説明

画像記録装置、及び、照射器

【課題】画像記録装置を小型化すること。
【解決手段】電磁波が照射されると硬化する電磁波硬化型インクを被記録媒体に吐出するノズルと、前記電磁波を照射するための照射器と、を備え、前記照射器には、前記電磁波を透過するフィルターが設けられ、前記フィルターは、第1の角度で入射する前記電磁波に対して、前記被記録媒体上の前記電磁波硬化型インクを硬化可能にする第1の透過率を有し、第2の角度で入射する前記電磁波に対して、前記ノズルが前記電磁波硬化型インクの吐出を可能な状態に維持する第2の透過率を有する画像記録装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像記録装置、及び、照射器に関する。
【背景技術】
【0002】
画像記録装置の一例として、紫外線(電磁波)を照射すると硬化するインクを吐出するノズルが設けられたヘッドを有するインクジェットプリンター(以下、プリンター)が知られている。このようなプリンターの場合、紫外線照射部から照射された紫外線が被記録媒体などで反射し、反射した紫外線がヘッドのノズル面に到達する虞がある。そうすると、反射した紫外線によりノズル開口のインクが増粘したり硬化したりして、ノズルが目詰まりしてしまう。
【0003】
そこで、反射した紫外線がヘッドのノズル面に到達しないように、所定の間隔を隔てて紫外線照射部とヘッドを配置する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−284141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の方法では、紫外線照射部とヘッドの間隔が広くなり、プリンターが大型化してしまう。
【0006】
そこで、本発明では、画像記録装置を小型化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する為の主たる発明は、電磁波が照射されると硬化する電磁波硬化型インクを被記録媒体に吐出するノズルと、前記電磁波を照射するための照射器と、を備え、前記照射器には、前記電磁波を透過するフィルターが設けられ、前記フィルターは、第1の角度で入射する前記電磁波に対して、前記被記録媒体上の前記電磁波硬化型インクを硬化可能にする第1の透過率を有し、第2の角度で入射する前記電磁波に対して、前記ノズルが前記電磁波硬化型インクの吐出を可能な状態に維持する第2の透過率を有する画像記録装置である。
本発明の他の特徴は、本明細書、及び添付図面の記載により、明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】印刷システムの構成を示すブロック図である。
【図2】プリンターの概略断面図である。
【図3】図3Aは比較例および実施例の紫外線照射部の評価結果を示す表であり、図3Bはフィルターの構成を説明する図である。
【図4】図4Aは実施例1のフィルターの具体的な構成を説明する表であり、図4Bは実施例3のフィルターの具体的な構成を説明する表である。
【図5A】実施例1のフィルターにおける各波長の光に対する透過率を示すグラフである。
【図5B】実施例3のフィルターにおける各波長の光に対する透過率を示すグラフである。
【図6】図6Aは比較例の紫外線照射部から照射される光の道筋を示す図であり、図6Bは実施例の紫外線照射部から照射される光の道筋を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
===開示の概要===
本明細書の記載、及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかとなる。
【0010】
即ち、電磁波が照射されると硬化する電磁波硬化型インクを被記録媒体に吐出するノズルと、前記電磁波を照射するための照射器と、を備え、前記照射器には、前記電磁波を透過するフィルターが設けられ、前記フィルターは、第1の角度で入射する前記電磁波に対して、前記被記録媒体上の前記電磁波硬化型インクを硬化可能にする第1の透過率を有し、第2の角度で入射する前記電磁波に対して、前記ノズルが前記電磁波硬化型インクの吐出を可能な状態に維持する第2の透過率を有する画像記録装置である。
このような画像記録装置によれば、被記録媒体上の電磁波硬化型インクを硬化することができ、ノズルの目詰まりを防止することができるため、画像の劣化を防止でき、また、ノズルと照射器を離す必要がないため画像記録装置を小型化できる。
【0011】
かかる画像記録装置であって、前記第2の透過率が、前記第1の透過率よりも小さいこと。
