説明

画像診断用組成物

【課題】本発明の目的は、PBRへの強い親和性と高い特異性および高い脳移行性を有するPBR指向性リガンドを含有する組成物を提供することにある。また、本発明の目的は、これまで十分な信号を得ることができなかった生体内でのPBRの非侵襲的測定において、十分に強い信号を得ることを可能にすることにある。
【解決手段】式(I)


(式中、X1はフッ素原子であり、X2はヨウ素原子である。また、X1およびX2のいずれか一方の原子は放射性同位体である。)
で表される放射性ベンゾジアゼピン誘導体を含有する、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の検出または測定用の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢性ベンゾジアゼピン受容体に選択的に作用する化合物からなる画像診断用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢性ベンゾジアゼピン受容体(以下、「PBR」と略記することがある)は末梢型ベンゾジアゼピン受容体あるいはTranslocator Protein(18kDa)とも呼ばれ、γ−アミノ酪酸(以下、「GABA」と称することがある)A受容体およびクロライドイオンチャネルと複合体を形成している中枢性ベンゾジアゼピン受容体(以下、「CBR」と略記することがある)とは機能的にも構造的にも異なることが知られている。CBRは中枢神経系組織のニューロンで特異的に発現しているのに対して、PBRは中枢神経系組織(例えば、嗅球、脈絡叢、上衣細胞など)、末梢組織(例えば、副腎、精巣、腎臓、心臓、肺、肝臓、平滑筋など)および血球(例えば、赤血球、白血球、血小板)に広く存在しており、特に腺組織および分泌組織での発現レベルが高い。中枢神経系においては、PBRは特にグリア細胞で多く発現している。PBRは18kDaのイソキノリン結合タンパクであり、ミトコンドリア外膜に局在し、電位依存性陰イオンチャネル、アデニンヌクレオチド輸送体と共に複合体を形成しており、この複合体はミトコンドリア膜透過性遷移孔と呼ばれている。PBRはステロイド合成、アポトーシス、細胞増殖・分化、免疫調節、ミトコンドリア機能調節などに関与していると報告されている。
一方、近年、目的物質の検出感度および精度が高く、非侵襲的で患者への負担も軽い診断手段として、放射性核種で標識した画像診断用組成物を用いる画像診断が用いられるようになってきた。画像診断用組成物およびそれが含有するプローブの検出手段に求められる一般的要件としては、インビボで診断できること、患者へのダメージが少ないこと(特に非侵襲的であること)、検出感度が高いこと、半減期が適当な長さであること(標識プローブ調製時間、診断時間が適当であること)等が挙げられる。そこで、最近では、高い検出感度と物質透過性を示すγ線を利用した陽電子断層撮影法(PET)またはγ線放出核種によるコンピューター断層撮影法(単一光子放射コンピュータ断層撮影法)(SPECT)が用いられるようになってきた。
上述のようにPBRは脳内においてグリア細胞のミトコンドリア外膜上に多く存在するが、最近の研究により、脳内でミクログリアが活性化する精神神経疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、虚血性脳梗塞、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症など)、癌(例えば、グリオーマ)、外傷性脳損傷および脳炎(例えば、HIV感染による脳炎)でPBRの発現が増加することが報告されている。一方、ある種の癌(例えば、皮膚癌、乳癌など)でPBRの発現が減少することが報告されている。すなわち、放射性同位体で標識したPBRのリガンドとPETもしくはSPECTを用いて、これら疾患の画像診断を行うことが可能である。
なお、特許第2586411号明細書(特許文献1)には、
一般式 化1

〔式中、Rは水素原子または低級アルキル基を表し、Xは放射性のヨウ素原子または臭素原子を表し、Yは水素原子またはハロゲン原子を表し、Zはハロゲン原子またはニトロ基を表し、かつ、6、8又は9位に位置する。〕で示される放射性ベンゾジアゼピン誘導体またはその塩
が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2586411号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、PBRへの強い親和性と高い選択性および高い脳移行性を有するPBR指向性リガンドを含有する組成物を提供することにある。また、本発明の目的は、これまで十分な信号を得ることができなかった生体内でのPBRの非侵襲的測定において、十分に強い信号を得ることを可能にすることにある。これによって、精神神経疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、虚血性脳梗塞、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症など)、癌(例えば、グリオーマ、皮膚癌、乳癌など)、外傷性脳損傷および脳炎(例えば、HIV感染による脳炎)等の、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患、特に中枢系で発現している末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患の早期診断が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題を解決する目的で鋭意探索研究した結果、式(I)で表されるベンゾジアゼピン誘導体またはその放射性同位体が、PBRへの強い親和性と高い選択性および高い脳移行性を有することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]の組成物、[8]の画像診断用キット、および[9]〜[13]の使用等を提供するものである。
[1]
式(I)

