説明

病院経営評価支援装置、病院経営評価支援システム、病院経営評価支援方法並びに病院経営評価支援プログラム及びこれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体

【課題】病院の経営効率を簡便かつ適正に評価することのできる病院経営評価支援システムを提供する。
【解決手段】PC100は、サーバ200から収益データ、サーバ300から経費データ、及びサーバ400から病院経営指標データをそれぞれ受信し、収益データ及び経費データに基づいて人件費当たりの原価計算を行い、RMP及びRIPを算出する。そして、得られたRMPとRIPとの関係、及びRMPと病院経営指標データとの関係を含む病院経営評価データを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は病院の経営効率を簡便かつ適正に評価することのできる病院経営評価支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般企業では、経営効率を評価する指標として原価計算が用いられている。これは単純に製品に対する必要経費を求めるものであるが、病院にあっては、一人当たりの診療単価、あるいは手術や抗がん剤治療等の特殊な治療法についての必要経費を経費として算出することになる。その内訳としては、材料費、給食費、人件費等の流動経費と、減価償却費、運営経費等の固定経費とが挙げられる。
【0003】
しかし、病院においては、治療や治療に必要な検査が一部門(一診療科単位)ではなく複数の診療部門で行なわれるため原価計算が極めて複雑になるという問題がある。手術を例に取れば、人件費だけを見ても担当診療科の医師、病棟看護師、手術場における麻酔科医師、看護師、さらに術後ICUに収容されればICU担当医師、看護師、その後再び病棟における療養となる。また、この間の検査に関しても、血液、生化学検査は中央検査部、CT、MRIレントゲン検査等は放射線部門で行なわれる。リハビリテーションにおいても同様である。また、入院中の事務経費はすべて医療事務経費に算定されるべきである。このように、人件費だけをとってもいくつもの診療部門が入り組んで関与するため非常に複雑な構成となっている。さらに、材料費は手術、検査等に準じて各部門で発生する。また、固定経費についても部門ごとに算出する必要があり、現実問題としては病院における原価計算はほぼ不可能に近い状況にある。
【0004】
一方、病院の経営効率を評価するその他の指標として、患者数、診療単価、病床運営率、回転率、医業収益、収支差等の比較等が行われているが、これらの指標は必ずしも経営効率を正しく示しておらず、診療単価や医業収益が高くても収支差で見れば赤字傾向であることも少なくない。また、収支差が大きくても病床あるいは診療科ごとの運営効率を見る指標としては必ずしも十分とはいえない。DPC(Diagnosis Procedure Combination;診断群分類)導入後、診断群分類別の収益面や入院日数面でのベンチマーキングが可能となってきているが、診療科と診断群分類は必ずしも診療科と一対一の対応をしておらず、疾患に対する評価は可能でも診療科別の経営上の評価を単純に行うことはできない。さらに、診断群分類に含まれない非DPCの患者も2割以上存在し、これらを総合した評価に関しては従来の評価手法しか存在しない。病院経営の効率化が求められる現在の社会においては、営業部門別評価ともいえる診療科レベルでの評価は必須であり、簡便かつ適正な評価方法が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、病院の経営効率を簡便かつ適正に評価することのできる病院経営評価支援システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0007】
(1)本発明はまた、収益データを受信する収益データ受信手段と、経費データを受信する経費データ受信手段と、前記収益データ受信手段により受信した収益データ及び前記経費データ受信手段により受信した経費データに基づいて人件費当たりの原価計算を行う原価計算処理手段と、前記原価計算処理手段により得られた人件費当たりの原価計算の結果を含む病院経営評価データを出力する病院経営評価データ出力手段と、を有することを特徴とする病院経営評価支援装置である。
【0008】
(2)本発明はまた、前記原価計算処理手段は、RMPを算出するものであり、前記病院経営評価データ出力手段は、前記原価計算処理手段により算出したRMPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、(1)に記載の病院経営評価支援装置である。
【0009】
(3)本発明はまた、前記原価計算処理手段は、RIPを算出するものであり、前記病院経営評価データ出力手段は、前記原価計算処理手段により算出したRIPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、(2)に記載の病院経営評価支援装置である。
【0010】
