説明

異方性膜用アゾ化合物、異方性膜用組成物、異方性膜及び偏光素子

【課題】高い二色性、高い分子配向度を示す異方性膜用アゾ化合物、該化合物を含む異方性膜用組成物、異方性膜および偏光素子を提供する。
【解決手段】遊離酸の形が、下記式(1)で表されることを特徴とする異方性膜用アゾ化合物。


(R及びRは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基。Aはスルホ基など置換したナフチル基、Cは、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはアセチルアミノ基を有していてもよい1,4−フェニレン基。nは0または1。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光素子や液晶素子(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)等の表示素子に具備される偏光板等に有用な高い二色性を示すアゾ化合物、該化合物を含有する異方性膜用組成物、異方性膜及び偏光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCDでは表示における旋光性や複屈折性を制御するために直線偏光板や円偏光板が用いられている。OLEDにおいても外光の反射防止のために円偏光板が使用されている。
【0003】
従来、これらの偏光板(偏光素子)にはヨウ素が二色性物質として広く使用されてきた。しかしながら、ヨウ素は昇華性が大きいために偏光素子に使用した場合、その耐熱性や耐光性が十分ではなかった。また、その消光色が深い青になり、全可視スペクトル領域にわたって理想的な無彩色偏光素子とは言えなかった。
【0004】
そのため、有機化合物を二色性物質に使用する偏光素子が検討されている。しかし、これら有機化合物では、ヨウ素に比べると二色性がかなり劣る程度の偏光素子しか得られないなどの問題点があった。
【0005】
光の旋光性や複屈折性を表示原理に用いているLCDにおいて、偏光素子は重要な構成要素であり、近年、表示性能などの向上を目的に新たな偏光素子の開発が進められている。
【0006】
その一つの方法として、ヨウ素を含む偏光素子と同様に、二色性を有する有機化合物(いわゆる二色性色素)をポリビニルアルコールのような高分子材料に溶解または吸着させ、その膜を一方向にフィルム状に延伸して二色性化合物を配向させる方法が挙げられている。しかしながら、該方法では延伸処理等のプロセスに手間がかかる等の問題点があった。
【0007】
そこで、最近では他の方法が着目されるようになってきた。
この方法として、非特許文献1では、ガラスや透明フィルムなどの基板上に有機化合物の分子間相互作用などを利用して二色性化合物を配向させ、偏光膜(異方性膜)を形成している。しかしながら、該文献に記載の方法では、耐熱性の問題があることが知られていた。
【0008】
また、上記ガラスや透明フィルムなどの基板上に有機化合物の分子間相互作用などを利用して二色性化合物を配向させることは湿式成膜法により達成されるが、湿式成膜法で偏光膜が作製される場合、この膜には、使用される分子の高い二色性の他に、湿式成膜法のプロセスに適した化合物であることが要求される。湿式成膜法におけるプロセスとしては、化合物を基板上に堆積、配向させる方法やその配向を制御する方法などが挙げられ、従来の上記延伸処理を経る偏光素子に使用される化合物であっても、湿式成膜法には適していないことが多くある。
【0009】
特許文献1〜4では、湿式成膜法のプロセスに適した各種材料が提案されているが、これらの材料では該プロセスに適してはいても、高い偏光特性(消光比)を得ることができないという問題点があった。
【0010】
また、該プロセスに適した材料として、特許文献4では、(クロモゲン)(SOM)
nで表される色素が提案されている。しかしながら、該文献では、数種類の二色性化合物を組み合わせて無彩色を表しているが、この様に数種類の二色性化合物を組み合わせて異方性膜を得た場合、異なる分子を混合するため分子配向が乱れてしまい、高い二色性を得ることは困難であるという問題点があった。
【0011】
さらに該プロセスに適した材料として、特許文献5では、末端に特定構造のナフチル基を有する異方性膜用のテトラキスアゾ色素が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−180052号公報
【特許文献2】特表2002−528758号公報
【特許文献3】特開2002−338838号公報
【特許文献4】特表平8−511109号公報
【特許文献5】特開2005−255846号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Dreyer,J.F.,Journal de Physique,1969,4,114.,“Light Polarization From Films of Lyotropic Nematic Liquid Crystals”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記特許文献5に記載されている、末端に特定構造のナフチル基を有するテトラキスアゾ色素は、これを異方性膜に用いた場合に高い二色性を示すとされていたが、実用的に十分な二色比を得るためには、末端の構造のみならずその他の部位の構造も含めて、未だ改良の余地があった。
本発明は、異方性膜に用いるテトラキスアゾ型のアゾ化合物であって、該膜が高い二色性、高い分子配向度を示す異方性膜となるアゾ化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、遊離酸の形が下記式(1)で表されるテトラキスアゾ型のアゾ化合物を用いることにより、高い二色性、高い分子配向度を示す異方性膜をなすことができ、その異方性膜を備えてなる偏光素子は、高い光学性能を有することができることを見出し本発明に到達した。
すなわち、本発明は、遊離酸の形が下記式(1)で表されることを特徴とする異方性膜用アゾ化合物、該化合物及び溶剤を含有する異方性膜用組成物、該化合物を含有する異方性膜及び該異方性膜を備えてなる偏光素子に存する。
【0016】
【化1】

【0017】
(上記式(1)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有していてもよいフェニル基を表し、
Aは、下記式(1−a)または(1−b)を表し、
【化2】

