム、カオリン(天然に産出する含水ケイ酸アルミニウム。白陶土ともいう。)、ベントナイト(天然のコロイド性含水ケイ酸アルミニウム)、コーンスターチ、ワキシースターチ、サゴスターチ、タピオカスターチ、小麦粉澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、および甘藷澱粉のうちから選択される1種または2種以上の粉末を白色顔料として混合した処理液を作成し、脱水処理された生花を浸し、顔料を生花に吸収させるものである。なお、上記した白色顔料の粉末は1種を単独でも、またはこれらの2種以上の粉末を混合して用いてもよい。
【0035】
第2の発明によれば、第1の発明とは対照的に、処理液のpH値を調整する成分および/または液のpH値を安定化させる成分を添加することなしに、脱水処理された生花に、所定の白色顔料を均一に吸収させることができる。
【0036】
第2の発明の処理液に用いられる脂肪族の低級アルコールには、第1の発明の処理液と同様に、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびそれらの混合物等が好適に用いられる。低級アルコール類のなかでも、無水エタノールおよびイソプロパノールの混合物が特に好適である。
【0037】
第2の発明の生花の加工方法においては、吸収工程の前に行う脱水工程が、煮沸した水、酢、または酢の希釈液に、生花を浸し、前記生花が含有する組織水を脱水する工程を含むようにすることができる。
【0038】
本発明は、ドライフラワー、プリザーブドフラワーおよび押し花の制作に好適に適用できるが、第1の発明は、ドライフラワー、プリザーブドフラワーの制作に特に有効であり、また、第2の発明は、押し花の制作に特に有効である。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、特別な設備を必要とせず、かつ少ない工程で色むらのない着色を行うことができる。また、簡易な処理により色むらのない白色の加工花を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の生花の保存方法の実施形態を、図面を参照して具体的に説明する。ここで、被加工対象とした生花は、バラの花の他、カサブランカ、テッポウユリ等のユリ系の花、デンファレ、カトレア等の蘭系の花、カラー(里芋科の花)としたが、あくまで一例であって、本発明はこれらの生花に限定されるものではない。また、用いた顔料は、白色顔料の二酸化チタン、タルクおよびコーンスターチとしたが、本発明は、これらの顔料に限定されるものではない。
【0041】
図1は、第1の発明における生花の加工方法の処理工程を示す説明図であり、生花から組織水を脱水する脱水工程(ステップS101)と、脂肪族の低級アルコール類からなる液に顔料を混合した所定の処理液中に、脱水処理された生花を浸し、顔料を生花に吸収させる吸収工程(ステップS102)と、この処理液中から取り出した生花を乾燥させる乾燥工程(ステップS103)とを含んでいる。ここでは、白色顔料として、チタニウムホワイト(二酸化チタン)を用いている。
【0042】
加工処理に先立ち、容器11に無水エタノールおよびイソプロパノールの混合物を収容し、第1の処理液1を用意する。無水エタノールとイソプロパノールは、1:9〜9:1の任意の混合比でよい。
また、別の容器12には、無水エタノールおよびイソプロパノールの混合物300cc〜400ccに対して、アミノ酸、およびクエン酸をそれぞれ1g以下、二酸化チタンを5重量%含有するように作成した第2の処理液2を用意する。この場合、図示しない小容器に投入した各当量のアミノ酸、クエン酸、および二酸化チタンに、無水エタノールおよびイソプロパノールの混合物を30cc〜40cc加えてペースト状に良く混合し、そのペースト状の混合物を、別の容器12に収容した無水エタノールおよびイソプロパノールの混合物に投入して混合することで、第2の処理液2を作成することができる。なお、無水エタノールとイソプロパノールは、1:9〜9:1の任意の混合比でよい。用意した第2の処理液2のpH値は、二酸化チタン・アナターゼ型の等電点であるpH=6.1付近にあり、また、二酸化チタンの粒子は第2の処理液2中で均一に分散した状態にあった。
【0043】
まず、脱水工程において、第1の処理液1に生花10を浸すことにより生花10から組織水を脱水する。浸漬時間は、バラの花では、6時間〜12時間、蘭系の花では24時間〜36時間、カラーでは24時間〜36時間とするのが好ましい。
【0044】
次の吸収工程において、第2の処理液2に上記脱水処理された生花10を浸すことにより、二酸化チタンを生花10に吸収させる。浸漬時間は、バラの花では、10分〜20分、蘭系の花では20分〜40分、カラーでは30分〜60分とする。
【0045】
そして、最後の乾燥工程において、第2の処理液2中から取り出した生花10を、大気中で常温乾燥させる。
以上の処理工程により、花部が均一に白色化されたドライフラワーが得られる。