(式中、X1はフッ素原子であり、X2はヨウ素原子である。また、X1およびX2のいずれか一方の原子は放射性同位体である。)
で表される放射性ベンゾジアゼピン誘導体を含有する、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の検出または測定用の組成物。
[2]
末梢性ベンゾジアゼピン受容体が、中枢神経系組織に発現している末梢性ベンゾジアゼピン受容体である前記[1]に記載の組成物。
[3]
末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患の画像診断用である前記[1]または前記[2]に記載の組成物。
[3’]
式(I)

(式中、X1はフッ素原子であり、X2はヨウ素原子である。また、X1およびX2のいずれか一方の原子は放射性同位体である。)
で表される放射性ベンゾジアゼピン誘導体を含有する、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患の画像診断用組成物。
[4]
末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患が、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が増加する疾患である前記[3]に記載の組成物。
[5]
X1が、F−18である前記[1]〜前記[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[6]
X2が、I−121、I−123、I−124、I−125またはI−131である前記[1]〜前記[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[7]
X2が、I−123である前記[1]〜前記[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[8]
前記[1]〜前記[7]のいずれか1項に記載の組成物を含有する、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患を診断するための画像診断用キット。
[9]
請求項1の式(I)で表される放射性ベンゾジアゼピン誘導体の末梢性ベンゾジアゼピン受容体特異的リガンドとしての使用。
[10]
請求項1の式(I)で表される放射性ベンゾジアゼピン誘導体の、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の検出または測定のための使用。
[11]
末梢性ベンゾジアゼピン受容体が、中枢神経系組織に発現している末梢性ベンゾジアゼピン受容体である前記[10]に記載の使用。
[12]
請求項1の式(I)で表される放射性ベンゾジアゼピン誘導体の、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患の画像診断用組成物としての使用。
[13]
末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患が、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が増加する疾患である前記[12]に記載の使用。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、生体内でのPBRの非侵襲的測定の精度が向上し、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患、特に中枢系で発現している末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患を早期診断することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の末梢性ベンゾジアゼピン受容体の検出または測定用の組成物は、式(I)

