説明

畳用芯材および畳

【課題】日射などの外部温度雰囲気の急激な変化等にも十分対応することができる畳用芯材および畳を開示する。
【解決手段】表裏面にそれぞれ比重0.8〜1.4の岩盤層を有し、かつ表裏の岩盤層の最外部の比重差が0.1〜0.6の中密度繊維板であり、この中密度繊維板の成型時における表裏からのプレス工程において比重が高い側の岩盤層に対しては30〜60℃の範囲でプレス温度を設定し、他方側のプレス温度をこれより40〜200℃高く設定し、膨張率の差によって比重の高い側の岩盤層を有する面を凸反りとした。また、表裏面の何れか一方に比重0.8〜1.4の岩盤層を有し、他方を比重0.35〜0.8とした中密度繊維板であり、この中密度繊維板の成型時における表裏からのプレス工程において岩盤層の側に対しては30〜60℃の範囲でプレス温度を設定し、他方側のプレス温度をこれより40〜200℃高く設定し、膨張率の差によって岩盤層側の面を凸反りとした。さらに、表裏両面または何れか一方に薄膜シートを貼着した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、中密度繊維板(以下、MDFとする)を利用した畳用芯材およびこれを用いた畳に関するものである。
【0002】
【従来の技術】MDFは従来から建築用材として広く利用されている。その利点は合板などに比べると自然材の使用量が少ないので、自然保護に適すること、および合板基材に比較すると表面の耐傷性に優れることなどにある。即ち、MDFは表面硬度が高いので特に床材としての用途において落下衝撃傷、重量物による引き摺り傷、靴の踵によるヒールマーク、椅子のキャスターによるキャスター傷等がつきにくい。従って、MDFは床材に適する材料である。そして、最近では合板にMDFを貼り合わせた複合材を基板として、これに化粧材を貼着したMDF仕様による複合化粧材が出現している。
【0003】ところで、上記MDF仕様の木質化粧材は、複合される合板とMDFの水分に対する挙動が大きく異なるために、好ましくない反りを生じやすいという問題がある。特に、幅方向において中央部が低くなった凹反りが生じた場合には施工性や施工後の床面の平坦度の保持に問題が生じるという本質的な課題を有している。これは、MDFと合板のみならず、他の材料との組み合わせや、時には複数枚のMDFの貼着時においても考慮しなければならない問題である。このように、MDFを用いる複合基板の反りの現象においても、特に幅方向に生じる凹反りの場合には施工に際して相互の接合を困難にし、結果として床面、壁面等の仕上がり状態が劣ることになる。言い換えれば、施工性や仕上がりの良さという点からはむしろ全体に若干凸反り傾向をもつことが好ましいということができる。
【0004】そして、最近では住宅形態や生活様式の変化により、また施工面や材料面などから畳を薄型化することが求められた結果、形状安定性や歩行感のよい薄畳の研究が重ねられ、薄畳用の畳床として、硬質繊維板の表裏両面をプラスチック段ボール板で挟んだ構造や、硬質繊維板と軟質繊維板の積層体を芯材とするものなどが提案されてきた。しかしながら、これらの畳床は芯材の内部が木質素材であるため、温度変化に対しては形状が比較的安定しているが、湿度変化に対しては伸縮しやすいという特性があった。そのために、施工後に室内の乾燥によって収縮し、隣接する盤の間に隙間が生じたり、室内の湿気を吸収して膨張し、畳の縁部や中央部が浮き上がったりすることがあった。
【0005】そこでこれらを改善するために、硬質繊維板や合板からなる芯材の表裏両面に、アルミニウム等の薄板や樹脂製シート等からなる防湿層を接着や縫着によって固着して一体化した畳床が提案されている。この畳床によれば、防湿層が芯材の吸放湿を抑えるために、伸縮が効果的に防止されることになる。しかし、硬質繊維板は平均比重が0.8以上もあって重い一方、比重の低いボードの場合にはヒールマークやキャスター傷がつきやすいというそれぞれの欠点がある。
【0006】また、MDFからなる畳芯材の両面に防湿層が固着されてなる前記畳床を用いて畳を製造し、これを室内に敷設したときには、室内の日照条件によって変形が発生することがある。即ち、窓からの強い日射を受けて畳の表面側が加熱されると、畳床の芯材の表面側が裏面側よりも昇温した状態になる。すると、芯材の内部に含まれていた水分が芯材の表面側付近から裏面側寄りに移動し、芯材の内部において含水率の勾配が生じる。そしてその結果、芯材の表面側付近が収縮し、反対に裏面側付近が膨張して芯材が凹反りになってしまう。この変形は防湿層が薄いほど、また芯材が厚いほど大きくなり、熱伝導性の高いアルミニウム板等を防湿層に用いた場合に一層生じやすくなるという傾向がある。
