説明

産業車両のバケット角制御装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ショベルローダのような産業車両のバケット角制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、産業車両のバケット角制御装置、例えば特願昭63−6837号(特開平1−182419号)で提案されている。このバケット角制御装置は、作業時にブーム角が変化しても、バケットは常に設定角を保持するようにしたもので、これによってダンプトラック等に満載された土砂の荷切り作業を容易に行えるようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記従来のバケット角制御装置は、土砂の荷切り性をよくしたり、運転席からバケットの刃先を見易くするために、図1に示すように、バケットaを、バケット底の裏面が略水平となる姿勢(以下、単に「水平姿勢」とする)よりも下方へ傾斜させた姿勢で停止させ、この姿勢でブームbの角度が変化してもバケットaの角度(以下「荷切り角」とする)が変化しないように制御するものである。
【0004】このため、荷切り後にバケットaを降下させて新たに土砂の積込みを開始する場合、改めてバケットaを水平姿勢に戻す操作が必要となり、積込み作業へ円滑に移行し難く、また荷切り作業と積込み作業とを連続的に行えない等の不具合がある。本発明はかかる不具合を改善するためになされたもので、積込み作業へ円滑に移行し易くでき、又は荷切り作業と積込み作業とを連続して行えるようにした産業車両のバケッ角制御装置を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明なる産業車両のバケット角制御装置は、第1に、ブームシリンダの作動によって上下動自在とされたブームの先端に、バケットシリンダの作動によって前後傾自在とされたバケットを備える産業車両において、ームが地面に対してなすブーム角を検出するブーム角検出器と、バケットがブームに対してなすバケット角を検出するバケット角検出器と、バケットシリンダのストローク長さを検出するストローク検出器とを備え、ブーム角が所定の下方の角度範囲内にあり、かつブームが下降しているときは、バケットシリンダのストローク長さがバケットの接地時に底面が略水平状態となるストローク長さに達するまでバケットシリンダを作動させてバケットを後傾させるようにしている。
【0006】第2に、ブームシリンダの作動によって上下動自在とされたブームの先端に、バケットシリンダの作動によって前後傾自在とされたバケットを備える産業車両において、ブームが地面に対してなすブーム角を検出するブーム角検出器と、バケットがブームに対してなすバケット角を検出するバケット角検出器と、バケットシリンダのストローク長さを検出するストローク検出器とを備え、ブーム角及びバケット角に基づいてバケットが地面に対してなすバケット絶対角を演算し、ブーム角が所定の上方の角度範囲内にあり、かつ、バケット絶対角が所定の第1目標角となったとき、バケット絶対角が第1目標角を維持するようにバケットシリンダを作動させ、ブーム角が所定の下方の角度範囲内にあり、かつブームが下降しているときは、バケットシリンダのストローク長さがバケットの接地時に底面が略水平状態となるストローク長さに達するまでバケットシリンダを作動させてバケットを後傾させるようにしている。
【0007】
【作用】上記第1構成によれば、ブームを所定の下方の角度範囲で降下させると、バケットが接地状態で略水平姿勢となるように強制チルトされる。このため、荷切り作業から積込み作業へ移る際に、チルト操作なしに連続して行える。また上記第2構成によれば、第1構成の効果に加え、所定の上方の角度範囲においては、バケットが荷切り角なる第1目標角で自動停止し、ブームを上下動しても、バケットの荷切り角なる第1目標角は変化することがない。従って荷切り作業をチルト操作なしに円滑に行える。
【0008】
【実施例】実施例を図面を参照し詳述する。図2に示す例機なるショベルローダは、自走自在な車体1上に運転室3を備えると共に、前部に作業機2を備える。作業機2は、ブームシリンダ4により先端側を上下動自在とされたブーム5と、ブーム5の先端に取付けられてバケットシリンダ7によりリンク機構8(ベルクランク8a及びロッド8b)を介して前後傾自在とされたバケット6とを備える。尚、前後傾とは、いわゆる「ダンプ」なる前傾と、「チルト」なる後傾とである。