(4)本発明はまた、前記病院経営評価データ出力手段は、前記原価計算処理手段により算出したRMPとRIPとの関係を表わすデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、(3)に記載の病院経営評価支援装置である。
【0011】
(5)本発明はまた、病院経営指標データを受信する病院経営指標データ受信手段を更に有し、前記病院経営評価データ出力手段は、前記病院経営指標データ受信手段により受信した病院経営指標データと前記原価計算処理手段により算出したRMPとの関係を表わすデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、(2)〜(4)のいずれか1項に記載の病院経営評価支援装置である。
【0012】
(6)本発明はまた、前記病院経営指標データは、1日平均入院患者数、1日平均外来患者数、病床利用率、外来/入院比、平均在院日数、患者規模100人当たり、患者1人1日当たり、医業収益対医業利益率、人件費率、材料費率、経費率、委託費率、減価償却費率、経常収益対支払利息率、経常収益対経常利益率、総収益対総利益率又は当期純利益、常勤医師1人当たり、常勤看護師1人当たり、従事者1人当たり、労働生産性、労働分配率、1病床当たり総資産額、1病床当たり利益剰余金額、1病床当たり固定資産額、自己資本比率、固定長期適合率、流動比率、医業収益対借入金比率又は医業収益対長期借入金比率、総資本対経常利益率及び総資本回転率からなる群より選択される少なくとも1つである、(5)に記載の病院経営評価支援装置である。
【0013】
(7)本発明はまた、前記病院経営評価データ出力手段は、前記病院経営評価データを病院ごと、診療科ごと又は診断群分類ごとの対比データとして出力することを特徴とする、(1)〜(6)に記載の病院経営評価支援装置である。
【0014】
(8)本発明はまた、前記収益データは、診断群分類による包括医療収益データを含む、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の病院経営評価支援装置である。
【0015】
(9)さらに、本発明は、収益データを蓄積する収益データ蓄積手段と、経費データを蓄積する経費データ蓄積手段と、前記収益データ蓄積手段により蓄積した収益データ及び前記経費データ蓄積手段により蓄積した経費データに基づいて人件費当たりの原価計算を行う原価計算処理手段と、前記原価計算処理手段により得られた人件費当たりの原価計算の結果を含む病院経営評価データを出力する病院経営評価データ出力手段と、を有することを特徴とする病院経営評価支援システムである。
【0016】
(10)本発明はまた、前記原価計算処理手段は、RMPを算出するものであり、前記病院経営評価データ出力手段は、前記原価計算処理手段により算出したRMPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、(9)に記載の病院経営評価支援システムである。
【0017】
(11)本発明はまた、前記原価計算処理手段は、RIPを算出するものであり、前記病院経営評価データ出力手段は、前記原価計算処理手段により算出したRIPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、(10)に記載の病院経営評価支援システムである。
【0018】
(12)さらに、本発明は、収益データを蓄積する収益データ蓄積ステップと、経費データを蓄積する経費データ蓄積ステップと、前記収益データ蓄積ステップにより蓄積した収益データ及び前記経費データ蓄積ステップにより蓄積した経費データに基づいて人件費当たりの原価計算を行う原価計算処理ステップと、前記原価計算処理ステップにより得られた人件費当たりの原価計算の結果を含む病院経営評価データを出力する病院経営評価データ出力ステップと、を有することを特徴とする病院経営評価支援方法である。
【0019】
(13)本発明はまた、前記原価計算処理ステップは、RMPを算出するものであり、前記病院経営評価データ出力ステップは、前記原価計算処理ステップにより算出したRMPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、(12)に記載の病院経営評価支援方法である。
【0020】
(14)本発明はまた、前記原価計算処理ステップは、RIPを算出するものであり、前記病院経営評価データ出力ステップは、前記原価計算処理ステップにより算出したRIPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、(13)に記載の病院経営評価支援方法である。
【0021】
(15)さらに、本発明は、収益データを受信する収益データ受信ステップと、経費データを受信する経費データ受信ステップと、前記収益データ受信ステップにより受信した収益データ及び前記経費データ受信ステップにより受信した経費データに基づいて人件費当たりの原価計算を行う原価計算処理ステップと、前記原価計算処理ステップにより得られた人件費当たりの原価計算の結果を含む病院経営評価データを出力する病院経営評価データ出力ステップと、をコンピュータに実行させることを特徴とする病院経営評価支援プログラムである。
