説明

疎水性ナノ構造化表面を製造するための疎水性酸化物中の水の分散液

本発明は、疎水性酸化物中の水の分散液を処理すべき表面上に施与し、引き続き水を分離することを特徴とする、疎水性ナノ構造化表面の製造法、並びに、前記方法を用いて製造された表面、及び、物品上に防汚性及び撥水性の表面を製造するための前記方法の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性ナノ構造化表面の製造法、並びに、前記方法を用いて製造された表面及び物品上に防汚性及び撥水性の表面を製造するための該方法の使用に関する。
【0002】
慣用の表面は通常液体により湿潤される。湿潤の程度は、液体中での凝集力と、表面と液体との間の付着力との間の相互作用である。
【0003】
多くの場合、液体による表面の湿潤は望ましくない。例えば、水で表面が湿潤されることにより、表面上に水滴が生じ、この水滴が付着する。水中に溶解された内容物又は懸濁された固体は水が蒸発する際に望ましくない残留物として表面上に残留する。この問題は、殊に雨水又は雑用水にさらされている表面で生じる。
【0004】
親水性液体のための表面の湿潤性が表面の疎水加工により低下することは既に公知である。この場合、被覆材料として殊にポリシロキサン、過フッ素化ポリマー又はフッ素含有コポリマー、殊に強度に疎水性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が該当する。前記化合物で表面を加工することにより、表面と液体との間の付着力が減少する。通常は比較的高い接触角及び改善された滑り挙動又はそれどころか転がり挙動を有する液滴が生じる。この場合、この種の表面の自浄性は観察されない。
【0005】
更に、疎水性表面を構造化することは有利であることが判明した。既に1947年には、スイス国特許第268258号、名称「撥水性被覆」の特許が出願されている。ここでは、微粒状の表面を有し、かつ、オルガノケイ素誘導体により撥水性となり、かつその基材に堅固に付着する微粉末を含有することを特徴とする、水に対して120゜を上回る接触角を有する撥水性被覆の特許請求がなされている。ここで特許請求されている微粉末は無水シリカ、タルク、カオリン又はスメクチック粘土である。
【0006】
A. A. Abramsonらも、”Khimia i Zhizu (Chemistry and Life) 11 (1982), 38 ff.”において、極めて高い接触角を有する表面について記載している。その表面と自浄性との関連性は記載されていない。前記刊行物には、この種の表面を製造するための方法は公知でないと記載されている。
【0007】
自浄性と表面の構造との間の関係はハス効果と呼称され、W. Barthlott及びC. Neinhuisにより”Biologie in unserer Zeit 28 (1998) 314 - 322”において初めて記載されている。
【0008】
例えばWO96/04123にも突起及び窪みを有する人工的な表面構造を有する物品の自浄性表面が記載されており、その際、構造は殊に突起と窪みとの間の距離、及び突起の高さにより特徴付けられている。表面の製造は例えば接着剤で処理された表面へのテフロン粉末の施与により行われる。更に、熱可塑性の変形可能な疎水性材料における構造の刻印が記載されている。
【0009】
同様の表面はUS3,354,022から公知である。ここでも、構造の刻印による、又は疎水性粒子、例えばロウ粒子の施与による製造が記載されている。更に、ガラスダストをロウマトリックス中に含む表面が記載されている。しかしながらこの種の表面は機械的に極めて不安定である。
【0010】
JP7328532Aから、疎水性表面を有する微粒子を湿潤ラッカーに施与し、これを引き続き硬化させる被覆法は公知である。この場合、撥水性表面が得られる。
【0011】
DE10022246A1には、疎水性ナノ構造化粒子を接着剤又は接着剤に類似の成分と一緒にスプレー形で使用する方法が記載されている。この方法を用いて構造化表面が製造されるが、しかしながらこの構造化表面は持続的に安定であるわけではない。
【0012】
前記の方法もしくは表面の欠点は、極めて不安定であり機械的な負荷に耐えられない表面が製造されること、微粉塵状のナノ構造化粉末が使用されること、又は有機溶剤を添加しなければならないことである。
【0013】
