説明

病人用排便処理装置と排便可能な車椅子

【課題】自分でベッド上から車椅子に移動することで、看護人の手を煩わすことなく、用便を自分自身で処理することができ、また、排便後は肛門部分を水洗して乾燥させることで清潔感が得られる病人用排便処理装置を提供する。
【解決手段】排便後の局部洗浄機能を備え、ベッド1の側部に固定配置することができる便座付きの車椅子2と、ベッド1の側部と車椅子2の間に固定配置され、歩行困難な病人のベッドと車椅子間相互の乗り移りを可能にするにじり板3とからなり、便座付きの車椅子2は、便座5の下部にハンドル11の操作で上下動する洗浄ノズル12と、この洗浄ノズル12の下部に位置する汚物収納容器13を備え、前記洗浄ノズル12が給水機構及び空気供給機構と接続され、水と空気の混合水及び空気の噴射が可能になり、この洗浄ノズル12の先端が、肛門部周囲に適合する形状で開口する左右一対となるフード14の中央部分にノズル15を設けた船形噴射ノズル12aになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歩行が困難な病人が、自らベッドの近傍で排便することができるようにする病人用排便処理装置と、これに用いる排便可能な車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
病人が最も不自由に感じることは排便の問題であり、特に、自由な歩行は困難ではあるが少々身体を動かせる病人においては、排便を自分自身で処理したいと思う気持ちを強くもっている。
【0003】
従来、歩行が困難な病人に対する用便時の介護は、主にオムツが使用されてきた。オムツは本人が恥ずかしがり、どうしても遠慮と辛抱をすることになり、また、看護人にとって最も時間をとられ、手が汚れることになる。
【0004】
医療機関におけるオムツの交換は、殆んど定時の間隔で行われ、排便後の処理は病人の申し出がない場合そのままになる時間が長くなり、また、オムツ交換時の拭浄など、看護人にも苦労があった。
【0005】
特に認知障害者はもとより、骨折や意識のある者でも手術などの短期間の患者も同様であった。
【0006】
上記したオムツ以外の処理方法には、臀部の下に差し込む挿入便器を使用する方法や、用便時にその都度看護人が車椅子でトイレにまで運んで行うか、室内用の洋風便器を用い、看護人が病人をこの便器上に運んで座らせることによって行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のような従来の用便時の処理方法は、オムツの使用及びオムツ以外の処理方法の何れにおいても、必ず看護人の手を煩わすことになり、また、ベッドと車椅子や室内便器間での病人の移載には体力が必要になり、看護が重労働になる大きな要因になっている。
【0008】
また、従来の室内便器は、単に排便を容器に受けるだけの構造になっているので、排便後の拭き取りが十分に行えず不潔感が残ると共に、手を十分に使えない人の場合は、排便後の拭き取りに看護人の手を煩わせることになる。
【0009】
そこで、この発明の課題は、自由な歩行はやや困難ではあるが、少々身体を動かせる病人の場合、ベッドの側部に配置した取り外し自在の便座付車椅子に対して、ベッドの側部と便座付車椅子の間に取外し自在に設けた握りパイプ付きの長三角形のにじりプレートを介して、にじりプレートの利用と車椅子のパイプを握ることによって自分でベッド上から移動して、看護人の手を煩わすことなく車椅子便器に乗り移ることができるようにし、排便時間を気にかけることなく用を足すことができ、また、排便後は肛門部分を水洗して乾燥させることで清潔感が得られる屋内居室用の病人用排便処理装置と排便可能な車椅子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような課題を解決するため、請求項1の発明は、排便後の局部洗浄機能を備え、ベッドの側部に固定配置することができる便座付きの車椅子と、ベッドの側部と車椅子を結合するように固定配置され、歩行困難な病人のベッドと車椅子間相互の乗り移りを容易に可能にする前端に握りパイプ付きの三角形のにじり板とで形成された構成を採用したものである。
【0011】
この車椅子は、便座の後方の背中部に座り座があり、普通時は便座上に倒して蓋となし、これに座って室内移動に使用できる。
【0012】