【0022】
(16)本発明はまた、前記原価計算処理ステップは、RMPを算出するものであり、前記病院経営評価データ出力ステップは、前記原価計算処理ステップにより算出したRMPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、(15)に記載の病院経営評価支援プログラムである。
【0023】
(17)本発明はまた、前記原価計算処理ステップは、RIPを算出するものであり、前記病院経営評価データ出力ステップは、前記原価計算処理ステップにより算出したRIPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、(16)に記載の病院経営評価支援プログラムである。
【0024】
(18)さらに、本発明は、(15)〜(17)のいずれか1項に記載の病院経営評価支援プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の病院経営評価支援システムによれば、蓄積した収益データ及び経費データに基づいて人件費当たりの原価計算を行い当該人件費ベースの原価計算結果に基づく病院経営評価データを出力するので、医療特有の複雑な原価構成に拘わらず簡便かつ適正に原価計算を行い病院の経営効率を評価することができる。
【0026】
また、本発明の病院経営評価支援システムによれば、RMP及びRIPを算出してこれらに基づく病院経営評価データを出力するので、病院ごと、診療科ごと又は診断群分類ごとの経営効率を極めて簡単に比較評価することができる。
【0027】
さらに、本発明の病院経営評価支援システムによれば、RMPとRIPとの関係を表わすデータ含む病院経営評価データを出力することにより、損益分岐点を一目で把握でき簡便かつ適正に病院の経営効率を評価することができる。
【0028】
さらに、本発明の病院経営評価支援システムによれば、RMPと病院経営評価データとの関係を表わすデータ含む病院経営評価データを出力することにより、各病院又は各診療科の経営効率の評価とその要因分析を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる病院経営評価支援システム10の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態にかかるPC100の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】本実施形態におけるPC100の病院経営評価支援処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】RMPとRIPのパラメータの関係を説明するための図である。
【図5】RMP及びRIPとBEPとの関係を説明するための図である。
【図6】本実施形態においてPC100が出力する病院経営評価データの一例を示す図であり、病院経営評価データとして病院別のRMP及びRIPと限界利益との関係を出力した例である。
【図7】本実施形態においてPC100が出力する病院経営評価データの他の一例を示す図であり、病院経営評価データとして病院別のRMP及び病床利用率と限界利益との関係を出力した例である。
【図8】本実施形態においてPC100が出力する病院経営評価データの他の一例を示す図であり、病院経営評価データとして診療科別の病床利用率及び平均在院日数とRMP及び限界利益との関係を出力した例である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる病院経営評価支援システム10の全体構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態にかかる病院経営評価支援システム10は、病院経営評価支援装置(原価計算処理手段及び病院経営評価データ出力手段)としてのPC(パーソナルコンピュータ)100と、収益データ蓄積手段としてのサーバ200と、経費データ蓄積手段としてのサーバ300と、病院経営指標データ蓄積手段としてのサーバ400とを備え、これらは通信ネットワーク500を介して相互に通信可能に接続されている。なお、通信ネットワーク500に接続される機器の種類および台数は、図1に示す例に限定されない。
【0032】
次に、上記各機器の構成について説明するが、上記各機器は後述する構成要素以外の構成要素を含んでいてもよく、あるいは、後述する構成要素のうちの一部が含まれていなくてもよい。
【0033】
図2は、本実施形態にかかるPC100の構成の一例を示すブロック図である。図2に示すように、PC100は、CPU110、ROM120、RAM130、ハードディスク140、ディスプレイ150、入力装置160およびネットワークインタフェース170を備えており、これらは信号をやり取りするためのバス180を介して相互に接続されている。
【0034】
