説明

画像表示プログラム及び超音波診断装置

【課題】超音波診断装置において動的かつ自動的に利得を調整可能な技術をすること。
【解決手段】被検体の断面の受信信号を取得する取得手段3と、前記受信信号のゲインを調整する調整手段4と、前記増幅された受信信号を画像信号に変換する変換手段7と、前記画像信号を表示する表示手段8と、それぞれ複数のゲインセットを有する複数のゲインパターンを記憶するパラメータメモリ43と、を備えた超音波診断装置に適用され、前記受信信号のゲインを変化させて前記被検体の画像の明るさを補正するための画像表示プログラムであって、ECG同期信号に基づいて、心臓の拍動の時相を検出する検出手段と、前記時相に応じて、前記パラメータメモリから所定のゲインパターンを読み出す読出手段と、読み出した前記ゲインパターンを前記調整手段に適用して、前記調整手段のゲインを変更する変更手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示プログラムと超音波診断装置に関し、特に、超音波診断装置において、受信信号の利得(ゲイン)を変化させて、被検体の画像の明るさを補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置において、受信信号の利得を補正する方法が知られている。この方法では、まずスキャンや表示を停止し、生データを収集する。そして、生データから利得の補正値を求めて、利得を再設定した後に、補正後のスキャンや表示を行っている。しかし、この方法は、一度スキャンや表示を停止してから補正値を求めて、再設定や再スキャンして画像を表示する方法であり、一回の実行で補正される回数は一度のみである。また、補正の際に、画像表示が一度停止してしまうという問題がある。さらに、心時相に同期した複数回の自動利得補正機能は、サポートしていない。このため、心時相に同期した場合に、画像の明るさが均一でない、補正が毎回必要である、更に補正する度に画像表示が一度停止する等の操作性や応答性の問題がある。
【0003】
ここで、特に、心臓壁などの運動又は移動速度が比較的速い部位のみを強調する場合における画像のちらつきや画像のぼやけを低減するための技術が提案されている(特許文献1参照)。この技術によると、予め設定された所要合成比率で受信回路出力信号と受信回路出力信号をフィルタリングしたフィルタ出力信号とを合成することによって、運動又は移動速度が比較的速い検査部位を強調できるようにしている。このように、特許文献1では、利得の調整を行うことなく、追加の回路により画像のちらつきや画像のぼやけを低減している。
【特許文献1】特開2005−288021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、超音波診断装置において動的かつ自動的に利得を調整することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一局面に係る画像表示プログラムは、被検体の断面の受信信号を取得する取得手段と、前記受信信号のゲインを調整する調整手段と、前記増幅された受信信号を画像信号に変換する変換手段と、前記画像信号を表示する表示手段と、それぞれ複数のゲインセットを有する複数のゲインパターンを記憶するパラメータメモリと、を備えた超音波診断装置に適用され、前記受信信号のゲインを変化させて前記被検体の画像の明るさを補正するための画像表示プログラムであって、ECG同期信号に基づいて、心臓の拍動の時相を検出する検出手段と、前記時相に応じて、前記パラメータメモリから所定のゲインパターンを読み出す読出手段と、読み出した前記ゲインパターンを前記調整手段に適用して、前記調整手段のゲインを変更する変更手段と、を具備することを特徴とする。本発明は、プログラムに限らず、該プログラムにより処理を実行する装置や方法の発明としても成立する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、2D画像、3D画像及びトレース画像において、スキャンや表示を停止させずに、ECG同期信号を用いた空間的・時系列的に関心のある領域のゲイン補正が自動的に可能となる。このため、関心の高い診断部位、診断時間帯に特化した、診断のスループット向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る超音波診断装置の概略構成を示すブロック図である。図2は、図1におけるスキャン制御回路の概略構成を示すブロック図である。また、図3は、図1におけるゲイン調整回路の概略構成を示すブロック図である。
