説明

田植機の植苗機構用密封装置

【課題】田植機の植苗機構に用いられる密封装置において、泥面や泥水中に繰り返し没入される過酷な条件でも長期にわたって優れた密封性を維持し得る密封装置を提供する。
【解決手段】爪支持ハウジング1のアーム部11の軸孔11aに密封的に取り付けられると共に、前記軸孔11aに軸方向往復動可能に挿通された植苗ロッド3の外周面と軸方向摺動可能に密接されるダストリップ212を有するシール本体210と、その外側にあって、基端221が前記アーム部11側に密封的に固定されると共に、植苗動作時に下向きとなる先端222の内周が前記植苗ロッド3の外周に遊嵌された剛性材料からなる筒状カバー220とを備える。筒状カバー220は、シール本体210側への泥水の侵入を、内部に閉じ込められた空気及びラビリンスシール作用によって抑止するものであり、植苗ロッド3の外周面に対して遊嵌状態となっているので、摺動による摩耗を生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機の植苗機構に装着されて、植苗爪から苗を押し出す植苗ロッドの軸周を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来技術による密封装置を装着した田植機の植苗機構の一部を示す断面図、図5は、図4の密封装置を拡大して示す断面図である。図4に示されるように、田植機の植苗機構は、爪支持ハウジング1と、この爪支持ハウジング1から突設された植苗爪2と、前記爪支持ハウジング1から突出したアーム部11の軸孔11aに挿通され先端に植苗爪2の突出方向に沿って動作可能な苗押し出し部31を有する植苗ロッド3と、この植苗ロッド3を爪支持ハウジング1及びアーム部11に対して相対的に軸方向往復動させるためのカム装置4及びバネ5とを備えている。
【0003】
アーム部11における軸孔11aの開口端部には、密封装置10が装着されている。この密封装置10は、図5に示されるように、植苗ロッド3の外周面に摺動可能に密接されることによって、爪支持ハウジング1内に封入されたグリースが植苗ロッド3の軸周隙間から流出するのを防止する対油リップ10aと、その外側に位置し、植苗ロッド3の外周面に摺動可能に密接されることによって、爪支持ハウジング1の内部へ泥が侵入するのを防止するダストリップ10bを一体に有する。
【0004】
上記植苗機構は、植苗爪2が爪支持ハウジング1と共に図示の断面上で鉛直方向に細長い楕円状の回転軌跡を描くように移動し、その過程で、植苗爪2の先端部が不図示の苗供給台の下端部を経由して田の泥面に所要の深さまで没入されるようになっている。そして、植苗爪2が降下して行く過程で、前記苗供給台の下端部から一株分の稲苗を取り込み、植苗爪2の先端部が泥面に没入される際に、バネ5で付勢された植苗ロッド3によって、苗押し出し部31が植苗爪2に取り込まれた稲苗を押し出し、前記泥面に植え付けるものである(例えば特許文献1,2参照)。
【0005】
しかしながら、苗押し出し部31を有する植苗ロッド3の先端部及びその近傍は、当該植苗機構の周期的な植苗動作に伴って、泥面や泥水中に繰り返し没入されるため、密封装置10のダストリップ10bが、泥中へ没入される際の抵抗(泥圧)によって外側から変形を受ける。このため植苗ロッド3との摺動抵抗が大きくなり、しかも摺動部に泥水が介入しやすいため、早期に摩耗して密封性が損なわれ、軸孔11aへの泥水の侵入や爪支持ハウジング1内からのグリースの漏洩が発生するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−69828号公報
【特許文献2】特開2000−139144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、田植機の植苗機構に用いられる密封装置において、泥面や泥水中に繰り返し没入される過酷な条件でも長期にわたって優れた密封性を維持し得る密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る田植機の植苗機構用密封装置は、植苗機構の爪支持ハウジングの軸孔に密封的に取り付けられると共に、内周に前記軸孔に軸方向往復動可能に挿通された植苗ロッドの外周面と軸方向摺動可能に密接されるダストリップを有するシール本体と、このシール本体の外側にあって、基端が前記爪支持ハウジング側に密封的に固定されると共に、植苗動作時に下向きとなる先端の内周が前記植苗ロッドの外周に遊嵌された剛性材料からなる筒状カバーとを備えるものである。
【0009】
