説明

画像処理ユニット、および画像処理プログラム

【課題】入力されているフレーム画像に撮像されている物体の影響を抑え、且つ撮像エリア内の明るさの変化等の環境変化に応じたモデルの更新を適性に行うことで、フレーム画像に撮像されている物体の検出精度の向上を図った画像処理ユニットを提供する。
【解決手段】画像入力部3に入力されたフレーム画像に物体が撮像されていると、画像処理部4は、背景が撮像されている領域に位置する画素については、その画素の画素値により、確率モデル、および予測モデルを算出し、更新する。一方、画像処理部4は、車両が撮像されている領域に位置する画素については、背景領域に位置する画素であって、且つ、その画素と確率モデル、および予測モデルが類似する画素の画素値を用いて、確率モデル、および予測モデルを更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ビデオカメラ等の撮像装置が撮像している撮像エリアのフレーム画像を処理して、このフレーム画像に撮像されている物体を検出する画像処理ユニット、および画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビデオカメラ等の撮像装置を利用して、不審者の侵入や、不審物の放置を監視する監視システムが実用化されている。この種の監視システムでは、撮像装置の撮像エリアを、不審者の侵入や、不審物の放置を監視する監視対象エリアに合わせている。また、撮像装置で撮像している監視対象エリアのフレーム画像を処理し、撮像されている物体(不審者や不審物等)を検出する画像処理ユニットを備えている。上位装置は、画像処理ユニットにおける物体の検出結果に応じて、係員に対して物体の検出を通知する報知や、検出した物体が撮像されているフレーム画像を表示器に表示する等の処理を行う。
【0003】
画像処理ユニットは、入力されたフレーム画像の画素毎に、背景モデルを用いて、背景が撮像されている背景画素、または背景でない物体が撮像されている前景画素のいずれであるかを判定する。また、この判定結果に基づいて、背景が撮像されている背景領域と、物体が撮像されている前景領域と、で区別した2値化画像を生成する。この2値化画像における前景領域が、物体が撮像されている領域であり、その大きさや形状から物体の種別等を推定することも行われている。
【0004】
画像処理ユニットは、上述した2値化画像の生成に用いる背景モデルを、監視対象エリア内の明るさの変化等の環境変化に対応させるために、撮像装置が撮像しているフレーム画像を用いて更新している。このため、フレーム画像に物体が撮像されていると、この物体が撮像されている前景領域に位置する画素ついては、撮像されている物体の影響を受けた背景モデルに更新される。その結果、物体を背景として誤検出したり、反対に、背景を物体として誤検出することになる。
【0005】
そこで、フレーム画像において、物体が静止する可能性が高い画像領域については、作成する背景モデルに与える影響を小さくするために、他の画像領域よりも学習率を小さくする(更新頻度を小さくする)方法、学習率の異なる2つの背景モデルを利用する方法等が提案されている(非特許文献1、2等参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Arslan Basharat, Alexei Gritai, Mubarak Shah.Learning object motion patterns for anomaly detection and improved object detection. Computer Vision and Pattern Recognition,pp1-8,2008.
【非特許文献2】Fatih Porikli, Yuri Ivanov, Tetsugi Haga. Robust adandoned object detection using durl foregrounds.EURASIP Journal on Advances in Signal Processing,2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1、2等で提案されている従来の手法は、フレーム画像に撮像されている背景でない物体が静止している場合、この物体を背景としてみなした背景モデルに更新されるまでの時間を延ばしているにすぎない。したがって、この物体が静止している時間が、この物体を背景としてみなした背景モデルに更新されるまでの時間よりも長くなると、撮像されている物体の影響を受けた背景モデルに更新される。
【0008】
また、フレーム画像において、物体が撮像されている領域については、背景モデルの更新を行わないように制限することも考えられる。しかし、この場合には、静止している物体が撮像されている間、この領域については背景モデルが更新されない。したがって、この間における監視対象エリア内の明るさの変化等の環境変化に対応することができず、物体が移動したときに、背景が撮像されているにもかかわらず、新たな物体が撮像されていると誤検出することがある。