CPU110は、プログラムにしたがって上記各部の制御や各種の演算処理等を行う。ROM120は、PC100の基本動作を制御する各種プログラムやパラメータを格納する。RAM130は、作業領域として一時的にプログラムやデータを記憶する。ハードディスク140は、OS(オペレーティングシステム)や後述するPC100の所定の動作を制御するためのプログラムおよびパラメータを格納する。
【0035】
ディスプレイ150は、各種の情報を表示する。入力装置160は、キーボードやマウス等であり、各種の入力を行うために使用される。ネットワークインタフェース180は、ネットワークに接続しネットワーク上の他の機器と通信するためのインタフェースであり、イーサネット(登録商標)、トークンリング、FDDI等の規格が用いられる。
【0036】
サーバ200、300及び400は何れもコンピュータであり、その構成はPC100とほぼ同様であるので説明を省略する。サーバ200、300及び400は、ハードディスク等にそれぞれ収益データ、経費データ及び病院経営指標データを蓄積しており、要求に応じてこれらのデータを外部に送信するように構成されている。
【0037】
通信ネットワーク500は、LAN、WAN、インターネット等のコンピュータネットワークであり、電話網、移動通信網、ISDN、パケット交換網等の公衆網を含むものである。
【0038】
つぎに、本実施形態における病院経営評価支援システム10の動作の概要を説明する。図3は、本実施形態におけるPC100の病院経営評価支援処理の手順を示すフローチャートである。なお、図3のフローチャートにより示されるアルゴリズムは、PC100のハードディスク140等に制御プログラムとして記憶されており、動作開始の際にRAM130に読み出されてCPU110により実行される。
【0039】
図3のステップS110において、PC100は、病院経営評価支援処理の開始命令があるまで待機する(S110のNO)。ユーザは、入力装置160から病院経営評価の比較を行いたい対象病院、対象診療科、病院経営指標の対象項目(詳細は後述する)、対象期間、出力形式等の出力条件を設定して病院経営評価支援処理の開始命令を入力する。PC100は、病院経営評価支援処理の開始命令の入力があると(S110のYES)、ステップS120に進んで、ネットワークインタフェース170及び通信ネットワーク500を介してサーバ200に対象期間の収益データの送信命令を送信し、ステップS130においてサーバ200から収益データを受信するまで待機する(S130のNO)。サーバ200はPC100から収益データ送信命令を受信すると、ハードディスク等に蓄積された収益データから該当するデータを抽出してPC100に送信する。なお、ここでの収益データにはDPC等の包括医療制度による包括医療収益データを含んでいてもよく、包括医療制度による収益データと非包括医療制度による収益データが混在していてもよい。
【0040】
PC100は、通信ネットワーク500及びネットワークインタフェース170を介してサーバ200から収益データを受信すると(S130のYES)、受信した収益データをRAM130に記憶する。次いで、ステップ140に進んで、ネットワークインタフェース170及び通信ネットワーク500を介してサーバ300に対象期間の経費データの送信命令を送信し、ステップS150においてサーバ300から経費データを受信するまで待機する(S150のNO)。サーバ300はPC100から経費データ送信命令を受信すると、ハードディスク等に蓄積された経費データから該当するデータを抽出してPC100に送信する。なお、ここでの経費データには、流動経費として人件費、材料費及び給食費があり、固定経費として減価償却費及び運営経費がある。
【0041】
PC100は、通信ネットワーク500及びネットワークインタフェース170を介してサーバ300から経費データを受信すると(S150のYES)、受信した経費データをRAM130に記憶する。次いで、ステップ160に進んで、ネットワークインタフェース170及び通信ネットワーク500を介してサーバ400に対象期間、対象項目の病院経営指標データの送信命令を送信し、ステップS170においてサーバ400から病院経営指標データを受信するまで待機する(S170のNO)。サーバ400はPC100から経費データ送信命令を受信すると、ハードディスク等に蓄積された病院経営指標データから該当するデータを抽出してPC100に送信する。ここで、病院経営指標データとは、病院経営に何らかの影響を与えている可能性のある指標データのことであり、後述するように病院経営評価における要因分析に利用される(詳細は後述する)。
【0042】
PC100は、通信ネットワーク500及びネットワークインタフェース170を介してサーバ400から病院経営指標データを受信すると(S170のYES)、受信した病院経営指標データをRAM130に記憶する。
【0043】
なお、上述の収益データ受信処理(S120及びS130)、経費データ受信処理(S140及びS150)及び病院経営指標データ受信処理(S160及びS170)の各手順は、何れの順序で処理されるものであってもよい。
【0044】