このような画像形成装置によれば、被記録媒体上の電磁波硬化型インクを硬化することができ、ノズルの目詰まりを防止することができるため、画像の劣化を防止でき、また、ノズルと照射器を離す必要がないため画像記録装置を小型化できる。
【0012】
また、電磁波硬化型インクを硬化させるための電磁波を照射することが可能な光源と、前記電磁波を透過するフィルターと、を備え、前記フィルターは、第1の角度で入射する前記電磁波に対して第1の透過率を有し、第2の角度で入射する前記電磁波に対して前記第1の透過率よりも小さい第2の透過率を有する照射器である。
このような照射器によれば、例えば、被記録媒体等に反射されてノズルに到達する電磁波の透過率を、被記録媒体上の電磁波硬化型インクを硬化する電磁波の透過率よりも小さくすることができる。
【0013】
かかる照射器を備える画像記録装置である。
このような画像記録装置によれば、被記録媒体上の電磁波硬化型インクを硬化することができ、ノズルの目詰まりを防止することができるため、画像の劣化を防止でき、また、ノズルと照射器を離す必要がないため画像記録装置を小型化できる。
【0014】
かかる画像記録装置であって、前記第1の角度が0度、前記第2の角度が45度の場合において、前記第2の透過率は、前記第1の透過率の50%以下であること。
このような画像記録装置によれば、被記録媒体上の電磁波硬化型インクに照射する電磁波の量を減らすことなく、被記録媒体等で反射してノズルに到達する電磁波の量を少なくすることができるため、被記録媒体上の電磁波硬化型インクを硬化し、且つ、ノズルの目詰まりを防止することができる。
【0015】
かかる画像記録装置であって、前記第1の角度が0度、前記第2の角度が45度の場合において、前記第2の透過率は、前記第1の透過率の30%以下であること。
このような画像記録装置によれば、被記録媒体上の電磁波硬化型インクに照射する電磁波の量を減らすことなく、被記録媒体等で反射してノズルに到達する電磁波の量を少なくすることができるため、被記録媒体上の電磁波硬化型インクを硬化し、且つ、ノズルの目詰まりを防止することができる。
【0016】
かかる画像記録装置であって、前記第1の角度が0度、前記第2の角度が45度の場合において、前記第2の透過率は、前記第1の透過率の10%以下であること。
このような画像記録装置によれば、被記録媒体上の電磁波硬化型インクに照射する電磁波の量を減らすことなく、被記録媒体等で反射してノズルに到達する電磁波の量を少なくすることができるため、被記録媒体上の電磁波硬化型インクを硬化し、且つ、ノズルの目詰まりを防止することができる。
【0017】
かかる画像記録装置であって、前記電磁波の波長は、390ナノメートル以上410ナノメートル未満であること。
このような画像記録装置によれば、被記録媒体上の電磁波硬化型インクに照射する電磁波の量を減らすことなく、被記録媒体等で反射してノズルに到達する電磁波の量を少なくすることができるため、被記録媒体上の電磁波硬化型インクを硬化し、且つ、ノズルの目詰まりを防止することができる。
【0018】
かかる画像記録装置であって、前記フィルターは、多層膜フィルターであること。
このような画像記録装置によれば、第1の角度で入射する電磁波の透過率を第1の透過率にし、第2の角度で入射する電磁波の透過率を第2の透過率にすることができる。
【0019】
かかる画像記録装置であって、前記フィルターは、入射する前記電磁波の角度が45度の場合において、350ナノメートル以上380ナノメートル未満の波長の前記電磁波の透過率は、390ナノメートル以上410ナノメートル未満の波長の前記電磁波の透過率よりも大きいこと。
このような画像記録装置によれば、照射器付近の温度上昇を抑えつつ、ノズル周辺の電磁波硬化型インクの硬化を防止することができる。
【0020】
===印刷システム===
以下、「画像記録装置」をインクジェットプリンター(以下、プリンター)とし、プリンターとコンピューターが接続された印刷システムを例に挙げて実施形態を説明する。
【0021】
図1は、印刷システムの構成を示すブロック図であり、図2は、プリンター1の概略断面図である。本実施形態のプリンター1は、紫外線(電磁波)の照射によって硬化するインク(「電磁波硬化型インク」に相当、以下、「UVインク」と呼ぶ)を使用して、用紙、布、フィルム等の被記録媒体に画像を印刷(記録)する。UVインクは、顔料の他に紫外線硬化樹脂を含むインクであり、紫外線の照射を受けると紫外線硬化樹脂において光重合反応が起こることにより硬化する。
【0022】