【0018】
(上記式(1−a)または(1−b)において、Rは、水素原子、水酸基または置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。)
Cは、置換基として炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはアセチルアミノ基を有していてもよい1,4−フェニレン基を表し、
nは、0または1を表す。)
【発明の効果】
【0019】
本発明のアゾ化合物を用いることにより、異方性膜、中でも特に湿式成膜法で形成される異方性膜であって、高い二色性、高い分子配向度を示す膜を提供できる。また、このような特性を有する異方性膜を備えてなる偏光素子は、調光素子、液晶素子、有機エレクトロルミネッセンス素子等の表示素子など多方面に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
【0021】
本発明でいう異方性膜とは、膜の厚み方向および任意の直交する面内2方向の立体座標系における合計3方向から選ばれる任意の2方向における電磁気学的性質に異方性を有する膜である。電磁気学的性質としては、吸収、屈折などの光学的性質、抵抗、容量などの電気的性質などが挙げられる。吸収、屈折などの光学的異方性を有する膜としては、例えば、直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜、導電異方性膜などがある。
【0022】
本発明の異方性膜は、偏光膜、位相差膜、導電異方性膜に用いられることが好ましく、偏光膜に用いられることがより好ましい。
【0023】
本発明の異方性膜用アゾ化合物は、いわゆる色素としての機能も有する化合物であって、本発明の異方性膜用アゾ化合物を含有する異方性膜は、色素膜としても機能し得るものである。なお、ここでいう色素とは、一般に、可視光波長領域において吸収を有する化合物を意味する。
【0024】
なお、本明細書において置換基を有していてもよいとは、置換基を1または2以上有していてもよいことを意味する。
また、本明細書において置換基の「炭素数」という場合には、その置換基中に含まれる炭素原子の数を表し、置換基がさらなる置換基を有しているときに置換基の「総炭素数」といった場合には、さらなる置換基に含まれる炭素数も含めたすべての炭素数である。
【0025】
[異方性膜用アゾ化合物]
本発明の異方性膜用アゾ化合物は、遊離酸の形が下記式(1)で表されることを特徴とする。
【0026】
【化3】

【0027】
(上記式(1)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有していてもよいフェニル基を表し、
Aは、下記式(1−a)または(1−b)を表し、
【化4】

【0028】
(上記式(1−a)または(1−b)において、Rは、水素原子、水酸基または置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。)
Cは、置換基として炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはアセチルアミノ基を有していてもよい1,4−フェニレン基を表し、
nは、0または1を表す。)
【0029】
上記式(1)で表される異方性膜用アゾ化合物は、一方の末端に、特定位置にスルホ基が置換したナフチル基を有し、他端に、7位にアミノ基NRが置換したナフチル基を有するテトラキスアゾ化合物であることが一つの特徴である。
本発明の化合物は、7位にアミノ基NRが置換したナフチル基を有することによりニュートラルブラックの色調を示すことから、可視光用偏光子に適している。
【0030】
また、テトラキスアゾ色素であることにより、末端に同じ構造のナフチル基を有するジスアゾ化合物やトリスアゾ化合物に比べ、分子内の芳香環の数が増えるので、分子会合の要因であるπ−π相互作用が強まり、会合度が高まる。その結果、リオトロピック液晶相に転移する濃度も低く、後述する湿式成膜法に適しているとともに、得られる異方性膜の配向性も高くなる。さらに、テトラキスアゾ化合物は、ジスアゾ化合物やトリスアゾ化合物に比べて分子長短軸比が大きいことから、湿式成膜法で形成される異方性膜中で、分子長軸が膜に平行になりやすいという特徴がある。その結果、異方性膜の膜厚方向の吸収が小さくなり、平行方向の吸収が大きくなりやすい。この特性は、斜めに入射された偏光に対する偏光性能は低下させるものの、垂直入射された偏光に対する偏光性能を向上させるという利点を有する。
【0031】
また、一方の末端に特定位置にスルホ基が置換したナフチル基を有し、他端に7位にアミノ基NRが置換したナフチル基を有する構造により、本発明の化合物を含有する組成物において、該スルホ基とアミノ基NRが立体的に良好に相互作用して引き合い、溶液中での高い会合状態を形成することが期待できる。さらに、この相互作用により、会合体中の分子がずれずに積層されるため、会合体の配向軸とアゾ化合物の吸収軸がずれないという大きな利点がある。
【0032】
こうした引力的な相互作用を有する分子末端置換基の組み合わせは他にも考えられるが、本発明者らによる検討の結果、特に、7位にアミノ基NRが置換したナフチル基を末端に有するテトラキスアゾ化合物においては、他端に、前記式(1−a)または(1−b)で表される特定位置にスルホ基が置換したナフチル基を組み合わせることが好ましいことが明らかになった。
【0033】
さらに、この異方性膜用アゾ化合物は、分子内部に、ナフチレン基−フェニレン基−ナフチレン基が連結された構造を有することがもう一つの特徴である。分子内部にナフチレン基を導入すると、会合を生じさせるためのπ−π相互作用を強めるので、会合度が高くなり、異方性膜の配向性が高まる利点がある。さらに、このナフチレン基が1,4−ナフチレン基であると、会合体中の配向軸とアゾ化合物の分子長軸にほぼ平行な主吸収の吸収軸がずれにくくなる利点がある。
【0034】
例えば、特開2007−199333号公報等にも記載されているように、一般に芳香環からなる化合物の会合は、垂直に積層するのではなくπ電子の斥力によりずれて積層しやすいと考えられている。しかし、本発明者らの検討の結果、分子中央に1,4−ナフチレン基があると、分子は短軸方向にずれて積層するが、長軸方向のずれについてはむしろ抑制されることが判明した。アゾ化合物の吸収軸が概ね分子長軸に平行であることから、意外にも、短軸方向のずれは大きく影響せず、高い偏光特性を得ることができる。さらに、この1,4−ナフチレン基にスルホ基を置換させると、会合体同士が疎水結合により凝集することを防止し、細長い会合体を安定に分散させるので、異方性膜の配向性を高める意味で非常に好ましいことも判明した。
【0035】
また、さらに詳細な検討の結果、テトラキスアゾ化合物においては、分子内部に1,4−ナフチレン基を3つ連結すると、会合性及び配向性を高める観点では好ましいが、アゾ化合物の副吸収の偏光特性の観点で好ましくないことも判明した。1,4−ナフチレン基を隣り合わせに連結すると、隣接するナフチレン基の分子面が捩れるため、一分子の平均的な分子面から副吸収の吸収軸が外れることになり、その結果、会合体の配向軸と副吸収の吸収軸がずれて副吸収に相当する波長の二色比が低下することがわかった。テトラキスアゾ化合物の副吸収は複数存在するが、主吸収よりも視感度の高い波長に副吸収が存在するので、視感度補正された偏光特性に大きく影響する。こうした視感度の高い波長における副吸収の二色比を向上させるために、1,4−ナフチレン基を隣り合わせに連結せずにフェニレン基を間に挿入してナフチレン基−フェニレン基−ナフチレン基が連結された構造とし、分子の捩れを抑制することが最も好ましい。すなわち、2つのナフチレン基を有することで、ナフチレン基同士が分子間で引き合い、会合時の分子の積層状態をより安定させるうえ、分子中央のフェニレン基がナフチレン基が3つ連結された構造を有するものと比べて分子のねじれを抑制して、二色比(コントラスト)を上昇させることができると考えられる。
【0036】
このような構造を有することにより、例えば、本発明の異方性膜用アゾ化合物を含有した組成物を湿式成膜法に適用して得られる異方性膜中においても、該化合物が非常に高い秩序で配向し、高い二色性を示す異方性膜を提供することができる。
また、本発明の式(1)で表される異方性膜用アゾ化合物は、可視光波長領域全体に吸収をもち、該化合物を用いた異方性膜は無彩色となる。従って、本発明の異方性膜用アゾ化合物を用いれば、高い異方性を有する無彩色の異方性膜を形成することが可能である。
【0037】
以下、本発明の前記式(1)で表される異方性膜用アゾ化合物について説明する。
<A>
前記式(1)において、Aは、下記式(1−a)または(1−b)を表す。
【化5】