(式中、X1はフッ素原子であり、X2はヨウ素原子である。また、X1およびX2のいずれか一方の原子は放射性同位体である。)
で表される放射性ベンゾジアゼピン誘導体(以下、放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)と称する場合がある)を含有する。
前記放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)は、7−クロロ−1−メチル−5−(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)−3H−1,4−ベンゾジアゼピン−2−オン(但し、2'位のフッ素原子および4'位のヨウ素原子のいずれかは放射性同位体である。)である。なお、本明細書中、7−クロロ−1−メチル−5−(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)−3H−1,4−ベンゾジアゼピン−2−オンを、2'−F・4'−IDZと略記する場合がある。
前記放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)は、塩または溶媒和物であってもよい。
前記放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)が塩である場合、このような塩としては、例えば金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。金属塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6−ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。このうち、薬学的に許容される塩が好ましい。例えば、化合物内に酸性官能基を有する場合にはアルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩など)などの無機塩、アンモニウム塩など、また、化合物内に塩基性官能基を有する場合には、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸など無機酸との塩、または酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。
前記放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)が溶媒和物である場合、このような溶媒和物としては、例えば、水和物が挙げられる。
【0008】
前記放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)に包含される7−クロロ−1−メチル−5−(2−フルオロ−〔125I〕−4−ヨードフェニル)−3H−1,4−ベンゾジアゼピン−2−オンは、例えば前記特許文献1に記載されている公知の化合物であり、式(I)で表されるベンゾジアゼピン誘導体は、特許文献1に記載の製造法に準じて製造することができる。
【0009】
X1で表される原子が放射性同位体である場合、X1は、好ましくは、F−18である。
X2で表される原子が放射性同位体である場合、X2は、好ましくは、I−121、I−123、I−124、I−125またはI−131である。X2は、より好ましくは、I−123である。
単に解釈上の疑義を避けるために記載するものであるが、X1で表される原子が放射性同位体である場合、X2で表される原子は放射性同位体ではなく、一方、X2で表される原子が放射性同位体である場合、X1で表される原子は放射性同位体ではない。
【0010】
本発明の組成物は、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の検出または測定のために用いられる。本発明の組成物を用いて検出または測定される末梢性ベンゾジアゼピン受容体は、例えば、生体の中枢神経系組織(例えば、嗅球、脈絡叢、上衣細胞など)、末梢組織(例えば、副腎、精巣、腎臓、心臓、肺、肝臓、平滑筋など)および血球(例えば、赤血球、白血球、血小板)に発現している。放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)は脳などの中枢神経系組織への高い移行性を有するので、本発明の組成物を用いて検出または測定される末梢性ベンゾジアゼピン受容体として好ましくは、なかでも、対象(subject)の生体の中枢神経系組織(例えば、嗅球、脈絡叢、上衣細胞など)に発現している末梢性ベンゾジアゼピン受容体である。
また、本発明の組成物を用いて検出または測定される末梢性ベンゾジアゼピン受容体は、対象の生体から採取した生体試料に存在するものであってもよい。
当該対象としては、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)が挙げられる。
特に、放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)は、末梢性ベンゾジアゼピン受容体特異的リガンドとして使用できるので、本発明の組成物を用いて末梢性ベンゾジアゼピン受容体(好ましくは、中枢神経系組織に発現している末梢性ベンゾジアゼピン受容体)を特異的(または選択的)に検出または測定することができる。
本明細書中、「末梢性ベンゾジアゼピン受容体特異的」とは、中枢性ベンゾジアゼピン受容体への結合親和性に比較して、末梢性ベンゾジアゼピン受容体への結合親和性が顕著に高い(好ましくは100倍以上高い(すなわち、Ki値が1/100以下である))ことを意味する。
【0011】
放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)は、末梢性ベンゾジアゼピン受容体特異的リガンドとして使用でき、および放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)の末梢性ベンゾジアゼピン受容体特異的リガンドとしての使用により、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の検出または測定が可能になるので、本発明の組成物は、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患の画像診断に、好適に用いることができる。すなわち、本発明の組成物は、好ましくは、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患の画像診断用である。
換言すれば、このような本発明の好ましい組成物は、放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)を含有する、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患の画像診断用組成物である。
末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患としては、例えば、精神神経疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、虚血性脳梗塞、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症など)、癌(例えば、グリオーマ、皮膚癌、乳癌)、外傷性脳損傷および脳炎(例えば、HIV感染による脳炎)等が挙げられる。
末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患として好ましくは、精神神経疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、虚血性脳梗塞、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症など)、癌(例えば、グリオーマ)、外傷性脳損傷および脳炎(例えば、HIV感染による脳炎)等の、末梢性ベンゾジアゼピン受容体(特に中枢系で発現している末梢性ベンゾジアゼピン受容体)の発現が増加する疾患である。
