説明

癌細胞移植動物の製造方法

0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で癌細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力の強い状態となる温度に変化させることで培養した癌細胞を剥離させ、移植対象となる動物の所定部位に移植すると効率良く癌細胞を移植させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学、医学等の分野における癌細胞移植動物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌は日本の死因のトップであり、約30%の人が癌で死亡するといわれている。近年、ゲノム情報によるオーダーメイド医療が進みつつあるが、肝心の癌に有効な治療薬は依然、見つかっていないのが現状である。その抗癌剤の開発に必須なのが適切な担癌動物であり、現在、その開発が待たれている。
【0003】
癌細胞移植動物としては、APCやp53等の癌抑制遺伝子ノックアウトマウス、或いは化学物質等の発癌剤を用いる方法、対象とする癌細胞を直接移植する方法などにより発現させた動物などが挙げられる。これらのうち、癌抑制遺伝子ノックアウトマウスは、比較的短期間に製造できるが、比較的高価であり、製造委託先のいろいろな制約を受けるなど、容易に使用できる方法ではなかった。また、化学物質による発癌方法では、癌を発生させるために長期間を必要とするため、結論を得るまでに時間を費やさねばならないという問題があった。
【0004】
癌細胞の移植方法は、短期間で実験結果が得られるという利点を有する。しかしながら、移植した癌細胞の生着率が悪いこと、動物ごとの移植癌組織の大きさや重量のばらつきが大きく、抗癌剤を評価する際、その効果の優位な差が見えづらい欠点があった。その理由に、移植した癌細胞の生着率の低さ、移植部位からの癌細胞懸濁液の漏出などが挙げられ、移植する細胞自身の機能を改善する必要性があった。
【0005】
一方、特開平05−192138号公報には、水に対する上限若しくは下限臨界溶解温度が0〜80℃であるポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上にて、皮膚細胞を上限臨界溶解温度以下又は下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下にすることにより培養皮膚細胞が剥離されることを特徴とする皮膚細胞培養法が記載されている。この方法においては、温度応答性ポリマーを被覆した培養基材から温度により細胞を剥離させているが、この方法により得られる細胞を用いて癌細胞移植動物を製造する方法は記載も示唆もされていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決することを意図してなされたものである。すなわち、本発明は、従来技術と全く異なった発想からの新規な癌細胞移植動物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて、研究開発を行った。その結果、驚くべくことに、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で癌細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力の強い状態となる温度に変化させることで培養した癌細胞を剥離させ、当該動物の所定部位に移植すると効率良く癌細胞を移植させられることが分かった。しかも、その癌細胞をシート状とし、その癌細胞シートを所定の大きさを有する所定の形状とすることで、当該動物の癌組織の大きさ、及びまたは形状を制御しうることが判明した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で癌細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力の強い状態となる温度に変化させることで培養した癌細胞を剥離させ、当該動物の所定部位に移植することを特徴とする癌細胞移植動物の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、癌細胞をシート状とし、その癌細胞シートを所定の大きさを有する所定の形状とすることで、当該動物の癌組織の大きさ、及びまたは形状を制御することを特徴とする癌細胞移植動物の製造方法を提供する。
【0010】
更に、本発明は、上記方法により得られた癌細胞移植動物を提供する。
【0011】