コンピューター60は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1に画像を印刷させるための印刷データをプリンター1に出力する。
【0023】
プリンター1内のコントローラー10は、プリンター1における全体的な制御を行うためのものである。インターフェース部11は、外部装置であるコンピューター60との間でデータの送受信を行う。CPU12は、プリンター1の全体的な制御を行うための演算処理装置であり、ユニット制御回路14を介して各ユニットを制御する。メモリー13は、CPU12のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。また、プリンター1内の状況を検出器群50が監視し、コントローラー10はその検出結果に基づいて各ユニットを制御する。
【0024】
搬送ユニット20は、被記録媒体(以下、媒体S)を搬送方向の上流側から下流側へ搬送するためのものである。媒体Sは、図2に示すように、搬送ローラー21A,21Bによって回転する搬送ベルト22上を、ヘッド31及び紫外線照射部41の下面と対向しながら停まることなく一定の速度で搬送される。
【0025】
ヘッドユニット30は、対向する媒体Sに向けてUVインクを吐出するヘッド31を有する。ヘッド31の下面では、UVインクを吐出する多数のノズル開口Nzが搬送方向と交差する方向に並んでいる。従って、ヘッド31の下を搬送方向に移動する媒体Sに向けてノズル開口NzからUVインクが吐出されると、搬送方向に沿う複数のドット列が搬送方向と交差する方向に並んだ2次元の画像が印刷される。なお、ノズルからのインク吐出方式は、駆動素子(ピエゾ素子)に電圧をかけてノズルと連通するインク室を膨張・収縮させることによりインクを吐出させるピエゾ方式でもよいし、駆動素子(発熱素子)によりノズル内に気泡を発生させ、その気泡でインクを吐出させるサーマル方式でもよい。
【0026】
照射ユニット40は、媒体S上に着弾したUVインクに紫外線を照射してUVインクを硬化させる紫外線照射部41(照射器)を有する。本実施形態では、紫外線の照射光源として発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を使用し、紫外線照射部41の下面(媒体Sとの対向面)には複数のLEDパッケージが設けられている。なお、紫外線の照射光源はLEDに限らず、例えば、メタルハライドランプ、水銀ランプなどでもよい。また、本実施形態の紫外線照射部41には、光を透過するフィルター42がLEDパッケージ覆うように設けられている(詳細は後述)。
【0027】
なお、複数色のUVインクを吐出するプリンター1の場合、各色のUVインクを吐出するヘッド31間に紫外線照射部41を設け、UVインクの混色や滲みを防止するとよい。また、UVインクを完全に硬化しない程度に紫外線を照射する紫外線照射部41(仮照射部)をヘッド31間に配置し、UVインクを完全に硬化する紫外線照射部41(本照射部)を搬送方向の最下流側に配置してもよい。
【0028】
===紫外線照射部41===
図3Aは、比較例および実施例1〜3の紫外線照射部41の評価結果を示す表であり、図3Bは、実施例1〜3の紫外線照射部41に設けられたフィルター42の構成を説明する図である。
図4Aは、実施例1のフィルター42の具体的な構成を説明する表であり、図4Bは、実施例3のフィルター42の具体的な構成を説明する表である。
図5Aは、実施例1のフィルター42における各波長の光(電磁波)に対する透過率を示すグラフであり、図5Bは、実施例3のフィルター42における各波長の光に対する透過率を示すグラフである。
図6Aは、比較例の紫外線照射部41から照射される光の道筋を示す図であり、図6Bは、実施例1〜3の紫外線照射部41から照射される光の道筋を示す図である。
【0029】
図5A及び図5Bのグラフでは、横軸が、紫外線照射部41(LEDパッケージ)から照射される光の波長(nm=ナノメートル)を示し、縦軸が、光の透過率(%)を示す。各グラフでは、フィルター42に対する入射角が0度である光の透過率T(0)を太線で示し、入射角が45度である光のうちのp偏光成分の透過率Tp(45)を太線と四角(■)で示し、s偏光成分の透過率Ts(45)を太線とばつ印(×)で示し、入射角が60度である光のうちのp偏光成分の透過率Tp(60)を細線と黒丸(●)で示し、s偏光成分の透過率Ts(60)を細線と三角(▲)で示し、入射角が75度である光のうちのp偏光成分の透過率Tp(75)を点線で示し、s偏光成分の透過率Ts(75)を細線と白丸(○)で示す。
【0030】
<<比較例の紫外線照射部41>>