【0008】
本実施形態に係る超音波診断装置は、超音波探触子1と、送信回路2と、受信回路3と、ゲイン調整回路4と、スキャン制御回路5と、エコー・フロー・ドップラ信号処理回路6と、スキャン変換回路7と、表示回路8と、データ収集出力回路9と、ECG同期信号発生回路10と、CPU11と、メモリ12とを備えている。
【0009】
上記の構成において、超音波探触子1は、送信回路2と受信回路3に接続され、送信回路2は超音波探触子1を駆動して超音波を発生し、受信回路3は超音波探触子1からの反射エコー信号を受信する。なお、受信回路3の詳細は図示しないが、受信回路3は、受信信号を増幅するプリアンプと、増幅された受信信号をディジタル信号に変換するアナログディジタル変換器と、受信信号を所定時間遅延させる受信遅延回路と、受信信号を加算する加算器とを有する。受信回路3からの受信信号は、ゲイン(利得)調整回路4に出力される。なお、送信回路2、受信回路3およびゲイン調整回路4は、スキャン制御回路5にて制御される。
【0010】
スキャン制御回路5は、送信回路2を制御する送信制御回路51と、受信回路3を制御する受信制御回路52と、受信回路3のゲインを調整するゲイン調整制御回路53と、設定用パラメータメモリ54と、ECG同期信号検出回路55と、CPU11とのI/F回路56とを備えている。ゲイン補正に関しては、CPUからの補正値の計算、パラメータメモリを介した再設定、およびECG同期信号を用いることにより、最小1サンプル単位でスキャンや表示を止めることなく、ゲイン調整制御を行う機能を有する。
【0011】
ゲイン調整回路4は、データ演算回路41と、ゲイン調整値算出回路42と、設定用パラメータメモリ43と、ECG同期信号検出回路44と、CPUとのI/F回路45とを備えている。ゲイン調整回路4は、スキャン制御回路5と連動し、パラメータメモリを介してCPUからの補正値を設定し、ECG同期信号を用いることにより、最小1サンプル単位でゲイン調整を行う。
【0012】
ゲイン調整回路4の出力信号は、振幅情報と位相情報が含まれ、エコー・フロー・ドップラ信号処理回路6に接続される。エコー・フロー・ドップラ信号処理回路6は、図示しないエコーデータ用検波器、対数圧縮器、深さ・走査線・フレーム方向のディジタルフィルタ、およびフロー・ドップラデータ用、MTIフィルタ、自己相関、CORDIC、FFT処理、深さ・走査線・フレーム方向のディジタルフィルタを有する。
【0013】
エコー・フロー・ドップラ信号処理回路6の出力信号は、スキャン変換回路7へ接続される。スキャン変換器7は、深さ方向で整列されたビームデータを、表示用にライン方向で整列されたビデオデータに変換し、表示回路8へ出力する。
【0014】
エコー・フロー・ドップラ信号処理回路6の出力信号生データを、データ収集出力回路9へ接続する。データ収集出力回路9は、生データをCPU11、メモリ12へ出力する。メモリ12は、生データを保持する。
【0015】
上記のように構成された超音波診断装置の動作例を説明する。図4は、ECG同期信号を用いたゲイン補正アルゴリズムの一例を示すシーケンス図である。
ゲイン調整回路4では、ECG同期信号発生回路10からの同期信号を検出する。この場合において、R波の間隔から、ゲインの調整を例えば、図4に示すように行う。図4は、フィード・フォワード型の制御例(シーケンス例)を示す図である。図4では、ゲインパターンAとゲインパターンBとを示している。この場合において、収縮期では部位の移動速度が比較的速く、拡張期では部位の移動速度が比較的遅いことが知られている。このため、収縮期では、ゲインを高くし、拡張期では、ゲインを均一にすることが好ましい。従って、図4のゲインパターンAでは、収縮期では、ゲインを高くするようなゲインパラメータ1を設定し、拡張期では、原因が均一になるようなゲインパラメータ2を設定している。なお、ゲインパラメータは、1つのパラメータ値ではなく、複数の異なるゲインの値を組み合わせて1つの組としたゲインの組み合わせ(すなわち、ゲインセット)をいう。図4のゲインパターンBは、ゲインパターンAよりもゲイン調整を細かく行うようなシーケンスとしたものであり、これにより、より細かなゲイン調整を行うことが出来る。なお、ゲイン調整は、2D画像、3D画像及びトレース画像について、ビーム単位・サンプル単位・スライス(フレーム)単位で任意に可能であることが好ましい。
