説明

畜糞炭化物からのリン回収方法及び農業用肥料

【課題】畜糞炭化物から安価にリンを回収するリン回収方法及び、窒素、リン及びカリウムのバランスを良くした農業用肥料を提供すること。
【解決手段】畜糞炭化物20からカリウムを除去してリンを回収するものであり、畜糞炭化物20に対して水溶出を複数回繰り返す水溶出工程(S11)と、水溶出工程後に残渣22を取り除いた溶出液に水酸化カルシウムを添加することによってリン化合物24を析出するリン沈殿回収工程(S12)とを有するリン回収方法であり、そうして作った第2肥料30を牛糞消化液などの第1肥料に混合した農業用肥料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜糞炭化物から安価にリンを回収するリン回収方法及び、回収されたリンを他の畜糞堆肥と混合させて窒素、リン及びカリウムのバランスを良くした農業用肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用肥料となる牛糞等の堆肥は、カリウムや窒素に比べてリンの含有量が少ないため、リンを比較的多く含む鶏糞の炭化物や灰を混合して肥料効果を高める方法が研究されている。しかし、混合する鶏糞炭化物などにも相当量のカリウムが存在するため、リンを補う以上にカリウムが過剰になってしまう。従って、牛糞の堆肥などに他の畜糞を混合する場合には、例えばその畜糞炭化物からリンを回収し、それを混合して窒素やカリウムとのバランスをよくした農業用肥料を製造することが求められている。
【0003】
下記特許文献1には、畜糞の焼却灰からリンを回収する方法が示されている。図3は、リン回収工程を概念的に示したブロック図である。ここでは先ず畜産系焼却灰50からリン化合物を分離・回収するため、塩酸51などの鉱酸を作用させてリン成分を溶出させる(S101)。酸溶出によってリン成分は液溶出され、溶出液を取り除いて残った灰の残渣52にはリンが殆ど残っていない。そこで、リン含有水溶液である溶出液に水酸化カルシウム53を添加したリンの沈殿回収が行われる(S102)。既にカルシウムイオンが過剰に存在していることから優先的にリン酸水素カルシウム54が溶出液中に析出して沈殿し、それによってリンを回収することができる。一方、リン酸水素カルシウムを取り除いた後には塩化カリウムや塩化カルシウムを含む溶出液55が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−070217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のリン回収方法では、畜産系焼却灰50からのリンを溶出するために塩酸51を使用することによって殆どのリンを溶出させることができるものの、使用する塩酸51の量が多くなってしまう。そのため、塩酸51に要する費用によって回収コストが高くなってしまい、更には回収したリンを混合して製造する農業用肥料の価格を上げてしまう結果となる。また、溶出液にはアルカリを加えた沈殿生成を行うために水酸化カルシウム53が使用されているが、例えば鶏糞にはカルシウムが多いので余分にカルシウムが必要であり、塩化カリウムや塩化カルシウムの塩類が副生される。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、畜糞炭化物から安価にリンを回収するリン回収方法及び、窒素、リン及びカリウムのバランスを良くした農業用肥料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリン回収方法は、畜糞炭化物からカリウムを除去してリンを回収するものであり、前記畜糞炭化物に対して水溶出を複数回繰り返す水溶出工程と、前記水溶出工程後に残渣を取り除いた溶出液に水酸化カルシウムを添加することによってリン化合物を析出するリン沈殿回収工程とを有することを特徴とする。
また、本発明のリン回収方法は、前記畜糞炭化物が鶏糞を炭化させたものであることが好ましい。
【0008】
本発明の農業用肥料は、畜糞堆肥又は畜糞消化液の第1肥料に対し、畜糞炭化物からカリウムを除去すると共にリンを回収して得た第2肥料を混合するものであり、前記第2肥料は、前記畜糞炭化物に対して水溶出を行った後の残渣と、前記残渣を取り除いた溶出液からリン化合物を析出して得た沈殿物とを混合させたものであることを特徴とする。
また、本発明の農業用肥料は、前記第1肥料が牛糞消化液であり、前記第2肥料が鶏糞炭化物からつくり出したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
よって、本発明のリン回収方法によれば、鶏糞などの畜糞炭化物を水溶出することにより、カリウム分の多くを溶出液を介して取り除きながら、リンを、水溶出後の残渣と溶出液から析出した沈殿物として回収するようにしたので、従来のように塩酸を使用するのに比して大幅にコストを低下させることができる。