【0038】
(上記式(1−a)または(1−b)において、Rは、水素原子、水酸基または置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。)
すなわち、Aは、特定位置にスルホ基が置換し、さらに他の置換基としてRを有するナフチル基である。
は、水素原子、水酸基または置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、(n)−ブトキシ基等が挙げられる。該アルコキシ基が有していてもよい置換基としては、水酸基等が挙げられる。
これらの中でも、Rは、分子平面性の観点から、水素原子であることが好ましい。
【0039】
<C>
前記式(1)において、Cは、置換基として炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはアセチルアミノ基を有していてもよい1,4−フェニレン基を表す。
Cが1,4−フェニレン基であることにより、分子内のねじれが生じにくくなるという利点がある。
1,4−フェニレン基が有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、(n)−ブチル基等が挙げられる。
1,4−フェニレン基が有していてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、(n)−ブトキシ基等が挙げられる。
1,4−フェニレン基は、分子平面性の観点から、置換基を有さないか、置換基としてメチル基、メトキシ基またはアセチルアミノ基を1つもしくは2つ有することが好ましい。
【0040】
<RおよびR
前記式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有していてもよいフェニル基を表す。
置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基は、総炭素数が通常1以上、6以下、好ましくは4以下である。置換基を有していてもよいフェニル基は、総炭素数が通常6以上、通常12以下、好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下である。
【0041】
該アルキル基および該フェニル基が有していてもよい置換基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。
特に、RおよびRが水素原子である場合(NRとしてはアミノ基となる)、Rが水素原子およびRがアルキル基である場合(NRとしてはアルキルアミノ基となる)、Rが水素原子およびRがフェニル基である場合(NRとしてはフェニルアミノ基となる)などが好ましいが、リオトロピック液晶性を発現し易いという観点からは、RまたはRが水素原子、カルボキシ基またはスルホ基を有するアルキル基、カルボキシ基またはスルホ基を有するフェニル基であることが好ましい。とりわけ、比較的低濃度でリオトロピック液晶性を発現し易く、プロセス適性に優れているという観点から、R及びRのいずれもが水素原子であることが好ましい。
【0042】
<n>
前記式(1)において、nは、0または1を表す。
【0043】
<式(2)で表される化合物>
【化6】