次いで、ステップ180に進んで、ステップS130で得られた収益データ及びステップS150で得られた経費データに基づいて人件費あたりの原価計算処理を行い、RAM130に記憶する。具体的には、流動経費のうち人件費については、患者1人1日あたりの人件費を算出する。担当診療科については、医師、看護師、その他職種の総人件費を外来と入院に分離した上で診療科の総入院患者数により除して、患者1日あたりの人件費を算出する。中央手術場、ICU、中央検査部、放射線部門、リハビリテーションについては各部門における診療報酬点数若しくは処置や検査件数等按分係数となりうる基準を患者ごとに求め、診療点数若しくは処置や検査件数等按分係数となりうる値として計上された値を基に、各部門の診療点数若しくは処置や検査件数等の合計値に占める割合を算出し、その値を基に各部門の総人件費を患者1人当たりに按分する。また、事務部門、その他の職種については各患者個人の総診療報酬点数若しくは按分係数となりうる患者数や入院日数などの値を基本に病院全体の合計値に占める割合を算出し、各患者個人に按分する。また、流動経費のうち材料費(手術等に伴う特殊材料費)及び給食費については、汎用の医事会計システムや厚生労働省の指定する医療行為内容の分かる医事請求情報、例えばDPCシステムによるD、E及びFファイルに含まれており、患者個人ごとに算出が可能である。さらに、固定経費の減価償却費及び運営経費については、病院全体若しくは各部門に配賦した総額を病院全体もしくは部門ごとの人件費総額で除して人件費1円当たりの単価を算出する。病院全体で算出した場合にはこの値を各診療科、治療法等に当てはめてそれぞれの固定費を産出する。
【0045】
次に、ステップS190及びS200に進んで、ステップS130で得られた収益データ及びステップS150で得られた経費データに基づいてRMP(Ratio of Marginal income per Personnel cost;人件費当たりの限界利益率)及びRIP(Ratio of Investment per Personnel cost;人件費当たりの投資(非直接経費)率)を算出し、RAM130に記憶する。
【0046】
ここで、RMPは、下記式(1)により定義され、医業収入から直接経費を控除したものを人件費当たりに換算して得られる。
【数1】

但し、式中のパラメータの定義及びこれらのパラメータ間の関係は図4に示すとおりである。
【0047】
即ち、RMPは、病院全体又は診療科ごとの人件費1円当たりの診療収益を示しており、その病院又は診療科の医療活動のアクティビティと経営効率を表わす指標である。
【0048】
また、RIPは、下記式(2)により定義され、非直接経費を人件費当たりに換算して得られる。
【数2】

但し、式中のパラメータの定義及びこれらのパラメータ間の関係は図4に示すとおりである。
【0049】
即ち、RIPは、病院全体又は診療科ごとの人件費1円当たりの投入資本を示している。
【0050】
ここで、パラメータAは下記式(3)のように示される。
【数3】

【0051】
これを用いると、RMPは下記式(4)のとおりとなる。
【数4】

【0052】
ここで、α=0の場合、RMPとRIPの関係は下記式(5)のとおりとなる。
【数5】

【0053】
一方、BEP(損益分岐点)は、下記式(6)のように示される。
【数6】

【0054】
また、パラメータAは下記式(7)のように示される。
【数7】

【0055】
式(6)及び式(7)より、BEPは下記式(8)のとおりとなる。
【数8】

【0056】
更に、RMPとRIPは、それぞれ下記式(9)のように示される。
【数9】

【0057】
これより、下記式(10)の関係が導かれる。
【数10】

従って、式(8)及び(10)より、BEPは下記式(11)のとおりとなる。
【数11】

【0058】
図5に示すように、RMPとRIPとの関係において、y=xの線上は損益分岐点となる。例えばある病院のRMPとRIPの算出値が図中の(RMP、RIP)であったとすると、RMPは損益分岐点を表わし、RIP−RIPは医業利益を表わす。このように、RMP及びRIPと損益分岐点との関係から、病院や診療科の経営効率を一目で適切に評価することができると共に、他の病院との比較や同一病院内における診療科部門ごとの比較を極めて簡単に行うことができるものである。
【0059】
なお、上述のRMP算出処理(S180)及びRIP算出処理(S190)の各手順は、何れの順序で処理されるものであっても構わない。
【0060】
そして、ステップS210において、ステップS180〜S200でそれぞれ得られた人件費当たりの原価計算の処理結果、RMP若しくはRIPのデータ、及びステップS170で得られた病院経営指標データに基づいて病院経営評価データを生成し、ステップS220において、ステップS210で得られた病院経営評価データをディスプレイ150に表示出力し、あるいはネットワークインタフェース170を介してプリンタ等の外部機器に出力し、病院経営評価支援処理を終了する。
【0061】