【0009】作業機2には、ブーム5の地面に対する上下動角θ2(以下、「ブーム角θ2」とする)を検出するブーム角検出器10と、バケット6のブーム5に対する前後傾角θ1(以下、「バケット角θ1」とする)を検出するバケット角検出器11とを設けてある。バケット角検出器11は、バケット角θ1検出の代替値として、バケットシリンダ7のストローク長さ、又は、ベルクランク8aのブーム5に対する回転角、若しくは、バケッ6のブーム5に対する回転角等を検出対象としている。
【0010】図3は、バケットシリンダ7の油圧回路と、そのコントローラ系とを示す。油圧回路に示す通り、バケットシリンダ7は、油圧ポンプ12からの圧油をバケット操作弁13で切り換えることによって伸縮す。また、このバケットシリンダ7は、油圧ポンプ14からの圧油を電磁弁15で切り換えることによっても伸縮する。
【0011】他方、コントローラ系は次の通り。前記バケット角検出器11及びブーム角検出器10が検出したバケット角θ1及びブーム角θ2は、第1演算器17に入力され、第1演算器17は、地面に対するバケット絶対角θ0を演算する。そして、バケット絶対角θ0が予め設定した第1目標角θ01(前記「荷切り角」である)と等しくなったとき(θ0=θ01)、出力器18は第1スイッチ19に信号を送ってONさせる。これにより、バケット操作レバー20を中立位置に戻すように(即ち、バケット操作弁13を中立位置に戻すように)、レバーデテント解除ソレノイド30を通電させている。詳しくは次の通り。尚、この通電時にオペレータが、レバーデテント解除ソレノイド30の解除力に抗してバケット操作レバー20を操作し続ければ、バケット6はオペレータの操作通りに前後傾することは説明するまでもない。
【0012】バケット操作レバー20が中立位置に戻ると、バケット操作レバー20に設けられたバケット操作レバー中立検出器21がこれを検出する。すると、第2スイッチ23及び第3スイッチ24がONする。第2スイッチ23がONすると、記憶器25がこのときのバケット絶対角θ0(前記「荷切り角θ01」である)を記憶する。
【0013】そこで、バケット操作レバー20を中立位置に戻したままで、オペレータがブーム操作を行なうと、バケット絶対角θ0はリンク機構8によって変化しようとする。そこで、第2演算器26は、記憶器25で先に記憶した荷切り角θ01、バケット絶対角θ0とから第1偏差角Δθ11(=θ01−θ0)を算出して第3演算器27に入力し、第3演算器27において次に詳記する出力信号を生じさせる。
【0014】尚、本実施例では、詳細は後述するが、図4に示すように、ブーム5の上下方向の全動作範囲θ20を、その略中間角θ2Mよりも上方の角度範囲θ22(「θ2>θ2M」であり「荷切り作業範囲θ22」である)と、下方の角度範囲θ21(「θ2<θ2M」であり「積込み作業範囲θ21」である)とに分けている。以下、順次説明する。
【0015】先ず、ブーム角θ2が荷切り作業範囲θ22内にある場合から説明する。このとき、第3演算器27は前記第1偏差角Δθ11(=θ01−θ0)を零にするための第1補正信号K・Δθ11を生ずる。
【0016】ところで今、バケット操作レバー20は中立位置であるため、前記の通り、第3スイッチ24がONしている。従って、第3演算器27で生じた第1補正信号K・Δθ11は、第3スイッチ24を経て増幅器28に入力する。尚、「K」は増幅器28に対する増幅係数である。増幅器28は、第1補正信号K・Δθ11に基づき、電磁弁15を駆動するための駆動電流Iを発生させ、この駆動電流Iを電磁弁15に入力する。電磁弁15は、駆動電流Iに基づき、第1偏差角Δθ11が零になるように(Δθ11=0)、即ちバケット絶対角θ0が荷切り角θ01となるように(θ0=θ01)、バケットシリンダ7に圧油を供給する。
【0017】以上を「要約」すれば、バケット3の前後傾時、バケット絶対角θ0が荷切り角θ01になると(θ0=θ01)、バケット操作弁13が中立位置に自動的に復帰する。そしてこのとき、オペレータがバケット操作レバー20を中立位置にしたままでブーム操作を行なっても、バケット絶対角θ0は荷切り角θ01を維持し続けるため(θ0=θ01)、荷切り作業を容易に行える。
【0018】本実施例は、さらに次の構成を有する。即ち、上記のようにして荷切り作業を終了後、引き続いて積込み作業を行うべく、ブーム5を下降させる。すると、バケット角制御装置は、別途備えたブーム下げを検出する検出スイッチ32からの信号と、ブーム角検出器10からのブーム角θ2とにより、下降中のブーム5が荷切り作業範囲θ22(θ2>θ2M)から積込み作業範囲θ21(θ2<θ2M)に入ると、これを判別する。この積込み作業範囲θ21(θ2<θ2M)において、第4演算器33は、「K|θ2M−θ2|」を演算する。さらに記憶器25から「θ01」を受け、またさらに第2演算器26において、バケット絶対角θ0を受けて「Δθ12=(θ01+K|θ2M−θ2|)−θ0」なる第2偏差角Δθ12算出し、第3演算器27に入力する。