従って、本発明の課題は、有機溶剤及び微粉塵状の粉末が省略されるはずである、疎水性ナノ構造化表面の製造法を提供することであった。
【0014】
驚異的にも、疎水性酸化物中の水の分散液を処理すべき表面上に施与し、引き続き水を分離することによって、疎水性ナノ構造化表面を製造することができることが見い出された。疎水性熱分解法シリカの形の疎水性酸化物中の水の分散液は既に久しく公知である。この分散液は粉塵を生じず、極めて良好に細流性であるため、計量供給が容易である。課題の解決は、 −本発明による方法により使用される− 前記分散液が、防汚及び撥水特性を有する疎水性ナノ構造化表面を生じ得ることが明らかであるため、それだけ一層驚異的であった。
【0015】
本発明の対象は、疎水性酸化物中の水の分散液を処理すべき表面上に施与し、引き続き水を分離する、疎水性ナノ構造化表面の製造法である。
【0016】
同様に本発明の対象は、本発明による方法により製造された表面、及び防汚性及び撥水性の表面を製造するための、前記方法の使用に関する。
【0017】
本発明は、ここで使用される疎水性酸化物中の水の分散液が粉塵を生じず、かつ計量供給が困難でないという利点を有する。逆に、前記の分散液は極めて良好に細流性である。例えばDE10022246A1に記載されているようなスプレーと比較して、使用される分散液は、有機溶剤の不在という利点を有する。技術的な保護装置、例えば有機溶剤の環境汚染に基づく溶剤蒸気の後燃焼は、本発明による方法において不要である。本発明による方法のもう1つの利点は、その粉塵の不在である。大きな表面を有し、かつ部分的に多孔質である疎水性粉末を施与する場合、直接環境における高い粉塵負荷を考慮しなければならない。最大の作業箇所濃度値を保持し得るためには、高価な特別な装置、例えば高電圧下で運転する脱塵装置又は微粉塵フィルター装置を設置し、運転しなければならない。しかしながらそのような特別な装置は本発明による方法では不要である。更に、疎水性酸化物中の水の分散液の使用により、計量供給精度は、先行技術の方法に対して明らかに向上し得る。
【0018】
疎水性ナノ構造化表面の本発明による製造法は、疎水性酸化物中の水の分散液を処理すべき表面上に施与し、引き続きこの分散液の水を分離することが傑出している。
【0019】
本発明による方法において使用される疎水性酸化物中の水の分散液は、水を有利に50.1質量%〜99.5質量%、有利に60質量%〜99質量%、殊に有利に80質量%〜98質量%有する。
【0020】
本発明による方法において使用される分散液は、ナノメートル範囲内の、従って有利に1nm〜1000nm、有利に5nm〜750nm、極めて殊に有利に10nm〜100nmの範囲内の不規則な微細構造を有する表面を有する疎水性酸化物を含有する。微細構造とは、上記の距離及び範囲内に隆起、歯状物、間隙、稜、亀裂、アンダーカット、ノッチ及び/又は開口を有する構造であると解釈される。前記の疎水性酸化物の微細構造は、有利に1を上回る、殊に有利に1.5を上回るアスペクト比を有する突起を有してよい。アスペクト比は突起の最大幅に対する最大高さの商として定義されており、稜又は別の長軸成形された突起の場合には幅は長手方向に対して横に考慮される。
【0021】
有利に、本発明による方法において、0.005μm〜100μm、有利に0.01μm〜50μm、殊に有利に0.01μm〜30μmの平均粒径を有する疎水性酸化物を有する分散液が使用される。一次粒子から0.02μm〜100μmの大きさを有する凝結体又は凝集体へと集まった疎水性酸化物を使用することもできる。
【0022】
本発明による方法において使用される分散液は、当業者に公知である方法により疎水化されている酸化物を含有してよい(Degussa AG社のテキストシリーズ、顔料、第18番)。これは有利に、アルキルシラン、シリコーン、シリコーン油、アルキルジシラザンの群から選択された少なくとも1種の化合物を用いた、例えばヘキサメチルジシラザン又はペルフルオロアルキルシランを用いた処理により行われる。
【0023】