【0046】
図2は、第1の発明における別の生花の加工方法の処理工程を示す説明図であり、脂肪族の低級アルコール類からなる液に白色顔料を混合した所定の処理液中に、生花を浸し、生花が含有する組織水を脱水するとともに白色顔料を生花に吸収させる予備吸収工程(ステップS201)と、脂肪族の低級アルコール類からなる液に白色顔料を混合した所定の処理液中に、脱水および予備吸収処理された生花を浸し、白色顔料を生花に吸収させる本吸収工程(ステップS202)と、この処理液中から取り出した生花を乾燥させる乾燥工程(ステップS203)とを含んでいる。
【0047】
図1に示す生花の加工方法の処理工程と異なる点は、ステップS101の脱水処理に代えて、図1における第2の処理液2と同様の組成のものを容器21に収容した第1の処理液3に生花10を浸すことで、生花10が含有する組織水を脱水するとともに二酸化チタンを予備吸収させる工程(ステップS201)を経るようにした点である。なお、別の容器22に収容した第2の処理液4は、図1における第2の処理液2と同様の組成のものを用い、予備吸収工程において脱水および白色顔料の予備吸収がされた生花を浸し、白色顔料を生花に本吸収させている。
図2に示す処理工程によっても、花部が均一に白色化されたドライフラワーが得られるが、花部をより鮮明に白色化させることができる。
【0048】
図3は、第2の発明における生花の加工方法の処理工程を示す説明図であり、生花から組織水を脱水する脱水工程(ステップS301)と、脂肪族の低級アルコール類からなる液に所定の粉末を白色顔料として混合した処理液中に、脱水処理された生花を浸し、顔料を前記生花に吸収させる吸収工程(ステップS302)と、この処理液中から取り出した生花を乾燥させる乾燥工程(ステップS303)とを含んでいる。ここでは、白色顔料として、タルク(滑石)またはコーンスターチの粉末を単独で用いている。
【0049】
加工処理に先立ち、容器31に水、酢、または酢を水で希釈した液を収容し、加熱沸騰させて第1の処理液5を用意する。また、別の容器32には、無水エタノールおよびイソプロパノールの混合物に対して、タルクまたはコーンスターチを10重量%投入した第2の処理液6を用意する。無水エタノールとイソプロパノールは、1:9〜9:1の任意の混合比でよい。
【0050】
まず、脱水工程において、第1の処理液5に生花10を浸すことにより生花10を脱水および酸化防止処理する。浸漬時間は、花の種類にもよるが、数秒〜420秒とする。
【0051】
次の吸収工程において、第2の処理液6に上記脱水処理された生花10を浸すことにより、タルクまたはコーンスターチを生花10に吸収させる。浸漬時間は、1分〜50分とする。
【0052】
そして、最後の乾燥工程において、第2の処理液6中から取り出した生花10を、常温乾燥、またはエーテル等の揮発性溶液に浸した後取り出して高速乾燥させる。
以上の処理工程により得られた加工花は、花部が均一に白色化されており、これを乾燥マット上で押圧すれば、所望の押し花を得ることができる。
【0053】
なお、上記の実施の形態において、加工花に柔軟性を付与するために、脱水工程に用いる処理液にグリセリン等の保湿成分を混合しても良い。また、乾燥工程は、加工花を乾燥させたことによる花の収縮を抑制するための特別な処理、例えば、砂、焼き砂等の粒状体の中に、顔料の吸収処理を施した生花を埋めて、乾燥剤とともに容器内に密封し乾燥させる処理を行うようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第1の発明における生花の加工方法の処理工程を示す説明図である。
【図2】第1の発明における別の生花の加工方法の処理工程を示す説明図である。
【図3】第2の発明における生花の加工方法の処理工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
1,3,5 第1の処理液
2,4,6 第2の処理液
10 生花
11,12,21,22,31,32 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生花から組織水を脱水する脱水工程と、
脂肪族の低級アルコール類からなる液に顔料を混合した処理液であって、前記顔料に対する水素イオン指数(pH)緩衝作用を有するよう調製された前記処理液中に、前記脱水処理された生花を浸し、前記顔料を前記生花に吸収させる吸収工程と、
前記処理液中から取り出した前記生花を乾燥させる乾燥工程と
を含むことを特徴とする生花の加工方法。
【請求項2】
前記脱水工程が、脂肪族の低級アルコール類からなる液中に生花を浸し、前記生花が含有する組織水を脱水する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の生花の加工方法。
【請求項3】