【0007】本発明はこのような従来の構造の畳床の課題に着目したものであり、日射などの外部温度雰囲気の急激な変化等にも十分対応することができる畳用芯材および畳を開示することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明では、上記目的を達成するために、先ず畳用芯材として最適な構成を採用した。即ち、1つの構成は両面に岩盤層が形成された中密度繊維板を基本的構造とするものである。そして、表裏面にそれぞれ比重0.8〜1.4の岩盤層を有し、かつ表裏の岩盤層の最外部の比重差が0.1〜0.6の中密度繊維板であり、この中密度繊維板の成型時における表裏からのプレス工程において比重が高い側の岩盤層に対しては30〜60℃の範囲でプレス温度を設定し、他方側のプレス温度をこれより40〜200℃高く設定し、膨張率の差によって比重の高い側の岩盤層を有する面を凸反りとする手段を採用した。ここで、プレス工程において両面のプレス温度に差を設ける手段では、温度膨張を異ならしめる機能を達成する。そして、高温側は水分が放出しやすくなるので両面相対すると収縮傾向を持ち、低温側は相対すると水分を放出しにくいので膨張傾向を持つ。その結果、低温側がより強く反ることになって凸反りを生ぜしめることになる。
【0009】第2の手段としては、何れか一方面にのみ岩盤層が形成された中密度繊維板を基本的構造とするものである。そして、表裏面の何れか一方に比重0.8〜1.4の岩盤層を有し、他方を比重0.35〜0.8とした中密度繊維板であり、この中密度繊維板の成型時における表裏からのプレス工程において岩盤層の側に対しては30〜60℃の範囲でプレス温度を設定し、他方側のプレス温度をこれより40〜200℃高く設定し、膨張率の差によって岩盤層側の面を凸反りとする手段を採用した。プレス温度に差を設ける手段は第1の手段と同様であり、その機能も同様である。ただ、表裏の比重差が大きいので反りもやや強くなる。
【0010】凸反りとして、中密度繊維板の略中央部が最大反り高さとする手段を採用することによって、平面状に置いた場合には反り部分の重力分散が全周均等に行われることになり、確実に平板化することになる。
【0011】中密度繊維板の平均比重を0.35〜0.8とした手段は、芯材の総重量を軽量化することに資する。また、請求項5に示した第3の基本的構成では、表裏面の何れか一方の比重を0.35〜1.0とし、平均比重を0.3〜0.65とした中密度繊維板であり、この中密度繊維板の成型時における表裏からのプレス工程において比重が高い側の面に対しては30〜60℃の範囲でプレス温度を設定し、他方側のプレス温度をこれより40〜200℃高く設定し、膨張率の差によって比重が高い側の面を凸反りとする手段を採用したが、総重量のより軽量化を図ることになる。
【0012】又、表裏両面または何れか一方に薄膜シートを貼着する手段ではプレス加工によって調整した水分を板の内部に封じ込める機能を発揮する。薄膜シートとして樹脂含浸紙、合成樹脂シート、金属箔シート、アルミニウムサンドイッチシート、アルミニウム箔ラミネートシートから選ばれた1のシートを採用する手段にあっては、防湿に優れ、水分の封じ込めをより有効に行う。これらの薄膜シートは透湿係数が0.8〜1.2g/m2 hHgであるMDFに比べると、吸湿が極めて少ないので、本発明の構成ではシート面からの吸放湿はほとんど行われないことになり、表裏に水蒸気圧差が生じても湿気の透通はほとんどない。即ち、外部湿度の影響を受けることがないので、設定した反りの変化や狂いは発生しない。
【0013】薄膜シートの貼着に際しては、凸反り側の薄膜シートの接着剤は水性接着剤であり、他方側の薄膜シートの接着剤は水性、溶剤型、無溶剤型から選ばれた何れかの接着剤を採用した。また、他方側の薄膜シートの水性接着剤は、一方側の薄膜シートの水性接着剤よりも含水分を低くした。水性接着剤を採用すること、あるいは含水分に差を設けることにより、表裏両面の含水分の差を維持することになる。
【0014】上記構成の畳用芯材の凸反り側に、直接またはクッション材を介して畳表を縫着した畳では、上記各手段の作用をそのまま活用することになる。