請求項2の発明は、車椅子本体に設けた便座の下部に、ハンドルの操作で上下動する洗浄ノズルと、この洗浄ノズルの下部に位置する汚物収納容器を設け、前記洗浄ノズルが給水機構及び空気供給機構と接続され、水と空気の混合水及び空気のみの噴射が可能になり、この洗浄ノズルの先端が、肛門部周囲に適合する形状で開口した左右一対となるフードの中央部分に少し下げてノズルを設けた船形噴射ノズルになり、ノズルと両側フードとの隙間から汚物洗浄水は下部の容器に流下し、洗浄中の洗浄水は両側フードによって外部に流れないようになっている構成を採用したものである。
【0013】
ここで、車椅子において、便座を設けた車椅子本体が便座の両側上部に設けたパイプ製の手すりは、一方側方からの乗り降りが容易なように一方側は前方への突出量が少なく、他方側は長く設けられ、この車椅子は、ベッドの一方側縁で足元側の位置に、ベッドの前後方向に対して移動方向が直角となる背面向きの配置で固定配置される。
【0014】
上記ベッドと車椅子の間に固定配置したにじり板は、ベッドの一方側縁と車椅子の側部間に納まる平面的に長い三角形に形成され、病人のベッドと車椅子の間相互の乗り移りを容易にし、このにじり板は、フラットな水平の板でもよいが、座る位置に無動力のベルトコンベアを設け、病人が尻を乗せてにじるだけでベッドと車椅子の間相互の病人の移動をより円滑に行えるようにしてもよい。
【0015】
また、にじり板の前端に握りパイプがあり、このにじり板の握りパイプと車椅子のパイプ製手すりも移動の間の身体の安定を保つことになる
【0016】
上記、車椅子本体にハンドルで上下動するよう設けた洗浄ノズルは、便座の後方位置に横方向の直管を設け、この直管の中央部に、一端側が弧状に屈曲する揺動パイプを左右水平に少し動くように弾力的に取付け、揺動パイプの下方後端を給水機構及び空気供給機構と接続させ、上方の揺動パイプの先端にゴム管を介して船形噴射ノズルを取付けて形成され、揺動パイプを上にあげて船形噴射ノズルを臀部の凹部に当てた場合、僅かな水平移動をなし、また、先端のゴム管との相乗効果によって、臀部の局部形状に自動的に合うようになっている。
【0017】
上記給水機構は、水タンクと送水ポンプからなり、また、空気供給機構は送風機によって形成され、送水ポンプの吐出口につながる送水パイプと、送風機の吐出口につながる送気パイプを混合部で接続し、かつ、混合部と上下動するR状揺動パイプと接続し、洗浄ノズルによる水と空気の混合水及び乾燥時に空気の噴射が可能になっている。
【発明の効果】
【0018】
この発明によると、ベッドの側部に固定配置した便座付きの車椅子とベッドの側部との間に、ベッドと車椅子間相互の乗り移りを可能にするにじり板を設けたので、自由な歩行は困難ではあるが少々身体を動かせる病人の場合、自分でベッド上からにじり板に尻を乗せてにじりながら、にじり板の握りパイプや車椅子のパイプ製手すりを握り、身体の安定を保ちながら便座付きの車椅子に移動することができ、介護者の手を煩わすことなく用便を自分自身で処理することが可能になり、病人の用便に対する負担の気持ちを和らげると共に、看護の省力化が図れることになる。
【0019】
また、ベッド後部の手すりに水のタンクをかけたり、どこでも移動できる車椅子に、水のタンクを設けたので、水道がなくても肛門付近の洗浄が行える機構を有し、排便後は肛門部分を水洗して乾燥させることで清潔感が得られ、手洗いが不要になり、手が十分に使えない人でも排便後において看護人に手を煩わすようなことがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0021】
図1のように、病人用排便処理装置は、ベッド1の側部に配置される便座付きの車椅子2と、ベッド1の側部と車椅子2の間に固定配置され、歩行困難な病人のベッド1と車椅子2間相互の乗り移りを可能にするにじり板3とで形成されている。
【0022】
上記便座付きの車椅子2は、図1と図2のように、便孔4が開口する便座5を設けた車椅子本体6がパイプを用いて組み立てられて車輪7で移動できるように構成され、便座5の両側上部に設けたパイプ製の手すり8と9は、一方側方からの乗り降りが容易なようににじり板3側の手すり8は前方への突出量が少なく、反対側の手すり9は長く設けられ、この車椅子2は、ベッド1の一方側縁で足元側の位置に、ベッド1の前後方向に対して移動方向が直角となる背面向きの配置でベッド1に固定化される。この両者の関係は、ベッド1の反対側に変えられる。