本明細書中、「末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患」とは、健常者における末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現量に比べて、当該疾患に罹患している患者における末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現量が高いまたは低い疾患を意味する。
前記画像診断として好ましくは、例えば、陽電子断層撮影法(PET)または単一光子放射コンピュータ断層撮影法(SPECT)である。
一般に、PET用にはC−11、N−13、O−15、F−18、Cu−62、Ga−68、またはBr−76等の陽電子放出核種で標識されたプローブ化合物が用いられる。また、一般に、SPECT用にはTc−99m、In−111、Ga−67、Tl−201、I−123、またはXe−133等のγ線放出核種が標識として用いられている。放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)において、PET用に好ましくは、X1で示される2'位のフッ素原子は、F−18である。一方、放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)において、SPECT用に好ましくは、X2で示される4'位のヨウ素原子は、I−121、I−123、I−124、I−125またはI−131、より好ましくはI−123である。
【0012】
一般的には、これらの核種はサイクロトロンまたはジェネレーターと呼ばれる装置により産生される。当業者は、産生核種に応じた産生方法および装置が選択可能である。そのようにして産生された核種を用いて2'−F・4'−IDZまたはその塩もしくは溶媒和物を標識することができる。放射性核種にて標識された2'−F・4'−IDZまたはその塩もしくは溶媒和物(すなわち、放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I))、とりわけI−123もしくはF−18にて標識された2'−F・4'−IDZまたはその塩もしくは溶媒和物を対象に投与して、PBRへの結合および崩壊のための十分な時間経過後、PETやSPECTにて検査部位を調べることができる。PBRへの結合および崩壊のための十分な時間は疾病の種類、対象の状態、検査部位等の要因により様々であるが、当業者はこれを容易に決定することができる。放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)の対象への投与は局所的であってもよく、あるいは全身的であってもよい。投与経路としては、皮内、腹腔内、静脈、動脈、または脊髄液への注射または輸液等があるが、疾病の種類、使用核種、使用化合物、対象の状態、検査部位等の要因により選択できる。そのための手段・方法は公知のものを用いることができ、疾病の種類、対象の状態、検査部位等の要因に応じて適宜選択できる。放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)の用量は、疾病の種類、対象の年齢、身体的状態、性別、疾病の程度、検査部位等により様々であるが、例えば、成人の精神神経疾患患者に静脈注射により投与する場合、100〜370MBqを単回投与する。特に、対象の被曝量については十分に注意する必要がある。
【0013】
本発明の組成物は、放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)および医薬上許容される担体を含む。本発明の画像診断用組成物の形態は、その目的からすれば注射あるいは輸液可能な形態であることが好ましい。したがって、医薬上許容される担体は液体であるものが好ましく、リン酸カリウム緩衝液、生理食塩液、リンゲル液、および蒸留水などの水性溶媒、あるいはポリエチレングリコール、植物性油脂、エタノール、グリセリン、ジメチルスルホキサイド、およびプロピレングリコールなどの非水性溶媒があるが、これらに限らない。担体と放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)との混合比率は、適用部位、検出手段等に応じて適宜選択できる。また、本発明の組成物はさらに抗菌剤(例えば、抗生剤など)、局所麻酔剤(例えば、塩酸プロカイン、塩酸ジブカインなど)、バッファー(例えば、トリス−塩酸バッファー、HEPESバッファーなど)、浸透圧調節剤(例えば、グルコース、ソルビトール、塩化ナトリウムなど)等を含有していてもよい。
【0014】
さらに本発明は、放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)、すなわち放射性核種(特に好ましくは、I−123もしくはF−18)によって標識された2'−F・4'−IDZまたはその塩もしくは溶媒和物を必須の成分として含む、PBRの発現が変動(好ましくは、増加)する疾患の画像診断用キットを提供する。通常、かかるキットは、放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)、それを溶解する溶剤、バッファー、浸透圧調節剤、抗菌剤、局所麻酔剤等の各成分を別個に、あるいはいくつかを一緒にしてそれぞれの容器に入れたものをひとまとめにしたものである。
上記キットにおいて、放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)は凍結乾燥粉末等の固形物として提供してもよく、あるいは適当な溶媒中に溶解して提供してもよい。溶剤としては上述の本発明の組成物に用いられる担体と同様のものであってよい。また、バッファー、浸透圧調節剤、抗菌剤、局所麻酔剤等の各成分も上述の本発明の組成物に使用するものと同様のものであってよい。各成分を入れる容器は種々のものを適宜選択でき、例えば遮光性の材質のものとしてもよく、あるいは患者への投与に便利なようにバイアル、または注射器等の形状とすることもできる。また、キットは画像診断に必要な器具類、例えば注射器、輸液セット、あるいは使用する画像診断装置に使用する器具類等を適宜含んでいてもよい。キットには説明書を添付するのが一般的である。
さらに本発明は、放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)、すなわち放射性核種(特に好ましくは、I−123もしくはF−18)によって標識された2'−F・4'−IDZまたはその塩もしくは溶媒和物を用いることを特徴とする、PBRの発現が変動(好ましくは、増加)する疾患の画像診断方法を提供する。
上述のごとく、放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)はPBRに特異性が高い。したがって、2'−F・4'−IDZは、例えば、PBRの発現が変動(好ましくは、増加)する疾患の画像診断やかかる疾病の研究に有用である。
放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)を用いてPBRの発現が増加する疾患を画像診断する場合の手順や方法は当該分野において公知である。対象を安静にさせ、好ましくは液体処方として注射または輸液により、放射性ベンゾジアゼピン誘導体(I)を投与し、PBRへの結合および崩壊のための時間が経過後に画像データを得る。画像データ解析には当該分野において知られた種々の手段・方法を用いることができる。
【実施例】
【0015】
以下に製造例および試験例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下において、
2'−F・4'−IDZは、7−クロロ−1−メチル−5−(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)−3H−1,4−ベンゾジアゼピン−2−オンを、
4'−ClDZは、7−クロロ−1−メチル−5−(4−クロロフェニル)−3H−1,4−ベンゾジアゼピン−2−オンを、
2'−IDZは、7−クロロ−1−メチル−5−(2−ヨードフェニル)−3H−1,4−ベンゾジアゼピン−2−オンを、
4'−IDZは、7−クロロ−1−メチル−5−(4−ヨードフェニル)−3H−1,4−ベンゾジアゼピン−2−オンを、
それぞれ示す。
【0016】
製造例1(2'−F・4'−IDZの製造)
(1)工程[1]