本発明による方法において、疎水性酸化物として有利に、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又は酸化チタンから選択された材料から成る疎水性熱分解法酸化物粒子、又は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又は酸化チタン、有利に疎水性沈降シリカから選択された疎水性沈降酸化物粒子を有する分散液が使用される。殊に有利に、本発明による方法において、疎水性の熱分解法シリカを有する分散液が使用される。本発明による方法の殊に有利な実施態様において、分散液は疎水性酸化物粒子からの混合物を含有する。しかしながら、疎水性の混合酸化物を使用することもできる。本発明による方法の殊に有利な実施態様において、分散液中で、疎水性のAerosile(R)、有利にAerosil(R) VPR 411、Aerosil(R) R812、Aerosil(R) R805、Aerosil(R) R972、Aerosil(R) R974又はAerosil(R) R 8200、殊に有利にAerosil(R) VP LE 8241が使用される。
【0024】
本発明による方法において使用される分散液は、Degussa AG社のTechnical Bulletin Pigments, Basic Characteristics of Aerosil, No. 11に記載されているような方法に従って製造される。この場合、通常水に浮き、かつ水により湿潤されない疎水性Aerosil(R)が使用される。疎水性熱分解法シリカ中の水の分散液は、高い機械的エネルギーの導入により製造される。この場合、水滴は疎水性Aerosil(R)により包囲され、そのようにして合流から保護される。この分散液は大部分水を含有し、かつ少量のみ疎水性の熱分解法シリカを含有する。更に、Deutsche Gold- und Silber-Scheideanstalt 1964には、ドイツ連邦共和国特許文献DE1467023Cにおいて、微粒状のシリカに水を取り入れるための方法が記載されている。この分散液は「乾燥水」とも呼称される。形式的に、これは水滴により変性された空気中の疎水性シリカの分散液の特別な形である。光学顕微鏡写真は、Technical Bulletin Pigments, Basic Characteristics of Aerosil, No. 11において、3質量%のAerosil(R)分を有するAerosil(R) R 812中の水のそのような分散液を示す。被覆された液滴は、この場合<100μmの粒径を有する。
【0025】
本発明による方法の第一の処理工程において、分散液を処理すべき表面上に施与する。本発明による方法の有利な実施態様において、分散液をテキスタイル平面構造物の表面上に施与する。有利に、本発明による方法を用いて、テキスタイルの表面、殊に有利に衣料工業のテキスタイル、絨毯、家庭用テキスタイル、不織布、並びに工業的な目的に利用されるテキスタイル構造物の表面を処理することができる。
【0026】
本発明による方法の特別な実施態様において、表面を、DIN 4762により定められる算出による>1μmの平均粗度で変性させることができる。
【0027】
本発明による方法のもう1つの実施態様において、分散液をポリマーシートの表面上に施与することもできる。分散液をポリマーシート上に施与する場合、これを有利に押出し後に行うため、ポリマーシートはまだ固化していない。有利に、分散液の施与は加熱されたポリマーシート上で行われる。
【0028】
ポリマーシート自体は材料として有利に、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、脂肪族直鎖又は分枝鎖ポリアルケン、環式ポリアルケン、ポリアクリロニトリル又はポリアルキレンテレフタレート、並びにそれらの混合物又はそれらのコポリマーをベースとするポリマーを有してよい。殊に有利に、ポリマーシートは、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(ペルフルオロプロピレンオキシド)、ポリ(フルオロアルキルアクリレート)、ポリ(フルオロアルキルメタクリレート)、ポリ(ビニルペルフルオロアルキルエーテル)又は、ペルフルオロアルコキシ化合物からの他のホモポリマー又はコポリマー、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(イソブテン)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)又はポリノルボネンから選択された材料を有する。極めて殊に有利に、ポリマーシートは表面のための材料として、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリカーボネート、ポリエステル又はポリ(フッ化ビニリデン)を有する。ポリマーの他に、材料は慣用の添加物及び助剤、例えば可塑剤、顔料又は充填剤を有してよい。
