説明

界面動電デバイス

界面動電ポンプを含む界面動電デバイスは、導管と、当該導管のそれぞれの端部に隣接した第1及び第2の電極とを含む。電極は一体として容量性電極対を構成する。電極は、2重層容量性材料、例えば炭素ベースの材料、又は擬似容量性材料から構成することができる。このデバイスは、電解質溶液の化学変化を生み出すことなく動作できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年12月17日に出願された米国特許出願第10/322,083号の一部継続出願である。米国特許出願第10/322,083号は、2002年10月18日に出願された米国特許出願第10/273,723号の一部継続出願である。これらの米国特許出願の開示はその全体があらゆる目的のために参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は界面動電デバイス(electrokinetic device)に関する。本明細書では界面動電デバイスという用語を、
(1)第1及び第2の電極と、
(2)導管であって、
(a)第1の電極に隣接した(すなわち第1の電極と接触し、又は第1の電極から分離された)第1の端部、及び
(b)第2の電極に隣接した(すなわち第2の電極と接触し、又は第2の電極から分離された)第2の端部を有する導管とを含み、
それによって、デバイスが適当な電解質溶液で満たされたときに、電極に適当な電位を適用することによって、導管の中に電解質溶液の電気浸透流が生じる、デバイスを示す目的に使用する。電解質溶液の正味の流量は、流量に影響を及ぼす他の任意の因子、例えば静水圧によって修正された電気浸透流である。
【背景技術】
【0003】
従来の界面動電デバイスでは、電極が単純なワイヤ又はワイヤメッシュ電極であり、電解質溶液が、電解液と電極の界面で化学変化を受ける。この明細書では、簡潔にするため、用語「電解液」が、電解質自体(例えばイオン性塩などの化合物)及びこの化合物が溶解した溶媒を示す目的に使用され、用語「化学変化」が、この化合物又は溶媒あるいはその両方が関与した任意の化学反応を示す目的に使用される。電解液の化学変化によって生み出される反応生成物は、排気しなければならないガス、及び/又は電解液に溶けて、その組成、例えばそのpHを変化させる電気化学生成物であるため、望ましくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明によれば、界面動電デバイスに容量性電極を使用することによって、電解液の化学変化を引き起こすことなく、電子電流をイオン電流に変換することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
(1)第1及び第2の電極と、
(2)導管であって、
(a)記第1の電極に隣接した第1の端部、及び
(b)前記第2の電極に隣接した第2の端部を含む導管とを含み、
それによって、デバイスが電解液で満たされたときに、導管の中の電解液が、下文に定義する容量性電極対を構成する第1の電極と第2の電極の間に電気接続を提供する、界面動電デバイスを提供する。本発明の多くのデバイスでは導管が多孔質誘電体媒質を含む。この明細書では多孔質誘電体媒質がPDMと略記される。
【0006】
本明細書では、後述する試験手順によって試験したときに、デバイスが、両方の電極の電気的活性表面(electroactive surface)の総面積に基づいてデバイスが少なくとも10−4ファラド/cm、好ましくは少なくとも10−2ファラド/cm、具体的には少なくとも1ファラド/cmの静電容量を有する場合に、第1及び第2の電極を容量性電極対と定義する。試験するデバイスがその中にすでに電解液を含む場合には、電解液を除去しデバイスを洗浄してから、この試験手順によってデバイスを試験する。
【0007】
本明細書では用語「電気的活性表面」が、デバイスの動作中に、そこを通して導管の隣接する端部へ又は導管の隣接する端部から相当な電流が流れる電極の表面を示す目的に使用される。全てのデバイスで、導管の隣接する端部から電極の表面の任意の部分まで、電気絶縁材料又は電極自体を通過することなく直線を引くことができる場合、電極のその部分は電気活性表面の一部である。いくつかのデバイスでは、電気的活性表面の全ての点からこのような直線を引くことができる。他のデバイスでは、電気的活性表面の一部の点からはこのような直線を引くことができるが、他の点からは引くことができない。他のデバイスでは、このような直線を引くことができない。特定のデバイスの電気的活性表面を決定することは当業者にとって難しいことではない。この定義で参照される面積は幾何学的な面積であり、約0.5mm未満の長さスケールを有する表面特徴(例えば小さな細孔、ピット、引っかき傷及び隆起線)は含まれない。
【0008】
試験手順は以下のステップA〜Lからなる。
A.検査及び測定によって両方の電極の総電気的活性面積(A)を求める。
B.デバイスを以下の電解液の1つで満たす。
【0009】
i)pH7の1規定塩化カリウム(KCl)水溶液
ii)1規定酢酸ナトリウム水溶液
iii)1規定硫酸(HSO)水溶液
iv)過塩素酸リチウム(LiClO)の0.5M無水炭酸プロピレン溶液
Liインターカレーション擬似容量性電極を有するデバイスでは、過塩素酸リチウム溶液だけを使用する。他の全てのデバイスでは水溶液だけを使用する。
【0010】
C.少なくとも10オームの入力インピーダンスを有する電圧計をデバイスの電極リード線に接続し、電極リード線間の電圧降下(Vo)を記録する。
D.電極リード線に電圧計を接続したまま、定電流DC電源を電極リード線に接続する。電源によって供給する電流はA×Jマイクロアンペアに等しい。ただしJは25マイクロアンペア/cmである。
【0011】
E.電源を接続した直後に電極間の電圧V1を測定する。
F.以下の2つの条件(a)及び(b)のうちどちらか一方が満たされるまで電源を電極リード線に接続したままにする。
【0012】
(a)デバイスによって獲得された電荷(クーロン)がA×1クーロン/cm(すなわち電気的活性面積1cmあたり1クーロン)に等しくなる。
(b)V1と観察された電極間の電圧との差が0.5ボルトに達する。
【0013】
これらの条件の1つが満たされたらすぐに電源を切り離す。
G.電源を切り離してから20秒後に、電極リード線間の電圧(V2)を記録する。
H.電源を切り離してから60秒後に、電源を電極リード線に再び接続する。
【0014】
I.電源を再接続した直後の電極リード線間の電圧V3を測定し、デバイスを流れる電流(I)を測定する。
J.以下の2つの条件(c)及び(d)のうちどちらか一方が満たされるまで電源を電極リード線に接続したままにする。
【0015】
(c)再接続後にデバイスによって獲得された電荷(クーロン)がA×1クーロン/cm(すなわち電気的活性面積1cmあたり1クーロン)に等しくなる。
(d)V3と観察された電極間の電圧との差が0.5ボルトに達する。
【0016】
これらの条件の1つが満たされたらすぐに電源を切り離す。再接続から切断までの時間(T2)を記録する。