4-クロロ-N-メチルアニリン(a)(86.65 g,612 mmol)、2-ブロモエチルアンモニウムブロミド(62.65 g, 306 mmol)及びトルエン(150 mL)を混合し、7時間加熱還流した。室温まで放冷後、炭酸水素ナトリウム(25.09g)の水(260 ml)の溶液を加え、更に塩化ナトリウムを不溶となるまで添加した。不溶物を濾取して水洗し、水に懸濁したのち、ここに1N水酸化ナトリウム水溶液を加え、トルエンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去して得られた褐色油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン/エタノール)で精製し、淡黄色油状の化合物(b)(39.68g, 70.2%)を得た。
1H-NMR (CDCl3)δ(ppm):1.19 (2H, broad s), 2.91 (2H, t, J=6.5Hz), 2.94(3H, s), 3.57 (2H, t, J= 6.5Hz), 6.63〜6.69 (2H, m), 7.12〜7.26 (2H, m)
(2)工程[2]

4-フルオロ-2-ニトロ安息香酸(A)(38.47g, 208mmol)、塩化チオニル(180ml)及びトルエン(397ml)を混合し、3時間30分加熱還流した。トルエンを減圧留去した後、トルエン(350ml)を加えて減圧留去することを3回行い、残渣にトルエン(350ml)を加え、ここに化合物(b)(39.68g, 215mmol)のトルエン(300ml)の溶液を添加し、1時間30分加熱還流した。室温まで放冷後、反応液を10%水酸化ナトリウム水溶液に添加して不溶物を濾別し、不溶物はクロロホルムに溶解して分液し、また濾液を分液して、有機層を併せて硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/エタノール)で精製し、褐色固体の化合物(B)(68.34g, 93.5%)を得た。
1H-NMR (CDCl3)δ(ppm):2.98(3H, s), 3.59(2H, t, J=5.7Hz), 3.70(2H, q, J=5.6Hz), 6.68〜6.74(2H, m), 6.87(1H, broad s), 7.13〜7.26 (2H, m), 7.99(1H, dd, J=2.2, 11.3Hz), 8.12(1H, dd, J=2.2, 8.4Hz), 8.26(1H, t, J=8.6Hz)
(3)工程[3]

化合物(B)(34.17g, 97.1mmol)、酸化りん(V)205g及びオキシ塩化りん(855ml)を混合し、7時間加熱還流した。反応液を氷水5kg及び48%水酸化ナトリウム水溶液(2.8l)の混合物に添加してpH10とし、酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去して得られた褐色油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/クロロホルム)で精製し、褐色固体の化合物(C)(18.60g, 57.4%)を得た。
1H-NMR (CDCl3)δ(ppm):2.84(3H, s), 3.67〜3.71(2H, m), 3.83〜3.90(2H, m), 6.79(1H, d, J=2.7Hz), 6.90(1H,d, J=8.9Hz), 7.32(1H, dd, J=2.7, 8.6Hz), 7.73(1H, dd, J=7.0, 8.4Hz), 7.94(1H, dd, J=1,9, 7.0Hz), 8.06〜8.10(1H, m)
(4)工程[4]

N-ブロモスクシンイミド(58.51g, 329mmol)のテトラヒドロフラン(1.6l)の溶液に、化合物(C)(46.89g, 141mmol)のテトラヒドロフラン(1.8l)の溶液を2時間20分で滴下した。更に、炭酸水素ナトリウム(59.36g) の水(720ml)の溶液を加え、室温で2時間撹拌してN-ブロモスクシンイミド(2.90g, 16mmol)を添加し、更に室温で1時間撹拌して、N-ブロモスクシンイミド(2.90g, 16mmol)を添加し、更に室温で2時間撹拌した。その後、40〜45℃で2時間30分加熱した。反応液を減圧濃縮した後、酢酸エチルで抽出し、有機層を1%塩酸水、2N水酸化ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)を4回行うことで精製し、得られた固体をトルエンに溶解してヘキサンを加えて析出物を濾取し、淡褐色固体の化合物(D)(5.42g, 11.1%)を得た。
1H-NMR (CDCl3)δ(ppm):3.44(3H, s), 3.83(1H, d, J=10.5Hz), 4.96(1H, d, J=11.1Hz), 7.09(1H, d, J=2.4Hz), 7.33(1H, d, J=8.9 Hz), 7.54(1H, dd, J=2.4, 8.9Hz), 7.89(1H, dd, J=7.0, 8.6Hz), 7.97(1H, dd, J=2.2, 10.0Hz), 8.13〜8.18(1H)
(5)工程[5]

酢酸(135ml)、エタノール(135ml)及び鉄粉(5.40g, 96.7mmol)の混合物を40℃に保温し、ここに化合物(D)(5.41g, 15.56mmol)のエタノール(140ml)の溶液を、20分で滴下した。50℃で25分保温した後、更に鉄粉(5.40g, 96.7mmol)を添加して40℃で保温した。反応液を濃縮し、水を添加した後に不溶物をセライトを用いて濾別した。濾液を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和炭酸カリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去して得られた褐色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトン/クロロホルム)を2回行うことで精製し、化合物(E)(3.66g, 74.0%)を得た。
1H-NMR (CDCl3)δ(ppm):3.39(3H, s), 3.72(1H, d, J=10.8Hz), 4.04(2H, broad s), 4.79(1H, d, J=10.8Hz), 6.30(1H, dd, J=2.2, 12.4Hz), 6.50(1H, dd, J=2.2, 8.6 Hz), 7.24〜7.27(2H), 7.43〜7.53(2H, m)
(6)工程[6]