【0044】
(上記式(2)において、R、R、A、C及びnは、前記式(1)におけると同義である。)
本発明の異方性膜用アゾ化合物は、遊離酸の形が下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。すなわち、Cと、7位にアミノ基NRが置換した末端ナフチル基との間に位置するナフチレン基におけるスルホ基の置換位置が、アゾの回転異性状態を固定する観点から、7位であることが好ましい。また、会合体の凝集を抑制する観点から、AとCの間に位置するナフチレン基におけるスルホ基の置換位置は、6位または7位であることが好ましい。
【0045】
<分子量>
遊離酸の形が前記式(1)で表される本発明の異方性膜用アゾ化合物(以下「本発明のアゾ化合物」ということがある)の分子量は、遊離酸の形で、1000以上が好ましく、2000以下が好ましく、1500以下がさらに好ましい。
【0046】
<水溶性>
本発明のアゾ化合物は、通常、水溶性の化合物である。
本発明のアゾ化合物は、常温常圧下、具体的には25℃、1気圧において、水への溶解度が0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましい。また、この溶解度は、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましい。例えば、後述するように、異方性膜を作製する場合、溶剤としては水、水混和性のある有機溶剤、または水と水混和性のある有機溶剤の混合物を使用するのが一般的であるため、化合物の水への溶解性が低すぎるとこのような用途への使用が難しくなる可能性がある。逆に、化合物の良好な会合状態形成の観点からは、水への溶解性が高すぎない方が好ましいことがある。
【0047】
<塩>
本発明のアゾ化合物は、前記式(1)で示されるような遊離酸の形(遊離酸型)のまま使用してもよく、酸基の一部が塩型になっているものであってもよい。また、塩型の化合物と遊離酸型の化合物が混在していてもよい。また、製造時に塩型で得られた場合はそのまま使用してもよいし、所望の塩型に変換(塩交換)してもよい。塩交換の方法としては、公知の方法を任意に用いることができ、例えば以下の方法が挙げられる。
【0048】
1) 塩型で得られたアゾ化合物の水溶液に塩酸等の強酸を添加し、アゾ化合物を遊離酸の形で酸析せしめた後、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等)で化合物の酸性基を中和し塩交換する方法。
2) 塩型で得られたアゾ化合物の水溶液に、所望の対イオンを有する大過剰の中性塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化リチウム等)を添加し、塩析ケーキの形で塩交換する方法。
3) 塩型で得られたアゾ化合物の水溶液を、強酸性陽イオン交換樹脂で処理し、アゾ化合物を遊離酸の形で酸析せしめた後、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等)で化合物の酸性基を中和し塩交換する方法。
4) 予め所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等)で処理した強酸性陽イオン交換樹脂に、塩型で得られたアゾ化合物の水溶液を作用させ、塩交換する方法。
【0049】
本発明の異方性膜用アゾ化合物の酸性基が遊離酸型となるか、塩型となるかは、化合物のpKaと化合物溶液のpHに依存する。そのため、本発明の異方性膜用アゾ化合物の酸性基は、遊離酸型、いずれかの塩型、酸性基が2つ以上ある場合には遊離酸型と塩型の混合または2種類以上の塩型の混合など、さまざまな型となりうる。特に、異方性膜中でのアゾ化合物の酸性基は、後述する異方性膜用組成物の好ましいpHや、異方性膜用アゾ化合物を含んだ基材への解離性の塩を含む溶液による処理の影響等を受けて、異方性膜を作製する工程で用いたものとは異なる塩型になっていることもありうる。
【0050】
上記の塩型の例としては、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基もしくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、または有機アミンの塩等が挙げられる。
【0051】
該アンモニウムの塩が有していてもよい置換基であるアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基としては、炭素数1〜6の低級アルキル基およびヒドロキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキル基が挙げられる。
有機アミンの例としては、炭素数1〜6の低級アルキルアミン(例えば、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等)、ヒドロキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、カルボキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン(例えば、カルボキシメチルアミン、カルボキシエチルアミン、カルボキシプロピルアミン、ジカルボキシメチルアミン等)等が挙げられる。
これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず複数種混在していてもよい。また、化合物の一分子内に複数種混在してもよいし、組成物中に複数種混在していてもよい。
【0052】
本発明の異方性膜用アゾ化合物の酸性基の好ましい型としては、アゾ化合物の製造工程、後述する異方性膜用組成物の内容や好ましいpHなどによって異なるが、水に対して高溶解度が必要な場合(例えば、リオトロピック液晶相を発現させるために、異方性膜用組成物中において高い化合物濃度が必要な場合など)には、リチウム塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩、水溶性基が置換した有機アミン塩またはこれらの塩を1以上有することが好ましい。一方、水に対して低溶解度が必要な場合(例えば、低濃度のアゾ化合物を含有する低粘度の異方性膜用組成物が必要な場合や、アゾ化合物製造工程において化合物溶液から該化合物を析出させたい場合など)には、遊離酸型であるか、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩またはこれらの塩を1以上有することが好ましい。
【0053】
<具体例>
本発明の異方性膜用アゾ化合物の具体例としては、遊離酸の形として、例えば以下に示す構造の化合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0054】
【化7】