【0029】
有利な実施態様において、処理すべき表面に疎水性酸化物中の水の分散液を注ぐ。分散液は種々の方法を用いて処理すべき表面に施与されることができ、ここで、分散液が多くの小粒子の形で重力のみによって処理すべき表面上へと下方へ移動することが重要である。有利に、分散液の分配はガス衝撃を用いて、殊に不活性ガス衝撃を用いて、しかしながら殊に有利に窒素衝撃を用いて、処理すべき表面の上方の噴霧室中で行われる。このようにして、処理すべき表面上への分散液の微細な分配が可能となる。ガス衝撃を用いた噴霧室中での分散液の分配の他に、処理すべき表面上への分散液の微細分配の更に他の機械的な様式を適用することができ、例えば分散液の分配をブラシ型ブレード(Buerstenrakel)により行うことができる。
【0030】
場合による処理工程において、分散液を施与した後の表面を機械的に処理し、疎水性酸化物中の水の分散液を表面構造中により深く浸透させることができる。本発明による方法の有利な実施態様において、このために、分散液を施与した後の表面にブラシをかける。更に、分散液を施与した後の表面を振動及び/又は揺動させることができる。
【0031】
本発明による方法のもう1つの実施態様において、分散液を施与した後の表面に、例えばプレス又はローラを用いて機械的圧力をかける。このような機械的処理は、本発明による方法において、有利に、表面上に分散液が施与されているポリマーシートの場合に適当である。この場合、ポリマーシートの表面が未固化である場合に有利である。
【0032】
本発明による方法の後続の処理工程において、水の分離が行われる。これは有利に電磁放射線により、有利に熱エネルギーにより、有利に加熱空気又は赤外線により行うことができる。本発明による方法の殊に有利な実施態様において、水の分離はマイクロ波エネルギーにより行われる。水は同様に真空の適用によって分離することもできる。本発明による方法の前記処理工程の特別な実施態様において、機械的圧力を用いて、例えばプレス又はローラ用いて、分散液が水と疎水性酸化物とに分離される。水と粒子とに分離することにより、これまで分散液中の水相を安定化させていた疎水性酸化物粒子が表面構造中により深く浸透することができ、かつそこでその疎水特性が有効となる。表面構造中に深く取り込まれた場合、この表面は実質的に粉塵を生じない。水のみが除去されねばならないことにより、粉塵又は溶剤中の分散液の施与により生じる全ての欠点は存在しない。
【0033】
本発明の他の対象は、本発明による方法を用いて製造された表面である。本発明による表面は有利に防汚及び撥水特性を有する。
【0034】
本発明による表面は、表面上又は表面中に疎水性酸化物を有する。殊に有利に、本発明による表面は、0.005μm〜100μm、殊に有利に0.01μm〜50μm、極めて殊に有利に0.01μm〜30μmの平均粒径を有する疎水性酸化物を有する。
【0035】
本発明による表面の疎水性酸化物が構造化された表面を有する場合、有利であり得る。有利に、前記の疎水性酸化物は、ナノメートル範囲内の、従って1nm〜1000nm、有利に5nm〜750nm、極めて殊に有利に10nm〜100nmの範囲内の不規則な微細構造を表面上に有する。微細構造とは、隆起、歯状物、間隙、稜、亀裂、アンダーカット、ノッチ及び/又は開口を上記の距離及び範囲内に有する構造であると解釈される。
【0036】
本発明による表面は、適当な処理により疎水特性を有する疎水性酸化物、例えばアルキルシラン、シリコーン、シリコーン油、フルオロアルキルシラン及び/又はジシラザンの群からの少なくとも1つの化合物を用いて処理されたシリカ粒子を有してよい。
【0037】