2N塩酸(22.8ml)及び化合物(E)(1.38g, 4.34mmol)の混合物を5℃に保温し、ここに亜硝酸ナトリウム(0.345g, 5.00mmol)の水(4.5ml)の溶液を、5℃で滴下した。4〜5℃で保温した後、よう化カリウム(2.88g, 17.35mmol)の水(12ml)の溶液を滴下した。3時間30分攪拌した後、氷冷下に2N水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応液をpH12とし、クロロホルムで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去して得られた褐色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトン/クロロホルム)で精製し、得られた固体をエタノールで洗浄して、淡黄白色結晶の化合物(F)
(2'−F・4'−IDZ)(420mg, 22.6%)を得た。
1H-NMR (CDCl3)δ(ppm):3.41(3H, s), 3.76(1H, d, J=11.1Hz), 4.88(1H, d, J=10.8Hz), 7.14(1H, d, J=1.9Hz), 7.29(1H, d, J=8.9Hz), 7.39(1H, t, J=7.6Hz), 7.46(1H, dd, J=1.6, 9.5Hz), 7.50(1H, dd, J=2.7, 8.9Hz), 7.62(1H, dd, J=1.6, 8.9Hz)
マススペクトル(ESI) m/z:429.1(M+1)
【0017】
製造例2([125I]2'−F・4'−IDZの製造)
製造例1で得られる 2'−F・4'−IDZ(6μg)のDMF溶液(20μL)1−ナフタレンスルホン酸、硫酸銅およびNa125I(37MBq)を加え、100℃にて2時間加熱後、放冷する。得られる粗生成物をTLC(クロロホルム/アセトン=9/1)にて精製し、[125I]2'−F・4'−IDZ(11.1MBq)を得る。なお、本品はTLCでRf値が製造例1で得られた標品と一致する。
【0018】
製造例3(2'−IDZの製造)
N'−(4−クロロフェニル)−N−(2−ヨードベンゾイル)−N'−メチルエチレンジアミン(181mg)、酸化りん(V)(925mg)およびオキシ塩化りん(4mL)の混合液を115〜120℃にて4時間攪拌後、放冷し、反応混合物を氷水中に注ぎ、過剰の試薬を分解した。水層をエーテルで洗浄後、炭酸ソーダでアルカリ性とし、酢酸エチルにて抽出した。有機層を水で洗浄後、溶媒を留去し、7−クロロ−2,3−ジヒドロ−5−(2−ヨードフェニル)−1−メチル−1H−1,4−ベンゾジアゼピン(164mg)を得た。
次に、7−クロロ−2,3−ジヒドロ−5−(2−ヨードフェニル)−1−メチル−1H−1,4−ベンゾジアゼピン(158mg)のTHF溶液および重曹水溶液を同時にN−ブロモスクシンイミドのTHF溶液に、室温で滴下し、さらに同温で30分間攪拌後、水を注ぎ酢酸エチルにて抽出した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、2'−IDZ(140mg)を得た。
1H-NMR (CDCl3)δ(ppm):3.4(3H, s, CH3), 3.8(1H, d, -CH), 4.7(1H, d, CH), 6.9-7.9(7H, m, ベンゼン環H)
マススペクトル(70eV) m/e:410,412(M
【0019】
製造例4(4'−IDZの製造)
7−クロロ−2,3−ジヒドロ−5−(4−ヨードフェニル)−1−メチル−1H−1,4−ベンゾジアゼピン(180mg)を用い、製造例3と同様にして4'−IDZ(160mg)を得た。
マススペクトル(70eV) m/e:410,412(M
【0020】
実施例1:受容体結合試験
1)受容体膜標品の調製
ラット大脳皮質由来受容体膜標品の調製は、Braestrup,C.らの方法(Br. J.Psychiatry,133,249−260(1978))に若干の変更を加え行った。マウスC6細胞由来受容体膜標品の調製は、Kita,A.らの方法(Br.J. Pharmacol.,142,1059−72(2004))に若干の変更を加え行った。
ラット大脳皮質由来受容体膜標品は、Sprague−Dawley系雄性ラット(200−250g)の大脳皮質から以下の操作により調製した。ラット大脳皮質に組織湿重量の20倍容量の氷冷した0.32Mスクロース液を加えホモジナイズした後、1,000×gで10分間遠心した。上清は20,000×gで20分間遠心し、得られた沈渣は結合試験用緩衝液(50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、118mM NaCl、4.8mM KCl、1.2mM CaCl、1.2mM MgCl)を加えホモジナイズした後、20,000×gで10分間遠心した。得られた沈渣を結合試験用緩衝液に懸濁し、タンパク質濃度を1mg/mLに調整したものを受容体膜標品として結合試験に用いた。なお、受容体膜標品は使用時まで−80℃で保存しておき、試験実施日に溶解・懸濁して用いた。