K.電源を切り離してから20秒後に、電極リード線間の電圧(V4)を記録する。
【0017】
L.次いでV2とV4の差を計算する。この差が10マイクロボルト未満の場合、この電極対は容量性電極対ではないとみなされる。V2とV4の差が少なくとも10マイクロボルトである場合、下式の絶対値をとることによって電極対の静電容量(C)を計算する。
【0018】
【数1】

静電容量を計算した後、計算された静電容量を電気的活性面積の測定値(A)で割ることによって電極対の1cmあたりの静電容量を得る。
【0019】
Liインターカレーション電極以外の全ての電極では、電解質水溶液ごとに1つ、合計3つの可能な試験手順があることに留意されたい。これらの試験手順の1つによって測定したときに少なくとも10−4ファラド/cmの定義された静電容量を有するデバイスは、たとえ残りの試験手順の一方又は両方によって測定したときにこの定義された静電容量よりも小さな静電容量を有する場合であっても、容量性電極対を含むと定義される。
【0020】
デバイスが電極を3つ以上含む場合には、それぞれの電極対を、残りの電極を電源に接続せずに調べて、それが定義された容量性電極対であるかどうかを判定しなければらならない。デバイスが実際に使用中の場合には、試験回路で調べる前にデバイスを電源から切り離し、電解液をデバイスから除去しなければならない。
【0021】
第2の態様では本発明が、
(A)本発明の第1の態様に基づく界面動電デバイスと、
(B)第1及び第2の電極に接続することができる電源であって、電源が電極に接続されており、デバイスが適当な電解液で満たされているときに、導管の中に電解液の電気浸透流を生じさせる電源とを含む装置を提供する。
【0022】
第3の態様では本発明が、
(A)本発明の第1の態様に基づく界面動電デバイスと、
(B)界面動電デバイスを満たす電解液と、
(C)第1及び第2の電極に接続され、導管の中に電解液の電気浸透流を生じさせる電源とを含む電気回路を提供する。
【0023】
本発明の第3の態様の回路は、電解液の化学変化が生じないように操作されることが好ましく、本発明は一般にこのような操作に関して説明される。しかし本発明は、一方又は両方の電極で電解液の許容される化学変化が起こる方法を含む。
【0024】
第4の態様では本発明が、本発明の第3の態様の回路を動作させる方法を提供する。この方法は、
(A)電解液の重大な化学変化が起こらない時間の間、電解液が導管の中を第1の方向に流れるように回路を動作させるステップと、
(B)電源の極性を逆転させて、電解液の重大な化学変化が起こらない時間の間、電解液が導管の中を反対方向に流れるようにするステップとを含む。
【0025】
第5の態様では本発明が、本発明の第1の態様に基づく界面動電デバイスの中で使用するのに適した電極を提供する。この電極は、球形シェル、円形又は楕円形断面を有する円筒形シェル、あるいは放物線又は双曲線断面を有する部分円筒形シェルの内面の少なくとも一部である内面、すなわち凹面を有する。
【0026】
本発明は添付の図面に示されている。これらの図面は、本発明のデバイス及びシステムの概略断面図であり、図面の尺度は一律ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
「発明が解決しようとする課題」、「課題を解決するための手段」、「発明を実施するための最良の形態」、「実施例」、「特許請求の範囲」及び添付図面では、本発明の特定の特徴に言及する。本明細書の発明の開示は、このような特定の特徴の適当な全ての組合せを含むことを理解されたい。例えば、本発明の特定の態様又は実施形態、あるいは特定の図あるいは特定の請求項の文脈で特定の特徴が開示されている場合、その特徴はさらに、本発明の他の特定の態様及び実施形態と組み合わせて、かつ/又は本発明の他の特定の態様及び実施形態の文脈において、ならびに本発明全般で、適当な程度に使用することができる。
【0028】
本明細書では用語「含む」及びその文法上の等価物が、用語「含む」の前に具体的に挙げられた構成要素、成分、ステップの他に、他の構成要素、成分、ステップなどがオプションで存在することを意味する目的に使用される。本明細書では、用語「少なくとも」及びその後に続く数字が、その数で始まる範囲の始まりを示す目的に使用される(この範囲は、定義中の変量に応じて上限を有する範囲又は上限を持たない範囲とすることができる)。例えば「少なくとも1つ」は1つ以上を意味し、「少なくとも80%」は80%以上を意味する。本明細書では用語「多くとも」及びその後に続く数字が、その数で終わる範囲の終りを示す目的に使用される(この範囲は、定義中の変量に応じて、下限として1又は0を有する範囲又は下限を持たない範囲とすることができる)。例えば「多くとも4つ」は4つ以下を意味し、「多くとも40%」は40%以下を意味する。本明細書で「(第1の数)から(第2の数)」又は「(第1の数)〜(第2の数)として範囲が与えられているとき、これは、下限が第1の数、上限が第2の数である範囲を意味する。本明細書で「第1」及び「第2」の構成要素、例えば第1及び第2の導管に言及する場合、これは一般に識別のためである。文脈が要求しない限り、第1の構成要素と第2の構成要素は同じであっても又は異なっていてもよく、また、第1の構成要素という記述は、第2の構成要素の存在を必ずしも意味するものではない(ただし第2の構成要素が存在することもある)。
〔電極の数〕 本発明のデバイスは多くの場合に電極を2つだけ含み、本発明は一般に、このようなデバイスに関して説明される。しかし、本発明のデバイスは電極を3つ以上、例えば3つ含むことができ、ある1つの動作期間にはそのうちの1対が活動状態となり、別の動作期間には別の電極対が活動状態となる。例えばデバイスは、電極間で交番する反対の符号のゼータ電位を有するPDMを有する3つ以上の電極を含むことができる。デバイスの電極は同じでも又は異なっていてもよい。容量性電極対の一方の電極が非容量性材料から構成されているとき、非容量性電極では電解液の化学変化が起こり、容量性電極では起こらない。
〔容量性電極の材料〕 容量性電極対の少なくとも一方の電極は容量性材料、すなわち2重層静電容量(double−layer capacitance)又は擬似静電容量(pseudocapacitance)を示す材料から構成されていなければならない。それぞれの電極が容量性材料を含むことが好ましい。容量性電極対のそれぞれの電極が、電極間の静電容量の少なくとも30%を提供することが好ましい。
【0029】
従来の2重層容量性材料の静電容量は、電極−電解液界面の電気化学2重層に電気エネルギーを蓄えることができることに起因する。擬似容量性材料も電気エネルギーを蓄えることができる材料だが、その機構が異なる。電極又は電極対は、2重層材料と擬似容量性材料の両方を含むことができる。
【0030】