【0015】なお、MDFの製板工程においては、フォーミングの熱圧成型は定法にて行う。その後、表裏プレス温度を従来のようにできるだけ同じ温度に保つのではなく、積極的に温度差を与えることによって目的を達成しているのである。このようにして製板された畳用芯材は、高温側が収縮し、かつ低温側が膨張して幅方向および長さ方向ともに凸反りを発生する。成型方法としては、フォーミング後の熱圧成型時に表裏プレスの温度を従来のように同じ温度に保って成型し、その後表面の仕上げ加工時に板材の表裏面に比重差が生じるようにサンディング等を行い、本発明の構成を採用することによって、凸反りを有する芯材を得ることができる。なお、凸反りはあまり大きくする必要はなく、1〜2メートル、即ち1畳分の大きさについて中心の矢高が2〜90mmまでで適度に調整する。そして、この数値範囲に設定する手段では、畳表を張力を与えながら縫合あるいは接合した場合に、凸反り方向を平坦方向に規制する力が働くが、これによって芯材自体に曲げ方向のプレストレスを付与し、剛性を高める作用を行うものである。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。図1は本発明の畳用芯材を用いて製畳したものを示し、1は畳全体、2は畳用芯材からなる畳床、3はクッション材、4は畳表、5は本発明に基づいて製造されたMDF、6はそれぞれMDF5に貼着された防湿層として機能するアルミニウムシートである。なお、MDFの凸反り方向は畳表4側である。
【0017】この畳1が床面に敷き込まれ、日射等で表面が加熱されると、その熱はクッション材3および防湿層6を伝導してMDF5に至り、MDF5の表面側付近を昇温させる。すると、MDF5の表面側付近が乾燥するが、MDF5の両面は防湿層6で外部とブロックされているので、表面側付近に含まれていた水分は外部に放出されることなく裏面側付近に移動して裏面側付近の含水率が上昇する。このようにしてMDF5の内部に含水率の勾配が生じることによって、MDF5全体の表面側が収縮し、裏面側は反対に膨張する傾向となる。ところが実施形態の畳では予め畳表4側に凸反りとしているので膨張する裏面側に凸反りとなることを防止し、かえって平坦性が保持されることになる。なお、畳1は通常のサイズとして縦横の長さが2:1の長方形であるから、反りは長手方向に大きく生じやすいが、裏面側に凸反りになることはない。なお、1:1の畳の場合には縦横同様に凸反りを設定することはより容易であることはいうまでもない。
【0018】ところで、一般に畳床2に畳表4を縫着する場合には、図2に示したように畳表4がしっかりと張り詰めた状態で仕上がるようにすることが好ましい。言い換えると、畳表4の張力によって畳床2の本来の凸反りを逆の平坦方向、あるいは若干の凹反り方向に変形させるようなプレストレスを与えることになるが、このようにプレストレスを付与することによって芯材の剛性を高めることができる。そのために、畳床2の芯材となるMDF5には湾曲に耐え得る適度の柔軟性と、畳表4の張力に対抗できる程度の基本的な剛性が求められる。また、厚紙や発泡性樹脂シート等のクッション材3が適用されることを考慮すると、縫い合わせ時の畳針の作業性に鑑み、MDF5の平均比重は0.3〜0.65であって、表裏部分の最も硬い層の比重は0.35〜1.0に設定することがある。なお、畳針による縫い合わせを要しない接着による畳表の設置の場合には、MDF5に比重1.4までの岩盤層を有するものを採用することができる。
【0019】防湿層6はアルミニウム等の金属薄板や箔、ポリエチレン等の樹脂製シート、合成紙等の紙材、或いはそれらの積層材が適切であるが、防湿機能を達成できる薄膜状のシートであればこれらに限定するものではない。但し、MDF5自体が防湿性樹脂を含浸させたものであったり、クッション材3や畳表4が防湿性素材で構成される場合、あるいは別の手段によって防湿効果を得ることができる場合には、防湿層6をMDF5の片面だけに設けたり、全く省略することもある。
【0020】MDF5と防湿層6の固着については、例えば酢酸ビニル系の接着剤による接着や、加熱押圧による融着、畳用ミシン等による縫着などの何れの手段でも採用することができ、全面固着であっても周辺のみの部分固着であってもよい。必要なことは、防湿層6を設けることによってMDF5の表面を外部から湿度面で遮断できることであり、これを満足する限りでどのような構造も含まれる。
【0021】
【実施例】常法の製法で得られた板厚9mm、寸法90cm×180cm、表裏面比重0.720、平均比重0.655のMDFを使用し、表面は7μ、裏面は20μのアルミニウムサンドイッチ紙を貼着し、表裏温度差を設けてプレス加工を施した。使用した接着剤は、表面が酢酸ビニルエマルジョン系、裏面が酢酸ビニルエマルジョン系と尿素系である。シート貼とプレス条件の詳細は、ロールプレスの操作条件として表面を100℃、裏面を85℃でラインスピード20m/分として、MDFの表裏面に上記薄膜シートを貼りつけた。24時間室温で放置した後、ロールプレスの操作条件が高温であった側を80℃、他方側を30℃で1分プレスし、放冷後高温プレス面を下面として24時間室温で放置し、さらにその後表裏を逆にして板四隅を支点として完成品の反り量を測定した。その結果、中央部の反り量が最大であり、周囲に近づくにつれて徐々に反り量が減少したMDFを得ることができた。なお、赤外線ランプを畳表から照射し、畳表を50℃に保った状態で反りを測定したが、結果は良好であった。