また、本発明によれば、リンが不足している牛糞消化液などの第1肥料に対して、前記方法によって得た残渣と沈殿物とからなる第2肥料を混合させることにより、カリウムの増大を抑えながらリン不足を補い、窒素、リン及びカリウムのバランスを良くした農業用肥料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】リン回収方法の実施形態を概念的に示したブロック図である。
【図2】鶏糞炭化物に含まれているカリウムとリンの成分量の分析結果を表にして示した図である。
【図3】従来のリン回収方法を概念的に示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係る畜糞炭化物からのリン回収方法及び農業用肥料について、その一実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。本実施形態のリン回収方法は、鶏舎から排出される鶏糞を乾燥後、それらを加熱によって炭化した鶏糞炭化物からリンを回収する方法である。また、農業用肥料は、牛糞消化液等の比較的リン成分の少ない肥料に対して回収したリンを混合し、カリウム(K)、窒素(N)及びリン(P)のバランスを整えるようにしたものである。
【0012】
畜舎から排出される畜糞などの有機性廃棄物についてその有効利用を図るため、牛糞等の堆きゅう肥は農業用肥料として利用されている。しかし、牛糞はカリウムや窒素に比べてリンの含有量が少なく、牛糞消化液についてカリウムとリンとの比率は、例えばリンが1に対してカリウムは1.47であった。そこで、リンを比較的多く含む鶏糞炭等を混合し、堆肥効果を高めることが考えられるが、その鶏糞にも相当量のカリウムが存在するためカリウム分が過剰になってしまう。よって本実施形態では、次の方法によりカリウムを除去する一方で必要なリンの回収を行うようにした。
【0013】
図1は、本実施形態のリン回収工程を概念的に示したブロック図である。本実施形態では、鶏糞炭化物20からリンの回収を行う場合について説明する。鶏糞は、乾燥によって水分を除去した後に炭化炉に送り込まれて炭化処理が行われる。加熱処理によって炭化された鶏糞炭化物20は、炭化炉から排出された時点で約250℃〜450℃の高温になっている。そのため、鶏糞炭化物20をそのまま外気にさらしたのでは発火して燃えてしまうため、一定温度にまで冷やす冷却工程が必要である。
【0014】
本実施形態では、例えばそうした冷却工程を利用して鶏糞炭化物20に含まれるリン回収の一部を行うこととする。つまり、鶏糞炭化物20は、水21に漬けられて冷却が行われるが、その際、鶏糞炭化物20中のリンやカリウムが水21に溶け出すため、これを水溶出工程とする(S11)。そして、水溶出工程が行われた後は、その溶出液から炭化物である残渣22を取り除く。水に溶けずに残渣22に残った成分は、殆どが炭化物由来の炭素とリン酸水素カルシウムであり、その他にカリウムやマグネシウムも存在する。
【0015】
ここで図2は、鶏糞炭化物に含まれているカリウムとリンの成分量の分析結果を表にして示した図である。この分析結果を炭化物について見てみると、鶏糞炭化物20のリンは殆どがク溶性リンであり、水に溶けずに残渣22に残ってしまうことが分かる。鶏糞炭化物全体にリン成分が4.0wt.%(重量百分率)存在する中、水溶性のリンが0.4wt.%であり、鶏糞炭化物からは水溶出によって10パーセントのリンが溶出することが分かった。すなわち、水溶出した鶏糞炭化物20の残渣22にはリン酸水素カルシウムとして90パーセントのリン成分が残る。
【0016】
その一方、カリウムは、鶏糞炭化物20中に7.1wt.%存在しており、水溶出によって4.9wt.%が溶け出し、水溶出した後の残渣22の中には2.2wt.%が残るという結果が得られた。ここから、炭化物中のリンは溶出し難いが、逆にカリウムは溶出し易いことが分かる。カリウムは水溶性のため水で溶出されやすいが、リンは溶出液がカリウムの溶出によりアルカリ性になると、イオン平衡によってリン酸水素カルシウムとして固定されているものが溶解せず溶出が困難となるからである。
なお、図2に示した数値は、全カリウム及び全リンの成分量が、いずれも水溶性とク溶性の値を合計した値となっていない。これは、溶媒が水またはクエン酸の2%液の違いにより、溶出割合が変わるためである。
【0017】
こうして鶏糞炭化物20からは、水溶出によって少しのリンと多くのカリウムを溶出させることができ、残渣22には逆に多くのリンを残すことができる。なお、水溶出工程(S11)では、重量比を基準として鶏糞炭化物20と水との割合を1対5とし、溶出を2〜5回繰り返すのが好ましい。これにより、水溶性カリウムのほぼ全量を溶出することができるからである。
【0018】
続いて、S11の水溶出工程で得られた溶出液からリン化合物を析出して回収するリン沈殿回収工程が行われる(S12)。つまり、溶出液に対して添加剤23として水酸化カルシウム(消石灰)が加えられ、溶出した10パーセント分のリンを析出させて沈殿したものを回収する。溶出液にはリンとカリウムが溶け込んでおり、そこへ水酸化カルシウムの添加剤23が加えられリン酸水素カルシウムの沈殿物24が生成される。そして、このリン沈殿回収工程で得られたリン酸水素カルシウムの沈殿物24は溶出液から取り出され、後には水酸化カリウムを含む溶出液25が残る。