電極用の好ましい2重層容量性材料は、顕微鏡的表面積と幾何学的表面積の比が非常に大きい炭素である。炭素エーロゲルを含浸させたカーボン紙が特に好ましい。使用できる炭素材料にはこのほか、炭素エーロゲル、例えば一体的な(モノリシック)炭素エーロゲル発泡体、炭素織布、炭素繊維(例えば熱分解させたポリアクリルニトリル繊維及び熱分解させたセルロース繊維)、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、内部に炭素粒子を分散させたポリマー、カーボンナノチューブ、及び炭素粒子のフリットなどがある。
【0031】
大きな顕微鏡的表面積を有する他の導電材料、例えば焼結させた金属、ナノポーラス(nonoporous)金属、例えばナノポーラス金、多孔板、多孔質フリット、多孔質膜、deLeviブラシ、及び表面積を増大させるために例えば粗面処理、表面エッチング又は白金メッキによって処理された金属などを使用することも可能である。
【0032】
いくつかの擬似容量性材料は、水及び多くの他の溶媒に対して比較的に不溶性であり、その中で金属がさまざまな酸化状態をとることができる金属酸化物、例えば酸化コバルト、酸化マンガン、酸化イリジウム、酸化バナジウム及び酸化ルテニウムである。このような材料を含む電極の動作では、電極の固相で、特定のイオン、例えば酸化ルテニウムのHの取込み又は放出を伴う酸化還元反応が起こる。他の擬似容量性材料は、その中に可溶性イオン、例えばLiを挿入することができ(「インターカレーション」)、又はそこから可溶性のイオンを分配することができる(「デインターカレーション」)固体材料、例えば窒化マンガン、二硫化チタンモリブデン、炭素、及び導電性ポリマー、例えばその他ポリアニリン、ポリチオフェン及びポリアセチレンである。いくつかの擬似容量性材料は水と反応し、したがって、したがって非水性電解液と一緒に使用しなければならない。このような材料を含む電極の動作では、酸化還元反応が電解液の固相で起こり、その結果、イオンの放出又は取込みが生じる。電極が擬似容量性材料からなるときには、
a)特定の擬似容量性材料に必要なイオンを供給し不要な化学反応を防ぐために電解液と電極を相関させ、
b)イオン濃度の増大(可逆的電極反応をサポートするため)と減少するイオン濃度の低下(電流を少なくしランタイムを増大させるため)の間のバランスを保つ、ことに注意が必要である。
【0033】
電極材料は電解液に不溶であることが好ましく、電解液の導電率よりも大幅に大きな導電率、好ましくは少なくとも100倍の導電率を有することが好ましい。例えば、炭素エーロゲル発泡体の導電率は約100モー/cmであり、代表的な電解液5mM NaClの導電率は約0.5×10−3モー/cmである。
【0034】
電極は使用前に洗浄することが好ましく、必要ならば電解液中で浸出する。多孔質電極ではこのような処理の後に脱気することが好ましい。
いくつかのデバイスでは、デバイスの動作中に電解液が電極を透過して流れなければならない。これらのデバイスでは、電極の幾何学的面積の好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%が開いており、かつ/又は電極材料の流れ透過性が、導管のPDMの流れ透過性の少なくとも10倍、具体的には少なくとも100倍である。このような電極は、電極を透過して電解液が流れる必要のないときにも使用することができる。
【0035】
十分な強度を有するように電極は多くの場合、少なくとも0.5mm、好ましくは少なくとも1mm、具体的には少なくとも2mmの厚さを有する。
〔電極の形状、サイズ及び配置ならびに電極上の電流束〕 電極の静電容量は、電極の組成ならびに電極の電気化学的活性表面のサイズ及び形状によって決まる。導管が比較的に短く幅が広いとき、例えば導管が,その長さの1から30倍、例えば5から20倍の等価直径を有するとき、電極の電気化学的活性表面の面積は、導管の断面積の0.6から1.1倍、例えば0.8から1.0倍であることが好ましい。本明細書では用語「等価直径」が、導管の断面積と同じ面積を有する円の直径を意味するために使用される。導管が比較的に長く幅が狭いとき、例えば導管が,その長さの0.01から0.3倍、例えば0.05から0.1倍の等価直径を有するとき、電極の電気化学的活性表面の面積は、導管の断面積の少なくとも2倍、具体的には少なくとも10倍、特に少なくとも100倍であることが好ましい。
【0036】
デバイスの動作中、電荷が電極上の特定の領域に移動する速度はその領域の電流束に比例し、電極の任意の領域が液体の電気分解電位に達するとすぐに、その領域で電解液の化学変化が始まる[電気分解電位は一般に数ボルト未満であり、例えば水では約1.2V、炭酸プロピレンでは約3.4Vである]。その結果、デバイスのランタイム(すなわち電解液の化学変化を引き起こすことなくデバイスが動作する時間)は、電極上の任意の点の最も高い電流束によって決まる。したがって、電極上の最大電流束が小さいほどランタイムは長くなる。さらに、電極上の電流束の変動が小さいほど、特定の幾何学的サイズを有する電極へ移動することができる電荷の総量は大きくなる。電流束の変動を低減させるため、電極は、電極の電気的活性表面の任意の点の最大電流束が、この活性表面の任意の点の最小電流束の多くとも2倍、好ましくは多くとも1.2倍になるような形状及び位置を有することが好ましい。電気的活性表面の任意の点の電流束をラプラス方程式を適用して計算することは当業者にとって難しいことではない。
【0037】
いくつかのデバイスでは、導管が、横断PDMディスクによって満たされた短い管である。このようなデバイスでは電極が、導管の一方の側にあり、互いに平行でかつPDMディスクにも平行な実質的に平らなディスクであることが好ましい。電極は、PDMディスクの少なくとも60%、具体的には少なくとも80%を覆うことが好ましい。このようなデバイスの電極上の電流束は比較的に高く、例えば少なくとも0.05、例えば0.2から1ミリアンペア/cmとすることができる。
【0038】
他のデバイスでは、導管が、PDMによって満たされた、例えば断面が円形又は長方形(正方形を含む)の比較的に長く幅の狭い管である。このようなデバイスの電極上の電流束は比較的に低く、例えば0.05ミリアンペア/cm未満、20マイクロアンペア/cm未満、又は2マイクロアンペア/cm未満、例えば1から20マイクロアンペア/cmとすることができる。このようなデバイスでは電極を例えば以下のようなものとすることができる。
【0039】
a)円形断面の導管の端部、又は導管を出た後にその中を電流が流れる円形断面のバイアの端部の周りに同心に配置された環状部材。
b)導管を出た後にその中を電流が流れるスロットの形態のバイアの両側に配置された一対のストリップ。
【0040】
c)円形断面の導管の端部又は導管を出た後にその中を電流が流れる円形断面のバイアの端部に中心がくるように配置された球形シェルの内部凹面の少なくとも一部分。球形シェルの内径は導管の直径の例えば4から6倍、例えば約5倍とすることができる。
【0041】
あるいは、
