説明

病人や身体障害者の為の着脱簡単衣服

【課題】心電図やカテーテル等が留置された病人や身体障害者など自力での着替えが困難な人に着せ替えを行う場合、心電図などの管が絡まる事がある上、暗い室内や介護者が視力健常でない場合には時間がかかることが多く、病人や介護者のストレスや体力消耗となっている。
【解決手段】心電図等医療用の管を衣類の外へ出しやすいように考慮した上でデザインし、袖、胸、脚の身体正面に開閉部を作る事で管の絡まりもなくなり不快感が軽減、さらに開閉部の各部位で異なる色、形の面ファスナー等の留め具を着脱に使用する事で、衣類の左右や部位が暗い場所でも視覚、触覚によって即座にわかるようになり着替えの時間短縮が可能になる。また面ファスナー等留め具の取り付け部分にはソフトで丈夫な土台を作り洗濯をしても生地が弱って留め具の接着面が露出しすることがなく、肌への不快感を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は病人や身体障害者など自力で着替えを行うことが困難な人々や医療上心電図やカテーテルの留置等が必要な人の衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用、介護用の衣服は未だ流通量が少ないが、病人や身体障害者の着替えを容易にする事を目的としてボタンのかわりに面ファスナーやスナップホックなどを用いた衣服が考案されている。それらは通常の衣服のボタン部分を面ファスナーに変更したものや、肩から袖にかけて、また左右脇部などに開閉部分を増やしたものもある。
【0003】
病人等は日中だけでなくむしろ、発熱や排泄等によって深夜など暗い場所で着替えを必要とすることがしばしばある。このような場合、開閉部分が多くバラバラに分裂してしまう従来技術に係る介護用衣服はまるでパズルを合わせるかのように各部分を貼り合わせるのに時間を要することになり、着替え時間も長くかかり病人など被介護者や介護者双方の苦痛になっている。また脇部など体の側面に開閉部がある従来の介護用衣服は寝返りをうつ度に異物感があり、留め具に当たって痛みを生じさせる。
【0004】
面ファスナーを用いた従来技術に係る衣類のうち、特に肌着においては、面ファスナーを直接肌着の生地に取り付けているために、洗濯によって生地が弱ってめくれ上がり面ファスナーのざらざらした接着面が露出、肌に直接触れるようになり、皮膚を傷つけ不快感を与えている。また不快感だけでなく病状によっては皮膚についた少しの傷から思わぬ感染症を引き起こす事も懸念される。
【0005】
また、従来技術に係る介護用衣服は開閉部が大きくとられているものの、心電図や医療用カテーテルの留置などを考慮したデザインになっていないため、心電図の電極から出ている電線やカテーテルが衣服の中でごわついたり、絡まりついたりするために病人に大きなストレスを与えている。特に24時間病状を観察するために付けられるモニター心電図やカテーテルは毎日24時間病人の体からはずれることがないので、寝返りや着替えの度に大きな不快感を与えている。
【0006】
なお、本願発明に関する公知技術として次の特許文献1及び2を挙げることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2005−290652号公報
【特許文献2】特開平8−144108号公報
【発明の開示】

【発明が解決しようとしている課題】
【0008】
上述の如く、従来技術に係る介護用衣服は十分なあかりの元で介護者が視力健常でかつ時間をかけて着替えを行う場合には有効であるが、暗い場所や介護者が視力健常でない場合では着替えの時間短縮につながっていない。夜間の発熱等で着替えが必要な場合などに、着替えに時間がかかってしまうと、病人の余計な体力消耗につながり、また睡眠を妨げることにもなる。重症患者や寝たきりの病人にとっては、着替え自体が大きな負担になるので、少しでも手早く着替えを行う必要がある。さらに従来技術に係る介護用衣服は心電図などの留置に配慮してデザインされていないので、心電図等の管が着替えの時に絡まることも多く着せ替え時間を伸ばす原因にもなっており、また絡まったりごわついたりする心電図等の管や、面ファスナーなどの接着面が肌に接触する事で病人に不快感を与えている。