前記吸収工程が、脂肪族の低級アルコール類からなる液に、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、L−酒石酸、およびL−酒石酸塩のうちから選択される1種または2種以上の成分と、アミノ酸、乳酸、および乳酸ナトリウムのうちから選択される1種または2種以上の成分と、顔料とを混合した処理液中に、前記脱水処理された生花を浸し、前記顔料を前記生花に吸収させる工程を含むことを特徴とする請求項1または2記載の生花の加工方法。
【請求項4】
生花から組織水を脱水する第1の処理工程と、
脂肪族の低級アルコール類からなる液に、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、L−酒石酸、およびL−酒石酸塩のうちから選択される1種または2種以上の成分と、アミノ酸、乳酸、および乳酸ナトリウムのうちから選択される1種または2種以上の成分と、白色顔料とを混合した処理液中に、前記脱水処理された生花を浸し、前記白色顔料を前記生花に吸収させる第2の処理工程と、
前記処理液中から取り出した前記生花を乾燥させる乾燥工程と
を含むことを特徴とする生花の加工方法。
【請求項5】
前記第1の処理工程が、
脂肪族の低級アルコール類からなる液に、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、L−酒石酸、およびL−酒石酸塩のうちから選択される1種または2種以上の成分と、アミノ酸、乳酸、および乳酸ナトリウムのうちから選択される1種または2種以上の成分と、白色顔料とを混合した予備処理液中に、生花を浸し、前記生花が含有する組織水を脱水するとともに前記白色顔料を予備吸収させる工程
を含むことを特徴とする請求項4記載の生花の加工方法。
【請求項6】
前記白色顔料が、チタニウムホワイト、シルバーホワイト、ジンクホワイト、白亜、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、胡粉、石膏、硫酸バリウム、およびアルミナホワイトのうちのいずれか1種または2種以上であることを特徴とする請求項4または5記載の生花の加工方法。
【請求項7】
脱水処理した生花に顔料を吸収させるための生花加工用処理液であって、
顔料を混合した脂肪族の低級アルコール類からなる液の水素イオン指数(pH)が、前記顔料に対して緩衝作用を有するよう調製されていることを特徴とする生花加工用処理液。
【請求項8】
脱水処理した生花に顔料を吸収させるための生花加工用処理液であって、
脂肪族の低級アルコール類からなる液に、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、L−酒石酸、およびL−酒石酸塩のうちから選択される1種または2種以上の成分と、アミノ酸、乳酸、および乳酸ナトリウムのうちから選択される1種または2種以上の成分と、顔料とを混合したこと
を特徴とする生花加工用処理液。
【請求項9】
生花から組織水を脱水する脱水工程と、
脂肪族の低級アルコール類からなる液に、タルク、シルクパウダー、パールパウダー、セリサイト粉末、マイカ粉末、ミリスチン酸亜鉛、無水ケイ酸粉末、軽質炭酸マグネシウム、カオリン、ベントナイト、コーンスターチ、ワキシースターチ、サゴスターチ、タピオカスターチ、小麦粉澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、および甘藷澱粉のうちから選択される1種または2種以上の粉末を白色顔料として混合した処理液中に、前記脱水処理された生花を浸し、前記白色顔料を前記生花に吸収させる吸収工程と、
前記処理液中から取り出した前記生花を乾燥させる乾燥工程と
を含むことを特徴とする生花の加工方法。
【請求項10】
前記脱水工程が、煮沸した水、酢、または酢の希釈液に、生花を浸し、前記生花が含有する組織水を脱水する工程を含むことを特徴とする請求項9記載の生花の加工方法。
【請求項11】
脱水処理した生花に顔料を吸収させるための生花加工用処理液であって、
脂肪族の低級アルコール類からなる液に、タルク、シルクパウダー、パールパウダー、セリサイト粉末、マイカ粉末、ミリスチン酸亜鉛、無水ケイ酸粉末、軽質炭酸マグネシウム、カオリン、ベントナイト、コーンスターチ、ワキシースターチ、サゴスターチ、タピオカスターチ、小麦粉澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、および甘藷澱粉のうちから選択される1種または2種以上の粉末を白色顔料として混合したこと
を特徴とする生花加工用処理液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−320945(P2007−320945A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156660(P2006−156660)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(506192180)
【出願人】(502037258)株式会社コロネット (6)
【Fターム(参考)】