d)概ね長方形の断面の導管の端部又は導管を出た後にその中を電流が流れる概ね長方形の断面のバイアの端部にその軸があり、その軸がその断面の長軸と一致するように配置された円筒形シェルの内部凹面の少なくとも一部分。円筒形シェルの内径は長方形断面の短軸の例えば4から6倍、例えば約5倍とすることができ、円筒形シェルの端部は開けておくことができ、又は導管から離れる方向に延び、その中心が導管又はバイアの長方形の断面の一端にくるように配置された半球形シェルの内部凹面の少なくとも一部分によって閉じることができる。
【0042】
実質的に均一な所望の場を生み出す電極形状に関する詳細については例えば、J.D.Jackson著「Classical Electrodynamics」(1975)、及びR.V.Churchill及びJ.W.Brown著「Complex Variables and Applications」(1990)を参照されたい。
【0043】
平面電極は、シート状材料、例えば炭素繊維紙に炭素エーロゲルを含浸させることによって、あるいは金属シート、スクリーン又は多孔質金属フリットを酸化ルテニウムでコーティングすることによって得られるシート状材料から分割することができる。3次元電極は、所望の形状に直接に成形し、又はブロック、例えば炭素エーロゲル発泡体から機械加工することができる。
【0044】
電極へのリード線は、電解液中の電場に影響を及ぼさないように配置されかつ/又は絶縁されることが好ましい。
〔ランタイム(実行時間)〕 いくつかの実施形態ではランタイムが比較的に短く、例えば1秒から60秒である。他の実施形態では、ランタイムが比較的に長く、例えば少なくとも24時間、例えば24時間から240時間、あるいはさらに長く、例えば少なくとも144時間、例えば144時間から480時間である。
〔電解液〕 本発明で使用される電解液は多くの場合に水性溶液だが、非水性溶液を使用することもできる。適当な1つの非水性電解液は、テトラフルオロホウ酸テトラアルキルアンモニウムの炭酸プロピレン溶液である。電解液のイオン強度は、デバイスの動作に起因するイオン強度の低減によってイオン強度が好ましい最小値よりも低くならない程度に十分に高くなければならない。
【0045】
対イオン移動度(nco)と電気浸透移動度(neo)の比が小さいほど、流量及び/又はランタイムは大きくなる。この比は5未満、具体的には1未満、例えば0.3から1であることが好ましい。
【0046】
電解液中のイオン種は1価であることが好ましい。
〔流量〕 電解液が導管を流れる流量は一定又は可変とすることができる。導管が比較的に幅が広く短いいくつかの実施形態では、流量は比較的に大きく、例えば1ml/分を超える。例えば、約3Vで動作中の図6に示した種類の大径の扁平ポンプは、約1.2ml/分・cm、したがって面積が約8.8cmの場合には約10ml/分のオープンロード流量を有することができる。導管が比較的に幅が狭く長い他の実施形態では、流量が比較的に小さく、例えば5又は25nl/分から10μl/分である。
〔電源〕 デバイスの電極に適用される電力は、電圧及び電流に関して、あるいはあるときはこのうちの一方に関して、またあるときは他方に関して制御することができる。流量は、導管での電位降下によって決まり、この電位降下は、容量性電極が充電されるにつれて低下し、特に適用された電位が電気分解電位に匹敵するときにはそうである。所望ならば、例えば定電流源を使用することによって、又は導管の中のPDMの端部の近くに配置されたセンサ(ただしこれは電極とPDMの間の直接場経路の外側に配置することが好ましい)によって導管の両端の電位降下を監視し、電源を適当に調整することによって、電極に適用する電力を増大させて、この低下を補償することができる。あるいは、又はこれに加えて、例えば測定デバイスからの信号、例えばフィードバックループを通した測定デバイスからの信号に応答して、温度又は他の変量に応じて電力を調整し、例えば所望の熱伝達率、温度、流量、圧力、又はアクチュエータ変位を生み出すことができる。(電源の極性が時間変化する)後述する循環モードでデバイスを動作させるときには、時間平均して正又は負の電位を電極が獲得することがないようそれぞれのサイクルで供給される総電荷が同じになるようにサイクル持続時間及び電源を制御することができる。定電流電源を使用するときには、それぞれのサイクルの電流と持続時間の積が同じであることが好ましい。定電圧電源を使用するときには、それぞれのサイクルの時間積分された電流が同じであることが好ましい。いくつかのケースでは、デバイスが、バッテリ、例えば1つ又は複数の3ボルトリチウム電池によって給電され、より高い電圧、例えば18〜30ボルトを得るためにオプションでアップコンバータが使用される。
〔電圧降下〕 導管の両端間で低下する印加電圧の割合が大きいほど、所与の流量を得るために必要な印加電圧は小さくなる。したがって、デバイスは、導管の両端の電圧降下が、電極間の電圧降下の少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、具体的には少なくとも85%となるように設計されることが好ましい。
【0047】
電解液が所望の流量、例えば一定の流量で流れることを保証するために、デバイスは、導管の両端の電圧降下を測定するためのセンサ、及び電源に接続され、電極に供給される電圧を制御する制御手段を含むことができる。
〔導管及びPDM〕 電極間の導管は任意の形状をとることができる。いくつかの実施形態では、導管が比較的に長く幅が狭い。他の実施形態では、導管が比較的に短く幅が広い。導管はPDMを含むことが好ましく、本発明は一般に、PDMを含む導管に関して説明される。PDMは導管の外へ延び、又は導管の端部で止まり、あるいは導管の内部で終端することができる。しかし、導管が「開いた」導管すなわち充填材料を含まない導管であること、又は複数の微細な平行流路からなることも可能である。導管には2つ以上のPDMを配置することができる。一実施形態では、導管が、異なるゼータ電位(ゼータ電位は符号が反対であることが好ましい)を有するPDMを含む2つの区画、例えば2つの比較的に長く幅の狭い区画に分割され、この2つの区画はそれぞれ、電極に隣接した一端及び電極を含まない中心室と連絡した反対端を有する。このようなデバイスの電極に適当な電源の適用することによって、両方の区画の界面動電流体を、中心室に向かって又は中心室から離れる方向へポンピングすることができる。
【0048】
適当なPDMは当業者には周知であり、これらは例えば、有機PDM、例えば多孔質高分子膜又は相分離された有機材料、又は無機PDM、例えば多孔質焼結セラミック、多孔質無機酸化物(例えばシリカ、アルミナ又はチタニア)膜又はエーロゲル、圧縮されたシリカビーズ、微細機械加工され、打ち抜かれ又はエンボス加工されたアレイ、相分離された多孔質ガラス(例えばVycor)、及び相分離されたセラミック、である。導管が高いストール圧力(stall pressure)を有するが(そのために小さな細孔が望ましい)、実質的な2重層オーバラップ(これは細孔が小さすぎる場合に生じる可能性がある)を持たないように、PDMの細孔は50から500nm、例えば約200nmの直径を有することが好ましい。PDMに対する他の好ましい特徴は、高いゼータ電位及び狭い細孔径分布である。PDMの具体的な例は、Anoporeの商品名で販売されている高純度アルミナ膜、及び例えばDuraporeの商品名で販売されている多孔質ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜である。これらは、100〜200ナノメートルの細孔サイズを有し、親水性に変更することができ、−30から−60ミリボルトのゼータ電位を有することができる。