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みて行われたものであり、その目的は衣服の開閉部に左右や部位の区別が視覚、触覚によって簡単に行えるような機能を持たせること、また心電図やカテーテルの管などの位置を考慮してそれらの処理を行いやすいように開閉場所をデザインすることによって着せ替えをより手早く行えるようにすることである。さらに、生地の弱りによって面ファスナーなど留め具の接着面が肌に触れることがないように加工を施し、病人等への負担を軽減、病人等被介護者および介護者双方にとっての快適な衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成する本発明の着脱簡単衣服は、胸部につける心電図電極の貼付位置およびカテーテルを挿入する事が多い血管や膀胱バルーンカテーテルの場所を考慮して開閉部を作る。本発明のトップスは胸部心電図の位置を考慮し、みぞおち付近で身体中央より左側面に向かって開閉するように開閉部2を作る。これにより前身頃1は左右非対称になる。また着せ替え作業が簡単に行えること、病人等が寝返りをうっても異物感を与えないことを目的として全ての開閉部は着衣している人の身体前面に大きくとる。それら開閉箇所は、例えば右袖や左胸部のような開閉部位によってそれぞれ形や色など形状が異なる面ファスナーなどの留め具を用いて着脱できるようにする。
【0011】
開閉部の接合には、面ファスナーの他、上記のような形、色などの形状を区別したスナップホックやマグネットボタンその他の留め具を用いても良い。
【0012】
前身頃1には上下、左右の区別がつくように凹凸のある印8を付ける。
【0013】
また、本発明のボトムスの開閉部は図1(B)のように股から脚前面の開閉部にかけて大きく開くようにする。
【0014】
本発明衣服の開閉部に面ファスナーなど留め具を取り付ける際には、図4のように衣服の生地でソフトで丈夫な土台44を作った上に留め具を縫いつける。その位置は肌着の縁に沿わせるのではなく見返し部分45を大きくとり内側に取り付ける。また見返し部分45および袖口や襟ぐり、裾周りなどの布端は通常の衣服のように肌に触れる面、つまりうら側に見返すのではなく、おもて側に返すようにする。なお、裏地を取り付ける場合は肌面への段差ができないので、おもて返しの必要はない。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、胸部全面に複数付けられた心電図電極の位置およびカテーテルの穿刺場所を考慮して開閉部をデザインしているので、心電図やカテーテルを併用する場合でも、それらの管が絡まることなく衣服の外に処理できるようになり、またカテーテルが左右の腕、鎖骨下、大腿部のいずれの場所に挿入された場合や、また膀胱バルーンカテーテルで導尿する場合でも体の前面の開閉部および股から脚部に施された開閉部24より最短距離で衣服の外へ出すことができるので、病人の苦痛を和らげストレスを解消、また大腿部に挿入されたカテーテルと膀胱バルーンカテーテルが別々の場所から取り出せるので、衛生面においても優れている。
【0016】
また全ての開閉部を病人等の体の前面、つまり介護者から見て正面に配置した事で、介護者にとっても簡単に着せ替えや排泄の世話ができるようになり、病人等にとっても寝返りをうった場合でも異物感や痛みがない上、着替えの際はほとんど動くことなく着替えが可能になる他、胸腹部の超音波検査等の場合でも患者は動くことなく、また衣服を脱がなくても必要箇所を開くだけで検査を受けることができる。
【0017】
さらに前身頃1を左右非対称な形にすることで着せ替えの接着時に直感的に左右の区別がつくようになる上、開閉部の留め具は右袖、左前身頃のような開閉部位ごとに色や形が異なる留め具を用いるので、留め具の貼り合わせ位置が視覚、触覚によって判別しやすい。したがって夜間や薄暗い場所での着替えや介護する人が視力健常でなくても、触覚によっても衣服の接合部を容易に特定することができるので、着替え作業が簡単でかつ時間短縮が可能となる。またその留め具の取り付け位置はソフトで丈夫な土台で縁取りされているので、生地の弱りによる接着面の露出を防止する効果があり、病人等の負担や不快感が軽減できる。