図6は、本実施形態においてPC100が出力する病院経営評価データの一例を示す図であり、病院経営評価データとして病院別のRMP及びRIPと限界利益との関係を出力した例である。図中、黒マルは財務収支が黒字、白マルは財務収支が赤字であることを表わし、マルの大きさは限界利益(黒字は利益、赤字は損益)を表わす(図7及び図8において同じ)。このように、病院経営評価データは、病院ごと、診療科ごと又は診断群分類ごとの対比データとして出力することができ、RMPとRIPとの関係を病院ごと、診療科ごと又は診断群分類ごとに対比して出力することにより、各病院又は各診療科の経営効率を簡単に比較評価することができる。
【0062】
図7及び図8は、本実施形態においてPC100が出力する病院経営評価データの他の一例を示す図であり、図7は病院経営評価データとして病院別のRMP及び病床利用率と限界利益との関係を出力した例であり、図8は、病院経営評価データとして診療科別の病床利用率及び平均在院日数とRMP及び限界利益との関係を出力した例である。図8のアルファベットは各診療科を表わし、数値はRMPを表わしている。このように、RMPと病床利用率、平均在院日数等の病院経営指標との関係を病院ごと又は診療科ごとに対比して出力することにより、各病院又は各診療科の経営効率の評価とその要因分析を容易に行うことができる。このように病院経営の要因分析に供することができる病院経営指標としては、例えば以下のもの(項目名及び定義)が挙げられる。
(1)損益状態に関する指標
・1日平均入院患者数(人)=在院患者延数/(施設数×365日)
・1日平均外来患者数(人)=外来患者延数/(施設数×365日)
・病床利用率(%)=在院患者延数/(病床数×365日)×100
・外来/入院比(倍)=1日平均外来患者数/1日平均在院患者数
・平均在院日数(日)=在院患者延数×1/2×(新入院患者数+退院患者数)
・患者規模100人当たり(人)=従事者数(注)/(従事者数1日平均在院患者数+(1日平均外来患者数×1/3))×100
(注)従事者数は、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、准看護師、看護補助者、管理栄養士、栄養士、診療放射線技師、理学療法士、作業療法士のみ
・患者1人1日当たり(円)=入院収益/入院収益在院患者延数(24時現在の患者数)
・患者1人1日当たり(円)=外来収益/外来収益外来患者延数
・医業収益対医業利益率(%)=医業利益/医業収益×100
・人件費率(%)=給与費(役員報酬を含む)/医業収益×100
・材料費率(%)=材料費/医業収益×100
・経費率(%)=経費(その他の費用を含む)/医業収益×100
・委託費率(%)=委託費/医業収益×100
・減価償却費率(%)=減価償却費/医業収益×100
・経常収益対支払利息率(%)=支払利息/経常収益×100
・経常収益対経常利益率(%)=経常利益/経常収益×100
・総収益対総利益率(当期純利益)(%)=当期純利益/総収益×100
・常勤医師1人当たり(円)=給与費(医師+歯科医師)/(年間給与費医師数+歯科医師数)
・常勤看護師1人当たり(円)=給与費(看護師+准看護師+助産師)/(年間給与費看護師数+准看護師数+助産師数)
・従事者1人当たり(円)=医業収益/年間医業収益従事者数(注)
(注)従事者数は、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、准看護師、看護補助者、管理栄養士、栄養士、診療放射線技師、理学療法士、作業療法士のみ
・労働生産性(円)=医業収益−(材料費+経費+委託費+減価償却費+その他の費用)/従事者数(注)
(注)従事者数は、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、准看護師、看護補助者、管理栄養士、栄養士、診療放射線技師、理学療法士、作業療法士のみ
・労働分配率(%)=給与費/(医業収益−(材料費+経費+委託費+減価償却費+その他の費用))×100
(2)財政状態に関する指標
・1病床当たり総資産額(円)=総資産/総病床数
・1病床当たり利益剰余金額(円)=利益剰余金/総病床数
・1病床当たり固定資産額(円)=固定資産/総病床数
・自己資本比率(%)=資本/(負債+資本)×100
・固定長期適合率(%)=固定資産/(資本+固定負債)×100
・流動比率(%)=流動資産/流動負債×100
・医業収益対(長期)借入金比率(%)=長期借入金/医業収益×100
・総資本対経常利益率(%)=経常利益/(負債+資本)×100
・総資本回転率(%)=医業収益/(負債+資本)×100
【0063】
なお、RMPと上記病院経営指標との関係を単に平面軸上にプロットするだけでなく、RMPと上記の病院経営指標の代表的な項目との関係を多変量解析により分析し、RMPや限界利益に対する病院経営指標の寄与率を求めるようにしてもよい。
【0064】
本発明の病院経営評価支援システムは、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0065】