【0049】
電解液のイオン強度は、PDMの細孔の直径の0.1倍未満であるデバイ長を提供するのに十分な強度であることが好ましい。電解液中のイオンの移動度は、PDMの電気浸透移動度の20倍未満、より好ましくは3倍未満、最も好ましくは1倍未満であることが好ましい。
【0050】
PDMは正又は負のゼータ電位を有することができる。PDMのゼータ電位とは反対の符号の電荷を有する多価イオンを含む電解液は避けることが好ましい。例えば、PDMが正のゼータ電位を有するときにはリン酸塩、ホウ酸塩及びクエン酸塩は避けることが好ましく、PDMが負のゼータ電位を有するときにはバリウム及びカルシウムイオンは避けることが好ましい。
〔スペーサ、支持体、電気リード線及び組立体〕 デバイスは、デバイスの構成要素を分離するために1つ又は複数の電解液透過性内部スペーサを含むことができる。このようなスペーサは、例えば電極内の不規則性に起因する望ましくない効果を低減させるために、図6に示した種類の扁平な大径デバイスで特に望ましい。このようなスペーサは、例えば5〜10ミクロンの細孔、1.7のフォーメーションファクタ(formation factor)、及び50ミクロンの厚さを有することができる。このような内部スペーサの電気及び流動抵抗は、導管の電気及び流動抵抗よりずっと小さいことが好ましい。スペーサは一般に大きな細孔の誘電材料、例えば発泡ポリプロピレン又はアクリルポリマーからなる。
【0051】
デバイスはさらに、使用中にデバイスが撓曲することを防ぎ、構成要素を全体に所望の形状に維持する1つ又は複数の外部支持体を含むことができる。
動作時、電力はリード線を通して電極に供給されなければならず、これらのリード線は大抵の場合、デバイスとは一体の部分である。リード線は電解液と接触しないことが好ましく、接触する場合には、リード線は白金又は電気化学的に安定した他の金属からなることが好ましい。
【0052】
デバイスの構成要素は任意の方法で一体に固定することができる。例えば、デバイスの構成要素をひとまとめに積層して、チップに似た組立体、例えばPaul、Neyer及びRehmの2002年7月17日に出願され同一の譲受人に譲渡された同時係属の米国特許出願第10/198,223号(事件整理番号14138)に記載されている組立体を形成することができる。
〔デバイスのタイプ及びデバイスの使用法〕 本発明の界面動電デバイスは任意の種類のデバイスとすることができる。好ましいデバイスは界面動電ポンプであり、本発明は一般に界面動電ポンプに関して説明される。このポンプは、電解液が唯一の液体である直接ポンプとすることができる。直接ポンプは例えば、電解液が有用な機能、例えば熱交換を実行する流路に沿って、電解液を単純に分配し、又は電解液をポンピングすることができる。あるいはこのポンプを、電解液のポンピングによって、電極の電場の影響を受けない部分にある別の流体の流動を引き起こす間接ポンプとすることもできる。本明細書ではこの別の流体を「作動流体」と呼ぶ。
【0053】
作動流体は界面動電液体(すなわち電気浸透流をサポートする液体)である必要はなく、一般に界面動電液体ではない。作動流体は例えば、導管を流れることができない液体、又は導管に流してはいけない液体、例えば炭化水素燃料、推進剤、純粋な溶剤、高塩類含量の液体、ゼータ電位をサポートしない液体、内部に粒子が分散した液体、あるいはポンプの中を流れることができない化合物、又はポンプに流してはいけない化合物、例えばタンパク質又は薬物を含む液体である。
【0054】
間接ポンプの一形態では、デバイスが、開いた端部又は開くことができる端部を有する、電極の電場の影響を受けない第2の導管を含む。使用時、第2の導管は電解液で満たされ、第2の導管の開いた端部は作動流体と接触して配置され、デバイスは、作動流体の試料が第2の導管に引き込まれるように操作される。この試料、例えば皮下流体の試料は、第2の導管の中で調べ、又は電解液の流れの向きを逆にすることによって試料を第2の導管から放出した後で調べることができる。この種類の1つのデバイスは、中心室と連絡し異なるゼータ電位のPDMで満たされた2つの区画を有する第1の導管を含む前述のタイプのデバイスである。第2の導管はこのようなデバイスの中心室に取り付けられる。デバイスが非常に高速に反応するように、中心室は、電極を含む室よりもずっと小さくすることができる。
【0055】
間接ポンプの他の形態では、電解液のポンピングによって、電解液を含む室の体積が変化し、したがって隣接する室の体積が変化し、その結果、隣接する室に作動流体が引き込まれ、又は隣接する室から作動流体が放出される。例えば、これらの室は、変形可能な中間部材を共有することができ、この中間部材は、撓曲(例えば蛇腹)及び/又は引伸し(例えば可撓性の隔膜)の結果として形状を変化させ、かつ/あるいはピストンとシリンダの組合せを含む。この中間部材は例えば多層高分子フィルムからなることができ、これを金属で被覆してもよい。電解液を含み体積が変化する室は、電極を含む室又は別個の室、例えば導管の2つの区画が中心室と連絡した前述のデバイスの中心室とすることができる。
【0056】
いくつかのケースでは、隣接する室が、送達デバイス、例えば注射器を取り付けることができるポートを含む。送達する液体は、送達デバイスをポートに取り付ける前又は送達デバイスをポートに取り付けた後に、送達デバイスに入れることができる。他のケースでは、隣接する室が、送達デバイス例えば注射器を通して分配する液体を含む分離可能なカプセルをその中に置くことができる、室に恒久的に又は移動可能に接続された容器(レセプタクル)を含む。いずれの場合も、電解液は、送達デバイスの構成要素に圧力を直接に加え、又は作動流体を介して間接的に加える。分離可能なカプセルを使用するときには、最初はカプセルを密封しておき、カプセルを容器に入れる前、後又は入れている最中にカプセルを開ける。これらのデバイスは例えば、例えば作動流体を制御された条件で保管しなければならないとき、及び/又は、作動流体を取り扱っている人に危険が及ぶとき、例えば作動流体がバイオハザード、毒物又は放射性同位体であるときに有用である。デバイスを再使用できるように、作動流体を分配した後にカプセルを除去することができる。あるいはこのデバイスが、医療用途では一般的な使用後に廃棄される使い捨てデバイスである。
【0057】
いくつかの間接ポンプでは、それぞれの電極が1つの室の中にあり、その室が、作動流体用の隣接する室と、変形可能な中間部材を共有している。隣接する室はオプションで、例えばループを通して互いに連絡しており、このループの中では作動流体がある有用な機能、例えば熱交換のために使用され、又は検査用の試料を採取する機能を実行する。
【0058】