加えて、本発明は、上記方法により癌細胞移植動物を製造する際に移植前及び/または移植後に被検物質を投与し、当該被検物質の腫瘍形成能への影響を判定することを特徴とする抗腫瘍剤の選別方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に記載される癌細胞移植動物の製造方法であれば、培養した癌細胞を剥離させる際、酵素処理を伴わないため接着性蛋白質が破壊されずに残っているため移植後の生着性が良く、さらにその癌細胞がシート状である場合、移植時における移植部位からの漏出も抑えられ効率良く癌細胞移植動物を製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は実施例1で癌細胞シートを移植したヌードマウス背部の腫瘍径を測定して楕円体として算出した腫瘍体積の経時変化を示す図である。
【図2】図2は癌細胞シートを移植したヌードマウス背部の腫瘍径を測定して楕円柱として算出した腫瘍体積の経時変化を示す図である。
【図3】図3は癌細胞移植前のヌードマウス背部の写真である。
【図4】図4は癌細胞シート移植4週間後のヌードマウス背部の写真である。
【図5】図5は癌細胞懸濁液移植4週間後のヌードマウス背部の写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に使用される細胞は、癌細胞であれば良く、生体組織から直接採取した細胞、或いは、例えば、HBC−4、BSY−1、HBC−5、MCF−5、MCF−7、MDA−MB−231、U251、SF−268、SF−295、SF−539、SNB−75、SNB−78、HCC2998、KM−12、HT−29、WiDr、HCT−15、HCT−116、NCI−H23、NCI−H226、NCI−H522、NCI−H460、A549、DMS273、DMS114、LOX−IMVI、OVCAR−3、OVCAR−4、OVCAR−5、OVCAR−8、SK−OV−3、RXF−631L、ACHN、St−4、MKN1、MKN7、MKN28、MKN45、MKN74などの細胞株が挙げられるがその種類は、何ら制約されるものではない。また、いわゆる移植不能な細胞株として知られる例えばMGT−40、MGT−90、CS−C9、CS−C20などの細胞株も本発明で示すところの技術であれば、その高い生着率により移植できるようになる。これらの細胞の由来は特に制約されるものではないが、たとえばヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、ブタ、ヒツジなどが挙げられる。本発明の培養細胞をヒトの治療に用いる場合はヒト由来の細胞を用いる方が望ましい。本発明における細胞培養のための培地は培養される細胞に対し通常用いられるものを用いれば特に制約されるものではない。
【0015】
本発明においては、上記細胞を0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で培養される。そのポリマーの水和力の弱い温度域とは、被覆されたポリマーが脱水和された状態であれば何ら制約されるものではなく、その温度とは通常、細胞を培養する温度である35〜38℃、特に37℃が好ましい。細胞培養支持体上に下述するようなポリマー量が被覆されおり、かつそのポリマーが脱水和されていれば、細胞は付着、増殖する。本発明に使用されるポリマーは0〜80℃の温度範囲のそのポリマー特有の温度を境に水和力が変化するものである。すなわち、ポリマー特有の温度を境に、それまで脱水和された状態が急激に水和された状態へ変化する。このものが細胞培養支持体材料表面に被覆されていれば、材料は細胞が付着、増殖する表面から細胞が付着できないような表面へ変化し、培養していた細胞を剥離させられるようになる。本発明によればトリプシンのような酵素を全く使用せずに、培養温度を変化させるだけで、培養していた細胞を剥離させられ、従って剥離した細胞シートもトリプシンなどによる障害を受けておらず、低損傷なものとなる。培養した癌細胞を剥離させる際、酵素処理を伴わないため接着性蛋白質が破壊されずに残っているため移植後の生着性が良く、さらにその癌細胞がシート状である場合、移植時における移植部位からの漏出も抑えられ効率良く癌細胞移植動物を製造できるようになる。
【0016】
本発明に用いる温度応答性高分子はホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このような高分子としては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されているポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体が挙げられ、コポリマーの場合は、これらの中で任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフトまたは共重合、あるいはポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。各種ポリマーの基材表面への被覆方法は、特に制限されないが、例えば、特開平2−211865号公報に記載されている方法に従ってよい。