【0055】
【化8】

【0056】
【化9】

【0057】
<合成法>
前記式(1)で表される本発明の異方性膜用アゾ化合物は、それ自体周知の方法に従って製造することができる。
例えば、前記式(1−2)で表されるアゾ化合物は、下記(A)〜(D)の工程に従い製造することができる。
(A)2−アミノナフタレン−5−スルホン酸と8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸(1,7−Cleves 酸)とから常法(例えば、細田豊著「新染料化学」(昭和48年12
月21日、技報堂発行)第396頁第409頁参照)に従って、ジアゾ化、カップリング工程を経てモノアゾ化合物を製造する。
(B)得られたモノアゾ化合物を、同様に常法によりジアゾ化し、アニリン−ω−メタンスルホン酸とカップリング反応を行い、次いで、アルカリ性で加水分解反応を実施、ジスアゾ化合物を製造する。
(C)得られたジスアゾ化合物を、同様に常法によりジアゾ化し、8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸(1,7−Cleves 酸)とカップリング反応を行い、トリスアゾ化合物
を製造する。
(D)得られたトリスアゾ化合物を、同様に常法によりジアゾ化し、7−アミノ−1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸(RR酸)とカップリング反応を行い塩化ナトリウムで塩析することにより目的の前記式(1−2)で表されるアゾ化合物がナトリウム塩として得られる。
【0058】
本発明の異方性膜用アゾ化合物は、通常、後述する異方性膜用組成物として調製され、二色性の高い異方性膜の作製に好適に用いられる。
本発明の異方性膜用アゾ化合物を用いた異方性膜の作製方法としては、好ましくは、例
えば、該化合物を適当な溶剤に溶解して、成膜用(異方性膜形成用)の組成物(異方性膜用組成物)を調製し、この組成物を用いてガラス板などの各種基材表面に湿式成膜法にて成膜し、組成物中に含まれる該化合物を配向・積層させる方法等が挙げられる。異方性膜の作製方法や湿式成膜法については、後に詳述する。
【0059】
前記式(1)で表されるアゾ化合物は、会合性に優れており、高いリオトロピック液晶状態を形成することができる。従って、湿式成膜法により形成される異方性膜用のアゾ化合物として特に適しており、またその二色比も高いので、該化合物を含有する組成物を異方性膜の作製に使用すれば、二色性の高い異方性膜を得ることができる。
【0060】
以下に、本発明の異方性膜用アゾ化合物を含有する異方性膜用組成物について説明する。本発明の異方性膜用組成物は、湿式成膜法により異方性膜を作製する際に好適に用いられる組成物である。
【0061】
[異方性膜用組成物]
本発明の異方性膜用組成物は、前記本発明の異方性膜用アゾ化合物と溶剤を含有し、通常、本発明の異方性膜用アゾ化合物が溶剤に溶解もしくは分散されたものである。
なお、本発明の異方性膜用組成物中または以下に詳述する本発明の異方性膜において、本発明の異方性膜用アゾ化合物は1種を単独で使用することができるが、本発明の異方性膜用アゾ化合物を2種以上組み合わせて使用したり、他の二色性物質を組み合わせて使用することもできる。さらに、製造される異方性膜に所望の性能を与えたり、製造に好適な組成物とするために、種々の配合用化合物、溶剤、添加剤等を適宜組み合わせて使用することができる。
【0062】
<配合用化合物>
本発明の異方性膜用組成物には、異方性膜の色調を調整したり、異方性膜用アゾ化合物の会合性を向上させたり、異方性膜の耐久性の向上や欠陥の低減等の目的で、本発明の異方性膜用アゾ化合物に配合用化合物を併用してもよい。
【0063】
本発明のアゾ化合物とともに併用しうる化合物の好ましい例としては、アゾ化合物、アントラキノン化合物、アミノ酸、ヒドロキシアミン、糖等が挙げられる。
【0064】
例えば、C.I.Direct Yellow 12、C.I.Direct Yellow 34、C.I.Direct Yellow 86、C.I.Direct Yellow 142、C.I.Direct Yellow 132、C.I.Acid
Yellow 25、C.I.Direct Orange 39、C.I.Direct Orange 72、C.I.Direct Orange 79、C.I.Acid Orange 28、C.I.Direct Red 39、C.I.Direct Red 79、C.I.Direct Red 81、C.I.Direct Red 83、C.I.Direct Red 89、C.I.Acid Red 37、C.I.Direct Violet 9、C.I.Direct Violet 35、C.I.Direct Violet 48、C.I.Direct Violet 57、C.I.Direct Blue 1、C.I.Direct Blue 67、C.I.Direct Blue 83、C.I.Direct Blue 90、C.I.Direct Green 42、C.I.Direct Green 51、C.I.Direct Green 59等が挙げられる。
【0065】
また、特開2007−199333号公報および特開2008−101154号公報に記載の方法に従い、アントラキノン化合物を配合してもよい。さらに、特開2006−3864号公報に記載の方法や、特開2006−323377号公報に記載の方法を用いて
もよい。
【0066】
また、特開2007−178993号公報に記載されたように、前記アゾ化合物の酸性基に対して、カチオン0.9当量以上0.99当量以下と、強酸性アニオン0.02当量以上0.1当量以下とを含有させるなどして、異方性膜用組成物における温度5℃、歪印加後0.01秒後の緩和弾性率Gが10分の1に低下するまでの時間が0.1秒以下とすることで、異方性膜の欠陥を抑制することができる。
【0067】
こうした配合ではpHが低くなり易いので、製造装置の腐食等を防ぐ目的で、必要に応じさらに緩衝物質を添加してもよい。緩衝物質としては、D.D.ペリン、B.デンプシー著「緩衝液の選択と応用」、講談社サイエンティフィク(1981)等に記載されているような、一部もしくは全て中和された弱酸や弱塩基が挙げられる。具体的には、例えば、リン酸塩、炭酸塩、有機酸等が挙げられ、有機酸としては、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、アミノ酸類等が挙げられる。中でもアミノ酸は、異方性膜用アゾ化合物の会合を促進し、配向性を向上させる働きもあるので、好ましく用いられる。また、アミノ酸が複数縮合したアミノ酸オリゴマーは、異方性膜用組成物のレオロジー調整剤としての働きも有するので好ましく、添加により流動配向性の向上が期待できる。これらの緩衝物質は、単独で用いて異方性膜上で結晶析出する場合等には、異なる緩衝物質を複数組み合わせて用いることが好ましい。
さらには、紫外線吸収剤や近赤外線吸収剤などを組み合わせて用いることもできる。
【0068】
なお、本発明の異方性膜用アゾ化合物と、他の二色性物質や配合用化合物などの他の化合物を併用する場合、本発明の異方性膜用アゾ化合物による効果を十分に発揮させるために、他の併用化合物は、本発明の異方性膜用アゾ化合物に対して50重量%以下とすることが好ましく、10重量%以下とすることがさらに好ましい。
このようにして得られる異方性膜用組成物のpHは通常2〜10程度である。
【0069】
<添加剤>