【0009】
この発明の目的は、入力されているフレーム画像に撮像されている物体の影響を抑え、且つ撮像エリア内の明るさの変化等の環境変化に応じたモデルの更新を適性に行うことで、フレーム画像に撮像されている物体の検出精度の向上を図った画像処理ユニット、および画像処理プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の画像処理ユニットは、上記課題を解決し、その目的を達するために以下のように構成している。
【0011】
画像入力部には、ビデオカメラ等の撮像装置で撮像している撮像エリアのフレーム画像が入力される。確率モデル記憶部は、フレーム画像の画素毎に、過去における、その画素の画素値の頻度をモデル化した確率モデルを記憶する。この確率モデルは、例えば、ガウス分布の密度関数である。また、予測モデル記憶部は、フレーム画像の画素毎に、その画素の画素値の時系列推移をモデル化した予測モデルを記憶する。この予測モデルは、例えば、指数平滑法によるモデルである。
【0012】
また、2値化画像生成部は、画像入力部に入力されたフレーム画像の画素毎に、確率モデル記憶部に記憶している該当する画素の確率モデルなどに基づいて、背景が撮像されている背景画素、または背景でない物体が撮像されている前景画素のいずれであるかを判定し、その判定結果を割り当てた2値化画像を生成する。物体検出部は、2値化画像生成部が生成した2値化画像から撮像エリア内に位置する物体を検出する。
【0013】
さらに、モデル更新部は、2値化画像生成部が背景画素であると判定した画素については、その画素の画素値を用いて、当該画素にかかる確率モデル、および予測モデルを更新する。したがって、背景画素については、確率モデル、および予測モデルの更新が適性に行える。また、モデル更新部は、2値化画像生成部が前景画素であると判定した画素については、その画素と確率モデル、および予測モデルが類似し、且つ2値化画像生成部が背景画素であると判定した画素の画素値を用いて、当該画素にかかる確率モデル、および予測モデルを更新する。したがって、フレーム画像において物体が撮像されている前景領域の画素についても、監視対象エリア内の明るさの変化等の環境変化に対応した確率モデル、および予測モデルの更新が行える。これにより、フレーム画像に撮像されている物体の検出精度の向上が図れる。
【0014】
また、2値化画像生成部は、画像入力部に入力されたフレーム画像の画素毎に、確率モデル記憶部に記憶している該当する画素の確率モデル、および予測モデル記憶部に記憶している該当する画素の予測モデルに基づいて、背景画素または前景画素のいずれであるかを判定する構成としてもよい。この場合には、例えば、2値化画像生成部は、フレーム画像の画素毎に、確率モデル記憶部に記憶している該当する画素の確率モデルに基づいて背景画素である第1の尤度を算出し、且つ予測モデル記憶部に記憶している該当する画素の予測モデルに基づいて背景画素である第2の尤度を算出し、算出した第1の尤度、および第2の尤度を統合して、背景画素または前景画素のいずれであるかを判定する構成とすればよい。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、入力されているフレーム画像に撮像されている物体の影響を抑え、且つ撮像エリア内の明るさの変化等の環境変化に応じたモデルの更新が適性に行えるので、フレーム画像に撮像されている物体の検出精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】画像処理ユニットの主要部の構成を示すブロック図である。
【図2】画像処理ユニットの動作を示すフローチャートである。
【図3】フレーム画像の各画素を示す画素番号を説明する図である。
【図4】前景領域を確定する手法を説明する図である。
【図5】フレーム画像の各画素にかかる確率モデル、および予測モデルの更新を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態である画像処理ユニットについて説明する。
【0018】
図1は、この画像処理ユニットの主要部の構成を示すブロック図である。画像処理ユニット1は、制御部2と、画像入力部3と、画像処理部4と、入出力部5と、を備えている。
【0019】
制御部2は、画像処理ユニット1本体各部の動作を制御する。
【0020】
画像入力部3は、ビデオカメラ10が撮像しているフレーム画像が入力される。ビデオカメラ10は、例えばフレーム画像を1秒間に30フレーム出力する。ビデオカメラ10は、不審者の侵入や、不審物の放置等を監視する監視対象エリアが撮像エリア内に収まるように設置している。
【0021】