比較例の紫外線照射部41は、図3A,図6Aに示すように、フィルター42を有さず、LEDパッケージが剥き出しの状態となっている。即ち、LEDパッケージから照射された光が直接に媒体S上のUVインクに照射される。なお、LEDパッケージが、ガラス基材にのみ覆われていてもよく、この場合にも図3Aと同様の評価結果が得られる。
【0031】
<<実施例1〜3の紫外線照射部41>>
実施例1〜3の紫外線照射部41は、図3A,図6Bに示すように、フィルター42を有し、LEDパッケージ(照射面)がフィルター42で覆われている。即ち、LEDパッケージと媒体Sとの間にフィルター42が介在し、LEDパッケージから照射された光のうち、フィルター42を透過した光が、媒体S上のUVインクに照射される。
【0032】
フィルター42は、図3Bに示すように、透明基材の上に、素材や厚さの異なる複数の薄膜が積層された「多層膜フィルター」である。本実施例では、透明基材をガラスとするが、これに限らず、例えば、プラスチックや水晶等を透明基材としてもよい。説明のため、透明基材側の薄膜から順に、1層目,2層目,…n層目とする。また、透明基材側が媒体S側となり、透明基材の反対側(n層目側)がLEDパッケージ側となるように、フィルター42は紫外線照射部41に取り付けられている。
【0033】
実施例1〜3の紫外線照射部41に設けられるフィルター42は、図6Bに示すように、LEDパッケージから照射される光のうち、フィルター42や媒体S表面の垂直方向に沿う「垂直光(入射角0度の光)」の大部分を透過させるが、垂直方向に対して角度θ(本実施例では45度以上)でフィルター42や媒体Sに入射する「斜め光」は一部しか透過しない。
【0034】
また、本実施例の紫外線照射部41には、395nmをピーク波長とするLEDパッケージが設けられている。そして、395nmを中心にその前後の波長範囲(例えば、395nm±20nm)が、本実施例で用いるUVインク(紫外線硬化樹脂)の硬化に作用する波長範囲に含まれる。
【0035】
以下、実施例1〜3のフィルター42を具体的に説明する。
実施例1の紫外線照射部41に設けられるフィルター42では、図5Aに示すように、少なくとも390nm以上410nm未満の波長範囲において、入射角0度の光(垂直光)の透過率T(0)が90%以上であり、入射角45度の光(斜め光)の透過率Tp(45),Ts(45)が50%以下となっている。更に、少なくとも390nm以上410nm未満の波長範囲において、入射角45度の光の透過率Tp(45),Ts(45)が、入射角0度の光の透過率T(0)の「50%以下」となっている。
【0036】
つまり、実施例1の紫外線照射部41には、UVインクを硬化する波長であり入射角が45度(第2の角度)である光(電磁波)の透過率(第2の透過率)が、UVインクを硬化する波長であり入射角が0度(第1の角度)である光の透過率(第1の透過率)の50%以下となるフィルター42が設けられている。
【0037】
また、入射角45度の斜め光に限らず、入射角60度や75度の斜め光に関しても、図5Aに示すように、少なくとも390nm以上410nm未満の波長範囲において、透過率Tp(60),Ts(60),Tp(75),Ts(75)が50%以下となっている(ほぼ10%以下となっている)。更に、入射角60度および75度の光の透過率が、入射角0度の光の透過率T(0)の「50%以下」となっている。
【0038】
このような透過率(図5Aの特性)を有するフィルター42は、図4Aに示すように、ガラス基材の上に、Nb(五酸化ニオブ)の薄膜とSiO(二酸化ケイ素)の薄膜とを交互に、32層まで、重ねることによって形成される。各薄膜の厚さが異なり、図4Aに示すように、例えば、1層目の薄膜の厚さは63.61nmであり、2層目の薄膜の厚さは111.16nmとなっている。また、波長395nmにおけるNbの薄膜の屈折率が2.403であり、SiOの薄膜の屈折率が1.453であるとする。
【0039】
実施例3の紫外線照射部41に設けられるフィルター42では、図5Bに示すように、少なくとも390nm以上410nm未満の波長範囲において、入射角0度の光(垂直光)の透過率T(0)が90%以上であり、入射角45度の光(斜め光)の透過率Tp(45),Ts(45)が10%以下となっている。更に、少なくとも390nm以上410nm未満の波長範囲において、入射角45度の光の透過率Tp(45),Ts(45)が、入射角0度の光の透過率T(0)の「10%以下」となっている。
【0040】
つまり、実施例3の紫外線照射部41には、UVインクを硬化する波長であり入射角が45度(第2の角度)である光の透過率(第2の透過率)が、UVインクを硬化する波長であり入射角が0度(第1の角度)である光の透過率(第1の透過率)の10%以下となるフィルター42が設けられている。