例えば、上記実施形態では、病院経営評価支援装置(原価計算処理手段及び病院経営評価データ出力手段)と収益データ蓄積手段と経費データ蓄積手段と病院経営指標データ蓄積手段とをそれぞれ別個のコンピュータで実現するものであったが、これらの手段の2つ以上(又は全部)を1台のコンピュータで実現するものであってもよいし、逆にこれらの手段の行う処理を更に分散して複数のコンピュータで処理するものであってもよい。
【0066】
本発明による病院経営評価支援装置は、上述した各手順を実行するための専用のハードウエア回路によっても、また、上記各手順を記述したプログラムをCPUが実行することによっても実現することができる。後者により本発明を実現する場合、病院経営評価支援装置を動作させる上記プログラムは、フロッピー(登録商標)ディスクやCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体によって提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してオンラインで提供されてもよい。この場合、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ROMやハードディスク等に転送され記憶される。また、このプログラムは、たとえば、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、病院経営評価支援装置の一機能としてその装置のソフトウエアに組み込んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
上述したように、本発明の病院経営評価支援システムは、医療特有の複雑な原価構成に拘わらず簡便かつ適正に原価計算を行うことができ、RMP及びRIPに基づいて病院ごと、診療科ごと又は診断群分類ごとの経営効率を極めて簡単に比較評価することができる。
【符号の説明】
【0068】
10 病院経営評価支援システム
100 PC
110 CPU
120 ROM
130 RAM
140 ハードディスク
150 ディスプレイ
160 入力装置
170 ネットワークインタフェース
180 バス
200、300、400 サーバ
500 通信ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収益データを受信する収益データ受信手段と、
経費データを受信する経費データ受信手段と、
前記収益データ受信手段により受信した収益データ及び前記経費データ受信手段により受信した経費データに基づいて人件費当たりの原価計算を行う原価計算処理手段と、
前記原価計算処理手段により得られた人件費当たりの原価計算の結果を含む病院経営評価データを出力する病院経営評価データ出力手段と、
を有することを特徴とする病院経営評価支援装置。
【請求項2】
前記原価計算処理手段は、RMPを算出するものであり、
前記病院経営評価データ出力手段は、前記原価計算処理手段により算出したRMPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、
請求項1に記載の病院経営評価支援装置。
【請求項3】
前記原価計算処理手段は、RIPを算出するものであり、
前記病院経営評価データ出力手段は、前記原価計算処理手段により算出したRIPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、
請求項2に記載の病院経営評価支援装置。
【請求項4】
前記病院経営評価データ出力手段は、前記原価計算処理手段により算出したRMPとRIPとの関係を表わすデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、
請求項3に記載の病院経営評価支援装置。
【請求項5】
病院経営指標データを受信する病院経営指標データ受信手段を更に有し、
前記病院経営評価データ出力手段は、前記病院経営指標データ受信手段により受信した病院経営指標データと前記原価計算処理手段により算出したRMPとの関係を表わすデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、
請求項2〜4のいずれか1項に記載の病院経営評価支援装置。
【請求項6】
前記病院経営指標データは、1日平均入院患者数、1日平均外来患者数、病床利用率、外来/入院比、平均在院日数、患者規模100人当たり、患者1人1日当たり、医業収益対医業利益率、人件費率、材料費率、経費率、委託費率、減価償却費率、経常収益対支払利息率、経常収益対経常利益率、総収益対総利益率又は当期純利益、常勤医師1人当たり、常勤看護師1人当たり、従事者1人当たり、労働生産性、労働分配率、1病床当たり総資産額、1病床当たり利益剰余金額、1病床当たり固定資産額、自己資本比率、固定長期適合率、流動比率、医業収益対借入金比率又は医業収益対長期借入金比率、総資本対経常利益率及び総資本回転率からなる群より選択される少なくとも1つである、
請求項5に記載の病院経営評価支援装置。
【請求項7】