すなわち、かかる被覆は、基材と上記モノマーまたはポリマーを、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応のいずれかにより、または塗布、混練等の物理的吸着等により行うことができる。細胞付着部における親水性ポリマーの固定化量は移動させたい細胞を付着させられるに十分な量が固定化されていれば良く特に限定されるものではないが、その固定化量は使用する細胞が癌細胞であるため0.4μg/cm2以上、好ましくは0.8μg/cm2以上、さらに好ましくは1.2μg/cm2以上である。ポリマーの固定化量の測定は常法に従えば良く、例えばFT−IR−ATRを用いて細胞付着部を直接測る方法、あらかじめラベル化したポリマーを同様な方法で固定化し細胞付着部に固定化されたラベル化ポリマー量より推測する方法などが挙げられるがいずれの方法を用いても良い。
【0017】
本発明における培養基材の形状は特に制約されるものではないが、例えばディッシュ、マルチプレート、フラスコ、セルインサートのような形態のもの、或いは平膜状のものなどが挙げられる。被覆を施される基材としては、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の化合物を初めとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス類など全て用いることができる。
【0018】
本発明の細胞培養支持体において、基材に被覆されている温度応答性ポリマーは温度を変えることで水和、脱水和を起こすものであり、その温度域は0℃〜80℃、好ましくは10℃〜50℃、さらに好ましくは20℃〜45℃であることが判明した。80℃を越えると癌細胞が死滅する可能性があるので好ましくない。また、0℃より低いと一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、または癌細胞が死滅してしまうため、やはり好ましくない。
【0019】
本発明の方法において、培養した細胞を支持体材料から剥離回収するには、培養された癌細胞を必要に応じてキャリアに密着させ、細胞の付着した支持体材料の温度を支持体基材の被覆ポリマーの水和する温度にすることによって、そのままキャリアとともに剥離することができる。その際に、細胞シートと支持体の間に水流を当て剥離を円滑に行っても良い。なお、シートを剥離することは細胞を培養していた培養液中において行うことも、その他の等張液中において行うことも可能であり、目的に合わせて選択することができる。
【0020】
本発明における培養癌細胞は培養時にディスパーゼ、トリプシン等で代表される蛋白質分解酵素による損傷を受けていないものである。そのため、基材から剥離された癌細胞は接着性蛋白質を有し、癌細胞をシート状に剥離させた際には細胞−細胞間のデスモソーム構造がある程度保持されたものとなる。このことにより、移植時において患部組織と良好に接着することができ、効率良い移植を実施することができるようになる。一般に蛋白質分解酵素であるディスパーゼに関しては、細胞−細胞間のデスモソーム構造については10〜60%保持した状態で剥離させることができることで知られているが、細胞−基材間の基底膜様蛋白質等を殆ど破壊してしまうため、得られる細胞シートは強度の弱いものとなる。これに対して、本発明の癌細胞シートは、デスモソーム構造、基底膜様蛋白質共に80%以上残存された状態のものであり、上述したような種々の効果を得ることができるものである。
【0021】
以上のことを温度応答性ポリマーとしてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を例にとり説明する。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は31℃に下限臨界溶解温度を有するポリマーとして知られ、遊離状態であれば、水中で31℃以上の温度で脱水和を起こしポリマー鎖が凝集し、白濁する。逆に31℃以下の温度ではポリマー鎖は水和し、水に溶解した状態となる。本発明では、このポリマーがシャーレなどの基材表面に被覆、固定されたものである。したがって、31℃以上の温度であれば、基材表面のポリマーも同じように脱水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が疎水性を示すようになる。逆に、31℃以下の温度では、基材表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が親水性を示すようになる。このときの疎水的な表面は細胞が付着、増殖できる適度な表面であり、また、親水的な表面は細胞が付着できないほどの表面となり、培養中の細胞、もしくは細胞シートも冷却するだけで剥離させられることになる。
【0022】