【0018】
上記の留め具取り付け位置の土台をつくる場合など衣服の布端をおもて側に返すことで肌に触れる面には段差ができることがなく、肌への負担が軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図5に基づき詳細に説明する。
【0020】
本発明の着脱簡単衣服は心電図やカテーテルの留置を必要とする病人や寝たきりの病人、重症者、身体障害者など自力で着替えが困難な人の着せ替えを想定しているので、介護者が着せ替えが容易になること、および寝返りをうっても異物感や痛みを生じないようにすること、そして心電図やカテーテルの管が衣服の外へ出しやすいことを目的として、図1(A)の開閉部2〜7および図1(B)の開閉部21〜24で示すように、すべての開閉部は着衣する人の体の前面で開くようにデザインしている。
【0021】
図2(a)に示すように、面ファスナーなどの留め具の形、色は、一例として右袖の開閉部15には長方形で赤色、右前身頃開閉部13には三角形で赤色、また左袖開閉部14は円形で青色、左前身頃開閉部には三角形で青色12、右脚部開閉部31には星形で赤色、左脚部開閉部32には楕円形で青色というように、右側は赤色、左側は青色で、右袖は長方形、左袖は円形、前身頃は三角形、右脚星形は、左脚は楕円形というように各部位に装着する留め具の色と形など形状は一定の法則に従って部位ごとに区別して貼付するようにする。なお前身頃1は左右非対称な形になっているので、面ファスナーなどの留め具は色だけ異なるようにすれば、形を変えなくても左右の判別に支障ないものと考える。これらの形や色の組合せは一つの例であって他の形、色の組合せでも問題ない。
【0022】
さらに図1(A)8のように、前身頃1に左右の片方だけの上部か下部のいずれかにタックを貼るか、刺繍、アップリケもしくはポケットを付けるなど凹凸のある印をつけることで触覚によってだけでも左右上下の区別がつくようにする。
【0023】
図1の4および5は腕の前面に施された開閉部分であり、その開閉部から続く6および7は鎖骨下で開閉できるようにデザインされており、鎖骨下静脈に挿入されたカテーテルを開閉部6および7より衣服の外へ出すことができる。腕の末梢血管に点滴等を留置する場合は、腕の開閉部4および5から点滴の管を直接取り出すことができる。
【0024】
心電図検査は多くて10個の電極を要し、そのうち6個の電極が胸部に貼付される。モニター心電図など検査内容によって電極の数が少なくなる場合があり、電極の数によって胸部電極の貼付場所が変化するのだが、いずれも心臓を囲む位置につけられ、胸骨を挟むように左右の鎖骨下とそれ以外の多くは左胸から左腰にかけて設置することが多い。したがって、図1(A)の左前身頃開閉部2と右前身頃開閉部3から全ての胸部電極の電線をそれぞれ直接衣服の外へ取り出す事ができるので、衣服の中で電線が絡まったりごわついたりすることがなく病人の不快感が解消し、着替えも手早くスムーズに行える。
【0025】
図1(B)21および22は左右脚部前面の開閉部であり、脚の中央よりやや内側に位置している。大腿静脈にカテーテルを刺す場合、太ももの付け根内側にカテーテルを挿入するため、この21および22の開閉部より容易に管を取り出す事ができる。さらに、24から23のように股部分から脚部の開閉部22へ大きく開くように開閉部を作る事で、膀胱バルーンカテーテルなどが必要な場合にも、バルーンカテーテルを曲げたり、脚の上を通すこともなく、尿道から直接まっすぐに衣服の外へ出すことができるようになり、患者の苦痛、不快感が軽減される上、大腿静脈へ刺したカテーテルと膀胱バルーンカテーテルを別々の場所から取り出すことができるので、衛生面において非常に優れている。また図3のように大きく全開するので、オムツ着用時などの排泄の世話も容易になる。
【0026】