疎水性酸化物として、本発明による表面は有利に、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又は酸化チタンから選択された材料から成る疎水性熱分解法酸化物粒子、又は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又は酸化チタン、有利に疎水性沈降シリカから選択された疎水性沈降酸化物粒子を有する。有利に、本発明による表面は疎水性の熱分解法シリカを有する。本発明による表面の特別な実施態様において、本発明による表面は疎水性酸化物粒子からの混合物を有する。しかしながら本発明による表面は疎水性混合酸化物を有してもよい。本発明による表面の殊に有利な実施態様において、本発明による表面は、疎水性のAerosile(R)、有利にAerosil(R) VPR 411、Aerosil(R) R812、Aerosil(R) R805、Aerosil(R) R972、Aerosil(R) R974又はAerosil(R) R 8200、殊に有利にAerosil(R) VP LE 8241を有する。
【0038】
本発明による表面は、有利に、0.02〜25μmの平均高さ、25μmの最大距離、有利に0.05〜10μmの平均高さ及び/又は10μmの最大距離、極めて殊に有利に0.03〜4μmの平均高さ及び/又は4μmの最大距離を有する、粒子自体により形成される突起を有する箇所を有する。極めて殊に有利に、本発明による表面は0.05〜1μmの平均高さ及び1μmの最大距離を有する突起を有する。突起の距離とは、本発明の意味において、粒子の突起の最も高い突起と、直接隣接している別の粒子の最も近く最も高い突起との距離であると解釈される。突起が円錐の形を有する場合には、円錐の先端が突起の最も高い突起である。突起が直方体である場合には、直方体の最上面が突起の最も高い突起である。
【0039】
物体の湿潤及びそれに伴う自浄特性を、水滴と表面が成す接触角により表すことができる。この場合、0゜の接触角は表面の完全な湿潤を意味する。静的接触角の測定は、通常、接触角を光学的に測定する装置を用いて行われる。滑らかな疎水性表面上では、通常125゜未満の静的接触角が測定される。自浄特性を有する本発明による表面は、有利に130゜を上回る、有利に140゜を上回る、極めて特に有利に145゜を上回る静的接触角を有する。その上、表面は、表面が最大10゜の前進角と後退角との差を有する場合にのみ殊に良好な自浄特性を有することが見出され、従って本発明による表面は有利に10゜未満、有利に7゜未満、極めて特に有利に6゜未満の前進角と後退角との差を有する。前進角の測定のために、水滴を細管を用いて表面上に置き、かつ細管により水を添加することによって液滴を表面上で拡大させる。拡大する間に、液滴の縁部は表面上を滑り、かつ接触角を前進角として測定する。後退角を同じ液滴で測定し、単に細管により液滴から水を取り出し、液滴の縮小の間に接触角を測定する。双方の角度の間の差異はヒステリシスと呼ばれる。差異が小さくなればなるほど、水滴と基体の表面との相互作用がより僅かになり、かつ自浄効果がより良好になる。
【0040】
本発明による自浄特性を有する表面は、有利に、0.15を上回る、疎水性酸化物自体により形成される突起のアスペクト比を有する。有利に、粒子自体により形成される突起は、0.3を上回る、殊に有利に0.5を上回るアスペクト比を有する。この場合、アスペクト比は、突起の構造の最大幅に対する最大高さの商として定義されている。
【0041】
殊に有利な本発明による表面は、有利に1を上回る、殊に有利に1.5を上回る微細構造におけるアスペクト比を有する突起を有する、不規則な通気性のよい亀裂のある微細構造を有する疎水性酸化物を有する。ここで、アスペクト比は、突起の最大幅に対する最大高さの商として定義されている。図1に、粒子により形成される突起と、微細構造により形成される突起との差異を、略示的に明確に示す。図1は、粒子Pを有する表面変性された物品の表面Xを示す(描写の簡素化のために1つの粒子のみが描写されている)。粒子自体により形成される突起は、表面Xから突出する粒子の一部のみが突起に寄与するので5である粒子の最大高さmHと、それに比較して7である最大幅mBからの商として算出された約0.71のアスペクト比を有する。粒子の微細構造により粒子上に存在している突起の選択された1つの突起Eは、2.5である突起の最大高さmH’とそれに比較して1である最大幅mB’とからの商として算出された2.5のアスペクト比を有する。
【0042】
同様に本発明の対象は、防汚性及び撥水性の表面を製造するための、有利に、テキスタイル平面構造物の防汚性及び撥水性の表面を製造するための、本発明による方法の使用である。
【0043】