このデバイスを、例えば所望の継続的な速度で薬物を送達するために、ヒト又は動物の体内に埋め込むことができるように設計することができる。
デバイスが金属を実質的に含まないとき、このデバイスは、強い電磁場を利用するシステム、例えば医療用の撮像システムの動作を妨害しない。
【0059】
本発明のデバイスの具体的な使用法には、薬物送達、医療診断、試料抽出、燃料電池、アクチュエータ及び液体ディスペンサが含まれる。
例えば2002年1月31日に出願され同一の譲受人に譲渡されたRakestraw他の同時係属米国特許出願第10/066,528号(事件整理番号14131)に記載されているように、2台以上のポンプを、流量を増大させるために並列に、又は圧力を増大させるために直列に接続することができる。このデバイスの動作は、排気しなければならず、又は電解液の組成の変化を引き起こす気体を生み出さないので、デバイスを密封されたシステムの一部とすることができる。このデバイスを、電気浸透流によって、システムから制御された方法で液体が分配され、液体源から制御された方法で液体が吸い出されるシステムの一部とすることもできる。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態では、デバイスを循環モードで動作させる。この循環モードでは、最初に、第1の期間の間デバイスを動作させて、その間に導管の中の電解液を一方向に流し、その後、電源の極性を逆転させ、第2の期間の間、デバイスを動作させて、その間に電解液を反対方向に流す。それぞれの期間は十分に短く、そのため電解液の化学変化は実質的に起こらない。それぞれの期間の持続時間は、デバイスに応じて、非常に短く、例えば4秒から10秒とし、又はずっと長く、例えば5から30分、又は10から40時間とすることができる。このようにすると、必要ならば逆止め弁を用いることによって、システムを連続的又は断続的に動作させることができる。例えば、2つの逆止め弁を含むシステムは交番サイクルの間だけ一方向の流れを与えることができるが、4つの逆止め弁を含むシステムは、両方のサイクルの間、一方向の流れを与えることができる。
【0061】
本発明の界面動電ポンプを使用する特定のシステム系には例えば、熱伝達システム、液体分配システム、液体引抜きシステム、薬物送達システム、医用監視システム、燃料電池及びアクチュエータが含まれる。これらのうちのいくつかシステム、例えば電解液が熱伝達流体である熱伝達システムは直接ポンピングを使用する。他のシステム、例えば全血を取り扱う医用監視システム又はタンパク質療法剤を取り扱う薬物送達システムは間接ポンピングを使用する。一例では、10〜80マイクロリットルの流体が、好ましくはディスペンサのノズルと容器とが接触することなく、規則的な間隔で分配される。他の例では、このシステムが、約0.4mmの断面積を有する図5に示したタイプのポンプを使用して、医用の監視装置の中に流量100nl/分で液体を分配する。この流量でこのポンプは、電解液の化学変化が始まるまでに約7日間動作することができる。
【0062】
使用後に本発明のデバイスを電源から切り離し、電極へのリード線を互いに接続し、又は回路を形成している他の要素に接続した場合(又は電源の極性が逆にした場合)、電極に蓄えられた電荷が放電され、したがって逆方向の電気浸透流が生じ、又は逆方向の電気浸透流が助長される。
〔図面〕 図1では、導管1が、その端部が導管を出てバイア(通路)12a及び12bの中へ延びるPDM11を含む。バイア12a及び12bはそれぞれ円形断面を有する。バイア12a及び12bは、ポート21a及び21bを有する貯留部2a及び2bと連絡している。バイア12a及び12bの端部を中心にして半球形の多孔質電極3a及び3bが配置されており、これらは電源6から給電を受ける。センサ電極51a及び51bはバイア12a及び12bの中にそれぞれ位置しており、その結果、センサ電極51a及び51bは、PDMと電極との間の直接場の外側となる。センサはデバイス5と連絡し、デバイス5は電源6と連絡し、所望ならばその電力出力を変化させて、例えばPDM11の両端間の所望の電位差、したがってPDM11内の流量を維持する。
【0063】
図2〜図4では、導管1が、その端部が導管を出て貯留部2a及び2bの中へ延びるPDM11を含む。貯留部2a及び2bはポート21a及び21bを有する。PDM11の端部を中心にして多孔質電極3a及び3bが配置されており、多孔質電極3a及び3bは、導管の断面が円形又は正方形であるときには図3に示すように半球形のシェルであり、導管の断面が長方形であるときには図4に示すように半円筒形のシェルである。リード線61及び62が電源6を電極3a及び3bに接続する。
【0064】
図5では、導管1が、その端部が導管を出てバイア12a及び12bの中へ延びるPDM11を含む。バイア12a及び12bはそれぞれ円形断面を有する。バイア12a及び12bは貯留部2a及び2bと連絡している。バイア12a及び12bの端部を中心にして環状の多孔質電極3a及び3bが配置されており、これらは電源6から給電を受ける。室2a及び2bは、隣接する室81及び82の一部でもある柔軟な膜7a及び7bを含む。室81はポート21aを有し、室82はポート21bを有する。使用時、室2aと2bの間の電解液の電気浸透流が室2a及び2bの体積、したがって室81及び82の体積を変化させる。このようにして、作動流体(あるいは空気又は他の流体)を室81の中に引き込み、同じ又は異なる流体を室82から放出することができ、あるいはこの逆の操作を実施することができる。
【0065】
図6では、円形断面の短管である導管1が、ディスク形のPDM11と、PDMと接触した内面及び室2a、2bと連絡した外面を有する多孔質容量性電極3a、3bとを含む。ハウジング110が構造安定性を追加する。
【0066】
図7では、円形断面の短管である導管1が、多孔質スペーサ12a及び12bによって支持されたPDM11を含む。多孔質容量性電極3a及び3bがこの支持部材と接触し、室2a及び2bと連絡した外面を有する。室2a及び2bは、隣接する室81及び82の一部でもある柔軟な膜7a及び7bを含む。室81は、室81を流れる液体の流量を制御するために逆止め弁812a及び812bが取り付けられたポート811a及び811bを有する。室82は、室82を流れる液体の流量を制御するために逆止め弁821a及び821bが取り付けられたポート821a及び821bを有する。リード線61及び62が電源6を電極3a及び3bに接続する。使用時、室2aと2bの間の電解液の電気浸透流が室2a及び2bの体積、したがって室81及び82の体積を変化させ、したがって、逆止め弁の適当な動作を用いて、作動流体を一方の室から放出し、同じ又は異なる作動流体をもう一方の室に引き込むことが可能になる。(電源の極性を逆にすることによって)電気浸透流の方向を定期的に変化させ、逆止め弁の動作を定期的に変化させることによって、作動流体は室81又は82から流れ出し、両方の室の作動流体が同じ場合には、これらの出力を結合して、連続流を提供することができる。
【0067】