【0016】
図5を参照して、ECG同期信号を用いたゲイン補正アルゴリズムの他の例を説明する。図5は、ECG同期信号を用いたゲイン補正アルゴリズムの他の例を示すシーケンス図である。図5は、フィード・バック型の制御例(シーケンス例)を示す図である。図5において、(a)はシーケンスの例であり、(b)は記述の一例を示す図であり、(c)は反映タイミングについて記載した図である。
【0017】
図5に示すシーケンスでは、ECG同期信号を用いて収縮期と拡張期で補正パターンを選択するが、その際、生データの値と判定基準により、補正パターンを決定する。図5(a)に示すように、1サイクル中のゲインパターンはゲインパターンAからゲインパターンGまで決められているものとする。この時、ゲインパターンAに注目すると、ゲインパターンAは、ECG同期信号の最初のゲインパターンであるが、この期間において、図5(b)に示すように、生データの平均値(Raw(mean):この場合の平均値は、例えば、輝度の平均値である)が、ゲインAの設定値より大きい場合には、ゲインパラメータを3にセットし、ゲインAの設定値より小さい場合には、4に設定している。また、例えば、ゲインパターンBに注目すると、生データの平均値が、ゲインBの設定値より大きい場合には、ゲインパラメータを14にセットし、ゲインBの設定値より小さい場合には、15に設定している。このように、生データの値によりゲインパラメータの設定を変更することにより、ゲインが変動するような場合でも、ゲイン調整を良好に行うことが出来る。
【0018】
なお、ゲインの補正値を反映するタイミングは、図5(c)に示すように、
1) 非同期に計算が終わり次第
2) 次以降の心拍
3) ユーザが任意に設定等、任意に可能
が考えられる。上記のタイミングにおいて、通常は、1)の計算が終了次第ゲインを変更すればよい。また、タイミングとして、2)の次以降の心拍でゲインを変更することも好ましい。なお、上記の3)においてユーザが任意に設定する場合とは、例えば、ユーザが観察していて、現在のゲインを変更したくない場合や、自分でゲインを変更したい場合などが考えられる。上記のように、ゲインの補正値は、フィード・バック制御の場合には、その同時相で反映、次の時相で反映等、スキャンや表示を継続しながら、任意に適用可能である。
【0019】
ところで、上記のようなゲイン補正を行う場合において、そのまま補正値を適用した場合には、ゲインの変動が大きすぎてちらつきが発生したりする場合が考えられる。このような場合には、ゲインが急激に変動しないように、なめらかにゲインが変更されることが好ましい。このような例を、図6を参照して説明する。図6は、ちらつきを低減するためのアルゴリズムの例を示す図である。なお、図6では、ちらつき低減用として2つのアルゴリズムを記載している。
1番目のアルゴリズムでは、引数として、例えば、ゲインの重み(WeightA, WeightB)や補間方式(InterpolationType)などの変数を有しており、これらの変数を任意に設定することにより、滑らかなゲイン補正が出来るようにしている。なお、補間方式は、線形補間に限らず高次補間方式やその他の補間方式のいずれを用いてもよい。
2番目のアルゴリズムでは、パラメータメモリに全値をおいて(複数の細かい補正値を記憶させて)、ルックアップテーブルのように参照しながら、任意に細かくゲイン補正をしようとするものである。
上記のように本発明によれば、ECG同期信号を用いた、任意のゲイン自動補正を、スキャンや表示を停止させずに可能となり、診断のスループット向上が可能となる。また、超音波診断装置の利得を補正する機能において、心電信号を用いて一度ではなく、複数回利得を補正し、かつスキャンや表示を停止させることなく補正することで、関心のある診断部位、診断時間帯に特化した、診断のスループットが向上できる。
【0020】
なお、本発明では、比較的心拍数が安定している場合を対象としてゲイン設定を行うものであり、心拍が急激に変化する場合や、不整脈のように心拍が一定でないようなものは除く。
【0021】
