説明

疎水性アミノ酸又は疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物のケラチン繊維への浸透性の評価方法

【課題】ケラチン繊維中への疎水性アミノ酸又は疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物の浸透性を簡便に評価しうる方法を提供すること。
【解決手段】ロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン及びプロリンからなる群から選ばれる1種以上の疎水性アミノ酸又は該疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物で処理が施されたケラチン繊維をその直径方向に切断し、得られた断片を塩基性染料で染色した後、その切断面を光学顕微鏡観察することを特徴とする、疎水性アミノ酸又は疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物のケラチン繊維への浸透性の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羊毛・毛髪などを含むケラチン繊維中への疎水性アミノ酸又は疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物の浸透性の評価方法に関する。さらに詳しくは、例えば、毛髪にヘアケア処理を施すための有効成分として使用されているアミノ酸、なかでも特定の疎水性アミノ酸又は該疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物の毛髪への浸透性を簡便に検出し、評価しうる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーマ剤、ブリーチ剤等により損傷した毛髪の表面は、F層の脂肪酸が失われ、親水性官能基がむき出しの状態となっているため、摩擦係数が大きくなり、手触りが低下することが知られている。これに対して、毛髪に施すヘアケア技術として、シリコーン類、カチオン性化合物、アミノ酸、タンパク加水分解物などによる処理が従来から提案されている。例えば、シリコーン類、カチオン性化合物による処理は、毛髪表面の摩擦係数を低下させ、ブラッシング等の損傷抑制作用があるため、これらはシャンプー、リンス、コンディショナー等に汎用されている。また、タンパク加水分解物による処理は、摩擦係数の低下以外にも、保湿効果、キューティクルの浮き上がり抑制効果、毛髪引張強度の増加効果、ウェーブ効率の増加効果等を奏することが報告されている。中でも、ケラチン蛋白質由来のタンパク加水分解物による処理によって、毛髪の弾力性が増すことが経験的に知られている。また近年、アミノ酸をシャンプーやコンディショニング剤に配合したものが発売されている。従って、より優れた毛髪のトリートメント製剤を開発するうえにおいては、この製剤に使用されているアミノ酸やタンパク加水分解物などの有効成分の毛髪内部への浸透性について明確に把握することが重要である。
【0003】
しかしながら、こうしたアミノ酸やタンパク加水分解物の毛髪内部への浸透性については、あまり明らかにされていないのが現状である。特に、アミノ酸に関しては、もともとアミノ酸から構成されているケラチン繊維内部に浸透したアミノ酸含有量を検出することは、非常に困難であるため、報告されていない。
【0004】
従来、タンパク加水分解物の毛髪への浸透性を測定する方法として、あらかじめ、タンパク加水分解物にフルオロセインイソチオシアン酸を蛍光プローブとして結合させ、その化合物を浸透させた毛髪断面試料を作製した後、共焦点レーザー走査型顕微鏡により観察することにより、タンパク加水分解物の浸透性を評価する方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0005】
一方、特許文献1には、L−システインなどの還元剤の浸透性評価方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−170142号公報
【非特許文献1】Swift, J. A., Chahal, S. P., Challoner, N. I., Parfrey, J. E.、J. Cosmetic Sci.、2000、51、193-203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1の方法においては、使用する蛍光プローブ自体の疎水性が高く、毛髪との親和性が高いために、タンパク加水分解物と蛍光プローブとを結合させた化合物の浸透性が、実際のタンパク加水分解物の浸透性よりも内部に浸透する可能性が考えられ、浸透性を過大評価するという課題がある。また、タンパク加水分解物にフルオロセインイソチオシアン酸を蛍光プローブとして結合する際、アミノ酸レベルの低分子量化合物が多いと、反応していないフルオロセインイソチオシアン酸を分離することが困難になるといった欠点を有する。
【0007】
また、特許文献1の方法はパーマネントウェーブ用剤中の還元剤の毛髪への浸透度の評価を目的としていることから、アルカリ条件下で実施する必要があり、トリートメント剤等の使用条件下である中性付近での評価には、適用できないものである。
【0008】
本発明の課題は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、ケラチン繊維中への疎水性アミノ酸又は疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物の浸透性を簡便に評価しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の疎水性アミノ酸又は該疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物で処理が施されたケラチン繊維をその直径方向に切断し、得られた断片を塩基性染料で染色した後、その切断面を光学顕微鏡観察することにより、前記組成物のケラチン繊維への浸透性を簡便に評価することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