図8では、円形断面の管である導管1が連続層を含む。この連続層は、多孔質容量性電極3a、多孔質支持部材12b、第1のPDM11a、多孔質スペーサ12b、多孔質容量性電極3b、多孔質スペーサ12c、第2のPDM11b、多孔質スペーサ12d及び多孔質容量性電極3cである。第1のPDMと第2のPDMは反対のゼータ電位を有する。多孔質容量性電極3a及び3cはそれぞれ室2a及び2bと連絡した外面を有する。リード線61、62及び63が電源66を電極3a、3b及び3cに接続する。電源66は、共通に接続された電極3a及び3cに関して電極3bを駆動する。室2a及び2bのポート12a及び12bは、その中で熱が放出される2次熱交換器506a、506bと、その中で熱が吸収される1次熱交換器508とを含む熱交換ループと連絡している。使用時、電源は、電極3bと共通に接続された電極3a、3cとの間の電位を周期的に逆転させ、電解液の化学変化が生じる時間よりも短い時間、一方又は他方の方向にループをまわる電気浸透流を生じさせる。
【実施例1】
【0068】
図5に示したポンプを構築した。バイアは直径約4mmとし、約30mm離して配置した。PDMは、厚さ約84ミクロン、サイズ5×30mmの多孔質PVDF膜とした。PVDFは、親水性及び−50ミリボルトのゼータ電位を有するように変更した。環状電極は厚さ約2mm、内径10mm、外径約14mmを有する。電極は、脱イオン水中で洗浄し浸出させた多孔質炭素エーロゲルのシートから分割した。柔軟な部材81及び82は直径約20mmとし、厚さ約0.075mm(3ミル)の多層高分子シートから熱成形した。シートは、引っかき抵抗層、2つの気体拡散障壁層、液体拡散障壁層及び熱接着層を含む。この柔軟部材は、室2a及び2bの約2mlの体積変化を収容することができる。このデバイスには約3mlの電解液を含めた。電解液はTRIS/酢酸塩であり、その濃度は最初約5mMとしたが、ポンプを1週間運転した後は2.5mMまで低下した。約1.6マイクロアンペアの初期電流及び電極上で約2.5マイクロアンペア/cmの計算最大電流束が得られる電源を使用し、このポンプを使用して、流量約100nl/分の作動流体を約1週間送達した。
【実施例2】
【0069】
図2及び3に示したポンプを構築した。ただし、図の半球形電極の代わりに、導管のそれぞれの端部を中心にして配置した環状電極を使用した。電極は、エーロゲル発泡体を含浸させた炭素繊維のシートから打ち抜いたものであり、厚さは0.76mm(0.03インチ)、内径は約2mm、外径は約4mmである。導管は、支持ハウジングから室2a及び2bの中に約0.25mm突き出た長さ10mm、内径0.15mm、外径0.36mmのシリカ毛細管とした。PDMは、導管の中に詰め込んだ0.7ミクロンのシリカ粒子である。
【実施例3】
【0070】
図6に示したポンプを構築した。PDMは直径25mmの「Anopore」膜とした。電極は、炭素エーロゲルを含浸させた直径19mmのカーボン紙である。このポンプを使用して、pH約5の1mM酢酸ナトリウム緩衝液をポンピングした。40ミリアンペアの駆界面動電流での流量は最高170マイクロリットル/秒であった。
【実施例4】
【0071】
図6に示したポンプを構築した。PDMは直径13mmのDurapore−Z膜とした。電極は、炭素エーロゲルを含浸させた直径11mmのカーボン紙である。導管の直径は8mmとした。このポンプを使用し、+/−0.5ミリアンペアの方形波交流電流を10秒周期で送達する電源を使用して0.5mM塩化リチウム溶液をポンピングした。溶液は、最初に一方の方向へ10秒間、次いでもう一方の方向へ10秒間、流量0.8マイクロリットル/秒でポンピングした。ポンプを35時間運転しても溶液は劣化しなかった。
【実施例5】
【0072】
実施例4で使用したポンプを、9.5秒間0.2ミリアンペアの電流を送達し、次いで0.5秒間−3.8ミリアンペアの電流を送達する電源に接続した。電流が0.2ミリアンペアのとき、液体は一方の方向にゆっくりとポンピングされた。電流が−3.8ミリアンペアのとき、液体はもう一方の方向にポンピングされ、合計で3マイクロリットルが送達された。
【実施例6】
【0073】
実施例4で使用したポンプに1ボルト電源を接続して、電極の2重層静電容量を充電した。次いで電源を切り離し、電極へのリード線を短絡させた。その結果,デバイスの中に液体の電気浸透流が生じた。
【実施例7】
【0074】
図6に示したポンプを構築した。PDMは有機アミン誘導体膜とした。電極は炭素メッシュである。このポンプを使用して、0.5mM塩化リチウム溶液、34mM酢酸及び34mM炭酸を別個の操作でポンピングした。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】比較的に長く幅の狭い管と半球形シェル電極とを有する第1のポンプを示す図である。
【図2】比較的に長く幅の狭い導管と、半球形シェル又は円筒形シェル電極とを有する第2及び第3のポンプを示す図である。
【図3】比較的に長く幅の狭い導管と半球形シェル電極とを有する第2のポンプを示す、図2の線III−IIIで切った断面図である。
【図4】比較的に長く幅の狭い導管と円筒形シェル電極とを有する第3のポンプを示す、図2の線IV−IVで切った断面図である。
【図5】比較的に長く幅の狭い導管を有し、柔軟な膜を含む第4のポンプを示す図である。このデバイスを使用して電解液でない作動流体をポンピングすることができる。
【図6】短く幅の広い導管を有する第5のポンプを示す図である。
【図7】短く幅の広い導管を有し、柔軟な膜を含む第6のポンプを示す図である。このデバイスを使用して電解液でない作動流体をポンピングすることができる。
【図8】3つの電極と、2つの異なるPDMを含む短く幅の広い導管とを有し、熱交換系の部分である第7のポンプを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)第1及び第2の電極と、
(2)導管であって、
(a)前記第1の電極に隣接した第1の端部、及び
(b)前記第2の電極に隣接した第2の端部を含む導管とを含み、
それによって、デバイスが電解液で満たされたときに、前記導管の中の電解液が、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電気的接続を提供し、
前記第1の電極及び前記第2の電極が下文に定義する容量性電極対を構成する、界面動電デバイス。
【請求項2】