【0041】
また、図5Bに示すように、少なくとも390nm以上410nm未満の波長範囲にて、入射角60度および75度の光の透過率Tp(60),Ts(60),Tp(75),Ts(75)も、入射角0度の光の透過率T(0)の10%以下となっている。
【0042】
このような透過率(図5Bの特性)を有するフィルター42は、ガラス基材の上に、Nb(五酸化ニオブ)の薄膜とSiO(二酸化ケイ素)の薄膜とを交互に、図4Bに示す厚さで、30層まで重ねることによって形成される。また、波長395nmにおけるNbの薄膜の屈折率が2.409であり、SiOの薄膜の屈折率が1.454であるとする。
【0043】
実施例2の紫外線照射部41に設けられるフィルター42では、少なくとも390nm以上410nm未満の波長範囲において、入射角0度の光(垂直光)の透過率が90%以上であり、入射角45度の光(斜め光)の透過率が30%以下であるとする。更に、少なくとも390nm以上410nm未満の波長範囲において、入射角45度の光の透過率が、入射角0度の光の透過率の「30%以下」であるとする。また、少なくとも390nm以上410nm未満の波長範囲にて、入射角60度および75度の光の透過率も、入射角0度の光の透過率の30%以下であるとする。
【0044】
つまり、実施例2の紫外線照射部41には、UVインクを硬化する波長であり入射角が45度(第2の角度)である光の透過率(第2の透過率)が、UVインクを硬化する波長であり入射角が0度(第1の角度)である光の透過率(第1の透過率)の30%以下となるフィルター42が設けられている。
【0045】
なお、実施例2のフィルター42の具体的な構成は示さないが、実施例1や実施例3で示したフィルター42のように、フィルター42を構成する薄膜の材質(屈折率),膜厚,膜数を調整することによって、上述のフィルター42を実現することができる。
【0046】
このように、実施例1〜3の紫外線照射部41に設けられるフィルター42は、垂直光(入射角0度の光)の大部分(90%以上)を透過させるが、斜め光(本実施例では入射角45度以上の光)は一部しか透過しない(実施例1では50%以下の光、実施例2では30%以下の光、実施例3では10%以下の光しか透過しない)。つまり、本実施例の紫外線照射部41には、垂直光の透過率と斜め光の透過率との差が大きいフィルター42が設けられ、実施例3の差が最も大きく、その次に実施例2の差が大きくなっている。
【0047】
<<評価結果>>
ヘッド31の下を通過する媒体Sに向けてノズル開口NzからUVインクを吐出させ、比較例及び実施例1〜3の各紫外線照射部41の下を通過する媒体S上のUVインクに向けて、各紫外線照射部41から光(紫外線)を照射させた。その後、図3Aに示すように、「UVインクの硬化度」と、「ノズルの目詰まり」と、「ノズル開口面のUVインク付着量」と、を評価した。なお、印刷中に発生するインクミストにより、ヘッド31のノズル面(下面)にはUVインクが付着してしまう。そのため、ヘッド31のノズル面は、通常、ワイパーで定期的に拭き取られる。そして、ノズル開口面のUVインク付着量とは、ヘッド31のノズル面をワイパーで拭き取った後に、ノズル面に付着しているUVインク量、即ち、ワイパーで拭き取れなかったUVインク量である。
【0048】
「UVインクの硬化度」については、全ての紫外線照射部41に対して普通の評価(○)が得られた。即ち、比較例の紫外線照射部41も実施例1〜3の紫外線照射部41も、媒体S上のUVインクを十分に硬化することができる。
【0049】
「ノズルの目詰まり」については、比較例の紫外線照射部41に対して目詰まりしている評価(×)が得られ、実施例1〜3の紫外線照射部41に対して目詰まりしていない評価が得られた。また、実施例3(非常に良い◎),実施例2(良い○),実施例1(普通○)の順に、ノズル開口Nz及びノズル内のUVインクの硬化度(増粘度)が低いという評価が得られた。
【0050】
「ノズル開口面のUVインク付着量」については、ノズルの目詰まりの項目と同様に、比較例の紫外線照射部41に対してUVインク付着量が多い評価(×)が得られ、実施例3(非常に良い◎),実施例2(良い○),実施例1(普通○)の順に、UVインクの付着量が少ないという評価が得られた。
【0051】