【0019】第3演算器27は、前記「第1偏差角Δθ11(=θ01−θ0)を零にするための第1補正信号K・Δθ11を生じた」が、これと同様に、第2偏差角Δθ12を零にするための第2補正信号K|θ2M−θ2|を生じる。詳しくは次の通り。
【0020】第2偏差角Δθ12が零になると(Δθ120)、上式「Δθ12=(θ01+K|θ2M−θ2|)−θ0」は、式「θ0=K|θ2M−θ2|+θ01」となる。ここで、右辺の第2項なる「θ01」は、前記第1目標角θ01(即ち「荷切り角θ01」)であって先の積込み作業範囲θ21において既に確保された定数である。また、「θ2M」もブーム5の上下方向の全回動範囲θ20での略中間角であるからこれも定数である。そして「K」は、前記第1目標角θ01での「K(増幅係数)」と同様、増幅係数であり、これも定数として扱ってよい。即ち、積込み作業範囲θ21(θ2<θ2M)でのバケット絶対角θ0(=K|θ2M−θ2|+θ01)は、変数であるブーム角θ2より、このブーム角θ2が小さくなるほど、漸増するようになる(即ち、バケットは漸次チルトするようになる)
【0021】そしてこのバケット絶対角θ0は、ただ無闇に漸増するのではなく、次に詳細を説明するストローク検出器35による制限を受けることとなる。ストローク検出器35は、ショベルローダやショベルドーザ等のバケットシリンダ7に従来から設けられた周知のものである。その構成は図5に示すように、バケットシリンダ7のピストンロッド7aに接続されてこれと連動して移動する作動ロッド35aと、作動ロッド35aの先端位置を検出するスイッチ35bとから構成される。スイッチ35bは、バケットシリンダ7のストローク長さが、バケット6が地面に至った(接地した)ときにバケット6の底面が水平状態となるような長さになったことを検出するように、設定されている。
【0022】即ち、ブーム角θ2が積込み作業範囲θ21(θ2<θ2M)にある状態でブーム5が下降していくと、バケット6が漸次チルトしていく。具体的には、図2のリンク機構8に示す通り、バケットシリンダ7が伸長していく。バケット6の角度が、バケット6が接地したときにその底面が水平となるような角度になると、ストローク検出器35のスイッチ35bが信号を発信する。これにより、第3スイッチ24がOFFし、電磁弁15が中立位置となってバケットシリンダ7の伸長が停止する。この停止時には、バケット6は空中にあって水平姿勢ではないが、ブーム5をさらに下げてバケット6が接地すると、その接地時のバケット6は水平姿勢となっている。従って、積込み作業へ円滑に移行し易く、また荷切り作業と積込み作業とを連続して行える。
【0023】以上の実施例によるバケット6の挙動を、図6を参照して具体的に説明する。図6において、A点〜D点間は、ブーム角θ2が荷切り作業範囲θ22(θ2θ2M)内にあるときであり、D点〜F点間は、ブーム角θ2が積込み作業範囲θ21(θ2<θ2M)にあるときである。そして、D点はブーム角θ2が略中間角θ2Mであるときである。また、C点は、B点〜D点間でのオペレータによるバケット操作レバー20の操作で生ずる任意点である。詳しくは次の通り。
【0024】A点において、バケット6をフルにダンプさせてダンプトラック等に土砂を積み込み、そののちダンプトラック等の上の土砂を荷切りするために、バケット操作レバー20を操作してバケット6をチルトさせる(A点からB点へ)。このチルトによってバケット絶対角θ0が荷切り角θ01になると(θ0=θ01、B点)、その後、ブーム5を上下動させる(B点−C点間)。この上下動時、バケット絶対角θ0は荷切り角θ01を維持するので、荷切り作業を効率よく行える。荷切り作業完了後、新たな土砂をバケット6内に取り込むべく(即ち、積込み作業をすべく)、ブーム2を下降させる(C点からD点へ)。そしてブーム角θ2が略中間角θ2Mに至った(D点)後は、バケット6がチルトし、ブーム角θ2が小さくなるほどバケット絶対角θ0が漸増する(D点からE点へ)。そして、ストローク検出器35が「作動ロッド35aの先端位置を検出する」と(E点)、バケットシリンダ7は伸長を停止する。そしてさらにブーム2を下げてバケット6を接地させると(F点)、バケット6は水平姿勢となって接地する。
【0025】従って、バケット6を地上に接地させて土砂等のすくい込みを行なう時は、バケット6が自ずと略水平になるため、荷切り作業の後、ブーム2を下降させるのみでバケット6のチルト操作を必要とせずに連続して積み込み作業を行えるようになる。
【0026】