癌細胞、及び癌細胞シートを密着させる際に使用するキャリアは、本発明の細胞を保持するための構造物であり、例えば高分子膜または高分子膜から成型された構造物、金属性治具などを使用することができる。例えば、キャリアの材質として高分子を使用する場合、その具体的な材質としてはポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース及びその誘導体、紙類、キチン、キトサン、コラーゲン、ウレタン等を挙げることができる。キャリアの形状は、特に限定されるものではない。
【0023】
本発明において移植される癌細胞は、生着性が良好なため総数にして1×105個以下で良く、好ましくは5×105個以下、さらには8×105個以下であることが好ましい。本発明の場合、8×105個以上にすると大きな癌組織が得れることなり好都合であるが、一回に使用する細胞数が多くなり好ましくない。移植される場所は、皮下であってもそれぞれの癌細胞由来の組織に直接移植しても良く、何ら制約されるものではない。
【0024】
本発明において移植される動物としてはヌードマウス、ラット、マウス、モルモット、ウサギ等が挙げられるが特に限定されるものではない。
【0025】
本発明における高生着性癌細胞は、以上に示すように、生体組織に極めて良好に付着でき、短期間に癌細胞移植動物が得られ、従来技術からでは全く得られなかったものである。
【0026】
本発明で得られた癌細胞移植動物は、癌細胞移植動物を製造する際、移植前及びまたは移植後に被検物質を投与し、当該被検物質の腫瘍形成能への影響を判定することで抗腫瘍剤を選別させられる。
実施例
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0027】
細胞培養器材に温度応答性ポリマーであるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を2.0μg/cm2被覆し、癌細胞NCI−H460を培養した(細胞播種数2×104個、37℃、5%CO2)。3日後、培養基材上の癌細胞NCI−H460がコンフルエントになったことを確認した後、アクリル板にフィブリンゲルを塗布した培養細胞移動治具を培養細胞シート上に静置させ培養癌細胞を接着して、細胞培養基材を20℃下で60分間冷却した。冷却後、剥離させた細胞シートはフィブリンゲルと共に冶具から採取し、細胞シートの付着したゲル(7mm×17mm×2mm、細胞数5×105個)を10頭のヌードマウスの背部皮下に移植した。移植後の腫瘍径をノギスを用いて皮膚の上から測定し、腫瘍体積を楕円体として算出した結果を図1に示す(楕円体体積=π/6×腫瘍長径×腫瘍短径×腫瘍厚さ)。また、腫瘍体積を楕円柱として算出した結果を図2に示す(楕円柱積=π/4×腫瘍長径×腫瘍短径×腫瘍厚さ)。移植4週間後の楕円体体積の平均は581.7±566.3mm3、楕円柱体積の平均は1302.7±1007.9mm3、重量の平均は776.9±534mgであった。移植前のヌードマウス背部の写真を図3に、癌細胞シート移植4週間後の写真を図4に示す。
【比較例1】
【0028】
細胞培養基材に温度応答性ポリマーを被覆することなく、癌細胞NCI−H460を培養した(細胞播種数2×104個/cm2、37℃、5%CO2)。3日後に培養基材上の癌細胞NCI−H460がコンフルエントになったことを確認した後、トリプシン処理を行って癌細胞を回収した。回収した癌細胞の懸濁液(細胞数5×105個)を2頭のヌードマウスの背部皮下に移植して、実施例1と同様に腫瘍体積を楕円体および楕円柱として算出した結果を図7および図8に示す。移植4週間後の楕円体体積の平均は40.7mm3、楕円柱体積の平均は60.7mm3、重量の平均は74.2mgであった。癌細胞懸濁液移植4週間後のヌードマウス背部の写真を図5に示す。
【実施例2】
【0029】
細胞培養器材に温度応答性ポリマーであるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を1.9μg/cm2被覆し、癌細胞A−549を培養した(細胞播種数2×104個、37℃、5%CO2)。3日後、培養基材上の癌細胞A−549がコンフルエントになったことを確認した後、フィブリンゲルを使用せず、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜だけを培養細胞シート上に静置させ培養癌細胞を接着させ、細胞培養基材を20℃下で60分間冷却した。冷却後、PVDF膜ごと癌細胞シート(7mm×17mm×2mm、細胞数5×105個)を剥離させた。10頭のヌードマウスの背部皮下を直線状に切開し、鉗子を用いてマウス皮下組織を剥離させ、癌細胞シートを挿入するためのポケットを作製し、そのポケット内に上述した癌細胞シートを挿入した。挿入後、切開部を縫合することで移植を終えた。移植後の腫瘍径をノギスを用いて皮膚の上から測定し、腫瘍体積を楕円体として算出した。また、腫瘍体積を楕円柱として算出した(楕円柱積=π/4×腫瘍長径×腫瘍短径×腫瘍厚さ)。移植4週間後の楕円体体積の平均は578.7±322.8mm3、楕円柱体積の平均は1258.7±897.9mm3、重量の平均は785.4±394mgであった。図1、2に示すような移植直後の楕円柱としての腫瘍体積の減少は認められず、移植後の日数が経過するに従い、腫瘍は大きくなった。