以上のように、比較例の紫外線照射部41を用いると、ノズルが目詰まりしたり、ヘッド31のノズル面に付着したUVインクの多くをワイパーで拭き取る事が出来なかったりしてしまう。これは、比較例の紫外線照射部41には、図6Aに示すように、斜め光の透過を抑えるフィルター42が設けられていないからである。この場合、媒体Sや搬送ベルト22で反射した斜め光がヘッド31のノズル面に到達してしまう。そうすると、ノズル面に到達した光(紫外線)が、ノズル周辺のUVインクやノズル面に付着しているUVインクを増粘したり硬化したりしてしまう。
【0052】
ノズル周辺のUVインクが増粘・硬化すると、ノズルが目詰まりし、ノズルからインクを吐出すべき時に規定量のUVインクを吐出することが出来ず、印刷画像の画質が劣化してしまう。また、目詰まりしたノズルを回復させるために、ノズルのクリーニング回数を増やさなければならず、UVインクが無駄に消費されてしまう。
【0053】
また、ノズル面に付着しているUVインクが増粘・硬化して、ノズル面にUVインクが固着してしまうと、ワイパーでUVインクを拭き取ることが出来なくなってしまう。そうすると、ノズル面にUVインクが堆積し、ヘッド31(ノズル面)の下を通過する媒体SがUVインクで汚れてしまう。
【0054】
また、ヘッド31と紫外線照射部41を搬送方向に離して配置することで、媒体Sや搬送ベルト22で反射した斜め光がヘッド31のノズル面に到達することを防ぎ、ノズルの目詰まりやノズル面でのUVインクの固着を防止することができる。しかし、ヘッド31と紫外線照射部41の間隔が広くなり、プリンター1が大型化してしまう。
【0055】
これに対して、実施例1〜3の紫外線照射部41には、図6Bに示すように、斜め光の透過を抑えるフィルター42が設けられている。具体的には、UVインクを硬化する波長範囲において、実施例1のフィルター42は50%以下の斜め光だけしか透過せず、実施例2のフィルター42は30%以下の斜め光だけしか透過せず、実施例3のフィルター42は10%以下の斜め光だけしか透過しない。
【0056】
そのため、実施例1〜3の紫外線照射部41を用いた場合、LEDパッケージから斜め光が照射されたとしても、図6Bに示すように、斜め光の大部分がフィルター42で反射され、斜め光の一部しかフィルター42を透過することができない。従って、実施例1〜3では、媒体Sや搬送ベルト22で反射してヘッド31のノズル面に到達する斜め光(紫外線)の量を、比較例に比べて、大幅に少なくすることができる。ゆえに、ノズル周辺のUVインクが増粘・硬化してしまうことを防止でき、ノズルの目詰まりを防止できる。
【0057】
その一方で、実施例1〜3の紫外線照射部41に設けられたフィルター42は、垂直光の大部分を透過する。具体的には、UVインクを硬化する波長範囲において、各実施例1〜3のフィルター42が90%以上の垂直光を透過する。そのため、フィルター42を透過した多量の垂直光によって、媒体S上のUVインクは十分に硬化する。
【0058】
つまり、実施例1〜3の紫外線照射部41には、入射角0度(第1の角度)で入射する垂直光(電磁波)に対して、媒体S上のUVインクを硬化可能にする透過率(第1の透過率、本実施例では90%以上の透過率)を有し、入射角45度以上(第2の角度)で入射する斜め光に対して、ノズルがUVインクの吐出を可能な状態に維持する透過率を有するフィルター42が設けられている。
【0059】
更に、実施例1〜3のフィルター42では、斜め光の透過率(第2の透過率)を垂直光の透過率(第1の透過率)より小さくしている。即ち、垂直光の透過率に対する斜め光の透過率の割合を小さくしている(実施例1では50%以下、実施例2では30%以下、実施例3では10%以下にしている)。そうすることで、媒体S上のUVインクに照射する光(紫外線)の量をあまり減らすことなく、媒体S等で反射してノズル面に到達する光(紫外線)の量を少なくすることができる。
【0060】
換言すると、本実施例の紫外線照射部41(照射器)は、UVインクを硬化させるための紫外線を照射することが可能な光源(ここではLED)と、紫外線を透過するフィルター42と、を備え、そのフィルター42は、0度(第1の角度)で入射する紫外線(垂直光)に対して所定の透過率(第1の透過率)を有し、45度(第2の角度)で入射する紫外線(斜め光)に対して所定の透過率よりも小さい透過率(第2の透過率)を有する。
【0061】
このような紫外線照射部41を有するプリンター1によれば、媒体S上のUVインクは十分に硬化するので、UVインクの滲みや剥がれを防止することができ、印刷画像の品質劣化を防止できる。また、ノズルの目詰まりが防止されるので、印刷時にノズルから規定量のUVインクを吐出することができ、印刷画像の画質劣化を防止することができる。また、ノズルのクリーニング回数の増加も抑えることができる。
【0062】