【0023】
上記にじり板3は、ベッド1の一方側縁と車椅子2の側部間に納まる平面三角形に形成され、病人のベッド1と車椅子2の間相互の乗り移りを容易にするためのものであり、図1のような、フラットな水平の板でもよいが、図6のように、座る位置に無動力のベルトコンベア10を設け、このベルトの底板は滑りやすいビニールや磨き鉄板となし、このペルトコンベア10の上に座ることでにじり動作が軽い力で行えるようになり、このベルトコンベア10をごく低速の電動式とし、端部に座ったのをセンサーで検出して回動と停止を自動的に行うようにすれば、ベッド1と車椅子2の間相互の病人の移動がより円滑に行えるようになる。
【0024】
上記便座付きの車椅子2には、車椅子本体6に設けた便座5の下部後方位置に、ハンドル11の操作で上下動する洗浄ノズル12と、この洗浄ノズル12の下部に位置する着脱自在の汚物収納容器13を設け、前記洗浄ノズル12が後述する給水機構及び空気供給機構と、ハンドル11で上下動するR状揺動パイプやゴム管を介して接続され、水と空気の混合水及び空気の噴射が可能になり、この洗浄ノズル12の先端が、肛門部周囲に適合する形状で開口する左右一対となるフード14の中央部分にノズル15を設けた船形噴射ノズル12aになっている。
【0025】
上記洗浄ノズル12は、図1乃至図4のように、便座5の後方位置に横方向の直管16を軸受けの支持で回転可能に設け、この直管16の中央部に一端側が弧状に屈曲するR付揺動パイプ17を直交状に、相互固定で不流通にて交差する貫通状となるよう、直管16の軸方向に少しの範囲で移動可能となるよう取付け、直管16の内部に組み込んだ両側の押しバネ18で揺動パイプ17を弾力的に挟むことによって左右水平の少しの揺動を可能に保持し、そのR付き揺動パイプ17の下方後端を給水機構19及び空気供給機構20と結合し、揺動パイプ17の上端に上方ゴム管21を介して洗浄ノズル12を取換え可能に接続して形成され、直管16の一方又は両端部に固定したハンドル11を上下回動させると、便座5の下で洗浄ノズル12が上下動するようになっている。
【0026】
図7のように、上記給水機構19は、水タンク22と送水ポンプ23からなり、また、空気供給機構20は送風機20aによって形成され、前記送水ポンプ23や送風機20aは電源ボックス24で給電して作動させ、送水ポンプ23の吐出口につながる送水パイプ23aと、送風機20aの吐出口につながる送気パイプ20bを混合部25で接続し、かつ、混合部25と上記洗浄ノズル12をパイプとゴム管21で接続し、洗浄ノズル12による水と空気の混合水及び空気のみの噴射が、ハンドル11に設けた公知の電気スイッチにより行われる。また、タイマーで制御してもよい。
【0027】
上記洗浄ノズル12のフード14の中央部分に位置するノズル15は、上面が円弧状に凹入した板状であり、軸心を貫通するノズル孔15aは内周に螺旋溝15bが形成され、水と空気の混合が更に確実に行われるようになっており、この水と空気の混合水は汚れの洗浄効果が優れている。
【0028】
なお、室内における車椅子2に噴射装置を取付け.ベッド1の後部手すりに給水機構19や空気供給機構20を取付ける例を示したが、これらの総てを車椅子2に取付けるようにすると、車椅子2の単独使用ができ、どの病室の病人の排泄に対応することができる。
【0029】
また、洗浄ノズル12の下部はR付き揺動パイプ17の上部とねじ又はテーパーの差込みで結合し、必要に応じてその都度消毒した洗浄ノズル12と取り換えることができる。なお、水タンク22に設けた電源ボックス24のトランスによって、電動部分を12Vの電圧で作動させる。
【0030】
この発明の病人用排便処理装置と排便可能な車椅子は、上記のような構成であり、図1のように、車椅子2はベッド1の一方側部に背面をベッド1に向けて固定し、この車椅子2の側部とベッド1の一方側部の間に三角形のにじり板3を、ベッド1の表面高さに合わせて配置し、ベッド1上の病人が排便する場合は、ベッド1上で上半身を起こして座り、足をベッド1の一方側部から垂らして座った体勢でにじり板3上に移動し、にじり板3の握りパイプ10aをつかみ、このにじり板3上をにじり移動しながら車椅子2の便座5上に移動する。
【0031】