画像処理部4は、画像入力部3に入力されたフレーム画像を処理し、このフレーム画像に撮像されている物体(背景でない物体)を検出する。また、この画像処理部4は、画像入力部3に入力されたフレーム画像を用いて、後述する確率モデル、および予測モデルを更新するモデル更新処理を行う。画像処理部4は、確率モデル、および予測モデルを記憶するメモリ4aを有している。このメモリ4aが、この発明で言う確率モデル記憶部、および予測モデル記憶部に相当する。
【0022】
なお、画像処理部4は、画像入力部3に入力されたフレーム画像に対する画像処理等を実行するマイコンを備えている。この発明にかかる画像処理プログラムは、このマイコンを動作させるプログラムであり、予め画像処理部4にインストールしている。
【0023】
入出力部5は、図示していない上位装置との間におけるデータの入出力を制御する。入出力部5は、画像処理部4で物体が検出されたときに、その旨を上位装置(不図示)に通知する信号を出力する。入出力部5は、物体の検出を通知する信号を出力する構成であってもよいし、物体を検出したフレーム画像とともに、物体の検出を通知する信号を出力する構成であってもよい。
【0024】
なお、上位装置は、画像処理ユニット1の入出力部5から出力された信号によって、監視対象エリア内に位置する物体の検出が通知されたときに、その旨を音声等で出力して、周辺にいる係員等に通知する構成であってもよいし、さらには、物体を検出したフレーム画像が送信されてきている場合に、そのフレーム画像を表示器に表示する構成であってもよい。
【0025】
次に、この画像処理ユニット1の動作について説明する。図2は、画像処理ユニットの動作を示すフローチャートである。まず、画像処理ユニットの動作の概略を説明し、その後、各動作について詳細に説明する。
【0026】
画像処理ユニット1はビデオカメラ10が撮像したフレーム画像が画像入力部3に入力されると(s1)、画像処理部4が入力されたフレーム画像を取り込む。画像処理部4は、フレーム画像の画素毎に、メモリ4aに記憶している確率モデルで背景尤度(この発明で言う第1の尤度)を算出する(s2)。また、画像処理部4は、今回入力されたフレーム画像の画素毎に、メモリ4aに記憶している予測モデルで背景尤度(この発明で言う第2の尤度)を算出する(s3)。
【0027】
確率モデルは、フレーム画像の画素毎に、過去に入力されたフレーム画像における画素値の発生頻度を、混合ガウス分布を利用してモデル化したものである。また、予測モデルは、フレーム画像の画素毎に、過去に入力されたフレーム画像における画素値の時系列推移をモデル化したものである。したがって、予測モデルは、次に入力されるフレーム画像における画素値の推定に利用できる。
【0028】
画像処理部4は、今回入力されたフレーム画像について、画素毎にs2で算出した確率モデルでの背景尤度と、s3で算出した予測モデルでの背景尤度とを用いて、背景が撮像されている画素(以下、背景画素と言う。)であるか、または、背景でない物体が撮像されている画素(以下、前景画素と言う。)であるかを決定する(s4)。s4では、マルコフ確率場に基づくエネルギー関数を定義し、その最小化問題を、グラフカットを利用して解くことで、背景画素、または前景画素のいずれであるかを判定し、決定する。このs4にかかる処理により、フレーム画像において、背景が撮像されている背景領域と、前景(物体)が撮像されている前景領域とを区分した2値化画像を生成する。画像処理部4は、この2値化画像における前景領域の大きさや形状から、撮像されている物体の種別等を推定する物体検出処理を行う(s5)。
【0029】
さらに、画像処理部4は、フレーム画像の画素毎に、確率モデル、および予測モデルを更新するための画素を選定する(s6)。画像処理部4は、フレーム画像の画素毎に、s6で選定した画素の画素値を利用して、その画素についてメモリ4aに記憶している確率モデル、および予測モデルを更新する(s7)。s6では、背景と判定した画素については、その画素を選定する。前景と判定した画素については、その画素の周辺画素の中から、今回、背景画素と判定された画素であって、確率モデルおよび予測モデルが類似する画素を選定する。
【0030】
一般に、背景画素の画素値は、草木の揺れなどにともなって周期的に変化する。また、日照変化等による明るさは、急激に変化せず、徐々に変化する。
【0031】
以下、上述したs2〜s7の動作について詳細に説明する。
【0032】
ここでは、画像入力部3に入力されるフレーム画像を、図3に示すように主走査方向(図3における左右方向)にn画素、副走査方向(図3における上下方向)にm画素の画像として説明する。また、主走査方向にN番目、副走査方向にM番目である画素の画素番号iを、
i=n×(M−1)+N
とする。また、時刻tにおいて、画像入力部3に入力されたフレーム画像の各画素iの画素値をxitで表す。
【0033】
なお、以下の説明では、任意の画素について説明するときには、添え字iを省略することもある。
【0034】
画素iについて、時刻tにおけるk番目のガウス分布が持つ重みwkt、平均値μkt、分散共分散行列Σktとした場合、確率モデルによる背景尤度は
【0035】
【数1】