【0019】
よって、本実施形態のリン回収方法によれば、鶏糞炭化物20を水溶出することにより、その中に含まれるカリウム全体の70パーセント程度を水酸化カリウムとして溶出液25を介して取り除きながら、残渣22と沈殿物24としてリンをほぼ全量回収することができた。すなわち、水溶出後の残渣22には90パーセントのリンが存在し、溶出液からは残る10パーセントのリンを沈殿物24として回収した。そして、本実施形態では、水溶出工程(S11)によってリン回収を行ったため、従来のように塩酸51を使用するのに比べて大幅にコストを低下させることができた。
【0020】
また、水溶出工程(S11)後の溶出液中には10パーセント分のリンしか溶け込んでいないため、添加剤23として使用する水酸化カルシウムが少量で済ませることができ、この点でもコストを抑えることができた。更に、水溶出工程(S11)において数回の溶出操作を実施すれば、使用する水量を1回の溶出操作で実施する場合と比較して大幅に低減できるようになり、しかもカリウムの溶出量も増やすことができ、後述する農業用肥料中のカリウムの増大を抑えることができる。
【0021】
ところで、鶏糞炭化物そのままでは、図2に示すように、全リン4.0wt.%と全カリウム7.1wt.%の比率は、全リン1に対して全カリウムが1.78である。牛糞消化液に対してこの鶏糞炭化物を混合させたのでは、牛糞消化液のリン不足を補う一方で、鶏糞炭化物中にリンよりも高い割合で含まれているカリウム分がさらに増大してしまう。カリウムが過剰になった農業用肥料は、カルシウムやマグネシウムの吸収を阻害し、植物などの生育においてカルシウムやマグネシウムの欠乏症を引き起こすと考えられている。
【0022】
そこで、本実施形態では、前述したリン回収方法によって得られた残渣22と沈殿物24とを加えたものを第2肥料30とし、これを第1肥料である牛糞消化液へ混合することによって農業用肥料を製造することとした。第2肥料30の中に含まれるカリウムは、水溶出工程(S11)を経た残渣22に存在するものであるが、リンに対するカリウムの比率を大幅に減らすことができた。図2の分析結果を参考にすると、第2肥料30には、回収されたリン成分が全体の4.0wt.%であるのに対し、カリウムは残渣22に残る2.2wt.%だけとなり、その比率はリン1に対してカリウムが0.55である。
【0023】
よって、リンが不足している牛糞消化液に対して、カリウムを除去してリンを回収した第2肥料30を混合させることにより、カリウムの増大を抑えながらもリン不足を補うことができ窒素、リン、カリウムのバランスが良い農業用肥料とすることができた。
【0024】
以上、本発明に係る畜糞炭化物からのリン回収方法及び農業用肥料について実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
前記実施形態では、第2肥料として鶏糞炭化物を例に挙げてリンの回収方法を説明したが、比較的高濃度にリン成分を含有する畜糞として鶏糞の他に豚糞炭化物であってもよく、また牛糞炭化物であってもよい。
前記実施形態では、第1肥料として牛糞消化液を例に挙げて説明したが、その他には牛糞の堆肥や豚糞の消化液や堆肥であってもよい。
【符号の説明】
【0025】
20 鶏糞炭化物
21 水
22 残渣
23 添加剤
24 沈殿物
25 溶出液
30 第2肥料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜糞炭化物からカリウムを除去してリンを回収するリン回収方法において、
前記畜糞炭化物に対して水溶出を複数回繰り返す水溶出工程と、前記水溶出工程後に残渣を取り除いた溶出液に水酸化カルシウムを添加することによってリン化合物を析出するリン沈殿回収工程とを有することを特徴とするリン回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載するリン回収方法において、
前記畜糞炭化物が、鶏糞を炭化させたものであることを特徴とするリン回収方法。
【請求項3】
畜糞堆肥又は畜糞消化液の第1肥料に対し、畜糞炭化物からカリウムを除去すると共にリンを回収して得た第2肥料を混合するものであり、
前記第2肥料は、前記畜糞炭化物に対して水溶出を行った後の残渣と、前記残渣を取り除いた溶出液からリン化合物を析出して得た沈殿物とを混合させたものであることを特徴とする農業用肥料。
【請求項4】
請求項3に記載する農業用肥料において、
前記第1肥料は牛糞消化液であり、前記第2肥料は鶏糞炭化物からつくり出したものであることを特徴とする農業用肥料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−246289(P2011−246289A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117742(P2010−117742)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】