車椅子1の便座5に座った状態で排便を済ませると、ハンドル11で洗浄ノズル12を上昇させ、この洗浄ノズル12の先端に設けた船形噴射ノズル12aは、両側フード14の上端縁が肛門部周囲に圧接し、続いてフード14の中央部分に少し下がった位置にあるノズル15から水と空気が混合した洗浄水が螺旋状となって噴出し、肛門部分を洗浄する。
【0032】
上記船形噴射ノズル12aは、尻の凹部に当てた場合、僅かな水平移動と洗浄ノズル12の下方のゴム管が曲がりをなして両側フード14の上端縁が尻の局部形状に自動的に合うことになり、肛門部分を洗浄する洗浄水は、両側フード14内の閉鎖された空間を満たすことで、肛門部周辺を効率よく洗浄することができ、また水と空気が混合した洗浄水は汚物除去効果に優れ、洗浄が確実に行える。
【0033】
また、汚物洗浄水は、ノズル15と両側フード14との隙間から下部の容器13に流下し、洗浄中は洗浄水が両側フード14によって外部に流れないため、周囲に洗浄水が飛散するようなことがなく、周辺を汚すことがない。
【0034】
洗浄水による肛門周辺の所定時間の洗浄後に、洗浄水の供給が停止してノズル15から空気だけが所定時間だけ噴出し、この空気の吹き付けによって洗浄部分を乾燥させる。
【0035】
空気の噴出が止まると、ハンドル11で洗浄ノズル12を下降させ、この洗浄ノズル12の先端に設けた船形噴射ノズル12aを尻から離せば、洗浄と乾燥工程が完了し、病人はこの後、車椅子2からにじり板3上に移動し、ベッド1上に戻ればよく、看護人は容器13内の排便を処理すればよい。
【0036】
なお、水と空気のミックス水は、汚物を空気で浮かし、水で流すから効率的で、一回の洗浄に用いる水量は300cc位でよい。従って、水道が必要なく、容量3〜4リットルの水を水タンク22内に満たしておけばよい。
【0037】
また、乾燥用の空気は、洗浄ノズル12と両側フード14間を旋回するから乾燥が速いという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】病人用排便処理装置の全体構造を示す斜視図
【図2】車椅子の斜視図
【図3】洗浄ノズルの斜視図
【図4】(a)は洗浄ノズルにおける船形噴射ノズルの斜視図、(b)は船形噴射ノズルの拡大した縦断斜視図、(c)は船形噴射ノズルと尻の関係を示す説明図
【図5】洗浄ノズルの直管に対する取付け構造を示す断面図
【図6】コンベアを設けたにじり板の斜視図
【図7】給水機構と空気供給機構を示す斜視図
【符号の説明】
【0039】
1 ベッド
2 車椅子
3 にじり板
4 便孔
5 便座
6 車椅子本体
7 車輪
8、9 手すり
10 ベルトコンベア
11 ハンドル
12 洗浄ノズル
13 汚物収納容器
14 フード
15 ノズル
16 直管
17 R付き揺動パイプ
18 押しバネ
19 給水機構
20 空気供給機構
21 ゴム管
22 水タンク
23 送水ポンプ
24 電源ボックス
25 混合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排便後の局部洗浄機能を備え、ベッドの側部に固定配置することができる便座付きの車椅子と、ベッドの側部と車椅子を結合するように固定配置され、歩行困難な病人のベッドと車椅子間相互の乗り移りを容易に可能にする三角形のにじり板とで形成された病人用排便処理装置。
【請求項2】
車椅子本体に設けた便座の下部に、ハンドルの操作で上下動する洗浄ノズルと、この洗浄ノズルの下部に位置する汚物収納容器を設け、前記洗浄ノズルが給水機構及び空気供給機構と接続され、水と空気の混合水及び空気の噴射が可能になり、この洗浄ノズルの先端が、肛門部周囲に適合する形状で開口した左右一対となるフードの中央部分にノズルを設けた船形噴射ノズルになり、ノズルと両側フードとの隙間から汚物洗浄水は下部の容器に流下し、洗浄中は洗浄水が両側フードによって外部に流れないようになっている車椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−301331(P2007−301331A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159058(P2006−159058)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(500256417)
【Fターム(参考)】