上記構成において、シール本体は、爪支持ハウジングの軸孔へ外部泥や泥水等が侵入するのを防止するものである。また、筒状カバーは剛性材料からなるため、植苗動作に伴う泥への没入時に、泥圧によって容易に変形することがなく、内部に閉じ込められた空気及びラビリンスシール作用によって、シール本体側への泥水の侵入を抑止すると共に、泥圧によるダストリップの変形を防止するものであり、植苗ロッドの外周面に対して遊嵌状態となっているので、摺動による摩耗を生じない。
【0010】
なお、ここでいう剛性材料とは、典型的には金属材料であるが、機械的強度が大きく容易に変形しない合成樹脂を用いても良い。
【0011】
また、請求項2の発明に係る田植機の植苗機構用密封装置は、請求項1に記載の構成において、筒状カバーの先端の内周に合成樹脂又はゴム状弾性材料からなる環状体を取り付けたものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1又は2の発明に係る田植機の植苗機構用密封装置によれば、シール本体が、その外側から筒状カバーで包囲されることにより、植苗ロッドとの摺動部へ泥等が侵入するのを防止され、しかも泥圧によるダストリップの変形が確実に防止されるので、泥面や泥水中に繰り返し没入される過酷な条件でも、シール本体による密封性を長期にわたって維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る田植機の植苗機構用密封装置の第一の形態を、植苗機構と共に示す断面図である。
【図2】図1の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明に係る田植機の植苗機構用密封装置の第二の形態を示す断面図である。
【図4】従来技術による密封装置を装着した田植機の植苗機構の一部を示す断面図である。
【図5】従来技術による密封装置を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る田植機の植苗機構用密封装置の第一の形態を、植苗機構の一部と共に示す断面図、図2は、図1の要部を拡大して示す断面図である。
【0015】
まず図1に示される植苗機構は、先に説明した図4と同様の構成を備えるものであって、すなわち爪支持ハウジング1と、この爪支持ハウジング1におけるアーム部11に複数のボルト21によって取り付けられたフォーク状の植苗爪2と、前記アーム部11に開設された軸孔11aに挿通され先端に植苗爪2の突出方向に沿って動作可能な苗押し出し部31を有する植苗ロッド3と、この植苗ロッド3を軸方向往復動させるカム装置4及びバネ5とを備える。
【0016】
詳しくは、爪支持ハウジング1は、第一の水平軸心Oの周りに回転される回転ハウジング6の、前記第一の水平軸心Oから離れた端部に、第二の水平軸心Oを介して回転可能に取り付けられており、図1における反時計方向への回転ハウジング6の回転運動と、この回転ハウジング6に対する爪支持ハウジング1の相対回転運動が、回転ハウジング6内の不図示のギヤ機構を介して連動するようになっている。そして、このような回転ハウジング6と爪支持ハウジング1との複合運動によって、植苗爪2の先端が、図示の断面上で、鉛直方向に細長い楕円状の回転軌跡を描くように反時計回りに移動し、その過程で、植苗爪2の先端が、不図示の苗供給台の下端を経由して田の泥面に所要の深さまで没入されるようになっている。
【0017】
爪支持ハウジング1におけるケース状本体12の内室12aに収納されたバネ5は、この爪支持ハウジング1におけるアーム部11の軸孔11aに挿通された植苗ロッド3を、前記軸孔11aから外側へ常時突出する方向に付勢するものである。一方、カム装置4は、前記内室12aに配置されて、第二の水平軸心Oと同心のカム軸の周りに回転されるカム41と、一端42aがこのカム41の外周カム面に摺動可能に接触されると共に、他端42bが植苗ロッド3の内端とリンクされ、第三の水平軸心Oを中心として揺動される揺動アーム42とを備える。
【0018】
すなわちカム装置4は、カム41が図1における反時計回りに回転するのに伴って、揺動アーム42の一端42aが、カム41の外周カム面の大径部へ乗り上がって行くと、これに伴い、第三の水平軸心Oを中心として揺動される揺動アーム42の他端42bが、植苗ロッド3をバネ5の付勢力に抗して爪支持ハウジング1への没入方向へ変位させる。そして、更にカム41が回転して行くと、やがて揺動アーム42の一端42aが前記外周カム面の最大径部41aから外れるので、この時点で、バネ5が植苗ロッド3を突出方向へ変位させ、これに伴い、図1に一点鎖線で示されるように、植苗ロッド3の先端の苗押し出し部31が、植苗爪2の先端へ向かって押し出し動作するようになっている。また、この苗押し出し部31の押し出し動作は、植苗爪2が下降してその先端部が泥面に没入される際に行われる。
【0019】