マウスC6細胞由来受容体膜標品は以下の操作により調製した。マウス神経膠腫由来細胞株C6をATCCより購入した。4mM L−グルタミン酸、1.5g/L 重炭酸ナトリウム、4.5g/Lグルコース、10% BSAを含むDMEM培地(インビトロジェン社)で細胞を増殖させた。PBS(−)で1回洗浄後、スクレーパーを用いて細胞を剥がし、150×gで5分間、4℃で遠心し細胞を回収した。細胞に20倍容量の氷冷した0.32Mスクロース液を加え、氷浴中でガラス−テフロンホモジェナイザーを用いてホモジェナイズした。ハンディソニケーターUR−20P(トミー精工社製)を用いて出力8で10秒間細胞を破砕した後、1,000×gで10分間遠心した。上清は20,000×gで20分間遠心し、得られた沈渣は結合試験用緩衝液(50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、118mM NaCl、4.8mM KCl、1.2mM CaCl、1.2mM MgCl)を加えホモジナイズした後、20,000×gで10分間遠心した。得られた沈渣を結合試験用緩衝液に懸濁し、タンパク質濃度を0.1mg/mLに調整したものを受容体膜標品として結合試験に用いた。なお、受容体膜標品は使用時まで−80℃で保存しておき、試験実施日に溶解・懸濁して用いた。
【0021】
2)中枢性および末梢性ベンゾジアゼピン受容体結合試験
ラット大脳皮質由来受容体膜標品を用いた中枢性ベンゾジアゼピン受容体(CBR)結合試験は、Braestrup,C.らの方法(上掲、Br.J.Psychiatry, 133,249−260(1978))に若干の変更を加え行った。ラット大脳皮質由来もしくはマウスC6細胞由来受容体膜標品を用いた末梢性ベンゾジアゼピン受容体(PBR)結合試験は、Schoemaker,Hの方法(J.Pharmacol.Exp.Ther.,225,61−69(1983))に若干の変更を加え行った。
【0022】
標識リガンドとしては、CBR結合試験には[H]Ro15−1788(CBR特異的リガンド、化学名:エチル−8−フルオロ−5,6−ジヒドロ−5−メチル−6−オキソ−4H−イミダゾ−[1,5−a][1,4]ベンゾジアゼピン−3−カルボキシラート、パーキンエルマー社から入手した。)(最終濃度1nM)を、PBR結合試験には[H]PK11195(PBR特異的リガンド、化学名:(2−クロロフェニル)−N−メチル−(1−メチルプロピル)−3−イソキノリンカルボキサミド、パーキンエルマー社から入手した。)(最終濃度1nM)をそれぞれ用いた。試験化合物としては、非標識PK11195(シグマ社から入手した。)、2'−F・4'−IDZ、4'−ClDZ(Ro5−4864;シグマ社から入手した。)、2'−IDZ、4'−IDZ、Ro15−1788(シグマ社から入手した。)をそれぞれ最終濃度10pM〜3μMで用いた。
ラット大脳皮質由来受容体膜標品を用いた受容体結合試験は以下の操作手順で行った。プラスチック製チューブに濃度既知の試験化合物、トリチウム標識リガンド、受容体膜標品(最終濃度0.5mg/mL)および結合試験用緩衝液を加えて総量1mLの反応液とし、受容体膜標品の添加により反応を開始した。4℃で90分間インキュベーションを行った後、氷冷した結合試験用緩衝液5mLを添加して反応を停止した。受容体に結合した標識リガンドをマルチフィルター(アドバンテック東洋)を用い、ガラスフィルター
(GF/B、ワットマン社製、米国)上に吸引濾過した。直ちに、氷冷した結合試験用5mLで2回洗浄した。放射活性はガラスフィルターに液体シンチレーションカクテル(シンチレータープラス、パーキンエルマー社製、米国)10mLを加えた後、液体シンチレーションカウンターで測定した。試験化合物を添加しないときの放射活性を100%として、試験化合物の各濃度における放射活性を相対値に変換した。結合の濃度依存性をグラフパッドプリズム(グラフパッド社製、米国)を用いてグラフ化し、試験化合物が標識リガンドの特異的結合量を50%抑制する濃度(IC50値)を求めた。阻害定数Kiは、
Ki=IC50/(1+S/Kd)の関係式から計算した。但し、Sは標識化合物の濃度
(1nM)、Kdは標識化合物のラット受容体に対する親和性([H]PK11195ではKd=1.07nM(Eur J.Pharmacol.,133,205−214(1987))、[H]Ro15−1788ではKd=2nM(Mol.Pharmacol.,22,26−32(1982))を示す。
マウスC6細胞由来受容体膜標品を用いた受容体結合試験は以下の操作手順で行った。プラスチック製チューブに濃度既知の試験化合物、トリチウム標識リガンド、受容体膜標品(最終濃度0.05mg/mL)および結合試験用緩衝液を加えて総量400μLの反応液とし、受容体膜標品の添加により反応を開始した。4℃で90分間インキュベーションを行った後、氷冷した結合試験用緩衝液3mLを添加して反応を停止した。受容体に結合した標識リガンドをマルチフィルター(アドバンテック東洋)を用い、ガラスフィルター(GF/B、ワットマン社製、米国)上に吸引濾過した。直ちに、氷冷した結合試験用3mLで2回洗浄した。放射活性はガラスフィルターに液体シンチレーションカクテル(シンチレータープラス、パーキンエルマー社製、米国)10mLを加えた後、液体シンチレーションカウンターで測定した。試験化合物を添加しないときの放射活性を100%として、試験化合物の各濃度における放射活性を相対値に変換した。結合の濃度依存性をグラフパッドプリズム(グラフパッド社製、米国)を用いてグラフ化し、試験化合物が標識リガンドの特異的結合量を50%抑制する濃度(IC50値)を求めた。阻害定数Kiは、Ki=IC50/(1+S/Kd)の関係式から計算した。但し、Sは標識化合物
([H]PK11195の濃度:1nM)、Kdは標識化合物([H]PK11195)のマウス受容体に対する親和性(Kd=4nM(PNAS,89,5113−5117(1992))を示す。
以上の実験を複数回繰り返し、平均値を求めた。マウスC6細胞由来受容体膜標品を用いたPBR結合試験の結果を表1に、ラット大脳皮質由来受容体膜標品を用いたPBR結合試験の結果を表2に、ラット大脳皮質由来受容体膜標品を用いたCBR結合試験の結果を表3に示す。
【0023】
[表1]マウスC6細胞におけるPBRに対する親和性の評価