また、斜め光の透過率が小さく、反射によりヘッド31のノズル面に到達する光(紫外線)の量が少ないため、ヘッド31のノズル面に付着しているUVインクの増粘・硬化を防止することができる。よって、ヘッド31のノズル面に付着したUVインクをワイパーで拭き取ることができ、ノズル面に堆積したUVインクで媒体Sを汚してしまうことを防止できる。
【0063】
また、実施例1〜3では、紫外線照射部41にフィルター42を設けることで、ヘッド31のノズル面に到達する光(紫外線)の量を減らしているため、ヘッド31と紫外線照射部41の間隔を離す必要が無い。従って、ヘッド31と紫外線照射部42を近くに配置することができ、プリンター1を小型化することができる。言い換えれば、ヘッド31と紫外線照射部41の間隔を離す必要が無いため、ヘッド31と紫外線照射部41の配置の自由度を高めることができる。
【0064】
また、各実施例1〜3において、垂直光の透過率に対する斜め光の透過率の割合が異なるフィルター42を用いており、実施例3の割合が最も小さく、その次に実施例2の割合が小さい。垂直光の透過率に対する斜め光の透過率の割合が小さくなるほど、媒体S等で反射してヘッド31のノズル面に到達する光(紫外線)の量を少なくすることができる。
【0065】
従って、垂直光の透過率に対する斜め光の透過率の割合が小さくなるほど(実施例1に比べて実施例3の方が)、ノズル周辺やノズル面に付着しているUVインクの硬化度を低くすることができ、ノズルの目詰まりをより確実に防止し、且つ、ワイパーによる拭き取り後にノズル面に付着しているUVインク量をより減らすことができる。
【0066】
また、実施例1〜3のフィルター42では、図5Aや図5Bに示すように、350nm以上380nm未満の波長であり入射角が45度である光の透過率が、390nm以上410nm未満の波長であり入射角が45度である光の透過率よりも大きくなっている。つまり、斜め光であっても、UVインクの硬化に作用する波長範囲外(ここでは、UVインクの硬化に作用する波長範囲よりも短い波長、350nm以上380nm未満)の透過率を、UVインクの硬化に作用する波長(ここでは、390nm以上410nm未満)の透過率よりも大きくする。即ち、UVインクの硬化に作用しない斜め光はフィルター42を透過させる。
【0067】
LEDパッケージは、温度が上昇すると、発光効率が低下したり、寿命が短くなったりしてしまう。そのため、出来るだけ多くの光をフィルター42から透過させて、フィルター42とLEDパッケージとの間にこもる熱量を減らしたい。そこで、本実施例のフィルター42では、上述のように、UVインクの硬化に作用する波長範囲外の斜め光の透過率を、UVインクの硬化に作用する波長の斜め光の透過率よりも大きくする。
【0068】
そうすることで、フィルター42とLEDパッケージとの間にこもる熱量を減らすことができ、LEDパッケージ付近の温度上昇を抑えることができる。よって、LEDパッケージの発光効率を維持しつつ、長期に亘ってLEDパッケージを使用することができる。また、紫外線照射部41に放熱手段を設ける必要がなくなり、コストダウンを図ることができる。
また、UVインクの硬化に作用しない斜め光が、フィルター42を透過し、媒体S等で反射されてヘッド31のノズル面に到達したとしても、ノズル周辺やノズル面に付着しているUVインクを増粘・硬化することが無い。そのため、UVインクの硬化に作用する波長範囲外の斜め光の透過率を大きくしても、問題が無い。
つまり、本実施例のフィルター42によれば、紫外線照射部41の温度上昇を抑えつつ、ノズル周辺やノズル面に付着しているUVインクの増粘・硬化を防止することができる。
【0069】
また、フィルター42における媒体S側の表面(ガラス基材)に、撥水・撥油処理を施すとよい。そうすることで、印刷中に発生したインクミストがフィルター42の表面に付着したとしても、ワイパーで容易にUVインクを拭き取ることができ、フィルター42の表面に付着するUVインク量を減らすことができる。その結果、LEDパッケージから照射された垂直光を媒体S上のUVインクに確実に照射することができ、媒体S上のUVインクを確実に硬化することができる。
【0070】
また、ここまで、入射角45度以上の光を斜め光とし、入射角45度以上の光の透過率を小さくした実施例を示したが、これに限らない。45度よりも小さい入射角であっても、媒体S等で反射されてヘッド31のノズル面に到達する場合がある。また、入射角0度の垂直光の透過率を大きくした実施例を示したが、0度よりも大きい入射角の光であっても、ヘッド31のノズル面に到達せずに、媒体S上のUVインクを硬化するためにだけ作用する場合がある。従って、ヘッド31のノズル面に到達しない角度(第1の角度)で入射する光に対して、媒体S上のUVインクを硬化可能にする透過率を有し、ヘッド31のノズル面に到達する角度(第2の角度)で入射する光に対して、ノズルがUVインクの吐出を可能な状態に維持する透過率を有するフィルター42を、紫外線照射部41に設けるとよい。