【0036】
で算出する。ここでηは、
【0037】
【数2】

【0038】
で表されるガウス分布の密度関数である。
【0039】
確率モデルの更新は、画素値xtに対して、K個の分布の中からマッチする分布を探す。画素値xtが各分布の平均値γδ以内であれば、その分布にマッチしていると判定する。δは、この分布の標準偏差であり、γは、例えばγ=2.5に設定すればよい。
【0040】
また、K個のガウス分布の重みをwktは、
【0041】
【数3】

【0042】
で更新する。(3)式において、αは学習率であり、この値が大きいと新たな観測画素値xtにマッチする分布の重みがすぐに大きくなる。すなわち、新たな確率モデルが比較的早い段階で構築される。
【0043】
また、Mktは、マッチした分布については1、それ以外の分布を0にする。画像処理部4は、各分布の重みを更新した後、重みの総和が1になるように正規化する。
【0044】
マッチする分布が見つかった場合、その分布の平均値μtを、
【0045】
【数4】

【0046】
で更新するとともに、分散値δtを、
【0047】
【数5】

【0048】
で更新する。(4)式、(5)式におけるρは、学習率であり、
【0049】
【数6】

【0050】
で表される。
【0051】
また、ytは、確率モデルを更新するための画素値であり、後述するように、前景と判定した画素と、背景と判定した画素で異なるため、ここではxtと区別した表記にしている。
【0052】
また、画像処理部4は、マッチする分布がみつからなかった場合、新たにガウス分布ηk+1を作成する。ここで、
【0053】
【数7】

【0054】
とする。また、Wは、新たな分布に対して予め設定しておく重みである。
【0055】
さらに、画像処理部4は、ガウス分布の照合度w/δを計算し、その照合度が最小であるガウス分布の重みが、予め定めた閾値以下であれば、その分布を削除し、残りの分布が持つ重みの総和が1になるように、正規化する。
【0056】
次に、予測モデルについて説明する。画像入力部3に入力されたフレーム画像の各画素の観測画素値の予測モデルは、指数平滑法により更新する。指数平滑法は、公知のように、時系列データから将来値を予測するのに利用される、時系列分析手法である。ここでは、過去の観測画素値の傾向をモデル化するためと、次時刻での観測画素値を予測するのに用いる。
【0057】
時刻tにおける、移動平均値mt、観測値ytを用いて、時系列データを逐次的に平滑化する定数型モデルは、
【0058】
【数8】

【0059】
で表される。ここで、β(0<β<1)は、平滑化係数であり、βが1に近いほど、直前値を重視した予測になる。
【0060】
時系列データに傾向がない定数型モデルの場合は、以下に示す(9)式において、mtが時刻t+1での有効な予測値となるが、データに上昇、あるいは下降傾向がある場合、その傾向を予測することはできない。ここでは、このような傾向も考慮し、直線型傾向モデルを利用している。この直線型モデルは、時刻tにおける傾向の推定値rtが導入されており、直線型傾向モデルの予測値ztは、
【0061】
【数9】

【0062】
【数10】

【0063】
により、予測することができる。
【0064】
上記の予測モデルを利用した背景尤度評価について説明する。上記の予測モデルを画素単位で利用した場合、予測誤りが生じる可能性が高いので、ここでは、注目画素(予測対象の画素)と、この注目画素の周辺に位置する複数の画素を用い、空間的な情報を考慮して、背景尤度を算出する。
【0065】
具体的には、注目画素iと、4近傍画素の集合をRとし、背景尤度Q(xt)を、
【0066】
【数11】