(3回の実験の平均値)
【0024】
[表2]ラット大脳皮質におけるPBRに対する親和性の評価

(5回の実験の平均値)
【0025】
[表3]ラット大脳皮質におけるCBRに対する親和性の評価

*)5回の実験の平均値
**)公知文献からの引用値(J.Med.Chem.31,2081-2086(1988))
***)公知文献からの引用(算出)値(J.Nuc.Med.34,932-937(1993) および
Life Sci.36,113-119(1985))
表1および表2に示したように、2'−F・4'−IDZはPBRに強力に結合する。これに対し、類縁化合物4'−ClDZ(Ro5−4864)、4'−IDZ、2'−IDZのPBRに対する親和性は2'−F・4'−IDZよりも弱い。また、表3に示したように、2'−F・4'−IDZはCBRにはほとんど結合しない。以上の結果から、本化合物がPBRに特異的かつ強力に結合することは明らかである。
【0026】
実施例2:体内分布試験
125I]2'−F・4'−IDZ(37TBq/mmol)はエチルアルコールで溶解後、PBSにて希釈して、Sprague−Dawley系雄性ラット(250−300g、8週齢、n=5)の尾静脈より0.74MBq/kgとなるように注入した。投与より5分、15分、30分、2時間、6時間、24時間後に断頭し、採血および脳を採取した。血液は採血後4℃、3,000rpmで10分間遠心し、上清を血漿として回収した。脳(小脳を含む)および血漿の湿重量を測定後、放射能をガンマカウンター(パーキンエルマー社製、米国)を用いて測定した。血漿と脳それぞれについて、投与量に対する血清もしくは脳内の[125I]2'−F・4'−IDZ含有量(%ID(injected dose)/g)を求めた。
125I]2'−F・4'−IDZの投与5分後の脳内含有量は、0.367%ID/gであり、血漿含有量は、0.086%ID/gであった。脳内と血漿における分布の比は、4.3倍であり、[125I]2'−F・4'−IDZは、高い脳移行性を有することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上で説明したように、本発明によれば、生体内でのPBRの非侵襲的測定の精度が向上し、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患、特に中枢系で発現している末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患を早期診断することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)

(式中、X1はフッ素原子であり、X2はヨウ素原子である。また、X1およびX2のいずれか一方の原子は放射性同位体である。)
で表される放射性ベンゾジアゼピン誘導体を含有する、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の検出または測定用の組成物。
【請求項2】
末梢性ベンゾジアゼピン受容体が、中枢神経系組織に発現している末梢性ベンゾジアゼピン受容体である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患の画像診断用である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患が、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が増加する疾患である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
X1が、F−18である請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
X2が、I−121、I−123、I−124、I−125またはI−131である請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
X2が、I−123である請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物を含有する、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患を診断するための画像診断用キット。
【請求項9】
請求項1の式(I)で表される放射性ベンゾジアゼピン誘導体の末梢性ベンゾジアゼピン受容体特異的リガンドとしての使用。
【請求項10】
請求項1の式(I)で表される放射性ベンゾジアゼピン誘導体の、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の検出または測定のための使用。
【請求項11】
末梢性ベンゾジアゼピン受容体が、中枢神経系組織に発現している末梢性ベンゾジアゼピン受容体である請求項10に記載の使用。
【請求項12】
請求項1の式(I)で表される放射性ベンゾジアゼピン誘導体の、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患の画像診断用組成物としての使用。
【請求項13】
末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が変動する疾患が、末梢性ベンゾジアゼピン受容体の発現が増加する疾患である請求項12に記載の使用。

【公開番号】特開2010−241736(P2010−241736A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92989(P2009−92989)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】