本発明の異方性膜用組成物は、例えば、後述の湿式成膜法等において異方性膜形成用溶液として基材に塗布するために用いられる場合に、基材への濡れ性、塗布性を向上させるため、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を加えることができる。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の何れも使用可能である。更に、上記以外にも、例えば、"Additives for Coating"(Editedby J.Bieleman、Willey-VCH、2000年刊)等に記載の公知の添加剤を用いることができる。その添加濃度は、目的の効果を得るために十分であって、かつ本発明の異方性膜用アゾ化合物および必要に応じて用いられる前述の配合用化合物分子の配向を阻害しない量として、異方性膜用組成物中の濃度として通常0.05重量%以上、0.5重量%以下がより好ましい。
【0070】
<溶剤>
本発明の異方性膜用組成物に使用される溶剤としては、水、水混和性のある有機溶剤、或いはこれらの混合物が適している。有機溶剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類等の単独または2種以上の混合溶剤が挙げられる。
【0071】
<濃度>
本発明の異方性膜用アゾ化合物および必要に応じて用いられる前述の配合用化合物や添加剤等の他の化合物を溶解する場合の濃度としては、これらの溶質の溶解性やリオトロピック液晶状態などの会合状態の形成濃度にも依存するが、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量
%以下である。
【0072】
[異方性膜]
本発明の異方性膜は、本発明の異方性膜用アゾ化合物を含有することを特徴とする。該異方性膜は、湿式成膜法で形成された異方性膜である。通常、本発明の異方性膜は、前記本発明の異方性膜用組成物を基板上に湿式成膜法により成膜することにより得られる。
【0073】
上記説明した様に、前記式(1)で表される本発明の異方性膜用アゾ化合物は、高いリオトロピック液晶状態を形成し、高次の分子配向状態を示すことができ、高い二色性を示すことができる。従って、このような本発明の異方性膜用アゾ化合物を含む本発明の異方性膜は、高い二色性を示す有用な膜となる。
【0074】
本発明の異方性膜は高い二色比を示すが、二色比は8以上のものが好ましく、より好ましくは12以上、特に好ましくは15以上のものが使用される。
特に、偏光膜に使用する際には中庸な色調の膜が好ましく、色相として、L*a*b*表色系において、√{(a+(b}≦30、好ましくは√{(a+(b}≦10、さらに好ましくは、√{(a+(b}≦5である。また、膜の透過率は高いほど好ましく、通常25%以上、好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは44%以上である。
偏向膜としては、上記色相と透過率の好ましい範囲を両方とも満たすものが特に好ましく、このような偏向膜は表示素子、特にカラー表示素子用偏光素子として好ましく用いられる。
【0075】
<異方性膜の製造方法>
本発明においては、湿式成膜法により異方性膜を作製する。より好ましくは、前記本発明の異方性膜用組成物を用いる湿式成膜法により作製する。
【0076】
<湿式成膜法>
本発明でいう湿式成膜法とは、異方性膜用組成物をガラス板などの各種基材上に何らかの手法により適用し、溶剤が乾燥する過程を経て異方性膜用化合物等を基材上で配向・積層させる方法である。湿式成膜法では、溶剤を含む該組成物そのものが基材上に形成されると、すでに組成物中で、または溶剤が乾燥する過程で、化合物自体が自己会合することにより微小面積での配向が起こる。この状態に外場を与えることより、マクロな領域で一定方向に配向させ、所望の性能を有する異方性膜を得ることが特徴である。この点で、いわゆるポリビニルアルコール(PVA)フィルム等を異方性化合物を含む溶液で染色して延伸し、延伸工程だけで該化合物を配向させることを原理とする方法とは異なる。なお、ここで外場とは、あらかじめ基材上に施された配向処理層の影響、剪断力、磁場などが挙げられ、これらを単独で用いても良いし、組み合わせて用いてもよい。また、組成物を基材上に形成する過程、外場を与えて配向させる過程、溶剤を乾燥させる過程は、逐次行っても良いし、同時に行っても良い。
【0077】
湿式成膜法における異方性膜用組成物の基材上への適用方法としては、例えば、塗布法、ディップコート法、LB膜形成法、公知の印刷法などが挙げられる。また、このようにして得た異方性膜を別の基材に転写する方法もある。これらの中でも、本発明においては塗布法を用いることが好ましく、以下、塗布法について詳述する。
前記本発明の異方性膜用アゾ化合物は、異方性膜用組成物中でリオトロピック液晶状態等の良好な分子間相互作用による会合体を形成した状態となり得る。したがって、これをガラスや樹脂等の基材上に塗布したり、塗布と同時もしくは塗布後に剪断力を与えたり、あらかじめ基材上に配向処理層を施してその影響を与えたり、かくして成された膜を乾燥させることにより、本発明の異方性膜用アゾ化合物および必要に応じて用いられる前述の
配合用化合物を一定方向に配向させ、優れた異方性膜を得ることができる。
【0078】
基材としては、ガラス、樹脂等からなる厚さ10〜1500μm程度の透明なものが用いられる。樹脂としては、トリアセテート、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース、シクロオレフィン樹脂、ウレタン系樹脂などが挙げられる。
【0079】
基材の表面には、異方性膜用組成物中の本発明の異方性膜用アゾ化合物および必要に応じて用いられる前述の配合用化合物分子等の配向方向を制御するために、「液晶便覧」(丸善株式会社、平成12年10月30日発行)第226頁〜第239頁などに記載の公知の方法により、配向処理層を施しておいてもよい。
【0080】
基材上へ異方性膜用組成物を塗布する方法としては、従来公知の方法で行えばよく、例えば、原崎勇次著「コーティング工学」(株式会社朝倉書店、1971年3月20日発行)第253頁〜第277頁、または市村國宏監修「分子協調材料の創製と応用」(株式会社シーエムシー出版、1998年3月3日発行)第118頁〜第149頁などに記載の方法や、例えば、あらかじめ配向処理を施した基材上に、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ブレードコート法、フリースパンコート法、ダイコート法などが挙げられる。
【0081】
基材上に塗布した異方性膜組成物中の本発明の異方性膜用アゾ化合物および必要に応じて用いられる前述の配合用化合物等に剪断力を与えることにより、本発明のアゾ化合物および必要に応じて用いられる前述の配合用化合物等は一定方向に配向する。バーコート法、ロールコート法、ブレードコート法、フリースパンコート法、ダイコート法などは、塗布と同時に剪断力を与えることができるので好ましい。
【0082】
異方性膜用組成物の基材への塗布時の温度は、好ましくは0℃以上、80℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。
乾燥時の温度は好ましくは0℃以上、120℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。
【0083】
前記の方法等で基材上に異方性膜を形成する場合、形成される異方性膜の厚さは、通常乾燥後の膜厚で、好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上、好ましくは50μm以下、更に好ましくは1μm以下である。