【実施例3】
【0030】
実施例2で作製した癌細胞移植動物に対し、尾静脈から抗腫瘍剤として知られる5−フルオロウラシル(5−FU)3mgを0.3mlの1%エチルアルコール含有生理食塩水に溶解させたものを1週間に1回づつ、計4回投与した。投与1週間後の楕円体体積の平均は279.6±127.1mm3、楕円柱体積の平均は619.3±262.9mm3、重量の平均は369.3±123mgであった。本発明で示す癌細胞移植動物は、抗腫瘍剤の投与により腫瘍体積、重量が減少することが分かった。本発明の癌細胞移植動物は、抗腫瘍剤の選別に有用であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の方法では、蛋白質分解酵素を用いることなく培養癌細胞を簡便に剥離することが可能であり、癌細胞移植動物を効率的に製造することが可能になる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で癌細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力の強い状態となる温度に変化させることで培養した癌細胞を剥離させ、移植対象となる動物の所定部位に移植することを特徴とする癌細胞移植動物の製造方法。
【請求項2】
剥離された癌細胞がシート状である、請求項1記載の癌細胞移植動物の製造方法。
【請求項3】
移植する癌細胞シートを所定の大きさを有する所定の形状とすることで、当該動物の癌組織の大きさ、及びまたは形状を制御する、請求項2記載の癌細胞移植動物の製造方法。
【請求項4】
癌細胞が蛋白質分解酵素による処理を施されることなく細胞培養支持体から剥離されたものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の癌細胞移植動物の製造方法。
【請求項5】
剥離方法が培養終了時に培養細胞上にキャリアを密着させ、そのままキャリアと共に剥離する方法である、請求項1〜4のいずれか1項記載の癌細胞移植動物の製造方法。
【請求項6】
癌細胞が移植可能な細胞株である、請求項1〜5のいずれか1項記載の癌細胞移植動物の製造方法。
【請求項7】
癌細胞が移植不能な細胞株である、請求項1〜5のいずれか1項記載の癌細胞移植動物の製造方法。
【請求項8】
移植不能な癌細胞がMGT−40、MGT−90、CS−C9、CS−C20である、請求項7記載の癌細胞移植動物の製造方法。
【請求項9】
癌細胞が生体組織から採取されたものである、請求項1〜5のいずれか1項記載の癌細胞移植動物の製造方法。
【請求項10】
移植する細胞数が8×105個以下である、請求項1〜9のいずれか1項記載の癌細胞移植動物の製造方法。
【請求項11】
0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーがポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である、請求項1〜10のいずれか1項記載の癌細胞移植動物の製造方法。
【請求項12】
癌化モデル動物がヌードマウス、ラット、マウス、モルモット、ウサギであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項記載の癌細胞移植動物の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項記載の方法により得られた癌細胞移植動物。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項記載の方法により癌細胞移植動物を製造する際に移植前及び/または移植後に被検物質を投与し、当該被検物質の腫瘍形成能への影響を判定することを特徴とする抗腫瘍剤の選別方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/084429
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510753(P2006−510753)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003795
【国際出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(501345220)株式会社セルシード (39)
【Fターム(参考)】