【0067】
により算出する。ここで、φ(xt,zt)は、予測誤差を許容する閾値thにより、
【0068】
【数12】

【0069】
で定義している。
【0070】
また、予測モデルは、観測値ytにより更新が行われる。ここでは、確率モデル更新と同様に、画素が前景、または背景のどちらに判定されたかによって、利用する画素値を異ならせている。詳細については後述する。
【0071】
確率モデルで算出した背景尤度、および予測モデルで算出した背景尤度を統合し、最終的な物体領域を確定する。具体的には、マルコフ確率場に基づくエネルギー関数を定義し、その最小化問題を解くことにより、各画素に対する2値のラベルの最適な割り当てを決定する。2値のラベルベクトルをL(l1〜lN)とすると、エネルギー関数E(L)は、
【0072】
【数13】

【0073】
で表すことができる。
【0074】
ここで、νは全画素の集合であり、ν,εは近傍画素の集合である。また、G(li)はペナルティ項であり、H(li,lj)は平滑項であり、
【0075】
【数14】

【0076】
【数15】

【0077】
により算出される。
【0078】
ここでは、このエネルギー関数E(L)を最小化するためにグラフカットを利用する。具体的には、図4に示す、画像の各画素に対応するノードSource(s)と、特別なノードSink(t)を作成する。ここでは、ノードsを前景、ノードtを背景としている。ノード間は、エッジで接続し、各エッジには次のようなコストu(i,j)を与える。
【0079】
【数16】

【0080】
【数17】

【0081】
【数18】

【0082】
画像処理部4が上述の処理で前景画素と判定した画素については、その観測画素値で確率モデル、および予測モデルを更新すると、物体が静止した際に、その物体による画素値を徐々に背景として学習する。この画像処理ユニット1は、このような画素の学習率を小さくするのではなく、全く学習しないようにすることで、静止した物体が背景に溶け込むのを防止する。
【0083】
また、物体静止中に生じた明るさ等の周辺環境の変化を、静止物体周辺の画素については確率モデル、および予測モデルの変化を学習し更新しているが、静止物体に遮蔽された画素については、確率モデル、および予測モデルの更新がされないと、この静止物体が移動したときに、背景を物体として誤検出する可能性が高くなる。そこで、画像処理部4は、背景画素と判定された画素の情報を利用して、前景画素と判定された画素の確率モデル、および予測モデルの更新を行う。
【0084】
具体的には、前景画素と判定された画素の集合をF、背景と判定された画素の集合をBとし、確率モデルの更新のために用いる時刻tでの画素iの画素値yitは、
【0085】
【数19】