【発明の効果】この発明は以上詳述したように、ダンプトラック等の荷台に満載された土砂等を荷切りする際、バケットを荷切り角に停止してブームを上下動してもバケットの荷切り角が変化しないため、荷切り作業を容易かつ短時間で行える。
【0027】また荷切り作業後、改めて積込み作業を行うべくブームを下降させると、予め荷切り角に停止していたバケットがブームの下降に伴い強制チルトされて上での水平姿勢へと制御されるため、バケットのチルト操作を必要とせずに荷切り作業から積込み作業へと連続して行える。
【0028】これによって積込み作業等を能率よく行えると共に、荷切り時のバケット角がオペレータの作業し易い角度に設定できるため、作業性が一段と向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のバケット角制御装置の説明図である。
【図2】実施例なるバケット角制御装置を設けた産業車両の側面図である。
【図3】実施例なるバケット角制御装置の構成図である。
【図4】実施例なるパケット角制御装置の作用説明図である。
【図5】実施例なるバケット角制御装置に使用のストローク検出器の説明図である。
【図6】実施例なるバケット角制御装置の作用説明図である。
【符号の説明】
4:ブームシリンダ、5:ブーム、6:バケット、7:バケットシリンダ、10:ブーム角検出器、11:バケット角検出器、15:電磁弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ブームシリンダ(4)の作動によって上下動自在とされたブーム(5)の先端に、バケットシリンダ(7)の作動によって前後傾自在とされたバケット(6)を備える産業車両において、ブーム(5)が地面に対してなすブーム角(θ2)を検出するブーム角検出器(10)と、バケット(6)がブーム(5)に対してなすバケット角(θ1)を検出するバケット角検出器(11)と、バケットシリンダ(7)のストローク長さを検出するストローク検出器(35)とを備え、ブーム角(θ2)が所定の下方の角度範囲(θ21)内にあり、かつブーム(5)が下降しているときは、バケットシリンダ(7)のストローク長さがバケット(6)の接地時に底面が略水平状態となるストローク長さに達するまでバケットシリンダ(7)を作動させてバケット(6)を後傾させるようにしたことを特徴とする産業車両のバケット角制御装置。
【請求項2】 ブームシリンダ(4)の作動によって上下動自在とされたブーム(5)の先端に、バケットシリンダ(7)の作動によって前後傾自在とされたバケット(6)を備える産業車両において、ブーム(5)が地面に対してなすブーム角(θ2)を検出するブーム角検出器(10)と、バケット(6)がブーム(5)に対してなすバケット角(θ1)を検出するバケット角検出器(11)と、バケットシリンダ(7)のストローク長さを検出するストローク検出器(35)とを備え、ブーム角(θ2)及びバケット角(θ1)に基づいてバケット(6)が地面に対してなすバケット絶対角(θ0)を演算し、ブーム角(θ2)が所定の上方の角度範囲(θ22)内にあり、かつ、バケット絶対角(θ0)が所定の第1目標角(θ01)となったとき、バケット絶対角(θ0)が第1目標角(θ01)を維持するようにバケットシリンダ(7)を作動させ、ブーム角(θ2)が所定の下方の角度範囲(θ21)内にあり、かつブーム(5)が下降しているときは、バケットシリンダ(7)のストローク長さがバケット(6)の接地時に底面が略水平状態となるストローク長さに達するまでバケットシリンダ(7)を作動させてバケット(6)を後傾させるようにしたことを特徴とする産業車両のバケット角制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【図6】
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【特許番号】特許第3537099号(P3537099)
【登録日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【発行日】平成16年6月14日(2004.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−197741
【出願日】平成5年7月16日(1993.7.16)
【公開番号】特開平7−34483
【公開日】平成7年2月3日(1995.2.3)
【審査請求日】平成12年7月17日(2000.7.17)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【参考文献】
【文献】特開 昭63−151728(JP,A)
【文献】特開 平1−43629(JP,A)
【文献】特開 平1−182419(JP,A)
【文献】特開 平2−190530(JP,A)