本発明は、上記各実施の形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記各実施形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得る。
【0022】
また、例えば各実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1におけるスキャン制御回路の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図1におけるゲイン調整回路の概略構成を示すブロック図である。
【図4】フィード・フォワード型の制御例(シーケンス例)を示す図である。
【図5】フィード・バック型の制御例(シーケンス例)を示す図である。
【図6】ちらつきを低減するためのアルゴリズムの例を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1…超音波探触子
2…送信回路
3…受信回路
4…ゲイン調整回路
5…スキャン制御回路
6…エコー・フロー・ドップラ信号処理回路
7…スキャン変換回路
8…表示系
9…データ収集出力回路
10…ECG同期信号発生回路
11…CPU
12…メモリ
41…データ演算回路
42…ゲイン調整値算出回路
43…設定用パラメータメモリ
44…ECG同期信号検出回路
45…I/F回路
51…送信制御回路
52…受信制御回路
53…ゲイン調整制御回路
54…設定用パラメータメモリ
55…ECG同期信号検出回路
56…I/F回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の断面の受信信号を取得する取得手段と、前記受信信号のゲインを調整する調整手段と、前記増幅された受信信号を画像信号に変換する変換手段と、前記画像信号を表示する表示手段と、それぞれ複数のゲインセットを有する複数のゲインパターンを記憶するパラメータメモリと、を備えた超音波診断装置に適用され、前記受信信号のゲインを変化させて前記被検体の画像の明るさを補正するための画像表示プログラムにおいて、
ECG同期信号に基づいて、心臓の拍動の時相を検出する検出手段と、
前記時相に応じて、前記パラメータメモリから所定のゲインパターンを読み出す読出手段と、
読み出した前記ゲインパターンを前記調整手段に適用して、前記調整手段のゲインを変更する変更手段と、を具備することを特徴とする画像表示プログラム。
【請求項2】
請求項1に記載の画像表示プログラムにおいて、前記変更手段は、前記読出手段で読み出した前記ゲインパターンを前記調整手段に適用して、フィード・フォワード型のゲイン補正を前記調整手段に動的に実行させることを特徴とする画像表示プログラム。
【請求項3】
請求項1に記載の画像表示プログラムにおいて、
前記読出手段は、前記受信信号の強度に応じたゲインパターンを読み出し、
前記変更手段は、読み出した前記ゲインパターンを前記調整手段に適用して、フィード・バック型のゲイン補正を前記調整手段に動的に実行させることを特徴とする画像表示プログラム。
【請求項4】
請求項3に記載の画像表示プログラムにおいて、前記変更手段は、前記変更後のゲインパターンを任意の時相から前記調整手段に適用可能であることを特徴とする画像表示プログラム。
【請求項5】
請求項3に記載の画像表示プログラムにおいて、前記変更手段は、ゲインパターンの変更を滑らかに行う手段を更に具備することを特徴とする画像表示プログラム。
【請求項6】
超音波の走査及び送受信により、被検体断面の受信信号を取得する取得手段と、
ECG同期信号に基づいて、心臓の拍動の時相を検出する検出手段と、
前記受信信号のゲインを調整する調整手段と、
前記増幅された受信信号を画像信号に変換する変換手段と、
前記画像信号を表示する表示手段と、を備え、
前記調整手段は、それぞれ複数のゲインセットを有する複数のゲインパターンを記憶するパラメータメモリを備え、前記時相に応じたゲインパターンを前記受信信号のゲインとして設定することを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−226084(P2009−226084A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76773(P2008−76773)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】