【0086】
で算出される。ここでcは集合Bに属し、背景画素と判定された画素の中から、
【0087】
【数20】

【0088】
を満足する画素を探索する。
【0089】
Θは、各画素の確率モデルと、予測モデルから構成されるパラメータ集合であり、ここでは
Θ=(μ1t,mt,rt
とした。
【0090】
これらは、確率分布の内、これまでに観測された画素値の分布を表す分布の平均値μ1tと、予測モデルの移動平均値と、傾向の推定値である。画像処理部4は、前景画素と判定された画素iについて、この画素iの確率モデルおよび予測モデルのそれぞれに対して、それらと類似した確率モデル、および予測モデルを持つ背景画素と判定された画素を探索する。そして、探索した画素を利用することで、物体により遮蔽された背景領域のモデルの更新を行う。モデルが類似しているかどうかは、f(Θi,Θj)により評価すればよい。
【0091】
このように、確率モデル、および予測モデルの更新処理では、前景画素と判定された画素については、その画素の画素値を直接利用するのではなく、背景画素と判定された画素の中で、類似した確率モデル、および予測モデルを持つ画素の画素値を利用して更新する。例えば、画像入力部3に入力されたフレーム画像が、図5(A)に示す背景画像であれば、画像処理部4は、フレーム画像の各画素について、その画素の画素値により、確率モデル、および予測モデルを算出し、更新する。一方、画像入力部3に入力されたフレーム画像が、図5(B)に示す物体(車両)を撮像している画像であれば、画像処理部4は、背景が撮像されている領域に位置する画素については、その画素の画素値により、確率モデル、および予測モデルを算出し、更新する。一方、画像処理部4は、車両が撮像されている領域に位置する画素については、背景領域に位置する画素であって、且つ、その画素と確率モデル、および予測モデルが類似する画素の画素値を用いて、確率モデル、および予測モデルを更新する。
【0092】
したがって、入力されているフレーム画像に撮像されている物体の影響を抑え、且つ撮像エリア内の明るさの変化等の環境変化に応じたモデル(確率モデル、および予測モデル)の更新が適性に行える。これにより、フレーム画像に撮像されている物体の検出精度の向上が図れる。
【符号の説明】
【0093】
1…画像処理ユニット
2…制御部
3…画像入力部
4…画像処理部
4a…メモリ
5…入出力部
10…ビデオカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置が撮像している撮像エリアのフレーム画像を入力する画像入力部と、
前記フレーム画像の画素毎に、過去における、その画素の画素値の頻度をモデル化した確率モデルを記憶する確率モデル記憶部と、
前記フレーム画像の画素毎に、その画素の画素値の時系列推移をモデル化した予測モデルを記憶する予測モデル記憶部と、
前記画像入力部に入力された前記フレーム画像の画素毎に、前記確率モデル記憶部に記憶している該当する画素の確率モデルに基づいて、背景が撮像されている背景画素、または背景でない物体が撮像されている前景画素のいずれであるかを判定し、その判定結果を割り当てた2値化画像を生成する2値化画像生成部と、
前記2値化画像生成部が生成した2値化画像から前記撮像エリア内に位置する物体を検出する物体検出部と、
前記2値化画像生成部が背景画素であると判定した画素については、その画素の画素値を用いて、当該画素にかかる確率モデル、および予測モデルを更新し、前記2値化画像生成部が前景画素であると判定した画素については、その画素と前記確率モデル、および前記予測モデルが類似し、且つ前記2値化画像生成部が背景画素であると判定した画素の画素値を用いて、当該画素にかかる確率モデル、および予測モデルを更新するモデル更新部と、を備えている画像処理ユニット。
【請求項2】
前記2値化画像生成部は、前記画像入力部に入力された前記フレーム画像の画素毎に、前記確率モデル記憶部に記憶している該当する画素の確率モデル、および前記予測モデル記憶部に記憶している該当する画素の予測モデルに基づいて、背景画素または前景画素のいずれであるかを判定する、請求項1に記載の画像処理ユニット。
【請求項3】
前記2値化画像生成部は、前記画像入力部に入力された前記フレーム画像の画素毎に、前記確率モデル記憶部に記憶している該当する画素の確率モデルに基づいて背景画素である第1の尤度を算出し、且つ前記予測モデル記憶部に記憶している該当する画素の予測モデルに基づいて背景画素である第2の尤度を算出し、算出した前記第1の尤度、および前記第2の尤度を統合して、背景画素または前景画素のいずれであるかを判定する、請求項2に記載の画像処理ユニット。
【請求項4】
前記確率モデルは、ガウス分布の密度関数である、請求項1〜3のいずれかに記載の画像処理ユニット。
【請求項5】
前記予測モデルは、指数平滑法によるモデルである、請求項1〜4のいずれかに記載の画像処理ユニット。
【請求項6】
画像入力部に入力される、撮像装置が撮像している撮像エリアのフレーム画像について、確率モデル記憶部が前記フレーム画像の画素毎に、過去における、その画素の画素値の頻度をモデル化した確率モデルを記憶し、且つ、予測モデル記憶部が、前記フレーム画像の画素毎に、その画素の画素値の時系列推移をモデル化した予測モデルを記憶しておき、
前記画像入力部に入力された前記フレーム画像の画素毎に、前記確率モデル記憶部に記憶している該当する画素の確率モデルに基づいて、背景が撮像されている背景画素、または背景でない物体が撮像されている前景画素のいずれであるかを判定し、その判定結果を割り当てた2値化画像を生成する2値化画像生成ステップと、
前記2値化画像生成ステップで生成した2値化画像から前記撮像エリア内に位置する物体を検出する物体検出ステップと、
前記2値化画像生成ステップで背景画素であると判定した画素については、その画素の画素値を用いて、当該画素にかかる確率モデル、および予測モデルを更新し、前記2値化画像生成ステップで前景画素であると判定した画素については、その画素と前記確率モデル、および前記予測モデルが類似し、且つ前記2値化画像生成ステップで背景画素であると判定した画素の画素値を用いて、当該画素にかかる確率モデル、および予測モデルを更新するモデル更新ステップと、をコンピュータに実行させる画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−104872(P2012−104872A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248834(P2010−248834)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名: 画像情報学フォーラム 刊行物名: 画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2010)論文集 発行年月日:平成22年7月26日
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】