〔1〕 ロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン及びプロリンからなる群から選ばれる1種以上の疎水性アミノ酸又は該疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物で処理が施されたケラチン繊維をその直径方向に切断し、得られた断片を塩基性染料で染色した後、その切断面を光学顕微鏡観察することを特徴とする、疎水性アミノ酸又は疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物のケラチン繊維への浸透性の評価方法、
〔2〕 切断した断片の厚さが1〜60μmである前記〔1〕記載の評価方法、並びに
〔3〕 塩基性染料がメチレンブルーである前記〔1〕又は〔2〕記載の評価方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の評価方法によれば、従来不可能であったアミノ酸から構成されているケラチン繊維内部に浸透した疎水性アミノ酸や疎水性アミノ酸を含むペプチドのタンパク加水分解物を簡便に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の特定の疎水性アミノ酸又は該疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物(以下、疎水性アミノ酸/ペプチド含有組成物と記載することもある)のケラチン繊維への浸透性の評価方法は、前記組成物で処理が施された毛髪をその直径方向に切断し、得られた断片を塩基性染料で染色した後、その切断面を光学顕微鏡観察することを特徴とする。なお、本明細書において、ケラチン繊維への浸透とは、表層のみへの浸透ではなく、内部まで浸透している状態のことをいい、例えば、毛髪の場合は、コルテックス層まで浸透している状態のことをいう。
【0013】
本発明における疎水性アミノ酸としては、ロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン及びプロリンが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。また本発明では、かかる疎水性アミノ酸を含むペプチドであってもよく、例えば、該疎水性アミノ酸の2量体、3量体、さらなる多量体、又はタンパク加水分解物なども用いることができる。
【0014】
即ち、前記の特定の疎水性アミノ酸は、動物性由来の絹タンパク(セリシンおよびフィブロインタンパク)、羊毛タンパク、真珠タンパク、卵白;植物性由来の大豆タンパク、小麦タンパクなどから得られるタンパク加水分解物中に含有されていてもよい。
【0015】
疎水性アミノ酸及び該疎水性アミノ酸を含むペプチドの組成物中の総含有量は、本発明の方法において浸透性を確認することができさえすれば特に限定されないが、通常1〜100重量%程度である。
【0016】
本発明における疎水性アミノ酸/ペプチド含有組成物でケラチン繊維を処理する場合、前記組成物は、通常、水溶液として用いることができる。疎水性アミノ酸/ペプチドの水溶液における濃度は、特に限定はないが、通常、0.1〜10重量%程度であり、0.5〜3重量%が好ましい。また、ペプチドがタンパク加水分解物である場合は、タンパク加水分解物の水溶液における濃度は3〜7重量%が好ましい。水溶液のpHは、トリートメント剤の使用条件下での浸透性を観察する観点から、pH4〜8であることが好ましく、pH6〜7.5であるのがより好ましい。pHの調整には、例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液などを用いることができる。
【0017】
本発明においては、前記の特定の疎水性アミノ酸又は該疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物で処理したケラチン繊維について、浸透性を評価する。
【0018】
ケラチン繊維としては、例えば、黒髪、白髪、ブロンズ毛や羊毛などが挙げられる。また、これらケラチン繊維をブリーチ処理やパーマネントウェーブ処理したものであってもよい。
【0019】
ケラチン繊維への前記組成物による処理は、例えば、毛髪を前記組成物の水溶液に浸漬することによって行うことができる。この際の処理温度は、30〜60℃が好ましく、45〜55℃がより好ましい。また、処理時間は、10分間〜16時間が好ましく、30分間〜2時間がより好ましい。
【0020】
次に、浸透性の評価方法を説明する。
【0021】
本発明における疎水性アミノ酸/ペプチド含有組成物で処理が施されたケラチン繊維は、その直径方向に切断される。ケラチン繊維の切断には、例えば、ミクロトーム〔ライカ(LEICA)社製、品番:CM1800〕などを用いることができる。切断して得られたケラチン繊維の断片の厚さは、後述する顕微鏡観察の利便性を考慮して、好ましくは1〜60μm、より好ましくは4〜20μmである。なお、毛髪の切断に先立って、毛髪の切断を容易に行うために、例えば、ポリビニルアルコールなどの樹脂で凍結包埋して毛髪を固定した後に、毛髪を切断してもよい。
【0022】
切断された毛髪には、塩基性染料による染色が行われる。塩基性染料としては、例えば、メチレンブルー、ローダミンB、マラカイトグリーン、オーラミン、マジェンタ、ビスマルクブラウン、メチルバイオレット、クリスタルバイオレットなどが挙げられ、なかでも、染色性の観点から、メチレンブルーが好ましい。
【0023】
塩基性染料による染色は、例えば、染料の水溶液を剪断された毛髪の切断面に滴下することによって行うことができる。染料の水溶液の濃度は、ケラチン繊維の処理に用いる疎水性アミノ酸/ペプチド含有組成物の水溶液濃度に応じて調整する必要があるが、1〜50ppmが好ましく、5〜20ppmがより好ましい。