図4は図1(A)のQ−Q’断面図である。面ファスナーなど留め具を取り付ける際、接合した時に肌側になる、つまり下に位置する方の留め具41の取り付けには、図4に示すように衣服の布端で見返し部分45を大きくとり、その中にキルト生地や厚手の生地などを芯42として入れソフトで丈夫な土台44を作る。その上に端から内側へ十分な見返し部分45をとった位置に面ファスナーなど留め具41を貼付する。洗濯によっても芯の入った開閉部側面はめくれ上がることがなく、面ファスナーなど留め具が露出し肌に触れる事が防止できる。
【0027】
上記のように大きな見返し45があるので、接合した時に上になる方の留め具46は直接生地に取り付けても肌への接触がなく問題はない。その上、接合部の上になる方と下になる方でそれぞれ取り付け方を変えることで、土台があり厚みのある方が下になると言うことが即座にわかり、着せ替えの時間短縮に効果がある。
【0028】
なお、通常の衣服は生地の端である見返し部分はうら面、つまり肌に触れる面へ折り返して縫うことが多いのだが、本発明の介護用衣服は病人など肌が弱っている人が着用する場合を想定しているので、できるだけ肌への負担をかけないように、布端44はおもて面に返し肌に触れる面に段差ができないようフラットに仕上げる。
【0029】
本発明は病人や身体障害者の衣服に関するものであるが、小児や幼児の急な発熱も夜間にあることが多く、これらの着せ替えに十分応用が可能である。小児から大人用の肌着、パジャマ、部屋着、外出着、検査着など衣服全般に同じ裁断と工夫で応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】 (A)本発明の実施形態を示す着脱簡単衣服トップス正面図である。(B)本発明の実施形態を示す着脱簡単衣服ボトムス正面図である。
【図2】 (a)図1(A)の着脱簡単衣服トップスの前身頃をはずし、両袖の開閉部開いた状態の正面図である。(b)図1(B)の着脱簡単衣服ボトムスの開閉部を開いた状態の正面図である。
【図3】 本発明のボトムス開閉部を全開した状態の正面図である。
【図4】 本発明の面ファスナーの取りつけ面のQ−Q’線断面図である。
【符号の説明】
【0031】
2、3、12、13 前身頃の開閉部
8 左右上下確認用の凹凸のある印
24 膀胱バルーン用の取り出し口
31 脚部前面の開閉部の取り付け部位によって色、形が異なる留め具
42 留め具貼付用土台の芯
44 布端をおもて側に返して作る留め具貼付用の土台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主に介護用、病人用の衣服であって、着衣している人に医療用器具が設置されている場合でも、それらが身体設置箇所から短距離で衣服の外へ取り出せるようにすることを目的として胸部開閉部はみぞおち付近で身体中央より左側面へ向かって開閉するようにデザインし、また着せ替えを容易にすること、および寝返りをうっても異物感や痛みを与えないことを目的として、着衣している人の身体前面に全ての開閉部が位置することを特徴とする衣服である。
【請求項2】
前記衣服の着脱には、開閉部の場所ごとにそれぞれ異なる色、形をした留め具を使用することで薄暗い場所や視力健常でない人でも衣服の左右や部位が視覚、触覚によって簡単に判別できる事を特徴とする請求項1記載の衣服である。
【請求項3】
請求項2記載の留め具を取り付ける際には、衣服の布端で見返し部分を大きくとり中に芯を入れてソフトで丈夫な土台を作り、その上に留め具を取り付けることを特徴とした請求項2記載の衣服である。
【請求項4】
前記の留め具を取り付ける為の土台を作る際やその他、肌に触れる部分の布端の見返しは、肌への負担を軽減するため肌に触れる面に段差ができないように布端をおもて面に返して縫うことを特徴とした請求項3記載の衣服である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−106409(P2008−106409A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314840(P2006−314840)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(506389126)
【Fターム(参考)】