【0071】
===その他の実施の形態===
上記の実施形態は、主として画像記録装置について記載されているが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【0072】
<インクについて>
前述の実施形態では、紫外線硬化型インク(UVインク)を使用する画像記録装置を例に挙げているが、これに限らず、例えば、X線、可視光線等の電磁波を照射すると硬化するインクを使用する画像記録装置でもよい。
【0073】
<プリンターについて>
前述の実施形態では、固定されたヘッド31及び紫外線照射部41の下を媒体Sが通過するプリンター1を例に挙げているが、これに限らない。例えば、ヘッド及び照射器を所定方向に移動しながらヘッドからインクを吐出させる動作と、所定方向と交差する方向に媒体を搬送する動作とを、繰り返すプリンターでもよいし、ヘッド及び照射器を所定方向に移動しながらヘッドからインクを吐出させる動作と、所定方向と交差する方向にヘッド及び照射器を移動する動作と、を繰り返すプリンターでもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 プリンター、10 コントローラー、11 インターフェース部、
12 CPU、13 メモリー、14 ユニット制御回路、
20 搬送ユニット、21A 搬送ローラー、21B 搬送ローラー、
22 搬送ベルト、30 ヘッドユニット、31 ヘッド、
40 照射ユニット、41 紫外線照射部、42 フィルター、
50 検出器群、60 コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波が照射されると硬化する電磁波硬化型インクを被記録媒体に吐出するノズルと、
前記電磁波を照射するための照射器と、
を備え、
前記照射器には、前記電磁波を透過するフィルターが設けられ、
前記フィルターは、
第1の角度で入射する前記電磁波に対して、前記被記録媒体上の前記電磁波硬化型インクを硬化可能にする第1の透過率を有し、
第2の角度で入射する前記電磁波に対して、前記ノズルが前記電磁波硬化型インクの吐出を可能な状態に維持する第2の透過率を有する、
画像記録装置。
【請求項2】
前記第2の透過率が、前記第1の透過率よりも小さい、
請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
電磁波硬化型インクを硬化させるための電磁波を照射することが可能な光源と、
前記電磁波を透過するフィルターと、
を備え、
前記フィルターは、
第1の角度で入射する前記電磁波に対して第1の透過率を有し、
第2の角度で入射する前記電磁波に対して前記第1の透過率よりも小さい第2の透過率を有する、
照射器。
【請求項4】
請求項3に記載の照射器を備える画像記録装置。
【請求項5】
前記第1の角度が0度、前記第2の角度が45度の場合において、
前記第2の透過率は、前記第1の透過率の50%以下である、
請求項1、2、4の何れかに記載の画像記録装置。
【請求項6】
前記第1の角度が0度、前記第2の角度が45度の場合において、
前記第2の透過率は、前記第1の透過率の30%以下である、
請求項1、2、4の何れかに記載の画像記録装置。
【請求項7】
前記第1の角度が0度、前記第2の角度が45度の場合において、
前記第2の透過率は、前記第1の透過率の10%以下である、
請求項1、2、4の何れかに記載の画像記録装置。
【請求項8】
前記電磁波の波長は、390ナノメートル以上410ナノメートル未満である、
請求項1、2、4〜7の何れかに記載の画像記録装置。
【請求項9】
前記フィルターは、多層膜フィルターである、
請求項1、2、4〜8の何れかに記載の画像記録装置。
【請求項10】
前記フィルターは、
入射する前記電磁波の角度が45度の場合において、
350ナノメートル以上380ナノメートル未満の波長の前記電磁波の透過率は、390ナノメートル以上410ナノメートル未満の波長の前記電磁波の透過率よりも大きい、
請求項1、2、4〜9の何れかに記載の画像記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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