【0024】
染色条件は、用いる染料の種類や温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、染色温度は、10〜40℃が好ましく、20〜30℃がより好ましい。また、染色時間は、1〜5分間が好ましい。
【0025】
かくして、染色が行われた毛髪の切断面を光学顕微鏡で50〜400倍程度に拡大して観察することにより、毛髪内部への疎水性アミノ酸やタンパク加水分解物の浸透度を容易に観察することができる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0027】
実施例1〜5及び比較例1〜5
(1)毛髪
毛髪として、平均直径75μmの中国人白髪(ビューラックス社製、商品名:10cm白髪毛束)を用いた。
【0028】
(2)アミノ酸水溶液及びタンパク加水分解物水溶液
表1に記載のアミノ酸を、1.0重量%の水溶液として用いた。また、表1に記載のタンパク加水分解物水溶液としては、5.0重量%卵白加水分解物水溶液(株式会社ファーマフーズ社製、商品名:ランペップ、疎水性アミノ酸含有量:ロイシン6.1重量%、トリプトファン0.2重量%、フェニルアラニン4重量%、プロリン4.4重量%)を用いた。各水溶液のpHは、0.5Mリン酸緩衝液を用いてpH7.0となるように調整し、以下の操作を行った。なお、コントロールには、アミノ酸及びタンパク加水分解物を添加しない0.5Mリン酸緩衝液(pH7.0)を用いた。
【0029】
(3)アミノ酸及びタンパク加水分解物で処理された毛髪の作製
毛髪を前記(2)の各アミノ酸水溶液及び卵白加水分解物水溶液に浴比15倍で浸漬した後、各アミノ酸水溶液及び卵白加水分解物水溶液から毛髪を取り出し、1分間水洗をし、室温にて乾燥させ、アミノ酸又は卵白加水分解物で処理された毛髪を得た。なお、浸漬条件(温度、時間)が50℃で1時間、50℃で16時間の2条件で浸漬処理を行った。
【0030】
(4)試料の作製
前記(3)で得られたアミノ酸及びタンパク加水分解物で処理された毛髪をポリビニルアルコールで凍結包埋し、ミクロトーム〔ライカ(LEICA)社製、品番:CM1800〕を用いて直径方向に厚さが10μmとなるように切断し、試料を作製した。
【0031】
(5)光学顕微鏡観察
前記(4)で得られた試料をスライドガラス上にのせ、10ppmメチレンブルー水溶液を試料の切断面に滴下し、室温で1分間放置して染色した。その後、試料上にカバーガラスを載置し、光学顕微鏡〔オリンパス光学工業社製、製品名:オリンパス偏光顕微鏡BH−2〕を用いて、倍率132倍で毛髪のキューティクル領域及びコルテックス領域内への浸透状態を肉眼で観察し、以下の評価基準により浸透性を評価した。結果を表1に記す。
【0032】
〔浸透性の評価基準〕
− :領域内への浸透が確認されない
+ :領域内への浸透が確認された
++:領域内への浸透が顕著に確認された
【0033】
【表1】

【0034】
表1の結果から、疎水性アミノ酸であるロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン及びプロリン、ならびに疎水性アミノ酸を含有するタンパク加水分解物は、毛髪のコルテックス領域内まで浸透することが分かる。これに対し、極性を持つが無電荷のグリシン及びシステイン、pH7で正電荷を持つリジン、及びpH7で負電荷を持つアスパラギン酸は、毛髪の内部までは浸透しないことが分かる。
【0035】
また、実施例2、4、5及び比較例5の染色後の毛髪断面写真を図1〜4に示す。
【0036】
図1、図2、図3ともにキューティクル領域を超えてコルテックス領域の一部に浸透していることがわかる。一方、図4はキューティクル表面は染色されているが、キューティクル内部は染色されていないことがわかる。従って、毛髪への疎水性アミノ酸の浸透性を評価することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の評価方法によれば、従来不可能であったアミノ酸から構成されているケラチン繊維内部に浸透した疎水性アミノ酸やタンパク加水分解物を簡便に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例2においてフェニルアラニン処理が施され、メチレンブルーで染色された毛髪断面における光学顕微鏡写真である。
【図2】本発明の実施例4においてプロリン処理が施され、メチレンブルーで染色された毛髪断面における光学顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例5においてタンパク加水分解物が施され、メチレンブルーで染色された毛髪断面における光学顕微鏡写真である。
【図4】本発明の比較例5において疎水性アミノ酸及びタンパク加水分解物を配合していないリン酸緩衝液で処理され、メチレンブルーで染色された毛髪の光学顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン及びプロリンからなる群から選ばれる1種以上の疎水性アミノ酸又は該疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物で処理が施されたケラチン繊維をその直径方向に切断し、得られた断片を塩基性染料で染色した後、その切断面を光学顕微鏡観察することを特徴とする、疎水性アミノ酸又は疎水性アミノ酸を含むペプチドを含有する組成物のケラチン繊維への浸透性の評価方法。
【請求項2】
切断した断片の厚さが1〜60μmである請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
塩基性染料がメチレンブルーである請求項1又は2記載の評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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