なお、参照符号7は、バネ5による植苗ロッド3の突出動作の際に、揺動アーム42と弾性的に接触することによって、植苗ロッド3のストロークを規制する弾性ストッパであり、ゴム状弾性材料からなる。
【0020】
上述の構成を備える植苗機構は、植苗爪2が楕円状の回転軌跡を描きながら下降する過程で、フォーク状の植苗爪2が、そのスリット2aの先端部へ不図示の苗供給台の下端から一株分の稲苗を取り込み、更に下降して植苗爪2の先端部が泥面に没入される際に、バネ5によって植苗ロッド3が下降し、その先端の苗押し出し部31が、植苗爪2に取り込まれた稲苗を押し出して、前記泥面に植え付けるように植苗動作するものである。
【0021】
参照符号200は、本発明の第一の形態に係る密封装置であって、爪支持ハウジング1の軸孔11aの内周に配置されたシール本体210と、その外側に配置された筒状カバー220とからなる。
【0022】
詳しくは図2に示されるように、シール本体210はゴム状弾性材料で成形されたものであって、爪支持ハウジング1において植苗動作時に下向きとなるアーム部11の軸孔11aの開口端部内周面に密嵌される筒状嵌着部211と、この筒状嵌着部211の軸方向外側の端部に形成されて、アーム部11の外側を向いたダストリップ212と、その軸方向内側の端部に位置して前記筒状嵌着部211の内周に形成され、外側(ダストリップ212側)を向いた第二リップ213とを備える。
【0023】
ダストリップ212及び第二リップ213は、先端内周に形成されたシールエッジ部212a及び213aにおいて、植苗ロッド3の外周面に摺動可能に密接され、外部の泥や水などを密封対象とするものである。また、ダストリップ212の内周面には、シールエッジ部212aの内側に位置して、円周方向に連続した突条212bが形成されている。この突条212bは、植苗ロッド3が、図1に示されるバネ5によって下方へ押出し動作する過程で、ダストリップ212の内周面が植苗ロッド3の外周面にベタ当たりするのを防止するものである。
【0024】
シール本体210には、金属環214が一体的に埋設されている。この金属環214は、金属板の打ち抜きプレス成形等によって製作されたものであって、シール本体210の筒状嵌着部211に埋設された補強筒部214aと、その軸方向外側端部から外周側へ展開して、シール本体210のダストリップ212の基部外周へ突出し、爪支持ハウジング1のアーム部11の先端面に当接された鍔部214bとからなる。そして、ゴム状弾性材料からなる筒状嵌着部211は、軸孔11aの内周面に、金属環214の補強筒部214aとの間で径方向に適当に圧縮されることにより、所定の面圧をもって密着固定されている。
【0025】
筒状カバー220は、例えば鋼板等、剛性の大きい金属板を円錐筒状に打ち抜きプレス成形したものであって、シール本体210のダストリップ212の外側を覆うように延び、その大径側の基端フランジ221は、金属環214の鍔部214bに形成したカシメ部214cにカシメ固定されており、植苗動作時に下向きとなる先端の内向きフランジ222の内周は、植苗ロッド3の外周面に適当な隙間Gをもって遊嵌されている。また、前記基端フランジ221は、シール本体210におけるダストリップ212の基部212cから外周側へ延びて金属環214の鍔部214bに接着された弾性膜212dに密着状態に圧接されている。
【0026】
この筒状カバー220は、シール本体210の筒状嵌着部211を、金属環214の鍔部214bが爪支持ハウジング1のアーム部11の先端面に当接するまで、このアーム部11の軸孔11aに圧入することによって、シール本体210と同時に爪支持ハウジング1に装着され、外部からシール本体210側へ泥や水が侵入するのを防止するものである。
【0027】
なお、基端フランジ221は請求項1に記載された「基端」に相当するものであり、内向きフランジ222は請求項1に記載された「先端」に相当するものである。
【0028】
以上の構成において、図1に示される植苗機構は、先に説明したように、植苗爪2が、下降の過程で不図示の苗供給台の下端から稲苗を取り込んで泥面に没入され、その際に、カム装置4とバネ5からなる機構によって植苗ロッド3が下降して、苗押し出し部31が植苗爪2に保持された稲苗を押し出し、前記泥面に植え付けるように動作する。このため、爪支持ハウジング1のアーム部11やその下部から露出した植苗ロッド3の先端部は、泥や泥水に繰り返し接触されることになるが、シール本体210の外側は、剛性の高い金属板からなる筒状カバー220によって覆われており、この筒状カバー220は、田に張られた水や泥面に没入する際に容易に変形することがないため、シール本体210のダストリップ212が泥や泥水へ没入されることによる変形を受けることがなく、確実に保護される。
【0029】