本発明による方法は、殊に有利に、衣服の防汚性及び撥水性の表面を製造するために、殊に防護服、雨具及びシグナル効果を有する安全服、工業用テキスタイルを製造するために、殊にカバー用防水シート、テント用防水シート、保護用カバー、LKW用幌、テキスタイル製品の織物を製造するために、殊に日よけ屋根、例えば日よけテント、天幕、日傘、不織布及び絨毯を製造するために使用される。
【0044】
本発明による方法は、同様に、シート、例えば収縮シート又は包装シートの防汚性及び撥水性の表面の製造のために使用することができる。
【0045】
以下の実施例は、本発明による方法を詳細に説明するものであるが、本発明はこれらの実施態様によって制限されるものではない。
【実施例】
【0046】
1.不織布の表面の変性
変性(試験No.1及びNo.2)を噴霧室中で行った。そのために、ポリエチレンテレフタレート不織布であるFreudenberg Evolon KG社のEvolon(R)のパターン(約30cm)を噴霧室の底板の上に置いた。疎水性熱分解法シリカAerosil(R) R812中の水の分散液(Degussa社のTechnical Bulletin Pigments, Basic Characteristics of Aerosil, Nr. 11に記載された方法に従って製造されたもの;水55質量%、重量測定された)2gを75msの長さの窒素衝撃を用いて不織布の上方に噴霧した。細流性の分散液は不織布の表面上に微細に分割して細流した。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例No.1の場合、不織布の表面を、分散液の施与後に、プレートブラシ(Tellerbuerste)を用いて円形のブラシにより処理し、それにより分散液をより深い位置へとずらした。実施例No.2の場合、方法のこの部分工程を省略した。
【0049】
処理した不織布を引き続き130℃でかつ滞留時間10分で高温空気炉中で乾燥させた。
【0050】
2.処理した表面の特性決定
2.1 特性決定の説明及び実施
特性決定は以下のように区分されている:
2.1.1 傾いた表面上での水滴の転がり挙動
完全脱塩水の液滴をパスツールピペットを用いて45゜の傾斜角を有する試料上に置き、引き続き液滴の挙動を以下のように評価した。転がり挙動を試料の4箇所で観察した。
【0051】
【表2】

【0052】
2.1.2 試料上で5秒間静止する液滴の湿潤挙動
完全脱塩水の液滴が0゜の傾斜角を有する試料上で5秒間滞留する場合、最適ではない粗度及び/又は最適ではない疎水性で、この試料の表面を湿潤させる。試料を0゜の傾斜角を有する面上に置き、引き続きパスツールピペットを用いて完全脱塩水の幾つかの液滴を上にのせる。液滴は試料の表面上で5秒間静止する。引き続き、試料を最大60゜まで傾斜させる。水滴の挙動を以下のように評価する:
【0053】
【表3】

【0054】
2.1.3 転落する液滴の湿潤挙動
水滴を試料上に生じさせる運動エネルギーは、もう1つのあり得る弱点を明らかにすることができる。ここでも、最適ではない粗度又は疎水性の場合に表面の湿潤が生じる。完全脱塩水の液滴が最適な粗度及び/又は疎水性を有しない試料に当たった場合、表面は液滴で湿潤される。
【0055】
試料を0゜の傾斜角を有する面上に置き、引き続きパスツールピペットを用いて完全脱塩水の液滴を試料の上50cmの高さから落とす。試料上の水滴の挙動を以下のように評価する:
【0056】
【表4】

【0057】
2.2 2.1.1〜2.1.3による特性決定の結果
以下の表に、1により製造された2.1.1〜2.1.3による試料の特性決定からの結果をまとめる。
【0058】
【表5】

【0059】
2.3 転がり角の測定
定義された液滴が完全脱塩水上で特性決定すべき試料表面上で転がり始める際に、転がり角は最小の傾斜角を示す。完全脱塩水の液滴をピペットを用いて0゜の傾斜角を有する試料上に置き、引き続き傾斜角を連続的にゆっくりと高める。液滴が転がり始めたらすぐに、調節した傾斜角を記録する。この測定を試料の4つの異なる箇所で実施する。0゜〜55゜の傾斜角の範囲で測定した。転がり角の測定を21.5℃の室温で20.5℃の水滴温度で実施した。水滴サイズは20ないし60μlであった。
【0060】
【表6】

【0061】
2.4 REM写真
REM写真図2は実施例No.1により処理された不織布表面を示す。
【0062】