前記病院経営評価データ出力手段は、前記病院経営評価データを病院ごと、診療科ごと又は診断群分類ごとの対比データとして出力することを特徴とする、
請求項1〜6に記載の病院経営評価支援装置。
【請求項8】
前記収益データは、診断群分類による包括医療収益データを含む、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の病院経営評価支援装置。
【請求項9】
収益データを蓄積する収益データ蓄積手段と、
経費データを蓄積する経費データ蓄積手段と、
前記収益データ蓄積手段により蓄積した収益データ及び前記経費データ蓄積手段により蓄積した経費データに基づいて人件費当たりの原価計算を行う原価計算処理手段と、
前記原価計算処理手段により得られた人件費当たりの原価計算の結果を含む病院経営評価データを出力する病院経営評価データ出力手段と、
を有することを特徴とする病院経営評価支援システム。
【請求項10】
前記原価計算処理手段は、RMPを算出するものであり、
前記病院経営評価データ出力手段は、前記原価計算処理手段により算出したRMPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、
請求項9に記載の病院経営評価支援システム。
【請求項11】
前記原価計算処理手段は、RIPを算出するものであり、
前記病院経営評価データ出力手段は、前記原価計算処理手段により算出したRIPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、
請求項10に記載の病院経営評価支援システム。
【請求項12】
収益データを蓄積する収益データ蓄積ステップと、
経費データを蓄積する経費データ蓄積ステップと、
前記収益データ蓄積ステップにより蓄積した収益データ及び前記経費データ蓄積ステップにより蓄積した経費データに基づいて人件費当たりの原価計算を行う原価計算処理ステップと、
前記原価計算処理ステップにより得られた人件費当たりの原価計算の結果を含む病院経営評価データを出力する病院経営評価データ出力ステップと、
を有することを特徴とする病院経営評価支援方法。
【請求項13】
前記原価計算処理ステップは、RMPを算出するものであり、
前記病院経営評価データ出力ステップは、前記原価計算処理ステップにより算出したRMPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、
請求項12に記載の病院経営評価支援方法。
【請求項14】
前記原価計算処理ステップは、RIPを算出するものであり、
前記病院経営評価データ出力ステップは、前記原価計算処理ステップにより算出したRIPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、
請求項13に記載の病院経営評価支援方法。
【請求項15】
収益データを受信する収益データ受信ステップと、
経費データを受信する経費データ受信ステップと、
前記収益データ受信ステップにより受信した収益データ及び前記経費データ受信ステップにより受信した経費データに基づいて人件費当たりの原価計算を行う原価計算処理ステップと、
前記原価計算処理ステップにより得られた人件費当たりの原価計算の結果を含む病院経営評価データを出力する病院経営評価データ出力ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする病院経営評価支援プログラム。
【請求項16】
前記原価計算処理ステップは、RMPを算出するものであり、
前記病院経営評価データ出力ステップは、前記原価計算処理ステップにより算出したRMPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、
請求項15に記載の病院経営評価支援プログラム。
【請求項17】
前記原価計算処理ステップは、RIPを算出するものであり、
前記病院経営評価データ出力ステップは、前記原価計算処理ステップにより算出したRIPデータを含む前記病院経営評価データを出力することを特徴とする、
請求項16に記載の病院経営評価支援プログラム。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか1項に記載の病院経営評価支援プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−218448(P2010−218448A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66985(P2009−66985)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本医療・病院管理学会、日本医療・病院管理学会誌、第45巻、平成20年10月6日発行 日本医療マネジメント学会、日本医療マネジメント学会雑誌第9巻、第4号、平成21年3月1日発行 有限責任中間法人日本医療情報学会、医療情報学第28巻、第2号、平成21年3月18日発行
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)