ここで、筒状カバー220の先端の内向きフランジ222と、その内周を軸方向往復動する植苗ロッド3の外周面との間には、環状の隙間Gがあるが、この隙間Gは、通過しようとする流体に圧力損失を生じせしめるラビリンスシール機能を奏する。しかも、筒状カバー220の内向きフランジ222は、田に張られた水や泥面に没入する植苗動作時には下向きとなっており、筒状カバー220の内側空間Sは、上端が、基端フランジ221と弾性膜212dとの密着によって密封されているので、植苗動作によって前記隙間Gの下側が泥水等の雰囲気になると、筒状カバー220の内側空間Sに残留する空気は逃げ場がなくなる。このため、前記隙間Gから泥水等が筒状カバー220内へ容易に侵入することができず、シール本体210側への泥や水の侵入が有効に抑えられる。
【0030】
したがって、シール本体210におけるダストリップ212及び第二リップ213の摺動部への泥の介入による摩耗が防止され、その優れた密封性が長期間にわたって維持される。
【0031】
次に図3は、本発明に係る植苗機構用密封装置における第二の形態を示す断面図である。この形態において、先の図2に示される第一の形態と異なるところは、内向きフランジ222の内周に、植苗ロッド3の外周面との金属接触を防止するため、摩擦係数が著しく低く耐摩耗性に優れたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)あるいはゴム状弾性材料からなる環状体223を、一体的に接合したことにある。環状体223と植苗ロッド3の間には、適当な隙間Gが存在している。
【0032】
また、この形態において、筒状カバー220は、大径側の基端フランジ221が、シール本体210における金属環214の鍔部214bにカシメ固定されたものではなく、前記基端フランジ221に形成したカシメ筒部221aを、爪支持ハウジング1におけるアーム部11の先端部外周面に形成した係合突条11bにカシメ固定してある。筒状カバー220の基端フランジ221は、シール本体210におけるダストリップ212の基部212cから外周側へ延びて金属環214の鍔部214bに接着された弾性膜212dに密着状態に圧接されている。
【0033】
上述の構成を備える第二の形態においても、基本的には第一の形態と同様、剛性の高い金属板からなる筒状カバー220が、シール本体210をその外側から保護し、泥圧によるダストリップ212の変形や、シール本体210側への泥や水の侵入を有効に抑えることができる。また、植苗ロッド3に径方向の軸振れがあっても、筒状カバー220の内向きフランジ222との金属接触を防止することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 爪支持ハウジング
11 アーム部
11a 軸孔
11b 係合突条
2 植苗爪
3 植苗ロッド
200 密封装置
210 シール本体
211 筒状嵌着部
212 ダストリップ
213 第二リップ
214 金属環
214a 補強筒部
214b 鍔部
214c カシメ部
220 筒状カバー
221 基端フランジ(基端)
222 内向きフランジ(先端)
223 環状体
G 隙間
S 内側空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植苗機構の爪支持ハウジング(1)の軸孔(11a)に密封的に取り付けられると共に、内周に前記軸孔(11a)に軸方向往復動可能に挿通された植苗ロッド(3)の外周面と軸方向摺動可能に密接されるダストリップ(212)を有するシール本体(210)と、このシール本体(210)の外側にあって、基端(221)が前記爪支持ハウジング(1)側に密封的に固定されると共に、植苗動作時に下向きとなる先端(222)の内周が前記植苗ロッド(3)の外周に遊嵌された剛性材料からなる筒状カバー(220)とを備えることを特徴とする田植機の植苗機構用密封装置。
【請求項2】
先端(222)の内周に合成樹脂又はゴム状弾性材料からなる環状体(223)を取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の田植機の植苗機構用密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−239785(P2011−239785A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168086(P2011−168086)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【分割の表示】特願2005−269674(P2005−269674)の分割
【原出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】