また、作製された本発明の異方性膜は、本発明の化合物を、遊離酸に換算した濃度で好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、特に好ましくは40重量%以上含有する。本発明の化合物の含有量が少ないと、リオトロピック液晶状態における配向性が不十分となり、異方性膜として好ましくない性質を示す可能性がある。
【0084】
このようにして得られた異方性膜には、不溶化処理を行ってもよい。
不溶化とは、膜中の化合物の溶解性を低下させることにより該化合物の膜からの溶出を抑制し、膜の安定性を高める処理工程を意味する。例えば、本発明の異方性膜用化合物の塩型による溶解性の相違は前述のとおりであり、本工程ではそのような相違を利用することにより処理を行うことができる。
具体的には、例えば、少ない価数のイオンをそれより大きい価数のイオンに置き換える(例えば、1価のイオンを多価のイオンに置き換える)処理が挙げられる。このような処理方法としては、例えば、細田豊著「理論製造 染料化学」(技報堂、1957年)435〜437頁等に記載されている処理工程等の公知の方法が用いられる。好ましくは、得られた異方性膜を、特開2007−241267号公報等に記載の方法で処理し、水に対して不溶性の膜にするのが、後工程の容易さ及び耐久性等の観点から好ましい。
【0085】
このような方法で製造された異方性膜は機械的強度が低い場合もあるので、必要に応じ、保護層を設けて使用する。この保護層は、例えば、トリアセテート、アクリル、ポリエステル、ポリイミド、トリアセチルセルロース、シクロオレフィン樹脂またはウレタン系のフィルム等の透明な高分子膜により異方性膜をラミネーションして形成され、実用に供する。
【0086】
また、本発明の異方性膜をLCDやOLEDなどの各種の表示素子に偏光膜等として用いる場合には、これらの表示素子を構成する電極基板などに直接膜を形成したり、膜を形成した基材をこれら表示素子の構成部材に用いることができる。
【0087】
[偏光素子]
本発明の異方性膜は、光吸収の異方性を利用し直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜として機能する他、膜形成プロセスと基材や、本発明の異方性膜用アゾ化合物および必要に応じて用いられる前述の配合用色素等を含有する組成物の選択により、屈折異方性や伝導異方性などの各種異方性膜として機能化が可能となり、様々な種類の、多様な用途に使用可能な偏光素子とすることができる。
【0088】
本発明の偏光素子は、上述した本発明の異方性膜を備えてなるものであるが、異方性膜のみからなる偏光素子であってもよいし、基材上に異方性膜を備えてなる偏光素子であってもよい。本発明において、基材上に異方性膜を備えてなる偏光素子は、基材も含めて偏光素子とよぶ。
【0089】
本発明の異方性膜を基材上に形成して偏光素子として使用する場合、基材と形成された異方性膜のみで使用してもよく、また前記の様な保護層のほか、粘着層或いは反射防止層、配向膜、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能などの光学機能をもつ層など、様々な機能をもつ層を湿式成膜法などにより積層形成し、積層体として使用してもよい。
これら光学機能を有する層は、例えば以下の様な方法により形成することができる。
【0090】
位相差フィルムとしての機能を有する層は、例えば特開平2−59703号公報、特開平4−230704号公報などに記載の延伸処理を施したり、特開平7−230007号公報などに記載された処理を施したりすることにより形成することができる。
【0091】
また、輝度向上フィルムとしての機能を有する層は、例えば特開2002−169025号公報や特開2003−29030号公報に記載されるような方法で微細孔を形成すること、或いは、選択反射の中心波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を重畳することにより形成することができる。
【0092】
反射フィルムまたは半透過反射フィルムとしての機能を有する層は、蒸着やスパッタリングなどで得られた金属薄膜を用いて形成することができる。拡散フィルムとしての機能を有する層は、上記の保護層に微粒子を含む樹脂溶液をコーティングすることにより、形成することができる。
【0093】
また、位相差フィルムや光学補償フィルムとしての機能を有する層は、ディスコティック液晶性化合物、ネマティック液晶性化合物などの液晶性化合物を塗布して配向させることにより形成することができる。
【0094】
本発明の異方性膜用アゾ化合物を用いた異方性膜は、ガラスなどの高耐熱性基板上に直接形成することが可能であり、高耐熱性の偏光素子を得ることができるという点から、液
晶ディスプレーや有機エレクトロルミネッセンスディスプレーだけでなく液晶プロジェクタや車載用表示パネル等、高耐熱性が求められる用途にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0095】
次に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の記載において、「部」は「重量部」を示す。
また、以下の各実施例において、異方性膜の二色比、単体透過率、コントラスト比は、プリズム偏光素子を入射光学系に配し、受光系に積分球を配した分光光度計、島津製作所社製「SolidSpec3700」を用いて、異方性膜の透過率を測定した後、次式により計算した。
【0096】
二色比(D)=Az/Ay
Az=−log(Tz)
Ay=−log(Ty)
Tz:異方性膜の吸収軸方向の偏光に対する透過率
Ty:異方性膜の偏光軸方向の偏光に対する透過率
【0097】
単体透過率(Ts)=(Ty+Tz)/2
【0098】
コントラスト比(C/R)=(Ty2+Tz2)/(2Ty・TZ)
【0099】
なお、主吸収波長は、380nmから780nmの可視光波長域において、Azが極大となる波長の中で最も長い波長として求めた。副吸収は400から550nmの間付近に複数存在し、重なり合っていて分離できないため、主吸収波長未満でAzが極大となる波長として求めた。
さらに、XYZ表色系(CIE1931標準表色系)の等色関数とD65光源のスペクトルを用いて、視感度補正した単体透過率とコントラスト比を計算した。
【0100】
[実施例1]
水78.6部に、式(1−2)で表わされる本発明の異方性膜用アゾ化合物の50モル%リチウム中和塩12部、塩化リチウム0.4部、東京化成社製グリシン3部、東京化成社製グリシルグリシルグリシン6部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性膜用組成物を得た。スピンコート法により表面にポリイミドの配向膜が形成されたガラス製基板(150mm×75mm、厚さ1.1mm、膜厚約80nmのポリイミド配向膜に、予め布でラビング処理を施したもの)に、上記の異方性膜用組成物をギャップ4μmのアプリケーター(堀田製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性膜を得た。
得られた異方性膜について、主吸収波長と副吸収波長における単体透過率、二色比、コントラスト比を測定し、さらに視感度補正された単体透過率、二色比、コントラスト比を計算した。その結果を下記表1に示す。この異方性膜は、偏光膜として充分機能し得る高い偏光特性を有していた。
【0101】
【化10】