前記容量性電極対が少なくとも10−2ファラド/cmの静電容量を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記容量性電極対が少なくとも1ファラド/cmの静電容量を有する、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記第1及び第2の電極のうちの少なくとも一方の電極が電気的活性表面を有し、前記電気的活性表面のあらゆる点が、前記導管の前記隣接する端部から、前記電気的活性表面の任意の点と前記導管の前記隣接する端部との間の最短距離の1.2倍よりも大きくない距離だけ分離されている、前記請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記第1及び第2の電極がそれぞれ、環状の電気的活性表面を有するか、あるいは球形シェルの内部凹面の少なくとも一部であるか、あるいは円形又は楕円形の断面を有する円筒形シェルの内部凹面の少なくとも一部である、前記請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1及び第2の電極がそれぞれ、炭素エーロゲルを含浸させたカーボン紙、炭素織布、一体的な炭素発泡体、内部にカーボン粒子を分散させたポリマー、カーボンナノチューブ、炭素粒子のフリット、炭素エーロゲル、deLevieブラシ及びナノポーラス金をから構成される群から選択された材料を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記第1及び第2の電極がそれぞれ擬似容量性電極である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記第1及び第2の電極がそれぞれ、それらの間の静電容量の少なくとも30%を提供する、前記請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記第1及び第2の電極が前記デバイスの唯一の電極であり、互いに実質的に同じである、前記請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記導管が多孔質誘電材料を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記導管の両端間の電圧降下を測定するためのセンサをさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記デバイスが界面動電ポンプである、前記請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
開いた端部又は開くことができる端部を有する第2の導管を備え、それによって、前記デバイスは、使用中に、前記第2の導管の前記開いた端部を通して前記第2の導管の中に作動流体を引き込むか、又は前記第2の導管の前記開いた端部を通して電解液又は作動流体を分配するように操作することができる、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
変形可能な障壁部を構成し前記デバイスの使用中に電解液を包含する室を含み、それによって、前記デバイスの使用中に、電解液の電気浸透流が、前記変形可能な障壁部の変形及び作動流体の分配を引き起こす、請求項12又は13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記変形可能な障壁部が、ピストン及び当該ピストンの周囲のシリンダを含む、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
(3)第1の囲い部であって、(i)前記第1の電極及び前記導管の前記第1の端部を取り囲み、(ii)第1の変形可能な障壁部を含む第1の囲い部(enclosure)と、
(4)第2の囲い部であって、(i)前記第2の電極及び前記導管の前記第2の端部を取り囲み、(ii)第2の変形可能な障壁部を含む第2の囲い部と、
(5)第3の囲い部であって、その1つの壁が前記第1の変形可能な障壁部である第3の囲い部と、
(6)第4の囲い部であって、その1つの壁が前記第2の変形可能な障壁部である第4の囲い部とを含み、
それによって、前記第1及び第2の囲い部ならびに前記導管が電解液を包含し、前記第1の囲い部と前記第2の囲い部との間に前記電解液の電気浸透流があるときに、前記第3及び第4の囲い部の体積が変化する、前記請求項のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
(A)請求項1乃至16のいずれか一項に記載の界面動電デバイスと、
(B)前記第1及び第2の電極に接続することができる電源であって、当該電源が前記電極に接続されており、前記デバイスが適当な電解液で満たされているときに、前記導管の中に前記電解液の電気浸透流を生じさせる電源とを含む装置。
【請求項18】
(A)請求項1乃至16のいずれか一項に記載の界面動電デバイスと、
(B)前記界面動電デバイスを満たす電解液と、
(C)前記第1及び第2の電極に接続され、前記導管の中に前記電解液の電気浸透流を生じさせる電源とを含む電気回路。
【請求項19】
前記第1及び第2の電極のそれぞれの前記電気的活性表面の全ての点の電流束が20マイクロアンペア/cm未満である、請求項18に記載の回路。
【請求項20】
前記電源が前記電極に接続された後、前記デバイスが、少なくとも1日の間、前記電解液の重大な化学変化を生じることなく動作する、請求項18又は19に記載の回路。
【請求項21】
前記電源が前記電極に接続された後、前記デバイスが、少なくとも6日間、前記電解液の重大な化学変化を生じることなく動作する、請求項20に記載の回路。
【請求項22】
前記導管を跨ぐ電圧降下が、前記電極間の電圧降下の少なくとも85%である、請求項18乃至21のいずれか一項に記載の回路。
【請求項23】
請求項18乃至22のいずれか一項に記載の回路を動作させる方法であって、
(A)前記回路を動作させるステップであって、前記電解液の重大な化学変化が起こらない時間の間、前記電解液が前記導管の中を第1の方向に流れるようにする、前記回路を動作させるステップと、
(B)前記電源の極性を逆転させるステップであって、前記電解液の重大な化学変化が起こらない時間の間、前記電解液が前記導管の中を反対方向に流れるようにする、前記電源の極性を逆転させるステップとを含む方法。
【請求項24】
請求項1乃至16のいずれか一項に記載の界面動電デバイスの中で使用するのに適した電極であって、球形シェル、円形又は楕円形断面を有する円筒形シェル、あるいは放物線又は双曲線断面を有する部分円筒形シェルの内面の少なくとも一部である内面を有する電極。
【請求項25】
炭素エーロゲルを含浸させたカーボン紙、炭素織布、一体的な炭素発泡体、内部にカーボン粒子を分散させたポリマー、カーボンナノチューブ、炭素粒子のフリット、炭素エーロゲル、deLevieブラシ及びナノポーラス金から構成される群から選択された材料を含む、請求項24に記載の電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−503537(P2006−503537A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−545416(P2004−545416)
【出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2003/032895
【国際公開番号】WO2004/036041
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(503459408)エクシジェント テクノロジーズ, エルエルシー (12)