前記の表は、機械的処理なしで、及び機械的処理を用いて、疎水性の自浄性表面を製造することができることを証明する。実施例は同様に、明らかに、機械的処理の付加的な処理工程が、自浄特性の改善を生じ得ることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】粒子Pを有する表面変性された物品の表面Xを示す概略図。
【図2】実施例No.1により処理された不織布表面のREM写真を示す図。
【符号の説明】
【0064】
P 粒子、 X 物品の表面、 E 突起、 mH 粒子の最大高さ、 mH’ 突起の最大高さ、 mB 粒子の最大幅、 mB’ 突起の最大幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性ナノ構造化表面の製造法において、疎水性酸化物中の水の分散液を処理すべき表面上に施与し、引き続き前記の分散液の水を分離することを特徴とする、疎水性ナノ構造化表面の製造法。
【請求項2】
水80質量%〜98質量%を有する分散液を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
分散液をテキスタイル平面構造物の表面上に施与する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
分散液をポリマーシートの表面上に施与する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
疎水性酸化物として疎水性の熱分解法シリカを有する分散液を使用する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
処理すべき表面に分散液を注ぐ、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
分散液の施与の後に表面を機械的に処理する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
分散液の施与の後に表面にブラシをかける、請求項7記載の方法。
【請求項9】
分散液の施与の後に表面を振動及び/又は揺動させる、請求項7記載の方法。
【請求項10】
分散液の施与の後に表面に機械的圧力をかける、請求項7記載の方法。
【請求項11】
水を真空の適用により分離する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
水を電磁放射線を用いて分離する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
分散液を機械的圧力を用いて水と疎水性酸化物とに分離する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13までのいずれか1項記載の方法を用いて製造された表面。
【請求項15】
表面が防汚特性及び撥水特性を有する、請求項14記載の表面。
【請求項16】
防汚性及び撥水性の表面を製造するための、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法の使用。
【請求項17】
テキスタイル平面構造物の防汚性及び撥水性の表面を製造するための、請求項16記載の使用。
【請求項18】
衣服、工業用テキスタイル、テキスタイル製品の織物、不織布及び絨毯の防汚性及び撥水性の表面を製造するための、請求項16又は17記載の使用。
【請求項19】
シートの防汚性及び撥水性の表面を製造するための、請求項16記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−519267(P2006−519267A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−568678(P2004−568678)
【出願日】平成15年12月9日(2003.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2003/050970
【国際公開番号】WO2004/076081
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(501073862)デグサ アクチエンゲゼルシャフト (837)
【氏名又は名称原語表記】Degussa AG
【住所又は居所原語表記】Bennigsenplatz 1, D−40474 Duesseldorf, Germany
【Fターム(参考)】