【0102】
[実施例2]
実施例1で作製した異方性膜用組成物を、ギャップ2μmのアプリケーター(堀田製作所社製)で塗布する以外は実施例1と同様にして用いて、異方性膜を得た。
得られた異方性膜について、主吸収波長と副吸収波長における単体透過率、二色比、コントラスト比を測定し、更に視感度補正された単体透過率、二色比、コントラスト比を計算した。その結果を下記表1に示す。この異方性膜は、偏光膜として充分機能し得る高い偏光特性を有していた。
【0103】
[比較例1]
水81.8部に、下記式(I)で表わされるアゾ化合物の100モル%リチウム中和塩2部、下記式(I)で表わされるアゾ化合物の50モル%リチウム中和塩10部、塩化リチウム0.2部、東京化成社製グリシン2部、東京化成社製グリシルグリシルグリシン4部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性膜用組成物を得た。
実施例1と同様にして異方性膜を作製し、主吸収波長と副吸収波長における単体透過率、二色比、コントラスト比を測定し、更に視感度補正された単体透過率、二色比、コントラスト比を計算した。その結果を下記表1に示す。実施例1、2の異方性膜に比べ、低い偏光特性しか得られなかった。
【0104】
【化11】

【0105】
[比較例2]
水90.6部に、下記式(II)で表わされるアゾ化合物の100モル%リチウム中和塩6.3部、東京化成社製グリシン2.1部、東京化成社製グリシルグリシルグリシン1部を加え、撹拌して溶解させた後、濾過して不溶分を除去することにより、異方性膜用組成物を得た。
実施例1と同様にして異方性膜を作製し、主吸収波長と副吸収波長における単体透過率、二色比、コントラスト比を測定し、更に視感度補正された単体透過率、二色比、コントラスト比を計算した。その結果を下記表1に示す。実施例1、2の異方性膜に比べ、低い偏光特性しか得られなかった。
【0106】
【化12】

【0107】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離酸の形が、下記式(1)で表されることを特徴とする異方性膜用アゾ化合物。
【化1】

(上記式(1)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有していてもよいフェニル基を表し、
Aは、下記式(1−a)または(1−b)を表し、
【化2】

(上記式(1−a)または(1−b)において、Rは、水素原子、水酸基または置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。)
Cは、置換基として炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはアセチルアミノ基を有していてもよい1,4−フェニレン基を表し、
nは、0または1を表す。)
【請求項2】
湿式成膜用であることを特徴とする請求項1に記載の異方性膜用アゾ化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の異方性膜用アゾ化合物および溶剤を含有することを特徴とする異方性膜用組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の異方性膜用アゾ化合物を含有することを特徴とする異方性膜。
【請求項5】
請求項4に記載の異方性膜を備えてなることを特徴とする偏光素子。

【公開番号】特開2011−190313(P2011−190313A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56020(P2010−56020)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】