【0022】
【発明の効果】本発明では、上述した構成を採用したので、芯材となるMDF自体が予め硬質層側に凸反りを有しており、製畳して敷き詰めた場合にはその自重によって平坦化し、凹凸のない畳敷を行うことができる。また、MDFの表裏に防湿手段を施した場合には日射によって畳表側のみから昇温した場合でも内部に封じ込められた水分が移動して好ましい状態の湿度勾配を実現することになり、急激な昇温による逆反りなどは確実に防止することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の1実施形態を示す畳の断面図
【図2】製畳時に畳表で畳床に張力をかけた状態を示す断面図
【符号の説明】
1 畳全体
2 畳床
3 クッション材
4 畳表
5 MDF
6 アルミニウムシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】表裏面にそれぞれ比重0.8〜1.4の岩盤層を有し、かつ表裏の岩盤層の最外部の比重差が0.1〜0.6の中密度繊維板であり、この中密度繊維板の成型時における表裏からのプレス工程において比重が高い側の岩盤層に対しては30〜60℃の範囲でプレス温度を設定し、他方側のプレス温度をこれより40〜200℃高く設定し、膨張率の差によって比重の高い側の岩盤層を有する面を凸反りとした畳用芯材。
【請求項2】表裏面の何れか一方に比重0.8〜1.4の岩盤層を有し、他方を比重0.35〜0.8とした中密度繊維板であり、この中密度繊維板の成型時における表裏からのプレス工程において岩盤層の側に対しては30〜60℃の範囲でプレス温度を設定し、他方側のプレス温度をこれより40〜200℃高く設定し、膨張率の差によって岩盤層側の面を凸反りとした畳用芯材。
【請求項3】凸反りは、中密度繊維板の略中央部が最大反り高さとした請求項1または2記載の畳用芯材。
【請求項4】最大反り高さが1畳分の大きさで2〜90mmである請求項3に記載の畳用芯材。
【請求項5】中密度繊維板の平均比重は0.35〜0.8である請求項1または2記載の畳用芯材。
【請求項6】表裏面の何れか一方の比重を0.35〜1.0とし、平均比重を0.3〜0.65とした中密度繊維板であり、この中密度繊維板の成型時における表裏からのプレス工程において比重が高い側の面に対しては30〜60℃の範囲でプレス温度を設定し、他方側のプレス温度をこれより40〜200℃高く設定し、膨張率の差によって比重が高い側の面を凸反りとした畳用芯材。
【請求項7】表裏両面または何れか一方に薄膜シートを貼着した請求項1〜6の何れか1項に記載の畳用芯材。
【請求項8】薄膜シートは、樹脂含浸紙、合成樹脂シート、金属箔シート、アルミニウムサンドイッチシート、アルミニウム箔ラミネートシートから選ばれた1のシートである請求項7に記載の畳用芯材。
【請求項9】薄膜シートの貼着時の表裏面の温度差を5〜50℃とした請求項7に記載の畳用芯材。
【請求項10】薄膜シートの貼着はプレス工程と同時に行った請求項7に記載の畳用芯材。
【請求項11】薄膜シートの貼着に際して、凸反り側の薄膜シートの接着剤は水性接着剤であり、他方側の薄膜シートの接着剤は水性、溶剤型、無溶剤型から選ばれた何れかの接着剤である請求項6〜10の何れか1項に記載の畳用芯材。
【請求項12】他方側の薄膜シートの水性接着剤は、一方側の薄膜シートの水性接着剤よりも含水分が低い請求項11に記載の畳用芯材。
【請求項13】請求項1〜12の何れか1項に記載の畳用芯材の凸反り側に、直接またはクッション材を介して畳表を縫着した畳。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2000−170357(P2000−170357A)
【公開日】平成12年6月20日(2000.6.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−368528
【出願日】平成10年12月8日(1998.12.8)
【出願人】(000113300)ホクシン株式会社 (2)
【出願人】(000198802)積水成型工業株式会社 (66)